説明

同軸型真空アーク蒸着源及び蒸着装置

【課題】カソード電極側の蒸着材料が消耗することによってトリガ放電が発生しなくならないように、蒸着材料を自動的に供給可能な同軸型真空アーク蒸着源。
【解決手段】本発明の蒸着源5は、蒸着材料11と一体的な棒状のカソード電極12と、カソード電極12の周囲に配置されたアノード電極と、蒸着材料11に近接した位置に配置されたトリガ電極13と、蒸着材料11を軸方向に移動させる手段と、カソード電極12とアノード電極12の間における放電を制御する電源装置6と、電源装置6の出力に基いて直線駆動機構62の駆動制御を行う放電コントローラ65とを備えた同軸型真空アーク蒸着源である。蒸着材料11と一体的な棒状のカソード電極12は、放電コントローラ65からの信号を受けた直線駆動機構62により、アーク放電に同期して自動的に駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着源及び蒸着装置に係り、特に、同軸型真空アーク蒸着源の蒸着材料の供給に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の電極部にはカーボンが使われており、そのカーボンには水素を電離するための触媒作用のある白金が担持されている。白金等を担持する場合、湿式法が用いられている。具体的には、白金塩化物の溶液中にカーボンの粉を入れて、その中で白金をカーボンの欠陥のある箇所に析出させて数nm〜数十nmの白金粒子を担持させる。この湿式法は簡便である反面、燃料電池に組み上げて稼動させた場合、凝集、均一性、反応劣化等の問題がある。
【0003】
そこで、乾式法による触媒金属の担持がなされ始めた。すなわち、これはスパッタや蒸着アーク方式により、担持材つまり白金そのものをカーボンの粉に蒸着して、カーボンの粉に白金のナノ粒子を担持するというものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、カーボン粒子の表面に粒状の合金粉末を担持させた後、熱処理して燃料電池用触媒を得るものである(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ここで、従来の触媒担持用同軸型真空アーク蒸着源105を用いた蒸着装置の一例である微粒子形成装置101について、詳細に説明する。
図5を参照して、触媒担持用の同軸型真空アーク蒸着源105を用いた微粒子形成装置101について説明する。真空槽102は、円筒状をしている。原料107を入れるための容器173と原料107をかき混ぜるためのスクレイパである固定羽根175を有する攪拌装置103は、真空槽102内に収納されている。
【0006】
同軸型真空アーク蒸着源105は、カソード電極112側の白金で成る円柱状の蒸着材料111と、アルミナで成るハット状の絶縁碍子114(以下、ハット型碍子と呼ぶ)と、トリガ電極113とを有する。蒸着材料111と、ハット型碍子114と、トリガ電極113は同心円状に密着させて取り付けられている。
【0007】
アノード電極123は、ステンレスで成り、円筒状をしている。また、このアノード電極123は、カソード電極112側の蒸着材料111と同心円状に取付けられている。なお、図示しない支柱によって図示しない真空フランジに取付けられている。この真空フランジは、真空槽102の壁面に取付けられている。
【0008】
また、図中に簡易的な配線図で電源装置106を示す。電源装置106は、トリガ電源131、アーク電源132、コンデンサユニット133を有する。
トリガ電源131は、パルストランスからなり、入力電圧200VのμS単位のパルスを約17倍に変圧して、3.4kV、数μS単位のプラス極性のトリガパルスを出力する。
アーク電源132は、100V数Aの容量の直流電源であり、コンデンサユニット133に充電している。充電時間は約1秒必要とするので放電周期は1Hzとなる。
コンデンサユニット133は、1つの容量が2200μF、耐圧100Vのコンデンサを4つ並列に接続している。
トリガ電源131のプラス出力端子は、トリガ電極114に接続され、マイナス出力端子はアーク電源132のマイナス出力端子と同じ電位に接続され、さらに蒸着材料111に接続されている。コンデンサユニット133の両端子は、アーク電源132のプラスおよびマイナス出力端子間に接続されている。
