説明

双方向スイッチ回路及びそれを備えた電力変換装置

【課題】2つのスイッチング素子が双方向に導通可能に接続された双方向スイッチ回路において、部品点数を減らして回路の簡略化及び導通損失の低減を図りつつ、スイッチング素子の簡単な駆動制御によって双方向に導通可能な構成を得る。
【解決手段】互いに直列に接続された2つのスイッチング素子(SW1,SW2)のうち、ソース(S1)側の電圧がドレイン(D)側の電圧よりも高い逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)を、ゲート端子(G1)にオン駆動信号が入力されていない状態でも、ソース(S1)側からドレイン(D)側へ電流が導通可能なように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのスイッチング素子を直列に接続して双方向に導通可能に構成された双方向スイッチ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、2つのスイッチング素子を接続して双方向に導通可能に構成された双方向スイッチ回路が知られている。このような双方向スイッチ回路は、例えば特許文献1、2に開示されるように、逆並列ダイオードが設けられたIGBTやMOSFET等のスイッチング素子を該逆並列ダイオードが互いに逆方向に向くように接続したり、一対の逆阻止IGBTを互いに逆並列接続したりすることにより得られる。
【0003】
上述のような双方向スイッチ回路は、例えば、上記特許文献2に開示されるようなマトリックスコンバータのスイッチング回路や、特許文献3に開示される電力変換回路の力率改善回路などに用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−283819号公報
【特許文献2】特開2005−20799号公報
【特許文献3】特開2004−101151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように、スイッチング素子にそれぞれ逆並列ダイオードを設けて双方向スイッチ回路を構成すると、その分、部品点数が増加して、回路が複雑になるとともに導通損失も増大するという問題が生じる。
【0006】
これに対し、上記特許文献1に開示される構成のように、逆並列ダイオードを省略して一対の逆素子IGBTを互いに逆並列接続する構成などが考えられるが、逆方向の電圧(ソース側の電圧がドレイン側の電圧よりも高い状態)によるスイッチング素子の損傷を防止するためには複数のスイッチング素子をタイミング良く駆動制御する必要があり、制御が複雑になる。
【0007】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、2つのスイッチング素子が双方向に導通可能に接続された双方向スイッチ回路において、部品点数を減らして回路の簡略化及び導通損失の低減を図りつつ、スイッチング素子の簡単な駆動制御によって双方向に導通可能な構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る双方向スイッチ回路(30)では、スイッチング素子(SW1,SW2)のうち逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)を、ゲート端子(G1)にオン駆動信号が入力されていない状態でも逆方向に電流が導通する構成とした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、双方向に導通可能に接続された2つのスイッチング素子(SW1,SW2)を備えた双方向スイッチ回路を対象とする。そして、上記2つのスイッチング素子(SW1,SW2)は、互いに直列に接続されていて、上記2つのスイッチング素子(SW1,SW2)のうち、ソース(S1)側の電圧がドレイン(D)側の電圧よりも高い逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)は、ゲート端子(G1)にオン駆動信号が入力されていない状態でも、ソース(S1)側からドレイン(D)側へ電流が導通可能に構成されているものとする。
【0010】
以上の構成により、ソース(S1)側の電圧がドレイン(D)側の電圧よりも高い逆方向の電圧が印加されたスイッチング素子(SW1)は、駆動制御されていない状態でも、該ソース(S1)側からドレイン(D)側に電流が流れるため、還流ダイオードが不要になるとともに、複数のスイッチング素子を駆動制御する必要がなくなる。したがって、上述の構成によって、双方向スイッチ回路(30)の部品点数を低減して、回路構成を簡略化することができるとともに導通損失の低減を図れる。また、上述の構成によって、双方向スイッチ回路(30)内の全てのスイッチング素子の駆動制御を行う必要がなくなるため、制御が容易になる。
【0011】
上述の構成において、上記逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)を駆動制御するためのゲート駆動回路(33)を備え、上記ゲート駆動回路(33)は、上記スイッチング素子(SW1)のソース(S1)とゲート端子(G1)との間に該スイッチング素子(SW1)に対して並列に接続される抵抗体(44)を備えているものとする(第2の発明)。
【0012】
このようにスイッチング素子(SW1)のソース(S1)とゲート端子(G1)との間に該スイッチング素子(SW1)に対して並列に接続される抵抗体(44)により、ソース(S1)とドレイン(D)との間の電圧は、そのほとんどがゲート端子(G1)とドレイン(D)との間に印加されることになる。したがって、上述の構成により、上記ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間の電圧を効率良く増大させて、できるだけ迅速に上記スイッチング素子(SW1)がオン状態になる閾値電圧(Vt)まで上昇させることができ、該スイッチング素子(SW1)を逆方向にオン状態(ソース端子からドレインへ導通可能な状態)にすることができる。
【0013】
また、上述のような抵抗体(44)を設けることにより、ソース(S1)とゲート端子(G1)との間に耐圧を超えるような大きな電圧が印加されるのを防止できるため、スイッチング素子(SW1)のソース(S1)とゲート端子(G1)との間での破壊の発生を防止することができる。
【0014】
また、上記逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1')は、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間に、該ゲート端子(G1)側からドレイン(D)側への電流の流れのみを許容するゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)を有していて、上記スイッチング素子(SW1')は、該スイッチング素子(SW1')がオン状態となる閾値電圧Vtが上記ゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)の順方向電圧Vfよりも小さくなるように構成されているのが好ましい(第3の発明)。
【0015】
これにより、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間に形成されたゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)には電流が流れずに、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間の電圧によってスイッチング素子(SW1')がオン状態になり、該スイッチング素子(SW1')に電流が通電することになる。ここで、スイッチング素子(SW1')内のゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)に電流が流れると、該寄生ダイオード(Dgd1)内に少数キャリアが蓄積してターンオフ時の遅延を招くとともに、スイッチング素子(SW1')を電流が流れる場合に比べて損失が増大するが、上述のように、ゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)に電流を流すことなく、スイッチング素子(SW1')に電流を流すことで、ターンオフ時の遅延の発生や損失の増大を防止することができる。
【0016】
また、上記逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1')は、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間に、該ゲート端子(G1)側からドレイン(D)側への電流の流れのみを許容するゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)と、上記スイッチング素子(SW1')を駆動制御するためのゲート駆動回路(51)とを有していて、上記ゲート駆動回路(51)は、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間のゲート−ドレイン間電圧Vgdが上記ゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)の順方向電圧Vfよりも小さくなるように、該ゲート−ドレイン間電圧Vgdを調整するゲート電圧調整部(54)を備えているのが好ましい(第4の発明)。
