説明

各種物質の再水和または融解時の凝集を防止する方法及び該方法により得られる組成物

【課題】脱水/再水和及び凍結/融解時の各種物質(例えば溶液中のタンパク質など)の凝集体形成を防止する方法の提供。
【解決手段】各種物質(たとえばヒト成長ホルモン、ステロイドホルモン、アルミニウムを主成分とするアジュバントを含有するワクチンなどの医薬品、コロイド、赤血球、モノクローナル抗体などの診断用物質)の凍結/融解又は脱水/再水和時の凝集を、凍結又は脱水前に溶液又は懸濁液にトレハロースを添加して低減又は防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水/再水和及び凍結/融解時の各種物質の凝集体形成を防止する方法に関する。該方法により得られる組成物も本発明の範囲に包含される。
【背景技術】
【0002】
各種物質を脱水又は凍結した形態で貯蔵及び加工することは、活性を保持し、分解生成物が形成されるのを防止し、かつ取り扱いおよび輸送を容易にするために必要である。残念なことに、多くの物質は再水和又は融解時に凝集する傾向にあり、それにより物質の有効濃度が減少し、物質が無益になったり有害な副生成物が形成されることもしばしばである。
【0003】
上記した凝集を防止又は解消すべく多数の方法が試みられてきた。例えば、溶液中のタンパク質の凝集を防止するために、洗剤及びカオトロピー剤がしばしば使用されている。これらの薬剤により疎水性相互作用が仲介する凝集は防止されると考えられ、したがってこれらの薬剤の使用は上記した原因による凝集の防止に限定される。たとえば、Tanford and Reynolds、Biochim. Biophys. Acta.457:133(1976)及びTanford、“The Hydrophobic Effect”、第2版、Wiley、N.Y.(1980)を参照されたい。上記した薬剤は、不利な反応を起こすおそれがあるので、物質を治療用組成物に配合するような用途には使用されないであろう。
【0004】
溶液中のアルミニウム塩は、高度に水和されたコロイドゲルの形態にあり、等電点を越える範囲の任意のpHで表面電荷を有する。各コロイド粒子は同じ電荷を有しているので、コロイド粒子同士は相互に反発し、安定なコロイドゲルを形成する。(たとえば凍結又は乾燥により)水和シェルが除去されると、粒子は相互に接触し得、表面エネルギーが凝集を生起させる。
【0005】
トレハロース(α−D−グルコピラノシル−α−D−グルコピラノシド)は天然に存在する非還元性二糖類であり、最初無傷の植物細胞の乾燥保護に関与することが見いだされた。トレハロースは乾燥中のタンパク質ウィルスや食料品の変質を防止するのに有用であることが判明している。米国特許第4,891,319号、5,149,653号、5,026,566号、Blakeleyら、Lancet、336:854−855(1990)、Roser、Trends in Food Sci. and Tech.、166−199(1991)、Colacoら、Biotechnol. Internat.、 345−350(1992)、Roser、BioPharm.4:47−53(1991)及びColacoら、Bio/Tech.、10:1007−1011(1992)を参照されたい。
【0006】
タンパク質の精製の分野では、たとえばタンパク質が再水和及び融解時に凝集する傾向を低減又は防止することが特に有用である。これは、しばしばタンパク質が治療の進行中のベース(ongoing basis)として使用される生物薬剤学の分野で特に重要である。タンパク質凝集体を形成し、これを患者に注入する場合、抗体がタンパク質に対して形成し得、治療の有効性を低下させる。したがって、各種物質、特に医薬において有用な物質の凝集を防止することが有用である。
【0007】
発明の概要
本発明は、物質の脱水及び再水和時の凝集を低減する方法であって、物質の溶液又は懸濁液に再水和時の凝集を防止するのに十分な量のトレハロースを添加するステップ、及びこの溶液又は懸濁液を脱水するステップを含む方法を包含する。本発明はまた、上記のようにして得られる組成物も包含する。
【0008】
本発明は更に、溶液又は懸濁液を再水和し、それによって物質の凝集体(aggregates)を実質的に含まない組成物を得ることも包含する。このようにして得られる組成物も本発明に包含される。
【0009】
