説明

受動電子素子基板上にスクライブラインを形成する方法

【課題】多数の等間隔をおかれた電子素子が固定された受動電子素子基板が独立した回路素子にきれいに分離される方法を提供すること。
【解決手段】鋭い折り線(44)を有するスクライブライン(36)を形成する方法は、基板(10)の厚さ(24)の一部が除去されるようにセラミック又はセラミックに似た基板(10)に沿って紫外線レーザビームを向けることを必要とする。紫外線レーザビームは、相当量の基板溶融なくして基板にスクライブラインを形成し、これによりきれいに規定された折り線が基板の厚さ内に伸びる高応力集中領域を形成する。その結果、独立した回路素子になるように基板の破断を生じさせるスクライブラインの側部に付与される破断力に応答して高応力集中領域において多数の深さ方向亀裂が基板の厚さ内に伝播する。この領域の形成は非常に正確な基板の破断を容易にし、他方、破断力の付与の間及び後に各素子の内部構造の一体性を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受動電子素子基板上にスクライブラインを形成する方法、より詳細には受動電子素子基板を切除し、これにより、スクライブラインであってこれに沿って前記基板が多数のピースに割られるスクライブラインを形成するために紫外線レーザを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この分野の当業者には周知であるように、受動混成超小型電子回路素子(以下、回路「素子」)はセラミック基板上にアレーで形成される。前記セラミック基板は、前記回路素子を互いに分離するために切断され、時に賽の目に刻まれたと称される。
【0003】
過去30年間、セラミック基板を切断する有力な方法は、パルス型炭酸ガスレーザを用いて賽の目に刻む工程を必要とし、この工程では、パルス型レーザが整列され、次いでストリートに沿うように方向付けられ、「柱状穴」のスクライブラインを形成する。図1は、パルス型炭酸ガスレーザ切断により形成された柱状穴スクライブライン2の走査電子顕微鏡写真(SEM)である。図1に示すように、柱状穴スクライブライン2は、スクライブライン2の長さに沿ってセラミック基板6の厚さ内に伸びる間隔をおかれた複数のビア(via)4を含む。前記柱状穴スクライブラインの形成に引き続き、前記セラミック基板を独立した複数のピースの断片にするためにスクライブラインの横のセラミック基板部分に力を加える。
【0004】
パルス型炭酸ガスレーザによる切断はスピード、清浄度、精度及び軽減された切り口の点で利点があるが、前記柱状穴スクライブラインは、ぎざぎざで不揃いの側縁及び著しい溶融スラグ残留物を有する分離セラミックピースを生じさせる。図2の走査電子顕微鏡写真に示すように、前記柱状穴スクライブラインの方法で形成されたセラミック基板のピース6は、望まれる直線状で滑らかな側縁ではない折れ曲がりの側縁8を有する。さらに、セラミック基板のピース6はスラグ残留物7を含む。
【0005】
また、パルス型炭酸ガスレーザ切断は、構造的に弱い素子を生じさせる、セラミック表面の内部構造の歪みをもたらす。特に、前記セラミック基板の強度が減少し、その熱的又は機械的応力に耐える能力を低減させる。前記内部の構造的弱さは、しばしば、それ自体を、前記レーザスクライブラインの近傍に存在する増大した数のミクロ亀裂において証明する。図3A及び図3Bは、パルス型炭酸ガスレーザ切断を用いて形成されたセラミック基板ピースの横断面を示す走査電子顕微鏡写真である。図3Aは10倍の倍率でセラミック基板ピースを示し、また図3Bは65倍の倍率でセラミック基板ピースの側縁を示す。両図は、側縁8からセラミック基板ピース6の内部に伸びる複数のミクロ亀裂9を示す。ウェイブル(Weibull)の強度理論によれば、前記セラミック基板の曲げ強さはミクロ亀裂の密度が増大するに従って減少する(ウェイブル ダブリュ、 プロク、ロイ、スエーデン協会 研究 193 151(1939))。不十分な曲げ強度の結果として多くの回路素子が廃棄されたため、製造費が増大した。
【0006】
最近まで、焼成セラミック基板は、約6インチ×8インチの長さ寸法及び幅寸法と約1mm厚さ寸法を有するものであった。パルス型炭酸ガスレーザ切断の結果として形成された不揃いの側縁、スラグ残留物及びミクロ亀裂は、スクライビングセラミック基板がこれらの仕様を有する場合には我慢のできるものであった。
【0007】
しかし、素子の小型化における近時の技術的進歩は、約1mm×0.5mm(0402)又は0.5mm×0.25mm(0201)の長さ寸法及び幅寸法、並びに約80ミクロン及び約300ミクロン間の厚さ寸法を有する回路素子の分離を求める。この密度及び/又は厚さの回路素子は、パルス型炭酸ガス又はNd:YAGレーザ切断のいずれかにより生じるこのような不揃いの側縁、スラグ残留物及びミクロ亀裂を許容することができない。これらのレーザ切断の方法は、特定の回路の成分値及び/又はその後の素子加工に不利な影響を与えるからである。
【0008】
ある従来技術では、前記回路素子の形成プロセスの一部として、前記セラミック基板上に形成された厚い及び薄い複数のフィルムパターンにより形成された「ストリート」に整列された鋸歯を用いて前記セラミック基板を鋸引きして、必要とされるこれらの小さくかつ薄い回路素子に分離することが行われている。前記鋸歯及びストリートの整列は、整列システムを用いて行われた。前記鋸引きの完了時の分離された回路素子のための支持を与えるため、鋸引きの前に、好ましくは、テープが前記セラミック基板に張り付けられた。この従来の方法は、前記鋸歯の不正確な位置決め及び整列、前記鋸歯の機械的なぐらつき、及び鋸歯を用いた切断の機械的性質から生じる不揃い又は粗い表面に問題がある。さらに、前記スクライブラインの幅は、前記鋸歯の幅に適応するように十分に大きいものでなければならなかった。典型的な鋸歯はその切断軸に沿って75−150ミクロンの幅を有し、約150ミクロンの幅の切目を生じさせる。結果的に生じるスクライブラインが比較的大きい幅を有し、また、これにより基板表面の大きい部分を占めるため、任意の所定サイズのセラミック基板について産出される素子は少ない。これは、より多くの無駄な表面領域を生じさせ、回路素子部品のためのより少ない利用可能な表面領域を生じさせ、また各回路素子の最適コストより大きいものを生じさせる。
【0009】
最も大きいサイズのチップ抵抗器素子が形成される方法は、未焼成状態のセラミック基板にスクライブラインを予め成形することを含む。前記抵抗素子が次いで焼成セラミック基板上に印刷され、前記基板が前記スクライブラインに沿って破壊され、分離した回路素子を形成する。前記予め成形されたスクライブラインの位置的な正確性における一般的変動と、焼成中のセラミック基板の収縮量における予知できない変動とのため、引き続く前記抵抗器素子の印刷が、しばしば、前記予め成形されたスクライブラインとの不適当な整合を生じさせる。この不適当な整合は、間接的に、素子部品のサイズに比例する。
