説明

受光素子および光配線LSI

【課題】LSIチップ上のような限られたスペースでも、波長多重光伝送を実現可能とする受光素子および光配線LSIを提供する。
【解決手段】導電性薄膜3の表面に設けられ入射光を表面プラズモンに変換するための同心円型結合周期構造5a、5bと、同心円型結合周期構造5a、5bの中心に配置され導電性薄膜3を貫通する開口4a、4bと、開口4a、4bにおける同心円型結合周期構造5a、5bが設けられた面とは反対側の面の開口端に配置された受光部との組合せが同一基板上に複数組設けられ、複数の同心円型結合周期構造5a、5bは、それぞれ周期が異なり、且つ互いに重ね合わされ、複数の開口4a、4bは複数の同心円型結合周期構造5a、5bが重ね合わされた領域内に配置され、複数の受光部は電気的に分離されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受光素子およびそれを用いた光配線LSIに関する。
【背景技術】
【0002】
バイポーラトランジスタや電界効果トランジスタ等の電子デバイスの性能向上により、大規模集積回路(LSI:large scale integrated circuit)の飛躍的な動作速度向上が図られてきている。しかしながら、トランジスタの微細化による性能向上の一方で、それを接続する電気配線は微細化により配線抵抗や配線間容量の増大が深刻な問題となり、LSI性能向上のボトルネックになりつつある。
【0003】
このような電気配線の問題を鑑み、LSI内を光で接続する光配線LSIが幾つか提案されている。光配線は、直流から100GHz以上の周波数で損失の周波数依存性が殆ど無く、配線路の電磁障害なども無いため数10Gbps以上の配線が容易に実現できる。
【0004】
この種のLSI内光配線には、LSIの基板材料であるシリコン(Si)からなる高速受光素子が必要である。一般に、Siは間接遷移半導体であるため光吸収効率が低く、光受光効率と高速性を両立するのが難しい。これを解決するため、金属などの導電性材料の表面を伝わる表面プラズモンを利用した集光アンテナ型受光素子が知られている(非特許文献1)。一方、微小開口の光伝達効率を改善するため、非対称の開口を用いる手法が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−189519号公報
【非特許文献1】"Japanese Journal of Applied Physics"、2005年、Vol.44、No.12、p.L364
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、LSIチップ上のような限られたスペースでも、波長多重光伝送を実現可能とする受光素子および光配線LSIを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、導電性薄膜表面に設けられ入射光を表面プラズモンに変換するための同心円型結合周期構造と、前記同心円型結合周期構造の中心に配置され前記導電性薄膜を貫通する開口と、前記開口における前記同心円型結合周期構造が設けられた面とは反対側の面の開口端に配置された受光部との組合せが同一基板上に複数組設けられ、前記複数の同心円型結合周期構造は、それぞれ周期が異なり、且つ互いに重ね合わされ、前記複数の開口は前記複数の同心円型結合周期構造が重ね合わされた領域内に配置され、前記複数の受光部は電気的に分離されていることを特徴とする受光素子が提供される。
【0007】