【0009】
真空排気系109は、ターボ分子ポンプ151、仕切りバルブ152、ロータリポンプ153、調整バルブ154を有する。ターボ分子ポンプ151からロータリポンプ153までは、金属製の配管で接続されており、真空槽102内の真空排気を行っている。真空 排気を行うことで、真空槽102内は、10−5Pa以下に保たれている。
【0010】
攪拌装置103は、真空槽102内に収納されている。
攪拌容器173の材質はステンレスであり、内壁はバフ研磨されている。攪拌容器173の下面の中心に回転機構172が接続されている。
【0011】
次に従来の同軸型真空アーク蒸着源105の動作を図4を参照して説明する。
アーク電源132により、100Vで電荷を充電しておく。ここで、コンデンサユニット133は、8800μFとする。トリガ電極113にトリガ電源131からの3.4kVのトリガパルスを印加し、蒸着材料111とトリガ電極113の間に、ハット型碍子114を介して印加することで、ハット型碍子114の表面で沿面放電が発生し、蒸着材料111とアノード電極123との間でコンデンサユニット133に蓄電された電荷が放電され、蒸着材料111に多量の電流が流入し、白金で成る蒸着材料111が液相から気相、さらに白金のプラズマが形成される。
【0012】
この時、カソード電極112側の蒸着材料111に多量の電流(2000A〜5000A)が、200μS〜500μSの間に流れるので、蒸着材料111に磁場が形成される。プラズマ中の電子が、蒸着材料111の形成した磁場によるローレンツ力を受けて、同軸型真空アーク蒸着源105の前方へ飛行するようになる。
【0013】
一方、プラズマ中の蒸着材料である白金イオンは、分極することでクーロン力により、同軸型真空アーク蒸着源105の前方へ飛行する電子に引き付けられるようにして同軸型真空アーク蒸着源105の前方へ飛行するようになる。
その結果、白金のイオンは、カーボンの粉107aを核にして成長し、ナノメートル単位の白金粒子が形成される。
【0014】
さらに詳しくは、攪拌容器173の中のカーボンの粉107aに向かって白金イオンを照射する。攪拌容器173は回転機構172により回転しており、攪拌装置103の固定羽根175によって、攪拌容器173内のカーボンの粒子は攪拌される。カーボンの粒子は固定羽根175に衝突することにより、固定羽根175上に現れて白金イオンに曝される。これを次々と継続することによって、攪拌容器173内の全てのカーボンの粉に均一に白金のナノ粒子を形成するというものである。
【0015】
【特許文献1】特開2006−140017号公報
【特許文献2】特開2006−222092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、このような従来の技術においては、次のような問題があった。
例えば、2gのカーボンの粉に担持率50%で白金を付ける場合、白金の重量は1gになる。これを前記同軸型真空アーク蒸着源で蒸着する場合、アーク放電一発当りの白金の膜厚レートは、約0.2nmである。照射エリアは約φ7cmエリア(38.47cm)であり、従来のカソードの寿命、すなわちカソード側蒸着材料の寿命がアーク放電10000発であることから、膜厚は2000nm(2μm=0.00002cm)であり、照射体積としては0.007693cmであることから、アーク放電10000発での蒸着重量は0.16g(0.007693cm×21.4g/cm)になる。すなわち、白金約1g(0.96g〜1.12g)蒸着するためには、約6〜7回カソード電極側蒸着材料を交換する必要があった。
上記のように、カソード電極側蒸着材料を交換するために多数回真空槽を大気開放していては生産効率が低下する。
【0017】
そこで、発明者は、カソード電極側蒸着材料を減った分だけ前方に移動させて供給する手段を考案した。その構成を、図6、図7に示す。
【0018】
図6は、発明者が既に出願した(特開平11−350115号公報)蒸着材料の移動を真空槽外部より可能とした触媒担持用の同軸型真空アーク蒸着源205である。
また、図7に同軸型真空アーク蒸着源205を用いた微粒子形成装置201の模式図を示す。
【0019】
微粒子形成装置201は、先に説明した従来の微粒子形成装置101の模式図の同軸型真空アーク蒸着源105を同軸型真空アーク蒸着源205に置き換えたものである。
