説明

可変速誘導発電機の回転子

【課題】 回転子巻線の直流抵抗損を増加させずに、高滑り領域での運転の際にも交流抵抗損を抑制でき、ターン間サージ分担電圧を低減することができる可変速誘導発電機の回転子を提供する。
【解決手段】 回転子に形成された複数の回転子スロット2に回転子コイル3を納め、所定結線を施した多相の回転子巻線を有すると共に、この回転子巻線に可変周波数交流が印加され回転磁界が発生する可変速誘導発電機の回転子で、回転子コイル3を、導体絶縁層9で被覆された導体8を複数回巻きしたマルチターンコイルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子巻線に滑り周波数の可変周波数交流が印加されて運転される可変速誘導発電機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術を、図8乃至図10を参照して説明する。図8は分割された回転子コイルの平面図であり、図9は1つの回転子スロット内における回転子巻線の断面図であり、図10は導体厚に対する総合抵抗増加率を示す図である。
【0003】
図8乃至図10において、誘導発電機の回転子は、図示しない回転軸が設けられた回転子鉄心100と、この回転子鉄心100の回転子スロット101に回転子コイル102を納め所定の結線を行った多相の回転子巻線を備えて構成されている。回転子鉄心100に形成された回転子スロット101は、例えば図9に示すように、所定寸法のスロット内幅、スロット内深さを有し、スロット内幅よりスロット開口部幅を狭くした略方形の所定断面形状のもので、回転子鉄心100に対をなすように所定数形成されている。
【0004】
また、回転子スロット101には、図8に示すように分割形成されたハーフターンコイルの回転子コイル102が、それと対をなす回転子スロット101内の上部、下部に、図9に示すようにそれぞれ2つの導体103で構成された上コイル104aの第1ターン104a1と第2ターン(最終ターン)104a2、下コイル104bの第1ターン104b1と第2ターン(最終ターン)104b2の2ターン分ずつ納められている。そして、回転子スロット101内に納められた回転子コイル102は、それぞれ対応する上コイル104a、下コイル104bの各ターン104a1,104a2,104b1,104b2の端部同士が、回転子スロット101外で導体接続され、さらに所要の結線方式となるよう結線されることによって、所要の回転子巻線を構成している。
【0005】
また、個々の導体103は、幅h0がスロット内深さの約1/2で、厚さg0がスロット内幅の約1/4で、その外側には厚さがt0の導体絶縁層106を設けてそれぞれ絶縁されている。さらに、回転子コイル102を回転子スロット101内に納めるにあたって、回転子スロット101内底部と、上、下コイル104a,104b間には、スロット内スぺーサ107が設けられ、回転子スロット101の開口部分には、回転子コイル102を固定するためにスロット楔108が打ち込まれている。
【0006】
このような構成の回転子では、上記のように回転子スロット101内に回転子コイル102を納めた後に、上コイル104a、下コイル104bのそれぞれの対応する端部同士を、回転子スロット101外で導体接続する必要があり、コイル巻回数を増加させることは接続個所が増し、現実的に不可能に近いものとなっていた。
【0007】
そのため、コイル巻回数が少なく、必要なアンペアターン(起磁力)を確保するには、回転子コイル102に流れる電流を大きくする必要があり、回転子巻線に発生する抵抗損を低減させるには、導体103のサイズを大きくし、直流抵抗損を低減する必要があった。また、コイル巻回数が少ないことから、ターン間分担電圧が高く、導体絶縁層106を厚く頑強なターン間絶縁とする必要があった。
【0008】
