説明

反応液、反応液とインク組成物とのセット及び画像記録方法

【課題】インクと、他の溶液の2液を用いて画像を形成する技術において、より優れた画像、特に耐擦過性に優れた画像を得ること。
【解決手段】インク組成物とともに用い、該インク組成物中の少なくとも1成分と反応する物質を含む反応液において、少なくとも、複数の水溶性樹脂、1種以上の低揮発性溶剤、及び水を含有し、且つ、上記複数の水溶性樹脂の上記低揮発性溶剤に対する溶解度が、それぞれに異なることを特徴とする反応液、これを用いたインクとのセット、画像記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応液、反応液とインク組成物(以下、インクという)とのセット、及び該セットを用いた画像記録方法に関し、特に、記録媒体に対して反応液とインク組成物とを併用して印字を行う場合に使用する反応液、反応液とインク組成物とのセット、及び該セットを用いた画像記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法であるが、該方法によれば、安価な装置で、高解像度且つ高品位な画像を高速で印刷可能であるという特徴を有する。しかしながら、インクジェット記録方法は、使用するインクが通常は水性の液体であるために、普通紙等の記録媒体上に着弾した際に、インク液滴が記録媒体中に浸透して輪郭部が不明瞭となったり、又、隣接する異なる色間の境界にじみ(所謂カラーブリード)が発生するといった現象があった。
【0003】
この問題を解決することを目的として、多価金属塩を含有する溶液を記録媒体に適用した後、少なくとも一つのカルボキシル基を有する染料を含むインクを適用する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、多価金属イオンを含有する反応液と染料とが記録媒体で接触することにより、不溶性物が形成される。この結果、輪郭部の不明瞭性が改善され、しかもカラーブリードを生じることがなく、更に、耐裏抜け性に優れた高品位の画像を得ることが可能となる。
【0004】
又、塩との作用により増粘又は凝集するブラックインクと、その塩を含有するカラーインクとを組合せて使用することによって、画像濃度が高く、且つカラーブリードがない高品位のカラー画像が得られる技術手段についての開示もある(特許文献2参照)。即ち、塩を含有してなる第一の液と、インクとの2液を用いて印字することで、良好な画像を得ることが可能となる。更に、他にも2液を用いて画像を形成することについて各種の提案がなされているが(特許文献3〜7等参照)、用途の広がりとともに画質に対する要求は厳しさを増しており、より優れた高品位の画像を得るための種々の試みが続けられている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−202328号公報
【特許文献2】特開平6−106735号公報
【特許文献3】特開平7−156538号公報
【特許文献4】特開2000−263921公報
【特許文献5】特開2000−281947公報
【特許文献6】特開2000−281948公報
【特許文献7】特開2001−048934公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、2液を用いて画像を形成する技術において、より優れた画像、特に耐擦過性に優れた画像を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、インク組成物とともに用い、該インク組成物中の少なくとも1成分と反応する物質を含む反応液において、少なくとも、複数の水溶性樹脂、1種以上の低揮発性溶剤、及び水を含有し、且つ、上記複数の水溶性樹脂の上記低揮発性溶剤に対する溶解度が、それぞれに異なることを特徴とする反応液である。その好ましい形態としては、上記複数の水溶性樹脂が、少なくとも第一の水溶性樹脂と第二の水溶性樹脂とを含み、第一の水溶性樹脂は、上記低揮発性溶剤に対する溶解度が10質量%未満であり、且つ、第二の水溶性樹脂は、上記低揮発性溶剤に対する溶解度が10質量%以上である反応液が挙げられる。又、該第一の水溶性樹脂及び第二の水溶性樹脂が、質量比で、1:10〜10:1の割合で含有されている反応液であることが好ましい。更には質量比で2:1〜5:1の割合で含有されている反応液であることが好ましい。
【0008】
本発明の別の実施形態は、色材を溶解状態若しくは分散状態で含んでいるインク組成物と、該インク組成物中の少なくとも1成分と反応する物質を含む反応液とを具備している、インク組成物と反応液とのセットであって、該反応液が、請求項1〜3の何れか1項に記載の反応液であることを特徴とするセットである。
【0009】
本発明の別の実施形態は、記録媒体への画像記録方法であって、(i)請求項4に記載のセットを構成しているインク組成物をインクジェット法で上記記録媒体に付与する工程と;(ii)請求項4に記載のセットを構成している反応液を上記記録媒体に付与する工程とを有し、且つ、上記工程(i)及び(ii)によってなされるインク組成物及び反応液の付与が、該インク組成物と該反応液とが該記録媒体上で接するように行われることを特徴とする画像記録方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インクとともに画像形成に用いる反応液の構成を、例えば、第一の水溶性樹脂及び第二の水溶性樹脂等、複数の水溶性樹脂と低揮発性溶剤とを含有し、且つ、これらの水溶性樹脂に、低揮発性の溶剤に対する溶解度が互いに異なるものを用いることで、得られる画像は、耐擦過性において、従来例のものに比べて向上したものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明者らは、2液を用いて、より優れた画像を形成することについて鋭意検討した結果、インクとともに画像形成に用いる反応液として、複数の水溶性樹脂を含有し、且つ、反応液中の低揮発性溶剤に対するこれらの水溶性樹脂の溶解度がそれぞれに異なるものを使用することで、得られる画像の耐擦過性において、従来の技術で得られていたものに比べてより向上したものとなることを知見して発明に至った。
【0012】
先ず、本発明にかかる反応液の構成について説明する。
<反応液>
印字物の耐擦過性を向上する手段としては、先に列挙した公報例にもあるように、これまでに、インクや反応液中に樹脂を含有させる方法が知られている。これに対して、本発明にかかる反応液の特徴は、複数の水溶性樹脂を含有し、更に、反応液中に含有する低揮発性溶剤に対するこれら複数の水溶性樹脂の溶解度が、それぞれに異なるもので構成した点にある。例えば、反応液中に含有する低揮発性溶剤に対する溶解度が10質量%未満である樹脂を第一の水溶性樹脂とし、該低揮発性溶剤に対する溶解度が10質量%以上である樹脂を第二の水溶性樹脂として反応液に含有させることで、一種類の水溶性樹脂を使った従来の反応液に比べて、複数の水溶性樹脂を含有させた反応液は、得られる画像の品位の向上に加えて、画像の耐擦過性をも向上させることができる。
【0013】
一種類の水溶性樹脂を含有させた反応液に比べて、低揮発性溶剤に対する溶解度が異なる複数の水溶性樹脂を含有させてなる本発明にかかる反応液を使用することで、画像に対する耐擦過性能が向上するメカニズムの詳細は明らかではないが、本発明者らは以下のように考えている。先ず、記録媒体に対して、本発明にかかる反応液を塗布すると、反応液中の水や揮発性の溶剤は速やかに蒸発を始め、反応液の主な成分は、水溶性樹脂と低揮発性溶剤に変化する。そのため、低揮発性溶剤に対して溶解度の低い方の樹脂(以下、その代表例として第一の水溶性樹脂と呼ぶ)が、まず先に皮膜化する。即ち、第一の水溶性樹脂は、記録媒体上のより表面部分で皮膜化する。
【0014】
それに対して、低揮発性溶剤に対して溶解度が高い方の樹脂(以下、その代表例として第二の水溶性樹脂と呼ぶ)は、上記第一の水溶性樹脂に比べて、低揮発性溶剤とともに記録媒体に浸透する度合いが高いため、第一の水溶性樹脂よりもより記録媒体側で皮膜化する度合いが高くなる。図1(c)は、上記における記録媒体の表面近傍の拡大した模式断面図であるが、上記の結果、本発明にかかる反応液を記録媒体に付与した場合には、図1(c)に示されているように、第一の水溶性樹脂よりも記録媒体に近いところで皮膜化する第二の水溶性樹脂が、普通紙等の繊維と繊維の隙間にも浸透することになると考えられる。
【0015】
本発明にかかる反応液を画像形成に用いた場合には、上記したような挙動をすると考えられる反応液中の第一及び第二の水溶性樹脂による相乗効果で、高品位な画像が得られると同時に、インク中の色材成分が、記録媒体に対して、より強固に結着できるようになる結果、画像の耐擦過性が向上したものと考えている。特に普通紙のように、記録媒体表面の凹凸が比較的大きい記録媒体において、形成した画像の耐擦過性を向上させるためには、反応液中の樹脂が記録媒体表面の凸部(最表面層)で皮膜化するだけでなく、記録媒体表面の凹部(最表面層からやや記録媒体内部に入った部位)にも入り込んだ状態で皮膜化して、画像を形成した場合に、インク中の色材と反応液中の樹脂だけでなく、該樹脂と記録媒体とを強く結着するように構成することが重要であると考えている。
