説明

可変容量型ベーンポンプ

【課題】簡便に組み立てることが可能な可変容量型ベーンポンプを提供する。
【解決手段】ロータ2の回転に伴って内周面にベーン3が摺動するカムリング4と、カムリング4を収容するポンプボディ10のポンプ収容凹部10aを封止するポンプカバー5と、互いの圧力差によってロータ2に対してカムリング4を偏心させる第一流体圧室31及び第二流体圧室32と、第一流体圧室31及び第二流体圧室32に連通する第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34と、第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34を介して第一流体圧室31及び第二流体圧室32の作動流体の圧力を制御する制御バルブ21とを備え、制御バルブ21はポンプカバー5内に配置され、第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34は、ポンプカバー5におけるロータ2及びカムリング4に当接する端面5bに開口する開口部33a,34aを介して第一流体圧室31及び第二流体圧室32に連通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧機器における油圧供給源として用いられる可変容量型ベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の可変容量型ベーンポンプとして、ロータに対するカムリングの偏心量を変えることによって、ポンプ吐出容量を変化させるものがある。
【0003】
特許文献1には、カムリングとアダプタリングとの間に画成される第一、第二カム室と、第一、第二カム室に連通する第一、第二流体圧通路と、第一、第二流体圧通路を介して第一、第二カム室の作動流体の圧力を制御する制御バルブとを備え、第一、第二カム室の圧力差によってカムリングを揺動させ、ポンプ吐出容量を変化させる可変容量型ベーンポンプが開示されている。
【特許文献1】特開2007−32517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の可変容量型ベーンポンプにおいては、制御バルブはポンプボディ内に配置され、第一、第二流体圧通路は、サイドプレートに形成された通路を介して第一、第二カム室に連通される。
【0005】
このため、ポンプ組立時には、第一、第二流体圧通路とサイドプレートの通路とを位置合せする必要があり、組立性が悪い。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、簡便に組み立てることが可能な可変容量型ベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、駆動軸に連結されたロータと、前記ロータに対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーンと、前記ロータを収容すると共に、前記ロータの回転に伴って内周のカム面に前記ベーンの先端部が摺動するカムリングと、前記ロータと前記カムリングとの間に画成されたポンプ室と、前記カムリングを収容するポンプ収容凹部が形成されたポンプボディと、前記ロータ及び前記カムリングの他側部に当接し、前記ポンプボディの前記ポンプ収容凹部を封止するポンプカバーと、前記カムリング外周の収容空間内に形成され、互いの圧力差によって前記ロータに対して前記カムリングを偏心させる第一流体圧室及び第二流体圧室と、前記第一流体圧室及び前記第二流体圧室にそれぞれ連通する第一流体圧通路及び第二流体圧通路と、前記第一流体圧通路及び前記第二流体圧通路を介して前記第一流体圧室及び前記第二流体圧室の作動流体の圧力を制御する制御バルブと、を備え、前記第一流体圧室と前記第二流体圧室との圧力差によって前記ロータに対する前記カムリングの偏心量を変化させ、前記ポンプ室の吐出容量を変化させる可変容量型ベーンポンプにおいて、前記制御バルブは前記ポンプカバー内に配置され、前記第一流体圧通路及び前記第二流体圧通路は、前記ポンプカバーにおける前記ロータ及び前記カムリングに当接する端面に開口する開口部を介して、それぞれ前記第一流体圧室及び前記第二流体圧室に連通することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、制御バルブは前記ポンプカバー内に配置され、第一流体圧通路及び第二流体圧通路は、ポンプカバーにおけるロータ及びカムリングに当接する端面に開口する開口部を介して、それぞれ第一流体圧室及び第二流体圧室に直接連通するため、簡便に組み立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