【0017】
これにより、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間のゲート−ドレイン間電圧Vgdを、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間に形成されるゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)の順方向電圧Vfよりもより確実に小さくすることができるため、該ゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)に電流が流れるのをより確実に防止することができる。
【0018】
また、上記2つのスイッチング素子(SW1,SW2)をそれぞれ駆動制御するための2つのゲート駆動回路(33,34)を備え、上記ゲート駆動回路(33,34)は、それぞれのスイッチング素子(SW1,SW2)に対し、ゲート端子(G1,G2)に同じ駆動信号を入力するように構成されているのが好ましい(第5の発明)。
【0019】
こうすることで、スイッチング素子(SW1,SW2)ごとに駆動信号の内容や該駆動信号の入力タイミングを変える必要がなくなるため、スイッチング素子(SW1,SW2)の駆動制御が容易になる。
【0020】
なお、上述の構成のように、各スイッチング素子(SW1,SW2)に対して同時に駆動信号を入力すると、そのタイミングのずれやスイッチング素子(SW1,SW2)の特性のばらつき等によって各スイッチング素子(SW1,SW2)がオン状態になるタイミングがずれて、逆方向に電圧が印加されるスイッチング素子の破壊につながる恐れもあるが、上記第1の発明のように、スイッチング素子として、ゲート端子(G1)に入力される駆動信号がオフであっても逆方向に電流が流れる構成のものを用いることにより、スイッチング素子(SW1,SW2)に逆方向に電圧が印加されても該スイッチング素子(SW1,SW2)が破壊されるのを防止することができる。
【0021】
また、上記逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)に対してオフ制御信号を出力するように構成された制御回路(30)を備えているのが好ましい(第6の発明)。これにより、逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)には、逆方向に電流が流れる一方、該スイッチング素子(SW1)によって、該スイッチング素子(SW1)の順方向の電流を確実に遮断することができる。すなわち、上述の構成によって、より確実に導通方向が切り替わる双方向スイッチ回路(30)が得られる。
【0022】
また、上記2つのスイッチング素子(SW1,SW2)は、2つのゲート電極を有する一つのデバイスに設けられているのが好ましい(第7の発明)。こうすることで、2つのスイッチング素子(SW1,SW2)でドレイン端子を共有化することができ、その分、デバイスのチップ面積を低減することができる。したがって、双方向スイッチ回路(30)の損失を低減することができる。
【0023】
また、第7の発明に記載の双方向スイッチ回路において、前記2つのゲート電極の距離は、互いに対応したゲート電極とソース電極との間の距離よりも大きいのが好ましい(第8の発明)。こうすることで、スイッチング素子(SW1,SW2)の耐圧に貢献する2つのゲート電極間の距離をより大きく確保することが可能になる。
【0024】
第9から第12の発明は、電力変換装置に関する。具体的には、第8の発明において、電力変換装置は、上記第1から第4の発明のいずれか一つに記載の双方向スイッチ回路をスイッチング部として備えたマトリックスコンバータ(60)であるものとする(第9の発明)。この構成により、マトリックスコンバータ(60)においても、上記第1から第4の発明のような作用を得ることができる。特に、第9の発明において、上記マトリックスコンバータ(60)のスイッチング部を構成する2つのスイッチング素子(Sur1,Sur2)は、2つのゲート電極を有する一つのデバイスに設けられているのが好ましい(第10の発明)。こうすることで、マトリックスコンバータ(60)においても上記第7の発明と同様の作用が得られる。第10の発明においては、前記2つのゲート電極の距離は、互いに対応したゲート電極とソース電極の間の距離よりも大きいのが好ましい(第11の発明)。こうすることで、スイッチング素子(SW1,SW2)の耐圧に貢献する2つのゲート電極間の距離をより大きく確保することが可能になる。
【0025】
また、第10の発明において、電力変換装置(1,1')は、第1から第8の発明のいずれか一つに記載の双方向スイッチ回路をスイッチング部として備えているものとする(第12の発明)。この構成により、力率改善回路など、双方向スイッチ回路を備えた電力変換装置(1,1')においても、上記第1から第7の発明のような作用を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上より、第1の発明によれば、直列に接続された2つのスイッチング素子(SW1,SW2)のうち、逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)は、ゲート端子(G1)にオン駆動信号が入力されていない状態でも逆方向に導通可能に構成されているため、部品点数の削減による回路構成の簡略化及び導通損失の低減を図れるとともに、複数のスイッチング素子の制御を容易に行うことができる。
【0027】
また、第2の発明によれば、上記スイッチング素子(SW1)のゲート駆動回路(33)は、ソース(S1)とゲート端子(G1)との間に該スイッチング素子(SW1)に対して並列に接続される抵抗体(44)を備えているため、ソース(S1)とゲート端子(G1)との間に耐圧を超えるような電圧が印加されるのを防止できるとともに、上記スイッチング素子(SW1)を効率良くオン状態にすることができる。
【0028】
また、第3の発明によれば、上記スイッチング素子(SW1')は、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間にゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)を有していて、該スイッチング素子(SW1')がオン状態となる閾値電圧Vtは上記寄生ダイオード(Dgd1)の順方向電圧Vfよりも小さいため、逆方向の電流を該寄生ダイオード(Dgd1)に流すことなくスイッチング素子(SW1')に流すことができ、ターンオフの遅延や損失の増大を防止できる。
【0029】
また、第4の発明によれば、上記スイッチング素子(SW1')は、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間にゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)を有していて、該寄生ダイオード(Dgd1)の順方向電圧Vfよりもゲート端子(G1)とドレイン(D)との間の電圧Vgdが小さくなるように該電圧Vgdを調整するため、上記寄生ダイオード(Dgd1)に電流が流れるのをより確実に防止できる。
【0030】
また、第5の発明によれば、ゲート駆動回路(33,34)は、複数のスイッチング素子(SW1,SW2)に対して、ゲート端子(G1,G2)に同じ駆動信号を入力するように構成されているため、複数のスイッチング素子(SW1,SW2)の駆動制御を容易に行うことができる。
【0031】
また、第6の発明によれば、逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)に対してオフ制御信号が出力されるため、該スイッチング素子(SW1)の順方向への電流の流れを遮断することができ、より確実に双方向に切り換え可能な双方向スイッチ回路(30)が得られる。
【0032】
また、第7の発明によれば、上記スイッチング素子(SW1,SW2)は、一つのデバイスに設けられているため、デバイスのチップ面積を小さくして損失の低減を図れる。
【0033】
また、第8の発明によれば、2つのゲート電極間の距離をより大きく確保できるので、2つのソース端子間、すなわちドレイン-ソース間の耐圧を向上させることが可能になる。
【0034】
また、第9の発明によれば、マトリックスコンバータ(60)が上記第1から第4の発明のいずれか一つの双方向スイッチ回路をスイッチング部として備えているため、該マトリックスコンバータ(60)においても、上記第1から第4の発明と同様の効果を得ることができる。特に、第10の発明のように、マトリックスコンバータ(60)においても、スイッチング素子(Sur1,Sur2)を一つのデバイスに設けることで、上記第7の発明と同様の効果が得られる。また、第11の発明によれば、2つのゲート電極間の距離をより大きく確保でき、上記第8の発明と同様の効果を得ることが可能になる。
