説明

可塑化装置

【課題】より簡易に且つ迅速に、樹脂の状態を把握可能な可塑化装置を提供すること。
【解決手段】シリンダ2内に樹脂を供給するフィーダ4と、シリンダ2内を軸方向に移動するスクリュ3とを有する可塑化装置100は、シリンダ2内の所定位置に設置されたシリンダ圧センサ6と、シリンダ圧センサ6の検出値に基づいて、計量工程の際に圧力が上昇し始める位置を推定する圧力上昇点推定部11と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ内に樹脂を供給するフィーダと、そのシリンダ内を軸方向に移動するスクリュとを有する可塑化装置に関し、特に、そのシリンダ内の樹脂の状態を制御可能な可塑化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダ内を軸方向に移動するスクリュを備えた樹脂加工装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この樹脂加工装置は、補給器(ホッパ)からシリンダ内に供給された成形材料の温度を検出する複数の温度検出器と、その成形材料の圧力を検出する複数の圧力検出器と、誘導加熱によりシリンダを加熱する複数の誘導子とを備え、それら複数の温度検出器で検出した値に基づいて算出されるシリンダ内の樹脂の保有する熱量が、予め定められた理想的な熱量となり、また、それら複数の圧力検出器で検出した値に基づいて算出されるシリンダ内の樹脂の溶融度や粘度が、予め定められた理想的な溶融度や粘度となるように、それら複数の誘導子による誘導加熱の度合いを制御する。
【0004】
このようにして、この樹脂加工装置は、シリンダから押し出される樹脂を常に加工に適した状態にすることで、製品の細孔、ひび割れ、歪等を減少させるようにしている。
【0005】
また、従来、シリンダ内に樹脂を供給するフィーダと、そのシリンダ内を軸方向に移動するスクリュとを有する射出成形機が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
この射出成形機は、計量用サーボモータのトルクを検出するトルク検出器と、フィーダの回転数を制御する制御部とを備え、そのトルク検出器が検出した計量用サーボモータのトルクが予め設定された基準値と一致するように、そのフィーダの回転数(シリンダ内の樹脂の状態)を制御する。
【0007】
このようにして、この射出成形機は、計量用サーボモータのトルクの値を小さく抑えることによって、従来よりも小さい定格トルクの計量用モータを使用できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−89820号公報
【特許文献2】特開2004−351661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、引用文献1の樹脂加工装置は、シリンダの軸方向の広い範囲に亘って多数の温度検出器と多数の圧力検出器と多数の誘導子とを設置する必要があり装置構成が複雑になってしまうばかりでなく、誘導子による誘導加熱の度合いを制御することによってシリンダ内の樹脂の状態を制御しようとするので、十分な制御応答性が得られないおそれがある。
【0010】
また、引用文献2の射出成形機は、フィーダの回転数を低減させることによって、スクリュを所定の速度で回転させる際の最大トルクを所定値未満に抑えることができるのみであり、シリンダ内の樹脂の状態を加工に適した状態に調節することはない。
【0011】
上述の点に鑑み、本発明は、より簡易に且つ迅速に、樹脂の状態を把握可能な可塑化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するために、本発明の実施例に係る可塑化装置は、シリンダ内に樹脂を供給するフィーダと、該シリンダ内を軸方向に移動するスクリュとを有する可塑化装置であって、前記シリンダ内の所定位置に設置された、該シリンダ内の所定位置における圧力を検出するシリンダ圧センサと、前記シリンダ圧センサの検出値に基づいて、計量工程の際に圧力が上昇し始める位置を推定する圧力上昇点推定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上述の手段により、本発明は、より簡易に且つ迅速に、樹脂の状態を把握可能な可塑化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例に係る可塑化装置の構成例を示す図である。
