原料組成又は製造条件決定方法
【課題】液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形の問題を、事後的に発生する反り変形の問題も含めて予め評価することで、反り変形の問題についての評価を行いつつ、成形条件や原料組成の検討を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値の変化が飽和した飽和積算値と反り変形の変形量との間の相関関係を用いる。
【解決手段】成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値の変化が飽和した飽和積算値と反り変形の変形量との間の相関関係を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂を含有する液晶性樹脂組成物を成形するにあたって、原料組成又は製造条件を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックと呼ばれる一群のプラスチックスは高い強度を有し、金属部品に置き替わりつつある。中でも分子鎖の平行な配列を特徴とする光学異方性の液晶性樹脂は、優れた流動性、寸法安定性、耐熱性、低ガス性及び機械的性質を有する点で注目されている。上記液晶性樹脂は、前述の特徴を生かして、薄肉部あるいは複雑な形状の電気・電子部品に好適な材料として、例えばコネクター、リレー、スイッチ、コイルボビン等に使用されている。
【0003】
上記の通り、液晶性樹脂は非常に有用な材料であるが、機械的異方性、寸法異方性が大きい等の液晶性樹脂の性質に起因する問題点が指摘されている。その問題点とは、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形である。この反り変形の問題は、リフロー処理等を行うことで、成形体が高温環境下に曝されると顕著に表れる。
【0004】
上記反り変形の問題を解決するための材料として、例えば、特定の鱗状物を配合した液晶性樹脂組成物(特許文献1)、繊維状充填剤及び粒状充填剤を配合した液晶性樹脂組成物(特許文献2)が開示されている。
【0005】
上記の通り、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形を抑えるための研究開発が盛んに行なわれているものの、反り変形の問題を完全に解決できる技術の開発には至っていない。このため、液晶性樹脂組成物を成形してなる電気部品等の製品の開発にあたっては、通常、反り変形について検討を行なう必要がある。
【0006】
しかしながら、成形体の反り変形の程度を予測可能となるように、定量的に評価するための有用な方法は、ほとんど知られていない。また、成形体の反り変形の問題は、成形直後に確認できなかったとしても、その後の使用環境により生じる場合がある。このような事後的に生じる反り変形を予め評価するのは困難である。そして、原料組成の検討、製造条件の検討を行なった後に反り変形の問題が発覚する場合には、原料組成や成形条件を再検討しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−321598号公報
【特許文献2】特開2000−178443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、事後的に発生する反り変形の問題も含めて、成形体の反り変形の問題を予め評価することができれば、製造条件、原料組成の検討の際に、反り変形の問題も併せて検討することができる。製造条件、原料組成の検討の際に、反り変形の問題も併せて検討することができれば、上記再検討が必要になる頻度を大幅に低減することができる。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形の問題を、事後的に発生する反り変形の問題も含めて予め評価することで、反り変形の問題についての評価を行いつつ、成形条件や原料組成の検討を行うことができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値の変化が飽和した飽和積算値と反り変形の変形量との間に相関関係があることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の原料組成又は製造条件を決定する方法であって、成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値の変化が飽和した飽和積算値を、複数の原料組成及び/又は製造条件で製造された成形体毎に導出する飽和積算値導出工程と、複数の前記飽和積算値と、それぞれの成形体の反り変形量との相関関係を導出する相関関係導出工程と、前記相関関係に基づいて、前記液晶性樹脂組成物に含まれる成分の配向に影響する原料組成及び/又は製造条件を調整し、反り変形量が所望の値以下になるように、原料組成及び/又は製造条件を決定する原料組成及び/又は製造条件決定工程と、を備える原料組成又は製造条件決定方法。
【0012】
(2) 前記配向に影響する製造条件が、射出速度である(1)に記載の製造条件決定方法。
【0013】
(3) 前記配向に影響する原料組成が、固体充填剤及び/又は前記固体充填剤の含有量である(1)に記載の原料組成決定方法。
【0014】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の原料組成決定方法で決定された原料組成及び/又は製造条件決定方法で決定された製造条件で、液晶性樹脂組成物から成形体を製造する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形の問題を、事後的に発生する反り変形の問題も含めて予め評価することができるため、反り変形の問題についての評価を行いつつ、成形条件や原料組成の検討を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態で用いた円柱状の成形体を模式的に示す図である。
【図2】穿孔方法を説明するための模式図である。
【図3】穿孔前と一回目の穿孔後の成形体を示す模式図である。
【図4】二回目の穿孔後、三回目の穿孔後の成形体を示す模式図である。
【図5】(n−1)回目の穿孔後、n回目の穿孔後の成形体を示す模式図である。
【図6】飽和積算値を説明するための図である。
【図7】飽和積算値とそり変形量との相関関係を示す図である。
【図8】実施例で用いた成形体を示す模式図である。
【図9】実施例1における、歪み量の積算値と成形体の表面からの距離との関係及び配向関数と成形体の表面からの距離との関係を示す図である。
【図10】実施例1における、飽和積算値と反り変形量との関係を示す図である。
【図11】実施例2における、歪み量の積算値と成形体の表面からの距離との関係及び配向関数と成形体の表面からの距離との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
本発明は、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形を考慮しながら、成形体の製造条件、原料の組成を決定する方法である。上記反り変形の考慮は、成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値を用いて行なう。本発明は、飽和積算値導出工程と、相関関係導出工程と、原料組成及び/又は製造条件決定工程とを有する。以下、先ず、原料となる液晶性樹脂組成物について説明した後、各工程について説明する。
【0019】
<液晶性樹脂組成物>
液晶性樹脂組成物に含まれる液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性樹脂は直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0020】