(第1の実施の形態)
図1〜図3を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプ100について説明する。図1は可変容量型ベーンポンプ100における駆動軸に垂直な断面を示す断面図であり、図2は図1におけるA−A断面を示す断面図であり、図3は図1におけるB−O−A断面を示す断面図である。
【0011】
可変容量型ベーンポンプ(以下、単に「ベーンポンプ」と称する。)100は、車両に搭載される油圧機器、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機の油圧供給源として用いられるものである。
【0012】
ベーンポンプ100は、駆動軸1にエンジン(図示せず)の動力が伝達され、駆動軸1に連結されたロータ2が回転するものである。
【0013】
ベーンポンプ100は、ロータ2に対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーン3と、ロータ2を収容すると共にロータ2の回転に伴って内周のカム面4aにベーン3の先端部が摺動するカムリング4とを備える。
【0014】
駆動軸1は、ブッシュ27を介してポンプボディ10に回転自在に支持される。ポンプボディ10には、カムリング4を収容するポンプ収容凹部10aが形成される。ポンプボディ10の端部には、駆動軸1外周とブッシュ27内周との間の潤滑油の漏れを防止するためのシール20が設けられる。
【0015】
ポンプ収容凹部10aの底面10bには、ロータ2及びカムリング4の一側部に当接するサイドプレート6が配置される。ポンプ収容凹部10aの開口部は、ロータ2及びカムリング4の他側部に当接するポンプカバー5によって封止される。ポンプカバー5には、ポンプ収容凹部10aに嵌合する円形のインロー部5cが形成され、インロー部5cの端面5bがロータ2及びカムリング4の他側部に当接する。ポンプカバー5は、ポンプボディ10のフランジ部10cにボルト8を介して締結される。
【0016】
このように、ポンプカバー5とサイドプレート6は、ロータ2及びカムリング4の両側面を挟んだ状態で配置される。これにより、ロータ2とカムリング4との間には、各ベーン3によって仕切られたポンプ室7が画成される。
【0017】
カムリング4は、環状の部材であり、ロータ2の回転に伴って各ベーン3間によって仕切られるポンプ室7の容積を拡張する吸込領域(図1ではA−A線の上方)と、各ベーン3間によって仕切られるポンプ室7の容積を収縮する吐出領域(図1ではA−A線の下方)とを有する。ポンプ室7は、吸込領域にて作動油(作動流体)を吸込み、吐出領域にて作動油を吐出する。
【0018】
ポンプ収容凹部10aの内周面には、カムリング4を取り囲むようにして環状のアダプタリング11が嵌装される。また、アダプタリング11は、ロータ2及びカムリング4と同様に、両側面がポンプカバー5とサイドプレート6とによって挟まれる。
【0019】
アダプタリング11の内周面には、駆動軸1と平行に延在すると共に、両端部がそれぞれポンプカバー5及びサイドプレート6に挿入された支持ピン13が支持される。支持ピン13にはカムリング4が支持され、カムリング4はアダプタリング11の内部で支持ピン13を支点に揺動する。
【0020】
支持ピン13は、両端部がそれぞれポンプカバー5及びサイドプレート6に挿入されると共に、カムリング4を支持するため、カムリング4に対するポンプカバー5及びサイドプレート6の相対回転を規制する。
【0021】
アダプタリング11の内周面における支持ピン13と軸対称の位置には、駆動軸1と平行に延びる溝11aが形成される。溝11aには、カムリング4の揺動時にカムリング4の外周面が摺接するシール材14が装着される。
【0022】
このように、カムリング4外周の収容空間であるカムリング4の外周面とアダプタリング11の内周面との間には、支持ピン13とシール材14とによって、第一流体圧室31と第二流体圧室32とが画成される。
【0023】
カムリング4は、第一流体圧室31と第二流体圧室32の作動油の圧力差によって、支持ピン13を支点に揺動する。カムリング4が支持ピン13を支点に揺動することによって、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が変化し、ポンプ室7の吐出容量が変化する。このように、ベーンポンプ100は、ロータ2に対するカムリング4の偏心量を設定することによって吐出容量が変更される。
【0024】
ポンプカバー5には、ポンプ室7の吸込領域に対して円弧状に開口する吸込ポート15が形成される。また、サイドプレート6には、ポンプ室7の吐出領域に対して円弧状に開口する吐出ポート16が形成される。なお、図1では、ポンプ室7に対して開口する吸込ポート15及び吐出ポート16の位置を点線にて示している。