【図2】シリンダ内の各点とスクリュ上の基準点との間の距離と、シリンダ内圧との間の関係を説明する図である。
【図3】理想範囲から逸脱している圧力上昇点をその理想範囲内に移動させるための処理を説明する図である。
【図4】圧力上昇点推定・調整処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】圧力上昇点の推定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の実施例に係る可塑化装置の構成例を示す図である。
【0017】
可塑化装置100は、押出成形機や射出成形機等の樹脂加工装置に搭載される装置であり、主に、制御装置1、シリンダ2、スクリュ3、フィーダ4、ホッパ5、シリンダ圧センサ6、スクリュ位置検出装置7、記憶装置8、フィーダ用モータ9、計量用モータ10から構成される。
【0018】
制御装置1は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータであって、例えば、圧力上昇点推定部11及び圧力上昇点位置調整部12のそれぞれの機能要素に対応するプログラムをROMから読み出し、それらプログラムをRAM上に展開しながら、各機能要素に対応する処理をCPUに実行させる。
【0019】
シリンダ2は、スクリュ3を回転可能に且つ軸方向に移動可能に受け入れる内部空間を有する部材であり、その内部空間は、樹脂供給用開口20を介してフィーダ4に接続される。
【0020】
スクリュ3は、フィーダ4から供給される樹脂を溶融しながらシリンダ2の先端(図中左側)に給送するために計量用モータ10によって回転駆動される部材である。
【0021】
また、本実施例において、スクリュ3は、射出用モータ(図示せず。)とボールねじ機構とによって軸方向に直線往復駆動されるものとする。なお、スクリュ3は、他の公知の機構によって軸方向に直線往復駆動されるものであってもよい。
【0022】
また、本実施例において、スクリュ3は、主に、所定のピッチ間隔で配置されるフライト30と、圧力リング部31と、スクリュヘッド32とを備え、フライト30が形成された部分であるスクリュ溝部に沿って圧縮比(スクリュ溝部の外径)が一定となるスクリュであるものとする。
【0023】
フィーダ4は、フィーダ用モータ9によって回転駆動されるフィーダスクリュ40を任意の回転速度で回転させることによってホッパ5から補給される樹脂ペレットを任意の供給速度でシリンダ2内に供給するための部材である。
【0024】
ホッパ5は、フィーダ4に樹脂ペレットを補充するための部材であり、例えば、フィーダ4の上部に取り付けられる。
【0025】
シリンダ圧センサ6は、シリンダ2の内部の圧力を検出するためのセンサであり、例えば、ダイアフラムゲージや静電容量型圧力センサ等が用いられる。
【0026】
また、シリンダ圧センサ6は、シリンダ2の側壁部に形成された一又は複数のセンサ設置用穴60に嵌め込まれる。
【0027】
センサ設置用穴60は、例えば、スクリュ3をシリンダ2内で最も前進させた場合に(図1で示されるように図の最も左側に移動させた場合である。)、フライト30が形成されるスクリュ溝部の後端に対応する位置を第一位置とし、フライト30が形成されるスクリュ溝部と圧力リング部31との間の境界を第二位置としたときの、その第一位置とその第二位置との間の所定位置に形成される。
【0028】
本実施例は、スクリュ中心位置(第一位置と第二位置との間の中間にある位置)に対応するシリンダ2上の位置の前後に二つずつ設置された四つのセンサ設置用穴60のうちの最も左側にある一つにシリンダ圧センサ6を嵌め込む態様であるが、スクリュ中心位置に対応するシリンダ2上の位置付近に一つだけ形成されたセンサ設置用穴60にシリンダ圧センサ6を嵌め込む態様であってもよく、複数(四つ以上を含む。)のセンサ設置用穴60に複数のシリンダ圧センサ6を嵌め込む態様であってもよい。また、シリンダ圧センサ6が嵌め込まれないセンサ設置用穴60には、ダミープラグが嵌め込まれるものとする。
【0029】