上記のような液晶性樹脂としては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1重量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、さらに好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが使用される。
【0021】
本発明に適用できる液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0022】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール及びその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール及びその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0023】
本発明に適用できる前記液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C1〜C4)、アルキリデン、−O−、−SO−、−SO2−、−S−、−CO−より選ばれる基である)
【化2】
【化3】
(Y:−(CH2)n−(n=1〜4)、−O(CH2)nO−(n=1〜4)より選ばれる基である。)
【0024】
液晶性樹脂組成物は、他の樹脂、強化剤、安定剤、酸化防止剤、顔料等の従来公知の添加剤を含んでもよい。
【0025】
<飽和積算値導出工程>
飽和積算値導出工程は、成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値の変化が飽和した飽和積算値を、複数の原料組成及び/又は製造条件で製造された成形体毎に導出する。
【0026】
単位深さ毎の歪み量の測定について、図1(a)に示す円柱状の成形体を例に説明する。この円柱状の成形体は高さがLz、上面及び底面の円の半径はRである。先ず、円柱状の上記成形体における樹脂流動方向を確認する必要がある。
【0027】
樹脂流動方向は、成形体を成形する際にショートショットを作成して樹脂の流れる方向を見ることで容易に確認出来る。もしくは、従来公知の流動解析ソフトを用いて確認することができる。図1(a)に示す成形体について流動方向を確認した結果、図1(b)に示す方向に樹脂が流動することが確認できたとする。
【0028】
そこで、成形体の高さ方向を深さ方向として、成形体の上面の樹脂流動方向(図1(b)中の矢印で示す方向)の歪み量を測定する。歪み量の測定手法は特に限定されず、例えば、歪みゲージを用いる方法、樹脂成形品表面の変形を画像解析することにより歪み量を算出するコリレーションシステム等を用いる間接的に歪み量を測定する方法等を挙げることができる。また、歪み量を測定する位置が平坦でない場合には、歪み量の測定を従来公知の三次元画像解析方法により行うことができる。例えばコリレーションシステムでは、2台の撮像装置を組み合わせることで、3次元測定が可能である。
【0029】
具体的な歪み量の測定は、例えば、成形体の上面から深さ方向に穿孔しながら行なう。測定方法を説明するために図2(a)に上記成形体の上面図を示し、図2(b)には穿孔途中の成形体の斜視図を示した。図2に示すように、断面が半径rの円の円柱状の空間が成形体内部に形成されるように、図2(a)に示す上面の穿孔部から深さ方向に穿孔していく。また、穿孔する方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。従来公知の方法としてはドリル加工が挙げられる。
【0030】
図3〜5には、歪み量の測定の過程を示す模式図が示されている。先ず、図3(a)には穿孔前の円柱状の上記成形体の側面断面図を示し、図3(b)には単位深さ(Zu)の穿孔を一回行なった後の上記成形体の側面断面図を示した。図3(a)は、穿孔深さ=0、歪み量=0を示す図である。図3(b)は一回目の穿孔により、成形体の上面が図3(b)に示すようにδr1だけ歪む様子を示す図である。ここで、歪み量δr1は、単位深さ穿孔したときの歪みであるから、穿孔深さZuの平均深さ位置での歪み量であると考えることができる。即ち、Zu/2の位置での歪み量がδr1であると考えることができる。
【0031】
図4(a)には、図3(b)に示す状態から、さらに単位深さ穿孔した様子を示す側面断面図である。穿孔深さの合計は2Zuであり、この穿孔(2回目の単位深さの穿孔)による歪み量はδr2であったとする。この時点での歪み量の積算値(δr1+δr2)は、上記の歪み量δr1と同様に考えることで、Zu/2+Zuの位置での歪み量の積算値であると考えることができる。
【0032】
図4(b)には、図4(a)に示す状態から、さらに単位深さ穿孔した様子を示す側面断面図である。穿孔深さの合計は3Zuであり、この穿孔(3回目の単位深さの穿孔)による歪み量はδr3であったとする。この時点での歪み量の積算値(δr1+δr2+δr3)は、上記と同様に考えると、Zu/2+2Zuの位置での歪み量の積算値であると考えることができる。
【0033】
図5(a)には、(n−1)回目の穿孔を行なった後の様子を示した。穿孔深さの合計は(n−1)Zuであり、この穿孔((n−1)回目の単位深さの穿孔)による歪み量はδr(n−1)であったとする。この時点での歪み量の積算値(δr1+δr2+δr3+・・・・+δ(n−1))は、上記と同様に考えると、Zu/2+(n−2)Zuの位置での歪み量の積算値であると考えることができる。
【0034】
図5(b)にはn回目の穿孔を行なった後の様子を示す。つまり、図5(a)に示す状態から、さらに単位深さ穿孔した後の様子を示す。穿孔深さの合計はnZuであり、この穿孔(n回目の単位深さの穿孔)による歪み量はδrnであったとする。この時点での歪み量の積算値(δr1+δr2+δr3+・・・・+δr(n−1)+δrn)は、上記と同様に考えると、Zu/2+(n−1)Zuの位置での歪み量の積算値であると考えることができる。
【0035】
上記のような手法を用いることで、単位深さ毎の歪み量を測定することができ、各単位深さまでの歪み量の積算値を算出することができる。次いで、上記のような歪み量の測定から得られる飽和積算値について説明する。
【0036】
上記の単位深さ毎の歪み量の測定と、各単位深さでの歪み量の積算値の算出結果とから、図6に示すようなグラフを描くことができる。図6に示すように、上記の単位深さ毎の歪み量は、測定位置が深くなるにつれて(穿孔回数が多くなるにつれて)、小さくなる。そして、単位深さの穿孔により生じる歪み量がほぼ0になったときの歪み量の積算値の値が、飽和積算値である。歪み量がほぼ0とは、歪み量がおよそ20×10−6以下であることを指す。なお、図6に示すように歪み量の積算値が飽和するのは、成形体内部の残留応力が小さくなるため歪み量が小さくなり、最終的には所定の深さ以上で、歪量の積算値が飽和すると考えられる。また、成形体表面付近での、樹脂組成物に含まれる成分の配向が、反り変形に大きく影響すると考えることができる。成形体表面付近とは、原料組成、成形条件、成形品形状(厚み)によっても異なるが、およそ表面から深さ方向に0.3〜0.7mmである。
【0037】
以上のような飽和積算値の導出を、複数の原料組成及び/又は製造条件で、製造された成形体毎に導出する。複数の原料組成で製造された成形体毎、複数の製造条件で製造された成形体毎に分けて以下説明する。
【0038】
[原料組成]
歪み量の大きさは、樹脂組成物の組成(原料組成)に影響をされる。歪み量の大きさは、樹脂組成物に含まれる成分の配向の影響を受けて変わるからである。歪み量の大きさは反り変形量に影響を与えることから、原料組成は反り変形量に影響を与えるといえる。したがって、原料組成を変更して、上記と同様の方法で飽和積算値を導出することで、原料組成と反り変形量との関係を結びつけることができる。
【0039】
原料組成の変更は、配向に大きな影響を与える条件の変更であることが好ましい。配向に大きな影響を与える組成条件を変更することで、複数の原料組成の中に、成形体の反り変形量が大きくなる条件と小さくなる条件との両方が含まれやすく、反り変形量が小さい条件を導出しやすいからである。
【0040】