このように、図8に示す、従来の巻線構造であるハーフターンコイルによって構成される巻線構造では、回転子スロット101内の断面図を図9に示すように、コイル巻回数が2ターンと少なく、導体103のサイズが大きい。そのため、上記構成の回転子を備え、その回転子巻線に図示しない可変周波数交流電源から滑り周波数の可変周波数交流が印加されて回転磁界が発生する巻線形可変速誘導発電機では、高滑り領域で運転される場合においては、導体103のサイズを大きくして回転子巻線に発生する直流抵抗損を低減しても、図10に導体103の厚さに対する総合抵抗増加率を示すように、交流抵抗損が増大するため、回転子に発生する抵抗損の低減には限界があった。
【0009】
また、可変周波数交流電源はインバータ装置を用いて発生されるため、回転子巻線に印加される電源にはスイッチングサージ電圧が含まれ、コイル巻回数の少ない従来の巻線構造の場合、ターン間サージ分担電圧が高くなり、回転子巻線絶縁の耐電圧特性を確保するためには、厚く頑強なターン間絶縁が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような状況に鑑みて本発明はなされたもので、その目的とするところは、
回転子巻線に発生する直流抵抗損を増加させることなく、高滑り領域において運転される場合に、交流抵抗損を抑制することができ、ターン間サージ分担電圧を低減することができる可変速誘導発電機の回転子を提供することにあり、
また、回転子巻線発生損失の低減および製造容易性の面から、回転子コイルの巻回数を最適巻回数とした可変速誘導発電機の回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の可変速誘導発電機の回転子は、回転子に形成された複数の回転子スロットに回転子コイルを納め、所定結線を施した多相の回転子巻線を有すると共に、この回転子巻線に可変周波数交流が印加され回転磁界が発生する可変速誘導発電機の回転子において、前記回転子コイルが、導体絶縁層で被覆された導体を複数回巻きしたマルチターンコイルであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、回転子巻線構成をマルチターンコイルとしたことで、回転子コイルの巻回数を容易に所要の特性が得られるよう調整でき、それによってターン間サージ分担電圧を低減することができ、回転子コイルの導体を被覆する導体絶縁層の厚さを薄くすることができる。また、回転子コイルの巻回数を増加させることができるので、必要なアンペアターン(起磁力)を確保する際に、コイル巻回数の増加に伴い導体に流れる電流を小さくすることができ、回転子巻線に発生する直流抵抗損を増加させることなく、導体サイズを小さくすることができ、高滑り領域で回転子巻線に発生する交流抵抗損の増加を抑制することができる等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の一実施形態を、図1乃至図7を参照して説明する。図1は回転子鉄心の斜視図であり、図2は1つの回転子スロット内における回転子巻線の断面図であり、図3は回転子コイルの平面図であり、図4は滑り周波数に対する回転子コイルの交流抵抗増加率を示す図であり、図5は導体幅厚比に対する回転子巻線の総合抵抗を示す図であり、図6は導体幅厚比に対する回転子コイルの断面二次モーメントを示す図であり、図7は導体幅厚比に対する最適巻回数変数を示す図である。
【0014】
図1乃至図7において、誘導発電機の回転子は、例えば図1に示すように回転軸1aが設けられた回転子鉄心1と、この回転子鉄心1の外周部に対をなすように所定数形成された回転子スロット2と、この回転子スロット2にそれぞれ回転子コイル3を納め、所定の結線を行った多相の回転子巻線を備えて構成されている。回転子鉄心1に形成された回転子スロット2は、図2に示すように、スロット開口から内底部分まで同一のスロット内幅Xとなるように形成された略方形状の所定断面形状となっており、さらに、スロット開口近傍のスロット内壁には、回転子スロット2内のスロット内深さYまで回転子コイル3を納め後に、スロット楔4を打ち込み回転子コイル3を固定する溝5が形成されている。
【0015】