スクリュ位置検出装置7は、シリンダ2内におけるスクリュ3の位置を検出するための装置であり、例えば、射出用モータ(図示せず。)を利用してスクリュ3を軸方向に直線往復駆動させる場合にはその射出用モータに取り付けられるエンコーダの出力に基づいてスクリュ3の位置を検出する。
【0030】
記憶装置8は、各種情報を記憶するための装置であり、例えば、EPROMやフラッシュメモリ等の不揮発性記憶媒体であって、後述の理想範囲データベース80(以下、「理想範囲DB80」とする。)を記憶する。
【0031】
フィーダ用モータ9は、フィーダスクリュ40を回転させるためのモータであり、制御装置1が出力する制御信号に応じた回転数でフィーダスクリュ40を回転させる。
【0032】
計量用モータ10は、スクリュ3を回転させるためのモータであり、制御装置1が出力する制御信号に応じた回転数でスクリュ3を回転させる。
【0033】
次に、制御装置1が有する各機能要素について説明する。
【0034】
圧力上昇点推定部11は、シリンダ2内に供給される樹脂によってシリンダ2内の圧力が上昇し始める点(シリンダ2内の位置であり、以下、「圧力上昇点」とする。)を推定するための機能要素であり、例えば、シリンダ圧センサ6の検出値とスクリュ位置検出装置7の検出値とに基づいて圧力上昇点を推定する。なお、本実施例において、シリンダ2内の点(位置)は、スクリュ3と共に軸方向に移動する上述の第一位置(スクリュ3上の点)を基準点Xとしたときの、その基準点Xからの距離として表されるものとし、圧力上昇点も同様に、基準点Xからの距離で表されるものとする。
【0035】
図2は、シリンダ2内の各点とスクリュ3上の基準点Xとの間の距離と、シリンダ内圧との間の関係を説明する図であり、基準点Xからの距離を横軸に配しシリンダ内圧を縦軸に配したマップ(以下、「シリンダ内圧マップ」とする。)の上下に、可塑化装置100の第一状態と第二状態とを示す。
【0036】
可塑化装置100の第一状態は、シリンダ2の先端に溶融樹脂が給送されスクリュ3が図の右方向に押し戻された状態であり、可塑化装置100の第二状態は、更にその給送が進み、スクリュ3が図の右方向に更に押し戻された状態である。なお、第一状態及び第二状態を示す図では、明瞭化のため、不使用のセンサ設置用穴60を省略するものとする。
【0037】
本実施例において、シリンダ内圧マップは、スクリュ3の背圧によって決まる背圧座標TP、並びに、スクリュ3の形状(圧力リング部31の位置等である。)によって決まる圧力リング部前端圧座標FP、ピーク圧座標PP、及び圧力上昇点ILを有する。
【0038】
そして、本実施例において、シリンダ圧マップは、圧力上昇点ILから圧力リング部31の後端(ピーク圧が発生するシリンダ2内の位置であり、以下、「ピーク圧発生位置PL」とする。)までシリンダ内圧がほぼ直線的にピーク圧座標PPに至るまで増大する特性を有することが分かった。
【0039】
また、本実施例において、シリンダ圧マップは、そのピーク圧発生位置PLから圧力リング部31の前端(以下、「圧力リング部前端位置FL」とする。)までシリンダ内圧がほぼ直線的に圧力リング部前端圧座標FPに至るまで減少する特性を有することが分かった。
【0040】
更に、本実施例において、シリンダ圧マップは、その圧力リング部前端位置FLからスクリュヘッド32を僅かに超えた位置(シリンダ内圧が背圧に等しくなるシリンダ2内の位置であり、以下、「背圧発生位置TL」とする。)までシリンダ内圧がほぼ直線的に背圧座標TPに至るまで減少する特性を有することが分かった。
【0041】
これらの特性は、計量工程の開始直後(十分な樹脂が未だシリンダ2内に供給されていない過渡状態)を除き、その計量工程全体に亘って維持されることとなる。
【0042】
従って、ピーク圧座標PPは、背圧設定値からシミュレーションで算出できることとなり、圧力上昇点ILは、圧力上昇点ILからピーク圧発生位置PLまでシリンダ内圧がほぼ直線的に増大するという特性により、圧力上昇点ILとピーク圧発生位置PLとの間の一点におけるシリンダ内圧を検出できれば、高精度に推定できることとなる。なお、ピーク圧座標PPは、背圧座標TPを圧力リング部前端圧座標FPとみなすことによって、背圧座標TPから算出することも可能である。
【0043】
