説明

合成型増幅器、送信機、及び合成型増幅器制御方法

【課題】出力信号の帯域外スペクトラムを低減する合成型増幅器、送信機、及び合成型増幅器制御方法を提供する。
【解決手段】C−HPA10は、入力信号を分配し、増幅して合成する。C−HPA10は、複数の信号分離器81、82と遅延差推定器90と遅延差調整器110とを有する。複数の信号分離器81、82は、分配されたそれぞれの信号を、前記信号の時間成分を所定時間早めた信号と、前記信号の時間成分を前記所定時間遅らせた信号とに分離して出力する。遅延差推定器90は、前記入力信号と、複数の信号分離器81、82からそれぞれ出力された信号と、前記合成後の出力信号とを用いて、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を推定する。遅延差調整器110は、推定された前記遅延差を用いて、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成型増幅器、送信機、及び合成型増幅器制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信における通信データ量の増大に伴い、基地局の送信出力の増大が求められている。基地局の送信出力を増やす装置として、高出力送信増幅器(HPA)がある。この高出力送信増幅器では、単に送信出力を増大させるだけではなく、高い電力効率も求められている。そこで、近年では、送信出力を増幅すると共に電力効率を向上するために、複数のHPAを有する合成型の高出力増幅器(C−HPA:Composite-High Power Amplifier)として、高出力送信増幅器が導入されつつある。
【0003】
図6は、従来例におけるLINC(LInear amplification with Nonlinear Components)のブロック図である。図6に示すように、LINC200は、2つの増幅器241、242を有する。LINC200では、入力信号は、信号分配器210により分配された後、それぞれD/A(Digital to Analog)変換器221、222と直交変調器231、232と増幅器241、242とを経由して、加算器250により合成される。この過程において、信号分配器210により分配された2系統の信号が、2つの増幅器241、242にそれぞれ到達する迄のアームに、異なる伝送遅延τ1、τ2が生じる。LINC200の出力信号yは、各増幅器241、242の出力信号y1、y2のベクトルの和である。したがって、LINC200が、合成による歪のない出力信号yを生成するには、2本の上記アームにおける振幅、位相、及び遅延の歪みを補償することが好ましい。
【0004】
振幅、位相、及び遅延の歪みの内、振幅、位相の歪みは、LINCによって補償することができる。図7は、従来例におけるLINCが振幅と位相の歪みを補償する処理を説明するための図である。図7に示すように、LINC300は、各アームに補償器361、362を有する点を除き、図6に示したLINC200と略同様の構成を有する。したがって、LINC300の詳細な説明は省略するが、補償器361、362は、信号分配器310、390から入力された信号に、それぞれ異なる所定の複素係数K、Kを乗算することで、各アームにおける振幅、位相の歪みを補償する。しかしながら、LINC300は、各アームにおける遅延を補償することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−60451号公報
【特許文献2】国際公開第2008/114346号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Qureshi J.H. et al, “90-W Peak Power GaN Outphasing Amplifier With Optimum Input Signal Conditioning”, IEEE Trans On Theory And Techniques, 2009, vol.57, No.8, pp.1925-1935
【非特許文献2】Ilkka Hakala et al, “A 2.14-GHz Chireix Outphasing Transmitter”, IEEE Trans On Microwave Theory And Techniques, Vol.53, No.6, June 2005
【非特許文献3】W.C.Edmund et al, “A Mixed Signal Approach Towards Linear And Efficient N-Way Doherty Amplifiers”, IEEE Trans On Microwave Theory And Techniques, Vol.55, No.5, May 2007