本発明はまた、凍結時(及び場合によっては融解時)の溶液又は懸濁液中での物質の凝集を低減する方法であって、物質の溶液又は懸濁液に凍結時の凝集を防止するのに十分な量のトレハロースを添加するステップ、及びこの溶液又は懸濁液を凍結するステップを含む方法も包含する。本発明は、上記のようにして得られる組成物も包含する。
【0010】
本発明は更に、凍結した溶液又は懸濁液を融解し、それによって物質の凝集体を実質的に含まない組成物を得ることも包含する。このようにして得られる組成物も本発明に包含される。
【0011】
本発明での使用には、治療薬、予防薬及び診断薬を非限定的に含むきわめて様々な物質が適する。
【0012】
物質が赤血球である場合、本発明の方法はトレハロース添加前に赤血球を固定するステップも含み得る。赤血球の固定は、ホルムアルデヒド及びグルタルアルデヒドを非限定的に含む任意の公知方法で行ない得る。
【0013】
図面の簡単な説明
図1は、24時間後のカラム1個当たりのリン酸アルミニウム沈降の高さのパーセンテージを示す棒グラフである。トレハロース存在下及び不在下に記号+及び−をそれぞれ付したカラムを乾燥した。略号Tvは真空乾燥試料、Tfdは凍結乾燥試料、Tfzは凍結試料、T4fzは4回凍結融解試料、Twは水性試料を意味する。
【0014】
図2は、5.5時間後のカラム1個当たりのリン酸アルミニウム沈降の高さのパーセンテージを示す棒グラフである。試験前に試料を45℃で1週間貯蔵した。略号は図1と同じ意味を有する。
【0015】
図3は、24時間後の水酸化アルミニウム沈降の高さのパーセンテージを示す棒グラフである。数字1〜5は実施例3に述べるシリーズを示し、記号dは真空乾燥試料、wは水性対照、fは凍結試料を意味する。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、物質の脱水及び再水和時の凝集を、物質の例えば水性の溶液又は懸濁液に再水和時の凝集の防止に十分な量のトレハロースを添加し、この溶液又は懸濁液を脱水することによって低減する方法を包含する。
【0017】
本発明は更に、凍結及び融解時の例えば水性の溶液又は懸濁液中での物質の凝集を低減する方法であって、物質の溶液又は懸濁液に凍結及び融解時の凝集を防止するのに十分な量のトレハロースを添加するステップ、及びこの溶液又は懸濁液を凍結するステップを含む方法も包含する。
【0018】
本発明は、凍結組成物及び脱水組成物を含めた、凝集を防止又は低減するべくトレハロースを含有させた例えば水性の組成物にも係わる。
【0019】
本明細書中に用いた「凝集」という語は、物質の2個以上の分子がもはやモノマーとしてではなくダイマー、トリマー又は他のマルチマー形態として振る舞うように相互作用することを意味する。凝集を低減すると、トレハロース不在下に脱水及び再水和、又は凍結及び融解した物質に比較してマルチマー形態の濃度が低下する。実質的に凝集体を含まない、もしくは実質的に凝集しない物質とは、再水和又は融解時にマルチマー形態の物質を、トレハロースを欠く対照に比較して少量しか含有しない物質のことである。典型的には、トレハロースは物質のいかなるマルチマー形態の形成も防止する。例えば成長ホルモンの場合、脱水又は凍結の前にトレハロースを添加するとダイマー以外のあらゆるマルチマー形態を排除することができる。しかし、ダイマーも対照に比べれば減少する。
【0020】
好ましい具体例において、本発明での使用に適する物質は医学的用途を有する。そのような物質には、治療用物質、予防用物質及び診断用物質が非限定的に含まれる。物質は、脱水/再水和時、及び/又は凍結/融解時にマルチマーを形成するものであり得る。マルチマーもしくは凝集体の形成方法は本発明にとって重要でない。
【0021】
適当な治療用物質には、治療に有効な任意の生体調節剤が非限定的に含まれる。そのような調節剤には、タンパク質及びペプチド、ステロイドホルモン、オリゴ糖、核酸、ポリヌクレオチド、及び様々な小型分子が非限定的に含まれる。更に、上記調節剤は天然源から得ても、組み換え又は合成手段によって製造してもよく、かつ該調節剤は類似体、作用薬及び相同体を含み得る。本明細書中に用いた「タンパク質」という語は、ペプチド及びポリペプチドも意味する。このようなタンパク質には、成長ホルモン、成長因子、インシュリン、モノクローナル抗体、インターフェロン及びインターロイキンが非限定的に含まれる。好ましくは、成長ホルモンはヒト成長ホルモンである。適当なステロイドホルモンには、エストロゲン、プロゲステロン及びテストステロンが非限定的に含まれる。本明細書に開示した方法で調製した治療用物質も本発明に包含される。
