説明

原子発振器

【課題】回路部分の小型化や省電力化が容易な原子発振器を提供する。
【解決手段】原子発振器1は、アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、光源10、気体状のアルカリ金属原子20、光検出部30、周波数制御部40を含む。光源10は、可干渉性を有し、周波数が異なる第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させて、アルカリ金属原子20に照射する。光検出部30は、アルカリ金属原子20を透過した複数の光22を受け取り、当該複数の光22の干渉により得られる所定の周波数のビート信号を含む検出信号32を生成する。周波数制御部40は、検出信号32に含まれる所定の周波数のビート信号に基づいて、第1の光と第2の光がアルカリ金属原子20に電磁誘起透過現象を起こさせる共鳴光対となるように、第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘起透過(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)方式(CPT(Coherent Population Trapping)方式と呼ばれることもある)による原子発振器は、アルカリ金属原子に、可干渉性(コヒーレント性)を有し、かつ、互いに異なる特定の波長(周波数)を有する2種類の共鳴光を同時に照射すると共鳴光の吸収が停止する現象を利用した発振器である。
【0003】
アルカリ金属原子と2種類の共鳴光との相互作用機構は、図17(A)に示すように、Λ型3準位系モデルで説明できることが知られている。アルカリ金属原子は2つの基底準位を有し、基底準位1と励起準位とのエネルギー差に相当する周波数を有する共鳴光1、あるいは基底準位2と励起準位とのエネルギー差に相当する周波数を有する共鳴光2を、それぞれ単独でアルカリ金属原子に照射すると、よく知られているように光吸収が起きる。ところが、このアルカリ金属原子に共鳴光1と共鳴光2を同時に照射すると、2つの基底準位の重ね合わせ状態、即ち量子干渉状態になり、励起準位への励起が停止して共鳴光1と共鳴光2がアルカリ金属原子を透過する透明化現象(EIT現象)が起きる。従って、アルカリ金属原子に周波数の異なる2種類の光を照射したとき、この2種類の光が共鳴光対となってアルカリ金属原子がEIT現象を起こすか否かで光吸収挙動が急峻に変化する。この共鳴光対の周波数差は2つの基底準位のエネルギー差ΔE12に相当する周波数(例えば、セシウム原子であれば9.192631770GHz)と正確に一致する。そこで、光吸収挙動の急峻な変化を検出し、アルカリ金属原子に照射する2種類の光が共鳴光対となるように、すなわち、この2種類の光の周波数差がΔE12に相当する周波数と正確に一致するように周波数制御することで、高精度な発振器を実現することができる。
【0004】
図18は、従来のEIT方式による原子発振器の一般的な構成の概略図である。図18に示すように、従来のEIT方式による原子発振器は、電流駆動回路により発生した周波数f(=v/λ:vは光の速度、λは光の波長)を設定するための駆動電流に、周波数がfの変調信号を重畳することにより、半導体レーザーに変調をかけて周波数がf+fの光と周波数がf−fの光を発生させる。この2種類の光はガスセルに同時に照射され、光検出器によりガスセルを透過した光の強度を検出する。ガスセルは気体状のアルカリ金属原子とこれを封入する容器とから構成されており、同時に照射された2種類の光が共鳴光対となれば、アルカリ金属原子がEIT現象を起こし、ガスセルを透過する光の強度が大きくなる。そこで、この原子発振器は、低周波発振器が発生する数十Hz〜数百Hz程度の低周波信号を用いて検波を行うことで、検出強度が最大付近になるように電圧制御水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled Crystal Oscillator)の発振周波数を制御し、PLL(Phase Locked Loop)を介して変調信号を生成する。このような構成によれば、図17(B)に示すように、半導体レーザーが出射する周波数がf+fの光と周波数がf−fの光が共鳴光対となるように、すなわち、変調信号の周波数fがΔE12に相当する周波数の1/2の周波数と一致するように制御がかかる。従って、電圧制御水晶発振器(VCXO)の発振動作が極めて安定に継続し、周波数安定度が極めて高い発振信号を発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6320472号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の原子発振器では、ΔE12に相当する周波数の1/2の周波数と正確に一致する周波数fの変調信号を発生させるために、電圧制御水晶発振器(VCXO)、検波回路、変調回路、低周波発振器、PLL等が必要となるため、回路の複雑化が避けられず、小型化や省電力化が難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、回路部分の小型化や省電力化が容易な原子発振器を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、気体状のアルカリ金属原子と、可干渉性を有し、周波数が異なる第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させて前記アルカリ金属原子に照射する光源と、前記アルカリ金属原子を透過した複数の光を受け取り、当該複数の光の干渉により得られる所定の周波数のビート信号を含む検出信号を生成する光検出部と、前記検出信号に含まれる前記所定の周波数のビート信号に基づいて、前記第1の光と前記第2の光が前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を起こさせる共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行う周波数制御部と、を含む。