【非特許文献4】Paloma Garcia, Jesus de Mingo, Member, IEEE, Antonio Valdovios, and Alfonso Ortega “An Adaptive Digital Method of Imbalances Cancellation in LINC Transmitters”, IEEE TRANSACTIONS ON VEHICULAR TECHNOLOGY, Vol.54, No.3, MAY 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
各増幅器に生じる遅延を補償する技術としては、DLL(Delay Locked Loop)回路を有するDPD(Digital PreDistorter)があるが、DLLは、上記各アームに生じる遅延を個々に補償する技術であり、各増幅器間に生じる遅延の差を調整することは困難である。LINC等のC−HPAにおいて、かかる遅延の差が調整されない状態で増幅信号の合成が行われると、帯域外周波数において、出力スペクトラムが劣化する。すなわち、帯域外においては、隣接チャネルとの干渉を低減する、あるいは、周波数の利用効率を向上するため、帯域外スペクトラムを低減することが好ましい。しかしながら、各増幅器間に遅延差が発生すると、帯域外周波数が10MHzを超過した辺りから、帯域外スペクトラムレベルが著しく上昇する。
【0008】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、出力信号の帯域外スペクトラムを低減する合成型増幅器、送信機、及び合成型増幅器制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本願の開示する合成型増幅器は、一つの態様において、入力信号を分配し、増幅して合成する。合成型増幅器は、複数の信号分離部と推定部と調整部とを有する。前記複数の信号分離部は、分配されたそれぞれの信号を、前記信号の時間成分を所定時間早めた信号と、前記信号の時間成分を前記所定時間遅らせた信号とに分離して出力する。前記推定部は、前記入力信号と、前記複数の信号分離部からそれぞれ出力された信号と、前記合成後の出力信号とを用いて、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を推定する。前記調整部は、推定された前記遅延差を用いて、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を調整する。
【発明の効果】
【0010】
本願の開示する合成型増幅器の一つの態様によれば、出力信号の帯域外スペクトラムを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、送信機の全体構成を示す図である。
【図2】図2は、本実施例に係るC−HPAのブロック図である。
【図3】図3は、本実施例に係るC−HPAの遅延差推定器のブロック図である。
【図4】図4は、本実施例に係るC−HPAを適用した場合における遅延と出力電圧との関係を示す図である。
【図5A】図5Aは、従来例における帯域外周波数と電力との関係を示す図である。
【図5B】図5Bは、本実施例に係るC−HPAを適用した場合における帯域外周波数と電力との関係を示す図である。
【図6】図6は、従来例におけるLINCのブロック図である。
【図7】図7は、従来例におけるLINCが振幅差と位相差とを補償する処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願の開示する合成型増幅器、送信機、及び合成型増幅器制御方法の実施例を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施例により、本願の開示する合成型増幅器、送信機、及び合成型増幅器制御方法が限定されるものではない。
【0013】
図1は、送信機の全体構成を示す図である。図1に示すように、本実施例に係る送信機1は、C−HPA10、乗算器11、局部発振器12、及びアンテナ13を有する。送信機1は、例えば基地局に実装される。まず、図1を用いて本実施例に係る送信機1の全体的な動作を説明する。その後、本実施例に係るC−HPA10における遅延差推定について詳細に説明する。
【0014】
ベースバンド信号生成部2は、音声等の入力データに基づいてベースバンド信号を生成する。ベースバンド信号生成部2は、生成されたベースバンド信号を送信機1へ出力する。ベースバンド信号生成部2は、例えば、デジタル回路やDSP(Digital Signal Processor)、CPU(Central Processing Unit)等により構成される。
【0015】