配向には、成形加工時に固体状態にある充填剤が配合されていることが大きく影響する。そして、配向に大きな影響を与える条件としては、固体充填剤のアスペクト比、及び固体充填剤の含有量、固体充填剤の大きさ、固体充填剤間の相互作用、固体充填剤の組み合わせといったものが挙げられる。固体充填剤に関する条件は、固体充填剤自体が成形体内で配向することに加え、固体充填剤が樹脂の配向にも影響を与えるため、特に配向に大きく影響を与える条件であると言える。固体充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、マイカ、タルク等が用いられる。
【0041】
続いて、固体充填剤のアスペクト比、含有量、サイズ、相互作用がどのように配向に影響を与え、成形体の反り変形量に影響を与えるかについて説明する。
【0042】
アスペクト比が大きくなると、成形体の表面付近で、樹脂及び固体充填剤がともに配向しやすくなるとともに、表面から深さ方向に少し入った成形体内部では、配向の程度が急激に低下する傾向にあり歪が生じやすい。これに対して、アスペクト比が小さくなると、固体充填剤自体の配向が小さくなることに加え、固体充填剤が、深さ方向の樹脂の配向具合の変化を緩やかにする傾向があり、歪み量が小さくなる傾向にある。
一方、高アスペクト比であっても長さが大きな固体充填剤の場合、互いに配向しようとする動きに干渉し、配向が阻害されることがある。このような相互作用が見られることから、アスペクト比だけでなく、相互作用を考慮した配向傾向を確認する必要がある。
【0043】
固体充填剤の含有量が多くなると、歪み量が小さくなる傾向にあり、固体充填剤の含有量が少なくなると歪み量が大きくなる傾向にある。この傾向はアスペクト比が小さい固体充填剤を選択した場合に表れやすい。また、固体充填剤のサイズが大きいほど、樹脂の配向の影響を均質化しやすくなる。例えば、ガラスビーズ、タルク等が挙げられる。なお、アスペクト比が小さいとは、アスペクト比がおよそ3未満であることを指す。
【0044】
また、アスペクト比の異なる固体充填剤を配合させると、この配合比によっても樹脂、固体充填剤等の成分の配向の程度は異なる。例えば、アスペクト比の小さい充填剤の配合比率を高めるほど、深さ方向の配向具合の変化が小さくなる。
【0045】
したがって、例えば、上記のような基準を用いて、固体充填剤のアスペクト比、含有量、複数の固体充填剤を用いた場合の配合比等を調整することで、様々な飽和積算値の値を得ることができる。原料組成の条件の中でも、固体充填剤のアスペクト比、含有量等の条件を変化させることで、得られる複数の飽和積算値の最大値と最小値との差が大きいため好ましい。
【0046】
[製造条件]
次いで、製造条件について説明する。成形体の表面付近における樹脂組成物に含まれる成分の配向の程度に影響を与える製造条件としては、射出速度、金型温度、保圧、シリンダー温度、射出圧力、金型ゲートサイズ等が挙げられる。
【0047】
例えば、射出速度を早い条件に変更すると、成形体表面付近では、樹脂や固体充填剤等の成分の配向が強くなるとともに、成形体表面から深さ方向のこれらの成分の配向具合は急激に変化する傾向にある。これに対して、射出速度を遅い条件に変更すると、成形体表面付近での、樹脂や固体充填剤等の成分の配向が、射出速度がより高い条件と比較して、弱くなる傾向にある。さらに、深さ方向のこれらの成分の配向具合の変化を緩やかにすることができる。深さ方向の配向具合の変化が緩やかになるほど、歪み量が小さくなり、成形体の反り変形量が小さくなる。
【0048】
金型温度が高い条件の場合、樹脂、固体充填剤等の成分の配向の表層から深さ方向にかけての変化が小さくなる傾向にある。一方、金型温度が低い条件の場合には、成形体表面付近において、溶融樹脂の流れ方向に、樹脂等の成分の配向が大きく変化する傾向にある。
【0049】
したがって、射出速度、金型温度等の条件を変更することで、様々な飽和積算値の値を得ることができる。特に、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の場合には、射出速度の条件が、樹脂や固体充填剤等の配向具合に大きな影響を与えるため、得られる複数の飽和積算値の最大値と最小値との差を大きくすることができる傾向にある。
【0050】
使用する原料の組成がある程度決まっており、原料組成の条件の変更可能な範囲が狭い場合であっても、上記の通り、製造条件を検討することで、様々な飽和積算値を得ることができる。
【0051】
<相関関係導出工程>
相関関係導出工程とは、複数の前記飽和積算値と、それぞれの成形体の反り変形量との相関関係を導出する。複数の飽和積算値は上記の方法で導出したものを用いる。また、成形体の反り変形量は、例えば、以下の方法で見積もることができる。
【0052】
成形体の反り変形量は、例えば、板状の成形体を製造し、この板状の成形体を室温下で一定時間放置し、この成形体を平面に置いたときに、成形体の端部が、上記平面に垂直な方向に平面から離れる距離で表すことができる。
【0053】
上記飽和積算値導出工程で導出した飽和積算値に対応する原料組成又は製造条件の条件毎に、成形体を製造し、反り変形量を測定することで、縦軸を飽和積算値、横軸を反り変形量とするグラフにプロットすることができる。このプロットの集合体が相関関係にあたるが、このプロットをもとに近似曲線を作成し得られた近似曲線を相関関係として、後述する原料組成及び/又は製造条件決定工程に用いてもよい。
【0054】
なお、相関関係は、固体充填剤の種類や含有量等が異なっても、同じ相関関係を後述する原料組成及び/又は製造条件決定工程に用いることができる。
【0055】
<原料組成及び/又は製造条件決定工程>
原料組成及び/又は製造条件決定工程は、液晶性樹脂組成物に含まれる成分の配向に影響する原料組成及び/又は製造条件を調整し、反り変形量が所望の値以下になるように、原料組成及び/又は製造条件を決定する工程である。ここでは、図7に示すような近似曲線を相関関係として用いる場合について説明する。図7中のプロットA〜Eはそれぞれ、実際に飽和積算値導出工程で導出した飽和積算値と、相関関係導出工程で導出した反り変形量とを表すプロットである。
【0056】
先ず、所望の反り変形量を決定する。反り変形量は任意に決定することができる。ここで、反り変形量がXth以下を所望の反り変形量以下であるとする。次いで、原料組成及び/又は製造条件の具体的な決定方法を説明する。これらの条件を決定しようとする場合、例えば、予め所望の原料組成や製造条件が決まっている場合と、決まっていない場合とが想定される。いずれの場合であっても以下のようにして製造条件を決定することができる。
【0057】
予め所望の原料組成が決まっている場合について説明する。この場合、先ず、A〜Eの原料組成と所望の原料組成とを比較する。そして、A〜Eの中に近い原料組成のものがあれば、その近い原料組成のプロットに基づいて、原料組成を決定する。例えば、所望の原料組成とプロットCとの原料組成が近い場合であって、相違点が固体充填剤のアスペクト比のみであり、所望の原料組成のアスペクト比の方が小さい場合、上述の通り、アスペクト比が小さいほど歪み量が小さくなり、反り難くなると予測できる。その結果、所望の原料組成の場合には、反り変形量が所望の値以下であると予測できる。このように、A〜Eの中に近い組成がある場合には、最も近い組成のプロットを基準に固体充填剤のアスペクト比を変更したり、含有量を変更したりすることで、成形体の反り変形量が所望の値以下になる原料組成を決定することができる。また、反り変形量が所望の値以上になると予測される場合には、製造条件をより反りにくい条件に変更し、反り変形量を確認することで、好適な製造条件を決定することができる。特に、本発明によれば、相関関係の各プロットから、どの製造条件をどの程度変化させた場合に、反り変形量がどの程度抑えられるかを、おおよそ把握できるため、容易に所望の製造条件を導出することができる。
【0058】