【0016】
(水溶性樹脂)
本発明にかかる反応液を構成する、第一の水溶性樹脂及び第二の水溶性樹脂等の水溶性樹脂としては、反応液やインク中に含有させる反応成分のイオン性等にもよるが、基本的には、反応に関与しないノニオン性の水溶性樹脂を用いることが、画像の耐擦過性向上の点で、特に好ましい。具体例としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、反応液の基本性能が維持できる範囲で、これらのノニオン性高分子に、アニオンユニット若しくはカチオンユニットを加えた樹脂を用いても構わない。この中でも特にポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドンが安価で且つ取り扱いが容易であるため好ましい。本発明にかかる水溶性樹脂の好ましい分子量としては重量平均分子量で20万以下、更には5,000以上10万以下が好ましい。
【0017】
上記に列挙したような水溶性樹脂は、反応液中に含有させる低揮発性溶剤に対するそれぞれの溶解度を考慮し、複数のものを適宜選択して、例えば、先に説明した、第一の水溶性樹脂と、第二の水溶性樹脂との組み合わせのように構成すればよい。又、この場合の反応液中における第一の水溶性樹脂と第二の水溶性樹脂は、その効果の点で、質量比で、1:10〜10:1の割合となるように反応液中に含有させることが好ましい。更に好ましくは、5:1〜2:1の範囲となるように、それぞれの樹脂を含有させると、本発明の効果を最大限に発揮させることができる。又、本発明に使用される水溶性樹脂の総量としては、反応液の全質量の1質量%以上、10質量%以下とすることが好ましい。更には、3質量%以上とすることが好ましい。
【0018】
(反応する物質)
本発明にかかる反応液は、後述するインク中の少なくとも1成分と反応する物質を含む。この反応する物質が、先に説明した水溶性樹脂であってもよいが、インク側の反応成分の極性が、後述するようなイオン性(例えば、アニオン性)のものである場合には、反応液中に多価金属イオンを含有させるのが好ましい。
【0019】
本発明における上記反応液に用いることができる多価金属塩とは、2価以上の多価金属イオンと該多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶なものである。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+及びBa2+等の2価金属イオン、Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+等の3価金属イオン等が挙げられる。陰イオンとしては、SO42-、Cl-、CO32-、NO3-、I-、Br-、ClO3-、CH3COO-、及びHCOO-等が挙げられる。勿論、多価金属イオンと陰イオンは上記化合物に限定されるものではない。
【0020】
反応液中に含有させる上記のような多価金属塩としての量は、本発明にかかる効果を考慮すると、0.01〜30質量%であることが好ましい。又、本発明にかかる反応液は、必ずしも可視域に吸収を示さないものである必要はない。可視域に吸収を示すとしても実質上画像に影響を与えない範囲であれば、可視域に吸収を示すものであっても構わない。
【0021】
(溶剤)
本発明の反応液は、更に、水と、後述するような1種以上の低揮発性溶剤を含有することを要するが、反応液の乾燥防止効果等の機能性付与の目的で、下記に挙げるような水溶性溶剤を含有させることができる。水溶性溶剤の好ましい具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、単独、或いは混合物としても使用することができる。又、水としてはイオン交換水(脱イオン水)を使用することが望ましい。
【0022】
次に、本発明にかかる反応液に含有させる1種以上の低揮発性溶剤について説明する。本発明でいう低揮発性溶剤とは、20℃において蒸気圧が10Pa以下のものを指す。具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(平均分子量が200〜600のものが好ましい)、グリセリン、ジグリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール等が挙げられる。この中でも特にポリエチレングリコール(平均分子量が200〜600)、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリンが好ましい。
【0023】
反応液中における上記したような低揮発性溶剤の含有量は、特に限定されないが、反応液の全質量に対して、10〜60質量%の範囲で用いることが好ましい。又、低揮発性溶剤の好ましい量は、反応液中に含有させる、先に説明した第一の水溶性樹脂及び第二の水溶性樹脂の、種類や量によって適宜に調整すればよい。更に、上記したような低揮発性溶剤は、反応液中に2種類以上併用しても無論問題ないが、インクの定着性の観点から、その総量は、50質量%以下、更には10質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0024】
本発明にかかる反応液に含有される水の含有量は、反応液全質量に対して、50〜95質量%の範囲が好ましい。更に、本発明にかかる反応液は、上記の成分の他に、所望の物性値を持つ反応液とするために、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加することができる。
【0025】
<インク>
上記した反応液は、色材を溶解状態若しくは分散状態で含んでなるインクと組み合わせてセットとして画像形成に用いられるが、特に、本発明にかかる反応液と反応するように、イオン性基を有する成分によって色材が水溶性溶剤に分散又は溶解させられてなるインクとのセットで用いることで、高い画像品位や、画像の高い耐擦過性等の、好ましい効果を得られる。本発明において好適なインクに用いることのできる色材としては、顔料(自己分散型顔料、マイクロカプセル化顔料、更には、着色樹脂等も本明細書中では顔料の範疇とする)が挙げられる。以下、これらの色材について詳述する。
【0026】
(顔料)
本発明で好適に使用できる顔料としては、例えば、下記に述べるような、カーボンブラックや有機顔料等が挙げられる。
[カーボンブラック]
カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料で、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上、コロンビア社製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、ヴァルカン(Vulcan)XC−72R(以上、キャボット社製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(Special Black)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上、デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、及びMA100(以上、三菱化学社製)等を使用することができるが、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックを使用することが可能である。又、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子やチタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0027】
[有機顔料]
本発明で使用できる有機顔料としては、具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、その他に、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド及びジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
【0028】
上記したような有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、151、153、154、166、168、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:3、15:1、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25及び26等が挙げられる。勿論、上記以外でも、従来公知の有機顔料が使用可能である。
【0029】
(分散剤)