【0035】
さらに、第12の発明によれば、電力変換装置(1,1')が上記第1から第8の発明のいずれか一つの双方向スイッチ回路をスイッチング部として備えているため、上記第1から第8の発明と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、実施形態1に係る電力変換装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、(A)が双方向スイッチが構成されるデュアルゲート型のデバイスの概略構成を示す図であり、(B)がデュアルゲート型のデバイスの回路記号の例である。
【図3】図3は、双方向スイッチの駆動回路の概略構成を示す図である。
【図4】図4は、駆動回路の動作及び状態を示すタイムチャートである。
【図5】図5は、双方向スイッチの駆動状態を示すタイムチャートである。
【図6】図6は、実施形態1の変形例1に係る電力変換装置の概略構成を示す図である。
【図7】図7は、変形例1の電力変換装置における双方向スイッチの駆動状態を示すタイムチャートである。
【図8】図8は、実施形態1の変形例2に係る電力変換装置の図3相当図である。
【図9】図9は、実施形態1の変形例3に係る電力変換装置の図3相当図である。
【図10】図10は、実施形態1の変形例4に係る電力変換装置の双方向スイッチの概略構成を示す図である。
【図11】図11は、実施形態2に係る電力変換装置の概略構成を示す図である。
【図12】図12は、実施形態2に係る電力変換装置において、(A)R相−T相間に通電している状態、(B)S相−T相間に通電している状態をそれぞれ示す図である。
【図13】図13は、従来の双方向スイッチの概略構成を示す図である。
【図14】図14は、従来の双方向スイッチの別の構成を示す図である。
【図15】図15は、従来の双方向スイッチにおいて、(A)Iu>0の場合、(B)Iu<0の場合、のスイッチングパターン及び導通状態を示す図である。
【図16】図16は、実施形態2に係る電力変換装置の双方向スイッチの概略構成を示す図である。
【図17】図17は、実施形態2に係る双方向スイッチの図15相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0038】
《実施形態1》
図1に本発明の実施形態1に係る電力変換装置(1)の回路の一例を示す。この電力変換装置(1)は、コンバータ回路(11)と、倍電圧回路(12)と、平滑コンデンサ(13)と、インバータ回路(14)と、力率改善回路(15)とを備えていて、交流電源(2)から供給された交流の電圧を所定の周波数の電圧に変換して、三相交流モータなどの負荷(3)に供給するように構成されている。
【0039】
上記コンバータ回路(11)は、上記交流電源(2)に接続され、交流の電圧を直流に整流するように構成されている。このコンバータ回路(11)は、複数(図の例では4つ)のダイオード(D1〜D4)がブリッジ状に結線されてなるダイオードブリッジ回路であり、上記交流電源(2)に対し、リアクトル(L)を介して接続されている。これにより、上記交流電源(2)の交流電圧は、上記ダイオード(D1〜D4)のブリッジ回路によって直流電圧に変換される。
【0040】
上記倍電圧回路(12)は、直列に接続された2つのコンデンサ(21,22)を備えている。この倍電圧回路(12)は、これらのコンデンサ(21,22)の間に、上記コンバータ回路(11)を介して上記交流電源(2)の一端が接続されてなるもので、上記コンデンサ(21,22)内に、該コンデンサ(21,22)の直列回路における両端の電圧が上記交流電源(2)の電圧の倍になるような電荷が充電されるように構成されている。
【0041】
上記平滑コンデンサ(13)は、上記コンバータ回路(11)及び倍電圧回路(12)によって整流された直流電圧を平滑化するためのコンデンサである。
【0042】
上記インバータ回路(14)は、上記コンバータ回路(11)に対して、上記倍電圧回路(12)及び平滑コンデンサ(13)とともに並列に接続されている。このインバータ回路(14)は、複数のスイッチング素子(14a)(例えば三相交流であれば6個)がブリッジ結線されてなる。すなわち、特に図示しないが、上記インバータ回路(14)は、2つのスイッチング素子(14a,14a)を互いに直列接続してなる3つのスイッチングレグが並列に接続されてなるもので、これらのスイッチング素子(14a)のオンオフ動作によって、直流電圧を交流電圧に変換し、負荷(3)へ供給するように構成されている。なお、本実施形態では、図1に示すように、上記各スイッチング素子(14a)は、トランジスタとダイオードとが逆並列に接続されてなるが、この限りではなく、スイッチング可能な構成であれば他の構成であってもよい。
【0043】
上記力率改善回路(15)は、双方向に導通可能な双方向スイッチ(31)を有する双方向スイッチ回路(30)を備えていて、上記交流電源(2)を短絡可能なように上記双方向スイッチ(31)の両端が該交流電源(2)に接続されている。上記力率改善回路(15)は、双方向スイッチ(31)を交流電源(2)の電圧の極性に応じて駆動制御することにより該交流電源(2)を短絡させて、上記リアクトル(L)との組み合わせで該力率改善回路(15)の入力電流Isを整流し、電源力率を改善するとともに電圧Vpnの大きさを制御するように構成されている。
【0044】
具体的には、上記力率改善回路(15)は、上記双方向スイッチ回路(30)と、該スイッチ回路(30)に対して上記交流電源(2)の電圧の極性に対応するゼロクロス信号Szを出力するゼロクロス検出部(32)と、を備えている。このゼロクロス検出部(32)は、上記交流電源(2)の交流電圧の波形に応じて、半周期ごとに出力信号(ON−OFF)が反転するゼロクロス信号Szを生成して出力するように構成されている。
【0045】
上記双方向スイッチ回路(30)は、双方向に導通可能に構成された双方向スイッチ(31)と、該双方向スイッチ(31)に対して駆動信号Vg1,Vg2を出力して該双方向スイッチ(31)を駆動させる駆動回路(33,34)と、該駆動回路(33,34)に対して制御信号Sg1,Sg2を出力する力率改善制御部(35)(制御部)と、を備えている。この力率改善制御部(35)は、上記ゼロクロス検出部(32)から出力されるゼロクロス信号Szが入力されると、該ゼロクロス信号Szに基づいて双方向スイッチ(31)を駆動制御するための制御信号Sg1,Sg2を上記駆動回路(33,34)へ出力するように構成されている。
【0046】
上記双方向スイッチ(31)は、2つのスイッチング素子(SW1,SW2)をドレイン側同士が繋がるように直列に接続してなるもので、該スイッチング素子(SW1,SW2)を上記駆動回路(33,34)によって駆動制御することで、双方向に導通可能に構成されている。上記スイッチング素子(SW1,SW2)は、例えば接合型電界効果トランジスタや静電誘導トランジスタ、金属半導体電界効果型トランジスタ、ヘテロ接合電界効果トランジスタ、高電子移動度トランジスタなどからなり、ソース側にドレイン側よりも高い電圧(以下、逆方向の電圧ともいう)が印加された状態では、ゲート端子にオン駆動信号が入力されていない場合でも、ソース側からドレイン側へ電流が流れるように構成されている。なお、上記スイッチング素子(SW1,SW2)は、図2(A)に示すように、2つのソース端子(S1,S2)及びゲート端子(G1,G2)が設けられているとともにドレイン側を共有する、いわゆるデュアルゲート型のデバイスによって構成されていてもよいし、それぞれ独立したデバイスによって構成されていてもよい。なお、図2(B)は、いわゆるデュアルゲート型のデバイスによってスイッチング素子(SW1,SW2)を構成した場合における回路記号の例である。前記デュアルゲート型のスイッチング素子(SW1,SW2)では、2つのゲート電極の距離は、互いに対応したゲート電極とソース電極との間の距離よりも大きいのが好ましい。すなわち、図2(A)の例では、ソース(S1)-ゲート(G1)間の距離<ゲート(G1)-ゲート(G2)間の距離、且つ、ソース(S2)-ゲート(G2)間の距離<ゲート(G1)-ゲート(G2)間の距離とするのがよい。これは、前記デュアルゲート型のデバイスでは、2つのソース端子(S1,S2)間の耐圧は2つのゲート端子(G1,G2)間の耐圧に左右されるからであり、前記のように電極間の距離を規定することで、十分な耐圧性を確保することが可能になる。
【0047】
ここで、上記スイッチング素子(SW1,SW2)は、ソース側からドレイン側へ流れる逆方向の電流によって生じるオン電圧が、スイッチング素子(SW1,SW2)がオン状態となる閾値電圧Vtよりも高くなるようにオン抵抗Ronが設定されている。これにより、ゲート−ドレイン間の電圧を上記閾値電圧Vt以上の電圧により迅速に到達させることができる。したがって、上記スイッチング素子(SW1,SW2)をより迅速にオン駆動状態にさせることができ、電流が導通するときの損失を低減することができる。なお、接合型電界効果トランジスタや静電誘導トランジスタなどのトランジスタでは、閾値電圧が2.5V以下であり、上記オン抵抗を比較的、小さくすることができるため、上述のようにオン電圧が閾値電圧以上となる構成であってもスイッチング素子の導通損失を低減することができる。