【0022】
適当な予防用物質には、ワクチン調製に用いる水酸化アルミニウム及びリン酸アルミニウムなどの、アルミニウムを主成分とするアジュバントが非限定的に含まれる。例えば予防用である上述の物質を含有する組成物も本発明に包含される。好ましい組成物には、本明細書に開示した方法で調製した、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムを含有するワクチンが含まれる。適当なワクチンには、ジフテリア、破傷風、百日咳(DTP)又はDTP/不活性化ポリオワクチン(IPV)といった混合ワクチンが非限定的に含まれる。適当な診断用物質には、金コロイド、ポリスチレンラテックス、固定赤血球、及びモノクローナル抗体が非限定的に含まれる。本明細書に開示した方法で調製した診断用物質及び組成物も本発明に包含される。
【0023】
脱水ステップは、凍結乾燥、周囲条件下での乾燥、又は蒸気圧を低下させての乾燥を非限定的に含む、当業者に公知である任意の方法で行ない得る。蒸気圧を低下させて乾燥する場合、乾燥温度は好ましくは物質が分解する温度より低温とする。
【0024】
凍結ステップは、液体窒素への浸漬、−4〜−80℃とし得る冷凍庫内への配置、ドライアイス及びアルコール凍結浴を非限定的に含む、当業者に公知である任意の方法で行ない得る。試料は、凍結状態の維持に適する温度に維持するべきである。凍結試料の融解は、例えば室温又はより高温において、当業者に公知である任意の手段で可能である。融解を室温より高い温度で行なう場合、その温度は物質の変性または他の化学的変化を惹起する温度より低くするべきである。最適の凍結及び融解温度は経験的に決定し得る。このような決定は当業者の技術の範囲内である。
【0025】
脱水または凍結した物質は無限に貯蔵可能である。脱水した物質は周囲温度で良好に貯蔵し得るが、変性または他の化学的変化を惹起する温度より低い任意の温度で貯蔵してもよい。本発明は、脱水した試料を再水和し、それによって物質の凝集体を実質的に含まない溶液及び懸濁液を得ることも包含する。再水和では、少なくとも元の溶液又は懸濁液の緩衝組成物を再生(restore)するのに十分な量の水を添加し得るが、任意の量の水又は緩衝液を添加してもよい。
【0026】
物質が赤血球を含む場合、本発明の方法は更に、トレハロース添加前に赤血球を固定するステップも含み得る。この固定ステップは、グルタルアルデヒドを非限定的に含む、当業者に公知である任意の方法で行ない得る。好ましい具体例では赤血球は固定する。
【0027】
本発明の方法では、トレハロースは再水和または融解時の物質の凝集を防止又は低減するのに十分な量で存在させることが好ましい。そのような量は経験的に決定でき、この決定は十分に当業者の技術の範囲内である。好ましくは、トレハロースは最終濃度が約1〜50%(w/v)となる量で添加する。更に好ましくは、トレハロースは最終濃度が約5〜25%(w/v)となる量で添加する。
【0028】
トレハロースは様々な供給元から入手可能である。好ましくは、用いるトレハロースの品質はANALAR試薬、分子生物学または医薬品質とする。医薬組成物の場合、トレハロースは好ましくは、Food and Drug Administration(FDA)が設定した優良品製造実施(GMP)標準に合致するものとする。
【0029】
本発明は、本発明の方法により再水和又は融解の前と後との両方において得られる生成物も包含する。一具体例において本発明は、物質、及び融解時の前記物質の凝集を防止するのに十分な量のトレハロースを含有する凍結組成物を包含する。別の具体例では、本発明は、物質、及び再水和時の前記物質の凝集を防止するのに十分な量のトレハロースを含有する脱水組成物を包含する。本発明は更に、それぞれ融解または再水和した後の上記組成物も包含する。
【0030】
本発明は、特に(例えば水性の)組成物中に存在する物質、即ち前記物質の溶液又は懸濁液などのための凝集低減又は防止剤としてのトレハロースの使用も包含する。
【0031】