上記したカーボンブラックや有機顔料を用いる場合には、分散剤を併用することが好ましい。本発明では、アニオン性基の作用によって、上記に挙げたような顔料を水溶性溶剤に安定に分散させることのできる分散剤が好適に用いられる。本発明で使用することのできる分散剤の具体例には、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、及びスチレン−無水マレイン酸−マレイン酸ハーフエステル共重合体、或いはこれらの塩等が含まれる。又、これらの分散剤は、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましく、更に好ましくは3,000〜15,000の範囲である。
【0030】
(自己分散型顔料)
本発明では、インクの色材として、顔料表面に親水性基(例えば、アニオン性基)を結合させることによって、分散剤なしで水溶性溶剤中に分散させることのできる顔料、所謂、自己分散型顔料を用いることもできる。このような顔料の一例として、例えば、自己分散型カーボンブラックが挙げられる。自己分散型カーボンブラックとしては、例えば、下記に説明するような、アニオン性基がカーボンブラック表面に結合したものを挙げることができる。
【0031】
[アニオン性カーボンブラック]
本発明で使用できるアニオン性カーボンブラックとしては、カーボンブラックの表面に、例えば、−COO(M2)、−SO3(M2)、−PO3H(M2)及び−PO3(M2)2から選ばれる少なくとも1つのアニオン性基を結合させたものが挙げられる。上記M2は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす。
【0032】
これらの中でも特に、−COO(M2)や−SO3(M2)をカーボンブラック表面に結合してアニオン性に帯電したカーボンブラックは、インク中への分散性が良好なため、本発明に特に好適に用い得る。ところで、上記中M2で表したもののうち、アルカリ金属の具体例としては、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられる。又、有機アンモニウムの具体例としては、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム及びトリメタノールアンモニウム等が挙げられる。
【0033】
前記アニオン性基のM2をアンモニウム或いは有機アンモニウムとした自己分散型カーボンブラックを含むインクは、本発明にかかる反応液とともにセットとして用いた場合に、得られる記録画像の耐水性をより向上させることができ、この点で、特に好適に用いることができる。これは、当該インクが記録媒体上に付与されると、アンモニウムが分解し、アンモニアが蒸発する影響によるものと考えられる。ここでM2をアンモニウムとした自己分散型カーボンブラックは、例えば、M2がアルカリ金属である自己分散型カーボンブラックをイオン交換法を用いてM2をアンモニウムに置換する方法や、M2を酸を加えてH型とした後に水酸化アンモニウムを添加してアンモニウムにする方法等により合成される。
【0034】
アニオン性に帯電している自己分散型カーボンブラックの製造方法としては、例えば、カーボンブラックを次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法が挙げられ、この方法によってカーボンブラック表面に−COONa基を化学結合させることができる。
【0035】
又、上記したような種々のアニオン性基は、カーボンブラックの表面に直接結合させたものであってもよいし、或いは他の原子団をカーボンブラック表面と該アニオン性基との間に介在させ、該アニオン性基をカーボンブラック表面に間接的に結合させたものであってもよい。他の原子団の具体例としては、炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基、置換若しくは未置換のナフチレン基が挙げられる。ここで、フェニレン基及びナフチレン基の置換基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。又、他の原子団とアニオン性基の組合せの具体例としては、−C24COO(M2)、−Ph−SO3(M2)及び−Ph−COO(M2)等(但し、Phはフェニル基を表す)が挙げられる。
【0036】
又、本発明において上記した自己分散型カーボンブラックの中から2種若しくはそれ以上を適宜選択してインクの色材に用いてもよい。又、インク中の自己分散型カーボンブラックの添加量としてはインク全質量に対して、0.1〜15質量%、特には1〜10質量%の範囲とすることが好ましい。この範囲とすることで自己分散型カーボンブラックはインク中で十分な分散状態を維持することができる。更にインクの色調の調整等を目的として、自己分散型カーボンブラックに加えて染料を色材として添加してもよい。
【0037】
(着色微粒子/マイクロカプセル化顔料)
本発明で使用するインクの色材としては、上記したものの他に、ポリマー等でマイクロカプセル化した顔料や、樹脂粒子の周囲を色材で被覆した着色微粒子等も用いることができる。マイクロカプセルに関しては、本来的に水溶性溶剤に対する分散性を有するが、分散安定性を高めるために分散剤を更にインク中に共存させてもよい。又、着色微粒子を色材として用いる場合には、前記したようなアニオン性の分散剤等を用いることが好ましい。
【0038】
(溶剤)
本発明で使用するインクは、上記したような色材を、水性媒体に分散させてなるものであることが好ましい。水性媒体としては、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を用いることができる。水溶性有機溶剤(水溶性溶剤)としては、特に限定されるものでなく、反応液に乾燥防止効果等の機能を付与する目的で使用する水溶性溶剤として、先に列挙したものをいずれも用いることができる。又、インクを構成する水溶性溶剤は、インクジェット記録方式(例えば、バブルジェット(登録商標)法等)等の、使用する画像形成方法によって、その種類や量を適宜に選択すればよい。例えば、インクジェット記録に使用する場合には、優れたインクジェット吐出特性を有するものとなるように、インクが、所望の粘度、表面張力を有するものとなるように調整することが好ましい。
【0039】
本発明で使用するインクに含有させる水溶性溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。又、水としてはイオン交換水(脱イオン水)を使用することが望ましい。又、本発明に使用されるインク中に含有される水溶性溶剤の含有量は、特に限定されないが、インクの全質量に対して、3〜50質量%の範囲であることが好ましい。又、インクに含有させる水の含有量は、インクの全質量に対して、50〜95質量%の範囲であることが好ましい。更に、上記の成分の他に、必要に応じて保湿剤を添加することは勿論、所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等の添加剤を添加しても構わない。
【0040】
<セット>
本発明にかかる反応液は、上記したような構成のインクと組み合わせてセットとして画像形成に用いられるが、該セットを構成するインクの色調は、特に限定されず、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー及びブラックから選ばれる少なくとも1つの色調を示すインクとすればよい。具体的には、所望の色調のインクとなるように、前記した色材の中から適宜に選択することでインクを調製すればよい。ここで、各インク中の色材の含有量は、例えば、インクジェット記録に用いる場合には、該インクが優れたインクジェット吐出特性を備え、又、所望の色調や濃度を有するように適宜に選択すればよいが、目安としては、インク全質量に対して1〜50質量%の範囲が好ましい。又、インクに含有される水の量は、インク全質量に対して50〜95質量%の範囲とすることが好ましい。
【0041】
又、本発明にかかる反応液と組み合わせるインクは、1種類に限定されるものでなく、異なる色調のインクを2つ以上組み合わせて多色画像の形成に適したインクセットとすることがより好ましい。この場合は、2つ以上のインクのうち、少なくとも1つのインクが反応液と反応するものであればよい。
【0042】
例えば、セットを構成するインクの1つが反応液と反応する、水溶性溶剤中に、色材がアニオン性基等のイオン性基の作用によって分散させられているインクであれば、他のインクは、該反応液と反応することのない染料を色材として含むインクとしてもよく、勿論、全てのインクを、反応液と反応するインクとしてもよい。このような組み合わせからなる本発明にかかるセットによれば、例えば、多色画像をインクジェット記録装置で形成する場合に問題とされる異なる色調のインクが、記録媒体上で隣接して付与されたときのブリーディングを抑えることができる。
【0043】