乗算器11は、ベースバンド信号の入力をベースバンド信号生成部2から受ける。さらに、乗算器11は、局部発振信号の入力を局部発振器12から受ける。乗算器11は、ベースバンド信号に局部発振信号のキャリア周波数を乗算して周波数を変換し、RF信号を生成する。乗算器11は、生成されたRF信号をC−HPA10へ出力する。
【0016】
C−HPA10は、増幅器51を少なくとも有する。なお、図1には増幅器が一つしか記載されていないが、実際には、増幅器は、並列に配列された複数の増幅器を備えることが可能である。C−HPA10は、RF信号の入力を乗算器11から受ける。C−HPA10は、増幅器51によりRF信号を増幅する。このとき、C−HPA10は、遅延差推定処理も行っているが、その詳細については後述する。C−HPA10は、増幅した信号をアンテナ13から送信する。このC−HPA10が「合成型増幅器」の一例にあたる。
【0017】
図2は、本実施例に係るC−HPAのブロック図である。図2に示すように、入力信号分配器20と、LPF(Low Pass Filter)31、32と、DPD41、42と、増幅器51、52と、結合器60と、出力信号分配器70と、信号分離器81、82と、遅延差推定器90と、LPF100と、遅延差調整器110とを有する。これら各構成部分は、一方向又は双方向に信号やデータの入出力が可能なように信号線を介して接続されている。
【0018】
入力信号分配器20は、信号xの入力を受けると、その信号をxとxとに分配し、各LPF31、32へ出力する信号を生成する。信号の分配方法としては、例えば、Outphasing法を用いることができる。入力信号分配器20は、例えばSCS(Signal Components Separator)により実現される。
【0019】
LPF31、32は、入力された分配信号x、xに対し、所定の周波数よりも高い周波数成分を遮断し、低域周波成分のみを信号として通過させる。これにより、入力信号の高調波におけるノイズを除去する。すなわち、LPF31、32は、入力信号分配器20により分配されたx信号である信号x、xの高周波成分を除去し、低周波成分をDPD41、42にそれぞれ出力する。分配信号x、xは、LPF31、32から出力された後、DPD41、42に入力される過程において、それぞれ遅延τ、τを伴う。
【0020】
DPD41、42は、デジタル信号処理により、後段の増幅器51、52における非線形歪を推定し、上記各分配信号x、xに生じた振幅と位相の歪を適応的に補償する。すなわち、DPD41、42は、LPF31、32から入力された各分配信号x、xの振幅値を算出し、当該算出結果と、C−HPA10にて発生する歪信号成分を補償するための係数(歪特性値)とに基づき、各分配信号x、xの増幅前における上記歪を補償する。
【0021】
増幅器51、52は、DPD41、42から入力された信号を受ける。増幅器51、52は、入力された各々の信号を、所定の信号レベルまで共通負荷で増幅して出力する。増幅器51、52は、所定の電力増幅率、インピーダンス、周波数特性を有するトランジスタ等の増幅素子により実現される。
【0022】
結合器60は、増幅器51、52から順次入力される信号yと信号yとを結合し、乗算器11からの入力である信号xに対する出力であるyを生成する。結合器60は、生成された信号yを、出力信号分配器70と遅延差推定器90とにフィードバック出力すると共に、遅延差の調整された増幅信号として、出力信号yをアンテナ13から送信する。
【0023】
出力信号分配器70は、結合器60により結合された出力信号yを、信号yと信号yとに再び分配し、歪補償のための信号yをDPD41に出力すると共に、信号yをDPD42に出力する。出力信号分配器70は、例えばSCSにより実現される。
【0024】
信号分離器81、82は、分配信号x、xを、所定値±Δだけ時間方向にシフトさせることによって、参照信号を生成する。すなわち、信号分離器81は、LPF31から入力された分配信号xを、時間軸方向にΔt早めた信号x(t+Δ)と、時間軸方向にΔt遅らせた信号x(t−Δ)とに分離し、それぞれの信号を、分配信号xのアーリー信号、レイト信号として、出力する。信号分離器81は、例えばSCSにより構成される。信号分離器82は、LPF32から入力された分配信号xに対して、信号分離器81と同様の処理を実行する。すなわち、信号分離器82は、分配信号xを、時間軸方向にΔt早めた信号x(t+Δ)と、時間軸方向にΔt遅らせた信号x(t−Δ)とに分離し、それぞれの信号を、分配信号xのアーリー信号、レイト信号として、出力する。
【0025】
遅延差推定器90は、信号分離器81、82によりアーリー信号とレイト信号とにそれぞれ分離された信号と、入力信号xと、フィードバック信号yとを入力し、これらの信号を基に、遅延τ、τ間の差を推定する。そして、遅延差推定器90は、その推定結果をLPF100に出力する。すなわち、遅延差推定器90は、各加算器99a、99bから出力される遅延τと遅延τとの差|τ−τ|を算出し、算出結果を、分配信号x、x間の遅延差として推定する。ここで、遅延τ、τは、次式により推定される。
