説明

合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置

【課題】高速に動作しかつ簡易な装置構成で、後段の画像再生処理に変更がない従来のアルゴリズムを用いることができる合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置を得る。
【解決手段】アジマス方向に沿ってレーダを移動させながらビームをビーム指向角を変えながら照射し、照射ビームの観測領域中にある散乱体での反射ビームを受信して得たデータからレーダ画像を再生する合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置であって、サンプリング帯域を越えたドップラスペクトルの折り返しを解消するドップラ折り返し解消部10と、折り返しが解消されたデータに基づいてレーダの画像再生処理を行うレーダ画像再生処理部50と、を備えたことを特徴とする合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置、特にレーダの移動と共にビーム指向角を変化させる合成開口レーダ観測で得られたデータに対する画像再生に関する。
【背景技術】
【0002】
合成開口レーダのアジマス分解能の向上を目的として、ドップラ帯域幅を広げるために、レーダの移動とともにアンテナビームの指向角度を変化させて観測する観測モード(ハイブリッドストリップマップスポットライトモード)がある。この観測モードで得られる信号のドップラ帯域幅は、アジマス方向のサンプリング帯域幅、つまり、パルス繰り返し周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)よりも大きいため、サンプリング帯域を越えたドップラスペクトルに折り返しが生じる。この折り返しを補償せずに画像再生処理を行うと、偽像の発生や、アジマス分解能劣化等の画質劣化が生じる。
【0003】
従来の合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置は、このドップラスペクトルの折り返しの解消を、アジマス時間軸上での畳み込み演算と、アジマスフーリエ変換により行う。同装置では、まず、レーダで受信、記録されたデータに対しアジマス時間軸上で参照信号を畳み込むことによってドップラ帯域の広がりを取り除く(つまり、アジマス方向での2次位相変化を取り除く)。その後アジマスフーリエ変換、アジマス時間軸上でのアップサンプリングと参照関数の畳み込みを経て、サンプリング周波数帯域を拡張する。そして、既にアジマス方向の2次の位相変化が取り除かれていることを考慮し、画像再生処理におけるフィルタ関数を変更して画像再生する(例えば、非特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】R. Lanari、S. Zoffoli、E. Sansosti、G. Fornaro、F. Serafino、”New approach for hybrid strip-map/spotlight SAR data focusing”、IEE Proc.-Radar、Sonar Navig.、Vol. 148、No. 6、pp.363-372、Dec. 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置は、2回のアジマス時間上での畳み込みが必要であるため、処理時間が増大するという問題点があった。また、同アジマス時間上での畳み込み処理を実現するための装置構成が複雑になるという問題があった。さらに、画像再生処理におけるフィルタ関数の変更が必要となるため、従来の画像再生処理をそのまま流用することはできないという問題があった。
【0006】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、高速に動作し、かつ、簡易な装置構成で、後段の画像再生処理に変更がない従来のアルゴリズムを用いることができる合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、アジマス方向に沿ってレーダを移動させながらビームをビーム指向角を変えながら照射し、照射ビームの観測領域中にある散乱体での反射ビームを受信して得たデータからレーダ画像を再生する合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置であって、サンプリング帯域を越えたドップラスペクトルの折り返しを解消するドップラ折り返し解消部と、折り返しが解消されたデータに基づいてレーダの画像再生処理を行うレーダ画像再生処理部と、を備えたことを特徴とする合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置にある。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、高速に動作し、かつ、簡易な装置構成で、画像再生処理に変更がない従来のアルゴリズムを用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1はこの発明の一実施の形態による合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置の構成を示すブロック図である。図1において、記録データ格納部1は合成開口レーダで受信、記録されたデータを格納する。このデータとは、レーダがアジマス軸方向に沿って移動しながら、ビームをビーム指向角を変えながら照射し、その照射ビームの散乱体等での反射ビームを受信したものである。出力格納部2は本装置の出力である画像再生処理部50の出力(画像再生データ)を格納する。ドップラ折り返し解消部10は、ドップラ傾斜変更部20、サンプリング帯域確保部30、ドップラ傾斜復元部40で構成され、ドップラスペクトルの折り返しを解消する。