インクジェット多色画像において問題とされるブリーディングは、黒色インクと他のカラーインク(例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、レッドインク、グリーンインク及びブルーインクから選ばれる少なくとも1つのインク)との間が特に顕著になり易いため、本発明においては、セットを構成する黒色インクを、反応液と相互に反応するように、水溶性溶剤にイオン性基の作用によって色材を分散させた構成とするインクとしたセットとすることが好ましい。この場合に、他のカラーインクについては、染料を水溶性溶剤に溶解したインクとしてもよく、勿論、黒色インクと同様に色材をイオン性基の作用によって水溶性溶剤に分散させた、反応液と反応するインクとしてもよい。
【0044】
<画像記録方法>
本発明にかかる反応液は、上記したような反応液と相互に反応するインクとを組み合わせてセットとして、(i)当該インクを記録媒体に付与する工程;及び(ii)反応液を該記録媒体上の、少なくとも該インクと接するように付与する工程、を有する画像記録方法に用いられる。この結果、画像の耐擦過性を向上させることが可能となる。
【0045】
又、前記したような構成の本発明にかかるセットを画像記録に用いた場合には、高画像濃度及び高発色で印字品位を良好にできる。この理由は明らかではないが、下記のようであると考えられる。例えば、本発明にかかる反応液とインクとをインクジェット記録方式によって紙面(記録媒体)上に飛翔させて、両者を記録媒体に付与させた場合、インク中では安定して存在していた顔料等の色材が、紙面に付着して反応液と接触後に、反応液中の物質と急速に反応し、且つ、反応液中に含有する低揮発性溶剤に対する溶解度が低い水溶性樹脂によって、紙面上の反応液の着弾位置の表面部分に、顔料(色材)が多く残存することになるためと考えられる。
【0046】
インクと反応液とのセットを用いてインクジェット記録方式等で画像を形成する場合には、下記に挙げるような様々な記録方法が考えられる。
(a)反応液を印字した後にインクを印字する場合
(b)インクを印字した後に反応液を印字する場合
(c)インクを印字した後に反応液を印字させ、更にインクを印字させる場合
(d)反応液を印字した後にインクを印字させ、更に反応液を印字させる場合
【0047】
本発明において、上記に列挙したインクと反応液とによる記録方法は、適宜に選択すればよい。本発明の目的に鑑みれば、上記した中では、反応液をインクに先だって記録媒体に記録する工程を少なくとも含む上記(a)又は(d)の記録方法を用いることが好ましい。
【0048】
これまでの発明者らの検討によれば、上記した記録方法によって優れた効果が得られる理由は、以下の通りであると考えられる。図1を参照しながら説明する。前記したような(a)又は(d)の記録方法においては、図1(a)に示したように、先ず、反応液91が記録媒体25に付与され、次いで、図1(b)に示したように、反応液91が付与された部位にインク92が付与される。この際、インク中の色材は、記録媒体25に付与された直後から記録媒体表面に存在する反応液中に含有されているインク中の成分と反応する物質と反応し、更には、反応液中に含有されている低揮発性溶剤に対する溶解度の低い第一の水溶性樹脂が、記録媒体の表面部分で皮膜化するため、インク中の色材は、より多く記録媒体25の表面に留まることになる。この結果、高画像濃度及び高発色で、輪郭部の不明瞭性が改善され、カラーブリードを生じることがなく、更に、耐裏抜け性に優れた高品位画像となる。これに加えて本発明にかかる反応液には、低揮発性溶剤に対する溶解度の高い第二の水溶性樹脂が含有されているため、先に述べたように、該第二の水溶性樹脂が、記録媒体25の内部まで浸透し、より色材を記録媒体に強固に接着するものと推測している。この結果、得られる画像は、耐擦過性に優れた画像となる(図1(C))。
【0049】
本発明にかかる反応液と、複数の異なる色のインクとを組み合わせたセットは、カラー画像の形成に好適に用い得る。例えば、本発明にかかる反応液と反応するインクとしてブラックインクを用い、更に複数の色のインクセットとを組み合わせることで、黒色画像部及びカラー画像部と隣接するような記録を行った場合に、ブリーディングの発生を極めて有効に抑えることができる。
【0050】
上記したような画像記録方法において、本発明にかかる反応液の付与方法は、インクと同様にインクジェット記録方式を用いても構わないが、勿論、バーコート、ローラーコート、スプレーコート等の従来公知の如何なる方法を用いて、本発明にかかる反応液を付与した場合も、本発明の技術思想を逸脱するものではない。更に詳述すると、記録媒体上のある種の改質といった観点からは、記録媒体全面に反応液を付与することが好適である。以上を考慮すると、本発明にかかる反応液の付与方法は、必ずしもインクと同様のインクジェット方式である必要もなく、むしろ、バーコート、ローラーコート、及びスプレーコート等の方式で反応液を付与して、記録媒体全面を改質する方が好ましい場合もある。
【0051】
(インク特性;インクジェット吐出特性、記録媒体への浸透性について)
上記した反応液に対して、上記本発明にかかるセットを構成するインクは、インクジェット記録方式で記録することが好ましい。この場合に使用するインクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出する記録方法があり、これらの記録方法を用いる本発明の反応液及びインクは特に好適である。
【0052】
又、上記本発明にかかるセットをインクジェット記録用に用いる場合には、該セットを構成する反応液及びインクは、インクジェットヘッドから吐出可能な特性を有するようにすることが好ましい。インクジェットヘッドからの吐出性という観点からは、これらの液体の特性としては、その粘度を1〜15cps、表面張力が15mN/m(dyne/cm)以上とすることが好ましい。更に好ましくは、粘度を1〜5cps、表面張力が25〜50mN/m(dyne/cm)とする。更に、反応液とインクとをインクジェットヘッドから吐出させる場合には、該反応液は、紙面上で特定のインクのみと反応させる必要がある。そのため、インクによる記録部とは別の箇所に反応液が滲まないように、反応液の表面張力をインクジェットヘッドから吐出可能な範囲内で、且つ、インクのそれよりも大きくすることが好ましい。
【0053】
(インクジェット記録装置)
次に、本発明にかかるセットを用いた画像記録方法に好適に用いることができるインクジェット記録装置について説明する。主にインクの吐出を例にとって説明する。図2は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図3は図2のA−B線での切断面図である。ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板等と発熱素子基板15とを接着して得られる。
【0054】
発熱ヘッド15は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1、17−2、HfB2、TaN、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性の良い材料で形成される基板20より成り立っている。
【0055】
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱ヘッド15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。
【0056】
図4には、図2に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。このマルチヘッドはマルチノズル26を有するガラス板27と、図2に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0057】
図5に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図5において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持されて、固定端となりカンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、図5に示した例の場合は、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0058】
62はキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、吐出面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、図5中の63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0059】
上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によってインク吐出口面の水分や塵埃等の除去が行われる。又、キャップ62を介して不図示のポンプによって記録へッドの各インクの吐出口に位置しているインク等を吸引して、記録ヘッド本来のインクの本来の吐出性能を回復させる回復系ユニットを構成している。
