説明

可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置

【課題】可変容量型ポンプモータ式変速機においてクリープ状態でのエンジンストールを防止することのできる制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ポンプモータ同士の間の高圧流路から排圧してその高圧流路の上限圧力を規定するリリーフ圧を設定するリリーフ弁と、変速機が搭載されている車両が変速機から出力されるクリープトルクで走行状態もしくは停止状態に維持されている際のロードロードもしくはロードロードに対応するデータを検出する負荷検出手段(ステップS6,S7)と、クリープトルクがロードロード以上となるようにリリーフ圧を高くするクリープ制御手段(ステップS13)と、前記クリープトルクがロードロードより小さくかつ前記クリープ制御手段により増大させられたリリーフ圧が予め定めた基準圧力以上となった場合に前記リリーフ圧を低下させるリリーフ圧低下手段(ステップS14)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可変容量型の流体圧ポンプが圧力流体を吐出することに伴う反力を利用して動力源から出力部材に動力を伝達する一方、その圧力流体が可変容量型の流体圧モータを駆動することによりそのモータが出力した動力を出力部材に伝達するように構成された変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の変速機が特許文献1に記載されている。その構成を簡単に説明すると、一対の差動機構が設けられ、それぞれの差動機構における入力要素にエンジンなどの動力源が出力した動力が入力され、またそれぞれの反力要素に可変容量型のポンプモータが連結されている。さらに、各差動機構における出力要素と出力部材との間には、変速ギヤ対が設けられ、シンクロメッシュ機構などの連結機構によってその変速ギヤをトルク伝達可能な状態に選択的に切り替えるように構成されている。さらに、各ポンプモータの吐出口同士および吸入口同士が油路によって連通され、全体として閉回路を構成している。
【0003】
したがって、各差動機構における出力要素をいずれかの変速ギヤ対を介して出力部材に連結し、かつ各ポンプモータの押出容積を所定の容積に設定すると、一方のポンプモータがポンプとして機能して圧力流体を吐出する。それに伴う反力が、該一方のポンプモータが連結されている差動機構の反力要素に作用し、その入力要素に入力されている動力源からのトルクと合成されて出力要素からトルクが出力される。さらにそのトルクは変速ギヤ対のギヤ比に応じて増減されて出力部材に伝達される。これに対して、他方のポンプモータは、前記圧力流体が供給されてモータとして機能し、その出力トルクが、該他方のポンプモータが連結されている差動機構の反力要素に入力され、ここで動力源から入力されたトルクと合成された後、所定の変速ギヤ対を介して出力部材に伝達される。あるいはモータとして機能するポンプモータから出力されたトルクは、所定の変速ギヤ対を介して出力部材に伝達される。
【0004】
このように、動力源が出力した動力は、いずれかの差動機構および変速ギヤ対を介して出力部材に伝達される一方、圧力流体の流動に変換された後、他方の差動機構あるいはギヤ対を介して出力部材に伝達され、しかもその圧力流体を介した動力の伝達は、ポンプモータの押出容積に応じて変化するので、変速比を連続的に、すなわち無段階に変化させることができる。また、一方のポンプモータの押出容積をゼロにすれば、閉回路での圧力流体の流動が阻止されるので、他方のポンプモータがロックされ、その場合には、圧力流体を介した動力の伝達が生じないので、動力伝達効率が高くなる。なお、その変速比は、差動機構および変速ギヤ対のギヤ比に応じた変速比となる。
【0005】
また、特許文献2には、エンジンが出力した動力を、分割機構によって、油圧ポンプとファイナルギヤ側とに分割し、その油圧ポンプで発生させた圧油を油圧モータに供給してこれを駆動し、その油圧モータが出力した動力をファイナルギヤ側に出力するように構成した変速機であって、油圧ポンプまたは油圧モータの容量を変化させることにより、クリープトルクを制御するように構成した車両用変速機のクリープ制御装置が記載されている。なお、特許文献3には、アクセル開度からクリープ走行中であることを判定するように構成された装置が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−64269号公報
【特許文献2】特許第3897319号公報
【特許文献3】特許第3680746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載されている可変容量型ポンプモータ式変速機では、圧力流体を介して出力部材に動力を伝達している状態で少なくともいずれか一方のポンプモータの押出容積を変化させれば、圧力流体を介して伝達されるトルクが変化するので、出力部材のトルクが変化し、変速が生じる。その圧力流体は、いずれか一方のポンプモータがポンプとして機能することにより発生して他方のポンプモータに供給されるので、その圧力流体が各ポンプモータの間の伝達トルク容量を規定し、さらには動力源から出力部材までの間の伝達トルク容量を規定することになる。その圧力流体の圧力が設計上の上限値に達している状態での出力トルクに対して、出力部材に係る負荷トルクの方が大きければ、動力源の回転数が強制的に引き下げられる。このような場合、動力源がガソリンエンジンなどの内燃機関であれば、エンジンストールに到ることになる。
【0008】
また一方、特許文献2に記載された変速機では、クリープ力を油圧ポンプの容量を変えて制御しており、また加速時には油圧ポンプの斜板角度に応じて目標リリーフ圧を設定して必要なトルクを得るように構成されている。しかしながら、クリープ力は、エンジンが加速操作されていずにアイドリング状態で出力するトルクに基づくものであるから、油圧ポンプの容量を増大させてもクリープ力が必ずしも十分に大きくならない場合がある。そのため、特許文献2に記載された変速機においても、登坂路などのロードロードが相対的に大きい状態でクリープ力が不足し、エンジンストールに到る可能性があった。
【0009】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、可変容量型ポンプモータ式変速機においてクリープ状態でのエンジンストールを防止することのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、内燃機関を動力源とするとともに、可変容量型の流体圧ポンプと流体圧モータとを備え、前記内燃機関から入力された動力で前記流体圧ポンプを駆動することによる反力と前記内燃機関から入力された動力の一部とを合成して出力部材に伝達するとともに、その流体圧ポンプで発生した圧力流体を高圧流路を介して前記流体圧モータに供給し、その流体圧モータで出力した動力を前記出力部材に伝達するように構成された可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置において、前記高圧流路から排圧してその高圧流路の上限圧力を規定するリリーフ圧を設定するリリーフ弁と、前記変速機が搭載されている車両が前記変速機から出力されるクリープトルクで走行状態もしくは停止状態に維持されている際のロードロードもしくはロードロードに対応するデータを検出する負荷検出手段と、前記クリープトルクが前記ロードロード以上となるように前記リリーフ圧を高くするクリープ制御手段と、前記クリープトルクがロードロードより小さくかつ前記クリープ制御手段により増大させられたリリーフ圧が予め定めた基準圧力以上となった場合に前記リリーフ圧を低下させるリリーフ圧低下手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記リリーフ圧低下手段によって前記リリーフ圧を低下させられた場合に前記変速機による変速比を小さくするように前記流体圧ポンプおよび/または流体圧モータの押出容積を変更する押出容積変更手段を更に備えていることを特徴とする可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記負荷検出手段は、前記車両がクリープトルクで走行状態もしくは停止状態に維持されている際の目標出力回転数と実出力回転数との回転数差を求める手段を含み、前記クリープ制御手段は、前記回転数差が小さくなるように前記リリーフ圧を高くする手段を含むことを特徴とする可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、流体圧ポンプで発生させた圧力流体を流体圧モータに供給する高圧流路の圧力が、その高圧流路に連通されているリリーフ弁によって制御され、クリープトルクがロードロード以上となるようにリリーフ圧が昇圧制御される。リリーフ圧を予め定めた基準圧力にまで昇圧したのにも拘わらず、クリープトルクがロードロードより小さい場合、リリーフ圧が低下させられて前記高圧流路の圧力が低下させられる。その結果、流体圧ポンプと流体圧モータとの間の伝達トルク容量が低下し、内燃機関と出力部材との連結が緩やかなものとなり、言い換えれば内燃機関と出力部材との間に滑りが生じる連結関係になる。したがって、出力部材の回転数が増大しないとしても内燃機関が自律回転し続けることができるので、いわゆるエンジンストールを回避することが可能になる。