図2の実測圧座標RP1は、可塑化装置100が第一状態にあるときのシリンダ圧センサ6の検出値と基準点Xからシリンダ圧センサ6までの距離とで特定され、実測圧座標RP2は、可塑化装置100が第二状態にあるときのシリンダ圧センサ6の検出値と基準点Xからシリンダ圧センサ6までの距離とで特定される。
【0044】
シリンダ圧センサ6の設置位置は、シリンダ2に対して不変であるが、スクリュ3が計量工程の進行に伴って後退(図の右側に移動)するので、計量工程の進行に伴って基準点Xから遠ざかることとなり、見かけ上、シリンダ内圧マップ上を右から左に移動することとなる。
【0045】
圧力上昇点推定部11は、スクリュ位置検出装置7の検出値に基づいてスクリュ3の位置を特定し(例えば、図2の第一状態にあることを特定し)、シリンダ内圧マップ上のシリンダ圧センサ6の位置を特定する。
【0046】
その後、圧力上昇点推定部11は、シリンダ内圧マップ上の位置が特定されたシリンダ圧センサ6の検出値に基づいて実測圧座標RP1を特定し、ピーク圧座標PPと実測圧座標RP1とに基づいて圧力上昇点ILを導き出すことができる。
【0047】
具体的には、圧力上昇点推定部11は、ピーク圧座標PP及び実測圧座標RP1の二点を通る直線の横軸切片を圧力上昇点ILとして導き出す。
【0048】
すなわち、圧力上昇点ILは、ピーク圧座標PPと実測圧座標一点とで推定できるので、ピーク圧座標PP及び実測圧座標RP2の二点を通る直線の横軸切片を圧力上昇点ILとして導き出すことができる。
【0049】
圧力上昇点位置調整部12は、圧力上昇点の位置を調整するための機能要素であり、例えば、同期率を増大或いは低減させることによって圧力上昇点ILを基準点Xから遠ざけ或いは基準点Xに近づけるようにする。
【0050】
「同期率」は、スクリュ3の回転数に対するフィーダスクリュ40の回転数を意味する。
【0051】
また、スクリュ3の回転数を一定とする場合、フィーダスクリュ40の回転数の増大は同期率の増大を意味し、フィーダスクリュ40の回転数の低減は同期率の低減を意味することとなる。
【0052】
同様に、フィーダスクリュ40の回転数を一定とする場合、スクリュ3の回転数の増大は同期率の低減を意味し、スクリュ3の回転数の低減は同期率の増大を意味することとなる。
【0053】
再び図2を参照すると、圧力上昇点ILは、計量時間、1ショット容量、樹脂物性、背圧、及びスクリュ3の形状等によって決まる所定幅の理想範囲を有する。
【0054】
この理想範囲内の圧力上昇点ILは、可塑化装置100を搭載する樹脂加工装置によって製造される樹脂加工品の品質が一定のレベルに維持されることを意味し、一方で、この理想範囲外の圧力上昇点ILは、基準点Xに近い場合には、過剰なせん断発熱、焼け、かじり、又はおこし等の問題を発生させ、基準点Xから遠い場合には、過剰なせん断発熱、樹脂の未溶融、脱気度不足、又は混練度不足等の問題を発生させる。
【0055】
理想範囲は、記憶装置8の理想範囲DB80に記憶されており、例えば、樹脂加工装置の電源が投入されたときに、その樹脂加工装置の設定に応じた適切な値が採用され制御装置1のRAM上に読み出される。
【0056】
理想範囲DB80は、理想範囲を読み出し可能に体系的に記憶するデータベースであり、計量時間、1ショット容量、樹脂物性、背圧、及びスクリュ3の形状等に関連付けて複数の理想範囲を記憶する。
【0057】
圧力上昇点位置調整部12は、圧力上昇点推定部11が推定した圧力上昇点が理想範囲を逸脱している場合に、その圧力上昇点が理想範囲内となるようにすべく同期率を増減させるために、フィーダ用モータ9及び計量用モータ10の少なくとも一方に対して制御信号を送信する。
【0058】
図3は、理想範囲から逸脱している圧力上昇点がその理想範囲内となるようにするための処理を説明する図であり、圧力上昇点推定部11が推定した圧力上昇点IL1であり基準点Xに近づく方向に理想範囲から逸脱している圧力上昇点IL1を基準点Xから遠ざかる方向に移動させてその理想範囲内とするために、同期率を低減させることを示す。
【0059】
また、図3は、圧力上昇点推定部11が推定した圧力上昇点IL2であり基準点Xから遠ざかる方向に理想範囲から逸脱している圧力上昇点IL2を基準点Xに近づける方向に移動させてその理想範囲内とするために、同期率を増大させることを示す。
【0060】
