説明

可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉

【課題】今まで固定されていた第三ゾーンの発熱体の位置を外部から可変できる可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉を提供する。
【解決手段】本発明は、上記課題を解決するため、発熱体を有する加熱部を有する所謂内熱型の単結晶を合成する電気炉において発熱体が2個以上で構成される電気炉で、加熱源である発熱体の位置を外部から変えることにより、温度分布を変えることができる電気炉の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン太陽電池用の単結晶及び多結晶をはじめとする結晶を合成する電気炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内熱型の結晶育成式縦型電気炉では、発熱体の位置は固定され、各ゾーンの設定温度を変えることにより、ある程度の温度分布を得ることができた。
【0003】
しかしながら、従来の方法では限界があった。例えば、従来の内熱型の電気炉では、発熱体は、電気炉の内部に固定されていて、容易に発熱体間の位置を可変することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−294585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、今まで固定されていた第三ゾーンの発熱体の位置を外部から可変できる可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、多数の発熱体を有する加熱部(加熱部と発熱体で構成される内部)を有する所謂内熱型の単結晶を合成する電気炉において発熱体が2個以上で構成される電気炉で、加熱源である発熱体の位置を外部から変えることにより、温度分布を変えることができる電気炉の構成とした。
【発明の効果】
【0007】
第三発熱体と第二発熱体の間の位置が可変であるため、ある程度の温度分布範囲を網羅することが出来る。
【0008】
また、発熱体間の距離変更の速度を高速から低速にすることにより、各種材料を溶融したり、結晶を育成することが出来る。
【0009】
更に、応用例として、結晶育成中に発熱体を移動することで、より長い結晶の育成も可能となると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来型電気炉の内部構成図である。
【図2】本発明である可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉の内部構成図である。
【図3】本発明である可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉の第三発熱体を最下部に移動させた状態を示した内部構成図である。
【図4】本発明である可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉の一部を拡大した簡略図である。
【図5】本発明である可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉を温度分布測定用に変えた状態を示した簡略図である。
【図6】本発明である可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉で計測した温度分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、従来型電気炉の内部構成図である。まず、図1を使用して、従来式のマルチゾーン電気炉の中で3ゾーン式縦型電気炉の内部構造を説明します。
【0013】
電気炉100を構成する水冷チャンバー101は、外周面を胴体部チャンバー水冷ジャケット12で覆った筒状の胴体部チャンバー11と、前記胴体部チャンバー11の上面に上フランジ10を介して取り付けられる上蓋10及び前記胴体部チャンバー11の下面に下フランジ23とOリングを介して下蓋31がネジにより固定されている。
【0014】
前記上フランジ10は、Oリング等のシール部材で絶縁且つシールされており、温度上昇を抑えるために上蓋水冷ジャケット9が装着されている。一方、前記下フランジ23は固定板22にネジ等の固定部材により固定される。尚、図示はしていないが、前記固定板22は、台や架台に固定される。
【0015】
前記胴体部チャンバー11の外周面には、冷却口32に取り付けられており、水冷できるようになっている。尚、図面上では冷却口32は1つであるが、出入り口用として2個取り付けられている。
【0016】
また、前記胴体部チャンバー11の内部壁面には第一上下断熱材53、16及び第二上下断熱材13、17が設置されており、前記第一、第二上断熱材53、13と第一、第二下断熱材16、17の間には断熱材分離板15が設置されている。前記断熱材13、53、16、17により、胴体部チャンバー11の温度上昇が抑えられる。
【0017】
前記上蓋1の下面中央には、ストッパー7で固定された第一発熱体用電極3を介して第一発熱体4が取り付けられており、前記第一発熱体4は第一発熱体用電極3により、外部から電気を流すことが出来る。
【0018】
前記第一発熱体用電極3の内側には断熱材54を介して第一発熱体4の温度を制御するために熱センサーとして第一熱電対40が設置されており、前記第一発熱体用電極3の外周部分には断熱材固定板41により上面断熱材2が設置されている。
【0019】