【0009】
EIT方式による従来の原子発振器では、光検出器の出力信号がDC(直流)もしくは数十〜数百Hz程度の低周波数であったため電圧制御水晶発振器(VCXO)やPLLを用いてGHz帯の高周波信号を生成して光源に対する周波数制御を行う必要があった。これに対し、本発明に係る原子発振器では、アルカリ金属原子を透過した複数の光の干渉により得られる所定の周波数のビート信号を含む検出信号、すなわち、高周波(GHz帯)の検出信号を生成する。そして、周波数制御部は、この高周波の検出信号に基づいて、第1の光と第2の光が共鳴光対となるように周波数制御を行うのでPLLが不要である。
【0010】
さらに、本発明の原子発振器では、第1の光と第2の光の周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致する前後で、アルカリ金属原子を透過する光の強度が急激に変化する。すなわち、アルカリ金属原子の透過特性に基づく極めて狭い帯域制限フィルターが形成される。従って、第1の光と第2の光の周波数差が、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致する状態から少しずれると、この帯域制限フィルターの効果によって、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と一致するようにフィードバック制御がかかる。そのため、本発明の原子発振器では、検波回路や電圧制御水晶発振器(VCXO)が無くても第1の光と第2の光の周波数差の微妙な調整が行われ、安定した発振動作を継続することができる。
【0011】
従って、本発明によれば、従来の原子発振器と比較して回路部分の小型化や省電力化が容易な原子発振器を提供することができる。
【0012】
(2)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記検出信号から前記所定の周波数のビート信号を選択して通過させるフィルターを含み、前記フィルターが選択したビート信号に基づいて前記周波数制御を行うようにしてもよい。
【0013】
本発明の原子発振器によれば、周波数制御に必要な所定の周波数のビート信号がフィルターによって選択されるので、その他の不要なビート信号の影響で安定した発振動作が妨げられることを防止することができる。
【0014】
(3)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記検出信号又は前記フィルターが選択したビート信号を増幅する信号増幅部を含み、前記信号増幅部が増幅した信号に基づいて前記周波数制御を行うようにしてもよい。
【0015】
このようにすれば、検出信号のレベルが十分でない場合であっても、周波数制御の安定性を確保することができる。
【0016】
(4)この原子発振器は、前記アルカリ金属原子を透過した前記複数の光から前記所定の周波数のビート信号を生じさせる2つの光を選択して通過させる光学フィルターを含むようにしてもよい。
【0017】
このようにしても、不要なビート信号の影響で安定した発振動作が妨げられることを防止することができる。
【0018】
(5)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記所定の周波数のビート信号を異なる周波数の信号に変換する周波数変換部を含み、前記周波数変換部が変換した信号に基づいて前記周波数制御を行うようにしてもよい。
【0019】
(6)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記第1の光と前記第2の光の周波数差の1/2の周波数のビート信号を前記所定の周波数のビート信号として前記周波数制御を行うようにしてもよい。
【0020】
(7)この原子発振器において、前記周波数制御部は、前記第1の光と前記第2の光の周波数差と等しい周波数のビート信号を前記所定の周波数のビート信号として前記周波数制御を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の原子発振器の機能ブロック図の一例。
【図2】本実施形態の原子発振器の機能ブロック図の他の一例。
【図3】第1実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図4】ガスセルの透過特性の一例を示す図。
【図5】第1実施形態における出射光の周波数スペクトルを示す概略図。
【図6】周波数制御の原理について説明するための図。
【図7】第1実施形態の変形例の構成を示す図。
【図8】光学フィルターの周波数特性について説明するための図。
【図9】第2実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図10】光学フィルターの周波数特性について説明するための図。
【図11】第3実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図12】第3実施形態における出射光の周波数スペクトルを示す概略図。
【図13】光学フィルターの周波数特性について説明するための図。
【図14】第4実施形態の原子発振器の構成を示す図。
【図15】ベッセル関数を表すグラフの概略図。
【図16】第4実施形態における出射光の周波数スペクトルを示す概略図。
【図17】図17(A)はアルカリ金属原子のエネルギー準位を模式的に示す図であり、図17(B)は2つの共鳴光の周波数スペクトラムを示す図。
【図18】従来のEIT方式による原子発振器の一般的な構成の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0023】
図1は、本実施形態の原子発振器の機能ブロック図である。
【0024】
本実施形態の原子発振器1は、光源10、アルカリ金属原子20、光検出部30及び周波数制御部40を含んで構成されている。
【0025】