上記のように、A〜Eの原料組成の中に、所望の原料組成に近いものが存在しない場合であって、相関関係を再導出する必要が無い場合には、先ず、所望の成形条件で成形を行い成形体の反り変形量を確認する。その反り変形量を図7に示す相関関係に当てはめる。このとき、反り変形量が大きすぎる場合には、相関関係上のA〜Eのプロットの条件を参考にしながら、使用する固体充填剤の種類、含有量等を微調整するか、又は下記の方法で製造条件を調整することで、所望の値以下の反り変形量になる条件を決定することができる。
【0059】
製造条件の場合にも同様に考えることができ、所望の製造条件が決まっていれば、その製造条件と、プロットA〜Eの製造条件とを比較することで、所望の製造条件で成形体を製造した場合の成形体の反り変形量を見積もることができる。また、プロットA〜Eに参考になる組成が無い場合には、成形体の製造を一度行い反り変形量を確認した後、さらに反り変形量を低減させる必要がある場合には、成形条件を調整することで、反り変形量が所望の値以下になる製造条件を決定することができる。
【0060】
<品質評価方法>
また、上記の相関関係を用いれば、上記飽和積算値を導出することで、反り変形量を容易に評価することができる。特に、上記の相関関係を用いれば、成形体の使用時に生じる反り変形量も評価できるため有用である。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0062】
<材料>
液晶性樹脂組成物1:液晶性樹脂(ポリプラスチックス(株)製、ベクトラE950i 融点345℃(以下、E950i))100質量%
液晶性樹脂組成物2:液晶性樹脂E950i 70質量%、ガラス繊維(直径10μm、長さ3mm)30質量%
液晶性樹脂組成物3:液晶性樹脂E950i 70質量%、ガラスビーズ(直径50μm)30質量%
液晶性樹脂組成物4:液晶性樹脂E950i 70質量%、ガラス繊維(直径10μm、長さ3mm)15質量%、ガラスビーズ(直径50μm)15質量%
【0063】
<実施例1>
液晶性樹脂組成物1、液晶性樹脂組成物2、液晶性樹脂組成物3について、図8(a)に示すような厚みが3mmの直方体状の試験片を作製した。試験片作製の際の射出速度は200mm/s−1、金型温度は140℃とした。ショートショットを確認して、流動方向の決定をしたところ、樹脂の流動方向は図8(b)に示す通りであったため、図8(a)に示すように穿孔部と歪みゲージを設けた。厚み方向に0.1mm(実施例における単位深さ)ずつ穿孔していき、0.1mm毎に歪み量を測定した。測定結果を図9(a)に示した。
【0064】
図9(a)から、液晶性樹脂組成物1の飽和積算値は、成形体の表面からの距離0.4mmの点の460×10−6%であることが確認された。液晶性樹脂組成物2の飽和積算値は、成形体の表面からの距離0.4mmの点の210×10−6%であることが確認された。液晶性樹脂組成物3の飽和積算値は、成形体の表面からの距離0.2mmの点の130×10−6%であることが確認された。
【0065】
液晶性樹脂組成物1、2、3について、図8(a)に示す成形体と同じ成形体を製造し、図8(a)の穿孔部が設けられる箇所から深さ方向に厚み0.1mmの板状の薄片を、採取した。さらに、薄片を厚み方向0.1mm毎に1mm(厚み方向の深さ)まで採取した。広角X線解析装置(理学電気社製、「Rint2500HL」)を用い、平板イメージングプレート(IP)を使って、透過法による二次元散乱図形を撮影し、厚み方向の深さ毎の配向具合(樹脂流動方向の配向具合)を定量するために、下記数式から配向関数(樹脂流動方向の配向)を算出した。単位深さごとの配向関数を図9(b)に示した。
【数1】
【0066】
図9(a)、(b)から、歪み量の積算値が飽和積算値になる深さまでの間に、配向関数の急激な変化があると、飽和積算値が大きくなることが確認された。つまり、歪み量の積算値が飽和積算値になる深さまでの間の、配向具合が変化すると、飽和積算値の値も変化する。
【0067】
そして、液晶性樹脂組成物1、2、3について、射出成形して得た80mm×80mm×1mmtの平板を常温で放置し、精密石定盤の上で平板の一端を押さえることで最も高くなる箇所の盤面からの高さを測定するという方法で反り変形量を測定した。
【0068】
液晶性樹脂組成物4についても同様にして、飽和積算値を導出し、反り変形量を測定した。
【0069】
液晶性樹脂組成物1から4について、反り変形量と飽和積算値との関係を図10に示した。図10に示すのが、飽和積算値と反り変形量との相関関係である。
【0070】
図10から、飽和積算値の値が大きいほど、歪み量が大きくなることが確認され、図9と図10とを併せると、歪み量の積算値が飽和積算値になる深さまでの間に、配向関数の急激な変化があると、反り変形量が大きくなることが確認された。つまり、飽和積算値の大きさによって、反り変形量は異なり、飽和積算値の大きさは上記の通り配向具合によって異なるから、配向具合を調整することで、反り変形量を調整できることになる。以上より、配向に影響を与える原料組成の条件、製造条件を検討することで、反り変形量を抑えることができることが確認された。
【0071】
図10に示す各プロットは、原料組成の条件が異なる。したがって、ある原料組成を、これらの各プロットの中の近い組成と比較することで、ある原料組成の場合の、おおよその反り変形量を予測することができる。このようにして予測される反り変形量をもとに、所望の反り変形量以下になる原料組成の条件を導出することができる。
【0072】
また、ある原料組成の場合の飽和積算値を上記と同様の方法で導出し、その飽和積算値を図10に当てはめることで、反り変形量を評価することができる。
【0073】
<実施例2>
液晶性樹脂組成物1について、射出速度を16.7mm/s−1に変更した以外は実施例1と同様の方法で、歪み量の積算値と成形体の表面からの距離との関係、配向関数と成形体の表面からの距離との関係を導出し、それぞれ図11(a)、(b)に示した(低射速条件の結果)。また、図11には実施例1において導出した液晶性樹脂組成物1の結果(高射速条件の結果)も併せて示した。
【0074】
図11から、射出速度の条件が異なると、配向関数が異なり、歪み量の積算値が飽和積算値になる深さまでの間に、配向関数に大きな変化があると、飽和積算値の値が大きくなることが確認された。したがって、配向関数に影響を与える製造条件を変更して、飽和積算値を製造条件毎に導出することで、実施例1と同様に、飽和積算値と反り変形量との相関関係を求めることができる。
【0075】
以上の実施例1、2の結果から、配向に影響を与える条件を変更して、条件毎に飽和積算値を導出し、飽和積算値と反り変形量との相関関係を導出することで、この相関関係に基づいて、反り変形量が所望の値以下になる原料組成、製造条件を容易に決定することができる。また、上記相関関係を用いれば、ある原料組成、製造条件の反り変形量を評価することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂を含有する液晶性樹脂組成物を成形するにあたって、原料組成又は製造条件を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックと呼ばれる一群のプラスチックスは高い強度を有し、金属部品に置き替わりつつある。中でも分子鎖の平行な配列を特徴とする光学異方性の液晶性樹脂は、優れた流動性、寸法安定性、耐熱性、低ガス性及び機械的性質を有する点で注目されている。上記液晶性樹脂は、前述の特徴を生かして、薄肉部あるいは複雑な形状の電気・電子部品に好適な材料として、例えばコネクター、リレー、スイッチ、コイルボビン等に使用されている。
【0003】
上記の通り、液晶性樹脂は非常に有用な材料であるが、機械的異方性、寸法異方性が大きい等の液晶性樹脂の性質に起因する問題点が指摘されている。その問題点とは、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形である。この反り変形の問題は、リフロー処理等を行うことで、成形体が高温環境下に曝されると顕著に表れる。
【0004】
上記反り変形の問題を解決するための材料として、例えば、特定の鱗状物を配合した液晶性樹脂組成物(特許文献1)、繊維状充填剤及び粒状充填剤を配合した液晶性樹脂組成物(特許文献2)が開示されている。