【0060】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモータ68(不図示)によって駆動されるベルト69と接続している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0061】
51は記録媒体を挿入するための紙給部、52は不図示のモータにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッドの65の吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。上記構成において記録ヘッド65が記録終了等でホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。
【0062】
記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上記した記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って、上記ワイピングが行われる。
【0063】
(インクカートリッジ)
図6は、記録ヘッドにインクを供給する部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したカートリッジ45の一例を示す断面図である。ここで40は供給用のインクを収納した収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。
【0064】
44は、廃インクを受容する吸収体である。インク袋40としては、インクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。このようなカートリッジは、例えば、図7に示したようにインクを吐出せしめる記録ヘッド901に着脱可能に構成されてなるとともに、上記カートリッジ45を記録ヘッドに装着した状態ではインクが記録ヘッド901に供給されるように構成されている。
【0065】
又、本発明では、反応液とインクとを各々個別に収容した2つの収容部を有し、インク及び反応液を吐出させるためのヘッドに対して着脱可能に構成され、且つインク及び反応液が記録ヘッドに供給可能に構成されているカートリッジを使用することができる。図8は、このようなカートリッジ1001の一例を示すものであり、1003は反応液の収容部、1005がインクの収容部である。該カートリッジは、図9に示すように、インク及び反応液の各々を吐出せしめる記録ヘッド1101に着脱可能に構成されてなるとともに、カートリッジ1001を記録ヘッド1101に装着した状態では、反応液及びインクが、記録ヘッド1101に供給されるように構成されている。
【0066】
又、本発明では、図8に示したような反応液とインクとが物理的に一体化されているものばかりでなく、例えば、図10に示すように、反応液を収納したカートリッジ1201とインクを収納したカートリッジ1203とを反応液及びインクの各々を吐出させる共通の記録ヘッド1205に装着し、反応液及びインクとを用いてインクジェット画像の記録を行うことができるように構成されているものも使用することができる。
【0067】
(記録ユニット)
本発明にかかるセットで画像を形成する場合に使用できるインクジェット装置としては、上述のようにヘッドとカートリッジとが別体となったものに限らず、図11に示すような、それらが一体になったものにも好適に用いられる。図11において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容した収容部がある。そして、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としては、ポリウレタンを用いることが好ましい。
【0068】
又、吸収体を用いず、収容部が内部にバネ等を仕込んだ袋であるような構造でもよい。72は、カートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は、図5に示す記録ヘッド65に代えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0069】
更に、本発明で用いることのできる記録ユニットの他の実施態様としては、例えば、本発明にかかる反応液と、これと反応する黒インクと、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルーの色相を有するカラーインクから選ばれる少なくとも1つのインクとを、1個のインクタンク内の各々のインク収納部に収納し、且つ各々のインクを吐出させるための記録ヘッドを一体的に備えた記録ユニットがある。具体的には、例えば、図12に示すように反応液を収容部1301Lに、アニオン性基によって水性媒体に分散させられている黒インクを収納部1301Bkに、又、イエロー、シアン及びマゼンタのカラーインクを各々カラーインク収納部1301Y、1301C及び1301Mに収納し、更に反応液と他の4つの色調の異なるインクを各々個別に吐出させることができるようにインク流路を分けて構成した記録ヘッド1303を備えている記録ユニット1301が挙げられる。
【0070】
力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置を使用することができるが、該装置の複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成例を図13に示す。
【0071】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、振動板等を指示固定するための基板84とから構成されている。
【0072】
図13において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属を電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。
【0073】
以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、ひずみ応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは図5に示したものと同様な記録装置に組み込んで使用される。記録装置の細部の動作は先述と同様に行うもので差しつかえない。
【0074】
(セットを用いた記録装置)
複数のインクを組み合わせた本発明にかかるセットを用いてカラー画像を記録する場合には、例えば、前記図12に示した記録ヘッドを5つキャリッジ1401上に並べた記録装置を用いることができる。図14はその一実施例であり、1401L、1401Bk、1401Y、1401M及び1401Cはそれぞれ、該反応液、イオン性基の作用によって水性媒体に分散させられてなるカーボンブラックを含む黒色インク、及びイエロー、マゼンタ、シアン各色のインクを吐出するための記録ユニットである。記録ユニットは前記した記録装置のキャリッジ上に配置され、記録信号に応じて各色のインクを吐出する。又、反応液は、各色、或いは各色の中の少なくとも1色の記録インクが記録媒体に付着する部分に、先立って、或いはインク付着後に付与させる。
【0075】
又、図14では記録ユニットを5つ使用した例を示したが、これに限定されず、例えば、図15に示したように1つの記録ヘッドで、反応液、該反応液と反応し得るイオン性基の作用によって水性媒体に分散させられてなるカーボンブラックを含む黒色インク、イエロー、マゼンタ、シアンの3色のインクを各々含むインクカートリッジ1501L、1501Bk、1501Y、1501M及び1501Cから供給される各色のインクを、各々個別に吐出させることができるように、インク流路を分けて構成した記録ヘッド1501に取り付けて記録を行う態様も挙げられる。
【0076】
次に本発明に好適に使用できる記録装置及び記録ヘッドの他の具体例を説明する。図16は、本発明にかかるインクセットを構成する反応液やインクの吐出時に気泡が大気と連通する吐出方式の液体吐出ヘッド及びこのヘッドを用いた液体吐出装置としてのインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図である。
【0077】
図16においては、インクジェットプリンタは、ケーシング1008内に長手方向に沿って設けられる記録媒体1028を図16に示す矢印Pで示す方向に間欠的に搬送する搬送装置1030と、該搬送装置1030による記録媒体1028の搬送方向Pに略直交する方向Sに略平行にガイド軸1014に沿って往復運動せしめられる記録部1010と、記録部1010を往復運動させる駆動手段としての移動駆動部1006とを含んで構成されている。
【0078】