【0014】
請求項2の発明によれば、リリーフ圧を低下させてクリープトルクを小さくした場合、変速比が小さくなるように、流体圧ポンプもしくは流体圧モータの押出容積が制御される。そのため、十分な駆動トルクを得るように内燃機関の出力増大操作(あるいは加速操作)が行われたとしても、変速比が小さいことにより、トルクの増幅の割合が少なく、その結果、出力増大操作(あるいは加速操作)したことによる急激な加速を防止もしくは抑制することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、クリープ状態でのクリープトルクとロードロードとの大小を出力回転数に基づいて判定することができ、またその判定結果に基づいてリリーフ圧あるいはクリープトルクを制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする変速機について説明すると、この発明で対象とする変速機は、少なくとも二つの動力伝達経路を備えており、それら両方の動力伝達経路を介して、動力源から出力部材にトルクを伝達できるように構成され、その結果、動力源と出力部材との回転数の比である変速比を連続的に変化させることのできる変速機である。より具体的には、各動力伝達経路は、ポンプおよびモータのそれぞれと機能する可変容量型流体圧ポンプモータを備えており、この押出容積に応じたトルクを伝達するように構成され、さらにそれぞれの可変容量型流体圧ポンプモータが圧力流体を相互に授受できるように連通されている。したがって、一方の可変容量型流体圧ポンプモータがポンプとして機能することにより、その押出容積に応じたトルクが動力源から出力部材に伝達され、同時に、一方の可変容量型流体圧ポンプモータから他方の可変容量型流体圧ポンプモータに圧力流体が供給されて他方の可変容量型流体圧ポンプモータがモータとして機能する。すなわち、圧力流体を介した動力伝達が、並行して行われる。そのトルクが他方の動力伝達経路を介して出力部材に伝達される。その結果、出力部材に伝達されるトルクは、各動力伝達経路を介して伝達されるトルクの合計になり、しかも圧力流体を介して伝達されるトルクは、各押出容積に応じて変化するので、結局は、変速比が連続的に変化することになる。
【0017】
各動力伝達経路は、それぞれ変速比の異なるギヤ対や巻き掛け伝動機構などの伝動機構を備えることができ、一方の動力伝達経路のみを介して出力部材にトルクを伝達する場合には、変速機の全体としての変速比は、その動力伝達経路における伝動機構の変速比で決まる。このような変速比を仮に固定変速比と称すると、固定変速比を設定している状態では、圧力流体を介した動力の伝達が生じないので、動力の損失が生じにくく、効率のよい伝動状態となる。なお、いずれかの伝動機構のみをトルク伝達に関与させるようにするために、クラッチ機構などの切換機構を各伝動機構に含ませることが好ましく、あるいは動力源もしくは出力部材と伝動機構との間に切換機構を設けることが好ましい。
【0018】
この発明で対象とする変速機は、圧力流体を介して動力を伝達するように構成されているので、上述したように機械的な動力伝達によって変速比を設定する機能を兼ね備えたハイドロスタティック・メカニカル・トランスミッション(HMT)として構成されたものであることが好ましい。そのメカニカルトランスミッションの部分は、必要に応じて適宜の構成とすることができ、常時噛み合っているギヤ対をクラッチ機構もしくは同期連結機構などの切換機構によって選択する構成の機構や、複数の遊星歯車機構もしくは複合遊星歯車機構によって複数の変速比を設定できる構成などを採用することができる。また、可変容量型流体圧ポンプモータは、動力源と出力部材との間に直列に介在させる構成以外に、反力手段として可変容量型流体圧ポンプモータを用いる構成とすることもできる。
【0019】
つぎに、差動機構を動力分配機構として使用するとともに、伝動機構として複数のギヤ対を使用し、したがって可変容量型流体圧ポンプモータが反力機構となっている具体例を説明する。図5に示す例は、車両用の変速機として構成した例であり、流体を介さずにトルクを伝達して設定できるいわゆる固定変速比として四つの前進段および一つの後進段を設定するように構成した例である。すなわち、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関(以下、エンジンと記す)1に入力部材2が連結されており、この入力部材2からこの発明における差動機構に相当する第1遊星歯車機構3および第2遊星歯車機構4にトルクを伝達するように構成されている。そのエンジン1と入力部材2との間にダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させてもよい。
【0020】
第1遊星歯車機構3が入力部材2と同一軸線上に配置され、第2遊星歯車機構4が第1遊星歯車機構3の半径方向で外側に離隔し、それぞれの中心軸線を平行にした状態で並列に配置されている。これらの遊星歯車機構3,4はこの発明の差動機構に相当し、シングルピニオン型やダブルピニオン型などの適宜の形式の遊星歯車機構を用いることができる。図5に示す例はシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成した例であり、外歯歯車であるサンギヤ3S,4Sと、そのサンギヤ3S,4Sと同心円状に配置された、内歯歯車であるリングギヤ3R,4Rと、これらサンギヤ3S,4Sとリングギヤ3R,4Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在かつ公転自在に保持したキャリヤ3C,4Cとを備えている。そして、第1遊星歯車機構3におけるリングギヤ3Rに前記入力部材2が連結され、このリングギヤ3Rが入力要素となっている。
【0021】
また、入力部材2にはカウンタドライブギヤ5が取り付けられており、このカウンタドライブギヤ5にアイドルギヤ6が噛み合っているとともに、そのアイドルギヤ6にカウンタドリブンギヤ7が噛み合っている。このカウンタドリブンギヤ7は、前記第2遊星歯車機構4と同一軸線上に配置され、かつ第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rに、一体となって回転するように連結されている。したがって、第2遊星歯車機構4においては、そのリングギヤ4Rが入力要素となっている。各遊星歯車機構3,4の入力要素であるリングギヤ3R,4Rは、カウンタギヤ対がアイドルギヤ6を備えた構成であるから、同方向に回転するようになっている。
【0022】
第1遊星歯車機構3におけるキャリヤ3Cは出力要素となっており、そのキャリヤ3Cに回転軸としての第1中間軸8が、一体になって回転するように連結されている。この第1中間軸8は中空軸であって、その内部をモータ軸9が回転自在に挿入されており、このモータ軸9の一端部が、第1遊星歯車機構3における反力要素であるサンギヤ3Sに、一体となって回転するように連結されている。
【0023】
第2遊星歯車機構4も同様な構成であって、そのキャリヤ4Cが出力要素となっており、そのキャリヤ4Cに他の回転軸としての第2中間軸10が、一体になって回転するように連結されている。この第2中間軸10は中空軸であって、その内部にモータ軸11が回転自在に挿入されており、このモータ軸11の一端部が、第2遊星歯車機構4における反力要素であるサンギヤ4Sに、一体となって回転するように連結されている。