光源10は、可干渉性(コヒーレント性)を有し、周波数が異なる第1の光と第2の光を含む複数の光12を発生させて気体状のアルカリ金属原子20(ナトリウム(Na)原子、ルビジウム(Rb)原子、セシウム(Cs)原子等)に照射する。例えば、レーザー光は可干渉性(コヒーレント性)を有する光である。
【0026】
光検出部30は、アルカリ金属原子20を透過した複数の光(透過光)22を受け取り、当該複数の光22の干渉により得られる所定の周波数のビート信号を含む検出信号32を生成する。所定の周波数とは、例えば、第1の光と第2の光の周波数差と等しい周波数であったり、第1の光と第2の光の周波数差の1/2の周波数であってもよい。
【0027】
ここで、例えば、気体状のアルカリ金属原子20を密閉容器に封入したガスセルを光源10と光検出部30の間に配置するような形態でもよい。また、密閉容器内に光源10、気体状のアルカリ金属20、光検出部30を共に封入し、光源10と光検出部30を対向させて配置するような形態でもよい。
【0028】
周波数制御部40は、検出信号32に含まれる所定の周波数のビート信号に基づいて、第1の光と第2の光がアルカリ金属原子20にEIT現象を起こさせる共鳴光対となるように、第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行う。ここで、共鳴光対とは、可干渉性を有し、アルカリ金属原子20にEIT現象を起こさせる周波数の異なる2種類の光であり、その周波数差がアルカリ金属原子20の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と正確に一致する場合だけでなく、アルカリ金属原子20がEIT現象を起こす範囲の微小な誤差を含んでいてもよい。
【0029】
また、周波数制御部40は、フィルター42、信号増幅部44、周波数変換部46の少なくとも1つを含むように構成されていてもよい。フィルター42は、検出信号32から所定の周波数のビート信号を選択して通過させる。信号増幅部44は、検出信号32又はフィルター42が選択したビート信号を増幅する。周波数変換部46は、光検出部30の検出信号32に含まれる所定の周波数のビート信号を異なる周波数の信号に変換する。そして、周波数制御部40は、フィルター42が選択したビート信号や信号増幅部44が増幅した信号や周波数変換部46が変換した信号に基づいて、第1の光及び第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行うようにしてもよい。
【0030】
さらに、図2に示すように、本実施形態の原子発振器1は、光学フィルター50を含んで構成されていてもよい。光学フィルター50は、アルカリ金属原子20を透過した複数の光22から所定の周波数のビート信号を生じさせる2つの光52を選択して通過させる。なお、原子発振器1は、フィルター42の代わりに光学フィルター50を含むようにしてもよいし、光学フィルター50とフィルター42の両方を含むようにしてもよい。
【0031】
以下、本実施形態の原子発振器のより具体的な構成について説明する。
【0032】
(1)第1実施形態
図3は、第1実施形態の原子発振器の構成を示す図である。
【0033】
図3に示すように、第1実施形態の原子発振器100Aは、半導体レーザー110、ガスセル120、光検出器130、バンドパスフィルター140、増幅回路150、周波数変換回路160、電流駆動回路170を含んで構成されている。
【0034】
ガスセル120は、容器中に気体状のアルカリ金属原子が封入されたものであり、このガスセル120に対して、可干渉性を有し、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差ΔE12に相当する周波数f12と一致する周波数差を有する2種類の光(例えばレーザー光)を同時に照射すると、アルカリ金属原子がEIT現象を起こす。
【0035】
図4は、周波数がそれぞれfとfの2種類のレーザー光を、fを固定してfを変化させながらガスセル120に同時に照射したときの透過特性を示す概略図である。図4において、横軸は2種類のレーザー光の周波数差f−fであり、縦軸は透過光の強度である。
【0036】
図4に示すように、2種類のレーザー光の周波数差f−fがf12±δの範囲にあれば(f12はΔE12に相当する周波数)、この2種類のレーザー光が共鳴光対となってアルカリ金属原子がEIT現象を起こす。従って、f−fがf12±δの範囲では透過光の強度が急激に上昇する。そして、f−fがf12と一致するとき、EIT現象により光吸収を停止するアルカリ金属原子の数が最大になるため、透過光の強度が極大となる。例えば、セシウム原子は、D2線(波長は852.1nm)の基底状態が超微細構造によってF=3、4の準位を有する2つの状態に分裂しており、F=3の基底準位1とF=4の基底準位2のエネルギー差に相当する周波数は9.192631770GHzである。従って、セシウム原子に、波長が852.1nm付近で周波数差が9.192631770GHzの2種類のレーザー光が同時に照射されると、これら2種類のレーザー光が共鳴光対となってEIT現象が起こり、透過光の強度が極大となる。
【0037】
半導体レーザー110は、周波数の異なる複数の光を発生させてガスセル120に照射する。具体的には、電流駆動回路170が出力する駆動電流によって、半導体レーザー110の出射光の中心波長λ(中心波長はf)がアルカリ金属原子の所定の輝線(例えば、セシウム原子のD2線)の波長と一致するように制御される。また、半導体レーザー110は、周波数変換回路160の出力信号(周波数f)を変調信号として変調がかけられる。すなわち、電流駆動回路170による駆動電流に、周波数変換回路160の出力信号(変調信号)を重畳することにより、半導体レーザー110は変調がかかった光を発生させる。このような半導体レーザー110は、例えば、端面発光レーザー(Edge Emitting Laser)や、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)等の面発光レーザーなどで実現することができる。
【0038】