また、本発明の他の一態様によれば、半導体基板上に集積されたトランジスタ素子と、前記トランジスタ素子上に設けられた多層配線と、前記多層配線上に設けられ入射光を表面プラズモンに変換するための同心円型結合周期構造を有する導電性薄膜と、前記同心円型結合周期構造の中心に配置され前記導電性薄膜を貫通する開口と、前記開口に接続されて前記多層配線中に連続して設けられた導体を貫く導波開口と、前記導波開口の開口端に設けられた半導体受光部とを備えた光配線LSIであって、前記開口、前記導波開口、前記同心円型結合周期構造および前記半導体受光部の組合せが同一の前記半導体基板上に複数組設けられ、前記複数の同心円型結合周期構造は、それぞれ周期が異なり、且つ1つの入射光ビームの照射範囲内に収まるように互いに重ね合わされ、前記複数の開口は前記複数の同心円型結合周期構造が重ね合わされた領域内に配置され、前記複数の半導体受光部は電気的に分離されていることを特徴とする光配線LSIが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、LSIチップ上のような限られたスペースでも、波長多重光伝送を実現可能とする受光素子および光配線LSIが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
光配線の配線容量を大きくするには、配線速度の向上や配線本数を増設すれば良いが、波長多重を用いると配線速度や配線本数を変えずに容量の向上が可能になる。ところが、LSI内部の配線など、限られたスペース内で光配線を行う場合には、波長多重のための合波器や分波器を設置することが難しく、実質的に波長多重が適用困難になる。
【0010】
波長多重光配線を行う場合、光送信側は半導体レーザの発光部が小さいため、波長の異なる半導体レーザを近接配置して1つの光線路(光ファイバ、光導波路など)に導入するといった簡易構成が可能である。しかしながら、光受信側は受光素子の受光部に光導波路程度の大きさが必要となるため、一旦、波長分波してから受光する構成が一般的である。
【0011】
これに対して、本発明の実施形態では、以下に説明するように、実質的に受光素子1つ分の面積で波長分波器機能を有する受光素子が実現され、LSIチップ上のような限られたスペースでも、波長多重光伝送が可能となる。
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では受光部の具体的材料としてシリコン(Si)を用いて説明するが、これは例えば、Ge、SiGe、SiC、GaAs、InP、GaInAs、GaInAsP、AlGaAsなど、光受信可能(光電変換可能)な材料が受光部にあれば同様に実施可能であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明では1つの光配線路に対応する受光素子(光配線受信部)を抽出した形で示していくが、これは勿論、多数の光配線路を集積すること、LSIチップ上に集積することを意図しており、集積する受光素子や光配線の数は任意である。
【0013】
図1に平面構造を例示する本実施形態に係る受光素子は、2つの開口4a、4bと、2つの同心円型結合周期構造(以下、単に結合周期構造とも称する)5a、5bと、2つの同心円型反射周期構造(以下、単に反射周期構造とも称する)6a、6bとを同一半導体基板上に設けた具体例である。
【0014】
開口4a、4bのそれぞれに対して1対1で対応する2つの結合周期構造5a、5bは互いに重ね合わされ、同様に開口4a、4bのそれぞれに対して1対1で対応する2つの反射周期構造6a、6bも互いに重ね合わされている。各開口4a、4bは、結合周期構造5a、5bのそれぞれの中心に位置し、結合周期構造5a、5bが重なり合う領域内に配置されている。外側の反射周期構造6a、6bも含めたすべての周期構造の重なり範囲は、1つの入射光ビームの照射範囲とほぼ同じサイズであり、波長選択受光に必要な構成部分である2つの結合周期構造5a、5bの重なり合う領域および2つの開口4a、4bは、入射光ビームの照射範囲内にある。
【0015】
ここで、説明をわかりやすくするため、図2〜5においては、開口4a及びこれに対して1対1で対応する周期構造5a、6aを有する要素、または開口4b及びこれに対して1対1で対応する周期構造5b、6bを有する要素のみを抽出して図示している。図2はその要素の概略斜視図であり、図3はその断面図、図4はその要部拡大図、図5はその平面図を示す。すなわち、図2〜5における開口4は図1における開口4aまたは4bに対応し、図2〜5における結合周期構造5は図1における結合周期構造5aまたは5bに対応し、図2〜5における反射周期構造6は図1における結合周期構造6aまたは6bに対応する。
