説明

反射防止フィルム及びディスプレイ用前面フィルター

【課題】 紫外線を吸収してその作用で硬化する紫外線硬化型樹脂を用いる場合であっても、耐光性の優れた反射防止性能を有する反射防止フィルムおよびこれを用いたディスプレイ用前面フィルターを提供する。
【解決手段】少なくとも金属酸化物と紫外線硬化型樹脂と紫外線吸収剤とを含み、金属酸化物の量が紫外線硬化型樹脂に対し40〜300重量パーセントであり、紫外線吸収剤の量が紫外線硬化型樹脂に対し20〜40重量パーセントである塗料を、塗布・乾燥・硬化させることによって作製された厚さ0.5〜2μmの層(A)を含む反射防止層が、透光性基材の一方の主面に設けられた反射防止フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐光性の優れた反射防止層を備えた反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイパネル(PDP)等に代表される高精細かつ大画面ディスプレイの開発が急速に進んでいる。ディスプレイの表示面には、その視認性を高めるために、画面への蛍光灯など外光の映り込みを防止するため反射防止機能を有する反射防止層を表面に配置する必要がある。
【0003】
反射防止層の形成方法としては、ディスプレイ表面に無機金属を蒸着又はスパッタリングする、いわゆるドライコーティング法、及び高屈折率材料、中屈折率材料、低屈折率材料等の必要に応じた屈折率の材料それぞれを溶液や分散液などの液状で基材に塗布し、乾燥させ、必要に応じて硬化させるウェットコーティング法などが知られている。近年のディスプレイの大型化に伴い、ロールを用いて連続的に反射防止フィルムを製造する、いわゆるRoll-to-Rollで安価にかつ大型化にも対応しやすいウェットコーティング法が主流になりつつある。
【0004】
また、ウェットコーティング法においては、その効率から紫外線硬化型樹脂を用いることが主流である。
【0005】
反射防止層としては、基材上に高屈折率層を設け、さらにその上に低屈折率層を設ける組み合わせが多い。さらに反射防止層をより高性能にするために、例えば、反射防止層を構成する複数の層の下層から順に第1層、第2層、第3層、第4層とした場合でそれぞれの層の屈折率をn1、n2、n3、n4とすると、n4<n1<n2<n3、とするなど層数を増やしたり、各層の屈折率の種類を多くする等工夫されている。通常、反射防止層を構成する複数の層の最上層は、最も屈折率の小さい低屈折率層とされるのが一般的であり、基材に近い層は、通常、他の層より膜厚を大きくしハードコート層とするものが一般的である。反射防止層は、有機樹脂だけでは得られる屈折率が限られてくるので、屈折率の調整のため、金属酸化物を含有させることが多い。また、帯電を防止するために導電性微粒子を混合させたりする。たとえば上述した第2層に所望の屈折率や帯電防止能を得るため金属酸化物を添加し、反射防止層をハードコート層・高屈折率帯電防止層・低屈折率層の3層構造とすることが一般的である。また、上述した基材に近い層に、所望の屈折率や帯電防止能を得るため金属酸化物を添加し、反射防止層を、高屈折率帯電防止ハードコート層・低屈折率層の2層構造とすることも一般的である。
【0006】
つまり、金属酸化物の含有量を調節することは反射防止性能を確保するための手段であった。
【特許文献1】特許3606464号
【特許文献2】特開2001-350001
【特許文献3】特許3718031号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ディスプレイは様々な場所に使用されるが、太陽光が当たる場所で使用されることもある。さらに近年の大型化に伴い、太陽光があたる可能性はさらに増えている。しかし、近年主流の紫外線硬化型樹脂を用いた反射防止フィルムは、太陽光があたると、その組成中に含まれる未反応の紫外線硬化型樹脂の反応がすすみ、反射防止性能が劣化する(反射スペクトルの大幅な変化など)ばかりか、場合によっては塗膜にクラックが入ったり、白くにごったり、剥離が発生することもある。また、屈折率調整や帯電防止性能を持たせるために入れられている金属酸化物の量が多いほど、この反射防止性能の劣化が著しい。金属酸化物を含ませた樹脂塗膜の劣化は、樹脂単独塗膜よりも劣化が著しい。このメカニズムは現在のところよくわかっていない。ただ、近年の要求されている反射防止性能を得るためには、特定の層に金属酸化物を添加しないでこれを達成することは難しい。本発明者らが検討したところ、現在のところ、金属酸化物を含ませた樹脂塗膜を持つ反射防止フィルムにおいて、耐光性試験後もその反射防止性能(反射スペクトル)の変化がないものは見当たっていない。
【0008】