【0005】
上記の通り、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形を抑えるための研究開発が盛んに行なわれているものの、反り変形の問題を完全に解決できる技術の開発には至っていない。このため、液晶性樹脂組成物を成形してなる電気部品等の製品の開発にあたっては、通常、反り変形について検討を行なう必要がある。
【0006】
しかしながら、成形体の反り変形の程度を予測可能となるように、定量的に評価するための有用な方法は、ほとんど知られていない。また、成形体の反り変形の問題は、成形直後に確認できなかったとしても、その後の使用環境により生じる場合がある。このような事後的に生じる反り変形を予め評価するのは困難である。そして、原料組成の検討、製造条件の検討を行なった後に反り変形の問題が発覚する場合には、原料組成や成形条件を再検討しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−321598号公報
【特許文献2】特開2000−178443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、事後的に発生する反り変形の問題も含めて、成形体の反り変形の問題を予め評価することができれば、製造条件、原料組成の検討の際に、反り変形の問題も併せて検討することができる。製造条件、原料組成の検討の際に、反り変形の問題も併せて検討することができれば、上記再検討が必要になる頻度を大幅に低減することができる。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形の問題を、事後的に発生する反り変形の問題も含めて予め評価することで、反り変形の問題についての評価を行いつつ、成形条件や原料組成の検討を行うことができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値の変化が飽和した飽和積算値と反り変形の変形量との間に相関関係があることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の原料組成又は製造条件を決定する方法であって、成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値の変化が飽和した飽和積算値を、複数の原料組成及び/又は製造条件で製造された成形体毎に導出する飽和積算値導出工程と、複数の前記飽和積算値と、それぞれの成形体の反り変形量との相関関係を導出する相関関係導出工程と、前記相関関係に基づいて、前記液晶性樹脂組成物に含まれる成分の配向に影響する原料組成及び/又は製造条件を調整し、反り変形量が所望の値以下になるように、原料組成及び/又は製造条件を決定する原料組成及び/又は製造条件決定工程と、を備える原料組成又は製造条件決定方法。
【0012】
(2) 前記配向に影響する製造条件が、射出速度である(1)に記載の製造条件決定方法。
【0013】
(3) 前記配向に影響する原料組成が、固体充填剤及び/又は前記固体充填剤の含有量である(1)に記載の原料組成決定方法。
【0014】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の原料組成決定方法で決定された原料組成及び/又は製造条件決定方法で決定された製造条件で、液晶性樹脂組成物から成形体を製造する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形の問題を、事後的に発生する反り変形の問題も含めて予め評価することができるため、反り変形の問題についての評価を行いつつ、成形条件や原料組成の検討を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態で用いた円柱状の成形体を模式的に示す図である。
【図2】穿孔方法を説明するための模式図である。
【図3】穿孔前と一回目の穿孔後の成形体を示す模式図である。
【図4】二回目の穿孔後、三回目の穿孔後の成形体を示す模式図である。
【図5】(n−1)回目の穿孔後、n回目の穿孔後の成形体を示す模式図である。
【図6】飽和積算値を説明するための図である。
【図7】飽和積算値とそり変形量との相関関係を示す図である。
【図8】実施例で用いた成形体を示す模式図である。
【図9】実施例1における、歪み量の積算値と成形体の表面からの距離との関係及び配向関数と成形体の表面からの距離との関係を示す図である。
【図10】実施例1における、飽和積算値と反り変形量との関係を示す図である。
【図11】実施例2における、歪み量の積算値と成形体の表面からの距離との関係及び配向関数と成形体の表面からの距離との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
本発明は、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の反り変形を考慮しながら、成形体の製造条件、原料の組成を決定する方法である。上記反り変形の考慮は、成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値を用いて行なう。本発明は、飽和積算値導出工程と、相関関係導出工程と、原料組成及び/又は製造条件決定工程とを有する。以下、先ず、原料となる液晶性樹脂組成物について説明した後、各工程について説明する。
【0019】
<液晶性樹脂組成物>
液晶性樹脂組成物に含まれる液晶性樹脂とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性樹脂は直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0020】
上記のような液晶性樹脂としては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1重量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、さらに好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが使用される。
【0021】
本発明に適用できる液晶性樹脂としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0022】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール及びその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール及びその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド等が挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0023】
本発明に適用できる前記液晶性樹脂を構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)及び下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【化1】
(X:アルキレン(C1〜C4)、アルキリデン、−O−、−SO−、−SO2−、−S−、−CO−より選ばれる基である)
【化2】
【化3】
(Y:−(CH2)n−(n=1〜4)、−O(CH2)nO−(n=1〜4)より選ばれる基である。)
【0024】
液晶性樹脂組成物は、他の樹脂、強化剤、安定剤、酸化防止剤、顔料等の従来公知の添加剤を含んでもよい。
【0025】
<飽和積算値導出工程>
飽和積算値導出工程は、成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値の変化が飽和した飽和積算値を、複数の原料組成及び/又は製造条件で製造された成形体毎に導出する。
【0026】
単位深さ毎の歪み量の測定について、図1(a)に示す円柱状の成形体を例に説明する。この円柱状の成形体は高さがLz、上面及び底面の円の半径はRである。先ず、円柱状の上記成形体における樹脂流動方向を確認する必要がある。