【0048】
これにより、詳しくは後述するが、上記スイッチング素子(SW1,SW2)のうち、ソース側に高い電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)は、オン状態に駆動制御しなくても、該スイッチング素子(SW1)に作用する逆方向の電圧によって該逆方向に導通可能な状態となる。したがって、本実施形態では、ドレイン側にソース側よりも高い電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)のみが駆動制御される。
【0049】
−駆動回路−
上述のような構成を有するスイッチング素子(SW1,SW2)を駆動制御するための駆動回路(33,34)の構成について図3に基づいて以下で説明する。なお、この図3に示すように、駆動回路(33,34)は、同じ構成を有しているため、一方の駆動回路(33)の構成についてのみ以下で説明し、他方の駆動回路(34)において該一方の駆動回路(33)と同じ構成には同一の符号を付すものとする。
【0050】
上記駆動回路(33)は、スイッチング素子(SW1)のゲート(G)−ソース(S1)間に電圧Vgを印加するための駆動電源(41)と、力率改善制御部(35)から出力される制御信号Sg1に応じてスイッチング動作する2つのゲート駆動用スイッチング素子(42,43)と、上記スイッチング素子(SW1)のゲート(G)−ソース(S1)間に、該スイッチング素子(SW1)に対して並列に接続される抵抗(44)(抵抗体)と、を備えている。
【0051】
上記ゲート駆動用スイッチング素子(42,43)は、互いに直列に接続されていて、それらのスイッチング素子(42,43)の間で上記スイッチング素子(SW1)のゲート端子(G1)と接続されている。ゲート駆動用スイッチング素子(43)は、該スイッチング素子(43)がオン状態のときに上記駆動電源(41)の電圧Vgがスイッチング素子(SW1)のゲート端子(G1)に印加される電圧供給回路を形成するように、上記駆動電源(41)とスイッチング素子(SW1)のゲート端子(G1)との間に配置されている。一方、ゲート駆動用スイッチング素子(42)は、該スイッチング素子(42)がオン状態のときにスイッチング素子(SW1)のソース側(S1)とゲート端子(G1)との間を繋ぐように設けられている。なお、上記図3において、符号45は、ゲート駆動用スイッチング素子(42,43)とスイッチング素子(SW1)のゲート端子(G1)との間に設けられた、スイッチング素子(SW1)のスイッチング速度調整用の抵抗である。
【0052】
また、直列に接続された上記ゲート駆動用スイッチング素子(42,43)は、それぞれ、上記力率改善制御部(35)から出力される制御信号Sg1に応じて、一方がオン状態のときに他方がオフ状態になり、一方がオフ状態のときに他方がオン状態となるように、駆動制御部(46,47)によって駆動制御されている。
【0053】
これにより、制御信号Sg1によって、ゲート駆動用スイッチング素子(43)がオン状態になるとともに、ゲート駆動用スイッチング素子(42)がオフ状態となる場合には、スイッチング素子(SW1)のゲート端子(G1)に駆動電源(41)の電圧Vgが印加されて、該スイッチング素子(SW1)が駆動する。すなわち、この場合には、駆動回路(33)からスイッチング素子(SW1)のゲート端子(G1)にオン駆動信号Vg1が入力されることになる。
【0054】
逆に、制御信号Sg1によって、ゲート駆動用スイッチング素子(42)がオン状態になるとともに、ゲート駆動用スイッチング素子(43)がオフ状態となる場合には、スイッチング素子(SW1)のゲート端子(G1)に駆動電源(41)の電圧Vgが印加されることなく、該スイッチング素子(SW1)はオフ状態となる。すなわち、この場合には、駆動回路(33)からスイッチング素子(SW1)のゲート端子(G1)に対して、オン駆動信号ではなく、オフ制御信号が入力されている。
【0055】
上記スイッチング素子(SW1)のゲート(G1)−ソース(S1)間に該スイッチング素子(SW1)に対して並列に設けられた上記抵抗(44)は、上記スイッチング素子(SW1)に逆方向の電圧が印加されたときに、該スイッチング素子(SW1)のゲート(G1)−ドレイン(D)間に逆方向の電圧がほぼそのまま印加されるように、該スイッチング素子よりも十分小さな抵抗値を有している。すなわち、上記抵抗(44)を十分小さな抵抗値を有する構成にすることで、該抵抗(44)と並行なスイッチング素子(SW1)のソース(S1)−ゲート(G1)間にはほとんど電圧が作用することなく、該スイッチング素子(SW1)のゲート(G1)−ドレイン(D)間に上記逆方向の電圧が作用することになる。
【0056】
−双方向スイッチ回路の動作−
以上のような構成を有する双方向スイッチ回路(30)の動作について、図1から図5に基づいて以下で説明する。
【0057】
まず、双方向スイッチ回路(30)内の双方向スイッチ(31)のスイッチング素子(SW1,SW2)を駆動するための駆動回路(33,34)の動作について説明する。
【0058】
図3及び図4に示すように、t=t0において、双方向スイッチ(31)に、スイッチング素子(SW1)に対して逆方向(ソース側(S1)の電圧がドレイン側(D)よりも高い状態)となる電源電圧Vdcが印加されると、該スイッチング素子(SW1)の駆動回路(33)に設けられた抵抗(44)によって、該スイッチング素子(SW1)に印加される電圧のほとんどがゲート(G1)−ドレイン(D)間にかかることになる。そうすると、ソース(S1)−ゲート(G1)間の電圧Vsgはほぼゼロになる一方、ソース(S1)−ドレイン(D)間の電圧Vsd及びゲート(G1)−ドレイン(D)間の電圧Vgdはスイッチング素子(SW1)がオン状態となる閾値電圧Vtに保持される。このように、双方向スイッチ(31)の一方のスイッチング素子(SW1)には、閾値電圧Vtの電圧しか印加されないため、双方向スイッチ(31)のもう一方のスイッチング素子(SW2)には、残りの電圧Vdc−Vtが印加されることになる。なお、このスイッチング素子(SW2)には、オン駆動信号が入力されていないため、ゲート(G1)−ソース(S2)間の電圧Vgsはゼロであり、ドレイン(D)−ゲート(G2)間にVdc−Vtの全ての電圧が印加されている状態となる。
【0059】
次に、t=t1において、上記スイッチング素子(SW2)の駆動回路(34)に制御信号Sg2のオン信号が入力されると、該駆動回路(34)のゲート駆動用スイッチング素子(43)がオン状態となって、上記スイッチング素子(SW2)のゲート端子(G2)に駆動電源(41)から電圧Vgが印加される。そうすると、上記スイッチング素子(SW2)はオン状態となって、双方向スイッチ(31)内に電流Isが流れることになる。すなわち、上記スイッチング素子(SW2)がオン状態となっている期間がオン期間tonとなる。
【0060】
ここで、上記スイッチング素子(SW2)のドレイン(D)−ソース(S2)間の電圧Vdsは、該スイッチング素子(SW2)がオン状態になると、一旦ゼロになった後、該スイッチング素子(SW2)を流れる電流に応じて徐々に増大する。一方、上記スイッチング素子(SW1)でも、ソース(S1)−ドレイン(D)間の電圧Vsd及びゲート(G1)−ドレイン(D)間の電圧Vgdは、該スイッチング素子(SW2)内を流れる電流によって電圧が徐々に増大する。
【0061】
そして、t=t2において、上記スイッチング素子(SW2)の駆動回路(34)に入力する制御信号Sg2をオフにすると、該駆動回路(34)のゲート駆動用スイッチング素子(43)がオフ状態となって、上記スイッチング素子(SW2)のゲート端子(G1)に駆動電源(41)の電圧Vgが印加されず、ゲート(G2)−ソース(S2)間の電圧Vgsはゼロになる。そうすると、上記スイッチング素子(SW1,SW2)の各電圧は、上述のt=t0と同じ状態となる。
【0062】
上述のような駆動回路(33,34)の動作を電源電圧の波形やゼロクロス信号Szなどと並べて記載した図を図5に示す。なお、この図5において、ゼロクロス信号Szがオンのときには、双方向スイッチ(31)のスイッチング素子(SW1)に逆方向の電圧が印加される一方、ゼロクロス信号Szがオフのときにはスイッチング素子(SW2)に逆方向の電圧が印加されるものとする。
【0063】
上記図5に示すように、スイッチング素子(SW1,SW2)に逆方向の電圧が印加されているときには、該スイッチング素子(SW1,SW2)にオン駆動信号を入力しなくても、ゲート(G1,G2)−ドレイン(D)間の電圧Vgd,Vdgが閾値電圧Vt以上になれば、オン状態となる。そして、もう一方のスイッチング素子をオン状態にするように駆動制御することで、双方向スイッチ(31)に電流Isを流すことができる。