本発明は、紫外線を吸収してその作用で硬化する紫外線硬化型樹脂を用いる場合であっても、耐光性の優れた反射防止性能を有する反射防止フィルムおよびこれを用いたディスプレイ用前面フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の反射防止フィルムは、次のものである。
【0010】
(1)少なくとも金属酸化物と紫外線硬化型樹脂と紫外線吸収剤とを含み、金属酸化物の量が紫外線硬化型樹脂に対し40〜300重量パーセントであり、
紫外線吸収剤の量が紫外線硬化型樹脂に対し20〜40重量パーセントである塗料を、塗布・乾燥・硬化させることによって作製された厚さ0.5〜2μmの層(A)を含む反射防止層が、透光性基材の一方の主面に設けられた反射防止フィルム。
【0011】
(2)前記(1)項に記載の反射防止フィルムにおいては、前記少なくとも金属酸化物と紫外線硬化型樹脂と紫外線吸収剤とを含む塗料が、更にヒンダードアミン系光安定化剤を紫外線硬化型樹脂に対し1〜5重量パーセント含む塗料であることが好ましい。
【0012】
(3)前記(1)または(2)項のいずれか1項に記載の反射防止フィルムにおいては、紫外線吸収剤がヒドロキシフェニルトリアジン系化合物であることが好ましい。
【0013】
(4)前記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の反射防止フィルムにおいては、波長340nmの光を0.77W/m2の強度でフィルム表面に照射する保存試験を500時間行ったとき、試験前後で視感度反射率上昇が0.3%以下、ヘイズ値の上昇が0.5以下であることが好ましい。
【0014】
(5)前記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の反射防止フィルムにおいては、前記層(A)の上に該層よりも屈折率の低い層が80nm〜130nmの厚みで設けられていることが好ましい。
【0015】
また、本発明のディスプレイ用前面フィルターは、次のものである。
【0016】
(6)基板上に、前記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載された反射防止フィルムが配置されていることを特徴とするディスプレイ用前面フィルター。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、紫外線硬化型樹脂を用いて生産効率が良く、耐光性の優れた反射防止性能を有する反射防止フィルムおよびこれを用いたディスプレイ用前面フィルターを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
塗膜の太陽光(紫外線)による劣化を防止するには紫外線吸収剤(UVA)、光安定化剤、酸化防止剤、過酸化物分解剤が有効である。特にUVAとヒンダードアミン系光安定化剤(HALS)の効果は高く、これらの併用がより好ましい。
【0019】
紫外線吸収剤としては、ヒドロキシフェニルトリアジン系、ベンゾトリアゾール系等がある。
【0020】
ヒドロキシフェニルトリアジン系UVAとしては、
2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-bis(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2'-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-bis(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2,4-Bis-(2-ヒドロキシ-4-ブチロキシフェニル)-6-(2,4-bis-ブチロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、
等が挙げられる。
【0021】
ベンゾトリアゾール系UVAとしては、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、
2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-yl)-4,6-bis(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、
オクチル-3-[3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-yl) フェニル]プロピオネート、
2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-yl)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル) フェノール、等が挙げられる。
【0022】