【0027】
樹脂流動方向は、成形体を成形する際にショートショットを作成して樹脂の流れる方向を見ることで容易に確認出来る。もしくは、従来公知の流動解析ソフトを用いて確認することができる。図1(a)に示す成形体について流動方向を確認した結果、図1(b)に示す方向に樹脂が流動することが確認できたとする。
【0028】
そこで、成形体の高さ方向を深さ方向として、成形体の上面の樹脂流動方向(図1(b)中の矢印で示す方向)の歪み量を測定する。歪み量の測定手法は特に限定されず、例えば、歪みゲージを用いる方法、樹脂成形品表面の変形を画像解析することにより歪み量を算出するコリレーションシステム等を用いる間接的に歪み量を測定する方法等を挙げることができる。また、歪み量を測定する位置が平坦でない場合には、歪み量の測定を従来公知の三次元画像解析方法により行うことができる。例えばコリレーションシステムでは、2台の撮像装置を組み合わせることで、3次元測定が可能である。
【0029】
具体的な歪み量の測定は、例えば、成形体の上面から深さ方向に穿孔しながら行なう。測定方法を説明するために図2(a)に上記成形体の上面図を示し、図2(b)には穿孔途中の成形体の斜視図を示した。図2に示すように、断面が半径rの円の円柱状の空間が成形体内部に形成されるように、図2(a)に示す上面の穿孔部から深さ方向に穿孔していく。また、穿孔する方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。従来公知の方法としてはドリル加工が挙げられる。
【0030】
図3〜5には、歪み量の測定の過程を示す模式図が示されている。先ず、図3(a)には穿孔前の円柱状の上記成形体の側面断面図を示し、図3(b)には単位深さ(Zu)の穿孔を一回行なった後の上記成形体の側面断面図を示した。図3(a)は、穿孔深さ=0、歪み量=0を示す図である。図3(b)は一回目の穿孔により、成形体の上面が図3(b)に示すようにδr1だけ歪む様子を示す図である。ここで、歪み量δr1は、単位深さ穿孔したときの歪みであるから、穿孔深さZuの平均深さ位置での歪み量であると考えることができる。即ち、Zu/2の位置での歪み量がδr1であると考えることができる。
【0031】
図4(a)には、図3(b)に示す状態から、さらに単位深さ穿孔した様子を示す側面断面図である。穿孔深さの合計は2Zuであり、この穿孔(2回目の単位深さの穿孔)による歪み量はδr2であったとする。この時点での歪み量の積算値(δr1+δr2)は、上記の歪み量δr1と同様に考えることで、Zu/2+Zuの位置での歪み量の積算値であると考えることができる。
【0032】
図4(b)には、図4(a)に示す状態から、さらに単位深さ穿孔した様子を示す側面断面図である。穿孔深さの合計は3Zuであり、この穿孔(3回目の単位深さの穿孔)による歪み量はδr3であったとする。この時点での歪み量の積算値(δr1+δr2+δr3)は、上記と同様に考えると、Zu/2+2Zuの位置での歪み量の積算値であると考えることができる。
【0033】
図5(a)には、(n−1)回目の穿孔を行なった後の様子を示した。穿孔深さの合計は(n−1)Zuであり、この穿孔((n−1)回目の単位深さの穿孔)による歪み量はδr(n−1)であったとする。この時点での歪み量の積算値(δr1+δr2+δr3+・・・・+δ(n−1))は、上記と同様に考えると、Zu/2+(n−2)Zuの位置での歪み量の積算値であると考えることができる。
【0034】
図5(b)にはn回目の穿孔を行なった後の様子を示す。つまり、図5(a)に示す状態から、さらに単位深さ穿孔した後の様子を示す。穿孔深さの合計はnZuであり、この穿孔(n回目の単位深さの穿孔)による歪み量はδrnであったとする。この時点での歪み量の積算値(δr1+δr2+δr3+・・・・+δr(n−1)+δrn)は、上記と同様に考えると、Zu/2+(n−1)Zuの位置での歪み量の積算値であると考えることができる。
【0035】
上記のような手法を用いることで、単位深さ毎の歪み量を測定することができ、各単位深さまでの歪み量の積算値を算出することができる。次いで、上記のような歪み量の測定から得られる飽和積算値について説明する。
【0036】
上記の単位深さ毎の歪み量の測定と、各単位深さでの歪み量の積算値の算出結果とから、図6に示すようなグラフを描くことができる。図6に示すように、上記の単位深さ毎の歪み量は、測定位置が深くなるにつれて(穿孔回数が多くなるにつれて)、小さくなる。そして、単位深さの穿孔により生じる歪み量がほぼ0になったときの歪み量の積算値の値が、飽和積算値である。歪み量がほぼ0とは、歪み量がおよそ20×10−6以下であることを指す。なお、図6に示すように歪み量の積算値が飽和するのは、成形体内部の残留応力が小さくなるため歪み量が小さくなり、最終的には所定の深さ以上で、歪量の積算値が飽和すると考えられる。また、成形体表面付近での、樹脂組成物に含まれる成分の配向が、反り変形に大きく影響すると考えることができる。成形体表面付近とは、原料組成、成形条件、成形品形状(厚み)によっても異なるが、およそ表面から深さ方向に0.3〜0.7mmである。
【0037】
以上のような飽和積算値の導出を、複数の原料組成及び/又は製造条件で、製造された成形体毎に導出する。複数の原料組成で製造された成形体毎、複数の製造条件で製造された成形体毎に分けて以下説明する。
【0038】
[原料組成]
歪み量の大きさは、樹脂組成物の組成(原料組成)に影響をされる。歪み量の大きさは、樹脂組成物に含まれる成分の配向の影響を受けて変わるからである。歪み量の大きさは反り変形量に影響を与えることから、原料組成は反り変形量に影響を与えるといえる。したがって、原料組成を変更して、上記と同様の方法で飽和積算値を導出することで、原料組成と反り変形量との関係を結びつけることができる。
【0039】
原料組成の変更は、配向に大きな影響を与える条件の変更であることが好ましい。配向に大きな影響を与える組成条件を変更することで、複数の原料組成の中に、成形体の反り変形量が大きくなる条件と小さくなる条件との両方が含まれやすく、反り変形量が小さい条件を導出しやすいからである。
【0040】
配向には、成形加工時に固体状態にある充填剤が配合されていることが大きく影響する。そして、配向に大きな影響を与える条件としては、固体充填剤のアスペクト比、及び固体充填剤の含有量、固体充填剤の大きさ、固体充填剤間の相互作用、固体充填剤の組み合わせといったものが挙げられる。固体充填剤に関する条件は、固体充填剤自体が成形体内で配向することに加え、固体充填剤が樹脂の配向にも影響を与えるため、特に配向に大きく影響を与える条件であると言える。固体充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、マイカ、タルク等が用いられる。
【0041】
続いて、固体充填剤のアスペクト比、含有量、サイズ、相互作用がどのように配向に影響を与え、成形体の反り変形量に影響を与えるかについて説明する。
【0042】
アスペクト比が大きくなると、成形体の表面付近で、樹脂及び固体充填剤がともに配向しやすくなるとともに、表面から深さ方向に少し入った成形体内部では、配向の程度が急激に低下する傾向にあり歪が生じやすい。これに対して、アスペクト比が小さくなると、固体充填剤自体の配向が小さくなることに加え、固体充填剤が、深さ方向の樹脂の配向具合の変化を緩やかにする傾向があり、歪み量が小さくなる傾向にある。
一方、高アスペクト比であっても長さが大きな固体充填剤の場合、互いに配向しようとする動きに干渉し、配向が阻害されることがある。このような相互作用が見られることから、アスペクト比だけでなく、相互作用を考慮した配向傾向を確認する必要がある。
【0043】
固体充填剤の含有量が多くなると、歪み量が小さくなる傾向にあり、固体充填剤の含有量が少なくなると歪み量が大きくなる傾向にある。この傾向はアスペクト比が小さい固体充填剤を選択した場合に表れやすい。また、固体充填剤のサイズが大きいほど、樹脂の配向の影響を均質化しやすくなる。例えば、ガラスビーズ、タルク等が挙げられる。なお、アスペクト比が小さいとは、アスペクト比がおよそ3未満であることを指す。