図5は、本実施形態における半導体レーザーの出射光の周波数スペクトルを示す概略図である。図5において、横軸は光の周波数であり、縦軸は光の強度である。
【0039】
図5に示すように、半導体レーザー110は、周波数fの光Cと、その両側に周波数がf±n×f(nは正の整数)の複数の光を発生させる。そして、本実施形態では、1次のサイドバンドである光A(周波数はf−f)と光B(周波数はf+f)の周波数差がΔE12に相当する周波数と一致するように(言い換えれば、周波数fがΔE12に相当する周波数の1/2と一致するように)制御がかかる(この制御がかかる原理については後述する)。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、光Aと光Bの周波数差(2×f)が9.192631770GHzとなるように(周波数fが4.596315885GHzとなるように)制御がかかる。
【0040】
半導体レーザー110の出射光はガスセル120に照射され、ガスセル120を透過した複数の光(透過光)は互いに重なりあってうなり(光ビート)を生じさせる。このうなりの周期に応じて、透過光の全体としての強度(明暗)が周期的に変化する。
【0041】
光検出器130は、この透過光の強度の周期的な変化を検出することで、うなりの周波数(ビート周波数)と等しい周波数のビート信号を含む検出信号を出力する。具体的には、周波数の異なる複数の透過光の間でうなりが生じるので、光検出器130の出力信号(検出信号)には、N×f(Nは正の整数)のビート周波数を有する複数のビート信号が含まれる。例えば、図5に示した光A、B、Cにそれぞれ対応する3つの透過光をそれぞれA’、B’、C’とすると、透過光A’と透過光B’によるビート周波数は2×f(=ΔE12に相当する周波数f12)であり、透過光A’と透過光C’又は透過光B’と透過光C’によるビート周波数はf(=ΔE12に相当する周波数f12の1/2)である。このような光検出器130としては、例えば、光通信の分野で用いられている、GHzオーダーの周期で光の明滅を検出可能なフォトデテクターを利用することができる。
【0042】
電流駆動回路170は、光検出器130の出力信号(検出信号)の強度が極大になるように駆動電流を調整することで、磁場変化や温度変化等の外乱の影響をキャンセルして、半導体レーザー110の出射光の中心周波数f(中心波長λ)を安定させることができる。
【0043】
バンドパスフィルター140は、光検出器130の出力信号(検出信号)から、周波数が2×f(=f12)のビート信号を選択して出力する。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、バンドパスフィルター140は、9.1926GHz程度の周波数のビート信号を選択して出力する。このようなバンドパスフィルター140は、2×fのビート周波数が通過帯域に含まれ、その他のビート周波数が通過帯域に含まれないようなバンドパスフィルターとして実現することができる。
【0044】
増幅回路150は、バンドパスフィルター140の出力信号の振幅を所定の増幅率で増幅する。光検出器130の検出感度や半導体レーザー110の変調感度に応じて、増幅回路150の増幅率を適切な値に設定することにより、フィードバック制御の安定性を確保することができる。
【0045】
周波数変換回路160は、増幅回路150の出力信号の周波数をその1/2の周波数に変換する。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、増幅回路150の出力信号の周波数は9.192GHz程度であるので、周波数変換回路160により4.596GHz程度の周波数の信号に変換される。周波数変換回路160は、簡単な分周回路で実現することができる。
【0046】
そして、半導体レーザー110は、周波数変換回路160の出力信号を変調信号として変調がかけられ、図5に示した光A、B、Cを発生させる。
【0047】
なお、半導体レーザー110、光検出器130は、それぞれ図1の光源10、光検出部30に対応する。また、バンドパスフィルター140、増幅回路150、周波数変換回路160、電流駆動回路170で構成される回路は、図1の周波数制御部40に対応する。また、バンドパスフィルター140、増幅回路150、周波数変換回路160は、それぞれ図1のフィルター42、信号増幅部44、周波数変換部46に対応する。
【0048】
このような構成の原子発振器100Aにおいて、光Aと光Bの周波数差2×fがf12と一致するように(言い換えれば、周波数fが周波数f12の1/2と一致するように)制御がかかる原理について、図6(A)、図6(B)、図6(C)を用いて説明する。なお、光Aの周波数をf、光Bの周波数をfとする。
【0049】
図6(A)、図6(B)、図6(C)において、Tは図4のf12±δ付近を拡大した透過特性を表し、S1、S2、S3は出射光の周波数スペクトルを示している。図6(A)、図6(B)、図6(C)において、横軸は、光Bと光Aの周波数差f−fであり、縦軸は出射光又は透過光の強度である。
【0050】
まず、光Bと光Aの周波数差f−f(=2×f)の平均値がf12と一致するとき(fの平均値=f12×1/2のとき)は、図6(A)に示すように、ガスセル120において、光Aと光Bに対して斜線部分は吸収され、斜線部分以外は透過する。従って、透過光B’と透過光A’の平均周波数差もf12と一致し、透過光A’と透過光B’によるビート信号の周波数の平均値はf12である。このとき、変調信号の周波数fの平均値はf12/2のまま変わらないので、この条件で周波数制御のフィードバックループが安定する。
【0051】