この微粒子形成装置201では、カソード電極側の蒸着材料211が消耗することによってトリガ放電が発生しなくなった場合には、同軸型真空アーク蒸着源205のノブ263を回すことによって、蒸着材料を相対的に移動させて再度トリガ放電を発生させることが可能である。
【0020】
しかしながら、白金約1g(0.96g〜1.12g)蒸着するためには約6〜7回カソード電極側の蒸着材料211を移動させる必要があった。同軸型真空アーク蒸着源205のノブ263を頻繁に回す必要があり、カソード電極側の蒸着材料211とトリガ電極との間の放電が発生しなくなってから蒸着材料11を移動させるのでは装置を連続稼働させることが難しかった。
【0021】
本発明の課題は、カソードの寿命を長く維持すること、すなわちカソード電極側蒸着材料の交換頻度を減らし、さらに、電極側蒸着材料の移動を自動化することによって触媒担持の生産効率の低下を防ぐものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題は、請求項1に記載の発明、「蒸着材料と一体的な棒状のカソード電極と、前記カソード電極の周囲に配置されたアノード電極と、前記蒸着材料に近接した位置に配置されたトリガ電極と、前記蒸着材料を軸方向に移動させる移動手段と、前記カソード電極と前記アノード電極の間における放電を制御する電源ユニットと、前記電源ユニットの出力に基いて前記移動手段の駆動制御を行う制御手段とを具備する同軸型真空アーク蒸着源」によって解決される。
【0023】
すなわち、請求項1に記載の発明にあっては、放電回数とカソード電極側の蒸着材料の移動量をリンクさせることにより、カソード電極側の蒸着材料の移動を自動的に行うようにした。さらに詳しくは、放電ユニットの出力の間隔を制御の基準単位時間とし、その放電回数をカウントすることによってカソード電極を移動すべき時期を察知することが出来るようになる。これに基づいて、あらかじめ定めた移動量を移動させるので、アーク放電の間隔を一定に保つことができる。
【0024】
この場合、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の発明において、蒸着材料の移動手段が、直線導入機構と、当該直線導入機構を駆動させるためのモータと、当該モータの駆動制御手段とを有することも効果的である。
【0025】
請求項2に記載の発明によれば、蒸着材料と一体的な棒状のカソード電極を無回転状態で軸方向に移動可能であり、所定の精度での位置決めが可能になる。
【0026】
また、請求項3に記載の発明のように、請求項2に記載の発明において、モータの駆動制御手段が、トリガ放電を計数する放電コントローラからの信号を受けて、トリガ放電と移動量とを所定の間隔で同期させることも効果的である。
【0027】
請求項3に記載の発明によれば、アーク放電10発〜50発毎の短い間隔で移動可能になり、蒸着材料と絶縁碍子が固着することを防止できる。
【0028】
また、上記の課題は、請求項1に記載の同軸型真空アーク蒸着源を具備する蒸着装置によって解決される。
【0029】
すなわち、請求項4に記載の発明によれば、放電回数とカソード電極側の蒸着材料の移動量をリンクさせることにより、カソード電極側の蒸着材料の移動を自動的に行うようにした請求項1に記載の蒸着源を用いたので、アーク放電の間隔を一定に保つことができ、装置を連続稼働させることが可能となった。
【発明の効果】
【0030】
従来10000〜30000発毎に真空チャンバを大気に開放してカソード電極側の蒸着材料の交換を行っていたが、交換の回数が少なくなり、さらに、蒸着材料の移動を自動化出来たので生産性を向上させることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図を参照しながら説明する。
触媒担持用同軸型真空アーク蒸着源5を用いた微粒子形成装置1について図2に基いて説明する。
【0032】
微粒子形成装置1は、真空槽2、攪拌装置3、蒸着源5、電源6、ガス供給系8、真空排気系9及び蒸着材料供給系10からなる。
蒸着を行う真空雰囲気を維持するための真空槽2内に、蒸着対象の原料を入れた容器を含む攪拌装置3を配置し、それに対向するように蒸着源5配置して蒸着材料を気化させ、攪拌装置3の容器内の原料の表面に蒸着させて微粒子を形成させるというものである。