【0044】
また、アスペクト比の異なる固体充填剤を配合させると、この配合比によっても樹脂、固体充填剤等の成分の配向の程度は異なる。例えば、アスペクト比の小さい充填剤の配合比率を高めるほど、深さ方向の配向具合の変化が小さくなる。
【0045】
したがって、例えば、上記のような基準を用いて、固体充填剤のアスペクト比、含有量、複数の固体充填剤を用いた場合の配合比等を調整することで、様々な飽和積算値の値を得ることができる。原料組成の条件の中でも、固体充填剤のアスペクト比、含有量等の条件を変化させることで、得られる複数の飽和積算値の最大値と最小値との差が大きいため好ましい。
【0046】
[製造条件]
次いで、製造条件について説明する。成形体の表面付近における樹脂組成物に含まれる成分の配向の程度に影響を与える製造条件としては、射出速度、金型温度、保圧、シリンダー温度、射出圧力、金型ゲートサイズ等が挙げられる。
【0047】
例えば、射出速度を早い条件に変更すると、成形体表面付近では、樹脂や固体充填剤等の成分の配向が強くなるとともに、成形体表面から深さ方向のこれらの成分の配向具合は急激に変化する傾向にある。これに対して、射出速度を遅い条件に変更すると、成形体表面付近での、樹脂や固体充填剤等の成分の配向が、射出速度がより高い条件と比較して、弱くなる傾向にある。さらに、深さ方向のこれらの成分の配向具合の変化を緩やかにすることができる。深さ方向の配向具合の変化が緩やかになるほど、歪み量が小さくなり、成形体の反り変形量が小さくなる。
【0048】
金型温度が高い条件の場合、樹脂、固体充填剤等の成分の配向の表層から深さ方向にかけての変化が小さくなる傾向にある。一方、金型温度が低い条件の場合には、成形体表面付近において、溶融樹脂の流れ方向に、樹脂等の成分の配向が大きく変化する傾向にある。
【0049】
したがって、射出速度、金型温度等の条件を変更することで、様々な飽和積算値の値を得ることができる。特に、液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の場合には、射出速度の条件が、樹脂や固体充填剤等の配向具合に大きな影響を与えるため、得られる複数の飽和積算値の最大値と最小値との差を大きくすることができる傾向にある。
【0050】
使用する原料の組成がある程度決まっており、原料組成の条件の変更可能な範囲が狭い場合であっても、上記の通り、製造条件を検討することで、様々な飽和積算値を得ることができる。
【0051】
<相関関係導出工程>
相関関係導出工程とは、複数の前記飽和積算値と、それぞれの成形体の反り変形量との相関関係を導出する。複数の飽和積算値は上記の方法で導出したものを用いる。また、成形体の反り変形量は、例えば、以下の方法で見積もることができる。
【0052】
成形体の反り変形量は、例えば、板状の成形体を製造し、この板状の成形体を室温下で一定時間放置し、この成形体を平面に置いたときに、成形体の端部が、上記平面に垂直な方向に平面から離れる距離で表すことができる。
【0053】
上記飽和積算値導出工程で導出した飽和積算値に対応する原料組成又は製造条件の条件毎に、成形体を製造し、反り変形量を測定することで、縦軸を飽和積算値、横軸を反り変形量とするグラフにプロットすることができる。このプロットの集合体が相関関係にあたるが、このプロットをもとに近似曲線を作成し得られた近似曲線を相関関係として、後述する原料組成及び/又は製造条件決定工程に用いてもよい。
【0054】
なお、相関関係は、固体充填剤の種類や含有量等が異なっても、同じ相関関係を後述する原料組成及び/又は製造条件決定工程に用いることができる。
【0055】
<原料組成及び/又は製造条件決定工程>
原料組成及び/又は製造条件決定工程は、液晶性樹脂組成物に含まれる成分の配向に影響する原料組成及び/又は製造条件を調整し、反り変形量が所望の値以下になるように、原料組成及び/又は製造条件を決定する工程である。ここでは、図7に示すような近似曲線を相関関係として用いる場合について説明する。図7中のプロットA〜Eはそれぞれ、実際に飽和積算値導出工程で導出した飽和積算値と、相関関係導出工程で導出した反り変形量とを表すプロットである。
【0056】
先ず、所望の反り変形量を決定する。反り変形量は任意に決定することができる。ここで、反り変形量がXth以下を所望の反り変形量以下であるとする。次いで、原料組成及び/又は製造条件の具体的な決定方法を説明する。これらの条件を決定しようとする場合、例えば、予め所望の原料組成や製造条件が決まっている場合と、決まっていない場合とが想定される。いずれの場合であっても以下のようにして製造条件を決定することができる。
【0057】
予め所望の原料組成が決まっている場合について説明する。この場合、先ず、A〜Eの原料組成と所望の原料組成とを比較する。そして、A〜Eの中に近い原料組成のものがあれば、その近い原料組成のプロットに基づいて、原料組成を決定する。例えば、所望の原料組成とプロットCとの原料組成が近い場合であって、相違点が固体充填剤のアスペクト比のみであり、所望の原料組成のアスペクト比の方が小さい場合、上述の通り、アスペクト比が小さいほど歪み量が小さくなり、反り難くなると予測できる。その結果、所望の原料組成の場合には、反り変形量が所望の値以下であると予測できる。このように、A〜Eの中に近い組成がある場合には、最も近い組成のプロットを基準に固体充填剤のアスペクト比を変更したり、含有量を変更したりすることで、成形体の反り変形量が所望の値以下になる原料組成を決定することができる。また、反り変形量が所望の値以上になると予測される場合には、製造条件をより反りにくい条件に変更し、反り変形量を確認することで、好適な製造条件を決定することができる。特に、本発明によれば、相関関係の各プロットから、どの製造条件をどの程度変化させた場合に、反り変形量がどの程度抑えられるかを、おおよそ把握できるため、容易に所望の製造条件を導出することができる。
【0058】
上記のように、A〜Eの原料組成の中に、所望の原料組成に近いものが存在しない場合であって、相関関係を再導出する必要が無い場合には、先ず、所望の成形条件で成形を行い成形体の反り変形量を確認する。その反り変形量を図7に示す相関関係に当てはめる。このとき、反り変形量が大きすぎる場合には、相関関係上のA〜Eのプロットの条件を参考にしながら、使用する固体充填剤の種類、含有量等を微調整するか、又は下記の方法で製造条件を調整することで、所望の値以下の反り変形量になる条件を決定することができる。
【0059】
製造条件の場合にも同様に考えることができ、所望の製造条件が決まっていれば、その製造条件と、プロットA〜Eの製造条件とを比較することで、所望の製造条件で成形体を製造した場合の成形体の反り変形量を見積もることができる。また、プロットA〜Eに参考になる組成が無い場合には、成形体の製造を一度行い反り変形量を確認した後、さらに反り変形量を低減させる必要がある場合には、成形条件を調整することで、反り変形量が所望の値以下になる製造条件を決定することができる。
【0060】
<品質評価方法>
また、上記の相関関係を用いれば、上記飽和積算値を導出することで、反り変形量を容易に評価することができる。特に、上記の相関関係を用いれば、成形体の使用時に生じる反り変形量も評価できるため有用である。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0062】
<材料>
液晶性樹脂組成物1:液晶性樹脂(ポリプラスチックス(株)製、ベクトラE950i 融点345℃(以下、E950i))100質量%
液晶性樹脂組成物2:液晶性樹脂E950i 70質量%、ガラス繊維(直径10μm、長さ3mm)30質量%
液晶性樹脂組成物3:液晶性樹脂E950i 70質量%、ガラスビーズ(直径50μm)30質量%
液晶性樹脂組成物4:液晶性樹脂E950i 70質量%、ガラス繊維(直径10μm、長さ3mm)15質量%、ガラスビーズ(直径50μm)15質量%
【0063】
<実施例1>