【0010】
小さい回路素子のため、焼成セラミック基板にスクライブラインを形成すべくYAGレーザを用いることができる。これらのスクライブラインはその後の印刷過程に合わせるために用いられる。例えば、セラミック基板にスクライブラインを形成するために約10μmの波長で作動されるIR−YAGレーザを用いることができる。前記スクライブラインを形成する方法は、IR−YAGレーザビームと前記セラミック基板の頂面及び底面のそれぞれとの間にこれらに溝を形成するために相対運動を与えることを含む。溝の一方の側に破断力が及ぼされると、亀裂が前記基板の長さ及び厚さの方向へ伝播し、前記セラミック基板が破断し、複数のピースが生じる。
【0011】
この方法を使用する上でいくつかの問題点がある。すなわち(1)IR−YAGレーザの使用により引き起こされる熱的損傷が金属導体パッドの層間剥離を生じさせる。(2)賽の目に切断されたセラミック基板ピースの不均一な側縁を生じさせる頂底面のスクライブラインの不整合。(3)必要な頂面及び底面の裏返し、再整合及び継続的なスクライビングから生じる非能率、並びに単一の表面のスクライビングのために必要とされる時間の2倍以上の消費。
【0012】
これまでに用いられた評判の良いスクライビング方法の一つは、先ず、焼成されたチップ抵抗器セラミック基板に予めスクライビングを施し、次いで、前記スクライブラインに、導体パターン及び抵抗器パターンのスクリーン印刷を整合させるものであった。しかし、回路素子のサイズがさらに減少するに従い、予め形成されたスクライブラインに前記スクリーン印刷パターンを整合させ、これを完了することは非常に困難になる。
【0013】
その結果、印刷されかつ焼成仕上げがなされたチップ抵抗器パターンに軸線から離れたスクライブラインを形成することが必要になってきた。また、この必要性は、焼成されたセラミック素子(チップコンデンサ、導体、フィルタ等)、前記セラミック基板を約750°C及び約1100°C間の温度に曝す必要がある工程のため、明らかであった。これらの高温に長く曝すと、前記セラミック基板が1又は両方の軸線に沿って歪み、非標準形状のセラミック基板が形成される。このため、多数の名目的に同一である回路素子を形成するようにこれらの非標準形状のセラミック基板と整合することができかつこれらに正確にスクライビングを施すことができるレーザの必要が生じた。この技術分野の当業者には、前記印刷及びスクライビングの順序が最終結果に影響を与えることなしに入れ替えられ得ることは理解されよう。
【0014】
加えて、多数の回路素子は、金属を含む表面層を有する。この層は、x軸又はy軸に沿って伸びる前記ストリートの一方又は双方へ伸び得る。当業者であれば、前記表面層の金属の存在が、該金属が炭酸ガスレーザビームを反射させるため、前記炭酸ガスレーザの使用を妨げることを認めるであろう。さらに、金属含有層の機械的な鋸引きは望ましくない。銅のような多くの金属の展性は、金属含有層の機械的な鋸引きを非常に遅くかつ困難な工程にするからである。
【0015】
UV−YAGレーザを使用するビア開けは、印刷配線盤の産業において広範囲に用いられてきた。特に、UV−YAGレーザは、下の有機材料が穿孔される前に表面の金属含有の層を切断するレーザビームを発する。このため、回路素子の制作において使用される銅及びその他の金属の紫外線レーザ穿孔は、この技術分野の当業者にはよく理解されている。
【0016】
したがって、必要なことは、明確に規定された側縁、最小限のスラグ残留物及び低減されたミクロ亀裂の発生率を有する分離された回路素子部品への基板のきれいな破砕を容易にするスクライブラインをセラミック又はセラミックに似た材料からなる基板に形成する経済的な方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、多数の等間隔をおかれた電子素子が固定された受動電子素子基板が、例えば抵抗器、コンデンサ、インダクタ、フィルタ、バリスタ及びサーミスタを含む独立した回路素子にきれいに分離される方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の方法は、溝を形成するために受動電子素子基板の厚さの一部が除去されるように前記基板に沿ってスクライブラインを形成するために紫外線レーザビームを向けることを必要とする。前記溝は、前記基板の表面から急勾配の折り線を規定する前記溝の底に収束する幅を有する。
【0019】
用語「受動電子素子基板」は、ここでは、単一の層構造及び固定スタック、多層及び層状に張り合わされた多層構造を指して使用される。受動電子素子基板は、以下に述べる好ましいセラミック又はセラミックに似た材料を含むがこれに限定されない異なるタイプのものからなる。
【0020】
第1のタイプは、単一層又は多層のプレートの形状に構成されたセラミック基板からなる。前記スクライブラインは、未焼成(軟らかい)板又は高温同時焼成セラミック(HTCC)及び低温同時焼成セラミック(LTCC)を含む焼成(硬い)板に形成することができる。
【0021】
第2のタイプは、個々の(チップ)抵抗器、抵抗器回路網若しくは混成抵抗器回路網(例えば、1面積抵抗値以上を有するもの)、圧電性、電気光学若しくは光電子装置、インダクタ、又は大型の多元素セラミック基板上に設けられた他の個々の素子の印刷がなされた単一層焼成セラミック基板からなる。
【0022】
第3のタイプは、低温同時焼成セラミック又は高温同時焼成セラミックについては、チップコンデンサ、チップアレー、多数の素子タイプ(例えば抵抗器、コンデンサ及びインダクタ)のアレーからなる回路網、及び、低温同時焼成セラミック又は高温同時焼成セラミックの電子パッケージであって半導体(例えばシリコン)装置を他の電子パッケージに接続するインターポーザとして用いられる電子パッケージを含む、多層セラミック技術で与えられる。
【0023】
第4のタイプは、例えばバリスタ又はサーミスタの基板のような、焼成又は未焼成の、及び単一層又は多層構造の特殊化されたセラミック基板からなる。サーミスタ及びバリスタ基板の単一層構造は、ディスク、ロッド、ワッシャ、スラブ、プレート、管状形及びビーズの任意の一つの当業者により参照される。
【0024】
前記紫外線レーザは、明瞭に規定された鋭い折り線が前記基板の厚さ及び前記折り線の長さに沿って伸びる高応力集中の領域を形成するように、明らかな基板溶融なしに前記基板にスクライブラインを形成するに十分なエネルギ及びスポットサイズにより特徴付けられるレーザビームを発する。その結果、前記基板のきれいな割れを生じさせ、前記折れ線により規定された側縁を有する分離した回路素子にするように、前記溝の各側に加えられる破断力に応答して前記高応力集中領域の前記基板の厚さ内へ多数の厚さ方向亀裂(クラック)が伝播する。
【0025】