【0024】
上記のモータ軸9の他方の端部が可変容量型ポンプモータ12の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ12は、斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また吐出ポートもしくは吸入ポートから圧力流体を供給することにより、モータとして機能するようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ12を以下の説明では、第1ポンプモータ12と記し、図にはPM1と表示する。
【0025】
この第1ポンプモータ12には、その押出容積を制御するための容量変更機構が設けられている。この容量変更機構は、斜軸もしくは斜板の傾斜角度を変更し、あるいはラジアルピストンポンプにおけるロータの相対的な偏心量を変更する機能を備えた機構であり、例えばデューティー比に応じた油圧を吐出するソレノイドバルブ(以下、仮に第1ソレノイドバルブと記す)12Aを主体として構成されている。また、容量変更機構は、それ自体がフェールし、あるいは断線などの制御信号系統にフェールが生じるなど、押出容積を任意に制御できない状態が生じた場合に、押出容積が最大となるように構成されている。これは、例えば前記第1ソレノイドバルブ12Aを、断線などのいわゆるOFFフェールした場合に制御油圧を出力しないノーマリークローズ(N/C)タイプの構成としておき、フェール時に制御力が生じないことにより、第1ポンプモータ12における機械的な力で押出容積が最大になるように構成したものである。
【0026】
また、モータ軸11の他方の端部が、可変容量型ポンプモータ13の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ13は、前記モータ軸9側の第1ポンプモータ12と同様の構成のものであり、したがって斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプを採用することができる。なお、この可変容量型ポンプモータ13を以下の説明では、第2ポンプモータ13と記し、図にはPM2と表示する。
【0027】
この第2ポンプモータ13には、その押出容積を制御するための容量変更機構が設けられている。この容量変更機構は、斜軸もしくは斜板の傾斜角度を変更し、あるいはラジアルピストンポンプにおけるロータの相対的な偏心量を変更する機能を備えた機構であり、例えばデューティー比に応じた油圧を吐出するソレノイドバルブ(以下、仮に第2ソレノイドバルブと記す)13Aを主体として構成されている。また、容量変更機構は、それ自体がフェールし、あるいは断線などの制御信号系統にフェールが生じるなど、押出容積を任意に制御できない状態が生じた場合に、押出容積が最大となるように構成されている。これは、例えば前記第2ソレノイドバルブ13Aを、断線などのいわゆるOFFフェールした場合に制御油圧を出力しないノーマリークローズ(N/C)タイプの構成としておき、フェール時に制御力が生じないことにより、第2ポンプモータ13における機械的な力で押出容積が最大になるように構成したものである。
【0028】
各ポンプモータ12,13は、圧力流体である圧油を相互に受け渡すことができるように、油路14,15によって連通されている。すなわち、それぞれの吸入ポート12S,13S同士が油路14によって連通され、また吐出ポート12D,13D同士が油路15によって連通されている。したがって各油路14,15によって閉回路が形成されている。この閉回路での油圧制御のための機構については後述する。なお、図5に示す例では、図5に示す変速機が搭載された車両がエンジン1の動力で走行する場合に一方のポンプモータ12(もしくは13)が逆回転し、その吸入ポート12S(もしくは13S)から圧油を吐出するように構成されており、したがって吸入ポート12S,13S同士を連通させている油路14がこの発明における高圧流路に相当している。
【0029】
上記の各中間軸8,10と平行に、この発明の出力部材に相当する出力軸16が配置されている。そして、この出力軸16と各中間軸8,10との間のそれぞれに、所定の変速比を設定する伝動機構が設けられている。この発明における伝動機構としては、固定された回転数比(変速比)で動力を伝達する機構に限らず、変速比が可変な機構を採用することができ、図5に示す例では、固定された変速比で動力を伝達する複数のギヤ対17,18,19,20が採用されている。
【0030】
具体的に説明すると、前記第1中間軸8には、第1遊星歯車機構3側から順に、第4速駆動ギヤ17Aと第2速駆動ギヤ18Aとが配置されており、第4速駆動ギヤ17Aと第2速駆動ギヤ18Aとは第1中間軸8に対して回転自在に嵌合している。その第4速駆動ギヤ17Aに噛み合っている第4速従動ギヤ17Bと、第2速駆動ギヤ18Aに噛み合っている第2速従動ギヤ18Bとが、出力軸16に一体回転するように取り付けられている。
【0031】
さらに、上記の第4速従動ギヤ17Bに噛み合っている第3速駆動ギヤ19Aと、第2速従動ギヤ18Bに噛み合っている第1速駆動ギヤ20Aとが、第2中間軸10に回転自在に嵌合させられている。したがって、第4速従動ギヤ17Bが第3速従動ギヤを兼ねており、また第2速従動ギヤ18Bが第1速従動ギヤを兼ねている。ここで、各ギヤ対17,18,19,20の回転数比もしくは変速比(それぞれの駆動ギヤの歯数に対する従動ギヤの歯数の比)について説明すると、その回転数比は、第1速用ギヤ対20、第2速用ギヤ対18、第3速用ギヤ対19、第4速用ギヤ対17の順に小さくなるように構成されている。
【0032】
さらに、発進用ギヤ対21が設けられている。この発進用ギヤ対21は、第1速用ギヤ対20と併せて出力軸16に動力を伝達することにより、発進時の駆動力を必要十分に大きくするためのものであって、前記第1ポンプモータ12側のモータ軸9に取り付けられた発進駆動ギヤ21Aと、出力軸16に回転自在に取り付けられた発進従動ギヤ21Bとを備えている。
【0033】
上述した各ギヤ対17,18,19,20,21を、いずれかの中間軸8,10と出力軸16との間でトルク伝達可能な状態とするための切換機構が設けられている。この切換機構は、要は、選択的にトルクを伝達する連結機構であって、従来知られているドグクラッチ機構や同期連結機構(シンクロナイザー、あるいはシンクロメッシュ機構)などの機構を採用することができ、図5にはシンクロナイザーを採用した例を示してある。
【0034】
シンクロナイザーは、基本的には、回転軸と共に回転するスリーブと、その回転軸に対して相対回転する他の回転部材に設けられたスプラインと、前記スリーブに押されて他の回転部材側に移動するシンクロナイザーリングとを有している。そして、スリーブを他の回転部材のスプライン側に移動させる過程でシンクロナイザーリングが回転部材に次第に摩擦接触することにより回転軸と回転部材とを同期させ、その状態でスリーブがスプラインに係合することにより、回転軸と回転部材とを連結するように構成されている。前記出力軸16上で、発進従動ギヤ21Bに隣接する位置に第1のシンクロナイザー(以下、第1シンクロと記す)22が設けられている。この第1シンクロ22は、そのスリーブを図5の左側に移動させることにより係合状態となって、発進従動ギヤ21Bを出力軸16に連結し、発進用ギヤ対21がモータ軸9と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。また、スリーブを図5の右側に移動させることにより解放状態となって、発進従動ギヤ21Bと出力軸16との連結を解くように構成されている。
【0035】
また、前記第2中間軸10上で、第3速駆動ギヤ19Aと第1速駆動ギヤ20Aとの間に第2のシンクロナイザー(以下、第2シンクロと記す)23が設けられている。この第2シンクロ23は、そのスリーブを図5の左側に移動させることにより係合状態となって、第1速駆動ギヤ20Aを第2中間軸10に連結し、第1速用ギヤ対20が第2中間軸10と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図5の右側に移動させることにより他の係合状態となって、第3速駆動ギヤ19Aを第2中間軸10に連結し、第3速用ギヤ対19が第2中間軸10と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。そして、スリーブを中央に位置させることにより解放状態となって、第3速駆動ギヤ19Aおよび第1速駆動ギヤ20Aと第2中間軸10との連結を解くように構成されている。