【0025】
本実施の形態では、ベーンポンプ100は可変容量型であるため、ポンプ室7の吸込領域と吐出領域は、それぞれ略180度ずつ形成される。それに対応して、吸込ポート15と吐出ポート16は、それぞれ1つずつ形成され、ポンプ室7の吸込領域と吐出領域に対して円弧状に開口する。なお、吸込ポート15と吐出ポート16は、ポンプ室7の吸込領域と吐出領域の形状に近い円弧状に形成するのが望ましいが、吸込領域と吐出領域に連通する位置であれば、どのような形状でもよい。
【0026】
カムリング4に対するポンプカバー5及びサイドプレート6の相対回転は支持ピン13によって規制されるため、ポンプ室7の吸込領域及び吐出領域に対する吸込ポート15及び吐出ポート16の位置ずれが防止される。
【0027】
吸込ポート15は、ポンプカバー5に形成された吸込通路(図示せず)に連通して形成され、吸込通路の作動油をポンプ室7の吸込領域へと導く。
【0028】
また、吐出ポート16は、ポンプボディ10に形成された高圧室18に連通して形成され、ポンプ室7の吐出領域から吐出される作動油を高圧室18へと導く。
【0029】
高圧室18は、ポンプ収容凹部10aの底面10bに環状に開口して形成される溝部10dがサイドプレート6にて塞がれることによって画成される。高圧室18は、ポンプボディ10に形成され作動油をベーンポンプ100外部の油圧機器へと導く吐出通路19に接続される。
【0030】
このように、ポンプボディ10には高圧室18が形成され、高圧室18に導かれる高圧室18の圧力によって、サイドプレート6はロータ2及びベーン3側に押し付けられる。これにより、ロータ2及びベーン3に対するサイドプレート6のクリアランスが小さくなり、作動油の漏れが防止される。このように、高圧室18は、ポンプ室7からの作動油の漏れを防止するためのプレッシャーローディング機構として作用する。
【0031】
ポンプカバー5にはバルブ収容穴5aが形成され、バルブ収容穴5aには、ロータ2に対するカムリング4の偏心量を制御する制御バルブ21が収容される。バルブ収容穴5aは、駆動軸1の軸方向と直交する向きに形成される。
【0032】
制御バルブ21は、バルブ収容穴5aに摺動自在に挿入されたスプール22と、スプール22の一端とバルブ収容穴5aの底部との間に画成された第一スプール室24と、スプール22の他端とバルブ収容穴5aを封止するプラグ23との間に画成された第二スプール室25と、第一スプール室24内に収装され第一スプール室24の容積を拡張する方向に付勢するリターンスプリング26とを備える。
【0033】
スプール22は、バルブ収容穴5aの内周面に沿って摺動する第一ランド部22a及び第二ランド部22bと、第一ランド部22aと第二ランド部22bとの間に形成された環状溝22cと、第二ランド部22bに結合されスプール22が第二スプール室25の容積を収縮する方向に移動した場合にプラグ23に当接してスプール22の所定以上の移動を規制するストッパ部22dとを備える。
【0034】
制御バルブ21には、第一流体圧室31及び第二流体圧室32にそれぞれ連通する第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34と、環状溝22cに連通すると共に吸込通路に連通するドレン通路(図示せず)と、第二スプール室25に高圧室18の作動油を導く導圧通路35とが接続されている。
【0035】
スプール22は、両端に画成された第一スプール室24及び第二スプール室25に導かれる作動油の圧力による荷重と、リターンスプリング26の付勢力とがバランスした位置で止まる。
【0036】
第一スプール室24の圧力による荷重とリターンスプリング26の付勢力との合計荷重が第二スプール室25の圧力による荷重よりも大きい場合には、リターンスプリング26が伸長し、スプール22はストッパ部22dがプラグ23に当接した状態となる(図2に示す状態)。この状態では、第一流体圧通路33はスプール22の第一ランド部22aによって閉塞され、かつ第二流体圧通路34はスプール22の第二ランド部22bによって閉塞された状態となる。これにより、第一流体圧室31と高圧室18との連通は遮断されると共に、第二流体圧室32とドレン通路との連通も遮断される。ここで、第二流体圧室32には絞り通路36を介して高圧室18の作動油が常時導かれている。したがって、第二流体圧室32の圧力は第一流体圧室31の圧力よりも大きいため、ロータ2に対するカムリング4の偏心量は最大となる。
【0037】