ここで、図4を参照しながら、可塑化装置100が圧力上昇点を推定し、その推定した圧力上昇点の位置を調整する処理(以下、「圧力上昇点推定・調整処理」とする。)について説明する。なお、図4は、圧力上昇点推定・調整処理の流れを示すフローチャートであり、可塑化装置100は、所定周期で繰り返しこの圧力上昇点推定・調整処理を実行するものとする。
【0061】
最初に、制御装置1は、シミュレーション等により算出される同期率の初期値を取得する(ステップS1)。
【0062】
その後、制御装置1は、圧力上昇点推定部11により、シリンダ圧センサ6及びスクリュ位置検出装置7の検出値を取得する(ステップS2)。
【0063】
なお、シリンダ圧センサ6は、所定のサンプリング周期で繰り返しシリンダ内圧を検出しその検出値をRAM上の検出値ログに記録しているものとする。
【0064】
同様に、スクリュ位置検出装置7は、シリンダ圧センサ6のサンプリング周期と同じサンプリング周期で繰り返しスクリュ3の位置を検出しその検出値をRAM上の検出値ログにシリンダ内圧と対応付けて記録しているものとする。
【0065】
その後、制御装置1は、圧力上昇点推定部11により、取得した検出値に基づいて圧力上昇点を推定する(ステップS3)。
【0066】
図5は、圧力上昇点の推定方法を説明するための図であり、図5(A)は、一つの検出値ペア(スクリュ位置検出装置7の検出値とシリンダ圧センサ6の検出値との組み合わせ)とピーク圧座標PPとを用いた圧力上昇点の推定方法を図解し、図5(B)は、二つの検出値ペアを用いた圧力上昇点の推定方法を図解する。
【0067】
具体的には、制御装置1は、検出値ログに記録された一群の検出値ペアを取得し、その一群の検出値ペアから、基準点Xからシリンダ圧センサ6までの距離が所定範囲TH1内となる検出値ペアを一つ抽出し、その検出値ペアに基づいて圧力上昇点ILを推定する。
【0068】
このように、制御装置1は、圧力上昇点ILからピーク圧発生位置PLまでシリンダ内圧がほぼ直線的に増大するという特性に基づいて、ピーク圧座標PPと一つの検出値ペアとから圧力上昇点ILを推定することができ、また、二つの検出値ペアを用いることでピーク圧座標PPを利用しなくても圧力上昇点ILを推定することができる。
【0069】
すなわち、制御装置1は、基準点Xからシリンダ圧センサ6までの距離が所定距離範囲TH1内となる二つの検出値ペアを抽出し、それら二つの検出値ペアを通る直線を導き出した上で、圧力上昇点ILを推定することができる。
【0070】
また、制御装置1は、基準点Xからシリンダ圧センサ6までの距離が所定距離範囲TH1内となる三つ以上の検出値ペアを抽出し、それら三つ以上の検出値ペアに基づいて近似直線を導き出した上で、圧力上昇点ILを推定するようにしてもよい。
【0071】
また、制御装置1は、二つ以上の検出値ペアを抽出する場合であっても、圧力上昇点ILを推定するためにピーク圧座標PPを用いるようにしてもよい。
【0072】
なお、それら検出値ペアは、一のシリンダ圧センサ6の検出値に基づくものであってもよく、複数のシリンダ圧センサ6の検出値に基づくものであってもよい。
【0073】
また、制御装置1は、計量工程毎に一つの圧力上昇点を推定するが、各計量工程で推定された複数の圧力上昇点を平均化して一つの圧力上昇点を推定するようにしてもよい。
【0074】
その後、制御装置1は、圧力上昇点推定部11により、推定した圧力上昇点が理想範囲内にあるか否かを判定する(ステップS4)。
【0075】
推定した圧力上昇点が理想範囲内にあると判定した場合(ステップS4のYES)、制御装置1は、その時点における同期率(例えば、初期値である。)を使用することとし、今回の圧力上昇点推定・調整処理を終了させるようにする。
【0076】
一方、推定した圧力上昇点が理想範囲内になく理想範囲を逸脱していると判定した場合(ステップS4のNO)、制御装置1は、その逸脱方向を判定する(ステップS5)。
【0077】
基準点Xに近づく方向に逸脱している(図3の圧力上昇点IL1参照。)と判定した場合(ステップS5の「基準点Xに近い」)、制御装置1は、圧力上昇点位置調整部12により、同期率を低減させるようにする(ステップS6)。
【0078】
一方、基準点Xから遠ざかる方向に逸脱している(図3の圧力上昇点IL2参照。)と判定した場合(ステップS5の「基準点Xから遠い」)、制御装置1は、圧力上昇点位置調整部12により、同期率を増大させるようにする(ステップS7)。