高応力集中領域の形成は前記基板のより正確な破断を促進する一方、前記破断力の付与の間及びその後に各回路素子の前記基板の内部構造を完全な状態に維持する。これは、前記基板内に前記破断力の付与の結果として形成する多数の厚さ方向クラックが、セラミック基板の各ピースの内部構造を長さ方向にではなく、前記高応力集中領域で前記基板の厚さにわたって厚さ方向に伝播するからである。このような方法での厚さ方向クラックの形成は、多数の名目的に同一の回路素子を形成するために前記基板のよりきれいな破断を容易にする。
【0026】
このレーザビーム切断工程は前記基板材料の最小の結晶化を生じさせ、これにより、スラグ残留物を形成する紫外線レーザビームの付与の間に前記溝の側壁が溶融する程度を低減する。相当量の結晶化の欠如と、結果として生じる、きれいに規定された溝の側壁の形成とが、前記スクライブラインの長さに沿った前記基板のより正確な破断を生じさせる。前記レーザビームの性質が、前記基板の内部構造を乱すことなしに前記基板を弱くするからである。
【0027】
本発明の追加点及び利点は、添付図面を参照して行う、以下の好ましい実施例の詳細な記載から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、受動電子素子基板上にスクライブラインを形成するため、ソリッドステート紫外線レーザにより放出されるレーザビームを方向付ける必要がある。記載された好ましい実施例は、セラミック材料で形成された基板に向けられている。しかし、基板にスクライブラインを形成する工程は、電子セラミック、セラミック半導体、セラミック導体、誘電体、圧電体、焦電体、電気光学セラミック、光電子材料、磁気セラミック(フェライト)、ガラスセラミック、絶縁体及びセラミック超伝導体のような他の適当なセラミックに似た材料で形成された基板において行うことができる。好ましい実施例では、前記セラミック基板が、放出されたレーザビームからエネルギを吸収し、これにより、回路素子を形成する工程の一部として前記セラミック基板上に形成されたパターンにより表された前記ストリートに沿って溝を形成するように前記基板の一部の厚さ方向の除去をもたらす。製造される回路素子のタイプによって、前記パターンは、典型的には、厚膜加工(例えば、厚膜抵抗器又は多層チップコンデンサ(MLCC)のためのスクリーン印刷による)又は薄膜加工(例えば、真空蒸着による)により形成される。前記溝は、前記セラミック基板の表面から伸び、かつ前記溝がほぼ三角形状(広い開口及び頂点)の横断面を有するように前記溝の底に明瞭に規定された折り線を形成するように収束する2つの側壁を含む。前記溝の底は、好ましくは、前記溝が前記セラミック基板の厚さを明らかに突き抜けないように十分に浅く、これにより、前記基板に形成されたスクライブラインにほぼ直交する方向に伸びるミクロ亀裂の形成を最小にし、また前記基板を割る間、基板の構造的一体性又は完全性を維持する。さらに、前記レーザビームは、好ましくは、前記スクライブラインの側壁に沿っての前記基板の結晶化を最小にするに十分である波長を有する。
【0029】
本発明の方法に供される好ましいレーザは、Nd:YAG、Nd:YLF、Nd:YAP又はNd:YVO、あるいはホルミウム又はエルビウムを不純物添加したYAG結晶のようなソリッドステート・レーサント(solid-state lasant)を含むQスイッチ型ダイオード励起ソリッドステート紫外線レーザである。(紫外線レーザは400nmより短い波長をする光を放射するものとして定義される。)紫外線レーザは、(1)セラミック基板は紫外線の範囲で強い吸収作用を表す(2)紫外線レーザ・スクライビングは、前記基板の両側のスクライビングを求めないため、急速である(3)紫外線レーザ・スクライビングは主として非熱性の工程であるため、典型的には3°より小さいテーパを有するきれいで真っ直ぐな直立した裂け目を生じさせる鋭角の切り口が形成される(4)紫外線レーザ切断は金属を非常に良く除去する(切り口は、金属パッドの破断又は層間剥離を避けるため、切り溝に残る材料はほとんど又は全くなくきれいである。)ために好ましい。
【0030】
好ましいレーザは、主に近TEM00空間モードプロフィルで355nm(周波数の3倍 Nd:YAG)又は266nm(周波数の4倍 Nd:YAG)のような波長で高周波で発生された1又はそれ以上のレーザパルスの紫外線レーザ出力を提供する。第3高周波を発生するために用いられる結晶は有用な高出力及び高パルス繰り返し率を生じさせるため、355nmの波長を有するレーザ出力は特に好ましい。前記レーザは好ましくは約0.5W及び約10Wの間の動力並びに約15kH及び約100kHの間の繰り返し率で運転される。パルス持続時間は好ましくは約15ns及び約100nsであるが、しかし任意の適当なパルス持続時間とすることができる。
【0031】
前記紫外線レーザパルスは、レーザビーム路に沿って配置されるビームエキスパンダ又はアプコリメータ・レンズ(upcollimator lens)要素(例えば、2×ビーム拡大要素)を含む種々の周知の光学装置により拡大平行パルスに変えられる。ビーム位置決めシステムは、典型的には、平行にされたパルスを対象走査又は切断レンズを通して前記セラミック基板上の所望のレーザターゲット位置に向ける。
【0032】
この特許出願の譲受人であるオレゴン州ポートランドのエレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ インコーポレイテッドにより製造されたモデルシリーズナンバー4370及び4420の小領域ミクロ加工システム内に組み入れられたビーム位置決めシステムは、より小さい(例えば10.2cm×10.2cm(4インチ×4インチ)より小さい)セラミック基板にスクライビングを施すべく本発明を実施するために適当である。エレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ インコーポレイテッドにより製造されたモデルシリーズナンバー52xx及び53xxの大領域ミクロ加工システム内に組み入れられたビーム位置決めシステムは、より大きいセラミック基板(例えば10.2cm×10.2cm(4インチ×4インチ)より大きい)にスクライビングを施すべく本発明を実施するために適当である。また、双方ともカトラー等に与えられた多ツール位置決めシステムと題する米国特許第5,847,960号明細書及び高速、精密な多段ツール位置決めシステムと題する米国特許第5,754,585号明細書に記載されているような複合ビーム位置決めシステム。ワークピースを動かすためのX−Yリニアモータと、走査レンズを動かすためのX−Yステージとを使用するこれらのシステムのいくつかは、長く真っ直ぐな切断を行うための費用有効な位置決めシステムである。また、当業者には、ビーム位置決めのための固定ビーム位置及び/又は静止ガルバノメータでワークピース位置決めのための単一のX−Yステージを有するシステムが代わりに用いられることは認識されよう。
【0033】