これに対して、第一スプール室24の圧力による荷重とリターンスプリング26の付勢力との合計荷重が第二スプール室25の圧力による荷重よりも小さい場合には、リターンスプリング26が圧縮され、スプール22はリターンスプリング26の付勢力に抗して移動する。この場合には、第一流体圧通路33は第二スプール室25に連通し、その第二スプール室25を介して導圧通路35に連通する。また、第二流体圧通路34はスプール22の環状溝22cに連通し、その環状溝22cを介してドレン通路に連通する。これにより、第一流体圧室31は高圧室18に連通し、第二流体圧室32はドレン通路に連通する。したがって、第二流体圧室32の圧力は第一流体圧室31の圧力よりも小さくなり、カムリング4はロータ2に対する偏心量が小さくなる方向に移動する。
【0038】
なお、第二流体圧通路34と環状溝22cの連通は、スプール22の第二ランド部22bに形成されたノッチ22eを介して行われる。したがって、スプール22の移動量に応じて第二流体圧室32に対するドレン通路の開口面積が増減する。
【0039】
第一流体圧通路33は、駆動軸1の軸方向に延在してポンプカバー5に形成され、一端の開口部はバルブ収容穴5aに開口し、他端の開口部33aはポンプカバー5におけるロータ2及びカムリング4に当接する端面5bに開口する。そして、開口部33aを介して第一流体圧室31に連通する。
【0040】
また、第二流体圧通路34も同様に、駆動軸1の軸方向に延在してポンプカバー5に形成され、一端の開口部はバルブ収容穴5aに開口し、他端の開口部34aはポンプカバー5の端面5bに開口する。そして、開口部34aを介して第二流体圧室32に連通する。
【0041】
このように、第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34は、ポンプカバー5の端面5bに開口する開口部33a及び34a介して、それぞれ第一流体圧室31及び第二流体圧室32に直接連通する。
【0042】
ここで、制御バルブ21は、図1に示すように、第一流体圧室31及び第二流体圧室32の直上に、かつ双方に跨って配置される。したがって、第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34をポンプカバー5に加工する際には、ポンプカバー5の端面5bからバルブ収容穴5aに向かって直線状に、つまり、駆動軸1の軸方向に沿って直線状に成形される。
【0043】
以上のように制御バルブ21は、第一流体圧室31及び第二流体圧室32の作動油の圧力を制御するものであり、吐出通路19に介装された流量検出オリフィス37の前後差圧によって動作する。第一スプール室24には吐出通路19に介装された流量検出オリフィス37の下流の作動油が導かれ、第二スプール室25には流量検出オリフィス37の上流の作動油が導かれる。
【0044】
以下に、流量検出オリフィス37について説明する。
【0045】
ポンプボディ10に形成された穴10eは、環状のシリンダ部38aを有するプラグ38によって封止される。シリンダ部38a内には、略有底筒状のピストン39が摺動自在に挿入され、シリンダ部38aとピストン39とによってシリンダ室45が画成される。
【0046】
ピストン39の底部とカムリング4の外周面との間には、アダプタリング11を貫通し、カムリング4の揺動に追従するフィードバックピン40が介装される。シリンダ室45内には、カムリング4をロータ2に対する偏心量が大きくなる方向に付勢するカムスプリング41が介装される。
【0047】
プラグ38のシリンダ部38aの胴部には、流量検出オリフィス37が開口して形成され、流量検出オリフィス37の開口面積は、シリンダ部38aに対するピストン39の位置によって決まる。具体的には、流量検出オリフィス37の開口面積は、カムリング4が図1に示すように図中左方向に偏心し、ロータ2に対する偏心量が最大になったときには、ピストン39はシリンダ室45の容積を拡張する方向に移動するため、最大となる。また、カムリング4が図1中右方向に偏心し、ロータ2に対する偏心量が最小になったときには、ピストン39はシリンダ室45の容積を収縮する方向に移動するため、最小となる。
【0048】
以上のように構成される流量検出オリフィス37を介して第一スプール室24に導かれる作動油の流れについて説明する。ポンプボディ10とプラグ38のシリンダ部38aの外周との間には、高圧室18に連通すると共に流量検出オリフィス37に連通する通路43が画成され、高圧室18の作動油は、通路43及び流量検出オリフィス37を介してシリンダ室45内に導かれる。シリンダ室45内に導かれた作動油は、ピストン39の底部に形成された開口部39aを通じて、ポンプ収容凹部10aの内周面に形成されアダプタリング11の外周にて画成された溝部10fに流入する。溝部10fは、図示しない通路を介して吐出通路19に連通し、吐出通路19はポート44を介して第一スプール室24に連通している。したがって、溝部10fに流入した作動油は、第一スプール室24へと導かれる。