前記上面断熱材2と第二上断熱材13の間には第二発熱体用電極6が設置されており、更に前記第二発熱体用電極6の下端には第二発熱体14が取り付けられている。そのため、第二発熱体14には第二発熱体用電極6を介して外部から電気が流れる。
【0020】
前記第二発熱体用電極6は、Oリング等の絶縁シール部材8で上蓋1の内部と外部がシールされ、第二発熱体用電極6と上蓋1が絶縁されている。尚、第二発熱体用電極6と上蓋1はストッパー7で固定されている。
【0021】
前記第一発熱体用電極3と第二発熱体用電極6の間に位置する上面断熱材2には、前記第二発熱体14の温度を制御するための熱センサーとして第二熱電対5と、後に説明する第三発熱体18の温度を制御するための熱センサーとして第三熱電対42が設置されている。
【0022】
第三発熱体18は、前記第二発熱体14の下方に設置されている発熱体で、第二発熱体14と第三発熱体18の間には空間が設けられている。この空間は更に前記断熱材分離板15の先端部分により分断され、第二発熱体14と第三発熱体18のそれぞれの発熱体から発生する熱が相互に干渉しにくいようになっている。
【0023】
第三発熱体18の下端は、第三発熱体用電極19に連結されており、前記第三発熱体用電極19の下端は電極固定具25を介して下部電極固定板26に固定されている。更に下部電極固定板26は電極固定棒24を介して前記下蓋31に固定されている。
【0024】
前記第二発熱体用電極19は、Oリングや絶縁シール部材8で絶縁且つシールされており、また、第二発熱体用電極19の内側には上下断熱材20、21が設置されている。
【0025】
前記下蓋31の中央部には下方に向かって筒体が突出しており、この筒体には中央に孔が穿設されたシールフランジ28がクランプ27を介して取付けられている。また、下蓋31の中央上面には筒体の蓋付き炉芯管33が設置されている。
【0026】
前記シールフランジ28の孔には下ルツボ支持管29が挿通されており、下ルツボ支持管29とシールフランジ28はシール部材でシールされている。
【0027】
前記下ルツボ支持管29の上端には上ルツボ支持管36が連結されており、更に上ルツボ支持管26の上端にはルツボ受け台35が取り付けられている。前記ルツボ受け台35にはルツボ34が載置される。また、前記上ルツボ支持管36の下部外周面には複数枚の熱反射板37が取り付けられている。
【0028】
支持管29は、ルツボ支持台用受け台38で固定され、ルツボ支持管29は、ルツボ支持台用受け台38を介して取付板39に固定されている。
前記下ルツボ支持管29の下端はルツボ支持管用受け台38に固定されており、前記ルツボ支持管用受け台38は取付板39に固定されている。この取付板39の下面には移動板用測板30が連結されている。
【0029】
前記ルツボ34を移動することにより、結晶を合成することができ、このルツボ34の移動するために前記移動板用測板30がある。
【0030】
シール金具部43は、前記第一熱電対40をシールするための部材であり、シール金具部44は、前記第二熱電対5及び第三熱電対42をシールするための部材である。
【0031】
前記第三発熱体18の外側は、前述の第一及び第二下断熱材16、17が位置しており、この第一及び第二下断熱材16、17は前記第一及び第二上断熱材53、13と同様に胴体部チャンバー11の温度上昇を抑えている。
【0032】
図1では、各発熱体4,14,18は3個ともに固定されているので、温度分布を変えるときは、第二発熱体14、第三発熱体18の専用温度制御の設定温度を変えて、ある程度緩やかな温度分布を得ていたが、これには限界があった。そこで本発明では、第三発熱体18を移動できるようにして、より緩やかな温度分布を得ることが出来た。
【0033】
次に図2を使用して、本発明の電気炉を説明することとする。図2は本発明である可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉の内部構成図、図3は可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉の第三発熱体を最下部に移動させた状態を示した内部構成図、図4は可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉の一部を拡大した簡略図である。
【0034】
図2及び図3に示すように、本発明である可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉102は、前記電気炉100と類似しているが、以下の点が異なっている。
【0035】
まず、第三発熱体18の下部且つ第三発熱体用電極19の内側にあった断熱材は上断熱材20のみとなり、下断熱材21のあった場所が空洞となっている。尚、前記上断熱材20は第三発熱体用電極19に取り付けた固定板51により固定されているため、上断熱材20が下方にズレ落ちることはなく、上断熱材20の下方に空間がある状態が保たれている。
【0036】
次に、電極固定用棒24が無くして下部電極固定板26を一回り小さくし、前記下部電極固定板26の下面に第三発熱体移動用台45が取り付けられた。これにより、第三発熱体18、第三発熱体用電極19及び下部電極固定板26は下蓋31から自由となり、上下に移動することが可能となった。
【0037】
図3及び図4に示すように、前記下部電極固定板26を下方に移動させることにより、第三発熱体18、第三発熱体用電極19も下方に移動し、更にこの移動に伴って第一、第二上断熱材53、13及び第一、第二下断熱材16、17も下方に移動した。このとき、前記第一、第二上断熱材53、13の上側に隙間が出来るが、温度分布には影響しない。一方、上断熱材20の下側にあった空間は、上断熱材20が下方に移動したことにより無くなっている。