【0016】
半導体基板(例えばn型シリコン基板)1上にパッシベーション膜(例えばSiO膜)2が形成され、そのパッシベーション膜2上に導電性薄膜3が形成されている。導電性薄膜3表面には、入射光を表面プラズモンに変換する(結合させる)ための結合周期構造5と、その結合周期構造5の中心に配置された十字形の開口4と、結合周期構造5の外側に形成され、入射光と結合された表面プラズモンのうち外側(結合周期構造5の径外方)に発散する成分をブラッグ反射して内側(開口4側)へ戻す反射周期構造6が設けられている。半導体基板1の裏面(導電性薄膜3が形成された面の反対面)には、例えばアルミニウムからなる裏面電極7が設けられている。結合周期構造5及び反射周期構造6は、例えば導電性薄膜3表面を加工して得られる凹凸パターンとして形成されている。
【0017】
導電性薄膜3としては、例えば、スパッタ、加熱蒸着などの方法で形成されるAg、Au、Cu、Al、Ni、Pd、Pt、W、Ti、Cr、Moなどの金属を用いることができる。ここでは、導電性薄膜3の一例としてAg膜を用いることとし、その厚さを例えば100(nm)とする。
【0018】
図3に示すように、開口4は導電性薄膜3の裏面まで貫通し、周期構造5、6が設けられた面とは反対面側の開口端には、例えばn型シリコンからなる受光部(光電変換部)8が設けられている。すなわち、半導体基板1において、開口4の下の表面には他の部分より低濃度なn型領域が受光部8として形成されている。受光部8は、図1に示す2つの開口4a、4bのそれぞれに1対1で対応して2つ設けられ、これら2つの受光部8は電気的に分離されている。
【0019】
波長以下の微小な穴(開口)を持つ金属膜に入射した光はほとんど透過することができないが、微小な穴の周囲に周期的な凹凸を設けて入射光と金属膜の表面プラズモンとを結合させて共鳴状態をつくることにより、透過光強度を大幅に増強できることが知られている。
【0020】
そのためには、結合周期構造5及び反射周期構造6は、受光する光の波長に合わせた周期(ピッチ)で形成する必要があり、図5に示すように、開口4を中心とした同心円状に形成されている。ここで、受光波長をλ、導電性薄膜3の誘電率をε1、導電性薄膜3に接する物質の誘電率をε2とすると、結合周期構造5の周期Pcは、Pc〜λ(1/ε1+1/ε2)1/2という値で近似される。また、反射周期構造6の周期Pbは、Pb=Pc/2とすれば良い。
【0021】
例えば、導電性薄膜(厚さ100(nm)のAg膜)3表面に集束イオンビーム(FIB:Focused-Ion Beam)装置を用いて50(nm)の深さで同心円状の周期構造5、6を形成し、導電性薄膜3の表面が空気に接している場合に結合周期構造5の周期Pcを840(nm)(反射周期構造6の周期Pbは420(nm))とし、導電性薄膜3の表面に厚さ1(μm)程度のSiOパッシベーション膜を形成した場合に、Pcを560(nm)(Pb=280(nm))とすると、受光可能な中心波長λが850(nm)近傍になる。
【0022】
開口4の平面サイズは、光を光電変換する受光部8が十分小さな領域に限定されるよう最小限の大きさとする。その基準として、十字形開口4の頂点間距離(頂部長さ)をプラズモン波長の1/2より大きくし、十字形の溝幅(線幅)はプラズモン波長の1/2より狭くする。プラズモン波長λpは、厳密には開口4内部でのプラズモン波長であるが、前述した結合周期構造5の周期Pc(プラズモン集光アンテナ表面でのプラズモン波長に相当)とほぼ同程度の大きさとなるため、開口4は長辺長さをPc/2以上とすれば、短辺長さはPc/2よりかなり小さな値でも構わない。
【0023】
例えば、前述した受光可能な中心波長λ〜850(nm)の場合で、導電性薄膜3表面に厚さ1(μm)程度のSiOパッシベーション膜を形成した場合に、開口4の長辺長さを280(nm)以上(例えば400(nm))、短辺長さを280(nm)以下(例えば50(nm))とする。勿論、開口4は導電性薄膜3を貫通する穴であり、前述の例(厚100(nm)のAg膜)では集束イオンビームを用いて頂部長さが400(nm)、溝幅が50(nm)の十字形の溝として深さ100(nm)以上の掘り込み加工を行えばよい。このように構成することで、開口4における伝播損失を低減でき、開口4の部分だけ厚く形成しても開口4の中でのプラズモン減衰を大幅に低減可能になる。