又、移動駆動部1006は、所定の間隔をもって対向配置される回転軸に配されるプーリ1026a及び1026bに巻きかけられるベルト1016と、ローラーユニット1022a及び1022bに略平行に配置され記録部1010のキャリッジ部材1010aに連結されるベルト1016を順方向及び逆方向に駆動させるモータ1018とを含んで構成されている。
【0079】
モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図16の矢印R方向に回転したき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは図16の矢印S方向に所定の移動量だけ移動される。又、モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図16の矢印R方向とは逆方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは図16の矢印S方向とは反対の方向に所定の移動量だけ移動されることとなる。更に、移動駆動部1006の一端部には、キャリッジ部材1010aのホームポジションとなる位置に、記録部1010の吐出回復処理を行うための回復ユニット1026が記録部1010のインク吐出口配列に対向して設けられている。
【0080】
記録部1010は、インクジェットカートリッジ(以下、単に「カートリッジ」という場合がある)1012Y、1012M、1012C及び1012Bkが各色、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック用毎に、キャリッジ部材1010aに対して夫々着脱自在に備えられる。
【0081】
図17に上述のインクジェット記録装置に搭載可能なインクジェットカートリッジの一例を示す。本例におけるカートリッジ1012は、シリアルタイプのものであり、インクジェット記録ヘッド100と、インク等の液体を収容する液体タンク1002とで主要部が構成されている。
【0082】
インクジェット記録ヘッド100は、液体を吐出するための多数の吐出口832が形成されており、インク等の液体は、液体タンク1002から図示しない液体供給通路を介して液体吐出ヘッド100の共通液室(不図示)へと導かれるようになっている。図17に示したカートリッジ1012は、インクジェット記録ヘッド100と液体タンク1002とを一体的に形成し、必要に応じて液体タンク1002内に液体を補給できるようにしたものであるが、この液体吐出ヘッド100に対し、液体タンク1002を交換可能に連結した構造を採用するようにしてもよい。
【0083】
以下に上記したような構成のインクジェットプリンタに搭載され得る液体吐出ヘッドの具体例を、更に詳しく説明する。図18は本発明の基本的な形態を示す液体吐出ヘッドの要部を模式的に示す概略斜視図であり、図19〜図22は図18に示した液体吐出ヘッドの吐出口形状を示す正面図である。尚、電気熱変換素子を駆動するための電気的な配線等は省略している。
【0084】
本例の液体吐出ヘッドにおいては、例えば、図18に示されるような、ガラス、セラミックス、プラスチック或いは金属等からなる基板934が用いられる。このような基板の材質は、本発明の本質ではなく、流路構成部材の一部として機能し、インク吐出エネルギー発生素子、及び後述する液流路、吐出口を形成する材料層の支持体として機能し得るものであれば、特に限定されるものではない。以下に、Si基板(ウエハ)を用いた場合で説明する。吐出口は、レーザー光による形成方法の他、例えば、後述するオリフィスプレート(吐出口プレート)935を感光性樹脂として、MPA(Mirror Projection Aliner)等の露光装置により形成することもできる。
【0085】
図18において934は電気熱変換素子(以下、「ヒータ」という場合がある)931及び共通液室部としての長溝状の貫通口からなるインク供給口933を備える基板であり、インク供給口933の長手方向の両側に、熱エネルギー発生手段であるヒータ931がそれぞれ1列ずつ千鳥状に、例えば、電気熱変換素子(ヒータ)の間隔が、300dpiで配列されている。この基板934上には、インク流路を形成するためのインク流路壁936が設けられている。このインク流路壁936には、更に、吐出口832を備える吐出口プレート935が設けられている。
【0086】
ここで、図18においては、インク流路壁936と吐出口プレート935とは、別部材として示されているが、このインク流路壁936を、例えば、スピンコート等の手法によって基板934上に形成することにより、インク流路壁936と吐出口プレート935とを同一部材として同時に形成することも可能である。本例では、更に、吐出口面(上面)935a側は撥水処理が施されている。本例では、先に説明した図16の矢印S方向に走査しながら記録を行うシリアルタイプのヘッドを用い、例えば、1,200dpiで記録を行う。駆動周波数は10kHzであり、一つの吐出口では最短時間間隔100μsごとに吐出を行うことになる。
【0087】
又、ヘッドの実例寸法の一例としては、例えば、図19に示すように、隣接するノズルを流体的に隔離する隔壁936aは、幅W=14μmである。図22に示すように、インク流路壁936により形成される発泡室1337は、N1(発泡室の幅寸法)=33μm、N2(発泡室の長さ寸法)=35μmである。ヒータ931のサイズは30μmでヒータ抵抗値は53Ωであり、駆動電圧は10.3Vである。又、インク流路壁936及び隔壁936aの高さは12μmで、吐出口プレート厚は11μmのものが使用できる。
【0088】
図18に示した吐出口832を含む吐出口プレート935に設けられた吐出口部940の断面のうち、インクの吐出方向(オリフィスプレート935の厚み方向)に交差する方向で切断してみた断面の形状は図20に示したように概略星形となっており、鈍角の角を有する6つの起部832aと、これら起部832aの間に交互に配され、且つ鋭角の角を有する6つの伏部832bとから概略構成されている。即ち、吐出口の中心Oから局所的に離れた領域としての伏部832bをその頂部、この領域に隣接する吐出口の中心Oから局所的に近い領域としての起部832aをその基部として、図18に示すオリフィスプレートの厚み方向(液体の吐出方向)に6つの溝1141が形成されている。
【0089】
本例においては、吐出口部940は、例えば、その厚み方向に交差する方向で切断した断面が、一辺27μmの二つの正三角形を60度回転させた状態で組み合わせた形状となっており、図20に示すT1は8μmである。起部832aの角度はすべて120度であり、伏部832bの角度はすべて60度である。
【0090】
従って、吐出口の中心Oと、互いに隣接する溝の中心部(溝の頂部と、この頂部に隣接する2つの基部とを結んでできる図形の中心(重心))を結んで形成される多角形の重心Gとが一致するようになっている。本例の吐出口832の開口面積は400μm2であり、溝部の開口面積(溝の頂部と、この頂部に隣接する2つの基部とを結んでできる図形の面積)は1つあたり約33μm2となっている。図21は図20に示した吐出口の部分のインク付着状態を示す模式図である。
【0091】
本発明は、特に、インクジェット記録方式の中でも熱エネルギーを利用して飛翔的液滴を形成し、記録を行うインクジェット方式の記録ヘッド、記録装置に適用した場合に優れた効果をもたらす。
【0092】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,696号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、所謂オンデマンド型、コンティニュアス型の何れにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて膜沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。
【0093】
このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行うことができる。
【0094】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に、熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。
【0095】
加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギーの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基づいた構成としても本発明は有効である。
【0096】
更に、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個の記録ヘッドとしての構成の何れでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0097】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或いは記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0098】