上記のうちで、特にヒドロキシフェニルトリアジン系UVAを用いることが好ましい。ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤はベンゾトリアゾール系化合物紫外線吸収剤に比べて吸収スペクトルが短波長側にシフトし、エネルギーの高い波長(300nm付近)の光を強く吸収するスペクトルをもつ。そのシフトにより、大きな硬化阻害を起こさずに、紫外線硬化型塗料を硬化させることができ好ましい。
【0023】
HALSとしては、2,4-bis[N-ブチル-N-(1-シクロヘキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-yl)アミノ]-6-(2-ヒドロキシエチルアミン)-1,3,5-トリアジン、
Bis(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-[[3,5-bis(1,1-ジメチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、等が挙げられる。
【0024】
上述のUVA、HALSは一例であり、これらに限定されるわけではない。
塗膜中のUVA、HALSは、上述したような各種が使用可能である。これらをそれぞれ単独で用いてもよいが、さらにUVAとHALSを組み合わせると効果が上がり、好ましい。
【0025】
塗膜層中のUVA、HALSの含有割合は、用いるUVA、HALSの種類、塗膜を構成する素材の種類、反射防止機能を有する光学フィルムの膜構成、反射防止機能を有する光学フィルムの用途などによって異なるので一概に規定し難いが、使用割合があまりに少なすぎると、所望の光劣化抑制効果が発揮されにくくなる傾向になり、あまりに多すぎると塗膜の強度が低下しやすくなる傾向があるので、紫外線硬化型樹脂に対しUVAの含有割合は20〜40重量パーセント、HALSの含有割合は1〜5重量パーセントの範囲が好ましい。
【0026】
紫外線硬化型樹脂としては、従来、この種の反射防止フィルムの反射防止層(ハードコート層などを含む)を形成するのに用いられる各種の紫外線硬化型樹脂を用いることができる。より具体的には反応性の官能基として、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、オキセタニル基を有するモノマー、プレポリマー、ポリマーを用いることができる。なお、上記において(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。これらは単独でも二種類以上を組み合わせても用いることができる。さらに、分子中に水素結合を形成するような結合基や官能基を多く有していると、下地との密着性が向上する。これらの紫外線硬化型樹脂は、用いる材料の種類、その他の材料の使用量との関係で、使用量は適宜調整すれば良い。本発明の前記層(A)に含まれる紫外線硬化型樹脂の割合は、一概に規定し難いが、強いて目安を示すとすると、形成する当該反射防止層の重量に対し、25〜70重量パーセントの範囲で用いることが好ましい。
【0027】
紫外線硬化型樹脂は、耐擦傷性を向上させる観点から、特に、重合可能な不飽和基を2つ以上有する多官能アクリレ−ト等を含んでいると好ましい。
【0028】
不飽和基を2つ以上有する多官能アクリル系化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサントリメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート等の、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とから生成されるエステル類、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン等のビニルベンゼンおよびその誘導体等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいが、2種以上を組み合せて用いてもよい。なかでも、耐擦傷性をより高める観点から、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびジペンタエリスリトールヘキサアクリレートから選ばれる少なくとも1種が好ましい。ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートについては、膜強度を高める観点からは好ましい。尚、上記において、「・・・(メタ)アクリ・・・」は「・・・アクリ・・・」及び/又は「・・・メタクリ・・・」を意味する。
【0029】