【0049】
このように、高圧室18の作動油は、流量検出オリフィス37を介して第一スプール室24へと導かれる。つまり、第一スプール室24には、流量検出オリフィス37の下流の作動油が導かれる。
【0050】
これに対して、第二スプール室25には、流量検出オリフィス37の上流の作動油が導圧通路35を介して高圧室18から導かれる。以下に、第二スプール室25と高圧室18とをつなぐ経路について説明する。
【0051】
ポンプボディ10には、ポンプ収容凹部10aの内周面に開口部10gを有すると共に、一端が高圧室18に連通し、他端がポンプカバー5に形成された導圧通路35に連通する溝部10hが形成される。溝部10hの開口部10gがサイドプレート6及びアダプタリング11の外周にて閉塞されることによって、ポンプボディ10とサイドプレート6及びアダプタリング11の外周との間には、導圧通路35と高圧室18とをつなぐ高圧通路47が形成される。
【0052】
これにより、高圧室18の作動油は、高圧通路47及び導圧通路35を通じて第二スプール室25へと導かれる。このように、第二スプール室25には、流量検出オリフィス37の上流の作動油が導かれる。
【0053】
導圧通路35は、駆動軸1の軸方向に延在してポンプカバー5に形成され、一端の開口部はバルブ収容穴5aにおける第二スプール室25に開口し、他端の開口部35aはポンプカバー5の端面5bに開口する。そして、開口部35aを介して高圧通路47に連通する。
【0054】
ここで、高圧通路47は、図1に示すように、第二スプール室25の直下に位置するように形成される。したがって、導圧通路35をポンプカバー5に加工する際には、ポンプカバー5の端面5bから第二スプール室25に向かって直線状に、つまり、駆動軸1の軸方向に沿って直線状に成形される。
【0055】
以上のように、第二スプール室25と高圧室18とは、ポンプボディ10とサイドプレート6及びアダプタリング11の外周との間に形成された高圧通路47によって連通する。従来のベーンポンプでは、第二スプール室25と高圧室18とは、ポンプボディ10の内部に独立して形成された通路によって連通させていた。この場合には、高圧室18を密封するために、サイドプレート6とポンプ収容凹部10aの底面10bとの間(図3中符号50で示す位置)にOリング等のシール部材を設ける必要があった。しかし、ベーンポンプ100では、サイドプレート6及びアダプタリング11の外周が高圧通路47の一部を構成するため、高圧室18を密封するためのシール部材が不要であり、部品点数が少なくなる。また、高圧通路47の加工は、ポンプ収容凹部10aの内周面に溝部10hを成形するだけでよいため、ポンプボディ10の内部に独立した油路を成形する場合と比較して、加工が容易である。
【0056】
次に、以上のように構成されるベーンポンプ100の動作について説明する。
【0057】
駆動軸1にエンジンの動力が伝達されロータ2が回転すると、ロータ2の回転に伴って各ベーン3間が拡張するポンプ室7は、吸込ポート15を通じて吸込通路から作動油を吸込む。また、各ベーン3間が収縮するポンプ室7は、吐出ポート16を通じて作動油を高圧室18に吐出する。高圧室18に吐出された作動油は、吐出通路19を通じて油圧機器へと供給される。
【0058】
作動油が吐出通路19を通過する際、吐出通路19に介装された流量検出オリフィス37の前後には圧力差が生じ、その前後圧力が制御バルブ21の第一スプール室24と第二スプール室25のそれぞれに導かれる。制御バルブ21では、第一スプール室24及び第二スプール室25に導かれる作動油の圧力による荷重と、リターンスプリング26の付勢力とがバランスした位置にスプール22が移動する。
【0059】
ロータ2の回転速度が小さい場合には、流量検出オリフィス37の前後差圧は小さいため、スプール22は、リターンスプリング26の付勢力によって、ストッパ部22dがプラグ23に当接した位置となる。この場合には、スプール22によって、第一流体圧室31と高圧室18との連通は遮断されると共に、第二流体圧室32とドレン通路との連通も遮断されるため、カムリング4は、第二流体圧室32の圧力とカムスプリング41の付勢力とによってロータ2に対する偏心量が最大となる位置となる。
【0060】
このようにしてベーンポンプ100は、最大吐出容量で作動油を吐出し、ロータ2の回転速度に略比例した流量を吐出する。これにより、ロータ2の回転速度が小さい場合でも、油圧機器に対して十分な流量の作動油を供給することができる。
【0061】