【0036】
さらに、前記第1中間軸8上で、第2速駆動ギヤ18Aと第4速駆動ギヤ17Aとの間に第3のシンクロナイザー(以下、第3シンクロと記す)24が設けられている。この第3シンクロ24は、そのスリーブを図5の左側に移動させることにより係合状態となって、第2速駆動ギヤ18Aを第1中間軸8に連結し、第2速用ギヤ対18が第1中間軸8と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブを図5の右側に移動させることにより他の係合状態となって、第4速駆動ギヤ17Aを第1中間軸8に連結し、第4速用ギヤ対17が第1中間軸8と出力軸16との間でトルクを伝達するように構成されている。そして、スリーブを中央に位置させることにより解放状態となって、第2速駆動ギヤ18Aおよび第4速駆動ギヤ17Aと第1中間軸8との連結を解くように構成されている。
【0037】
またさらに、第2ポンプモータ13側のモータ軸11上で、第2中間軸10の軸端に隣接する位置に後進用のシンクロナイザー(以下、Rシンクロと記す)25が設けられている。このRシンクロ25は、そのスリーブを図5の右側に移動させることにより係合状態となって、モータ軸11と第2中間軸10、すなわち第2遊星歯車機構4におけるサンギヤ4Sとキャリヤ4Cとを連結して、第2遊星歯車機構4の全体を一体回転させるように構成されている。
【0038】
上記の各シンクロ22,23,24,25は、手動操作によって切り替え動作するように構成することができるが、これに替えていわゆる自動制御するように構成することもできる。その場合は、例えば前述したスリーブを軸線方向に移動させる適宜のアクチュエータ(図示せず)を設け、そのアクチュエータを電気的に制御するように構成すればよい。
【0039】
上述したように、図5に示す変速機は、エンジン1が出力したトルクが、いずれかの中間軸8,10もしくはモータ軸9,11を介して出力軸16に伝達されるように構成されている。そして、その出力軸16には、歯車機構あるいはチェーンなどの巻き掛け伝動機構などの伝動手段29を介してデファレンシャル30が連結され、ここから左右の車軸31に動力を出力するようになっている。
【0040】
さらに、変速機の動作状態を検出するためのセンサが設けられている。具体的には、前述した入力部材2もしくはこれと一体のカウンタドライブギヤ5の回転数Ninを検出する入力回転数センサ32、前記車軸31の回転数Noutを検出する出力回転数センサ33などが設けられている。
【0041】
つぎに、上記の各ポンプモータ12,13を制御するための流体圧回路(油圧回路)について説明する。各ポンプモータ12,13を連通させている前記閉回路14,15には流体(具体的にはオイル)を補給するためのチャージポンプ(ブーストポンプと称されることもある)36が設けられている。このチャージポンプ36は、上記の閉回路からの漏れなどによるオイルの不足を補うためのものであって、前述したエンジン1や図示しないモータなどによって駆動されて、オイルパン37からオイルを汲み上げて閉回路に供給するようになっている。
【0042】
そのチャージポンプ36の吐出口は、前記閉回路における油路14と油路15とにそれぞれチェック弁38,39を介して連通されている。なお、これらのチェック弁38,39は、チャージポンプ36からの吐出方向に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。さらに、チャージポンプ36の吐出圧を調整するための調圧弁(リリーフ弁)40が、チャージポンプ36の吐出口に連通されている。このリリーフ弁40は、スプリングによる弾性力とソレノイドバルブ(以下、仮に第5ソレノイドバルブと記す)40Aの出力圧による押圧力との和より高い圧力(設定圧以上の圧力)が作用した場合に開いてオイルをオイルパン37に排出するように構成されており、したがってチャージポンプ36の吐出圧をパイロット圧に応じた圧力に設定するように構成されている。
【0043】
さらに、第1ポンプモータ12の吸入ポート12Sと油路15との間に、調圧弁(リリーフ弁)41が設けられている。言い換えれば、第1ポンプモータ12と並列に、各油路14,15を連通させるようにリリーフ弁41が設けられている。このリリーフ弁41は、第1ポンプモータ12の吸入ポート12S、または第2ポンプモータ13の吸入ポート13Sから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。すなわち、リリーフ弁41は、これに付設されたソレノイド41Aによって調圧値を設定するように構成されており、いずれかの吸入ポート12S,13Sからの吐出圧がその調圧値以上(設定圧以上)の場合には、リリーフ弁41が開いて排圧することにより、吐出圧すなわち高圧側の油路14の圧力を、調圧値(設定圧)以下に維持するようになっている。
【0044】
また、第2ポンプモータ13の吐出ポート13Dと油路14との間に、調圧弁(リリーフ弁)42が設けられている。言い換えれば、第2ポンプモータ13と並列に、各油路14,15を連通させるようにリリーフ弁42が設けられている。このリリーフ弁42は、第2ポンプモータ13の吐出ポート13D、または第1ポンプモータ12の吐出ポート12Dから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。すなわち、リリーフ弁42は、これに付設されたソレノイド42Aによって調圧値を設定するように構成されており、いずれかの吐出ポート12D,13Dからの吐出圧がその調圧値以上の場合には、リリーフ弁42が開いて排圧することにより、吐出圧すなわち油路15の圧力を、調圧値(設定圧)以下に維持するようになっている。
【0045】
上記の各ポンプモータ12,13の押出容積や各シンクロ22,23,24,25を電気的に制御できるように構成されており、そのための電子制御装置(ECU)43が設けられている。この電子制御装置43は、マイクロコンピュータを主体にして構成されたものであって、所定の回転部材の回転数や他の検出信号が入力され、それらの入力された信号および予め記憶している情報ならびにプログラムに基づいて演算を行い、その演算結果に応じて指令信号を出力するように構成されている。
【0046】
上記の変速機は、エンジン1の動力を出力軸16に伝達する動力伝達経路として、第1ポンプモータ12によって反力が与えられる第1遊星歯車機構3および第4速用ギヤ対17もしくは第2速用ギヤ対18を介して出力軸16に動力を伝達する経路と、第2ポンプモータ13によって反力が与えられる第2遊星歯車機構4および第3速用ギヤ対19もしくは第1速用ギヤ対20を介して出力軸16に動力を伝達する経路との二つの経路を備えている。そして、それぞれの動力伝達経路を介して伝達されるトルクは、それぞれに設けられているポンプモータ12,13の押出容積に応じて変化するようになっている。そして、そのトルクTは、各押出容積をq1,q2とし、かつ油路14,15の圧力差をPとすると、
T=(q1+q2)・P/2π
で表される。
【0047】
つぎに、上述した変速機の作用について説明する。図6は、各変速段を設定する際の各ポンプモータ(PM1,PM2)12,13、および各シンクロ22,23,24,25の動作状態をまとめて示す図表であって、この図6における各ポンプモータ12,13についての「OFF」は、ポンプ容量を最小もしくは実質的にゼロとし、その出力軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されても出力軸が回転しない状態(フリー状態もしくは空転状態)を示し、「LOCK」はそのロータの回転が止まっている状態を示している。さらに「油圧発生」は、ポンプ容量を実質的なゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当するポンプモータ12,13はポンプとして機能している。また、「油圧回収」は、一方のポンプモータ13(もしくは12)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当するポンプモータ12(もしくは13)は軸トルクを発生し、対応するモータ軸9,11および中間軸8,10に駆動トルクを伝達している。