【0024】
例えば、開口4の厚さ(開口長)を100(nm)とし、十字形の頂部長さを400(nm)、十字形の溝幅を50(nm)とした場合の透過率を見積もると約97%となる。この十字形開口4と同じ面積の円形開口(直径約220(nm))で透過率を見積もると16%とかなり小さくなってしまう。円形開口の場合は、開口の厚さを非常に薄くするか、開口径を大きくする必要がある。例えば、上記の円形開口で開口の厚さを1(μm)とすると透過率は2×10−9と極端に小さくなるが、十字形開口4の場合透過率が75%に低下するだけで済む。開口の厚さが1(μm)の場合、円形開口では開口径を400(nm)以上とする必要がある。この場合の透過率は90%程度が可能であるが、その開口面積が十字形開口の3倍以上に大きくなってしまい、受光素子の応答速度が低下する問題が生じる。
【0025】
十字形開口4の場合、いずれの方向の偏光が入ってきても、それぞれ十字形(直交スリットと同等)の透過率が高い方向のスリットに偏光成分が分割され、2つスリットを各成分が透過することで偏光方向に関係なく開口4を透過する。これは円形開口と同様な偏光無依存性を持つことに相当し、開口面積が小さい分、十字形開口4の方が高速に応答可能である。
【0026】
例えば、低濃度n型シリコンからなる受光部8に対するショットキー電極およびパッシベーション膜(SiO膜)2との密着用金属としてTiを10(nm)の厚さで形成した上に、導電性薄膜3としてAg膜を100(nm)の厚さで形成し、十字形開口4の頂部長さを400(nm)、溝幅を50(nm)とし、結合周期構造5を深さ50(nm)で10周期配置し、その外側に反射結合構造6を深さ50(nm)で5周期配置した構造を考える。
【0027】
この時、受光波長を850(nm)とすると、SiOパッシベーション型素子(Pc=560(nm))で約14(μm)径の周期構造径となる。また、入射光の受光径は約11(μm)となり、単一モード光ファイバで伝送された光をバットジョイント結合で受光することが可能になる。受光部(低濃度n型シリコン領域)8の厚さは例えば2(μm)とし、受光領域を規定するパッシベーション膜2を例えば熱酸化法により形成する。このような構成とすることにより、受光効率約10%(光電変換係数0.08(A/W))、応答速度15(GHz)以上といった特性の受光素子が得られるようになる。
【0028】
再び図1を参照すると、本実施形態では、第1の開口4aを中心とする周期構造5a、6aの受光可能波長と、第2の開口4bを中心とする周期構造5b、6bの受光可能波長とが異なるように構成している。即ち、それぞれの周期構造5a、6a、5b、6bの周期が異なっており、その受光波長間隔をある程度離すことにより、2つのプラズモン集光アンテナ間の干渉を防ぐことができる。
【0029】
例えば、導電性薄膜3の表面上に厚さ1(μm)程度のパッシベーション膜(SiO膜)を形成しているものとして、第1の開口4aを中心とする結合周期構造5aの周期を560(nm)、第1の開口4aを中心とする反射周期構造6aの周期を280(nm)、第2の開口4bを中心とする結合周期構造5bの周期を540(nm)、第2の開口4bを中心とする反射周期構造6bの周期を270(nm)とすると、第1の開口4aは波長850(nm)、第2の開口4bは波長820(nm)の光をそれぞれ受光可能になる。
【0030】
第1の開口4aと第2の開口4bとの間隔(離間距離)は、例えば800(nm)とする。結合周期構造5a、5bの直径は約10(μm)とする。これにより、2つの受光素子はほとんど同じ位置に近接配置され、集光アンテナ(周期構造部)の重なり部分が多いため、1つの入射光ビーム(例えばビーム径約10(μm)のシングルモード光ファイバ出力)をそのまま集光アンテナにあてるだけで、入射光の波長に応じて、受光開口4a、4bが自動的に切り替わるようにできる。即ち、2つの波長多重光を1つの光入力部(2つの開口4a、4bを含み且つ2つの結合周期構造5a、5bが重なっている領域)に照射するだけで波長分離受信できることになり、1つの受光素子スペースでの波長選択受光素子アレイの構築が実現する。
