説明

吊下げ搬送装置

【課題】従来の吊下げ搬送装置は、各工程で形状や構造が異なりそれぞれ作業が行えない方向、作業不可能な方向があった。各工程毎に異なる形状のため工程が変更される毎に車両の載せ換えが必要であった。
【解決手段】レール部は、独立して上下移動可能であるフロント側レール1とリア側レール2及び左右傾斜用レール3とを並行して設け、走行部は、フロント側レール1とリア側レール2と左右傾斜用レール3に各走行車輪によって係合して走行する走行フレーム4と、被搬送物を載置可能な載置フレーム5とを有し、走行フレームは、前後の枠が正面視円弧形枠からなり、載置フレーム5の上部枠6は、走行フレームの円弧形枠に係合して左右に移動可能な左右移動車輪63と、左右傾斜用レールに係合し走行する左右傾斜用走行車輪64とを有し、下部枠8は被搬送物を載置可能な被搬送物載置部80を有する吊下げ搬送装置による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車製造工場等において自動車の車体等の被搬送物を搬送する吊下げ搬送装置に関する。詳細には被搬送物を載置する被搬送物載置部を有し搬送装置自体が走行用レールに吊下げられて走行する吊下げ搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車製造工場においては、塗装、検査などの各工程毎に自動車を搬送しつつ作業を行なう。そして自動車を搬送する台車や吊下げ搬送装置は、各工程毎に専門化し特化した構造の搬送用台車や吊下げ搬送装置を使用していた。
【0003】
例えば、走行用レールに吊下げられて走行する吊下げ型の搬送装置では図10に示すような幅の広い直方体のフレームからなる構造の装置や、図11に示すよう幅の狭い長細い直方体のフレームの構造が知られていた。また図12に示すような搬送用台車に乗せて搬送する装置も一般的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、各工程毎に専門化し特化した構造の台車や吊下げ搬送装置を使用するのは、その工程で必要な作業がし易いような形状であり、それ以外の作業を考慮した形状ではないため、吊下げ装置でもその形状や構造の違いによって、それぞれ作業が行えない方向、作業不可能な方向があった。例えば図10乃至図12に示されるように白の矢印方向からは作業可能であるが黒の矢視X方向からは作業ができないことを示している。搬送台車では下方からの作業は行えず、フレームの形状や太さでもフレームが邪魔になって作業が行えない課題があった。
【0005】
また、従来のように吊下げ搬送装置であると車体上部や上面の作業を行なう場合、作業者の高さを得るために作業台を使用するが、その場合でも無理な作業姿勢となるため、作業に困難が伴う欠点があった。例えば作業姿勢が前傾となるため、車体に作業者が触れて身体を支えてしまい車体を傷つけるおそれが生じる課題や、作業者が作業台からはみ出して作業を行なうことによる危険性が生じる等の課題があった。
【0006】
更に従来の搬送装置は、各工程毎に異なる形状のため工程が変更される毎に車両の載せ換えが必要であった。そのため載せ換えの作業の時間が取られ作業効率がよいとはいえなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、レール部と走行部とからなり、
レール部は、フロント側レール、リア側レール及び左右傾斜用レールとを並行して設け、かつフロント側レールとリア側レールは、それぞれが独立して上下移動可能であるとともに、
走行部は、フロント側レールとリア側レールと左右傾斜用レールに各走行車輪によって係合して走行する走行フレームと、被搬送物を載置可能な載置フレームとを有し、
走行フレームは、平面視長方形のフレームであり、その前後の枠が正面視円弧形枠からなり、フロント側レールに係合して走行可能なフロント走行車輪と、リア側レールに係合して走行可能なリア走行車輪とを有し、
載置フレームは、上部枠と下部枠と縦部枠とを有し、
上部枠は、走行フレームの円弧形枠に係合して左右に移動可能な左右移動車輪と、左右傾斜用レールに係合して左右傾斜用レールの形状に沿って走行する左右傾斜用走行車輪とを有し、
下部枠は、被搬送物を載置可能な被搬送物載置部を有し、
縦部枠は、上部枠と下部枠を上下方向で連結することを特徴とする吊下げ搬送装置を提案する。
【0008】