興味深いことに、凝集の防止に有効であると判明したトレハロース量は、乾燥損傷の防止に有効なトレハロース量から直接推定(extrapolate)することはできない。例えば、米国特許第4,891,319号に開示された研究は、タンパク質溶液中に1% w/vという少ない量で存在するトレハロースが第VIII因子などのタンパク質の乾燥損傷を防止し得ることを示している。本明細書の実施例には、水酸化アルミニウムの凝集を完全に防止するには30% w/vより多量のトレハロースが、またタンパク質の凝集を防止するには15% w/vのトレハロースが必要であることが示してある。
【0032】
以下の実施例によって、本発明を非限定的に詳述する。
【実施例】
【0033】
実施例1
トレハロースによる粒子懸濁液の凝集の防止
トレハロースが粒子懸濁液の凝集を防止するかどうかを調べるために、金コロイドとポリスチレンラテックスとの2つの例を実験した。金コロイドはBabraham Laboratoriesから得、ポリスチレンラテックスはSigma Chemical Companyから購入したポリスチレン粒子の懸濁液であった。
【0034】
金コロイドはFrens(1993)Nature 241:20に記載の方法に従って調製した。金コロイドは、96ウエルマイクロタイタープレート中1ウエル当たり50μlの容量中0.2%Auの濃縮懸濁液から、10%w/vのトレハロースを加えるか又はトレハロースを加えずに乾燥し、次いで、乾燥オーブン中37℃で1週間貯蔵した後で再水和した。再水和により、トレハロースの存在下に乾燥した物質は、顕微鏡検査により測定したところ金コロイドの滑らかな懸濁液となった。トレハロースを加えずに乾燥した物質は、滑らかな懸濁液に分割され得なかった微視的凝集体を示した。
【0035】
ポリスチレンラテックスについても同様の実験を行った。該ラテックスは、Sigma Chemical Companyから得たカタログ番号LB−8の平均粒径0.8ミクロンのポリスチレンであった。該ラテックスは、該供給業者から入手した濃度で使用し、この場合も、乾燥前に溶液中に溶解した10%w/vトレハロースを添加するか又は添加せずに乾燥した。両試料を乾燥してから約1週間後に再水和し、しばらくの間、乾燥オーブン中37℃で貯蔵した。トレハロースを加えずに乾燥した物質は、残念ながら極めて大きな塊に凝集した。トレハロースの存在下に乾燥した物質は、極めて滑らかな単粒子の懸濁液に再懸濁された。
【0036】
従って、粒子懸濁液を乾燥する前にトレハロースを加えると、トレハロースを加えない対照に比べて再水和時の凝集量が実質的に減少した。
【0037】
実施例2
赤血球の凝集に及ぼすトレハロース−乾燥の効果
実験
凝固防止剤CPD(102mM クエン酸三ナトリウム、1.08mM リン酸ナトリウム及び11mM デキストロース)中でラットRBCを3回洗浄し、コットンウールを通して濾過し、1%ホルムアルデヒド又は0.5%グルタルアルデヒド中で固定した。固定は室温で1時間行った。固定化細胞をCPD中で3回洗浄し、10%トレハロース及び0.12mMアジ化ナトリウム(NaN)又はCPD中に再懸濁した。最終細胞濃度は25%w/vであった。
【0038】
ホルムアルデヒド中で固定した細胞は洗浄中に溶解し、それ以上処理しなかった。
【0039】
非固定化細胞はトレハロース中で凝集し、さらに処理する前に1/5容量のリン酸緩衝塩水を加える必要があった。
【0040】
次いで、10%トレハロース、0.12mM NaN又はCPD中100μlの細胞を、Nuncプレート中又はNuncスライド上で乾燥し、凝集体について顕微鏡で検査した。
【0041】
結果
トレハロースを加えずに乾燥した非固定化細胞は完全に溶解し、トレハロースを加えて乾燥したものも、95〜99%の溶解を示したが、ゴーストは円盤状形態を示した。
【0042】
トレハロースを加えずに乾燥した固定化細胞は、細胞の大きな巨視的凝集を示した。トレハロースを加えて乾燥した固定化細胞は極くわずかな微小凝集体しか含んでいない、滑らかな単細胞懸濁液として再懸濁された。これらの微小凝集体は、トレハロースが高濃度の場合に形成されるようであり、従って、濃度依存性ではないと思われる。
【0043】
実施例3
水素化アルミニウム及びリン酸アルミニウムの凝集
沈降アッセイ
以下の方法に従って、トレハロースが予防用アジュバントの凝集を首尾良く防止するかどうかを調べた。
【0044】
リン酸アルミニウム及び水酸化アルミニウムを5倍希釈して、0.6%w/vの最終濃度とし、1mlガラスピペット中に沈降させた。沈降カラムの高さを24時間までの種々の時間間隔で測定した。沈降カラムの高さ%は、安定状態に達したとき(約5時間後)に<30%であってはならないことに留意されたい。