図6(A)の状態で、例えば磁場変化や温度変化等の外乱の影響で、透過光B’と透過光A’の平均周波数差がf12−Δfに変動したとする。このとき、透過光A’と透過光B’によるビート信号の周波数の平均値もf12−Δfに変動するので、変調信号の周波数fの平均値が(f12−Δf)/2に変動する。すると、光Bと光Aの周波数差f−f(=2×f)の平均値がf12−Δfに変動し、図6(B)に示すように、ガスセル120において、光Aと光Bに対して斜線部分は吸収され、斜線部分以外は透過するため、透過光B’と透過光A’の平均周波数差はf12−Δfよりも高くなる。従って、透過光A’と透過光B’によるビート信号の周波数の平均値が上昇し、変調信号の周波数fの平均値も上昇する。そのため、光Bと光Aの周波数差f−f(=2×f)の平均値も上昇する。この周波数制御のフィードバックループにより、図6(A)の状態、すなわち出射光Bと出射光Aの平均周波数差がf12と一致する状態(fの平均値=f12×1/2)に引き戻す作用が働く。
【0052】
逆に、図6(A)の状態で、例えば磁場変化や温度変化等の外乱の影響で、透過光B’と透過光A’の平均周波数差がf12+Δfに変動したとする。このとき、透過光A’と透過光B’によるビート信号の周波数の平均値もf12+Δfに変動するので、変調信号の周波数fの平均値が(f12+Δf)/2に変動する。すると、光Bと光Aの周波数差f−f(=2×f)の平均値がf12+Δfに変動し、図6(C)に示すように、ガスセル120において、光Aと光Bに対して斜線部分は吸収され、斜線部分以外は透過するため、透過光B’と透過光A’の平均周波数差はf12+Δfよりも低くなる。従って、透過光A’と透過光B’によるビート信号の周波数の平均値が下降し、変調信号の周波数fの平均値も下降する。そのため、光Bと光Aの周波数差f−f(=2×f)の平均値も下降する。この周波数制御のフィードバックループにより、図6(A)の状態、すなわち光Bと光Aの平均周波数差がf12と一致する状態(fの平均値=f12/2)に引き戻す作用が働く。
【0053】
なお、光検出器の出力信号(検出信号)には透過光A’と透過光B’によるビート信号(周波数が2×fのビート信号)以外のビート信号も含まれる。そこで、本実施形態では、周波数が2×fのビート信号による安定したフィードバック制御がかかるように、バンドパスフィルター140によって帯域制限がかけられている。
【0054】
以上に説明したように、第1実施形態の原子発振器では、ガスセル120の透過特性を利用することで、光Bと光Aの周波数差がΔE12に相当する周波数と一致するように、すなわち、光Aと光Bが共鳴光対となるようにフィードバック制御がかかる。このフィードバック制御は、図3に示したような、従来の構成と比較して極めて簡単な構成の回路で実現することができる。従って、第1実施形態によれば、回路部分の小型化や省電力化が容易な原子発振器を実現することができる。
【0055】
[変形例]
図7は、第1実施形態の原子発振器の変形例の構成を示す図である。図7に示すように、変形例の原子発振器100Bは、図3に示した原子発振器100Aに対して、電気光学変調器(EOM:Electro-Optic Modulator)180が追加されている。
【0056】
図7に示すように、原子発振器100Bでは、半導体レーザー110は、周波数変換回路160の出力信号(変調信号)による変調をかけずに、単一周波数fの光を発生させる。この周波数fの光は、電気光学変調器(EOM)180に入射し、周波数変換回路160の出力信号(変調信号)によって変調がかけられる。その結果、図5と同様の周波数スペクトルを有する光を発生させることができる。
【0057】
図7に示す原子発振器100Bにおけるその他の構成は、図3に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。
【0058】
なお、電気光学変調器(EOM)180の代わりに、音響光学変調器(AOM:Acousto-Optic Modulator)を用いてもよい。
【0059】
なお、半導体レーザー110と電気光学変調器(EOM)180による構成が図1の光源10に対応する。その他の対応関係は、図3に示した原子発振器100Aと同じである。
【0060】
また、原子発振器100Aのその他の変形例として、バンドパスフィルター140の代わりに、ガスセル120と光検出器130の間に所望の特性を有する光学フィルターを設けた構成の原子発振器にすることもできる。
【0061】
この光学フィルターは、例えば、図8において破線で示すような周波数特性を有し、透過光A’と透過光B’を選択的に通過させる。このようにすれば、透過光A’と透過光B’により発生する周波数が2×fのうなり以外は無視できるほど小さくなり、不要なビート信号の影響で安定した発振動作が妨げられることを防止することができる。なお、この光学フィルターは図2の光学フィルター50に対応する。
【0062】
これらの変形例のような構成によっても、原子発振器100Aと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0063】
(2)第2実施形態
図9は、第2実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図9に示すように、第2実施形態の原子発振器100Cは、図3に示した第1実施形態の原子発振器100Aに対して、周波数変換回路160が無く、バンドパスフィルター140がバンドパスフィルター190に置き換わっている。
【0064】
本実施形態では、半導体レーザー110は、電流駆動回路170が出力する駆動電流によって中心周波数f(中心波長λ)が制御され、増幅回路150の出力信号(周波数がfの変調信号)によって変調がかけられる。すなわち、電流駆動回路170による駆動電流に、増幅回路150の出力信号(変調信号)による交流電流を重畳することにより、半導体レーザー110に変調がかかる。
【0065】
そして、半導体レーザー110は、中心波長λがアルカリ金属原子の所定の輝線(例えば、セシウム原子のD2線)の波長と一致するとともに、増幅回路150の出力信号(変調信号)の周波数fがΔE12に相当する周波数f12の1/2の周波数と一致するように制御がかかる。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、中心波長λはD2線の波長(852.1nm)と一致し、周波数fは4.596315885GHz(=9.192631770GHz×1/2)と一致する。従って、本実施形態においても、半導体レーザー110の出射光の周波数スペクトルは図5と同様であり、光Aと光Bが共鳴光対となる。