また、左右傾斜用レールが、フロント側レール及びリア側レールに対しては平行で間隔が狭い箇所から平行で間隔が広い箇所まで連続する斜めの箇所を有するレールである0007欄に記載の吊下げ搬送装置を提案する。
【0009】
更に、走行フレームの円弧形枠の円弧形状が中央上が高く左右が低い円弧形である0007欄又は0008欄に記載の吊下げ搬送装置を提案する。
【0010】
更にまた、載置フレームが、上部枠が前後に長い枠を有し、前後の縦部枠を連結部として下部枠の車両載置部が、互いに間隔を開けた前後の車両載置部からなる0007欄又は0008欄又は0009欄に記載の吊下げ搬送装置を提案する。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、載置フレームが走行方向に向かって左右に傾斜することや、フロント側レールかリア側レールを下降させることによって走行方向の前後の傾斜が可能になったため、載置フレームに載置されている車両等の被搬送物も走行方向左右又は/及び前後に傾斜することが可能になり、特に被搬送物の上部や上面の作業を無理なく行えるようになった。
【0012】
具体的には、作業台などの作業者の高さを変えることなく被搬送物の上部や上面の作業が行えるようになった。
【0013】
また、載置フレームが、走行方向の左右又は/及び前後に傾斜するとともに、上部枠が前後に長い枠を有し、前後の縦部枠を連結部として下部枠の車両載置部が、互いに間隔を開けた前後の車両載置部からなるため、作業者が作業を行えないという作業不可能の方位及場所が、従来の搬送装置と比較して非常に少なくなった。
【0014】
したがって、自動車製造工程において、従来は各工程毎に異なる搬送装置を使用し、作業工程が変る毎に被搬送物である車体の載せ換え作業を必要としていたが、作業不可能の方位及場所が、ほとんど無いため、各工程に共通して使用することができるようになった。そのため、搬送システムが一元化されるとともに、載せ換え作業が不要となり作業効率が非常に向上した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の実施形態である吊下げ搬送装置について、斜め上部から見た斜視図である図1と図2、走行方向後部から見た後面図である図3と図4、走行フレームと載置フレームの要部拡大図である図5、吊下げ搬送装置を後方が低い傾斜状態を示す一部拡大斜視説明図である図6,吊下げ搬送装置は通常状態と後方が低い傾斜状態を示す図7、左傾斜と後方傾斜とを同時に行なった搬送状態を示す図8、載置フレームのみの斜め上部から見た斜視図である図9に基づいて説明する。
【0016】
この発明の実施形態である吊下げ搬送装置は、レール部と走行部とからなり、レール部は、それぞれが工場等の空中に床面と平行して床面から2〜2.5m前後の高さに設けられ、フロント側レール1、リア側レール2及び左右傾斜用レール3とからなる。このレール部に取付けられて走行する走行部として走行フレーム4と載置フレーム5とからなる。
【0017】
フロント側レール1とリア側レール2は、この実施形態ではフロント側レール1を中央に、その左右に2本のリア側レール2を平行して設けるが、他の実施形態としてリア側レールを中央にしてその左右に2本のフロント側レールを設けてもよい。フロント側レール1とリア側レール2は、それぞれが独立して上下に平行な移動が可能である。この実施形態ではフロント側レール1はH形鋼を横にした形状であり、リア側レール2と左右傾斜用レール3は、コ字形鋼からなり、リア側レール2はそれぞれ中央のフロント側レール1方向に開口部を向けており、左右傾斜用レール3は、下方に開口している。
【0018】
左右傾斜用レール3は、フロント側レール1とリア側レール2の横方向に、この実施形態では走行方向(進行方向)に向いて左側に固定されて設けられ、図1及び図8に示すようにフロント側レール1及びリア側レール2に対しては平行で間隔が狭い箇所3Nから平行で間隔が広い箇所3Wまで連続する斜めの箇所3Sを有している。左右傾斜用レール3は、作業工程の位置によってフロント側レール1とリア側レール2の右側に同様に設けることもできる。
【0019】
左右傾斜用レール3のフロント側レール1及びリア側レール2との平行で間隔が狭い箇所3Nは、走行部の載置フレーム5が通常状態で走行する箇所であり、フロント側レール1及びリア側レール2との平行で間隔が広い箇所3Wは、走行部の載置フレーム5が左右(図1及び図8においては左傾斜)に傾斜した状態で走行する箇所である。これらの左右傾斜用レール3の狭い箇所3N及び広い箇所3Wの設ける位置や長さは、各設置される工程の特色に応じて設けられる。