本発明に使用される金属酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化チタン(TiO2)、アンチモン-スズ酸化物(ATO)、インジウム-スズ酸化物(ITO)、リン-スズ酸化物(PTO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)、アンチモン酸亜鉛(ZnSb26)等が挙げられる。この金属酸化物は、微粒子状のものが好適に使用され、その一次粒子径は、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、20nm以下が特に好ましい。この範囲内であれば、紫外線硬化型樹脂中における分散性が向上するからである。
【0030】
本発明の前記層(A)に含まれる金属酸化物の割合は、用いる金属酸化物の種類や所望の屈折率などによって異なるので一概に規定し難いが、該層の紫外線硬化型樹脂に対し40〜300重量パーセントの範囲で適宜使用すればよい。金属酸化物の含率が40重量パーセント未満の場合には、該層の屈折率が金属酸化物を含有させた場合に比べて大きな差になりにくく、さらに、導電性金属酸化物を用いた場合には、意図した導電性が発現しない場合が多い。また、300重量パーセント以上の場合は、樹脂の量が少ないため、塗膜強度が足りなくなる。
【0031】
前記層(A)に含まれる紫外線硬化型樹脂を硬化させる際に、紫外線照射を行う場合には、該層の塗布液に光重合開始剤を添加する。光重合開始剤としては、アセトフェノン類、べンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物、2、3-ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物などが用いられる。これらは単独でも、二種以上を組み合わせても使用できる。光重合開始剤の使用量は、通常、用いる紫外線硬化型樹脂の重量に対し、1〜15重量%程度が好ましい。
【0032】
上記層(A)を形成する組成物のその他の成分として、分散剤、界面活性剤及びレベリング剤などの添加剤を添加してもよい。また、ウェットコーティング法で成膜後乾燥させる限りは、任意量の溶媒を添加することができる。
【0033】
基材の上に上記層(A)を形成する方法については特に制限はなく、例えば、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、リバースコート、グラビアコート等の塗工法、又はグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等の印刷法等を用いることができる。
【0034】
上記層(A)の膜厚は、0.5〜2μmであることが必要であり、0.5μm未満では、紫外線吸収剤含有していても塗膜にあたる紫外線外線の絶対量に対し紫外線吸収剤の量が少なく、十分に紫外線吸収しきることができず、塗膜の劣化を抑えることができない。また、膜厚が2μmより厚くなると、塗膜にあたる紫外線外線の絶対量に対し紫外線吸収剤の量が多く、光が膜上部で吸収されて下まで届かず、硬化不良を引き起こす可能性がある。その状態で耐光性試験を行うと、この硬化不良部分から劣化が発生する。また、耐擦傷性を発揮しハードコート層としての機能を発揮するためにも、上記範囲の厚さが必要となる。
【0035】
本発明で使用する透光性基材は、透光性を有する材料であれば、その形状や製造方法などは特に限定されない。例えば、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、トリアセチルセルロース系樹脂などの材料を、フィルム状又はシート状に加工したものを用いることができる。フィルム状又はシート状に加工する方法としては、押し出し成形、カレンダー成形、圧縮成形、射出成形、上記樹脂を溶剤に溶解させてキャスティングする方法などが挙げられる。基材の厚さは、通常10μm〜500μm程度である。なお、上記材料には、酸化防止剤、難燃剤、耐熱防止剤、紫外線吸収剤、易滑剤、帯電防止剤などの添加剤が添加されていてもよい。また、この基材フィルムにはその上層に設けられる層との密着性を向上させる目的で、プライマー層(易接着層)を設けてもよい。
【0036】
本発明の反射防止フィルムに設けられた反射防止層の最表面の層は低屈折率層である。
【0037】
低屈折率層を形成するための塗料は、次にあげるような紫外線硬化型樹脂、低屈折率微粒子、光開始剤、溶剤を組み合わせて調整してもよいし、これらが調合されてすでにインキ化されたものを用いてもよい。下記成分を用いて低屈折層塗料を調整するには、塗工液の一般的な調整方法に従って分散処理すればよい。
【0038】
上記低屈折率層を形成する材料としては、一般的に用いられている低屈折率層を形成する公知の材料を用いてよい。例えば、空隙を有するシリカやフッ化マグネシウム等の低屈折率無機微粒子とバインダー樹脂形成用材料を含む塗工液、あるいはフッ素系樹脂等を含有する塗工液用いることができる。
【0039】
上記低屈折率層を形成するバインダー樹脂形成用材料としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、オキセタニル基を有するモノマー、これらのプレポリマー、ポリマーの紫外線硬化型樹脂を用いることができる。