本発明の方法は、種々のパラメータの下で作動する複合レーザシステムに関連して使用することができる。それぞれの特定のレーザシステムの作動パラメータは、明瞭に規定されたスクライブラインを形成するように協働するため、前記作動パラメータは前記レーザシステム、前記基板又は製造条件に適合させることができる。例えば、厚い基板は、以下の作動パラメータすなわち大出力レーザ、高い繰り返し率、多数光路又はパルスごとの高エネルギの一つ又は組み合わせを用いる本発明の方法に従って、効果的にスクライビングを施される。反対に、薄い基板は、以下の作動パラメータすなわち低出力レーザ、低い繰り返し率、単一光路又はパルスごとの低エネルギの一つ又は組み合わせを用いる本発明の方法に従って、効果的にスクライビングを施される。
【0034】
図4は、一つの典型的な受動電子素子基板、セラミック基板10を示し、これにレーザビーム14が向けられる。セラミック基板10は第1の表面18と第2の表面20とを含み、両表面はこれらの間に基板厚さ24を規定する。また、セラミック基板10はストリート28(図6に示す)と、多数の電子素子12、例えば第1の基板表面18又は第2の基板表面20の一方の上に固定された抵抗器とを含む。本発明のスクライビング方法は、セラミック基板10の一方の側又はセラミック基板10の両側で行うことができる。チップ抵抗器基板のスクライビングを行うときは単一側での基板スクライビング(図5Aに示す)が好ましく、チップコンデンサ基板のスクライビングを行うときは両側での基板スクライビング(図5Bに示す)が好ましい。
【0035】
レーザ32を含むレーザスクライビング装置は、前記したビーム位置決めシステムを用いてストリート28に整合される。次いで、ストリート28と同一の広がりをもつセラミック基板10の一部が溝36を形成するために除去される。溝36は、前記レーザシステムの作動パラメータ、スクライビングがなされるセラミック基板の厚さ、密度及びタイプ、並びに任意の製造上の制約条件に従って、レーザビーム14の単一光路又は多光路により形成される。溝36の長さは、前記セラミック基板表面全部の使用可能の長さ又は幅にわたる。溝36は、前記レーザビームのスポットサイズにより定められるように、好ましくはストリート28と同一の広がりをもつ溝長さと、好ましくは約30μmより小さい、より好ましくは約20μm及び約30μm間にある溝幅とを有する。
【0036】
図6に示すように前記セラミック基板表面上にグリッド(格子)を形成すべく、複数の溝が複数のストリート28に沿って形成される。複数の溝は、追加のスクライブラインのスクライビング前の多光路での1のスクライブラインのスクライビング、追加光路での前記グリッドの各スクライブラインのスクライビング前の第1の光路での各スクライブラインのスクライビング及び交互のパターンアプローチを用いるスクライビングを含むこの技術分野における当業者に一般的に知られた任意の方法で形成される。(交互のパターンスクライビングの一例は、長さ方向に並んで配列された多数のストリートの1セットに関して、前記セットにおけるストリートの2つの非重複のサブセットからストリートに沿って交互にスクライブラインを形成する。)セラミック基板は熱を保持するため、密なピッチを有するグリッド(グリッドの隣接するスクライブラインは400ミクロンより小さい間隔をおいて配置されている)のスクライビングの好ましい方法は、交互のパターンにおいて、追加の光路での各ラインのスクライビングの前の第1の光路での個々のスクライビングラインのスクライビングを回す。各スクライブラインのための前記第1の光路及び第2の光路間の経過時間は熱放散を容易にし、またこれにより前記セラミック基板の熱に基づく欠け及び割れの発生を最小限にする。
【0037】
溝36は、さらに、セラミック基板表面18から伸び、収束して、溝36がほぼ三角形(広い開口及び頂点44)の横断面を有するように溝36の底に明瞭に規定された折り線44を形成する2つの傾斜した側壁40を含む。図4において、溝36は、セラミック基板10の第1の表面18(図4)又は第2の表面20から、2つの側壁40が高応力集中部を有する折り線44を形成するように収束する溝36の底に至る溝深さ48を有する。溝深さ48は、好ましくは、溝36がセラミック基板厚さ24を明らかに突き抜けないように十分に浅く、これにより、前記スクライブラインに直交して伸びるミクロ亀裂の形成を最小にする。溝深さ48は回路のサイズ及び基板厚さに依存し、また好ましくは基板厚さ24の約5%及び40%間にある。溝深さ48は、レーザビーム14のための適切な動力設定及び継続時間を選択することにより制限することができる。最適なスクライブライン深さは、前記スクライブラインが形成される前記基板材料に依存する。したがって、最適値は、各基板材料の性質及び各セットのレーザ作動パラメータにより確立される。
【0038】
次に、セラミック基板10が、前記スクライブラインに直角な引張り破断力の付与により多数のピースに破断される。好ましくは、溝36は、該溝の両側への破断力の付与がセラミック基板をして折り線44に沿ってきれいに破断するように、三角形の横断面形状を有する。結果として生じる多数の回路素子は、元は溝の側壁40であった側縁を含む。
【0039】
複数の溝36が本発明の方法を用いてセラミック基板10に形成される。複数の回路素子を作ることができる1つの代表的な方法が図6に示されており、セラミック基板10の表面上のスクライブグリッド56を示す。スクライブグリッド56は、独立した領域の配列を規定し、それぞれが個々の回路素子に対応する水平な(x軸)ストリート28hと垂直な(y軸)ストリート28vとを含む。また、スクライブグリッド56は、水平な(x軸)ストリート28hと垂直な(y軸)ストリート28vと同一の広がりをもつ溝36を含む。
【0040】
レーザビーム14が突き当たる前記セラミック基板表面を犠牲層で覆う代わりに又はこれに加えて、この技術分野の当業者には周知であるように、前記セラミック面の裏側20からレーザ切断を行うことができ、これによりレーザで生じた破片は重要でないものとなる。裏面の整合は、レーザ又は他のマーキング又はセラミック基板10の前側18から作られた整合貫通穴を用いて行うことができる。典型的な整合穴が図11に示されている。あるいは、裏側の整合は、この技術分野の当業者に知られているように、エッジ整合及び/又はカメラでの測定を用いて行うことができる。
【0041】
以下の実施例は、明瞭に規定された本発明の折り線を形成するために焼成の及び未焼成のセラミック基板材料の深さ方向除去をもたらすように協働する典型的なレーザと作動パラメータとを示す。
【実施例1】
【0042】
実施例1 低動力、高繰返し率のミクロ機械加工
【0043】