【0033】
真空槽2内の適切な真空雰囲気をつくりだすために、ガス供給系8と、真空排気系9を用意した。
また、蒸着源5において蒸着材料を気化するために電源6を用いて、蒸着源5に必要な電力を供給する。
以下、各構成要素を詳細に説明する。
【0034】
真空槽2は、円筒状をしている。原料である粉粒物7を入れるための攪拌容器73と粉粒物7をかき混ぜるための固定羽根75を有する攪拌装置3は、真空槽2内に収納されている。
【0035】
図中の同軸型真空アーク蒸着源5は、白金で成る円柱状の蒸着材料11、アルミナで成るハット状の絶縁碍子14(以下、ハット型碍子と呼ぶ)と、トリガ電極13とを有する。蒸着材料11と、ハット型碍子14と、トリガ電極13は同心円状に密着させて取り付けられている。
【0036】
アノード電極23は、ステンレスで成り、円筒状をしている。また、このアノード電極23は、カソード電極12と同心円状に取付けられている。なお、図示しない支柱によって図示しない真空フランジに取付けられている。この真空フランジは、真空槽2の壁面に
取付けられている。
【0037】
本発明の同軸型真空アーク蒸着源5の構成を図1に基き説明する。本発明の同軸型真空アーク蒸着源5は、カソード電極12を可動型にして、それに接続された蒸着材料11を移動可能に構成されている。
【0038】
電極ホルダ12aは、銅で出来ている。特に図示しないが2つ分割で構成され、円柱状の蒸着材料11を挟み込んで、図示しないネジで固定される。
【0039】
ステージ碍子17は、上側ステージ碍子17aと下側ステージ碍子17bからなる。
ステージ19は特に図示しないが、外周側面にタップ加工が施され、他方、円筒状のアノード電極23の内壁にもタップ加工が施され、ステージ19はアノード電極にねじ込み固定されている。
【0040】
ステージ19には、真ん中に貫通孔があり、カソード電極12の下端部12bが貫通するように取付けられている。
カソード電極12の下端部12bには、コネクタストラップ24aとアルミナの碍子であるジョイント61が接続される。
【0041】
コネクタストラップ24aの他端はカソード配線24bに接続される。さらに、カソード配線24bの他端は電源装置6に接続されている。
ジョイントの一端は、直線導入端子であり、この直線導入端子の回転部分にモータが取付けられている。モータはモータドライバと配線68で接続されている。
【0042】
トリガ電極は、図中に示すように配線21にてトリガ端子と接続されている。また、アノード電極23とアノード端子との間も、配線25にて接続されている。
【0043】
また、図中に簡易的な配線図で電源装置6を示す。電源装置6は、トリガ電源31、アーク電源32、コンデンサユニット33で構成される。
【0044】
前記、トリガ電源31と放電コントローラ65との間は信号線66で接続されている。また、モータドライバ64と放電コントローラ65の間は信号線67で接続されている。
【0045】
トリガ電源31は、パルストランスからなり、入力電圧200VのμS単位のパルスを約17倍に変圧して、3.4kV、数μS単位のプラス極性のトリガパルスを出力する。
アーク電源32は、100V数Aの容量の直流電源であり、コンデンサユニット33に充電している。充電時間は約1秒必要とするので放電周期は1Hzとなる。
【0046】
コンデンサユニット33は、1つの容量が2200μF、耐圧100Vのコンデンサを4つ並列に接続している。
【0047】
トリガ電源31のプラス出力端子は、トリガ電極14に接続され、マイナス出力端子はアーク電源32のマイナス出力端子と同じ電位に接続され、さらにカソード電極側の蒸着材料11に接続されている。コンデンサユニット33の両端子は、アーク電源32のプラスおよびマイナス端子間に接続されている。
【0048】
真空排気系9は、ターボ分子ポンプ51、仕切りバルブ52、ロータリポンプ53、調整バルブ54を有する。ターボ分子ポンプ51からロータリポンプ53までは、金属製の配管で接続されており、真空槽2内の真空排気を行っている。真空排気を行うことで、真空槽2内は、10−5Pa以下に保たれている。
【0049】