また、回転子コイル3は、図3に示すように、亀甲形状に成形されたものとなっていて、対をなす回転子スロット2内の上部と下部にそれぞれ納められる上コイル6a、下コイル6bを備えている。上コイル6aと下コイル6bを構成する導体8は、図2に示すように、例えば幅寸法がh、厚さ寸法がgの導電材料でなり、その外側に厚さ寸法がtの導体絶縁層9が設けられ、導体間の絶縁が行われるように構成されている。
【0016】
さらに、上コイル6aと下コイル6bとは、導体絶縁層9を有する導体8を、溝幅方向に配列数w、例えば2つ並べて1ターン分とすると共に、溝深さ方向に、それぞれ上コイル6aの第1ターン6a1から最終の第mターン6amまでのmターン分(例えばm=9とすると、第1ターン6a1から第2ターン6a2、……、第8ターン6a8、第9ターン6a9までの9ターン分)、同様に、下コイル6bの第1ターン6b1から最終の第mターン6bmまでのmターン分(例えばm=9とすると、第1ターン6b1から第2ターン6b2、……、第8ターン6b8、第9ターン6b9までの9ターン分)を並べ、並べられた複数の導体8による上コイル6aのコイル束と、下コイル6bのコイル束の外側にそれぞれ対地絶縁層10を覆うように設けたものとなっている。
【0017】
これにより、上コイル6a、下コイル6bとは、対地間が対地絶縁層10で絶縁された構造となり、上コイル6aと下コイル6bとでなる回転子コイル3は、第1ターン6a1,6b1から最終mターン6am,6bmまでの複数ターンで構成されたマルチターンコイル構造となる。そして、回転子コイル3は、回転子スロット2内に、スロット内底部との間と、上、下コイル6,7間にスロット内スぺーサ11を設けて納められ、さらに回転子コイル3を納めた後に、スロット内壁の溝5に、スロット楔4を打ち込むことで、回転子コイル3は回転子スロット2内に固定される。
【0018】
また、上記構成の回転子コイル3は、導体絶縁層9に覆われた導体8を用い、先ず、連続してm回巻いて、上コイル6aの第1ターン6a1から第9ターン6a9(最終の第mターン6am)までのmターン分と、下コイル6bの第1ターン6b1から第9ターン6b9(最終の第mターン6bm)までのmターン分の所定直径のコイルを形成する。続いてm回巻いたコイルの外側に、絶縁材料で形成されたテープを巻き付けるなどして対地絶縁層10を形成する。その後、図3に示すように対地絶縁層10で覆ったコイルを亀甲形に成形する。
【0019】
このように回転子コイル3は、その上コイル6aと下コイル6bで必要となるターン数mだけのm回のコイル巻を行って形成すればよいため、回転子コイル3の巻回数mを容易に増加、減少させることができ、巻回数mの選択範囲を拡大することができる。
【0020】
一方、巻線形可変速誘導発電機においては、回転子巻線に滑り周波数の可変周波数交流が電源から印加され、回転磁界が発生する。また可変周波数交流は、通常、電源にインバータ装置を用いて発生されるため、回転子巻線端子に印加される可変周波数交流にはスイッチングサージ電圧が含まれる。
【0021】
そして、上記のように構成された回転子の回転子コイル3にあっては、各回転子コイル3に分担される最大分担電圧は、サージ電圧波形の波頭長などにより左右されるが、1コイルに印加されるサージ電圧の内、回転子コイル3の上コイル6aと下コイル6bの各ターン間では均等に分担され、
その分担電圧Vtは、
Vt=Vc/m ……式(1)
ここで、
Vt:ターン間サージ分担電圧
Vc:回転子コイル3に印加されるサージ電圧
m:回転子コイル3の巻回数
で表される。
【0022】
したがって、この構成によれば回転子コイル3の巻回数mを増加させることができ、それによって上コイル6aと下コイル6bの各ターン間のサージ分担電圧Vtを低減させることができるため、導体8を覆う導体絶縁層9を薄くすることができる。
【0023】
また、励磁に必要なアンペアターン(起磁力)ATは、
AT∝I・T
∝I・(m・N2)/(Ph・n) ……式(2)
ここで、
AT:アンペアターン
I:一相当りの電流
T:回転子直列導体数
N2:回転子スロット2の数
Ph:相数
n:巻線並列回路数
で表される。
【0024】