又、本発明で使用する記録装置に設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧或いは吸引手段、電気熱変換体或いはこれとは別の加熱素子或いはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードを行うことも安定した記録を行うために有効である。
【0099】
更に、記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによってでもよいが、異なる色の複色カラー、又は混色によるフルカラーの少なくとも一つを備えた装置にも本発明に極めて有効である。
【0100】
以上は、インクを液体として説明しているが、本発明では、室温やそれ以下で固化するインクであって、室温で軟化するもの、若しくは液体であるもの、或いは上述のインクジェット方式ではインク自体を30℃以上70℃以下の範囲内で温度調整を行ってインクの粘性を安定吐出範囲にあるように温度制御するものが一般的であるから、使用記録信号付与時にインクが液状をなすものであればよい。
【0101】
加えて、積極的に熱エネルギーによる昇温をインクの固形状態から液体状態への状態変化のエネルギーとして使用せしめることで防止するか、又はインクの蒸発防止を目的として放置状態で固化するインクを用いるかして、何れにしても熱エネルギーの記録信号に応じた付与によってインクが液化し、液状インクとして吐出するものや、記録媒体に到達する時点では既に固化し始めるもの等のような、熱エネルギーによって初めて液化する性質のインクの使用も本発明には適用可能である。
【0102】
このような場合インクは、特開昭54−56847号公報或いは特開昭60−61260号公報に記載されるような、多孔質シート凹部又は貫通孔に液状又は固形物として保持された状態で、電気熱変換体に対して対向するような形態としてもよい。本発明においては、上述した各インクに対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
【0103】
更に加えて、本発明で使用する記録装置の形態としては、ワードプロセッサやコンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体又は別体に設けられるものの他、リーダと組み合せた複写装置、更には送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るものであってもよい。
【0104】
次に、上述した液体吐出ヘッドを搭載する液体吐出装置の概略について説明する。図23は、この液体吐出ヘッドを適用することのできる液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置600の概略斜視図である。図23において、インクジェットヘッドカートリッジ601は、上述の液体吐出ヘッドと該液体吐出ヘッドに供給するインクを保持するインクタンクとが一体となったものである。該インクジェットヘッドカートリッジ601は、駆動モータ602の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア603、604を介して回転するリードスクリュ605の螺旋溝606に対して係合するキャリッジ607上に搭載されており、駆動モータ602の動力によってキャリッジ607とともにガイド608に沿って矢印a、b方向に往復移動される。記録媒体P’は、図示しない記録媒体搬送手段によってプラテンローラー609上を搬送され、紙押え板610によりキャリッジ607の移動方向にわたってプラテンローラー609に対して押圧される。
【0105】
リードスクリュ605の一端の近傍には、フォトカプラ611、612が配設されている。これらはキャリッジ607のレバー607aのこの域での存在を確認して駆動モータ602の回転方向切り換え等を行うためのホームポジション検知手段である。
【0106】
支持部材613は、上述のインクジェットヘッドカートリッジ601の吐出口のある前面(吐出口面)を覆うキャップ部材614を支持するものである。又、インク吸引手段615は、キャップ部材614の内部にインクジェットヘッドカートリッジ601から空吐出等されて溜まったインクを吸引するものである。このインク吸引手段615によりキャップ内開口部(不図示)を介してインクジェットヘッドカートリッジ601の吸引回復が行われる。
【0107】
インクジェットヘッドカートリッジ601の吐出口面を払拭するためのクリーニングブレード617は、移動部材618により前後方向(上記キャリッジ607の移動方向に直交する方向)に移動可能に設けられている。これらのクリーニングブレード617及び移動部材618は、本体支持体619に支持されている。クリーニングブレード617は、この形態に限らず、他の周知のクリーニングブレードであってもよい。
【0108】
液体吐出ヘッドの吸引回復操作にあたって、吸引を開始させるためのレバー620は、キャリッジ607と係合するカム621の移動に伴って移動し、駆動モータ602からの駆動力がクラッチ切り換え等の公知の伝達手段で移動制御される。インクジェットヘッドカートリッジ601の液体吐出ヘッドに設けられた発熱体に信号を付与したり、前述した各機構の駆動制御を司ったりするインクジェット記録制御部は装置本体側に設けられており、ここには図示しない。
【0109】
上述の構成を有するインクジェット記録装置600は、図示しない記録媒体搬送手段によりプラテンローラー609上を搬送される記録媒体P’に対し、インクジェットヘッドカートリッジ601は記録媒体P’の全幅にわたって往復移動しながら記録を行う。
【実施例】
【0110】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、以下の記載で、「%」とあるものは特に断らない限り質量基準である。反応液又はインクにおいて、残量とあるのは、全体で100%となるように水で調整したことを意味する。
【0111】
(反応液の調製)
先ず、以下の成分を混合し、反応液を調製した。
<反応液1>
・硝酸マグネシウム6水和物 20%
・ポリビニルアルコール(第一の水溶性樹脂、
重合度1,700、鹸化度約88%、重量平均分子量
約80,000) 2.5%
・ポリビニルピロリドン(第二の水溶性樹脂、
K価15、重量平均分子量約10,000)0.5%
・1,2,6−ヘキサントリオール(低揮発性溶剤)
30%
・トリメチロールプロパン 5%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1%
・イオン交換水 残量
【0112】
<反応液2>
・硝酸マグネシウム6水和物 20%
・ポリビニルアルコール(第一の水溶性樹脂、
重合度1,700、鹸化度約88%、
重量平均分子量約80,000) 2%
・ポリビニルピロリドン(第二の水溶性樹脂、
K価15、重量平均分子量約10,000) 1%
・1,2,6−ヘキサントリオール(低揮発性溶剤)
30%
・トリメチロールプロパン 5%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1%
・イオン交換水 残量
【0113】
<反応液3>
・硝酸マグネシウム6水和物 20%
・ポリビニルアルコール(第一の水溶性樹脂、
重合度1,700、鹸化度約88%、
重量平均分子量約80,000) 3%
・1,2,6−ヘキサントリオール(低揮発性溶剤)
30%
・トリメチロールプロパン 5%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1%
・イオン交換水 残量
【0114】
<反応液4>
・硝酸マグネシウム6水和物 20%
・ポリビニルピロリドン(第二の水溶性樹脂、
K価15、重量平均分子量約10,000) 3%
・1,2,6−ヘキサントリオール(低揮発性溶剤)
30%
・トリメチロールプロパン 5%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1%
・イオン交換水 残量
【0115】
<溶解度の判定試験>
先ず、上記で得た反応液の形成成分として用いた第一の水溶性樹脂(ポリビニルアルコール)と、第二の水溶性樹脂(ポリビニルピロリドン)と、低揮発性溶剤(1,2,6−ヘキサントリオール)とを用いて、下記の組成の水溶液をそれぞれ調製した。
【0116】
[水溶液1]
・ポリビニルアルコール(第一の水溶性樹脂、
重合度1,700、鹸化度約88%、
重量平均分子量約80,000) 5%
・1,2,6−ヘキサントリオール 45%
・水 50%
【0117】
[水溶液2]
・ポリビニルピロリドン(第二の水溶性樹脂、
K価15、重量平均分子量約10,000) 5%
・1,2,6−ヘキサントリオール 45%
・水 50%
【0118】