【0048】
そして、各シンクロ22,23,24,25についての「右」、「左」は、それぞれのシンクロ22,23,24,25におけるスリーブの図5での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「○」は該当するシンクロ22,23,24,25をOFF状態(中立位置)に設定することにより引き摺りを低減している状態、「−」は該当するシンクロ22,23,24,25をOFF状態(中立位置)に設定して中立状態となっていることを示す。
【0049】
ニュートラルポジションが選択されてニュートラル(N)状態を設定する際には、各ポンプモータ12,13が「OFF」状態とされ、また各シンクロ22,23,24,25のスリーブが中央位置に設定される。したがって、いずれのギヤ対17,18,19,20,21も出力軸16に連結されていないニュートラル状態となる。すなわち、各ポンプモータ12,13が、押出容積(ポンプ容量)が実質的にゼロとなるように制御される。その結果、いわゆる空回り状態となるので、各遊星歯車機構3,4のリングギヤ3R,4Rにエンジン1からトルクが伝達されても、サンギヤ3S,4Sに反力が作用しない。そのため、出力要素であるキャリヤ3C,4Cに連結されている各中間軸8,10にはトルクが伝達されない。
【0050】
シフトポジションがドライブポジションなどの走行ポジションに切り替えられると、第1シンクロ22のスリーブが図5の左側に移動させられるとともに第2シンクロ23のスリーブが、図5の左側に移動させられる。したがって、発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9に連結されて第1ポンプモータ12と出力軸16とが連結され、また第1速駆動ギヤ20Aが第2中間軸10に連結されて第2遊星歯車機構4の出力要素であるキャリヤ4Cと出力軸16とが連結される。すなわち、固定変速比である第1速を設定する状態となる。また、これと併せて各ポンプモータ12,13の押出容積がゼロより大きい容積に制御される。
【0051】
したがって、第2ポンプモータ13は前記第2遊星歯車機構4によって分配されたエンジン1の動力によって駆動されてポンプとして機能する。したがって、第2ポンプモータ13は、油圧を発生させることに伴う反力トルクをモータ軸11およびサンギヤ4Sに与える。これを図6には「油圧発生」と記載してある。そのため、第2遊星歯車機構4の差動作用によってキャリヤ4Cにトルクが伝達され、そのトルクが第1速用ギヤ対20を介して出力軸16に伝達される。
【0052】
一方、第2ポンプモータ13で発生した油圧がその吸入ポート13Sから吐出されて第1ポンプモータ12の吸入ポート12Sに供給される。その結果、第1ポンプモータ12がモータとして機能する。これを図6には「油圧回収」と記載してある。このようにして第1ポンプモータ12に伝達される動力が発進用ギヤ対21を介して出力軸16に伝達される。したがって発進から第1速までの駆動状態では、第2遊星歯車機構4を介したいわゆる機械的な動力の伝達と、油圧を介した動力の伝達との両方が生じ、これらの動力を合成した動力が出力軸16に現れる。また、この過程での変速比は、固定変速比である第1速より大きい値となり、その変速比は連続的に、あるいは無段階に変化する。
【0053】
こうしてエンジン1の回転数や車速が変化して第1速の変速比になると、第1ポンプモータ12の押出容積がゼロに設定されてOFF状態となり、また第2ポンプモータ13の押出容積が最大に設定され、その結果、実質上、第2ポンプモータ13の回転がロックされる。すなわちモータ軸11およびこれに連結されている第2ポンプモータ13が固定される。その結果、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sが固定され、また第1遊星歯車機構3は出力軸16に対する動力の伝達に関与しなくなるので、エンジン1が出力した動力は、第2遊星歯車機構4および第1速用ギヤ対20を介して出力軸16に伝達される。すなわち、第1速用ギヤ対20のギヤ比で決まる固定変速比が設定される。なお、この場合、第1ポンプモータ12およびこれに連結されているモータ軸9が空転するので、第1中間軸8にトルクは現れない。なお、この固定変速比である第1速で第1シンクロ22のスリーブを解放状態(図6の〇印)とすれば、第1ポンプモータ12を連れ回さないので、動力損失を防止できる。また、アップシフト待機状態となる。
【0054】
固定変速比である第1速からアップシフトする場合、第3シンクロ24のスリーブを図5の左側に移動させて第2速駆動ギヤ18Aを第1中間軸8に連結しておく。なお、Rシンクロ25は中立状態にしておく。また、第3シンクロ24のスリーブを第2速駆動ギヤ18Aに係合させる場合、第3シンクロ24のスリーブの回転数と第2速駆動ギヤ18Aとの回転数を一致させる同期制御を行う。その同期制御は、前記シンクロ22,23,24,25のスリーブを相手部材に係合させる場合にも同様に行われる。
【0055】
この状態で、第1ポンプモータ12の押出容積を最大に向けて次第に増大させる。第2速へのアップシフト待機状態では、第1ポンプモータ12は逆回転しているから、その押出容積を次第に増大させることによりポンプとして機能する。すなわち、油圧を発生し(図6に「油圧発生」と記してある)、同時にそれに伴う反力トルクがモータ軸9に現れる。その結果、第1遊星歯車機構3および第2速用ギヤ対18を介した動力の伝達が次第に行われる。また、第1ポンプモータ12で発生した油圧が第2ポンプモータ13に供給されてこれがモータとして機能する(図6に「油圧回収」と記してある)ので、第2ポンプモータ13および第2遊星歯車機構4ならびに第1速用ギヤ対20を介した動力の伝達が生じる。そのため、第1速から第2速への変速の過程での変速比は、第1速の変速比と第2速の変速比との間の値となり、かつ連続的に変化する変速比となる。すなわち、変速比が連続的に変化する無段変速状態となる。これは、上述した発進から第1速の変速比に到るまでの間、および各固定変速比の間でも同様であり、したがって上述した変速機は、無段変速機として機能させることができる。
【0056】
上述のようにして第1ポンプモータ12の押出容積をほぼ最大にしてその回転が停止し、もしくは停止に近い状態になることにより、モータ軸9が実質的に固定される。また、併せて第2ポンプモータ13がOFF状態に設定される。したがって、第1遊星歯車機構3では、そのサンギヤ3Sが固定されるので、リングギヤ3Rに入力された動力がキャリヤ3Cから中間軸8を経て第2速駆動ギヤ18Aに出力される。一方、第2ポンプモータ13はOFF状態となっており、これと同軸上に配置されているRシンクロ25および第2シンクロ23はOFF状態であってそのスリーブが中立位置にあるので、第2ポンプモータ13や第2遊星歯車機構4は動力の伝達に関与しない。したがって、第2速用ギヤ対18のギヤ比で決まる固定変速比である第2速が設定される。
【0057】
以下、同様にして、第3速は第2シンクロ23のスリーブを図5の右側に移動させて第3速駆動ギヤ19Aを第2中間軸10に連結する係合状態とし、また第2ポンプモータ13の押出容積を最大にすることにより、第1速の場合と同様に、モータ軸11および第2ポンプモータ13を固定し、さらに他のシンクロ22,24は解放状態にする。したがって、第3速用ギヤ対19を介して出力軸16に動力が伝達され、固定変速比である第3速が設定される。また、第4速は第3シンクロ24のスリーブを図5の右側に移動させて第4速駆動ギヤ17Aを第1中間軸8に連結する係合状態とし、また第1ポンプモータ12の押出容積を最大にすることにより、第2速の場合と同様に、モータ軸9および第1ポンプモータ12を固定し、さらに他のシンクロ23,25は解放状態にする。したがって、第4速用ギヤ対17を介して出力軸16に動力が伝達され、固定変速比である第4速が設定される。
【0058】
さらに、後進段について説明すると、シフト装置によってリバースポジションが選択された場合には、第1シンクロ22のスリーブが図5の左側に移動させられ、またRシンクロ25のスリーブが図5の右側に移動させられ、さらに他のシンクロ23,24がOFF状態に設定される。したがって、Rシンクロ25によって第2中間軸10とモータ軸11とが連結されることにより、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sとキャリヤ4Cとが連結されて第2遊星歯車機構4の全体が実質的に一体化される。また、発進駆動ギヤ21Aがモータ軸9すなわち第1ポンプモータ12のロータに連結される。