【0020】
走行フレーム4は、平面視長方形で走行方向の前枠40aと後枠40bが正面視円弧形枠からなり左右の横枠41は直線状である。走行フレーム4のそれぞれの円弧形枠40a、40bは、円弧形の中央上が高く左右が低い円弧形である。前枠40aと後枠40bとはコ字鋼からなりそれぞれ内側に開口している。
【0021】
前枠40aの円弧形中央部に2つのフロント車輪取付部44を上方へ立設して、フロント車輪取付部44の互いに向かい合った面に、それぞれフロント走行車輪42を設けており、フロント側レール1のH形鋼に走行可能に係合している。
【0022】
後枠40bの円弧形中央部近傍に2つのリア車輪取付部45を上方へ立設して、リア車輪取付部45のそれぞれ外方を向いた面にそれぞれリア走行車輪43を設けており、それぞれ左右のリア側レール2、2のコ字形鋼に走行可能に係合している。
【0023】
載置フレーム5は、上部枠6と縦部枠7と下部枠8とを有する。上部枠6は、レール部と平行な比較的長い直線状柱体からなる1本の主枠60と、主枠60の長手方向中央部付近に走行方向に直角方向で水平状に中央部を固定されて設けられ比較的短い直線状柱体からなる前後2本の傾斜枠61と、主枠60の前後端部に左右逆側に直角方向で水平状に固定されて設けられ比較的短い直線状柱体からなる端枠62とからなる。
【0024】
傾斜枠61には、走行フレーム4の円弧形枠である前枠40aと後枠40bのコ字鋼に係合して左右に移動可能な左右移動車輪63と、左右傾斜用レール3に係合して左右傾斜用レール3の形状に沿って走行する左右傾斜用走行車輪64とを有する。左右移動車輪63と左右傾斜用走行車輪64は、傾斜枠61の柱体の左右端部にそれぞれ設けられている。図5(左右傾斜用レール3は明示していない)に示すように左右移動車輪63は、傾斜枠61の前面に回転軸が前後方向を向いて取付けられており、左右傾斜用走行車輪64は、傾斜枠61の上面に回転軸が上下方向を向いて取付けられている。
【0025】
前後の端枠62は同じ長さで逆方向に突出しており、その突出端部に縦部枠7を垂直方向に設けている。縦部枠7の下端部に水平状に下部枠8を接続しており、上部枠6と下部枠8は上下方向で連結されている。
【0026】
下部枠8は、車両載置可能な車両載置部80を有する。車両載置部80は、前後の縦部枠7から互いに前後及び左右内側方向に向かう、互いに間隔を開けた前後2つの載置枠80aからなり、それぞれ上面に車両載置用突起80bを設けている。
【0027】
次にこの発明の実施形態である吊下げ搬送装置の作用について説明する。自動車の車体等の被搬送物は、車両載置部80に載置される。車両載置部80は、互いに間隔を開けた前後2つの載置枠80aからなっているため下方からの作業も可能である。
【0028】
走行部は、図示しない駆動装置によって図1の進行方向に向かってゆっくりと走行しつつ塗装、検査等の作業が行なわれる。図1が吊下げ搬送装置の載置フレーム5の通常走行状態であり、図2が載置フレーム5の左傾斜走行状態である。
【0029】
載置フレーム5を前後方向に傾斜させたい場合は、図6、図7に図示されるようにフロント側レール1か、リア側レール2のどちらかを下降、又は上昇されることによって前後の傾斜が行なわれ、載置されている車両も前か後かの傾斜になる。
【0030】
載置フレーム5の傾斜枠61に設けられている左右傾斜用走行車輪54は、図1においては左側のみに左右傾斜用レール3が設けられているため左のみが左右傾斜用レール3に係合して走行する。左右傾斜用レール3がフロント側レール1及びリア側レール2との間隔が狭い箇所3Nでは、載置フレーム5の傾斜枠61は水平状態であり、載置フレーム5は通常状態で走行する。
【0031】
走行して平行で間隔が狭い箇所3Nから連続する斜めの箇所3Sに入るとる左右傾斜用走行車輪64もそれに係合して左によるため円弧形枠である前枠40aと後枠40bに係合している左右移動車輪63が、円弧状の溝に沿って左に移動する(図5の矢視の動き)。そのため左右傾斜用走行車輪64が、左右傾斜用レール3の間隔が広い箇所3Wに位置すると、円弧状枠の一番左端部に位置し、それに伴い傾斜枠61に固定されて連結されている主枠60、端枠62、縦部枠7,車両載置部80を含む載置フレーム5全体が走行方向の左に傾斜する。この状態であると車両の上部や上面が下がるため作業が行ない易くなる。
【0032】