次に、水溶液1及び2をそれぞれシャーレに適量秤量し、25℃環境で長期間放置し、水分を蒸発させた。重量減少量より、水分がほぼ完全に蒸発していることを確認し、シャーレの観察を行ったところ、[水溶液1]は溶液の表面部分のみが皮膜化し、不均一な状態になっていたが、[水溶液2]は全く皮膜化が起こっておらず、透明で均一な液体状態を保持していることが確認された。このことから、低揮発性溶剤である1,2,6−ヘキサントリオールに対する[水溶液1]の水溶性樹脂の溶解度は、10質量%未満であり、[水溶液2]の水溶性樹脂の溶解度は、10質量%以上であることがわかった。
【0119】
(インクの調製)
下記のようにして各色のインクを調製した。
<ブラックインク>
顔料[カーボンブラック(製品名:MogulL、キャブラック製)]10%、アニオン系高分子P−1(スチレン−アクリル酸共重合体、酸価200、重量平均分子量10,000、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)20%、イオン交換水70%を混合して、以下に示す材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150%充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。更に、得られた分散液を遠心分離機にかけて粗大粒子を除去した。その結果、最終調製物の固形分が約12%、重量平均粒径が120nmの顔料分散体Bkを得た。この分散体を用いて下記の組成のブラックインクを調製した。
【0120】
[ブラックインクの組成]
・顔料分散体Bk 30%
・グリセリン 9%
・ジエチレングリコール 6%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1%
・水 残量
【0121】
(評価)
上記で調製した反応液1〜4と、ブラックインクからなるセットを用いて、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJF−800(キヤノン製)で、1cm×1cmの100%Dutyベタを印字した。このとき、反応液は、バーコーターによって予め紙面に付与した。反応液の付与量は全て2.4g/m2に調整した。被プリント材としては、インクジェット用普通紙SW101(キヤノン(株)製)を用いた。上記の印字箇所について、下記の評価方法及び基準で評価を行った。
【0122】
<耐擦過性>
インクジェット用普通紙SW101(キヤノン(株)製)に形成したベタ印字上に別のSW101を静かに置き、荷重40g/cm2の分銅を乗せ、上に置いた方のSW101を分銅と共に静かに引き、ベタ印字部の耐擦過性を評価した。評価基準は下記のようにした。
◎:ベタの擦れ、尾引きが全く見られない。
〇:ベタ部の擦れ、尾引きが殆ど見られない。
△:ベタ部の一部が擦れる、若しくは尾引きがやや見られる。
×:ベタ部の擦れが酷い、若しくは尾引きがかなり見られる。
【0123】

【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明にかかる記録方法の模式的な説明図。
【図2】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す縦断面図。
【図3】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す横断面図。
【図4】図2に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図。
【図5】インクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図。
【図6】インクカートリッジの一例を示す縦断面図。
【図7】インクカートリッジが記録ヘッドに装着された状態を示す概略平面図。
【図8】他のインクカートリッジを示す概略平面図。
【図9】図8のインクカートリッジが記録ヘッドに装着された状態を示す概略平面図。
【図10】他のインクカートリッジを示す概略平面図。
【図11】記録ユニットの一例を示す斜視図。
【図12】他の記録ユニットを示す概略斜視図。
【図13】インクジェット記録ヘッドの別の構成例を示す概略断面図。
【図14】反応液を収納した記録ユニット、黒色インクを収納した記録ユニット、各カラーインクを収納した記録ユニットが同一キヤリッジ上に装着された状態を示す概略図。
【図15】図5のインクジェット装置の記録ヘッド部の一態様のオリフィス部の拡大図。
【図16】液体吐出ヘッドを搭載可能なインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図。
【図17】液体吐出ヘッドを備えたインクジェットカートリッジの一例を示す概略斜視図。
【図18】液体吐出ヘッドの一例の要部を模式的に示す概略斜視図。
【図19】液体吐出ヘッドの一例の一部を抽出した概念図。
【図20】図19に示した吐出口の部分の拡大図。
【図21】図20に示した吐出口の部分のインク付着状態を示す模式図。
【図22】図19における主要部の模式図。
【図23】液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置の概略斜視図。
【符号の説明】
【0125】
13:ヘッド
14:ノズル
15:発熱ヘッド
16:保護層
17−1、17−2:電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基板
21:インク
22:吐出オリフィス
23:メニスカス
24:インク小滴
25:記録媒体
26:ノズル
27:ガラス板
28:発熱ヘッド
40:インク袋
42:栓
44:インク吸収体
45、1001、1012、1201、1203:インクカートリッジ
51:給紙部
52:紙送りローラー
53:排紙ローラー
61:ブレード
62:キャップ
63:インク吸収体
64:吐出回復部
65、100、901、1101、1205、1303、1501:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モータ
69:ベルト
70:記録ユニット
71:ヘッド部
72:大気連通口
80:インク流路
81:オリフィスプレート
82:振動板
83:圧電素子
84:基板
85:吐出口
91:反応液
92:インク
600:インクジェット記録装置
601:インクジェットヘッドカートリッジ
607:キャリッジ
615:インク吸引手段
617:クリーニングブレード
832:吐出口
931:電気熱変換素子(ヒータ、インク吐出エネルギー発生素子)
933:インク供給口(開口部)
934:基板
935:オリフィスプレート(吐出口プレート)
935a:吐出口面
936:インク流路壁
936a:隔壁
940:吐出口部
1003:液体組成物の収容部
1005:インクの収容部
1301:記録ユニット
1301L、Y、M、C、Bk:カラーインク収容部
1401:キャリッジ
1501L、Bk、Y、M、C:インクカートリッジ
1337:発泡室
1338:液流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク組成物とともに用い、該インク組成物中の少なくとも1成分と反応する物質を含む反応液において、少なくとも、複数の水溶性樹脂、1種以上の低揮発性溶剤、及び水を含有し、且つ、上記複数の水溶性樹脂の上記低揮発性溶剤に対する溶解度が、それぞれに異なることを特徴とする反応液。
【請求項2】
前記複数の水溶性樹脂が、少なくとも第一の水溶性樹脂と第二の水溶性樹脂とを含み、第一の水溶性樹脂は、前記低揮発性溶剤に対する溶解度が10質量%未満であり、且つ、第二の水溶性樹脂は、前記低揮発性溶剤に対する溶解度が10質量%以上である請求項1に記載の反応液。
【請求項3】
前記第一の水溶性樹脂及び第二の水溶性樹脂が、質量比で、1:10〜10:1の割合で含有されている請求項2に記載の反応液。
【請求項4】
色材を溶解状態若しくは分散状態で含んでいるインク組成物と、該インク組成物中の少なくとも1成分と反応する物質を含む反応液とを具備している、インク組成物と反応液とのセットであって、該反応液が、請求項1〜3の何れか1項に記載の反応液であることを特徴とするセット。
【請求項5】
記録媒体への画像記録方法であって、
(i)請求項4に記載のセットを構成しているインク組成物をインクジェット法で上記記録媒体に付与する工程と;
(ii)請求項4に記載のセットを構成している反応液を上記記録媒体に付与する工程とを有し、
且つ、上記工程(i)及び(ii)によってなされるインク組成物及び反応液の付与が、該インク組成物と該反応液とが該記録媒体上で接するように行われることを特徴とする画像記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−263988(P2006−263988A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82533(P2005−82533)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】