τ=x(t−Δ)・y−x(t+Δ)・y
τ=x(t−Δ)・y−x(t+Δ)・y
【0026】
図3は、本実施例に係るC−HPA10の遅延差推定器90のブロック図である。図3に示すように、遅延差推定器90は、位相算出器91と、ローテータ92a、92bと、乗算器93a〜96a、乗算器93b〜96bと、加算器97a〜99a、加算器97b〜99bとを有する。これら各構成部分は、一方向又は双方向に信号やデータの入出力が可能なように信号線を介して接続されている。
【0027】
位相算出器91は、フィードバック信号yと振幅Aとに基づき、フィードバック信号yの位相θを算出する。位相θは、θ=cos−1(y/A)により算出される。ここで、Aは、入力信号xの最大振幅により定義される定数である。すなわち、位相算出器91は、合成後の出力信号(フィードバック信号)の位相を、入力信号の最大振幅を用いて算出する。位相算出器91は、フィードバック信号をcos−1(y/A)で分解することで、フィードバック信号における未知のRF(Radio Frequency)位相が遅延差推定に与える負の影響を排除する。
【0028】
ローテータ92aは、C−HPA10への入力信号xと位相算出器91からの入力θとから、信号yを出力する。すなわち、ローテータ92aは、入力信号xを所定の角度+θで分配することにより、フィードバック信号yを、信号y=rotate(x,+θ)として循環させる。ローテータ92bは、位相算出器91による出力結果の符号を反転させた−θを入力し、C−HPA10への入力信号xと−θとから、信号yを出力する。すなわち、ローテータ92bは、入力信号xを所定の角度−θで分配することにより、フィードバック信号yを、信号y=rotate(x,−θ)として循環させる。
【0029】
乗算器93aは、ローテータ92aからの出力結果である信号yの実数部Iと、信号分離器81からの出力信号のアーリー信号の内、実数部Iとを、入力し、これらの実数部の乗算結果であるI×Iを出力する。同様に、x側の乗算器93bは、ローテータ92bからの出力結果である信号yの実数部Iと、信号分離器82からの出力信号のアーリー信号の内、実数部Iとを、入力し、これらの実数部の乗算結果であるI×Iを出力する。
【0030】
乗算器94aは、虚数部につき、乗算器93aと同様の処理を実行する。すなわち、乗算器94aは、ローテータ92aからの出力結果である信号yの虚数部Qと、信号分離器81からの出力信号のアーリー信号の内、虚数部Qとを、入力し、これらの虚数部の乗算結果であるQ×Qを出力する。同様に、x側の乗算器94bは、各信号の虚数部につき、乗算器93bと同様の処理を実行する。すなわち、乗算器94bは、ローテータ92bからの出力結果である信号yの虚数部Qと、信号分離器82からの出力信号のアーリー信号の内、虚数部Qとを、入力し、これらの虚数部の乗算結果であるQ×Qを出力する。
【0031】
乗算器95a、95bは、信号分離器81、82からの出力信号のレイト信号につき、乗算器94a、94bと同様の処理を実行する。すなわち、乗算器95a、95bは、信号x、xから分離されたレイト信号の実数部I、Iと、ローテータ92a、92bからの出力信号の実数部I、Iとをそれぞれ乗算し、乗算結果であるI×I、I×Iを出力する。また、乗算器96a、96bは、各信号の虚数部につき、乗算器95a、95bと同様の処理を実行する。すなわち、乗算器96a、96bは、信号x、xから分離されたレイト信号の虚数部Q、Qと、ローテータ92a、92bからの出力信号の虚数部Q、Qとをそれぞれ乗算し、乗算結果であるQ×Q、Q×Qを出力する。
【0032】
加算器97aは、乗算器93aから入力される実数部と、乗算器94aから入力される虚数部とを加算し、加算結果を、信号xのアーリー信号の複素数相関として加算器99aに出力する。同様に、加算器98aは、乗算器95aから入力される実数部と、乗算器96aから入力される虚数部とを加算し、加算結果を、信号xのレイト信号の複素数相関として加算器99aに出力する。加算器99aは、加算器97aと加算器98aとから入力された上記加算結果を更に加算し、複素数相関の反映された遅延τを出力する。
【0033】
加算器97bは、信号xにつき、加算器97aと同様の処理を実行する。すなわち、加算器97bは、乗算器93bから入力される実数部と、乗算器94bから入力される虚数部とを加算し、加算結果を、信号xのアーリー信号の複素数相関として加算器99bに出力する。加算器98bは、信号xにつき、加算器98aと同様の処理を実行する。すなわち、加算器98bは、乗算器95bから入力される実数部と、乗算器96bから入力される虚数部とを加算し、加算結果を、信号xのレイト信号の複素数相関として加算器99bに出力する。加算器99bは、加算器97bと加算器98bとから入力された上記加算結果を更に加算し、複素数相関の反映された遅延τを出力する。