スクライブラインが0.913mmの厚さを有する焼成セラミック基板材料に形成された。カリフォルニア州マウンテン ビューのライトウエーブ エレクトロニクス製のモデル ナンバー V03レーザを使用。このレーザは25ミクロンのガウスビームを放射し、エレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ製のモデル ナンバー5200レーザシステム内に配置されていた。工程は0.5mm/sの実質的速度(実際の速度=25mm/s/繰り返し)。使用した作動パラメータは表1に記載されている。
【0044】
表1 作動パラメータ
【0045】
【表1】

【0046】
前記スクライブラインの形成に続き、切り口の特性、深さ及び特徴を評価するために光学顕微鏡で検査された2つの分離された回路素子を形成すべく前記セラミック材料が前記ラインに沿って破断された。前記回路素子の側縁はきれいであり、また破片を持っていなかった。切り口の壁は、ガウスビームのプロフィールのためにわずかに傾斜していた。総合的に言えば、この方法は、良い縁ときれいな切れ目とを有するきれいな切り口を生じさせる。前記切り口の深さ対繰り返し数及び切り口のパーセント(切り口/焼成セラミック材料の全厚さ)に関するデータは、表2に示されている。これは、これらの作動パラメータを使用するときは多数の繰り返しが好ましいことを示唆する。
【0047】
表2 切り口の深さについての試験結果、パーセント切り口及び光路ごとの深さ
【0048】
【表2】

【実施例2】
【0049】
実施例2 高動力、低繰り返し率ミクロ機械加工
【0050】
スクライブラインが0.962mmの厚さを有する焼成セラミック基板材料に形成された。カリフォルニア州マウンテン ビューのライトウエーブ エレクトロニクス製のモデル ナンバー Q301レーザを使用。このレーザは、25ミクロンのガウスビームを放射し、エレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ製のモデル ナンバー5200レーザシステム内に配置されていた。使用した作動パラメータは表3に記載されている。
【0051】
表3 作動パラメータ
【0052】
【表3】

【0053】
表4、5及び6に示すように、速度と食い込みサイズ(bite size)とを変えて、3つの独立した試験が行われた。
【0054】
表4 試験 ナンバー1
【0055】
【表4】

【0056】
表5 試験 ナンバー2
【0057】
【表5】

【0058】
表6 試験 ナンバー3
【0059】
【表6】

【0060】
前記スクライブラインの形成に続き、切り口の特性、深さ及び特徴を評価するために光学顕微鏡で検査された2つの分離された回路素子を形成すべく前記セラミック材料が前記ラインに沿って破断された。50mm/s及び100mm/sの速度でのレーザスクライビングにより形成されたスクライビングがされた回路素子上の縁切断領域が、前記折り線に沿って非常にきれいな縁を生じさせた。約20ミクロンの縁テーパが前記縁に見られた。これらの縁は、約45ミクロンのスクライブライン幅に帰するものである。
【0061】
切り口の深さに関するデータ対表4ないし6に記載された3つの試験のそれぞれのための繰り返しの数(光路)が表7に示されている。
【0062】
表7 25mm/s、50mm/s及び100mm/sの速度でのレーザ操作のための繰り返しごとの切り口の深さ
【0063】
【表7】

【0064】
【表8】

【0065】
【表9】

【0066】
表2及び表7の比較から、実施例2で用いられた増大された動力は増大したセラミック材料除去率を生じさせることが明らかである。したがって、高繰り返し率で作動するパルスレーザシステムごとの高い動力が好ましい。
【実施例3】
【0067】
実施例3 高動力、低繰り返し率ミクロ機械加工
【0068】
スクライブラインが約100ミクロンの厚さを有する焼成セラミック基板材料に形成された。カリフォルニア州マウンテン ビューのライトウエーブ エレクトロニクス製のモデル ナンバー Q302レーザを使用。このレーザは、25ミクロンのガウスビームを放射し、エレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ製のモデル ナンバー5200レーザシステム内に配置されていた。使用した作動パラメータは表8に記載されている。
【0069】
表8 作動パラメータ
【0070】
【表10】

【0071】
レーザビームはプログラムされた100mm/sの速度及び50mm/sの有効速度で移動された。スクライブラインの全深さは約28ミクロンであった。食い込みサイズが約2ミクロンであったため、2つの繰り返しのそれぞれに大きい重なりがあった。前記スクライブラインの形成に続き、切り口の特性、深さ及び特徴を評価するために光学顕微鏡で検査された2つの分離された回路素子を形成すべく前記セラミック材料が前記ラインに沿って破断された。スクライビングがなされた回路素子上の縁破断領域は、かなりのスラグ残留物を欠いていた。
【実施例4】
【0072】
実施例4 未焼成セラミック基板の紫外線レーザスクライビング
【0073】
スクライブラインが約800ミクロンの厚さを有する未焼成多層チップコンデンサ基板に形成された。ライトウエーブ エレクトロニクス製のモデル ナンバー Q301レーザを使用。このレーザは、25ミクロンのガウスビームを放射し、エレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ製のモデル ナンバー4420レーザシステム内に配置されていた。使用した作動パラメータは表9に記載されている。
【0074】
表9 作動パラメータ
【0075】
【表11】

【0076】
図9は、未焼成多層チップコンデンサ基板に形成されたスクライブラインの側面図を示す走査電子顕微鏡写真である。図9に示すように、前記溝は、鋭い折り線を形成するために収束する明瞭に規定された側壁を有する。前記溝の横断面形状は三角形である。
【0077】
スクライブラインの形成に続き、未焼成多層チップコンデンサ基板が焼成される。前記基板を焼成すると、前記基板の収縮が生じる。セラミック基板は、粒子サイズ、粒子形状、絶縁体及び内部電極金属粉の分布、基板の未焼成密度、プレートを形成するために用いられる方法及び作動パラメータ(例えばテープキャスティング(tape casting)又はスクリーン印刷)、及び絶縁体形成組成のような多くの変数に依存して、一般的には約10%及び約20%間の収縮を受ける。本出願人は、スクライブラインの有効な切り溝深さが多層チップコンデンサ基板が焼成されるときに増大することを見出した。
【0078】
前記スクライブラインの形成及び前記基板の焼成に続き、前記多層チップコンデンサ材料が前記スクライブラインに沿って破断され、切り口の特性、深さ及び特徴を評価するために光学顕微鏡で検査された複数列の回路素子(例えばチップコンデンサ)を形成する。図10は、図の平面に、チップコンデンサ列の側縁を示す。前記チップコンデンサの側縁はきれいであり、また残骸を有しない。総合的に言えば、前記工程は、良い縁及びきれいな切れ目を有するきれいな切り口を生じさせた。未焼成セラミック基板のスクライビングの利点は、それが軟らかいため、より深いスクライブラインを未焼成セラミック材料に形成することができることである。