【0079】
具体的には、制御装置1は、入力装置(図示せず。)を介した操作者による同期率調節指令を受けた場合に、フィーダ用モータ9及び計量用モータ10の少なくとも一方に対して制御信号(回転数を変更させるための信号)を送信して同期率を増減させるようにし、圧力上昇点が理想範囲内となるまで、ステップS2以降の処理を繰り返すようにする。
【0080】
また、制御装置1は、入力装置(図示せず。)を介した操作者による同期率調節指令を受けることなく、フィーダ用モータ9及び計量用モータ10の少なくとも一方に対して制御信号(回転数を変更させるための信号)を自動的に送信して同期率を増減させるようにし、圧力上昇点が理想範囲内となるまで、ステップS2以降の処理を繰り返すこともできる。
【0081】
また、制御装置1は、圧力上昇点位置調整部12により、同期率を増減させるために、一回の計量工程が終了する毎に自動的にフィーダ用モータ9及び計量用モータ10の少なくとも一方に対して制御信号を送信するようにしてもよい。
【0082】
また、制御装置1は、一回の計量工程が終了する毎に制御信号を送信するのではなく、所定回数の計量工程が終了する毎に制御信号を送信するようにしてもよい。例えば、各計量工程で推定された複数の圧力上昇点を平均化して一つの圧力上昇点を推定した上で同期率を増減させる場合にも対応できるようにするためである。
【0083】
同期率を低減させる場合、圧力上昇点位置調整部12は、計量用モータ10に対して制御信号を出力し、計量用モータ10の回転数を所定の増大幅だけ増大させるようにする。
【0084】
また、圧力上昇点位置調整部12は、フィーダ用モータ9に対して制御信号を出力し、フィーダ用モータ9の回転数を所定の低減幅だけ低減させるようにしてもよい。
【0085】
或いは、圧力上昇点位置調整部12は、フィーダ用モータ9及び計量用モータ10の双方に対して制御信号を出力し、計量用モータ10の回転数を所定の増大幅だけ増大させ、且つ、フィーダ用モータ9の回転数を所定の低減幅だけ低減させるようにしてもよい。
【0086】
なお、フィーダ用モータ9及び計量用モータ10の双方の回転数を制御する場合、圧力上昇点位置調整部12は、計量用モータ10の回転数をより大きく増大させながらフィーダ用モータ9の回転数を増大させるようにしてもよく、フィーダ用モータ9の回転数をより大きく低減させながら計量用モータ10の回転数を低減させるようにしてもよい。
【0087】
一方、同期率を増大させる場合、圧力上昇点位置調整部12は、計量用モータ10に対して制御信号を出力し、計量用モータ10の回転数を所定の低減幅だけ低減させるようにする。
【0088】
また、圧力上昇点位置調整部12は、フィーダ用モータ9に対して制御信号を出力し、フィーダ用モータ9の回転数を所定の増大幅だけ増大させるようにしてもよい。
【0089】
或いは、圧力上昇点位置調整部12は、フィーダ用モータ9及び計量用モータ10の双方に対して制御信号を出力し、計量用モータ10の回転数を所定の低減幅だけ低減させ、且つ、フィーダ用モータ9の回転数を所定の増大幅だけ増大させるようにしてもよい。
【0090】
また、フィーダ用モータ9及び計量用モータ10の双方の回転数を制御する場合、圧力上昇点位置調整部12は、計量用モータ10の回転数をより大きく低減させながらフィーダ用モータ9の回転数を低減させるようにしてもよく、フィーダ用モータ9の回転数をより大きく増大させながら計量用モータ10の回転数を増大させるようにしてもよい。
【0091】
なお、制御装置1は、同期率を所定の増減幅で低減或いは増大させるが、その圧力上昇点の理想範囲からの逸脱度合いに応じて同期率の増減幅を調節するようにしてもよい。この場合、制御装置1は、逸脱度合いが大きいほど同期率の増減幅を増大させるようにする。
【0092】
また、制御装置1は、樹脂加工装置に搭載された表示装置(図示せず。)を用いて、シリンダ圧センサ6の検出値に基づくシリンダ内圧の圧力分布をグラフ表示させるようにしてもよい。
【0093】
また、制御装置1は、その表示装置を用いて、圧力上昇点推定部11により推定された圧力上昇点と理想範囲との間の位置関係、又は、圧力上昇点が理想範囲から逸脱していることを知らせる警告メッセージ等を表示させるようにしてもよい。