したがって、この構成によれば、回転子コイル3の回転子コイル巻回数mを増加させることで、必要なアンペアターンATを確保するための一相当りの電流Iを回転子コイル巻回数mに反比例して小さくすることができる。
【0025】
一方、回転子巻線の各相に発生する直流抵抗損Waは、
Wa=I・T・L・ρ/(S・n)
∝L・ρ・Ph・(AT)/(m・S・N2) ……式(3)
ここで、
Wa:回転子巻線の各相に発生する直流抵抗損
L:回転子コイル3の1ターン導体長さ
ρ:導体8の抵抗率
S:導体8の断面積
で表される。
【0026】
ここで、回転子スロット2のスロット深さYが一定とすると、採用し得る導体8の断面積Sは、回転子コイル3の巻回数mに概略反比例し、必要なアンペアターンATは一定であるから、回転子コイル3の1ターン導体長さL、導体8の抵抗率ρ、相数Ph、および回転子スロット2の数N2が一定の条件であれば、回転子巻線の各相に発生する直流抵抗損Waも増加しない。すなわち、この構成によれば、回転子コイル3の回転子コイル巻回数mを増加させることで、回転子巻線に発生する直流抵抗損を増加させることなく導体8のサイズを小さくすることができる。
【0027】
また、回転子巻線に滑り周波数の可変周波数交流が印加され回転磁界が発生する巻線形可変速誘導発電機では、高滑り領域で運転される場合に、回転子巻線に印加される電源周波数fが大きくなるため、渦流損および表皮損の影響により、回転子巻線に発生する交流抵抗損が増加する。
【0028】
そして、渦流損による抵抗増加率Keおよび表皮損による抵抗増加率Ksは、
Ke∝f・{m・i・h・(g+t)・(h+t)・w} ……式(4)
Ks∝f・{m・i・h・(g+t)・(h+t)・w} ……式(5)
ここで、
Ke:渦流損による抵抗増加率
Ks:表皮損による抵抗増加率
f:滑り周波数
i:回転子コイル3の同一ターン内での導体8の縦配列数
h:回転子コイル3の導体8の厚さ
g:回転子コイル3の導体8の幅
t:導体絶縁層9の厚さ
w:回転子コイル3の導体8の横配列数
で、それぞれ表される。
【0029】
この構成では、上記の通り、各ターン間のサージ分担電圧Vtを低減させることができ、導体絶縁層9の厚さtを薄くすることができるため、導体絶縁層9の厚さtは、導体8の厚hおよび導体8の幅gに対して十分小さくでき、式(4)と式(5)は、
Ke∝(m・i・g・h・w) ……式(6)
Ks∝(m・i・g・h・w) ……式(7)
と簡略化することができる。
【0030】
ここで、回転子スロット2のスロット深さYが一定とすると、回転子コイル3の巻回数mと、回転子コイル3の同一ターン内における導体3の縦配列数iの積m・iと、回転子コイル3の導体8の厚hとは、概略反比例する。また、回転子スロット12のスロット幅Xが一定とすると、回転子コイル3の導体8の幅gと、導体8の横配列数wの積g・wは、概略一定である。したがって、式(6)、式(7)は、
Ke∝h ……式(8)
Ks∝1/m ……式(9)
と近似することができる。
【0031】
したがって、この構成によれば、回転子コイル3の回転子コイル巻回数mを増加させ、導体8のサイズを小さくする、すなわち回転子コイル3の導体8の厚hを小さくできるため、渦流損による抵抗増加率Keおよび表皮損による抵抗増加率Ksを抑制することができる。
【0032】
また、式(4)、式(5)から、渦流損による抵抗増加率Keおよび表皮損による抵抗増加率Ksは、回転子巻線に印加される電源周波数fの二乗に比例して増加するため、この構成により、渦流損による抵抗増加率Keおよび表皮損による抵抗増加率Ksを抑制する効果は、図4に滑り周波数に対する交流抵抗増加率を示すように、滑り周波数fが大きい高滑り領域において顕著に現れ、交流抵抗損の増加を抑制することができる。すなわち、従来においては図10に示すように交流抵抗増加率は滑り周波数20Hzでは約+20%となる。これに対し、本実施形態では、交流抵抗増加率は同じ滑り周波数20Hzでは約+0.5%、滑り周波数40Hzでも+2%以下と非常に抑制されたものとなる。
【0033】