液晶性樹脂組成物1、液晶性樹脂組成物2、液晶性樹脂組成物3について、図8(a)に示すような厚みが3mmの直方体状の試験片を作製した。試験片作製の際の射出速度は200mm/s−1、金型温度は140℃とした。ショートショットを確認して、流動方向の決定をしたところ、樹脂の流動方向は図8(b)に示す通りであったため、図8(a)に示すように穿孔部と歪みゲージを設けた。厚み方向に0.1mm(実施例における単位深さ)ずつ穿孔していき、0.1mm毎に歪み量を測定した。測定結果を図9(a)に示した。
【0064】
図9(a)から、液晶性樹脂組成物1の飽和積算値は、成形体の表面からの距離0.4mmの点の460×10−6%であることが確認された。液晶性樹脂組成物2の飽和積算値は、成形体の表面からの距離0.4mmの点の210×10−6%であることが確認された。液晶性樹脂組成物3の飽和積算値は、成形体の表面からの距離0.2mmの点の130×10−6%であることが確認された。
【0065】
液晶性樹脂組成物1、2、3について、図8(a)に示す成形体と同じ成形体を製造し、図8(a)の穿孔部が設けられる箇所から深さ方向に厚み0.1mmの板状の薄片を、採取した。さらに、薄片を厚み方向0.1mm毎に1mm(厚み方向の深さ)まで採取した。広角X線解析装置(理学電気社製、「Rint2500HL」)を用い、平板イメージングプレート(IP)を使って、透過法による二次元散乱図形を撮影し、厚み方向の深さ毎の配向具合(樹脂流動方向の配向具合)を定量するために、下記数式から配向関数(樹脂流動方向の配向)を算出した。単位深さごとの配向関数を図9(b)に示した。
【数1】
【0066】
図9(a)、(b)から、歪み量の積算値が飽和積算値になる深さまでの間に、配向関数の急激な変化があると、飽和積算値が大きくなることが確認された。つまり、歪み量の積算値が飽和積算値になる深さまでの間の、配向具合が変化すると、飽和積算値の値も変化する。
【0067】
そして、液晶性樹脂組成物1、2、3について、射出成形して得た80mm×80mm×1mmtの平板を常温で放置し、精密石定盤の上で平板の一端を押さえることで最も高くなる箇所の盤面からの高さを測定するという方法で反り変形量を測定した。
【0068】
液晶性樹脂組成物4についても同様にして、飽和積算値を導出し、反り変形量を測定した。
【0069】
液晶性樹脂組成物1から4について、反り変形量と飽和積算値との関係を図10に示した。図10に示すのが、飽和積算値と反り変形量との相関関係である。
【0070】
図10から、飽和積算値の値が大きいほど、歪み量が大きくなることが確認され、図9と図10とを併せると、歪み量の積算値が飽和積算値になる深さまでの間に、配向関数の急激な変化があると、反り変形量が大きくなることが確認された。つまり、飽和積算値の大きさによって、反り変形量は異なり、飽和積算値の大きさは上記の通り配向具合によって異なるから、配向具合を調整することで、反り変形量を調整できることになる。以上より、配向に影響を与える原料組成の条件、製造条件を検討することで、反り変形量を抑えることができることが確認された。
【0071】
図10に示す各プロットは、原料組成の条件が異なる。したがって、ある原料組成を、これらの各プロットの中の近い組成と比較することで、ある原料組成の場合の、おおよその反り変形量を予測することができる。このようにして予測される反り変形量をもとに、所望の反り変形量以下になる原料組成の条件を導出することができる。
【0072】
また、ある原料組成の場合の飽和積算値を上記と同様の方法で導出し、その飽和積算値を図10に当てはめることで、反り変形量を評価することができる。
【0073】
<実施例2>
液晶性樹脂組成物1について、射出速度を16.7mm/s−1に変更した以外は実施例1と同様の方法で、歪み量の積算値と成形体の表面からの距離との関係、配向関数と成形体の表面からの距離との関係を導出し、それぞれ図11(a)、(b)に示した(低射速条件の結果)。また、図11には実施例1において導出した液晶性樹脂組成物1の結果(高射速条件の結果)も併せて示した。
【0074】
図11から、射出速度の条件が異なると、配向関数が異なり、歪み量の積算値が飽和積算値になる深さまでの間に、配向関数に大きな変化があると、飽和積算値の値が大きくなることが確認された。したがって、配向関数に影響を与える製造条件を変更して、飽和積算値を製造条件毎に導出することで、実施例1と同様に、飽和積算値と反り変形量との相関関係を求めることができる。
【0075】
以上の実施例1、2の結果から、配向に影響を与える条件を変更して、条件毎に飽和積算値を導出し、飽和積算値と反り変形量との相関関係を導出することで、この相関関係に基づいて、反り変形量が所望の値以下になる原料組成、製造条件を容易に決定することができる。また、上記相関関係を用いれば、ある原料組成、製造条件の反り変形量を評価することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の原料組成又は製造条件を決定する方法であって、
成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値の変化が飽和した飽和積算値を、複数の原料組成及び/又は製造条件で製造された成形体毎に導出する飽和積算値導出工程と、
複数の前記飽和積算値と、それぞれの成形体の反り変形量との相関関係を導出する相関関係導出工程と、
前記相関関係に基づいて、前記液晶性樹脂組成物に含まれる成分の配向に影響する原料組成及び/又は製造条件を調整し、反り変形量が所望の値以下になるように、原料組成及び/又は製造条件を決定する原料組成及び/又は製造条件決定工程と、を備える原料組成又は製造条件決定方法。
【請求項2】
前記配向に影響する製造条件は、射出速度である請求項1に記載の製造条件決定方法。
【請求項3】
前記配向に影響する原料組成は、固体充填剤のアスペクト比及び/又は前記固体充填剤の含有量である請求項1に記載の原料組成決定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の原料組成決定方法で決定された原料組成及び/又は製造条件決定方法で決定された製造条件で、液晶性樹脂組成物から成形体を製造する方法。
【請求項1】
液晶性樹脂組成物を成形してなる成形体の原料組成又は製造条件を決定する方法であって、
成形体表面からの深さ方向における、単位深さ毎の樹脂流動方向の歪み量から算出される各単位深さまでの歪み量の積算値の変化が飽和した飽和積算値を、複数の原料組成及び/又は製造条件で製造された成形体毎に導出する飽和積算値導出工程と、
複数の前記飽和積算値と、それぞれの成形体の反り変形量との相関関係を導出する相関関係導出工程と、
前記相関関係に基づいて、前記液晶性樹脂組成物に含まれる成分の配向に影響する原料組成及び/又は製造条件を調整し、反り変形量が所望の値以下になるように、原料組成及び/又は製造条件を決定する原料組成及び/又は製造条件決定工程と、を備える原料組成又は製造条件決定方法。
【請求項2】
前記配向に影響する製造条件は、射出速度である請求項1に記載の製造条件決定方法。
【請求項3】
前記配向に影響する原料組成は、固体充填剤のアスペクト比及び/又は前記固体充填剤の含有量である請求項1に記載の原料組成決定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の原料組成決定方法で決定された原料組成及び/又は製造条件決定方法で決定された製造条件で、液晶性樹脂組成物から成形体を製造する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−56250(P2012−56250A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203564(P2010−203564)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】
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