【0094】
なお、制御装置1は、その樹脂加工装置の外部に接続される表示装置にそれら情報を表示させるようにしてもよく、音声出力装置(図示せず。)を用いてそれら警告メッセージ等を通知するようにしてもよい。
【0095】
以上の構成により、可塑化装置100は、シリンダ圧センサ6及びスクリュ位置検出装置7の出力に基づいて圧力上昇点を推定するので、より簡易に且つ迅速に、樹脂の状態を把握することができる。
【0096】
また、可塑化装置100は、推定した圧力上昇点が所定の理想範囲内に収まるように同期率を制御するので、より簡易に且つ迅速に、樹脂の状態を加工に適した状態に制御することができる。
【0097】
また、可塑化装置100は、シリンダ2内の一箇所に設置されたシリンダ圧センサ6の検出値、及び、そのシリンダ圧センサ6の基準点Xからの距離と、所定のピーク圧座標とに基づいて圧力上昇点を推定し、その圧力上昇点が所定の理想範囲内に収まるように同期率を制御するので、より簡易に且つ迅速に、樹脂の状態を加工に適した状態に制御することができる。
【0098】
また、可塑化装置100は、フィーダ用モータ9及び計量用モータ10のうちの少なくとも一方を制御することによって同期率を制御するので、より簡易に且つ迅速に、樹脂の状態を加工に適した状態に制御することができる。
【0099】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0100】
例えば、上述の実施例において、可塑化装置100は、圧力上昇点位置調整部12により同期率を制御することによって圧力上昇点を理想範囲内に維持しようとするが、シリンダ2内の温度を調節する温度調節装置や、スクリュ3の背圧を調節する背圧調節装置を制御することによって圧力上昇点を理想範囲内に維持するようにしてもよい。
【0101】
また、上述の実施例において、スクリュ3は、スクリュ溝部に沿って圧縮比(スクリュ溝部の外径)が一定となるタイプのものが利用されるが、スクリュ溝部に沿って圧縮比が変化するタイプのものも利用され得るものとする。
【符号の説明】
【0102】
1・・・制御装置 2・・・シリンダ 3・・・スクリュ 4・・・フィーダ 5・・・ホッパ 6・・・シリンダ圧センサ 7・・・スクリュ位置検出装置 8・・・記憶装置 9・・・フィーダ用モータ 10・・・計量用モータ 11・・・圧力上昇点推定部 12・・・圧力上昇点位置調整部 20・・・樹脂供給用開口 30・・・フライト 31・・・圧力リング部 32・・・スクリュヘッド 40・・・フィーダスクリュ 60・・・センサ設置用穴 80・・・理想範囲DB 100・・・可塑化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内に樹脂を供給するフィーダと、該シリンダ内を軸方向に移動するスクリュとを有する可塑化装置であって、
前記シリンダ内の所定位置に設置された、該シリンダ内の所定位置における圧力を検出するシリンダ圧センサと、
前記シリンダ圧センサの検出値に基づいて、計量工程の際に圧力が上昇し始める位置を推定する圧力上昇点推定部と、
を備えることを特徴とする可塑化装置。
【請求項2】
前記シリンダ圧センサは、前記シリンダ内の一又は複数の位置に設置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の可塑化装置。
【請求項3】
前記圧力が上昇し始める位置を調整する圧力上昇点位置調整部を備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の可塑化装置。
【請求項4】
前記シリンダ圧センサの検出値に基づく圧力分布を表示する表示部を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の可塑化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−131176(P2012−131176A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286672(P2010−286672)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】