以上の通り、回転子巻線構成をマルチターンコイルとし、コイル巻回数を増加させたことにより、回転子コイル3の上コイル6aと下コイル6bの各ターン間のサージ分担電圧Vtを低減することができるため、導体絶縁層9を薄くすることができる。また、直流抵抗損Waを増加させることなく、高滑り領域において交流抵抗損の増加を抑制することができる。
【0034】
次に、回転子巻線の最適巻回数の選定について説明する。上記したように、回転子巻線に滑り周波数の可変周波数交流を印加して回転磁界を発生させる巻線形可変速誘導発電機では、高滑り領域で運転される場合は、渦流損および表皮損の影響により、回転子巻線に発生する交流抵抗損が増加するが、回転子コイル巻回数mを増加させ、回転子コイル3の導体8のサイズを小さくすることにより、交流抵抗損の増加を抑制することができる。なお、直流抵抗損Waを増加させずに、回転子コイル巻回数mを増加させることを上述したが、回転子コイル巻回数mを無数に多くしていくと、導体絶縁層9の厚さtの影響により、回転子スロット2内に占める総導体断面積(回転子コイル3の回転子コイル巻回数mと導体8の断面積Sの積)が小さくなることにより直流抵抗損Waが増加する。
【0035】
従って、上記構成を有する回転子巻線のある実施形態において、アンペアターンAT、回転子スロット2の幅X及び深さYを一定とした条件で、回転子コイル3の巻回数m、巻線並列回路数n、巻線結線方式(スター結線、デルタ結線の選択、並列回路数の選択等)、回転子コイル3の導体厚h、回転子コイル3の同一ターン内における導体8の配列数i、回転子コイル3の導体8の横配列数wを変化させた場合に、横軸を回転子導体幅gと回転子導体厚hの比を示す導体幅厚比g/hとし、縦軸を回転子巻線の直流抵抗と交流抵抗の和である総合抵抗とした時の関係は図5に示す通りである。そして、総合抵抗は、ある条件、すなわち、導体幅厚比g/hが約1.3で約1.03と最小値をとる。
【0036】
また、上記構成を有する回転子巻線のある実施形態において、同様に、アンペアターンAT、回転子スロット2の幅X及び深さYを一定とした条件で、回転子コイル3の巻回数m、巻線並列回路数n、巻線結線方式(スター結線、デルタ結線の選択、並列回路数の選択等)、回転子コイル3の導体厚h、回転子コイル3の同一ターン内における導体8の配列数i、回転子コイル3の導体8の横配列数wを変化させた場合に、横軸を回転子導体幅gと回転子導体厚hの比を示す導体幅厚比g/hとし、縦軸を回転子コイル3の断面二次モーメントMとした時の関係は図6に示す通りである。そして、回転子コイル3の成形作業性を表す断面二次モーメントMは、図6に示すように、導体幅厚比g/hが大きくなると減少する。なお、図6において、導体幅厚比g/hが約3.75の時に最小値327.8となる。
【0037】
また、回転子コイル3は断面二次モーメントが大きいほど成形が困難となるため、製造時の成形容易性を表す変数として、回転子コイル3の断面二次モーメントMを、さらに、回転子コイル3は、回転子コイル3の同一ターン内における導体8の並列巻本数が多いほどコイル巻作業が困難となるため、製造時のコイル巻作業容易性を表す変数として、回転子コイル同一ターン内導体並列巻本数である回転子コイル3の同一ターン内での導体8の配列数iと回転子コイル3の導体8の横配列数wの積i・wを使用すると、これらと上記の総合抵抗から、回転子コイル3の巻回数mを選定するための、最適巻回数変数Aは、
A=Rt・M・i・w
={(m・N2・L・ρ)/(S・Ph・n)}・{1+Ke+Ks}
・M・i・w ……式(10)
ここで、
A:最適巻回数変数
Rt:総合抵抗
M:回転子コイル3の断面二次モーメント
で表される。
【0038】
従って、上記構成を有する回転子巻線のある実施形態において、同様に、アンペアターンAT、回転子スロット2の幅X及び深さYを一定とした条件で、回転子コイル3の巻回数m、巻線並列回路数n、巻線結線方式(スター結線、デルタ結線の選択、並列回路数の選択等)、回転子コイル3の導体厚h、回転子コイル3の同一ターン内における導体8の配列数i、回転子コイル3の導体8の横配列数wを変化させた場合に、横軸を回転子導体幅gと回転子導体厚hの比を示す導体幅厚比g/hとし、縦軸を最適巻回数変数Aとした時の関係は図7に示す通りである。そして、最適巻回数変数Aは、ある条件、すなわち導体幅厚比g/hが約1.3で約800と最小値となる。