【0040】
上記低屈折率層に含まれる紫外線硬化型樹脂を硬化させる際に、紫外線照射を行う場合には、低屈折率層用の塗布液に光重合開始剤を添加する。光重合開始剤としては、先の該層に好ましく用いられるものの中から適宜選定することができる。これらは単独でも、二種以上を組み合わせても使用できる。光重合開始剤の使用量は、通常、用いる紫外線硬化型樹脂の重量に対し、1〜15重量パーセント程度が好ましい。
【0041】
低屈折率層を形成する方法については特に制限はなく、適宜の層の上に、例えば、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、リバースコート、グラビアコート等の塗工法、又はグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等の印刷法等を用いて形成することができる。
【0042】
反射防止層を更に多層で構成する場合には、前述したような各層の目的とする屈折率に応じて、屈折率に影響を与える成分を適宜調整して用いればよく、その他は、上記で説明したと同様な紫外線硬化型樹脂と必要な添加剤を用い、同様な方法で層を形成すればよい。
【0043】
いずれにせよ、反射防止層のうち基材に近い層を前記層(A)で構成し、通常、この層はハードコート層としての機能も発揮できる層となる。また、反射防止層のうち最上層は前述したように低屈折率層が形成される。
【0044】
なお、反射防止層のうち前記層(A)以外の層にも本発明の機能を阻害しない範囲で、紫外線吸収剤やヒンダードアミン系光安定化剤を添加しても良いが、通常、これらの層は前記層(A)よりはるかに薄く設計されるのが通常であるので、これらを添加する効果が十分に発揮されないことが多く、経済的な面から、これらを特に添加する必要はない。すなわち反射防止層のうち前記層(A)以外の層の膜厚は、その反射防止層の屈折率nとその層の膜厚dの積である光学膜厚nd=λ/4(λ:人間の可視光線の範囲のいずれかの波長。人間の目の視感度が高い光の波長550nmに設定されることが多い)となるように設定されると、反射率がより低くなることから、具体的な膜厚dはλ/4nの近傍となるように設定されると好ましい。この場合、例えば上述した低屈折率層の屈折率は、1.30〜1.50に設定さることが好ましいので、低屈折率層の屈折率やどの可視光の波長を選定するかによって異なるので光学膜厚は一概に規定できないが、通常、光学膜厚としては120nm〜150nm程度の範囲になることが多い。したがって、これらの層の具体的な膜厚は反射防止層のうち前記層(A)よりはるかに薄く設計されるのが通常であるので、紫外線吸収剤やヒンダードアミン系光安定化剤を添加しても耐光性の改良の観点からは余り効率的ではない。
【0045】
また、本発明の反射防止フィルムは、本発明の反射防止フィルムとしての機能を阻害しない限り、更に他の層を設けても良い。例えば、透光性基材表面にプライマー層(易接着層)を設けたり、反射防止層を積層した透光性基材面の反対面側に近赤外線吸収層をさらに配置しても良い。
【0046】
以上のような本発明の反射防止フィルムは、例えば、大型テレビをはじめ種々の電子機器の表示パネルとして用いられているブラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶ディスプレイなどの前面に設けて使用されるが、その場合、反射防止フィルムの反射防止層と反対側の主面がディスプレイ側になるようにして用いられる。
【0047】
また、本発明の反射防止フィルムが配置されたディスプレイ用前面フィルターの構成は特に制限はないが、本発明の反射防止フィルムは、その反射防止層と反対側の主面が透明基材に貼り合わせられたものである。前記フィルターに用いる透明基材としては特に限定するものではないが、例えば、ガラス基材、プラスチック基材、透明フィルムなどが用いられる。さらに、基材そのものが近赤外線遮蔽や電磁波遮蔽等の機能性を具備したフィルムであっても良い。なお、ディスプレイ用前面フィルターに用いる透明基材を、前述した反射防止フィルムの透明基材と、区別するため、以下、これを「フィルター用基材」と略称する。
【0048】
フィルター用基材への本発明の反射防止フィルムの接着は、適宜、接着剤あるいは粘着剤などで基板上に貼り合わせればよい。
【0049】
なお、必要に応じ、前記フィルター用基材と反射防止フィルムの間には色素含有層、電磁波遮蔽体が配置されてもよい。また必要に応じ、前記フィルター用基材の反射防止フィルムを貼り合わせる側と反対側の面には色素含有層、電磁波遮蔽体、粘着材層等が配置されてもよい。
【0050】