【0038】
図5は本発明である可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉を温度分布測定用に変えた状態を示した簡略図である。
【0039】
まず、蓋付き炉芯管33からルツボ34、上下ルツボ支持管36、29を取り去り、シールフランジ28を測定専用のシールフランジ52に交換する。前記シールフランジ52の中央上面にアルミナ管固定金具49を取付け、更に前記アルミナ管固定金具49にアルミナ管46を取り付ける。
【0040】
前記アルミナ管46の内部にはアルミナ保護管47があり、このアルミナ保護管47に絶縁管付き熱電対48が挿入されている。前記アルミナ保護管47は、シール金具部43でシールフランジ52にシール固定されている。
【0041】
前記アルミナ保護管47の下端は保護管固定金具50に連結されており、更に、保護管固定金具50は下部に移動板用測板30を備えた取付板39に固定されている。前記移動板用測板30を移動することにより、アルミナ管46内部のアルミナ保護管47と熱電対48が移動されて、任意の位置で温度を計測することが出来る。
【0042】
前記アルミナ管46は、蓋付き炉芯管33内部に固定されているので、熱電対48は、対流の影響を受けない。
【0043】
図6は本発明である可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉で計測した温度分布を示した図であり、第三発熱体18が最上部(図2)と最下部(図3)に移動したときの温度分布である。
【0044】
図6に示すように、従来型電気炉100と本発明の可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉102を比較すると、第三発熱体18を最上部に位置した場合と従来型電気炉1の温度分布は同様の結果であった。
【0045】
第三発熱体18が最上部にあるときは、従来の電気炉1と同じ分布になっているので、あえて従来の電気炉1での温度分布は掲示していない。
【0046】
本発明により、ある程度の温度分布範囲を網羅できる可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉102が構築された。
【0047】
第三発熱体18の移動機構の速度を高速から低速にすることにより、各種材料を溶融したり、結晶を育成することが出来、また、他にも新たな応用が考えられる。
【0048】
本発明は、発熱体(4,14,18)が3個の時の説明をしているが、発熱体が2個の炉にも応用が出来る。
【0049】
又、発熱体が4個以上の場合には、移動したい部分の発熱体の電極を同時に、あるいは個別に移動できるようにすることにより、同様の効果を得ることが可能となる。
【0050】
ユニークな応用例としては、結晶育成中に発熱体を移動することにより、より長い結晶の育成も可能となるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明である可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉は、シリコン太陽電池用の単結晶及び多結晶を合成する電気炉と半導体結晶を合成する分野に応用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 上蓋
2 上面断熱材
3 第一発熱体用電極
4 第一発熱体
5 第二熱電対
6 第二発熱体用電極
7 ストッパー
8 絶縁シール部材
9 上蓋水冷ジャケット
10 上フランジ
11 胴体部チャンバー
12 胴体部チャンバー水冷ジャケット
13 第二断熱材
14 第二発熱体
15 断熱材分離板
16 第一下断熱材
17 第二下断熱材
18 第三発熱体
19 第二発熱体用電極
20 上断熱材
21 下断熱材
22 固定板
23 下フランジ
24 電極固定用棒
25 電極固定具
26 下部電極固定板
27 クランプ
28 シールフランジ
29 下ルツボ支持管
30 移動板用測板
31 下蓋
32 冷却口
33 蓋付き炉芯管
34 ルツボ
35 ルツボ受け台
36 上ルツボ支持管
37 熱反射板
38 ルツボ支持管用受け台
39 取付板
40 第一熱電対
41 断熱材固定板
42 第三熱電対
43 シール金具部
44 シール金具部
45 第三発熱体移動用台
46 アルミナ管
47 アルミナ保護管
48 絶縁管付き熱電対
49 アルミナ管固定金具
50 保護管固定金具
51 固定台
52 シールフランジ
53 第一上断熱材
54 断熱材
100 電気炉
101 水冷チャンバー
102 可変温度勾配式マルチゾーン型電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体を有する加熱部を有する所謂内熱型の単結晶を合成する電気炉において発熱体が2個以上で構成される電気炉で、加熱源である発熱体の位置を外部から変えることにより、温度分布を変えることができる電気炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−169489(P2011−169489A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32159(P2010−32159)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(593085509)有限会社マテルズ (2)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】