【0059】
したがって、エンジン1から第2遊星歯車機構4に伝達された動力がそのまま第2ポンプモータ13に伝達されてこれが駆動され、第2ポンプモータ13によって油圧が発生する。なお、第2シンクロ23がOFF状態であるから、第2遊星歯車機構4あるいは第2中間軸10から出力軸16に動力が伝達されることはない。一方、第1ポンプモータ12の押出容積がゼロより大きい容積、例えば最大容積に制御される。その結果、第2ポンプモータ13から供給された油圧によって第1ポンプモータ12がモータとして機能し、モータ軸9にトルクを出力する。その場合、第1ポンプモータ12にはその吐出ポート12Dから油圧が供給されるので、第1ポンプモータ12が逆回転する。そして、そのトルクが発進用ギヤ対21を介して出力軸16に伝達されるので、後進状態となる。すなわち、後進段では、油圧を介した動力の伝達が生じ、これを図6では、第1ポンプモータ12について「油圧回収」と記し、第2ポンプモータ13について「油圧発生」と記してある。
【0060】
上記のようにこの発明で対象とする変速機では、いずれかのギヤ対17,〜20をシンクロ23,24によってトルク伝達可能な状態とし、かつトルク伝達可能なギヤ対に連結される遊星歯車機構3,4に対する反力をいずれかのポンプモータ12,13をロックして最大とすれば、そのギヤ対のギヤ比に応じた固定変速比が設定される。これに対して、固定変速比の間の変速比は、伝達されるトルクが前述した式で表される関係にあるので、一方の押出容積を最大にし、かつ他方の押出容積を最大と最小との中間の値に制御することにより設定することができ、あるいは両方の押出容積を中間の値に制御しても設定することができる。
【0061】
図5に示すこの発明で対象とする変速機では、いずれか一方のポンプモータ12,13の押出容積をゼロにして他方のポンプモータ12,13をロックすることによりいわゆる固定変速比が設定され、またいずれか一方のポンプモータ12,13で発生した圧油を他方のポンプモータ12,13に供給することにより、固定変速比以外の変速比が設定される。したがって、変速比あるいは出力軸16のトルクを油圧によって制御でき、この機能を利用してクリープトルクあるいはクリープ走行を油圧で制御できる。例えば、上述した発進時のように第1速用のギヤ対20と発進用のギヤ対21とを出力軸16に対してトルクを伝達できる状態に設定すれば、アイドリング状態のエンジン1が出力した動力が出力軸16に伝達される。その際に第2ポンプモータ13から第1ポンプモータ12に供給される圧油を前記リリーフ弁41によって油路14から排圧すれば、第2ポンプモータ13から吐出した圧油の一部が油路14から排出されて第2ポンプモータ13の回転数がある程度以上の回転数に維持されるので、低車速であることにより出力軸16の回転数が低回転数であっても、エンジン1の自律回転を維持させることができる。また、各ポンプモータ12,13の押出容積を共に小さくすることによっても同様の状態を設定することができる。
【0062】
なお、図示しないアクセルペダルを踏み込まないなどの加速操作を行っていない状態でエンジン1が出力する動力で車両が走行する現象をクリープ現象と言い、そのような走行状態がクリープ走行であり、その駆動トルクがクリープトルクである。
【0063】
この発明に係る制御装置は、上述した図5に示す変速機におけるクリープトルクもしくはクリープ走行を図1に示すように制御し、またエンジンストールを回避するための制御を行う。この図1に示す制御は、この発明の制御装置による制御の一例であり、図5に示す変速機を搭載している車両が走行する路面のロードロードに拘わらずに安定したクリープ走行を行うように構成され、またリリーフ圧を低下させてエンジンストールを回避するように構成されている。
【0064】
図1に示す制御ルーチンは、前述した電子制御装置43によって、所定の短い時間間隔で繰り返し実行されるようになっており、先ず駆動レンジが設定されているか否かが判断される(ステップS1)。この駆動レンジは、図示しないシフト装置によって選択される変速機の動作状態であり、要は、エンジン1の動力を出力軸16に伝達する動作状態である。この判断は、シフト装置に設けたスイッチもしくはセンサの出力信号に基づいて行うことができる。なお、駆動レンジには、前進走行するための前進レンジ、変速比を機構上設定可能な最高速変速比より低速側の変速比およびそれより大きい変速比に制限する低速レンジ、後進走行するための後進レンジなどが含まれる。また、シフト装置によって選択できるレンジは、これ以外に、車両を停止状態に維持するためのパーキングレンジ、エンジン1と出力軸16との間のトルクの伝達を遮断するニュートラルレンジなどがある。
【0065】
駆動レンジが選択されていないことによりステップS1で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。これとは反対に駆動レンジが選択されていることによりステップS1で肯定的に判断され場合には、クリープトルクが出力されている状態か否かが判断される。すなわち、エンジン回転数Neが所定値以下か否か(ステップS2)、車速が所定車速以下か否か(ステップS3)がそれぞれ判断される。ここで、エンジン回転数Neについての判断基準となる所定値は、アイドル回転数程度の値であり、予め定めた一定値であってもよく、あるいは暖機完了前であることや、補機負荷があるなどのことによりいわゆるアイドルアップされている場合には、その状態に応じて設定した値であってもよい。また、車速についての判断基準となる所定車速は小さい値であり、したがってステップS3は、要は、車両が停止状態であるか否か、あるいはクリープ走行状態であるかを判断するステップである。
【0066】
エンジン回転数Neが所定値より高回転数であることによりステップS2で否定的に判断された場合、あるいは車速が所定車速より高車速であることによりステップS3で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。これに対してこれらステップS2およびステップS3のいずれでも肯定的に判断された場合には、ブレーキがOFF(解放状態)か否かが判断される(ステップS4)。制動操作されていることによりステップS4で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。クリープトルクを制御する必要がないからである。これとは反対に制動操作されていないことによりステップS4で肯定的に判断された場合には、アクセルOFFか否かが判断される(ステップS5)。すなわち、図示しないアクセルペダルが踏み込まれていないか否かか判断される。これは、クリープ走行する状態か否かの判断と言い得る。
【0067】
ステップS5で否定的に判断された場合には、アクセルペダルが踏み込まれていて、エンジン1の出力を増大させて走行する状態になっていることになるので、クリープトルクを制御する状態にはなく、したがって特に制御を行うことなくリターンする。これに対してステップS5で肯定的に判断されてクリープ走行する状態になっていれば、目標出力回転数と実出力回転数との差ΔNが算出される(ステップS6)。この目標出力回転数は、クリープ走行時の車速に相当する出力軸16もしくは車軸31の回転数であり、設計上、予め決められる回転数である。これに対して実出力回転数は前述した出力回転数センサ33で検出された回転数に基づいて求められる回転数である。
【0068】
このようにして求められた回転数差ΔNが予め定められた基準値より大きいか否かが判断される(ステップS7)。すなわち、実出力回転数が、目標出力回転数に対して基準値を超えて低回転数になっているか否かが判断される。これは、言い換えれば、クリープ走行している際の車速が設計上決めた基準車速を大きく下回っているか否か、あるいは逆回転しているか否かの判断であり、したがってステップS7の判断は、車速を判断するように構成してもよい。ステップS7で否定的に判断された場合には、実出力回転数もしくは実際の車速が基準値以上(車両がずり下がらずに停止している状態を含む)であることになるので、クリープトルクを特に増大制御する必要がなく、したがってこの場合は特に制御を行うことなくリターンする。これに対してステップS7で否定的に判断された場合には、実出力回転数もしくは実際の車速が目標出力回転数もしくは目標とする車速に対して基準値を超えて低回転数もしくは低車速になっていることになり、これは、ロードロードに対して出力トルク(クリープトルク)が不足していることが要因である。