攪拌装置3は、真空槽2内に収納されている。攪拌容器73の材質はステンレスであり、内壁はバフ研磨されている。攪拌容器73の下面の中心に回転機構72が接続されている。
【0050】
以上が、本発明の実施の形態の同軸型真空アーク蒸着源5及び微粒子形成装置1の装置構成の説明である。
【0051】
次に、同軸型真空アーク蒸着源5の動作を図1を参照して説明する。
コンデンサユニット33には、アーク電源32により100Vで電荷を充電しておく。
ここで、コンデンサユニット33は、8800μFとする。トリガ電極13にトリガ電源31からの3.4kVのトリガパルスを印加し、カソード電極12側の蒸着材料11とトリガ電極13の間に、ハット型碍子14を介して印加することで、ハット型碍子14の表面で沿面放電が発生し、蒸着材料11とアノード電極23との間でコンデンサユニット33に蓄電された電荷が放電され、蒸着材料11に多量の電流が流入し、白金で成る蒸着材料11が液相から気相へと変化し、さらに白金のプラズマが形成される。
【0052】
この時、カソード電極12側の蒸着材料11に多量の電流(2000A〜5000A)が、200μS〜500μSの間に流れるので、蒸着材料11に磁場が形成される。プラズマ中の電子が、蒸着材料11の形成した磁場によるローレンツ力を受けて、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行するようになる。
【0053】
プラズマ中の蒸着材料である白金イオンは、分極することでクーロン力により、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行する電子に引き付けられるようにして同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行するようになる。
【0054】
一方、プラズマ中の蒸着材料である白金のイオンは、分極することでクーロン力により、同軸型真空アーク蒸着源5の前方へ飛行する。その結果、白金のイオンは、粉粒物7の個々のカーボンの粉を核にして成長し、ナノメートル単位の白金の微粒子が形成される。
【0055】
さらに詳しくは、攪拌容器73の中の粉粒物7すなわちカーボンの粉に向かって白金イオンを照射する。攪拌容器73は回転機構72により回転しており、攪拌装置3の固定羽根75によって、攪拌容器73内の原料7のカーボンの粉は攪拌される。カーボンの粉は固定羽根4bに衝突することにより、固定羽根75上に現れて白金イオンに曝される。これを次々と継続することによって、攪拌容器73内の全てのカーボンの粉に均一に白金の微粒子を形成するというものである。
【0056】
ここで、本発明のカソード側蒸着材料11の駆動制御につき詳細に説明する。
図1及び図3を用いて説明する。
放電開始前の、カソード側蒸着材料11、トリガ電極13、及びハット型碍子の位置関係を図3Aに示す。
【0057】
図1に示す同軸型真空アーク蒸着源5は、従来例と同様に放電自体はアーク電源32によりコンデンサユニット33に100Vで電荷を充電しておく。コンデンサユニット33は8800μFに設定する。トリガ電極13にトリガ電源31から3.4kVを蒸着材料11とトリガ電極13との間に絶縁碍子(ハット型碍子)14を介して印加することで絶縁碍子14の表面で沿面放電が発生し蒸着材料11と絶縁碍子14とのつなぎ目から電子が発生する。この時に蒸着材料11とアノード電極23の内面との間で、コンデンサユニット33に蓄電された電荷が放電され、蒸着材料11に多量の電流が流入し、蒸着材料11の表面が液相から気相さらに白金のプラズマが形成される。
【0058】
ここで、アーク電源32の放電電圧は100Vに設定されているが、放電が発生するとその出力端の端子電圧は、設定値よりも低下する。放電コントローラ34は、この電圧の低下を検知して放電回数を計数するようになっている。
【0059】
また、アーク放電自体は、微視的に見れば蒸着材料11の表面の円周状上のあるスポットで発生する。しかし、アーク放電が多数回発生することにより、巨視的に見れば蒸着材料11は図3Bに示すように円周状均一にLだけ消耗する。
【0060】
本実施例では、図1において、蒸着材料供給系10が蒸着材料の移動を自動的に行う。
すなわち、アーク放電10発毎に放電コントローラ65からモータドライバ64に移動指令信号を送信する。放電コントローラ34からの移動指令信号は、モータドライバ64で増幅されモータ63を駆動する。