【0045】
試料を真空下に乾燥し、−20℃で凍結し、室温で融解した。
【0046】
結果
パイロット1.リン酸アルミニウム
15%トレハロースの存在下又は不在下の種々の乾燥及び貯蔵形態を比較した。これらは、真空乾燥(Tv)、凍結乾燥(Tfd)、凍結(Tfz)及び4サイクルの凍結/融解(T4fz)であった。4℃で貯蔵した湿潤対照(Tw)も実験した。
【0047】
次いで、ガラスバイアル1本当たり200μlの試料を乾燥し、0日目と45℃で1週間貯蔵した後で沈降アッセイを実施した。得られた結果を図1及び図2に示す。
【0048】
パイロット2.トレハロースを表1に示されている濃度で滴定して、水酸化アルミニウム及び血球(heamacell)(分解ゼラチン)の凝集を測定した。該試料は、1.5%の水酸化アルミニウムと2%の血球を含んでいた。真空乾燥(d)及び凍結(f)のみを比較した。湿潤対照(w)はトレハロースと血球を含んでいたが、乾燥も凍結もしなかった。各シリーズは、(d)、(f)及び(w)試料を含んでいた。用いた濃度を表1に示し、得られた結果を図3に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
結論
(a)15%トレハロースは、リン酸アルミニウム及び水酸化アルミニウム中で凍結により誘発される凝集を防止し得る。
(b)7.5%トレハロースは、乾燥プロセス中での凝集の防止に十分ではない。
(c)2%の血球の付加効果は認められなかった。
【0051】
トレハロースの不在下に乾燥して再水和した水酸化アルミニウムは、急速に沈降する大きな塊として凝集し、すぐに極めて小さいゲルカラムを形成することが判明した。15%以上の濃度のトレハロースはこの凝集を防止し、形成された再水和物質は新しい非脱水物質に類似した高さのゲルカラムを形成した。この沈降パターンは、水和された非凝集化分子が大きな水和シェル体積を有し、互いに分離してゆっくり沈降することを示している。
【0052】
実施例4
生物分子の凝集に及ぼすトレハロースの効果
タンパク質組成物は、ヒト成長ホルモン(hGH)分解の主要因である、脱アミド化、酸化及び凝集を含むいくつかの機構により修飾を受け得る。脱アミド化及び酸化は総合して化学分解と考えられる。現在のところ、これらの化学分解産物の生物能力に及ぼす影響については殆ど証明されていない。Pearlman及びBewly(1993),Wang及びPearlman編,Stability and Characterization of Protein and Peptide Drugs,1−58ページ,Plenum Press,New York。
【0053】
凝集は、生物薬剤として用いられるhGH及び他のタンパク質組成物に影響を与える主要問題であり、生物能力を低減させ得る。可溶性又は不溶性凝集体は、共有結合及び非共有結合相互作用の両方の結果として形成され得る。加熱、凍結又は攪拌のような種々のストレスが凝集を誘発し得る。可視不溶性凝集体は親産物を封止不能にし得るが、主な問題点は、被験者に歓迎すべからざる免疫応答を誘発させることである(Pearlman及びBewley,1993)。これは、hGHのようなタンパク質組成物を非経口的に複数回用量で投与する場合に特に不利となる。
【0054】
以下の実験を行って、トレハロースがタンパク質の凝集に影響を与えるか否かを調べた。15%トレハロース、HPOでpHを7.4に調整した5mM NaHPO−2HOを含む200μlの組成物から、hGH(5mg)試料を乾燥した(組成物A)。2種の対照試料を調製した:200μlのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4から乾燥した5mg hGH(組成物B);及び200μlのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4、5mg グリシン、25mg マンニトールから乾燥した5mg hGH(組成物C)。これらの組成物を、真空乾燥機中30ミリトルの圧力下に40℃の貯蔵温度で20時間乾燥した。次いで、該組成物を、ゴム栓及びクリンプアルミニウムシールを備えた標準医薬血清バイアル中に真空密閉した。
【0055】
乾燥インキュベーター中に40℃で貯蔵した後、試料を脱イオン水で再水和し、逆相及びサイズ排除高速液体クロマトグラフィーにより分析して、Pikalら(1991)Pharm.Res.:427−436により記載の方法に従って、それぞれ化学分解及び凝集を測定した。これらの結果を表3に示す。