【0066】
バンドパスフィルター190は、光検出器130の出力信号(検出信号)から、光Aと光B(共鳴光対)の周波数差の1/2の周波数のビート信号、すなわち、周波数がfのビート信号を選択して出力する。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、バンドパスフィルター190は、4.596315885GHzのビート信号を選択して出力する。
【0067】
このようなバンドパスフィルター190は、fのビート周波数が通過帯域に含まれ、その他のビート周波数が通過帯域に含まれないようなバンドパスフィルターとして実現することができる。
【0068】
増幅回路150は、バンドパスフィルター190の出力信号の振幅を増幅して出力する。そして、半導体レーザー110は、増幅回路150の出力信号を変調信号として変調がかけられ、図5に示した光A、B、Cを発生させる。
【0069】
原子発振器100Cにおけるその他の構成は、図3に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。
【0070】
なお、半導体レーザー110、光検出器130は、それぞれ図1の光源10、光検出部30に対応する。また、バンドパスフィルター190、増幅回路150、電流駆動回路170で構成される回路は、図1の周波数制御部40に対応する。また、バンドパスフィルター190、増幅回路150は、それぞれ図1のフィルター42、信号増幅部44に対応する。
【0071】
このような構成の原子発振器100Cでも、原子発振器100Aと同様の原理により、光Bと光Aの周波数差2×fがΔE12に相当する周波数と一致するように、すなわち、光Aと光Bが共鳴光対となるようにフィードバック制御がかかる。このフィードバック制御は、図9に示したような、従来の構成と比較して極めて簡単な構成の回路で実現することができる。従って、第2実施形態によれば、回路部分の小型化や省電力化が容易な原子発振器を実現することができる。
【0072】
[変形例]
原子発振器100Cにおいても、半導体レーザー110の駆動電流に変調信号を重畳する代わりに、図7に示した原子発振器100Bのように、電気光学変調器(EOM)や音響光学変調器(AOM)を用いて半導体レーザー110の出射光に変調をかけるように構成してもよい。
【0073】
また、原子発振器100Cのその他の変形例として、バンドパスフィルター190の代わりに、ガスセル120と光検出器130の間に所望の特性を有する光学フィルターを設けた構成の原子発振器にすることもできる。
【0074】
この光学フィルターは、例えば、図10において破線又は一点鎖線のいずれかで示すような周波数特性を有し、透過光A’と透過光C’又は透過光B’と透過光C’を選択的に通過させる。このようにすれば、透過光A’と透過光C’又は透過光B’と透過光C’により発生する周波数がfのうなり以外は無視できるほど小さくなり、不要なビート信号の影響で安定した発振動作が妨げられることを防止することができる。なお、この光学フィルターは図2の光学フィルター50に対応する。
【0075】
これらの変形例のような構成によっても、原子発振器100Cと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0076】
(3)第3実施形態
図11は、第3実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図11に示すように、第3実施形態の原子発振器100Dは、図3に示した第1実施形態の原子発振器100Aに対して、周波数変換回路160が無く、バンドパスフィルター140がバンドパスフィルター200に置き換わっている。
【0077】
本実施形態では、半導体レーザー110は、電流駆動回路170が出力する駆動電流によって中心周波数f(中心波長λ)が制御され、増幅回路150の出力信号(周波数がfの変調信号)によって変調がかけられる。すなわち、電流駆動回路170による駆動電流に、増幅回路150の出力信号(変調信号)による交流電流を重畳することにより、半導体レーザー110に変調がかかる。
【0078】
そして、半導体レーザー110は、中心波長λがアルカリ金属原子の所定の輝線(例えば、セシウム原子のD2線)の波長と一致するとともに、増幅回路150の出力信号(変調信号)の周波数fがΔE12に相当する周波数と一致するように制御がかかる。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、中心波長λはD2線の波長(852.1nm)と一致し、周波数fは9.192631770GHzと一致する。
【0079】
図12は、本実施形態における半導体レーザーの出射光の周波数スペクトルを示す概略図である。図12において、横軸は光の周波数であり、縦軸は光の強度である。
【0080】
図12に示すように、半導体レーザー110は、周波数fの光Cと、その両側に周波数がf±n×f(nは正の整数)の複数の光を発生させる。そして、1次のサイドバンドである光A、光Bと光Cの周波数差がいずれもΔE12に相当する周波数と一致するように(言い換えれば、周波数fがΔE12に相当する周波数と一致するように)制御がかかる。
【0081】
例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、光Aと光Cの周波数差及び光Bと光Cの周波数差(いずれもf)が9.192631770GHzとなるように制御がかかる。
【0082】
このように、本実施形態では、光Aと光C、光Bと光Cがそれぞれ共鳴光対となってEIT現象を起こすので、その周波数差がΔE12に相当する周波数と一致する付近で、光A、光B、光Cの透過率が急激に変動する。
【0083】