本発明のディスプレイ用前面フィルターは、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイパネル(PDP)等のディスプレイの表示面前面側に適用され、用いられる反射防止フィルムの構成層の種類に応じ、反射防止機能を発揮する。赤外線吸収層をさらに有する反射防止フィルムを用いた場合には、反射防止機能と近赤外線を遮蔽するフィルターとしての機能を発揮できるディスプレイ用前面フィルターを提供できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例における「部」は重量部を意味する。
【0052】
(実施例1)
評価用の反射防止フィルムを下記のとおり作製した。
【0053】
ポリエステル基材として、ポリエステル系樹脂からなるシリカ含有プライマー層が形成された、厚さ100μmの紫外線カット性ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを準備した。そして
酸化ジルコニウム微粒子(第一希元素製、粒子径10nm) 10部
“Disperbyk-180”(ビックケミー社製分散剤) 1.0部
アセチルアセトン 5.0部
プロビレングリコールモノメチルエーテル 35部
と、直径 0.3mm のジルコニアビーズを容器に入れ、ペイントシェーカーで3時間分散した後、ジルコニアビーズを取り除いて、ZrO2分散液Aを作製した。
【0054】
この分散液Aに
ペンタエリスリトールトリアクリレート 3部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 2.8部
“IRGACURE907”(チバスペシャルティケミカルズ製光重合開始剤) 0.29部
“TINUVIN400”(チバスペシャルティケミカルズ製ヒドロキシフェニルトリアジン系UVA) 2.11部
を添加して第一層形成用塗料を調製した。
【0055】
この第一層用塗料を透光性PETフィルムの片側に、マイクログラビアコータ(康井精機社製)を用いて塗布し、その後乾燥させた。続いて、塗膜に紫外線を500mJ/cm2の線量で照射して塗膜を硬化させ、厚さ1.5μmの第一層を形成した。
【0056】
その後、中空シリカ微粒子分散紫外線硬化型低屈折率塗料(触媒化成(株)製"ELCOM P−5013")を上記の第一層の上に、マイクログラビアコータを用いて塗布して乾燥させた。その後、塗膜に紫外線を800mJ/cm2の線量で照射して塗膜を硬化させ、厚さ107nmの低屈折率層を形成した。
【0057】
(実施例2)
実施例1で作成した分散液Aに
ペンタエリスリトールトリアクリレート 3部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 2.8部
“IRGACURE907”(チバスペシャルティケミカルズ製光重合開始剤) 0.29部
“TINUVIN400”(チバスペシャルティケミカルズ製ヒドロキシフェニルトリアジン系UVA) 1.74部
“TINUVIN123”(チバスペシャルティケミカルズ製HALS) 0.116部
を添加して第一層形成用塗料を調製した以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを作製した。
【0058】
(実施例3)
実施例1で作成した分散液Aに
ペンタエリスリトールトリアクリレート 4部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 4部
“IRGACURE907”(チバスペシャルティケミカルズ製光重合開始剤) 0.4部
“TINUVIN400”(チバスペシャルティケミカルズ製ヒドロキシフェニルトリアジン系UVA) 2.4部
プロビレングリコールモノメチルエーテル 5部
を添加して第一層形成用塗料を調製した以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを作製した。
【0059】
(比較例1)
実施例1で作成した分散液Aに
ペンタエリスリトールトリアクリレート 3部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 2.8部
“IRGACURE907”(チバスペシャルティケミカルズ製光重合開始剤) 0.29部
を添加して第一層形成用塗料を調製した以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを作製した。
【0060】
(比較例2)
実施例1で作成した分散液Aに
ペンタエリスリトールトリアクリレート 3部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 2.8部
“IRGACURE907”(チバスペシャルティケミカルズ製光重合開始剤) 0.29部
“TINUVIN400”(チバスペシャルティケミカルズ製ヒドロキシフェニルトリアジン系UVA) 1部