【0064】
−実施形態1の効果−
以上より、この実施形態によれば、双方向スイッチ(31)のスイッチング素子(SW1,SW2)として、ソース(S1)側にドレイン(D)側よりも高い電圧が印加された状態(逆方向に電圧が印加された状態)において、ゲート端子(G1,G2)にオン駆動信号が入力されていない場合でも、ソース側(S1)からドレイン(D)側へ電流が流れるようなスイッチング素子を用いることで、ドレイン(D)側にソース(S2)側よりも高い電圧が印加されるスイッチング素子のみを駆動制御すれば、双方向スイッチ(31)の通電の制御を行うことができる。したがって、上記双方向スイッチ(31)のスイッチング素子(SW1,SW2)の駆動制御が容易になる。
【0065】
しかも、上述のような構成にすることで、従来は必要であったダイオードが不要になるため、その分、部品点数を低減することができ、回路構成の簡略化を図れるとともに導通損失の低減を図れる。
【0066】
−実施形態1の変形例1−
この変形例1は、図6に示すように、電力変換装置(1')の力率改善制御部(35')から一つの制御信号Sg1のみが出力され、双方向スイッチ(31)のスイッチング素子(SW1,SW2)に同じ駆動信号(Vg1=Vg2)が入力される点が上記実施形態1と異なるだけでなので、該実施形態1と同じ部分には同一の符号を付して以下で異なる部分についてのみ説明する。
【0067】
具体的には、上記図6に示すように、ゼロクロス検出部(32)からゼロクロス信号Szが入力される力率改善制御部(35')では、制御信号Sg1を駆動回路(33,34)に出力するように構成されている。これにより、上記駆動回路(33,34)には、同じ制御信号Sg1が入力されるため、図7に示すように、該駆動回路(33,34)からスイッチング素子(SW1,SW2)に対して同じ駆動信号Vg1,Vg2がそれぞれ出力される。
【0068】
このように、双方向スイッチ(31)の2つのスイッチング素子(SW1,SW2)に対して同じ信号を入力することで、該スイッチング素子(SW1,SW2)を別々に駆動制御する場合に比べて制御が容易になる。
【0069】
ここで、一般的に、上述のように、双方向スイッチ(31)の2つのスイッチング素子(SW1,SW2)に対して同じ信号を入力すると、スイッチング素子の性能のばらつきなどによって、スイッチング素子がオン状態になるタイミングがずれる場合がある。しかしながら、上記実施形態1のような構成のスイッチング素子(SW1,SW2)を用いることで、逆方向に電圧が印加されるスイッチング素子は、ゲート端子(G1,G2)への駆動信号に関係なく、導通状態になるため、該スイッチング素子が損傷を受けるのを防止することができる。
【0070】
−実施形態1の変形例2−
この変形例2は、図8に示すように、双方向スイッチ(31')の2つのスイッチング素子(SW1',SW2')において、ゲート(G1,G2)−ドレイン(D)間に寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)が形成されているとともに、上記スイッチング素子(SW1',SW2')が該寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)側に電流を流さないような構成を有している点で上記実施形態1と異なるだけなので、該実施形態1と同じ部分には同一の符号を付して以下で異なる部分についてのみ説明する。
【0071】
具体的には、上記図8に示すように、スイッチング素子(SW1',SW2')には、それぞれ、ゲート(G1,G2)−ドレイン(D)間に該ゲート端子(G1,G2)側からドレイン(D)側にのみ導通可能な寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)が設けられている。そして、上記スイッチング素子(SW1',SW2')は、オン状態となる閾値電圧Vtが、上記寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)の順方向電圧Vfよりも小さくなるように構成されている。
【0072】
これにより、上記寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)側に電流が流れる前に、上記スイッチング素子(SW1',SW2')はオン状態になって該スイッチング素子(SW1',SW2')に電流が流れる。一般的に、寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)に電流が流れると、該寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)内に少数キャリアが蓄積してターンオフ時の遅延を発生したり該寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)内を流れる際に比較的、大きな損失を生じたりするが、上述のような構成にしてスイッチング素子(SW1',SW2')側に電流を流すことで、ターンオフ時の遅延や損失の増大を防止することができる。
【0073】
−実施形態1の変形例3−
この変形例3は、図9に示すように、上記変形例2と同様、双方向スイッチ(31')のスイッチング素子(SW1',SW2')のゲート(G1,G2)−ドレイン(D)間に寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)が形成されている点、駆動回路(51,52)の駆動電源(53)が電圧を可変に構成されている点で上記実施形態1と異なるだけなので、該実施形態1と同じ部分には同一の符号を付して以下で異なる部分についてのみ説明する。
【0074】
具体的には、上記図9に示すように、スイッチング素子(SW1',SW2')には、それぞれ、ゲート(G1,G2)−ドレイン(D)間に該ゲート端子(G1,G2)側からドレイン側(D)にのみ導通可能な寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)が設けられている。
【0075】
上記スイッチング素子(SW1',SW2')の駆動回路(51,52)には、それぞれ、電圧が可変に構成された駆動電源(53)が設けられている。また、上記駆動回路(51,52)は、双方向スイッチ(31')に流れる電流Isに基づいてゲート(G1,G2)−ドレイン(D)間の電圧Vgdを求めて、該電圧Vgdが上記寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)の順方向電圧Vfよりも常に小さくなるように、上記駆動電源(53)の電圧を調整するゲート電圧調整部(54)を備えている。
【0076】
詳しくは、ソース(S1,S2)−ドレイン(D)間の電圧Vsdは、双方向スイッチ(31')に流れる電流Isに対応して変化する(=Is×Ron(スイッチング素子(SW1',SW2')のオン抵抗))ため、上記ゲート電圧調整部(54)は、ゲート(G1,G2)−ドレイン(D)間の電圧Vgdが上記寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)の順方向電圧Vfよりも常に小さくなるように、上記電圧Vsdに応じてゲート(G1,G2)−ソース(S1,S2)間の電圧Vgs(駆動電源(53)の電圧)を変化させるよう構成されている。
【0077】
これにより、スイッチング素子(SW1',SW2')のゲート(G1,G2)−ドレイン(D)間の電圧Vgdを、上記寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)の順方向電圧Vfよりも常に小さくすることができるため、該寄生ダイオード(Dgd1,Dgd2)に電流が流れるのをより確実に防止することができる。よって、ターンオフ時の遅延の発生や損失の増大をより確実に防止することができる。
【0078】
−実施形態1の変形例4−
この変形例4は、図10に示すように、双方向スイッチ(55)のスイッチング素子(56,57)のソース(S1,S2)−ドレイン(D)間に寄生ダイオード(Dsd1,Dsd2)が形成されている点で上記実施形態1と異なるだけなので、該実施形態1と同じ部分には同一の符号を付して以下で異なる部分についてのみ説明する。
【0079】
具体的には、双方向スイッチ(55)のスイッチング素子(56,57)には、ソース(S1,S2)−ドレイン(D)間に、ソース(S1,S2)側からドレイン(D)側へのみ導通可能な寄生ダイオード(Dsd1,Dsd2)が設けられている。すなわち、上記スイッチング素子(56,57)は、ソース(S1,S2)−ドレイン(D)間に寄生ダイオード(Dsd1,Dsd2)を有する、例えばMOSFETなどによって構成されている。
【0080】
これにより、上記スイッチング素子(56,57)にソース(S1,S2)側がドレイン(D)側よりも高い逆方向の電圧が印加された場合でも、該スイッチング素子(56,57)がオン状態となるまで、上記寄生ダイオード(Dsd1,Dsd2)によって電流を流すことができるため、上記スイッチング素子(56,57)がオフ状態のときの損失を低減することができる。