【0061】
モータ63が回転して、直線導入端子62の回転部分62bを回し、直線運動部分62aを押し出すように動き、蒸着材料11が、図3Cに矢印で示すように同軸型真空アーク蒸着源5の前方に移動する。
【0062】
本実施例のように、図1において、コンデンサユニット33の容量を8800μF、充電電圧100Vの設定で放電させた場合、蒸着材料であるφ10mmの円柱状の白金は、アーク放電10000発で約1mm消耗する(図3D参照)。この場合には、10発放電する毎に前方に1μm移動させるようにモータドライバ64を制御する。
【0063】
例えば、100発毎、1000発毎に移動させても良いが、あまり移動しないで連続して放電させると、蒸着材料11と絶縁碍子14との内面で融着し固着してしまう可能性がある。従って、10発〜50発毎の短い間隔で移動させることが望ましい。このように移動させながら放電を行った状態を図3Eに示す。
【0064】
例えば、2gのカーボンに担持率50%、1gの白金を担持する場合、比較例では10000発毎に蒸着材料11の移動を7回行っていた。本発明の実施の形態では、担持を行う間に蒸着材料11が、アーク放電10発毎に自動的に1μmづつ移動され、担持の終了
時点では前方に7mm移動されている(図3F参照)。
【0065】
以上のように、本発明の実施の形態によれば、
放電回数とカソード電極側の蒸着材料の移動量をリンクさせることにより、カソード電極側の蒸着材料の移動を自動的に行うようにした。さらに詳しくは、放電ユニットの出力の間隔を制御の基準単位時間とし、その放電回数をカウントすることによってカソード電極を移動すべき時期を察知することが出来るようになる。これに基づいて、あらかじめ定めた移動量を移動させるので、アーク放電の間隔を一定に保つことができる。
さらに、カソード電極を無回転状態で軸方向に移動可能であり、所定の精度での位置決めが可能になる。
さらに、アーク放電10発〜50発毎の短い間隔で移動可能になり、蒸着材料と絶縁碍子が固着することを防止できる。
その結果、アーク放電の間隔を一定に保つことができるので、装置を連続可動させることが可能となった。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基いて種々の変形が可能である。
【0067】
例えば、蒸着材料を移動させる手段は上述した直線駆動機構に限らず、種々のものを用いることが可能である。
【0068】
また、蒸着材料の移動のためのアーク放電の計数に、アーク電圧の検知、すなわちアーク電源の端子間電圧の低下を検出して用いたが、アーク電流を検知しても良い。
【0069】
また、蒸着材料の移動のためのアーク放電の計数に、放電の検知、すなわちアーク電源の端子電圧の低下を検出して用いたが、トリガパルスを計数することによっても良い。
アーク放電が発生しやすい条件が整っていれば、トリガの数と、実際のアーク放電の発生数の差は少ないことによる。例えば、トリガ電圧をさらに高電圧とすれば、雰囲気の絶縁破壊が生じやすくなり、アーク放電の確率は高くなる。
【0070】
また、蒸着材料の移動のためのアーク放電の計数を行う放電コントローラを蒸着材料供給系に組み込んだが、電源装置に組み込んでユニット化しても良い。同様に、各構成品は適宜組合わせてユニット化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態の蒸着源の断面図である。
【図2】本発明の実施形態の蒸着装置を説明する模式図である。
【図3】本発明の実施形態の蒸着材料が蒸発と直動動作の関係を説明する部分断面図である。
【図4】従来の蒸着源の断面図である。
【図5】従来の蒸着装置を説明する模式図である。
【図6】先の発明の実施形態の蒸着源の面図である。
【図7】先の発明の実施形態の蒸着装置を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0072】
1・・・蒸着装置(微粒子形成装置)、2・・・真空槽、3・・・攪拌装置、5・・・同軸型真空アーク蒸着源、6・・・電源装置、7・・・粉粒物(原料、カーボンの粉)、
8・・・ガス供給系、9・・・真空排気系、10・・・蒸着材料供給系、