を添加して第一層形成用塗料を調製した以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを作製した。
【0061】
(比較例3)
実施例1で作成した分散液Aに
ペンタエリスリトールトリアクリレート 3部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 2.8部
“IRGACURE907”(チバスペシャルティケミカルズ製光重合開始剤) 0.29部
“TINUVIN400”(チバスペシャルティケミカルズ製ヒドロキシフェニルトリアジン系UVA) 2.9部
を添加して第一層形成用塗料を調製した以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを作製した。
上記実施例および比較例で作製した反射防止フィルムを耐光性試験機に500時間保存し、その前後での視感度反射率の上昇およびヘイズ上昇、付着性を評価した。その結果を表1に示す。

<視感度反射率>
反射防止フィルムの反射防止層と反対側に黒色テープを貼り、大塚電子(株)製 瞬間マルチ測光システム “MCPD-3000”を用いて測定した。
<ヘイズ>
日本電色製ヘイズメーター “NDH-2000”を用いて測定した。
<耐光性試験機>
Q−Panel社製耐候試験機 使用ランプ“UVA−340”を用いて、下記条件にて保存試験を行った。
照射条件 設定照度0.77W/m2 パネル温度63℃
<付着性>
碁盤目試験により調べ、残存するマス目の数で表した。(JIS K5600−5−6:1999に準拠)
【0062】
【表1】

【0063】
表1において金属含率は該層の紫外線硬化型樹脂に対する重量パーセントをあらわす。
【0064】
比較例1は保存試験500時間後には塗膜が剥離してしまった。また、比較例3は硬化が不十分で反射防止フィルムを形成できなかった。
【0065】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、上記以外の形態としても実施が可能である。本出願に開示された実施形態は一例であって、これらに限定されない。本発明の範囲は、上述の明細書の記載よりも、添付されている請求の範囲の記載を優先して解釈され、請求の範囲と均等の範囲での全ての変更は、請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の反射防止フィルムおよびこれを用いたディスプレイ用前面フィルターは、耐光性の優れた反射防止性能を有する反射防止フィルムおよびこれを用いたディスプレイ用前面フィルターを提供できるので、大型テレビをはじめ種々の電子機器の表示パネルとして用いられているブラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶ディスプレイなどの前面に設けて有効に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属酸化物と紫外線硬化型樹脂と紫外線吸収剤とを含み、金属酸化物の量が紫外線硬化型樹脂に対し40〜300重量パーセントであり、
紫外線吸収剤の量が紫外線硬化型樹脂に対し20〜40重量パーセントである塗料を、塗布・乾燥・硬化させることによって作製された厚さ0.5〜2μmの層(A)を含む反射防止層が、透光性基材の一方の主面に設けられた反射防止フィルム。
【請求項2】
前記少なくとも金属酸化物と紫外線硬化型樹脂と紫外線吸収剤とを含む塗料が、更にヒンダードアミン系光安定化剤を紫外線硬化型樹脂に対し1〜5重量パーセント含む塗料である請求項1記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
紫外線吸収剤がヒドロキシフェニルトリアジン系化合物である請求項1または2のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
波長340nmの光を0.77W/m2の強度でフィルム表面に照射する保存試験を500時間行ったとき、試験前後で視感度反射率上昇が0.3%以下、ヘイズ値の上昇が0.5以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記層(A)の上に該層よりも屈折率の低い層が80nm〜130nmの厚みで設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
基板上に、請求項1〜5のいずれか1項に記載された反射防止フィルムが配置されていることを特徴とするディスプレイ用前面フィルター。

【公開番号】特開2009−294329(P2009−294329A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146280(P2008−146280)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】