これに対して、ロータ2の回転速度が所定値以上に上昇した場合には、流量検出オリフィス37の前後差圧が大きくなるため、スプール22は、リターンスプリング26の付勢力に抗して移動する。この場合には、第一流体圧室31は高圧室18に連通すると共に、第二流体圧室32はドレン通路に連通するため、カムリング4は、第一流体圧室31と第二流体圧室32との圧力差に応じて、ロータ2に対する偏心量が小さくなる方向へと移動する。すなわち、ロータ2に対するカムリング4の偏心量は、第一流体圧室31と第二流体圧室32の差圧によって決まる。
【0062】
このようにしてベーンポンプ100は、流量検出オリフィス37の前後差圧に応じたポンプ吐出容量に調整される。カムリングの偏心量が小さくなるのに伴って、その偏心量がフィードバックピン40に伝わり、ピストン39はシリンダ室45の容積を収縮する方向に移動するため、流量検出オリフィス37の開口面積は小さくなる。したがって、ロータ2の回転速度が所定値以上に上昇するのに伴って、ベーンポンプ100の吐出流量は次第に減少する。これにより、車両の走行時に油圧機器に対して供給される作動油は適度に調節される。
【0063】
以上の実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0064】
制御バルブ21は、ポンプカバー5内に配置され、第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34は、ポンプカバー5におけるロータ2及びカムリング4に当接する端面5bに開口する開口部33a及び34aを有する。したがって、ポンプカバー5をポンプボディ10に対して組み付けるだけで、第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34は、それぞれ第一流体圧室31及び第二流体圧室32に直接連通する。このように、ベーンポンプ100を簡便に組み立てることができる。
【0065】
また、第一流体圧室31、第二流体圧室32、及び高圧通路47に対するポンプカバー5の端面5bに形成された第一流体圧通路33の開口部33a、第二流体圧通路34の開口部34a、及び導圧通路35の開口部35aのそれぞれの位置決めは、ポンプボディ10のポンプ収容凹部10aへのポンプカバー5のインロー部5cの嵌合、及びポンプカバー5への支持ピン13の挿入のみによって行われ、簡単な構成で位置決めすることができる。
【0066】
また、第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34がアダプタリング11を貫通して形成される従来のベーンポンプでは、ポンプ収容凹部10a内周とアダプタリング11外周との間に油漏れが発生することがあり、これにより、高圧側となる第一流体圧通路33からドレン側となる第二流体圧通路34に作動油が漏れることがあった。しかし、本実施の形態のベーンポンプ100では、第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34は、ポンプカバー5におけるロータ2及びカムリング4に当接する端面5bに開口する開口部33a及び34aを介して第一流体圧室31及び第二流体圧室32に直接連通するため、ポンプ収容凹部10a内周とアダプタリング11外周との間に油漏れが発生することはない。したがって、ポンプ効率が向上する。
【0067】
また、ポンプ収容凹部10a内周とアダプタリング11外周との間の油漏れの発生がないため、ポンプ収容凹部10a内周とアダプタリング11外周との間のクリアランスを大きくすることができる。したがって、ポンプ収容凹部10aにアダプタリング11を容易に組み付けることができる。
【0068】
また、第二スプール室25と高圧室18とをつなぐ高圧通路47は、ポンプボディ10とサイドプレート6及びアダプタリング11の外周との間に形成される。したがって、第二スプール室25と高圧室18とをつなぐ油路をポンプボディ10の内部に独立して形成していた従来のベーンポンプでは必要とした高圧室18を密封するためのシール部材を省略することができ、部品点数が少なくなる。また、ポンプボディ10の内部に独立した油路を形成する必要がないため、ポンプボディ10をコンパクトに構成することができる。
【0069】
また、高圧通路47は、ポンプ収容凹部10aの内周面に溝部10hを成形するだけでよいため、ポンプボディ10の内部に独立した油路を成形する場合と比較して、加工が容易である。ポンプボディ10の内部に独立した油路を成形する場合、成形によってポンプボディ10に形成された不要な穴をスチールボール等によって埋めなければならい。しかし、本実施の形態のベーンポンプ100では、そのような作業が不要となる。また、溝部10hはポンプ収容凹部10aの内周面に形成されるものであるため、ポンプボディ10を鋳造や鍛造等によっても簡単に製造することができる。
【0070】
(第2の実施の形態)