【0079】
チップコンデンサを形成するとき、前記第1の基板表面上のスクライブラインが前記第2の基板表面上のスクライブラインと空間的に整合するように、前記セラミック基板は好ましくは前記第1の表面及び前記第2の表面の双方にスクライビングを施される。この両面スクライビングは次のようにしてもたらされる。(1)整合穴が前記基板に開けられる。(2)前記した方法を用いて前記第1の表面上にスクライブラインが形成される。(3)前記基板は裏返され、前記整合穴を用いて再整合される。(4)前記第2の表面上のスクライブラインが前記第1のスクライブラインと空間的に整合されるように、前記した方法を用いてスクライブラインが前記第2の表面上に形成される。
【0080】
前記基板が裏返され、前記第2の表面にスクライビングが施されるとき、前記基板の整合を容易にするために典型的には前記基板のコーナに複数の整合穴が形成される。典型的な整合穴80は図11に示されている。図11の整合穴80は、ライトウエイブ エレクトロニクス製のモデル ナンバーQ301レーザを用いて、800μmの厚さを有する未焼成多層チップコンデンサ基板上に形成された。このレーザは、25ミクロンのガウスビームを放射し、エレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ製のモデル ナンバー4420レーザシステム内に配置されていた。使用した作動パラメータは表10に記載されている。
【0081】
表10 作動パラメータ
【0082】
【表12】

【0083】
代わりの整合方法が、前記したように、未焼成材料上へのスクライブラインの形成に関連して用いることができる。
【0084】
分離された回路素子がチップコンデンサを形成するとき、基板10に形成された溝36の縁70は、好ましくは丸みを帯びた縁である(図5B、図9及び図10に示すように)。特に、側壁40は第1の基板表面18と出会い、基板10の第1の基板表面18に縁70を形成する。これらの縁に丸みが付けられることは産業標準である。縁に丸みを付けるのは主として次の2つの理由による。(1)鋭い領域における機械的応力集中の主な源である前記チップの縁に丸みを付け、これにより前記縁における応力集中を低減し、工程及び/又は内部電極の取り扱い及び露出の間に末端被覆チッピングの機会を減じるため、及び(2)前記縁における均一な末端チップの被覆を容易にするためである。このような丸み付けは、紫外線レーザビームを向けて前記縁における基板材料を除去し、前記縁に湾曲した形状を与えることにより行われる。縁を丸めるための典型的仕様は、頂点対辺の比が<3μm、コーナの範囲が<20μmである。
【0085】
実施例1−4は、結果として生じる各セラミック基板ピースの内部の一体性(完全性)が前記破断力の付与の間及び後に実質的な変化がなく残るように、高応力集中領域の形成が前記セラミック基板の非常に正確な破断を容易にすることを示す。前記破断力の付与の結果として前記セラミック基板内に生じる多数の深さ方向の亀裂が、セラミック基板の各ピースの内部構造にわたって長さ方向ではなく前記高応力集中領域における前記セラミック基板の厚さを経て深さ方向に伝播するため、生じる前記セラミック基板の内部は損なわれずに残る。これは、多数の回路素子への前記セラミック基板のきれいな破断を容易にする。
【0086】
また、前記レーザビームの作動パラメータは前記セラミック基板材料の結晶化の発生を最小にし、前記レーザビームの付与の間に前記溝の側壁が溶融する度合いを低減し、これによりスラグ残留物の形成を最小にする。特に、本発明のレーザスクライビング方法は、レーザパルスにより除去された前記セラミック基板の厚さの一部による前記レーザエネルギのほとんどの吸収を生じさせる。このようなエネルギ吸収は、前記溝の側壁の溶融を生じさせる熱が実質的に残らないようにする。前記レーザビームの除去可能性(非熱的な)が前記セラミック基板の内部構造を乱すことなしに前記セラミック基板を弱めるため、著しい結晶化の欠如及び結果として生じるきれいに規定された溝の側壁は前記スクライブラインに沿っての前記セラミック基板の非常に正確な破断を生じさせる。また、最小限の結晶化は優れたしかも一貫した縁の特質を生じさせ、滑らかな縁はミクロ亀裂が始まる弱点を除去する。図7は、本発明の方法に従ってスクライビングがされたセラミック基板ピースの滑らかで平坦な側縁を65倍の倍率で示す走査電子顕微鏡写真である。
【0087】
紫外線レーザ切断の利点の一つは、物理的切断(約300μmの薄く切ったレーン及び約150μmの賽の目に切った通路)を行うよりも材料消費(幅50μm、好ましくは30μmより小さい切り溝)が非常に少ないことであり、このため、単一の基板上により多くの回路素子を形成することができる。
【0088】
また、本発明の方法は、基板とレーザビームとの軸外整合を必要とした不規則形状を有する基板のスクライビングを容易にする。特に、本発明は、標準に関して方位角度で配置された軸外スクライブラインを形成するために用いることができる。スクライブラインを非直交の又はずれたパターン上に形成するとき、多数の点における受動電子素子基板の検査を必要とする。このタイプの受動電子素子のスクライビングを行う際の使用に供される典型的なビーム位置決めシステムは、本出願の譲受人であるオレゴン州ポートランドのエレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ製のモデル4420又は4370 UV−YAGレーザスクライビングシステム中のビーム位置決めシステムである。
【0089】
さらに、銅、銀又はニッケルの層を含む多層チップコンデンサのような多層セラミック素子について、他の層の一体性を破壊することなしに、本発明の方法を用いてスクライビングを行うことができる。一実施例では、未焼成の層が積み重ねられ、結果として生じたセラミックフィルタ構造が焼成される。図8に示すように、セラミックフィルタ48は、積層物52と銅、銀又はニッケルの密封コーティング54とで被覆されたチップ50を含む。チップ50はセラミック基板62の頂部に着座している。銅密封コーティング54を通して機械的に鋸引きする従来の方法は、積層物52に受け入れがたい損害を与えた。また、銅の展性のため、表面層の機械的な鋸引きは容認できない程遅い。本発明の方法は、積層物52に損傷を与えることなしに銅密封コーティング54とセラミック基板62とを分離するに十分なエネルギ及びスポットサイズを有する紫外線レーザビームを用いて、セラミックフィルタ48の銅密封層54を切断することが可能である。本発明の方法に関連して用いられる紫外線レーザは、銅密封コーティング54を通して切断し、折り線を有する溝をセラミック基板62に残すようにプログラムされ、前記折り線に沿ってセラミック基板62が独立した名目的に同一の回路素子に分離される。選択的に、本発明の方法に関連して用いられる紫外線レーザは、セラミック基板62に影響を与えることなしに銅密封コーティング54を通して切断するようにプログラムされる。次に、前記レーザは、セラミック基板62が独立した名目的に同一の回路素子に分離される本発明の方法に従うスクライブラインを形成するに十分なエネルギ及びスポットサイズを有するように再プログラムされる。