【0081】
《実施形態2》
−全体構成−
図11に本発明の実施形態2に係る電力変換装置(60)の概略構成を示す。この電力変換装置(60)は、一定周波数の交流電源(61)から得られる交流電力を別の周波数の交流電力に直接、電力変換を行う、いわゆるマトリックスコンバータである。
【0082】
上記マトリックスコンバータ(60)は、スイッチング部としての複数(図の例では6つ)の双方向スイッチ(Sur,Sus,Sut,Svr,Svs,Svt)を備えている。なお、上記図11の例では、上記マトリックスコンバータ(60)は、三相の交流電源(61)から出力される交流電力を単相にしてモータなどの負荷(62)へ供給するように構成されているが、この限りではなく、例えば、三相の交流電源(61)の交流電力を三相の交流電力として負荷へ供給する構成など、どのような構成であってもよい。
【0083】
上記複数の双方向スイッチ(Sur,Sus,Sut,Svr,Svs,Svt)は、上記負荷(62)の入出力側に対して上記交流電源(61)の各相の端子を選択的に接続するように設けられている。具体的には、上記負荷(62)の入出力側を構成する2つの端子には、それぞれ、上記交流電源(61)の各相の端子にそれぞれ繋がる3つの双方向スイッチが接続されている。これらの双方向スイッチ(Sur,Sus,Sut,Svr,Svs,Svt)によって、上記マトリックスコンバータ(60)内には、上記負荷(62)の入出力側に、それぞれ、上記交流電源(61)の各相に繋がるR相、S相及びT相が構成される。
【0084】
上述のような構成を有するマトリックスコンバータ(60)において、図12(A)に示すように、例えばR相及びT相の双方向スイッチ(Sur,Svt)を導通状態にすると、マトリックスコンバータ(60)のR相とT相との間で電流Iuが流れる。そして、図12(B)に示すように、R相の双方向スイッチ(Sur)を非導通状態にする一方、S相の双方向スイッチ(Sus)を導通状態にすると、マトリックスコンバータ(60)のS相とT相との間で電流が流れる。すなわち、上記図12のようなスイッチング動作を行うことで、マトリックスコンバータ(60)の転流動作が行われる。
【0085】
−双方向スイッチの構成及び動作−
上記双方向スイッチ(Sur,Sus,Sut,Svr,Svs,Svt)の具体的な構成について以下で説明する。なお、各双方向スイッチ(Sur,Sus,Sut,Svr,Svs,Svt)は、すべて同様の構成を有しているため、以下ではR相及びS相の双方向スイッチ(Sur,Sus)についてのみ説明する。
【0086】
本発明の構成について説明する前に、まず、従来の双方向スイッチ(Sur',Sus')の構成及びその動作について図13から図15に基づいて説明する。
【0087】
上記図13に示すように、各双方向スイッチ(Sur',Sus')は、スイッチング素子(Sur1',Sur2',Sus1',Sus2')とダイオード(Dur1',Dur2',Dus1',Dus2')とが直列に接続された回路が、該ダイオード(Dur1',Dur2',Dus1',Dus2')の導通方向が逆向きになるように逆並列に接続されてなる。これらのダイオード(Dur1',Dur2',Dus1',Dus2')は、スイッチング素子(Sur1',Sur2',Sus1',Sus2')に対して、該スイッチング素子(Sur1',Sur2',Sus1',Sus2')の順方向(ドレイン側の電圧がソース側よりも電圧が高いときに電流の流れる方向)にのみ導通可能なように直列に接続されている。すなわち、上記双方向スイッチ(Sur',Sus')は、一方向にのみ導通可能な2つの回路が逆並列に接続された構成を有していて、これにより、双方向に導通可能となっている。
【0088】
なお、上記双方向スイッチ(Sur',Sus')の構成は、上記図13に示す構成以外にも、スイッチング素子(Sur1',Sur2')に対してダイオード(Dur1',Dur2')を逆並列に接続したものを、スイッチング素子(Sur1',Sur2')及びダイオード(Dur1',Dur2')同士がそれぞれ逆阻止状態で直列になるように接続した図14に示すような構成も知られている。上記図13及び図14において、実線の矢印は電流IuがR相を流れる場合、破線の矢印は電流IuがS相を流れる場合を、それぞれ示している。
【0089】
次に、上述のような構成を有する従来の双方向スイッチ(Sur',Sus')の動作を、マトリックスコンバータの転流動作と併せて説明する。ここで、図15は、R相からS相に転流動作を行う場合の双方向スイッチ(Sur',Sus')の動作を示していて、図15(A)は電流Iuが正の値の場合、図15(B)は電流Iuが負の値の場合、の双方向スイッチ(Sur',Sus')の動作をそれぞれ示している。また、上記図15において、R相にS相よりも高い電圧が印加されている状態で導通する場合を実線の斜線で示し、S相にR相よりも高い電圧が印加されている状態において通電するスイッチング素子が切り替わる場合を破線の斜線で示す。
【0090】
なお、特に図示しないが、上記マトリックスコンバータは、交流電源の電圧の極性を検出する電圧極性検出手段若しくは電流の極性を検出する電流極性検出手段を備えていて、その検出結果に基づいて、双方向スイッチ(Sur',Sus')のスイッチング動作のタイミング(t0からt7)を決めている。
【0091】
まず、電流Iuが正の値の場合には、図15(A)に示すように、t=t0のときには、スイッチング素子(Sur1')がオン状態になっていて、R相に電流Iuが流れている。このとき、R相の双方向スイッチ(Sur')におけるもう一方のスイッチング素子(Sur2')もオン状態になっている。これは、負荷(62)側で短絡故障などが発生した際に、逆方向へも電流が流れるようにして、マトリックスコンバータの故障を防止するためである。
【0092】
電流IuをR相からS相へ転流させる際には、まず、t=t1で、上記スイッチング素子(Sur2')をオフ状態にする。そして、続くt=t2において、S相の双方向スイッチ(Sus')のスイッチング素子(Sus1')をオン状態にするように駆動制御する。このとき、R相にS相よりも高い電圧が印加されている状態(Vrs>0)であれば、R相に電流Iuが流れ続けるが(Sur1'の実線部分)、S相にR相よりも高い電圧が印加されている状態(Vrs<0)であれば、電流Iuの流れる相がR相からS相に変わる(Sur1'の実線部分からSus1'の破線部分へ)。t=t3で、上記スイッチング素子(Sur1')をオフ状態にすると、Vrs>0であっても、電流Iuの流れる相がR相からS相に変わる(Sur1'の実線部分からSus1'の実線部分へ)。
【0093】
こうすることで、R相に流れていた電流Iuを、S相に転流させることができる。その後、t=t4でS相の双方向スイッチ(Sus')のもう一方のスイッチング素子(Sus2')もオン状態にするように駆動制御して、故障の際などに逆方向にも電流が流れるようにしておく。
【0094】
逆に、電流IuをS相から再度、R相へ転流させる際には、まず、t=t5で上記スイッチング素子(Sus2')をオフ状態にした後、続くt=t6でR相の双方向スイッチ(Sur')のスイッチング素子(Sur1')をオン状態にするように駆動制御する。このとき、R相にS相よりも高い電圧が印加されている状態(Vrs>0)であれば、電流Iuの流れる相がS相からR相に変わる(Sus1'の実線部分からSur1'の実線部分へ)が、S相にR相よりも高い電圧が印加されている状態(Vrs<0)であれば、電流Iuの流れる相はS相のままである(SuS1'の破線部分)。t=t7でスイッチング素子(Sus1')をオフ状態にすると、Vrs<0であっても、電流Iuの流れる相がS相からR相に変わる(Sus1'の破線部分からSur1'の実線部分へ)。これにより、S相からR相への電流Iuの転流動作が完了する。
【0095】
上述のような転流動作において、スイッチング素子(Sur1',Sus1')の動作とスイッチング素子(Sur2',Sus2')の動作とを逆にすることで、上記図15(B)の転流動作を実現できるため、該図15(B)の場合の動作については説明を省略する。
【0096】
ところで、上述のような構成を有する双方向スイッチ(Sur',Sus')の場合、スイッチング素子(Sur1',Sur2',Sus1',Sus2')とは別に、電流が逆方向に流れるのを阻止するための逆阻止用のダイオード(Dur1',Dur2',Dus1',Dus2')が必要になるため、部品点数が多く、回路構成も複雑になり、その分、導通損失も大きくなるという問題がある。これに対し、ダイオード(Dur1',Dur2',Dus1',Dus2')を省略できる逆阻止IGBTを採用する構成も考えられるが、スイッチング素子の破壊を防止するためには該スイッチング素子をタイミング良く駆動制御する必要があり、高精度且つ複雑な制御が要求される。
【0097】
これに対し、本実施形態では、部品点数を減らして回路の簡略化及び導通損失の低減を図りつつ、スイッチング素子の簡単な駆動制御によってマトリックスコンバータの双方向スイッチを実現できるように、双方向スイッチのスイッチング素子として、ソース側にドレイン側よりも高い電圧が印加された状態において、ゲート端子にオン駆動信号が入力されていない場合でも、ソース側からドレイン側へ電流が導通可能に構成されたデバイスを用いる。