そして、周波数の異なる複数の透過光の間でうなりが生じるので、光検出器130の出力信号(検出信号)には、N×f(Nは正の整数)のビート周波数を有する複数の信号が含まれる。例えば、図12に示した光A、B、Cにそれぞれ対応する3つの透過光をそれぞれA’、B’、C’とすると、透過光A’と透過光B’によるビート周波数は2×f(=ΔE12に相当する周波数の2倍)であり、透過光A’と透過光C’又は透過光B’と透過光C’によるビート周波数はf(=ΔE12に相当する周波数)である。
【0084】
バンドパスフィルター200は、光検出器130の出力信号(検出信号)から、光Aと光C又は光Bと光C(いずれも共鳴光対)の周波数差と等しい周波数のビート信号、すなわち、周波数がfのビート信号を選択して出力する。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、バンドパスフィルター190は、9.192631770GHzのビート信号を選択して出力する。
【0085】
このようなバンドパスフィルター200は、fのビート周波数が通過帯域に含まれ、その他のビート周波数が通過帯域に含まれないようなバンドパスフィルターとして実現することができる。
【0086】
増幅回路150は、バンドパスフィルター200の出力信号の振幅を増幅して出力する。そして、半導体レーザー110は、増幅回路150の出力信号を変調信号として変調がかけられ、図12に示した光A、B、Cを発生させる。
【0087】
原子発振器100Dにおけるその他の構成は、図3に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。
【0088】
なお、半導体レーザー110、光検出器130は、それぞれ図1の光源10、光検出部30に対応する。また、バンドパスフィルター200、増幅回路150、電流駆動回路170で構成される回路は、図1の周波数制御部40に対応する。また、バンドパスフィルター200、増幅回路150は、それぞれ図1のフィルター42、信号増幅部44に対応する。
【0089】
このような構成の原子発振器100Dでも、原子発振器100Aと同様の原理により、光Aと光Cの周波数差及び光Bと光Cの周波数差がいずれもΔE12に相当する周波数と一致するように、すなわち、光Aと光C、光Bと光Cがそれぞれ共鳴光対となるようにフィードバック制御がかかる。このフィードバック制御は、図11に示したような、従来の構成と比較して極めて簡単な構成の回路で実現することができる。従って、第3実施形態によれば、回路部分の小型化や省電力化が容易な原子発振器を実現することができる。
【0090】
[変形例]
原子発振器100Dにおいても、半導体レーザー110の駆動電流に変調信号を重畳する代わりに、図7に示した原子発振器100Bのように、電気光学変調器(EOM)や音響光学変調器(AOM)を用いて半導体レーザー110の出射光に変調をかけるように構成してもよい。
【0091】
また、原子発振器100Dのその他の変形例として、バンドパスフィルター200の代わりに、ガスセル120と光検出器130の間に所望の特性を有する光学フィルターを設けた構成の原子発振器にすることもできる。
【0092】
この光学フィルターは、例えば、図13において破線又は一点鎖線のいずれかで示すような周波数特性を有し、透過光A’と透過光C’又は透過光B’と透過光C’を選択的に通過させる。このようにすれば、透過光A’と透過光C’又は透過光B’と透過光C’により発生する周波数がfのうなり以外は無視できるほど小さくなり、不要なビート信号の影響で安定した発振動作が妨げられることを防止することができる。なお、この光学フィルターは図2の光学フィルター50に対応する。
【0093】
これらの変形例のような構成によっても、原子発振器100Dと同様の機能及び効果を有する原子発振器を実現することができる。
【0094】
(4)第4実施形態
図14は、第4実施形態の原子発振器の構成を示す図である。図14に示すように、第4実施形態の原子発振器100Eは、図3に示した第1実施形態の原子発振器100Aに対して、周波数変換回路160と半導体レーザー110の間にレベル調整回路210が追加されている。
【0095】
レベル調整回路210は、周波数変換回路160の出力信号の振幅を所定の大きさに調整して出力する。そして、半導体レーザー110は、レベル調整回路210の出力信号を変調信号として変調がかけられた光を発生させる。
【0096】
原子発振器100Eにおけるその他の構成は、図3に示した原子発振器100Aと同じであるため同じ番号を付しており、その説明を省略する。
【0097】
ここで、半導体レーザー110に変調がかからないとした時の出射光(周波数f)の振幅をAとすると、周波数がfの変調信号(レベル調整回路210の出力信号)により周波数変調がかけられた出射光は次の式(1)で表される。
【0098】
【数1】

【0099】
ここで、J(m)はベッセル関数(n=0,1,2・・・)である。また、mは変調度であり、変調信号の振幅に比例する。
【0100】
図15は、J,J,Jのベッセル関数を表すグラフの概略図である。図15において、横軸は変調度であり、縦軸は各ベッセル関数の値(絶対値)である。また、図15において、J,J,Jの各ベッセル関数は、それぞれ、実線、破線、一点鎖線で表されている。
【0101】
図15に示した変調度がm、m、mの各場合における周波数スペクトルの概略を図16(A)、図16(B)、図16(C)にそれぞれ示す。図16(A)、図16(B)、図16(C)において、光C(周波数f)の強度はJの絶対値(|J|)に比例し、光A(周波数f−f)及び光B(周波数f+f)の強度はJの絶対値(|J|)に比例し、光D(周波数f−2f)及び光E(周波数f+2f)の強度はJの絶対値(|J|)に比例する。
【0102】
変調度がmの場合は、|J|>|J|>|J|なので、図16(A)に示すように、光Cの強度>光Aの強度=光Bの強度>光Dの強度=光Eの強度である。また、変調度がmの場合は、|J|>|J|=|Jなので、図16(B)に示すように、光Aの強度=光Bの強度>光Cの強度=光Dの強度=光Eの強度である。また、変調度がmの場合は、|J|>|J|>|J|=0なので、図16(C)に示すように、光Aの強度=光Bの強度>光Dの強度=光Eの強度>光Cの強度=0である。