次に、図4を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプ200について説明する。図4は可変容量型ベーンポンプ200における駆動軸に垂直な断面を示す断面図である。
【0071】
以下では、上記第1の実施の形態と異なる点を中心に説明し、第1の実施の形態と同様の構成には、同一の符号を付し説明を省略する。
【0072】
ベーンポンプ200は、ロータ2に対してカムリング4を偏心させる機構が上記第1の実施の形態に係るベーンポンプ100と異なる。
【0073】
具体的に説明すると、ベーンポンプ200では、ベーンポンプ100における支持ピン13に代わり、カムリング4を受けるプレート60(受圧部材)がアダプタリング11の内周面に設けられる。
【0074】
プレート60は、平板状の部材であり、アダプタリング11の内周面に形成された凹部11bに嵌合して配置され、カムリング4の外周面が摺動する摺動面60aを有する。
【0075】
カムリング4は、第一流体圧室31と第二流体圧室32の圧力差によって、プレート60の摺動面60a上を摺動して移動し、ロータ2に対して偏心する。このように、ベーンポンプ200においても、ロータ2に対するカムリング4の偏心量は、第一流体圧室31と第二流体圧室32の差圧によって決まる。
【0076】
ベーンポンプ200は、アダプタリング11の内周面に支持されると共に、両端部がそれぞれポンプカバー5及びサイドプレート6に挿入された位置決めピン61も備える。この位置決めピン61によって、ポンプカバー5、サイドプレート6、及びアダプタリング11の回転が規制され、ポンプ室7の吸込領域及び吐出領域に対する吸込ポート15及び吐出ポート16の位置ずれが防止される。なお、位置決めピン61は、アダプタリング11を貫通孔して設けるようにしてもよい。
【0077】
このように、ベーンポンプ200では、ベーンポンプ100における支持ピン13に代わり、プレート60と位置決めピン61を備える。
【0078】
以上の実施の形態によれば、プレート60にてカムリング4を受けるため、支持ピン13を用いる場合と比較してアダプタリング11への応力集中が緩和され、アダプタリング11の破損等を防止することができる。
【0079】
また、カムリング4はプレート60上を摺動して移動するため、カムリング4の外周面に溝等を加工することが不要となる。したがって、製造コストを抑えることができる。
【0080】
また、第一流体圧室31、第二流体圧室32、及び高圧通路47に対するポンプカバー5の端面5bに形成された第一流体圧通路33の開口部33a、第二流体圧通路34の開口部34a、及び導圧通路35の開口部35aのそれぞれの位置決めは、ポンプボディ10のポンプ収容凹部10aへのポンプカバー5のインロー部5cの嵌合、及びポンプカバー5への位置決めピン61の挿入のみによって行われ、簡単な構成で位置決めすることができる。
【0081】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係るベーンポンプは、パワーステアリング装置や無段変速機の油圧供給源に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプにおける駆動軸に垂直な断面を示す断面図である。
【図2】図1におけるA−A断面を示す断面図である。
【図3】図1におけるB−O−A断面を示す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプにおける駆動軸に垂直な断面を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
100,200 可変容量型ベーンポンプ
1 駆動軸
2 ロータ
3 ベーン
4 カムリング
5 ポンプカバー
6 サイドプレート
7 ポンプ室
10 ポンプボディ
10a ポンプ収容凹部
11 アダプタリング
13 支持ピン
18 高圧室
21 制御バルブ
22 スプール
24 第一スプール室
25 第二スプール室
31 第一流体圧室
32 第二流体圧室
33 第一流体圧通路
34 第二流体圧通路
35 導圧通路
33a,34a,35a 開口部
37 流量検出オリフィス
47 高圧通路
60 プレート(受圧部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に連結されたロータと、
前記ロータに対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーンと、
前記ロータを収容すると共に、前記ロータの回転に伴って内周のカム面に前記ベーンの先端部が摺動するカムリングと、
前記ロータと前記カムリングとの間に画成されたポンプ室と、
前記カムリングを収容するポンプ収容凹部が形成されたポンプボディと、