【0056】
次いで、組成物Aを再水和し、実質的にPikalら(1991)に記載のように慣用的に凍結乾燥した組成物(組成物D)と比較した。これらの結果を表3に示す。
【0057】
結果
40℃で4週間の加速エージングプロトコルを用いて、安定性及び凝集を評価した。トレハロースを含む組成物はこれらの条件下に極めて良好に機能する。化学分解は認められず、わずかな凝集が検出されたが、この凝集体も二量体組成物に限られていた(表2、1〜4行)。高分子量の凝集体が無いことが示された。
【0058】
一方は安定化賦形剤を含まないもの(B)、他方は市販の組成物に類似の、グリシン及びマンニトールを含むもの(C)という2種のhGH対照を調製した(表2、5〜6行)。これらの組成物はかなりの化学分解を受け、二量体及び高分子量の凝集体を形成した。グリシン/マンニトール組成物についての値は、類似組成物を凍結乾燥した以前の実験からの結果と同等であった(表3、7行目、Pikalら,1991)。組成物Aの安定性を凍結乾燥した同等物(組成物D)を比較すると、40℃安定性の点では差が認められなかった(表3、1〜6行)。表2及び3では、化学分解は脱アミド化タンパク質により表される曲線下の面積により測定する。
【0059】
従って、40℃で乾燥するか又は凍結乾燥した、トレハロースを含むhGH組成物は、従来の組成物よりかなり改良されていることが示された。
【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
上記発明は、明確化し且つ理解し易いように、例示により幾分詳細に記載されているが、当業者には、なんらかの変更及び改変を実施し得ることが明らかであろう。従って、明細書の記述及び実施例は、本発明を限定するものと考えてはならず、本発明は添付請求の範囲によって記載される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、24時間後のカラム1個当たりのリン酸アルミニウム沈降の高さのパーセンテージを示す棒グラフである。トレハロース存在下及び不在下に記号+及び−をそれぞれ付したカラムを乾燥した。略号Tvは真空乾燥試料、Tfdは凍結乾燥試料、Tfzは凍結試料、T4fzは4回凍結融解試料、Twは水性試料を意味する。
【図2】図2は、5.5時間後のカラム1個当たりのリン酸アルミニウム沈降の高さのパーセンテージを示す棒グラフである。試験前に試料を45℃で1週間貯蔵した。略号は図1と同じ意味を有する。
【図3】図3は、24時間後の水酸化アルミニウム沈降の高さのパーセンテージを示す棒グラフである。数字1〜5は実施例3に述べるシリーズを示し、記号dは真空乾燥試料、wは水性対照、fは凍結試料を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の水和/再水和中の凝集を低減又は防止する方法であって、物質の溶液又は懸濁液に再水和時の凝集を防止又は低減させるのに十分な量のトレハロースを添加し、前記溶液又は懸濁液を脱水することを特徴とする方法。
【請求項2】
更に、物質を再水和して実質的に非凝集形態の物質の溶液又は懸濁液を得ることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の方法。
【請求項3】
溶液又は懸濁液中の物質の凍結中の凝集を軽減又は防止する方法であって、物質の溶液又は懸濁液に凍結中の凝集を防止又は低減させるのに十分な量のトレハロースを添加し、前記溶液又は懸濁液を凍結することを特徴とする方法。
【請求項4】
更に、溶液又は懸濁液を融解して実質的に非凝集形態の物質の溶液又は懸濁液を得ることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の方法。
【請求項5】
物質が治療、予防又は診断用物質であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
物質が治療用物質であり、生体応答調節剤であることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の方法。
【請求項7】
生体応答調節剤がタンパク質、ペプチド、ステロイドホルモン、オリゴサッカライド、核酸、ポリヌクレオチド又は小型分子であることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の方法。