【0090】
要約すると、本発明は、種々のタイプの受動電子素子基板にスクライブラインを形成するように用いることができ、また、種々の電子素子を形成するために分離することができる。典型的な電子素子をリストにあげると、チップ抵抗器、チップコンデンサ、インダクタ、フィルタ、バリスタ(限定されるものではないが、金属酸化バリスタ、多層バリスタ、及びディスクバリスタを含む。)、サーミスタ、フェライトビーズ及びトランスのような磁気材料に基礎をおく電子素子、トランスジューサ及びセンサのような圧電セラミックスに基礎をおく電子素子、光スイッチ及びカラーフィルタのような光電子セラミックスに基礎をおく電子素子、並びに低温同時焼成セラミック及び低温同時焼成セラミックパッケージがある。
【0091】
最後に、x及びy軸の一方又は双方に沿って伸びる金属を含むストリートを有するセラミック基板は、本発明の方法を用いて同様に分離することができる。
【0092】
この技術分野当業者には、根本的な原理から離れることなしに本発明の前記した実施例の詳細に多くの変更を加えることができることは明らかであろう。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲のみによりに決定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】従来の炭酸ガスレーザ切断を用いてセラミック基板に形成された柱状穴スクライブラインの平面図を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2】セラミック基板に食い込むスクライブラインに関して、図1に示す柱状穴スクライブラインの相対する側部に破断力を及ぼすことにより形成された炭酸ガスレーザからのスラグ残留物と鋸歯状かつ不揃いのセラミック基板側縁とを示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3A】基板ピースの内部を経て伸びる、従来の炭酸ガスレーザ切断を用いて形成されたミクロ亀裂を有するセラミック基板ピースの横断面を10倍の倍率で示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3B】基板ピースの内部を経て伸びる、従来の炭酸ガスレーザ切断を用いて形成されたミクロ亀裂を有するセラミック基板ピースの横断面を65倍の倍率で示す走査電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明に従ってスクライブラインを形成するためにセラミック基板表面に当たるレーザビームを放射するレーザスクライビング装置の概略図である。
【図5A】一方の面にのみスクライビングが施されたチップコンデンサとして使用に供される受動電子素子基板の概略図である。
【図5B】双方の面にスクライビングが施されたチップコンデンサとして使用に供される受動電子素子基板の概略図である。
【図6】セラミック基板の表面上の多数のストリートからなるスクライブグリッドの平面図であり、前記セラミック基板上に抵抗器のような多数の電子素子が固定され、前記ストリートに沿って本発明に従いスクライブラインが形成される。
【図7】本発明に従ってスクライビングが施されたセラミック基板ピースの滑らかで平坦な側縁を65倍の倍率で示す走査電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の方法をスクライビングが施された表面層を含むセラミックフィルタの側方からの概略図である。
【図9】未焼成セラミック基板に形成されたスクライブラインの側面を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図10】図9のセラミック基板上に形成された分離チップコンデンサの側縁の走査電子顕微鏡写真である。
【図11】セラミック基板に形成された整合穴の走査電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0094】
10,62 セラミック基板
12 電子素子
14 レーザビーム
18,20 第1の表面及び第2の表面
24 基板厚さ
28 ストリート
36 溝
40 側壁
44 折り線
48 溝深さ
56 スクライブグリッド
70 縁
80 整合穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受動電子素子基板にスクライブラインを形成する方法であって、前記スクライブラインは該スクライブラインにより規定される側縁を有する独立した複数のピースへの前記基板の破断を容易にし、前記基板は厚さと複数の同一の互いに間隔をおかれた電子素子のパターンが形成される表面とを有し、前記電子素子は、前記基板の破断により生じた独立したピースが独立した回路素子を含むように前記スクライブラインが形成されるストリートにより分離され、
前記スクライブラインの形成方法が、
前記基板の表面上の前記ストリートの一つに、エネルギ及びスポットサイズにより特徴付けられる紫外線レーザビームを整列させること、
前記紫外線レーザビームと前記基板との間に、溝を形成するために前記レーザビームが前記ストリートに沿って長手方向に向けられかつ深さ方向に基板材料の除去を生じさせるように相対運動を加えることを含み、
前記紫外線レーザビームのエネルギ及びスポットサイズは、前記基板材料中に形成された溝が前記表面から溝の底へ鋭い折り線の形態で収束する幅を有するように、前記基板材料の明らかな溶融なしに前記厚さ方向への除去を生じさせ、
前記溝の形状は、前記基板の厚さ方向へ及び前記折り線に沿って伸びる高応力集中領域を形成し、このために、前記溝の各縁に加えられる破断力に応答して、厚さ方向への多数のひび割れが前記高応力集中領域において前記基板の厚み内に伝播し、前記基板のきれいな破断を生じさせ、前記折り線により規定された側縁を有する独立した複数の電子素子にする、スクライブラインの形成方法。
【請求項2】