【0010】
ドップラ傾斜変更部20は複素乗算器21より構成され、レーダで受信、記録され記録データ格納部1に格納されたデータに対して第1の参照関数1の乗算を行う。サンプリング帯域確保部30は、アジマスフーリエ変換器31、ゼロ詰め処理器32、アジマス逆フーリエ変換器33より構成され、ドップラ帯域幅分のサンプリング帯域を確保する。ドップラ傾斜復元部40は複素乗算器41より構成され、サンプリング帯域確保部30の出力に、第2の参照関数2の乗算を行う。画像再生処理部50はドップラ傾斜復元部40の出力に対して画像再生処理を施す。
【0011】
なお、記録データ格納部1と出力格納部2は例えば、メモリやデータベースにより構成される。また、ドップラ折り返し解消部10と画像再生処理部50はプログラムに従って動作するコンピュータで構成されても、またそれぞれ専用の電子回路や素子で構成するようにしてもよい。
【0012】
次に動作について説明する。図2はこの実施の形態1によるレーダ画像再生装置の処理動作を示すフローチャートである。まずステップST10において、ドップラ折り返し解消部10が記録データ格納部1より記録データを読み込む。次にステップST20において、ドップラ傾斜変更部20が、観測領域中にある散乱体のアジマス位置に応じたドップラ中心周波数の軌跡を算出する。
【0013】
この散乱体のアジマス位置に応じたドップラ中心周波数の軌跡について、図3を用いて説明する。図3の(a)は、レーダ100と地表面上の散乱体A101,散乱体B102,散乱体C103の幾何学的関係を示す図である。図3の(a)において、レーダ100はX軸方向に沿って移動しながら、ビームを地表にビーム指向角を変えながら照射している。ここで、ビーム指向中心104はレーダビームを指向させる点であり、地表面上の観測領域よりも遠方にあるとする。そして、地表面上でのアジマス位置が異なる、地表面上の散乱体A101,散乱体B102,散乱体C103が観測されるものとする。この内、散乱体B102は観測領域の中心に位置する散乱体とする。
【0014】
また、図3の(b)は、散乱体A101,散乱体B102,散乱体C103が持つドップラ周波数を表す図である。図3の(b)の横軸はアジマス時刻を示し、レーダ100が散乱体B102の真横(レーダがX軸上を移動中に散乱体B102がX軸に直交する方向に位置した状態)に位置する時刻を0とする。また縦軸はドップラ周波数を示す。散乱体A101,散乱体B102,散乱体C103は、それぞれ図中に散乱体Aのドップラ軌跡201、散乱体Bのドップラ軌跡202、散乱体Cのドップラ軌跡203として表す曲線状のドップラ周波数の変化をもつ。レーダが照射するビームには幅があるため、このドップラ軌跡の内、散乱体がビームに照射される範囲204で示す範囲内のドップラ周波数成分が観測される。そして、観測領域のドップラ帯域幅205、1散乱体当りのドップラ帯域幅206、瞬時ドップラ帯域幅207は、散乱体がビームに照射される範囲204により決まる。
【0015】
そして、散乱体がビームに照射される範囲204内にある、散乱体Aのドップラ軌跡201、散乱体Bのドップラ軌跡202、散乱体Cのドップラ軌跡203の中点を結ぶ線分が、ドップラ中心周波数の軌跡208となる。ドップラ中心周波数の軌跡208の傾きは、レーダのビーム指向中心104(図3の(a)参照)が地表面よりも遠方に設定される場合には、散乱体Aのドップラ軌跡201、散乱体Bのドップラ軌跡202、散乱体Cのドップラ軌跡203の傾きよりも小さくなる。一方、レーダのビーム指向中心104が地表面上の点B(=散乱体B)と一致する場合には、散乱体Bのドップラ軌跡202の傾きと一致する。
【0016】
レーダ観測におけるPRF(パルス繰り返し周波数)、すなわち、アジマス方向のサンプリング帯域幅209は、瞬時ドップラ帯域幅207よりも大きくとられるが、レンジアンビギュイティが発生する等の制約からさらに大きくとることは難しく、一般に観測領域のドップラ帯域幅205よりも小さい。そこで、サンプリング帯域幅209を超えた分のドップラ周波数が折り返しを生じる。
【0017】
次にステップST21おいて、ドップラ傾斜変更部20が、データからドップラ中心周波数の傾きを取り除く。この操作は、複素乗算器21が、例えば、式(1)で示される第一の参照関数1(Sref1)を、データに乗ずることで実現する。
【0018】
ref1(n)=exp[j(4πR(n)/λ)] (1)
【0019】
ここで、nはアジマス方向のヒット、λは波長、R(n)はヒットnにおけるビーム指向中心104とレーダ100間の距離を示す。
【0020】
このステップST21における操作の効果を、図4を用いて説明する。図4は、このステップST21の操作及びこれに続く後述のステップ(ST21〜ST40)の操作による、データのドップラスペクトルの変化を説明する模式図である。図4の(a)から(d)において、横軸はアジマス時刻を表し、縦軸はドップラ周波数を表している。図4の(a)は記録データのドップラ周波数を表しており、これは図3の(b)に示した観測領域のドップラ軌跡で、サンプリング帯域幅209を超えた部分が折り返したドップラスペクトルの状態を示す。図4の(a)中の一点鎖線がドップラ中心周波数の軌跡(図3の(b)の208)である。ステップST21でのドップラ中心周波数の傾きを取り除く操作により、データのドップラスペクトルは図4の(b)のようになる。同図に示すように、ドップラ中心周波数の傾きを取り除いた後のデータのドップラスペクトルはサンプリング帯域内に収まり、折り返しがなくなる。
【0021】
なお、ここでは、ドップラ傾斜を変更するための第一の参照関数1を式(1)で与えたが、これに限られるものではなく、ドップラ傾斜変更後のデータのドップラ帯域がサンプリング帯域内に収まるものであれば、他の式を用いても良い。