【請求項8】
タンパク質が成長ホルモン、成長因子、インシュリン、モノクローナル抗体、インターロイキン又はインターフェロンであることを特徴とする請求の範囲第7項に記載の方法。
【請求項9】
物質がヒト成長ホルモンであることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の方法。
【請求項10】
ステロイドホルモンがエストロゲン、プロゲステロン又はテストステロンであることを特徴とする請求の範囲第7項に記載の方法。
【請求項11】
物質が予防用物質であり、アルミニウムを主成分とするアジュバントであることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の方法。
【請求項12】
更に、アジュバントをワクチンに配合することを特徴とする請求の範囲第11項に記載の方法。
【請求項13】
ワクチンがジフテリア/破傷風/百日咳(DTP)又はジフテリア/破傷風/百日咳/不活化ポリオワクチン(DTP/IPV)であることを特徴とする請求の範囲第12項に記載の方法。
【請求項14】
ワクチンがDTP又はIPVであることを特徴とする請求の範囲第13項に記載の方法。
【請求項15】
物質が診断用物質であり、金コロイド、ポリスチレンラテックス、固定赤血球又はモノクローナル抗体であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第14項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
トレハロースを1〜50%(w/v)の最終濃度が得られるような量添加することを特徴とする請求の範囲第1項〜第15項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
トレハロースを5〜25%(w/v)の最終濃度が得られるような量添加することを特徴とする請求の範囲第1項〜第16項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
物質が赤血球であり、更にトレハロースを添加する前に赤血球を固定することを特徴とする請求の範囲第15項〜第17項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
グルタルアルデヒドにより固定することを特徴とする請求の範囲第18項に記載の方法。
【請求項20】
脱水が凍結乾燥、周囲条件での乾燥又は低下した蒸気圧での乾燥により起こることを特徴とする請求の範囲第1項、第2項及び第5項〜第19項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
低下した蒸気圧での乾燥が室温又は室温より高いが物質の分解又は化学的変化が生ずる温度よりも低い温度で起こることを特徴とする請求の範囲第20項に記載の方法。
【請求項22】
請求の範囲第1項〜第21項のいずれかに記載の方法により得られる組成物。
【請求項23】
物質及び、凍結/融解又は水和/再水和時の物質の実質的な凝集を低減又は防止するのに十分な量のトレハロースを含む水性組成物。
【請求項24】
物質及び、融解時の物質の実質的な凝集を低減又は防止するのに十分な量のトレハロースを含む凍結組成物。
【請求項25】
物質及び、再水和時の物質の凝集を低減又は防止するのに十分な量のトレハロースを含む脱水組成物。
【請求項26】
治療、予防又は診断用組成物である請求の範囲第23項〜第25項のいずれかに記載の組成物。
【請求項27】
トレハロースを使用して、物質の溶液又は懸濁液中での凍結・融解又は水和・再水和時の物質の凝集を低減又は防止する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−179636(P2008−179636A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10077(P2008−10077)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【分割の表示】特願平8−500542の分割
【原出願日】平成7年6月2日(1995.6.2)
【出願人】(508020269)クアドラント・ドラツグ・デリバリー・リミテツド (1)
【Fターム(参考)】