【0098】
具体的には、図16に示すように、マトリックスコンバータ(60)の双方向スイッチ(Sur,Sus)は、2つのスイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)がドレイン側で繋がるように直列に接続されてなる。そして、上記各スイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)は、ソース側にドレイン側よりも高い電圧が印加された状態において、ゲート端子にオン駆動信号が入力されていない場合でも、ソース側からドレイン側へ電流が導通可能に構成されている。上記スイッチング素子(SW1,SW2)は、例えば接合型電界効果トランジスタや静電誘導トランジスタ、金属半導体電界効果型トランジスタ、ヘテロ接合電界効果トランジスタ、高電子移動度トランジスタなどからなる。上記図16において、実線の矢印は電流IuがR相を流れる場合、破線の矢印は電流IuがS相を流れる場合を、それぞれ示している。
【0099】
ここで、上記各双方向スイッチ(Sur,Sus)を構成する2つのスイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)は、上記実施形態1のスイッチング素子(SW1,SW2)と同様、2つのソース端子(S1,S2)及びゲート端子(G1,G2)が設けられているとともにドレイン側(D)を共有する、いわゆるデュアルゲート型のデバイスによって構成されていてもよいし、それぞれ独立したデバイスによって構成されていてもよい。
【0100】
また、上記スイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)は、ソース側からドレイン側へ流れる逆方向の電流によって生じるオン電圧が、上記閾値電圧Vtよりも高くなるようにオン抵抗Ronが設定されている。これにより、ゲート−ドレイン間の電圧が上記閾値電圧Vt以上により迅速に達することができる。したがって、上記スイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)をより迅速にオン駆動状態にさせることができ、逆方向に電流が導通するときの損失を低減することができる。なお、接合型電界効果トランジスタや静電誘導トランジスタなどのトランジスタは、閾値電圧が2.5V以下であるため、上記オン抵抗を比較的、小さくすることができ、スイッチング素子の導通損失を低減することができる。
【0101】
これにより、詳しくは後述するが、上記スイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)のうち、ソース側に高い電圧が印加されるスイッチング素子は、オン状態に駆動制御しなくても、該スイッチング素子に作用する逆方向の電圧によって該逆方向に導通可能なオン状態となる。
【0102】
なお、上記スイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)の駆動回路は、上記実施形態1と同様なので、構成及び動作については説明を省略する。すなわち、上記実施形態1の図3において、スイッチング素子(SW1,SW2)が、本実施形態におけるスイッチング素子(Sur2,Sus2)及びスイッチング素子(Sur1,Sus1)にそれぞれ対応している。
【0103】
上記スイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)を、上述のような構成にした場合の双方向スイッチ(Sur,Sus)の動作を、マトリックスコンバータの転流動作とともに説明する。ここで、図17は、R相からS相に転流動作を行う場合の双方向スイッチ(Sur,Sus)の動作を示していて、図17(A)は電流Iuが正の値の場合、図17(B)は電流Iuが負の値の場合、の双方向スイッチ(Sur,Sus)の動作をそれぞれ示している。なお、上記図17において、R相にS相よりも高い電圧が印加されている状態で導通する場合を実線の斜線で示し、S相にR相よりも高い電圧が印加されている状態で導通する場合を破線の斜線で示す。
【0104】
なお、特に図示しないが、上記マトリックスコンバータは、交流電源の電圧の極性を検出する電圧極性検出手段若しくは電流の極性を検出する電流極性検出手段を備えていて、その検出結果に基づいて、双方向スイッチ(Sur,Sus)のスイッチング動作のタイミング(t0からt7)を決めている。
【0105】
まず、電流Iuが正の値の場合には、図17(A)に示すように、t=t0では、スイッチング素子(Sur1)はオン状態になっていて、R相に電流Iuが流れている。このとき、R相の双方向スイッチ(Sur)におけるもう一方のスイッチング素子(Sur2)もオン状態になっている。
【0106】
電流IuをR相からS相へ転流させる際には、まず、t=t1で、上記スイッチング素子(Sur2)をオフ状態にする。しかしながら、このスイッチング素子(Sur2)には、逆方向に電圧が印加されているため、該スイッチング素子(Sur2)のゲート端子にオン駆動信号が入力されていない状態でも、R相に電圧が印加されている状態が継続している間は該スイッチング素子(Sur2)内を電流Iuが流れる。
【0107】
そして、続くt=t2において、S相の双方向スイッチ(Sus)のスイッチング素子(Sus1)をオン状態にするように駆動制御する。このとき、R相にS相よりも高い電圧が印加されている状態(Vrs>0)であれば、R相に電流Iuが流れ続ける(Sur1の実線部分)が、S相にR相よりも高い電圧が印加されている状態(Vrs<0)であれば、電流Iuの流れる相がR相からS相に変わる(Sur1の実線部分からSus1の破線部分へ)。t=t3で、上記スイッチング素子(Sur1)をオフ状態にすると、Vrs>0であっても、電流Iuの流れる相がR相からS相に変わる(Sur1の実線部分からSus1の実線部分へ)。ここで、上述のように、S相の双方向スイッチ(Sus)のスイッチング素子(Sus1)のみをオン状態にして、S相に電流Iuが流れるような電圧が印加された状態になると、S相の双方向スイッチ(Sus)のもう一方のスイッチング素子(Sus2)には、逆方向の電圧が印加されるため、該スイッチング素子(Sus2)のゲート端子にオン駆動信号が入力されない状態でも、該スイッチング素子(Sus2)が導通可能な状態となって、S相に電流Iuが流れる。
【0108】
こうすることで、R相に流れていた電流Iuを、S相に転流させることができる。その後、t=t4でS相の双方向スイッチ(Sus)におけるもう一方のスイッチング素子(Sus2)もオン状態にするように駆動制御して、該スイッチング素子(Sus2)の導通損失の低減を図る。
【0109】
逆に、電流IuをS相から再度、R相へ転流させる際には、まず、t=t5で上記スイッチング素子(Sus2)をオフ状態にする。このとき、このスイッチング素子(Sus2)には、逆方向に電圧が印加されているため、該スイッチング素子(Sus2)のゲート端子にオン駆動信号が入力されていない状態でも、S相に電圧が印加されている状態が継続している間は該スイッチング素子(Sus2)内を電流Iuが流れる。
【0110】
その後、t=t6で、R相の双方向スイッチ(Sur)のスイッチング素子(Sur1)をオン状態にするように駆動制御する。このとき、R相にS相よりも高い電圧が印加されている状態(Vrs>0)であれば、電流Iuの流れる相がS相からR相に変わる(Sus1の実線部分からSur1の実線部分へ)が、S相にR相よりも高い電圧が印加されている状態(Vrs<0)であれば、電流Iuの流れる相はS相のままである(Sus1の破線部分)。t=t7でスイッチング素子(Sus1)をオフ状態にすると、Vrs<0であっても、電流Iuの流れる相がS相からR相に変わる(Sus1の破線部分からSur1の実線部分へ)。ここで、上述のように、R相の双方向スイッチ(Sur)のスイッチング素子(Sur1)をオン状態にして、R相に電流Iuが流れるような電圧が印加された状態になると、R相の双方向スイッチ(Sur)のもう一方のスイッチング素子(Sur2)には、逆方向の電圧が印加されるため、該スイッチング素子(Sur2)のゲート端子にオン駆動信号が入力されない状態でも、該スイッチング素子(Sur2)がオン状態となって、R相に電流Iuが流れる。これにより、S相からR相への電流Iuの転流動作が完了する。
【0111】
上述のような転流動作において、スイッチング素子(Sur1,Sus1)の動作とスイッチング素子(Sur2,Sus2)の動作とを逆にすることで、上記図17(B)の転流動作を実現できるため、該図17(B)の場合の動作については説明を省略する。
【0112】
なお、この実施形態においても、上記実施形態1と同様、該実施形態1の変形例1から4と同様の構成としてもよい。
【0113】
−実施形態2の効果−