【0039】
上記した通り、所定の条件のもとに、回転子コイル巻回数mを選定することにより、総合抵抗の増加を抑制し、回転子巻線発生損失を低減でき、かつ回転子コイル3の製造時の成形が容易で、さらにコイル巻作業が容易な最適コイル巻回数が選定できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態における回転子鉄心の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態における1つの回転子スロット内における回転子巻線を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における回転子コイルの平面図である。
【図4】本発明の一実施形態における滑り周波数に対する回転子コイルの交流抵抗増加率を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態における導体幅厚比に対する回転子巻線の総合抵抗を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態における導体幅厚比に対する回転子コイルの断面二次モーメントを示す図である。
【図7】本発明の一実施形態における導体幅厚比に対する最適巻回数変数を示す図である。
【図8】従来技術における分割された回転子コイルの平面図である。
【図9】従来技術における1つの回転子スロット内における回転子巻線の断面図である。
【図10】従来技術における導体厚に対する総合抵抗増加率を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1…回転子鉄心
2…回転子スロット
3…回転子コイル
6a…上コイル
6b…下コイル
8…導体
9…導体絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子に形成された複数の回転子スロットに回転子コイルを納め、所定結線を施した多相の回転子巻線を有すると共に、この回転子巻線に可変周波数交流が印加され回転磁界が発生する可変速誘導発電機の回転子において、前記回転子コイルが、導体絶縁層で被覆された導体を複数回巻きしたマルチターンコイルであることを特徴とする可変速誘導発電機の回転子。
【請求項2】
前記回転子コイルは、その導体の幅厚比(g/h)が、最適巻回数変数Aの値が最小となる値となっていることを特徴とする請求項1記載の可変速誘導発電機の回転子。
但し、最適巻回数変数Aは、
A=Rt・M・i・w
={(m・N2・L・ρ)/(S・Ph・n)}・{1+Ke+Ks}
・M・i・w
であり、g:回転子コイルの導体幅、h:回転子コイルの導体厚さ、
Rt:総合抵抗、M:回転子コイルの断面二次モーメント、
i:同一ターン内の導体の縦配列数、w:導体の横配列数、
m:コイル巻回数、N2:回転子スロットの数、
L:回転子コイルの1ターン導体長さ、ρ:導体の抵抗率、
S:導体の断面積、Ph:相数、n:巻線並列回路数、
Ke:渦流損による抵抗増加率、Ks:表皮損による抵抗増加率
【請求項3】
前記回転子コイルは、その導体の幅厚比が、直流抵抗と交流抵抗の和で示される総合抵抗の値が最小となる値となっていることを特徴とする請求項1記載の可変速誘導発電機の回転子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−271058(P2006−271058A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83455(P2005−83455)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】