【0069】
したがって、ステップS6はロードロードもしくはこれに対応するデータを検出していることになり、ステップS7はそのロードロードに対してクリープトルクが不足していることを判断していることになるので、ステップS6はロードロードを判断もしくは検出するステップに置き換えてもよい。なお、ロードロードはナビゲーションシステムによる車両の位置情報、およびその位置情報に基づく道路の情報に基づいて判断もしくは検出でき、さらにはサインポストから受信した情報などによって判断もしくは検出できる。またステップS7はその判断もしくは検出されたロードロードとクリープトルクとを比較するステップに置き換えてもよい。
【0070】
クリープトルクが不足していることによりステップS7で肯定的に判断された場合には、前述した閉回路におけるオイルの温度(油温)が基準温度より低温か否かが判断される(ステップS8)。そのステップS8は、オイルの過熱状態を判断するためのものであり、図示しない油温センサによる検出信号に基づいて判断することができる。したがって、この基準温度は、使用しているオイルの特性あるいは仕様などを考慮して予め設定することができる。
【0071】
油温は、油圧を高くするほど上昇しやすい。したがって、ステップS8で肯定的に判断された場合には、油圧を未だ高くできる状態になっていることになり、そこでこの場合は、先ず、その時点におけるポンプモータ12,13の押出容積が、判断基準として設定した所定容量より低容量か否かが判断される(ステップS9)。これは、圧油を介した動力の伝達の割合を増大させて変速比を大きくできるか否か(変速比を低速側に変更できるか否か)を判断するためのものである。すなわち、図5に示す構成の変速機では、いわゆる固定変速比以外の変速比は、二つの変速段用のギヤ対をトルク伝達可能な状態とし、そのうちの低速段側のギヤ対に対してはモータとして機能するポンプモータからトルクを伝達するので、そのモータとして機能するポンプモータに対する圧油の供給量を増大するように、ポンプとして機能する他方のポンプモータの押出容積を減少させれば、出力軸16のトルクが増大し、変速比が低速側に変化する。
【0072】
このステップS9で否定的に判断された場合には、先ず、ポンプとして機能しているポンプモータ13での発生油圧(高圧流路である油路14の圧力)がリリーフ弁41の設定圧より高圧か否かが判断される(ステップS10)。その発生油圧は、油路14の圧力を油圧センサで検出して求めてもよく、あるいはポンプモータ13の押出容積とエンジントルクとから算出してもよい。また、リリーフ弁41の設定圧は、そのソレノイド41Aの制御量(電流値もしくはデューティ比)から求めることができる。
【0073】
ポンプモータ13での発生油圧がリリーフ弁41の設定圧以下であることによりステップS10で否定的に判断された場合には、高圧流路である油路14の圧力、すなわちモータとして機能するポンプモータ12に供給する油圧を高くすることにより出力軸16のトルク(すなわちクリープトルク)を増大させることができないので、変速比が低速側となるようにポンプモータ12,13の押出容積を設定する(ステップS11)。いわゆる登坂制御である。その後、リターンする。
【0074】
ここで、各ポンプモータ12,13の押出容積と発進時の変速比との関係について説明すると、ポンプとして機能しているポンプモータ13の押出容積を相対的に小さくし、かつモータとして機能しているポンプモータ12の押出容積を相対的に大きくすれば、モータ側に送られる圧油の流量が少なくなるものの、モータの出力トルクが大きくなる。その結果、出力軸16に現れるトルクが大きくなり、変速比としては低速側の変速比になる。これを、前述した発進用ギヤ対21と第1速用ギヤ対20とで出力軸16にトルクを伝達している状態について示せば、図2のとおりである。すなわち、モータとして機能する第1ポンプモータ12の押出容積をゼロにすることにより、ポンプとして機能する第2ポンプモータ13がロックされるので、第1速用ギヤ対20のみを介して出力軸16にトルクが伝達され、変速比はその第1速用ギヤ対20のギヤ比で決まる固定変速比である第1速の変速比になる。この状態から第1ポンプモータ12の押出容積を次第に増大させると、変速比は第1速用ギヤ対20のギヤ比で決まる変速比から次第に増大する。すなわち低速側の変速比となる。そして、第1ポンプモータ12の押出容積が最大になった後は第2ポンプモータ13の押出容積を低下させることにより、変速比は更に増大する。なお、各ポンプモータ12,13の押出容積の増大と低下とは同時に行ってもよい。
【0075】
この関係を式で示せば、数1のとおりである
【数1】

【0076】
ここで、Tinは入力トルク、T1stは変速用ギヤ対(上記の例では第1速用ギヤ対20)を介して伝達されるトルク(機械伝達部出力トルク)、Tsは圧油を介して伝達されるトルク(流体伝達部出力トルク)、Toutは車軸31での出力トルク、k1stは変速用ギヤ対のギヤ比であり上記の例では第1速用ギヤ対20のギヤ比、ksは圧油を介して伝達されるトルクを出力軸16に伝達するギヤ対のギヤ比であり上記の例では発進用ギヤ対21のギヤ比、kDはデファレンシャル30のギヤ比、ρは各遊星歯車機構3,4のギヤ比、q1は第1ポンプモータ12の押出容積、q2は第2ポンプモータ13の押出容積である。したがって、ポンプ発生圧がリリーフ弁41の設定圧より低圧の場合、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2の比(q1/q2)が大きくなることにより出力トルクToutが大きくなる。上記のステップS11では、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,q2を、このように制御して出力トルクを増大させる。
【0077】
変速比あるいは出力トルクが大きくなることによりクリープトルクが増大し、このような制御が、前記ステップS7で否定的な判断が成立するまで、すなわち実出力回転数が目標出力回転数に近付くまで継続される。したがって、登坂路などでロードロードが平坦路よりも大きい場合であっても、平坦路をクリープ走行する場合と同様の車速になるようにクリープトルクが増大させられるので、ロードロードに拘わらず平坦路と同様の安定したクリープ走行が可能になる。
【0078】
一方、ポンプモータ13の押出容積が所定容量より小さいことによりステップS9で肯定的に判断された場合、あるいはポンプ発生油圧がリリーフ弁41の設定圧より高圧であることによりステップS10で肯定的に判断された場合には、高圧流路である油路14についてのリリーフ弁41の設定圧が基準圧以上か否かが判断される(ステップS12)。この基準圧は、目標リリーフ割合がほぼゼロになる設定圧であり、上限値に近い圧力である。したがって、ステップS12では、リリーフ圧を高くする余地があるか否かを判断していることになる。したがって、ステップS12で否定的に判断された場合には、リリーフ弁41の設定圧を高くする余地があることになるので、ステップS13に進んでリリーフ弁41の設定圧を高くする制御が実行される。具体的には、前述したソレノイド41Aに対する電流値もしくはデューティ比が制御される。いわゆる登坂制御である。
【0079】
ここで、リリーフ弁41の設定圧Prlfと出力トルクToutとの関係は、数2で示す関係になる。
【数2】

【0080】
また、リリーフ弁41の設定圧Ptlfに応じた油圧と変速比ならびに出力トルクとの関係を図で示せば、図3および図4のようになる。すなわち、リリーフ弁41の設定圧Prlfを増大させることにより油路14での油圧、あるいはポンプで発生されてモータに供給される油圧が高くなり、その結果、変速比が増大し、また出力トルク(この場合は、クリープトルク)が大きくなる。
【0081】
そして、このような制御が、前記ステップS7で否定的な判断が成立するまで、すなわち実出力回転数が目標出力回転数に近付くまで継続される。したがって、登坂路などでロードロードが平坦路よりも大きい場合であっても、平坦路をクリープ走行する場合と同様の車速になるようにクリープトルクが増大させられるので、ロードロードに拘わらず平坦路と同様の安定したクリープ走行が可能になる。