図8は、左又は右の傾斜と前又は後が低い傾斜を同時に行なった状態を示す。これによって車両載置部80に載置された車体は様々な姿勢を取ることができ、様々な作業が行ないやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明は、自動車等の製造工場において、被搬送物を搬送しながら作業を行なう様々な工程に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施形態である吊下げ搬送装置の載置フレームが通常状態での走行を斜め上部から見た斜視図
【図2】同じく吊下げ搬送装置の載置フレームが左傾斜した状態での走行を斜め上部から見た斜視図
【図3】同じく吊下げ搬送装置の載置フレームが通常状態での走行を走行方向後部から見た後面図
【図4】同じく吊下げ搬送装置の載置フレームが左傾斜した状態での走行を走行方向後部から見た後面図
【図5】同じく走行フレームと載置フレームの要部拡大斜視図であり、載置フレームが通常状態から左傾斜状態に移行する説明図
【図6】同じく走行フレームと載置フレームの後方が低い傾斜状態を示す一部拡大斜視説明図
【図7】同じく走行フレームと載置フレームの通常状態と後方が低い傾斜状態を示す側面図
【図8】同じく載置フレームの左傾斜状態で走行フレームと載置フレームを後方傾斜状態を示す側面図
【図9】同じく載置フレームのみの斜め上部から見た斜視図
【図10】従来の吊下げ搬送装置の斜視説明図
【図11】従来の吊下げ搬送装置の斜視説明図
【図12】従来の搬送台車の斜視説明図
【符号の説明】
【0035】
1 フロント側レール
2 リア側レール
3 左右傾斜用レール
3N 左右傾斜用レールがフロント側レールとリア側との間隔が狭い箇所
3W 左右傾斜用レールがフロント側レールとリア側との間隔が広い箇所
3S 左右傾斜用レールが間隔が狭い箇所と広い箇所を接続する斜めの箇所
4 走行フレーム
40 円弧形枠
40a 前枠
40b 後枠
41 横枠
42 フロント走行車輪
43 リア走行車輪
44 フロント車輪取付部
45 リア車輪取付部
5 載置フレーム
6 上部枠
60 主枠
61 傾斜枠
62 端枠
63 左右移動車輪
64 左右傾斜用走行車輪
7 縦部枠
8 下部枠
80 車両載置部
80a 載置枠
80b 車両載置用突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール部と走行部とからなり、
レール部は、フロント側レール、リア側レール及び左右傾斜用レールとを並行して設け、かつフロント側レールとリア側レールは、それぞれが独立して上下移動可能であるとともに、
走行部は、フロント側レールとリア側レールと左右傾斜用レールに各走行車輪によって係合して走行する走行フレームと、被搬送物を載置可能な載置フレームとを有し、
走行フレームは、平面視長方形のフレームであり、その前後の枠が正面視円弧形枠からなり、フロント側レールに係合して走行可能なフロント走行車輪と、リア側レールに係合して走行可能なリア走行車輪とを有し、
載置フレームは、上部枠と下部枠と縦部枠とを有し、
上部枠は、走行フレームの円弧形枠に係合して左右に移動可能な左右移動車輪と、左右傾斜用レールに係合して左右傾斜用レールの形状に沿って走行する左右傾斜用走行車輪とを有し、
下部枠は、被搬送物を載置可能な被搬送物載置部を有し、
縦部枠は、上部枠と下部枠を上下方向で連結することを特徴とする吊下げ搬送装置。
【請求項2】
左右傾斜用レールが、フロント側レール及びリア側レールに対しては平行で間隔が狭い箇所から平行で間隔が広い箇所まで連続する斜めの箇所を有するレールである請求項1に記載の吊下げ搬送装置。
【請求項3】
走行フレームの円弧形枠の円弧形状が中央上が高く左右が低い円弧形である請求項1又は請求項2に記載の吊下げ搬送装置。
【請求項4】
載置フレームが、上部枠が前後に長い枠を有し、前後の縦部枠を連結部として下部枠の被搬送物載置部が、互いに間隔を開けた前後の被搬送物載置部からなる請求項1又は請求項2又は請求項3に記載の吊下げ搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−137665(P2009−137665A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313060(P2007−313060)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】