前記基板はセラミック又はセラミックのような材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板は、セラミック又はセラミックのような材料からなる単一の層で形成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基板は、セラミック又はセラミックのような材料からなる多数の層で形成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基板は、前記スクライブラインの形成の間、焼成状態におかれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記基板は、前記スクライブラインの形成の間、未焼成状態におかれる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記表面は第1の表面からなり、前記基板は第2の表面を含み、また前記溝は前記第1の表面を経て前記基板材料に形成された第1の溝からなり、
さらに、紫外線レーザビームの整列を繰り返すこと、及び第2の溝であって前記第1の溝と前記第2の溝とが空間的に整列するように前記第2の面を経る第2の溝を前記基板材料に形成するために前記紫外線レーザビームと前記基板との間に相対運動を付与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基板は、前記第1の溝及び前記第2の溝の形成過程においてこれらの溝の空間的整列を容易にする複数の整列穴を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溝の底に前記折り線を形成するように収束する傾斜した第1の側壁及び第2の側壁であって、前記基板の表面に縁を形成するように前記表面に交わる第1の側壁及び第2の側壁を含み、
また、さらに、前記縁に湾曲形状を与えるために前記縁の基板材料を除去するように前記紫外線レーザビームを向けることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記電子素子は、本質的に、抵抗器、コンデンサ、インダクタ、フィルタ、バリスタ、サーミスタ、フェライトビーズ、トランス、トランスジューサ、アクチュエータ、センサ、光スイッチ及びカラーフィルタからなるグループから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記溝の横断面は全体に三角形である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記レーザビームは、前記溝の側壁に沿っての前記基板の軟化溶融を最小にするために協働するに足る短い波長及びパルスエネルギを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記折り線は前記基板の厚さを明らかに貫通しない深さで形成され、これにより、前記基板に形成された前記スクライブラインに全体に直角な方向に伸びるミクロ亀裂の形成を最小にし、また前記基板の破断の間に基板の構造の完全性を維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記深さは前記基板厚さの約5%と約40%との間にある、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記表面は第1の表面であり、前記基板はさらに第2の表面を含み、また、前記第1の表面及び前記第2の表面の一方は、その上に印刷された、前記紫外線レーザビームが前記ストリートに沿って長さ方向に移動するときに前記ストリートと前記紫外線レーザビームとの整列を容易にするパターンを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記基板は第1及び第2の相対する側縁を含み、また前記ストリートは前記第1及び第2の側縁と斜角に交差する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記基板は全体に矩形状を呈する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
さらに、前記基板材料中に複数の溝を形成するため、紫外線レーザビームの整列を繰り返すこと及び前記紫外線レーザビームと前記基板との間の相対運動を与えることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記溝を形成するための相対運動の付与は、前記ストリートに沿った一長さ方向路において行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記溝を形成するための相対運動の付与は、前記ストリートに沿った複数の長さ方向路において行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記レーザビームは、パルス型UV−YAGレーザにより、約15kHz及び約100kHz間の繰り返し率で放出される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記レーザビームは、約50uJ及び約1000uJ間のパルスごとのエネルギで作動するパルス型UV−YAGレーザにより放出される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記レーザビームは、約0.5W及び約10W間の動力で作動するレーザにより放出される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記溝は、約30ミクロンより小さい幅を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記レーザビームは、約30ミクロンより小さいスポットサイズを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記表面は第1の表面であり、前記基板はさらに第2の表面を含み、また前記第1の表面及び前記第2の表面の一方は少なくとも一部が金属層で被覆されている、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記金属層は、銅、銀又はニッケルからなる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ストリートの少なくとも一つが金属層を含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−531640(P2007−531640A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520247(P2006−520247)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/022227
【国際公開番号】WO2005/008849
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(593141632)エレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ インコーポレーテッド (161)
【Fターム(参考)】