【0031】
次に、図6は、3つの異なる波長の光を選択受信可能な構成を示し、3つの開口4a、4b、4cと、3つの結合周期構造5a、5b、5cと、3つの反射周期構造6a、6b、6cとを同一半導体基板上に設けた具体例を示す。
【0032】
開口4a、4b、4cのそれぞれに対して1対1で対応する3つの結合周期構造5a、5b、5cは互いに重ね合わされ、同様に開口4a、4b、4cのそれぞれに対して1対1で対応する3つの反射周期構造6a、6b、6cも互いに重ね合わされている。結合周期構造5a、5b、5cのそれぞれの中心に位置する開口4a、4b、4cは、結合周期構造5a、5b、5cが重なり合う領域内に配置されている。外側の反射周期構造6a、6b、6cも含めたすべての周期構造の重なり範囲は、1つの入射光ビームの照射範囲とほぼ同じサイズであり、波長選択受光に必要な構成部分である結合周期構造5a、5b、5cの重なり合う領域および開口4a、4b、4cは、入射光ビームの照射範囲内にある。受光部8(図3)は、3つの開口4a、4b、4cのそれぞれに1対1で対応して3つ設けられ、これら3つの受光部8は電気的に分離されている。
【0033】
第1〜第3の開口4a、4b、4cにそれぞれ対応する各結合周期構造5a、5b、5cの各周期を例えば560(nm)、550(nm)、540(nm)とし、第1〜第3の開口4a、4b、4cにそれぞれ対応する各反射周期構造6a、6b、6cの各周期を対応する各結合周期構造5a、5b、5cの半分とする。これにより、第1〜第3の開口4a、4b、4cそれぞれの受信波長は850(nm)、835(nm)、820(nm)というようになり、3つの異なる波長の選択受信が可能になる。なお、4つ以上の開口、これら開口のそれぞれに対応する、4つ以上の結合周期構造、4つ以上の反射周期構造および4つ以上の受光部を同一半導体基板上に設けて、さらに多くの異波長の選択受信も可能である。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、光を受光するための開口を複数近接配置して受光素子アレイを構成し、それに付随するプラズモン集光アンテナを互いに重ね合わせて形成し、且つ、各プラズモン集光アンテナの共鳴波長(周期構造の周期)を異ならせることでプラズモン集光アンテナ間の干渉を抑え、しかも波長ごとに受光する開口を異ならせて波長多重光受信を行わせるものである。
【0035】
これにより、一般的な受光素子1つ分の面積に複数の受光素子を配置することができ、しかも、各受光素子が異なる波長を選択的に受光するため、受光素子1つ分の面積で波長分波器と受光素子アレイの機能が実現される。即ち、本実施形態に係る受光素子では、実質的に1つのデバイスで波長選択受光素子アレイが実現し、特別な追加スペースの不要な波長多重光配線を実現することができる。従って、LSIチップ内の高速光配線が効果的に構築可能になり、LSIの高速化、高性能化を促進して情報通信機器などの高度化に大きく貢献可能である。
【0036】
1つの入射光ビームで波長選択受信を可能にするには、複数の結合周期構造5が互いに重なり合う領域であって且つ複数の開口4を含む領域に、入射光ビームが照射されればよい。その領域のすべてが入射光ビームの照射範囲内になくても、複数の結合周期構造5が互いに重なり合う領域において複数の開口4を含む一部領域が入射光ビームの照射範囲に重なる構成でも1つの入射光ビームで波長選択受信が可能となる。ただし、この場合、複数の結合周期構造5が重なり合う領域に当たらない入射光は受光されず無駄になってしまうので、受光効率を高くする観点からは、複数の結合周期構造5が、1つの入射光ビームの照射範囲内に収まるように重ね合わされる構成が望ましい。
【0037】