以上より、この実施形態によれば、マトリックスコンバータ(60)の双方向スイッチ(Sur,Sus)を構成するスイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)として、ソース側にドレイン側よりも高い逆方向の電圧が印加された状態において、ゲート端子にオン駆動信号が入力されていない場合でも、ソース側からドレイン側へ電流が導通可能に構成されたデバイスを用いるようにしたため、逆阻止ダイオードを省略して部品点数を削減することができ、その分、小型化及びコスト低減を図れるとともに、導通損失の低減を図れる。
【0114】
しかも、上述のように、逆方向の電圧が印加されたスイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)は、駆動制御しなくても導通可能な状態になるため、全てのスイッチング素子(Sur1,Sur2,Sus1,Sus2)をタイミング良く制御する必要がなくなり、制御が容易になる。
【0115】
《その他の実施形態》
上記各実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0116】
上記実施形態1では、ソース側にドレイン側よりも高い電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)のゲート端子に、オン駆動信号を入力していないが、この限りではなく、該スイッチング素子(SW1)に逆方向の電流が流れていると検出若しくは推測されるときには、該スイッチング素子(SW1)のゲート端子にオン駆動信号を入力するようにしてもよい。こうすることで、該スイッチング素子(SW1)を駆動させて導通状態にすることができるので、駆動していない状態で導通する場合よりも、導通損失の低減を図れる。また、上記実施形態2においても、スイッチング素子(Sur2,Sus2)に逆方向の電流が流れていると検出若しくは推測されるときには、該スイッチング素子(Sur2,Sus2)に速やかにオン駆動信号を入力するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、複数のスイッチング素子が直列に接続されてなる双方向スイッチを備えた電力変換装置に特に有用である。
【符号の説明】
【0118】
1 電力変換装置
15 力率改善回路
30 双方向スイッチ回路
31、31’、55、Sur、Sus 双方向スイッチ(スイッチング部)
32 ゼロクロス検出部
33 駆動回路(ゲート駆動回路)
34 駆動回路
35、35’ 力率改善制御部(制御部)
41 駆動電源
42、43 ゲート駆動用スイッチング素子
44 抵抗(抵抗体)
45 抵抗
46、47 駆動制御部
51、52 駆動回路
53 駆動電源
54 ゲート電圧調整部
56、57 スイッチング素子
60 電力変換装置(マトリックスコンバータ)
Dgd1、Dgd2 寄生ダイオード
L リアクトル
SW1,SW2、SW1’、SW2’ スイッチング素子
S1、S2 ソース
D ドレイン
G1、G2 ゲート端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
双方向に導通可能に接続された2つのスイッチング素子(SW1,SW2)を備えた双方向スイッチ回路であって、
上記2つのスイッチング素子(SW1,SW2)は、互いに直列に接続されていて、
上記2つのスイッチング素子(SW1,SW2)のうち、ソース(S1)側の電圧がドレイン(D)側の電圧よりも高い逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)は、ゲート端子(G1)にオン駆動信号が入力されていない状態でも、ソース(S1)側からドレイン(D)側へ電流が導通可能に構成されていることを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項2】
請求項1に記載の双方向スイッチ回路において、
上記逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)を駆動制御するためのゲート駆動回路(33)を備え、
上記ゲート駆動回路(33)は、上記スイッチング素子(SW1)のソース(S1)とゲート端子(G1)との間に該スイッチング素子(SW1)に対して並列に接続される抵抗体(44)を備えていることを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項3】
請求項1に記載の双方向スイッチ回路において、
上記逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1')は、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間に、該ゲート端子(G1)側からドレイン(D)側への電流の流れのみを許容するゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)を有していて、
上記スイッチング素子(SW1')は、該スイッチング素子(SW1')がオン状態となる閾値電圧Vtが上記ゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)の順方向電圧Vfよりも小さくなるように構成されていることを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項4】
請求項1に記載の双方向スイッチ回路において、
上記逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1')は、
ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間に、該ゲート端子(G1)側からドレイン(D)側への電流の流れのみを許容するゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)と、
上記スイッチング素子(SW1')を駆動制御するためのゲート駆動回路(51)とを有していて、
上記ゲート駆動回路(51)は、ゲート端子(G1)とドレイン(D)との間のゲート−ドレイン間電圧Vgdが上記ゲート−ドレイン間寄生ダイオード(Dgd1)の順方向電圧Vfよりも小さくなるように、該ゲート−ドレイン間電圧Vgdを調整するゲート電圧調整部(54)を備えていることを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の双方向スイッチ回路において、
上記2つのスイッチング素子(SW1,SW2)をそれぞれ駆動制御するための2つのゲート駆動回路(33,34)を備え、
上記ゲート駆動回路(33,34)は、それぞれのスイッチング素子(SW1,SW2)に対し、ゲート端子(G1,G2)に同じ駆動信号を入力するように構成されていることを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一つに記載の双方向スイッチ回路において、
上記逆方向の電圧が印加されるスイッチング素子(SW1)に対してオフ制御信号を出力するように構成された制御回路(30)を備えていることを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載の双方向スイッチ回路において、
上記2つのスイッチング素子(SW1,SW2)は、2つのゲート電極を有する一つのデバイスに設けられていることを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項8】
請求項7に記載の双方向スイッチ回路において、
前記2つのゲート電極の距離は、互いに対応したゲート電極とソース電極との間の距離よりも大きいことを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか一つに記載の双方向スイッチ回路をスイッチング部として備えたマトリックスコンバータ(60)であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電力変換装置において、
上記マトリックスコンバータ(60)のスイッチング部を構成する2つのスイッチング素子(Sur1,Sur2)は、2つのゲート電極を有する一つのデバイスに設けられていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電力変換装置において、
前記2つのゲート電極の距離は、互いに対応したゲート電極とソース電極の間の距離よりも大きいことを特徴とする電力変換装置。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか一つに記載の双方向スイッチ回路をスイッチング部(31)として備えていることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−187533(P2010−187533A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7742(P2010−7742)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】