前記ロータ及び前記カムリングの他側部に当接し、前記ポンプボディの前記ポンプ収容凹部を封止するポンプカバーと、
前記カムリング外周の収容空間内に形成され、互いの圧力差によって前記ロータに対して前記カムリングを偏心させる第一流体圧室及び第二流体圧室と、
前記第一流体圧室及び前記第二流体圧室にそれぞれ連通する第一流体圧通路及び第二流体圧通路と、
前記第一流体圧通路及び前記第二流体圧通路を介して前記第一流体圧室及び前記第二流体圧室の作動流体の圧力を制御する制御バルブと、を備え、
前記第一流体圧室と前記第二流体圧室との圧力差によって前記ロータに対する前記カムリングの偏心量を変化させ、前記ポンプ室の吐出容量を変化させる可変容量型ベーンポンプにおいて、
前記制御バルブは前記ポンプカバー内に配置され、
前記第一流体圧通路及び前記第二流体圧通路は、前記ポンプカバーにおける前記ロータ及び前記カムリングに当接する端面に開口する開口部を介して、それぞれ前記第一流体圧室及び前記第二流体圧室に連通することを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。
【請求項2】
前記第一流体圧通路及び前記第二流体圧通路は、前記駆動軸の軸方向に延在して前記ポンプカバーに形成されることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項3】
前記ポンプボディの前記ポンプ収容凹部の内周面に嵌挿され、前記カムリングの外周面との間に前記第一流体圧室と前記第二流体圧室とを画成するアダプタリングと、
前記ポンプボディに形成され、前記ポンプ室から吐出された作動流体が導かれる高圧室と、
前記高圧室に接続された吐出通路に介装された流量検出オリフィスと、
前記ポンプボディと前記アダプタリングの外周との間に形成され、前記高圧室に連通する高圧通路と、をさらに備え、
前記制御バルブは、
前記流量検出オリフィスの前後差圧に応じて移動するスプールと、
前記スプールの両端に画成され前記流量検出オリフィスの下流及び上流の作動流体がそれぞれ導かれる第一スプール室及び第二スプール室と、を備え、
前記第二スプール室には、前記高圧通路を通じて前記高圧室の作動流体が導かれることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項4】
前記制御バルブには、前記第二スプール室に前記高圧室の作動流体を導く導圧通路が接続され、
前記導圧通路は、前記ポンプカバーにおける前記ロータ及び前記カムリングに当接する端面に開口する開口部を介して前記高圧通路に連通することを特徴とする請求項3に記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項5】
前記アダプタリングの内周面に支持され、前記カムリングを揺動自在に支持する支持ピンを備え、
前記第一流体圧室及び前記第二流体圧室に対する前記第一流体圧通路及び前記第二流体圧通路の位置決めは、前記ポンプボディの前記ポンプ収容凹部への前記ポンプカバーのインロー部の嵌合、及び前記ポンプカバーへの前記支持ピンの挿入によって行われることを特徴とする請求項3に記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項6】
前記アダプタリングの内周面に設けられ、前記カムリングを受けると共に当該カムリングの外周面が摺動する受圧部材と、
前記アダプタリングに支持された位置決めピンと、を備え、
前記第一流体圧室及び前記第二流体圧室に対する前記第一流体圧通路及び前記第二流体圧通路の位置決めは、前記ポンプボディの前記ポンプ収容凹部への前記ポンプカバーのインロー部の嵌合、及び前記ポンプカバーへの前記位置決めピンの挿入によって行われることを特徴とする請求項3に記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項7】
前記制御バルブは、前記第一流体圧室及び前記第二流体圧室の直上に、かつ双方に跨って配置されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項8】
前記高圧通路は、前記制御バルブの前記第二スプール室の直下に配置されることを特徴とする請求項3から請求項7のいずれか一つに記載の可変容量型ベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−156211(P2009−156211A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337025(P2007−337025)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】