次に、図7は、本発明の実施形態に係る光配線LSIの要部を示す断面斜視図であり、前述した偏光依存のない十字形開口を有する受光素子を用いて光配線LSIを構成した例を示している。なお、説明をわかりやすくするため、図7では図2〜5と同様、1つの開口4、これに対応する1つの結合周期構造5、1つの反射周期構造6および1つの受光部9を抽出して示しているが、これらは図1、6を参照して前述したように複数設けられる。
【0038】
半導体基板1の表面には、トランジスタ素子(例えばCMOS)10が集積化されて形成されており、さらに半導体基板1の表面には受光部(光電変換部)9も形成されている。半導体基板1の表面上には多層配線11が形成されている。多層配線11は、トランジスタ素子10や受光部9と接続された例えば銅からなる配線12と、例えば酸化シリコンからなる層間絶縁膜13とを有する。
【0039】
多層配線11(の層間絶縁膜13)上には導電性薄膜3が形成され、その表面には前述した集光アンテナ(結合周期構造5、反射周期構造6)が形成されている。結合周期構造5及び反射周期構造6の中心には、導電性薄膜3を貫通する十字形の開口4が形成されている。
【0040】
開口4は、多層配線11中を厚さ方向に連続して設けられた導体15を貫いて形成された導波開口16と接続されている(連通している)。すなわち、開口4の下には、集光アンテナ部分より厚い導体15が、導電性薄膜3から半導体基板1表面の受光部9にまで延長されて設けられている。導波開口16の開口端(開口4が設けられた側とは反対側の開口端)に受光部(光電変換部)9が設けられている。プラズモン集光アンテナからの表面プラズモンは、開口4及び導波開口16を通じて多層配線11中を貫いて受光部9にまで伝播される。
【0041】
開口4は前述した実施形態と同様十字形であり、その開口4に接続して多層配線11を貫く導波開口16の形も十字形とすることで、円筒金属柱のように大きなレイアウト面積を占有することなく、多層配線11およびトランジスタレイアウトのセクション間境界の隙間などに表面プラズモンの導波路を形成する導体15を埋め込むことが可能になる。十字形導波開口16を形成した金属柱(導体15)は、多層配線11の配線12と同じ例えば銅(Cu)を用いても良いがプラズモンの吸収損失がやや大きいため、可能であれば銀(Ag)を用いることが望ましい。その場合、例えば、多層配線11の工程終了後、多層配線11の層間絶縁膜13および一部配線(受光素子のバイアスラインなど)を貫く十字溝を設け、メッキによりその十字溝内にAgを充填して十字形金属柱を形成する。その後、プラズモン集光アンテナの形成と、ドライエッチングによる十字形開口4及び導波開口16の形成を行えばよい。
【0042】
LSIの多層配線は、一般的に10(μm)程度の厚さを有しており、十字形開口4及び導波開口16におけるプラズモン伝送距離は10(μm)前後となる。これは、前述した実施形態における導電性薄膜3を貫くだけの伝送とは異なり、やや余裕を持ったサイズで開口4及び導波開口16を用意することが伝送損失低減のため望ましい。例えば、Ag金属柱に、頂部長さ450(nm)、溝幅200(nm)の十字形開口4及び導波開口16を形成したAg導波路を、プラズモンが10(μm)伝送すると、波長850(nm)の入射光で約20%の伝送効率を得ることができる。このときの開口面積(受光面積)は直径420(nm)の円形開口程度の面積であり、受光素子の応答速度を15(GHz)程度から低下させる程の面積にはならない。
【0043】
従って、本実施形態例では、LSI多層配線の上部からシリコン基板表面まで表面プラズモンのまま伝送しても−7(dB)程度の損失で、わずか1〜2個のトランジスタを用いた利得で十分回復可能であり、逆に光配線による高速動作(例えば10(GHz)クロック)が波形の劣化や過剰ジッタの増加がない状態で実現できるという効果が得られる。勿論、本実施形態に係る光配線LSIにおいても、図1、6を参照して前述したように複数の開口、これに1対1で対応する周期構造及び受光部を有し、波長選択多重受信が可能となっている。