【0022】
次にステップST31において、サンプリング帯域確保部30に、ドップラ傾斜変更部20の出力が入力される。そして、アジマスフーリエ変換器31が、データをアジマス方向フーリエ変換する。
【0023】
次にステップST32において、ゼロ詰め処理器32が、アジマス方向フーリエ変換により得られたアジマス方向のスペクトルの両側にゼロを詰め、サンプリング帯域を図3の(b)に示す観測領域のドップラ帯域幅205以上に増やす。この結果、データのサンプリング帯域は図4の(c)のようになる。
【0024】
次にステップST33において、アジマス逆フーリエ変換器33が、データをアジマス方向逆フーリエ変換する。
【0025】
次にステップST40において、ドップラ傾斜復元部40に、サンプリング帯域確保部30の出力が入力される。そして、ドップラ傾斜復元部40がデータのドップラ中心周波数の傾きを復元する。この操作は、複素乗算器41が、上述の式(1)で示す第一の参照関数1(Sref1)と共役な関係にある、式(2)で示される第二の参照関数2(Sref2)をデータに乗ずることで実現する。
【0026】
ref2(n)=exp[−j(4πR(n)/λ)] (2)
【0027】
この結果、図4の(d)に示すように、データのドップラスペクトルの折り返しが解消される。
【0028】
次にステップST50において、画像再生処理部50が、ドップラ傾斜復元部40の出力に対して、画像再生処理を行う。この画像再生処理は、レンジドップラー画像再生処理、チャープスケーリング画像再生処理、拡張チャープスケーリング画像再生処理や、オメガK画像再生処理など、ストリップマップ観測データに適用可能な一般的な画像再生処理を任意に用いる。
【0029】
以上のように、ドップラスペクトルの折り返しを解消した後で画像再生するようにしているので、偽造の発生やアジマス分解能劣化等を回避して、所望の画質のレーダ画像を得ることができる。
【0030】
また、ドップラスペクトルの折り返の解消を、簡易な演算操作、すなわち複素乗算、フーリエ変換、そしてゼロ詰め処理のみで実現するため、高速に動作し、装置構成を簡易にすることができる。
【0031】
また、ドップラスペクトルの折り返しの解消に伴う信号特性の変化は一切ないため、後段の画像再生処理に従来のアルゴリズムを一切の変更なく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の一実施の形態による合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のレーダ画像再生装置の処理動作を示すフローチャートである。
【図3】この発明によるレーダ画像再生装置の動作を説明するための図である。
【図4】この発明によるレーダ画像再生装置の動作を説明するための図である。
【符号の説明】
【0033】
1 記録データ格納部、2 出力格納部、10 ドップラ折り返し解消部、20 ドップラ傾斜変更部、21,41 複素乗算器、30 サンプリング帯域確保部、31 アジマスフーリエ変換器、32 ゼロ詰め処理器、33 アジマス逆フーリエ変換器、40 ドップラ傾斜復元部、50 画像再生処理部、100 レーダ、101 散乱体A、102 散乱体B、103 散乱体C、104 ビーム指向中心、201 散乱体Aのドップラ軌跡、202 散乱体Bのドップラ軌跡、203 散乱体Cのドップラ軌跡、204 散乱体がビームに照射される範囲、205 観測領域のドップラ帯域幅、206 1散乱体当たりのドップラ帯域幅、207 瞬時ドップラ帯域幅、208 ドップラ中心周波数の軌跡、209 サンプリング帯域幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジマス方向に沿ってレーダを移動させながらビームをビーム指向角を変えながら照射し、照射ビームの観測領域中にある散乱体での反射ビームを受信して得たデータからレーダ画像を再生する合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置であって、
サンプリング帯域を越えたドップラスペクトルの折り返しを解消するドップラ折り返し解消部と、
折り返しが解消されたデータに基づいてレーダの画像再生処理を行うレーダ画像再生処理部と、
を備えたことを特徴とする合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置。
【請求項2】
前記ドップラ折り返し解消部が、
観測領域中にある散乱体のアジマス位置に応じたドップラ中心周波数の軌跡を算出し、所定の第一の参照関数を乗じてドップラ周波数の傾斜を変更するドップラ傾斜変更部と、
前記ドップラ傾斜変更部で得られたデータにアジマス方向フーリエ変換を施した後に、アジマス方向の両側にゼロを詰めてサンプリング帯域を観測領域のドップラ帯域幅以上に増やし、その後にアジマス方向逆フーリエ変換を施すサンプリング帯域確保部と、
前記サンプリング帯域確保部で得られたデータに前記第一の参照関数と共役な所定の第二の参照関数を乗じてドップラ周波数の傾斜を復元するドップラ傾斜復元部と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置。
【請求項3】
前記第一及び第二の参照関数がレーダとビーム指向中心間の距離で決定されることを特徴とする請求項2に記載の合成開口レーダのためのレーダ画像再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−168609(P2009−168609A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6801(P2008−6801)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】