【0034】
LPF100は、遅延差推定器90から入力された信号の内、所定の周波数よりも高い周波数成分を遮断し、低域周波成分を信号として通過させることで、入力信号の高調波におけるノイズを除去する。すなわち、LPF100は、遅延差推定器90による遅延差推定結果の高周波成分を除去し、低周波成分を遅延差調整器110に出力する。LPF100は、遅延差推定器90により推定された遅延差を表す信号のうち、所定周波数を超える信号成分を除去する低域通過濾波部として機能することで、遅延差推定結果を平均化し、フィードバックノイズによって生じる推定エラーを低減する。これにより、遅延差の推定が高精度に維持される。
【0035】
遅延差調整器110は、LPF100から入力された遅延推定結果に基づき、上記2本のアーム間に生じた各遅延τ、τの差を調整する。すなわち、遅延差調整器110は、遅延τと遅延τとの大小を比較し、τ>τであれば、τ=τとなるまで、遅延τを減少させ、遅延τを増加させる。反対に、τ<τであれば、τ=τとなるまで、遅延τを増加させ、遅延τを減少させる。なお、本実施例では、分配信号が2系統の場合を想定しているため、調整対象の遅延差は|τ−τ|と算出されるが、入力信号がn系統に分配される場合には、遅延差調整器110は、各分配信号につき、基準となる遅延τとの差を(n−1)個分調整する。
【0036】
図4は、本実施例に係るC−HPAを適用した場合における遅延と出力電圧との関係を示す図である。図4において、x軸には、分配後の入力信号xに生じ得る遅延τと分配後の入力信号xに生じ得る遅延τとが規定されており、y軸には、出力電圧VOUT(V)が規定されている。遅延τの変化に伴う電圧V(τ)の変化を実線で示すと共に、遅延τの変化に伴う電圧V(τ)の変化を破線で示す。分配後の入力信号の遅延τ、τと出力電圧とは、図4に示すような相関を有することから、C−HPA10の遅延差推定部90により、遅延τ、τの不均衡は、相殺される。
【0037】
以下、図5A及び図5Bを用いて、C−HPA10により実行される遅延差調整処理の効果について説明する。図5Aは、従来例における帯域外周波数と電力との関係を示す図である。これに対して、図5Bは、本実施例に係るC−HPAを適用した場合における帯域外周波数と電力との関係を示す図である。図5A及び図5Bにおいて、x軸には、出力信号の周波数f(MHz)が規定されており、y軸には、電力P(dB)が規定されている。図5Aでは、遅延差の調整が行われていないため、遅延差の上昇に伴い、本来低減されるべきはずの、10MHz超の帯域外周波数のスペクトラムが著しく上昇している。これに対して、図5Bでは、分岐アーム間における遅延差が調整されているため、遅延差の影響は抑制され、帯域外スペクトラムは広範囲で低い値を示している。すなわち、本実施例に係るC−HPA10を用いずに信号を増幅した場合、エラーレートが高くなるに連れて、鎖線L1、L2、L3で表される信号が発生する。鎖線L1、L2、L3で表されるように、通常の増幅を行った場合には、特定の周波数帯域10〜60MHzにおいて減衰量が低くなり、大きな信号が出力されてしまっている。これに対して、本実施例に係るC−HPA10を用いて信号を増幅した場合には、余分なオフセットの周波数全域での減衰量を高くすることができ、遅延差を調整しない通常の増幅の場合と比較して、不要な信号を抑えることができている。
【0038】
以上説明したように、本実施例に係るC−HPA10は、入力信号(オリジナル信号)を分配し、増幅して合成する。C−HPA10は、複数の信号分離器81、82と遅延差推定器90と遅延差調整器110とを有する。複数の信号分離器81、82は、分配されたそれぞれの信号を、当該信号の時間成分を所定時間早めた信号と、当該信号の時間成分を当該所定時間遅らせた信号とに分離して出力する。遅延差推定器90は、上記入力信号と、複数の信号分離器81、82からそれぞれ出力された信号と、上記合成後の出力信号(フィードバック信号)とを用いて、上記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を推定する。遅延差調整器110は、推定された前記遅延差を用いて、上記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を調整する。C−HPA10が、隣接チャネルへの漏洩を抑圧しつつ、入力信号を増幅するためには、一旦分配された入力信号の遅延差を極力小さく抑えて合成することが望ましい。これを実現するには、分配後の入力信号x、x間における伝送遅延の差が同一であることが望ましい。本実施例に係るC−HPA10によれば、遅延差推定器90は、合成後の出力信号の位相と上記入力信号とを用いて算出された信号と、複数の信号分離器81、82からそれぞれ出力された信号との複素数相関を算出する。これにより、遅延差推定器90は、上記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を推定する。遅延差調整器110は、かかる推定結果を基に、遅延差の調整を図ることで、帯域外スペクトラムレベルの上昇を抑制することができる。したがって、C−HPA10は、帯域外領域において、隣接チャネルとの干渉の低減、あるいは、周波数の利用効率の向上を実現することが可能となる。