【0082】
一方、前述したステップS8で否定的に判断された場合には、油温が既に高くなっているので、油温がそれ以上に上昇する制御は避ける必要がある。また、ステップS12で肯定的に判断された場合には、圧油を介して伝達されるトルクが大きくなっており、エンジン1と出力軸16とが、よりリジッドに(強固に)連結された状態になっている。したがって、ステップS8で否定的に判断された場合、あるいはステップS12で肯定的に判断された場合には、リリーフ弁41の設定圧が低下させられる(ステップS14)。すなわち、リリーフ弁41を開放側に制御して、油路14の圧力が低下させられる。リリーフ弁41で設定するリリーフ圧を低下させると、各ポンプモータ12,13の間での伝達トルク容量が低下する。したがって、圧油を介したエンジン1と出力軸16との間の伝達トルク容量が低下することにより、その連結状態が緩やかなものとなる。すなわち、エンジン1が出力軸16に対して強固に連結されている状態から緩やかに連結された状態になるので、ロードロードが相対的に大きくてもエンジン回転数が引き下げられる度合いが少なく、したがってエンジンストールに到るなどの事態を回避することができる。
【0083】
また、リリーフ弁41で設定するリリーフ圧を低下させると、リリーフ弁41で絞りを伴って排圧するとしても、相対的に低い圧力から圧力を解放することになるので、圧力の解放に伴うエネルギの熱への変換が少なく、オイルの発熱を抑制もしくは防止することができる。その結果、油温が基準温度以上の場合には油圧が低くなることによりオイルの過熱状態を回避もしくは抑制することができる。
【0084】
ステップS14でリリーフ弁41の設定圧を低下させると、出力トルク(クリープトルク)が低下するので、出力トルクの不足を補うために、運転者がアクセルペダルを踏み込むなどの加速操作を行うことが考えられる。そこで、変速比が高速側になるように、各ポンプモータ12,13の押出容積q1,qが設定される(ステップS15)。具体的には、モータとして機能しているポンプモータの押出容積を相対的に小さくし、あるいはポンプとして機能しているポンプモータの押出容積を大きくする。上述した発進用ギヤ対21と第1速用ギヤ対20とでトルクを伝達している状態では、第1ポンプモータ12の押出容積q1を相対的に小さくし、また第2ポンプモータ13の押出容積q2を相対的に大きくする。このように制御することにより、運転者が加速操作を行った場合に変速比が相対的に小さくなっているために車両の急加速を回避することができる。
【0085】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図1におけるステップS6およびステップS7を実行する機能的手段が、この発明における負荷検出手段に相当し、ステップS13を実行する機能的手段が、この発明のクリープ制御手段に相当し、さらにステップS14を実行する機能的手段が、この発明のリリーフ圧低下手段に相当し、そして、ステップS15を実行する機能的手段が、この発明の押出容積変更手段に相当する。
【0086】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、対象とする変速機は、図5に示す構成以外のものであってもよく、要は、少なくとも二つの動力伝達経路で伝達するトルクを流体圧ポンプモータの押出容積に応じて変更でき、したがっていずれか一方の動力伝達経路のみを介してトルクを伝達して変速比を設定し、また両方の動力伝達経路を介してトルクを伝達することにより変速比を設定できる変速機であればよい。また、固定変速比を設定できるように構成する場合、固定変速比は4速より多くてもよく、あるいは反対に少なくてもよい。さらに、この発明における高圧流路は、各流体圧ポンプモータを連通させている油路のうち、動力源が出力した動力を出力部材に伝達している状態で圧力が相対的に高くなる油路であり、これは、流体圧ポンプモータの回転方向およびこれを決めるパワートレーンの構造によって定まり、したがって上記の具体例とは異なり、吐出口同士を連通する油路であってもよい。
【0087】
またさらに、この発明では、ギヤ対に替えてベルトやチェーンなどの機構を用いてもよい。そして、この発明で差動作用のある歯車機構を用いる場合、シングルピニオン型遊星歯車機構に替えて例えばダブルピニオン型遊星歯車機構を用いることができ、あるいは更に他の構成の差動歯車機構によって構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】この発明に係る制御装置で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】固定変速比である第1速より低速側の変速比と各ポンプモータの押出容積との関係を示す線図である。
【図3】リリーフ圧あるいはこれによって決まる油圧と変速比との関係を模式的に示す線図である。
【図4】リリーフ圧あるいはこれによって決まる油圧と出力トルクとの関係を模式的に示す線図である。
【図5】この発明で対象とする可変容量型ポンプモータ式変速機の一例を模式的に示すスケルトン図である。
【図6】図5に示す変速機の動作状態をまとめて示す図表である。
【符号の説明】
【0089】
1…動力源(E/G)、 2…入力部材、 3…第1遊星歯車機構、 4…第2遊星歯車機構、 8…第1中間軸、 9…モータ軸、 10…第2中間軸、 11…モータ軸、 12…可変容量型ポンプモータ(第1ポンプモータ)、 13…可変容量型ポンプモータ(第2ポンプモータ)、 14,15…油路、 16…出力軸、 17,18,19,20…ギヤ対、 41,42…リリーフ弁、 43…電子制御装置(ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を動力源とするとともに、可変容量型の流体圧ポンプと流体圧モータとを備え、前記内燃機関から入力された動力で前記流体圧ポンプを駆動することによる反力と前記内燃機関から入力された動力の一部とを合成して出力部材に伝達するとともに、その流体圧ポンプで発生した圧力流体を高圧流路を介して前記流体圧モータに供給し、その流体圧モータで出力した動力を前記出力部材に伝達するように構成された可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置において、
前記高圧流路から排圧してその高圧流路の上限圧力を規定するリリーフ圧を設定するリリーフ弁と、
前記変速機が搭載されている車両が前記変速機から出力されるクリープトルクで走行状態もしくは停止状態に維持されている際のロードロードもしくはロードロードに対応するデータを検出する負荷検出手段と、
前記クリープトルクが前記ロードロード以上となるように前記リリーフ圧を高くするクリープ制御手段と、
前記クリープトルクがロードロードより小さくかつ前記クリープ制御手段により増大させられたリリーフ圧が予め定めた基準圧力以上となった場合に前記リリーフ圧を低下させるリリーフ圧低下手段と
を備えていることを特徴とする可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置。
【請求項2】
前記リリーフ圧低下手段によって前記リリーフ圧を低下させられた場合に前記変速機による変速比を小さくするように前記流体圧ポンプおよび/または流体圧モータの押出容積を変更する押出容積変更手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置。
【請求項3】
前記負荷検出手段は、前記車両がクリープトルクで走行状態もしくは停止状態に維持されている際の目標出力回転数と実出力回転数との回転数差を求める手段を含み、
前記クリープ制御手段は、前記回転数差が小さくなるように前記リリーフ圧を高くする手段を含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量型ポンプモータ式変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−127826(P2009−127826A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306553(P2007−306553)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】