【0044】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、それらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。例えば、上記説明で挙げた周期、波長等の具体的数値、材料は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜設定、選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施形態に係る受光素子において2つの開口及びこれに1対1で対応する周期構造を有する具体例を示す平面図。
【図2】図1における複数の開口及び周期構造のうち、1つの開口及びこれに対応する1つの周期構造を抽出して示した概略斜視図。
【図3】図2に示す構造の断面図。
【図4】図2に示す構造の要部拡大図。
【図5】図2に示す構造の平面図。
【図6】実施形態に係る受光素子において3つの開口及びこれに1対1で対応する周期構造を有する具体例を示す平面図。
【図7】実施形態に係る光配線LSIの要部を示す断面斜視図。
【符号の説明】
【0046】
1…半導体基板、3…導電性薄膜、4,4a,4b,4c…開口、5,5a,5b,5c…結合周期構造、6,6a,6b,6c…反射周期構造、7…裏面電極、8,9…受光部、10…トランジスタ素子、11…多層配線、16…導波開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性薄膜表面に設けられ入射光を表面プラズモンに変換するための同心円型結合周期構造と、前記同心円型結合周期構造の中心に配置され前記導電性薄膜を貫通する開口と、前記開口における前記同心円型結合周期構造が設けられた面とは反対側の面の開口端に配置された受光部との組合せが同一基板上に複数組設けられ、
前記複数の同心円型結合周期構造は、それぞれ周期が異なり、且つ互いに重ね合わされ、前記複数の開口は前記複数の同心円型結合周期構造が重ね合わされた領域内に配置され、前記複数の受光部は電気的に分離されていることを特徴とする受光素子。
【請求項2】
前記開口は、前記表面プラズモン波長の1/2より大きい頂部長さで、且つ前記表面プラズモン波長の1/2より小さい溝幅で形成された十字形であることを特徴とする請求項1記載の受光素子。
【請求項3】
前記複数の同心円型結合周期構造が、1つの入射光ビームの照射範囲内に収まるように重ね合わされたことを特徴とする請求項1または2に記載の受光素子。
【請求項4】
半導体基板上に集積されたトランジスタ素子と、前記トランジスタ素子上に設けられた多層配線と、前記多層配線上に設けられ入射光を表面プラズモンに変換するための同心円型結合周期構造を有する導電性薄膜と、前記同心円型結合周期構造の中心に配置され前記導電性薄膜を貫通する開口と、前記開口に接続されて前記多層配線中に連続して設けられた導体を貫く導波開口と、前記導波開口の開口端に設けられた半導体受光部とを備えた光配線LSIであって、
前記開口、前記導波開口、前記同心円型結合周期構造および前記半導体受光部の組合せが同一の前記半導体基板上に複数組設けられ、
前記複数の同心円型結合周期構造は、それぞれ周期が異なり、且つ1つの入射光ビームの照射範囲内に収まるように互いに重ね合わされ、前記複数の開口は前記複数の同心円型結合周期構造が重ね合わされた領域内に配置され、前記複数の半導体受光部は電気的に分離されていることを特徴とする光配線LSI。
【請求項5】
前記開口は、前記表面プラズモン波長の1/2より大きい頂部長さで、且つ前記表面プラズモン波長の1/2より小さい溝幅で形成された十字形であることを特徴とする請求項4記載の光配線LSI。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−8724(P2009−8724A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167420(P2007−167420)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】