【0103】
このように、変調度mを調整することにより、半導体レーザー110の出射光の周波数スペクトルをベッセル関数に従って自在に変化させることができる。そして、変調度mは変調信号の振幅に比例するので、レベル調整回路210により変調信号の振幅を所定の大きさに調整することにより、半導体レーザー110に、所望の周波数スペクトルを有する光を発生させることができる。
【0104】
例えば、変調度がmからm程度になるように変調信号の振幅を調整すれば、図16(B)や図16(C)のような周波数スペクトルのように、光Aと光Bの強度を最も大きくするとともに光Cの強度を小さくすることができる。従って、バンドパスフィルター140をより単純なフィルターとして実現可能になったり、場合によってはバンドパスフィルター140を不要にすることもできる。
【0105】
レベル調整回路210は、抵抗分圧により固定のゲインになるように構成することもできるし、AGC(Auto Gain Control)回路を用いてゲインが可変に調整されるように構成することもできる。
【0106】
なお、半導体レーザー110、光検出器130は、それぞれ図1の光源10、光検出部30に対応する。また、バンドパスフィルター140、増幅回路150、周波数変換回路160、レベル調整回路210、電流駆動回路170で構成される回路は、図1の周波数制御部40に対応する。また、バンドパスフィルター140、増幅回路150、周波数変換回路160は、それぞれ図1のフィルター42、信号増幅部44、周波数変換部46に対応する。
【0107】
このような構成の原子発振器100Eでも、原子発振器100Aと同様の原理により、光Bと光Aの周波数差2×fがΔE12に相当する周波数と一致するように、すなわち、光Aと光Bが共鳴光対となるようにフィードバック制御がかかる。このフィードバック制御は、図14に示したような、従来の構成と比較して極めて簡単な構成の回路で実現することができる。従って、第4実施形態によれば、回路部分の小型化や省電力化が容易な原子発振器を実現することができる。
【0108】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0109】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0110】
1 原子発振器、10 光源、12 出射光、20 アルカリ金属原子、22 透過光、30 光検出部、32 検出信号、40 周波数制御部、42 フィルター、44 信号増幅部、46 周波数変換部、50 光学フィルター、52 透過光、100A〜100E 原子発振器、110 半導体レーザー、120 ガスセル、130 光検出器、140 バンドパスフィルター、150 増幅回路、160 周波数変換回路、170 電流駆動回路、180 電気光学変調器(EOM)、190 バンドパスフィルター、200 バンドパスフィルター、210 レベル調整回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属原子に共鳴光対を照射することにより生じる電磁誘起透過現象を利用する原子発振器であって、
気体状のアルカリ金属原子と、
可干渉性を有し、周波数が異なる第1の光と第2の光を含む複数の光を発生させて前記アルカリ金属原子に照射する光源と、
前記アルカリ金属原子を透過した複数の光を受け取り、当該複数の光の干渉により得られる所定の周波数のビート信号を含む検出信号を生成する光検出部と、
前記検出信号に含まれる前記所定の周波数のビート信号に基づいて、前記第1の光と前記第2の光が前記アルカリ金属原子に電磁誘起透過現象を起こさせる共鳴光対となるように、前記第1の光及び前記第2の光の少なくとも一方の周波数制御を行う周波数制御部と、を含む、原子発振器。
【請求項2】
請求項1において、
前記周波数制御部は、
前記検出信号から前記所定の周波数のビート信号を選択して通過させるフィルターを含み、前記フィルターが選択したビート信号に基づいて前記周波数制御を行う、原子発振器。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記周波数制御部は、
前記検出信号又は前記フィルターが選択したビート信号を増幅する信号増幅部を含み、前記信号増幅部が増幅した信号に基づいて前記周波数制御を行う、原子発振器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記アルカリ金属原子を透過した複数の光から前記所定の周波数のビート信号を生じさせる2つの光を選択して通過させる光学フィルターを含む、原子発振器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記周波数制御部は、
前記所定の周波数のビート信号を異なる周波数の信号に変換する周波数変換部を含み、前記周波数変換部が変換した信号に基づいて前記周波数制御を行う、原子発振器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記周波数制御部は、
前記第1の光と前記第2の光の周波数差の1/2の周波数のビート信号を前記所定の周波数のビート信号として前記周波数制御を行う、原子発振器。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記周波数制御部は、
前記第1の光と前記第2の光の周波数差と等しい周波数のビート信号を前記所定の周波数のビート信号として前記周波数制御を行う、原子発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−160251(P2011−160251A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20946(P2010−20946)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】