【0039】
なお、上述の実施例では、C−HPA10が2つの増幅器51、52を有する例について説明したが、C−HPA10は、n個(n≧3)の増幅器を有するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 送信機
2 ベースバンド信号生成部
10 C−HPA
11 乗算器
12 局部発振器
13 アンテナ
20 入力信号分配器
31、32、100 LPF
41、42 DPD
51、52 増幅器
60 結合器
70 出力信号分配器
81、82 信号分離器
90 遅延差推定器
91 位相算出器
92a、92b ローテータ
93a〜96a、93b〜96b 乗算器
97a〜99a、97b〜99b 加算器
110 遅延差調整器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を分配し、増幅して合成する合成型増幅器であって、
分配されたそれぞれの信号を、前記信号の時間成分を所定時間早めた信号と、前記信号の時間成分を前記所定時間遅らせた信号とに分離して出力する複数の信号分離部と、
前記入力信号と、前記複数の信号分離部からそれぞれ出力された信号と、前記合成後の出力信号とを用いて、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を推定する推定部と、
推定された前記遅延差を用いて、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を調整する調整部と
を有することを特徴とする合成型増幅器。
【請求項2】
前記推定部は、前記合成後の出力信号の位相と前記入力信号とを用いて算出された信号と、前記複数の信号分離部からそれぞれ出力された信号との複素数相関を算出することにより、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を推定することを特徴とする請求項1に記載の合成型増幅器。
【請求項3】
前記推定部は、前記合成後の出力信号の位相を、前記入力信号の最大振幅を用いて算出する位相算出部を有することを特徴とする請求項2に記載の合成型増幅器。
【請求項4】
前記推定部により推定された遅延差を表す信号のうち、所定周波数を超える信号成分を除去する低域通過濾波部を更に有することを特徴とする請求項1に記載の合成型増幅器。
【請求項5】
入力信号を分配し、増幅して合成する合成型増幅器であって、
分配されたそれぞれの信号を、前記信号の時間成分を所定時間早めた信号と、前記信号の時間成分を前記所定時間遅らせた信号とに分離して出力する複数の信号分離部と、
前記入力信号と、前記複数の信号分離部からそれぞれ出力された信号と、前記合成後の出力信号とを用いて、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を推定する推定部と、
推定された前記遅延差を用いて、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を調整する調整部と
を有する合成型増幅器と、
前記合成型増幅器により前記遅延差の調整された出力信号を送信する送信部と
を有することを特徴とする送信機。
【請求項6】
合成型増幅器が、入力信号を分配し、増幅して合成する合成型増幅器制御方法であって、
分配されたそれぞれの信号を、前記信号の時間成分を所定時間早めた信号と、前記信号の時間成分を前記所定時間遅らせた信号とに分離して出力し、
前記入力信号と、前記分離の結果としてそれぞれ出力された信号と、前記合成後の出力信号とを用いて、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を推定し、
推定された前記遅延差を用いて、前記分配されたそれぞれの信号間における遅延差を調整する
ことを特徴とする合成型増幅器制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−182645(P2012−182645A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44052(P2011−44052)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】