11・・・蒸着材料、12・・・カソード電極、12a・・・電極ホルダ部、12b・・・下端部、13・・・トリガ電極、14・・・絶縁碍子、14a・・・ハット、14b・・・円筒、16・・・スリーブ、17・・・スリーブ押さえ、17a・・・上側スリーブ押さえ、17b・・・下側スリーブ押さえ、18・・・ナット、
21・・・トリガ配線、22・・・トリガ配線碍子、23・・・アノード電極、24・・・カソード配線、24a・・・配線、24b・・・配線、25・・・アノード配線、
30・・・フランジ、31・・・トリガ電源、32・・・アーク電源、33・・・コンデンサユニット、
41・・・ガス供給源、42・・・仕切りバルブ、
51・・・ターボ分子ポンプ、52・・・仕切バルブ、53・・・ロータリポンプ、54・・・調整バルブ、
60・・・取付けフランジ、61・・・ジョイント、62・・・直線導入端子、62a・・・直線運動部分、62b・・・回転部分、63・・・モータ、64・・・モータドライバ、65・・・放電コントローラ、66・・・トリガ信号線、67・・・制御信号線、68・・・モータ動力線、
71・・・固定ステージ、72・・・回転機構、73・・・攪拌容器、74・・・ブラケット、75・・・固定羽根、
101・・・蒸着装置(微粒子形成装置)、102・・・真空槽、103・・・攪拌装置、
105・・・同軸型真空アーク蒸着源、106・・・電源装置、107・・・粉粒物(原料、カーボンの粉)、
111・・・蒸着材料、112・・・カソード電極、112a・・・電極ホルダ部、112b・・・下端部、112c・・・ねじ、113・・・トリガ電極、114・・・絶縁碍子、114a・・・円筒、114b・・・円板、116・・・スリーブ、117・・・スリーブ押さえ、117a・・・上側スリーブ押さえ、117b・・・下側スリーブ押さえ、118・・・ナット、
121・・・トリガ配線、122・・・トリガ配線碍子、123・・・アノード電極、125・・・アノード配線、
131・・・トリガ電源、132・・・アーク電源、133・・・コンデンサユニット、
150・・・取付けフランジ、151・・・ターボ分子ポンプ、152・・・仕切バルブ、153・・・ロータリポンプ、154・・・調整バルブ、
171・・・固定テーブル、172・・・回転機構、173・・・容器、174・・・固定フレーム、175・・・固定羽根、
201・・・蒸着装置、202・・・真空槽、205・・・同軸型真空アーク蒸着源、
210・・・蒸着材料供給系、211・・・蒸着材料、212・・・カソード電極、212a・・・電極ホルダ部、212b・・・下端部、213・・・トリガ電極、214・・・絶縁碍子、214a・・・ハット、214b・・・円筒、216・・・スリーブ、217・・・スリーブ押さえ、217a・・・上側スリーブ押さえ、217b・・・下側スリーブ押さえ、218・・・ナット、
221・・・トリガ配線、222・・・トリガ配線碍子、223・・・アノード電極、225・・・アノード配線、
231・・・トリガ電源、232・・・アーク電源、233・・・コンデンサユニット、
260・・・取付けフランジ、261・・・ジョイント、262・・・直線導入端子、262a・・・直線運動部分、262b・・・回転部分、263・・・ノブ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料と一体的な棒状のカソード電極と、
前記カソード電極の周囲に配置されたアノード電極と、
前記蒸着材料に近接した位置に配置されたトリガ電極と、
前記蒸着材料を軸方向に移動させる移動手段と、
前記カソード電極と前記アノード電極の間における放電を制御する電源ユニットと、
前記電源ユニットの出力に基づいて前記移動手段の駆動制御を行う制御手段と
を具備する同軸型真空アーク蒸着源。
【請求項2】
請求項1に記載の同軸型真空アーク蒸着源であって、
前記移動手段は、
直線導入機構と、
当該直線導入機構を駆動させるためのモータと、
当該モータの駆動制御手段とを有する同軸型真空アーク蒸着源。
【請求項3】
請求項2に記載の同軸型真空アーク蒸着源であって、
前記駆動制御手段は、トリガ放電を計数する放電コントローラからの信号を受けて、前記トリガ放電と前記蒸着材料の移動量とを所定の間隔で同期させる同軸型真空アーク蒸着源。
【請求項4】
真空槽と、
蒸着材料と一体的な棒状のカソード電極と、
前記カソード電極の周囲に配置されたアノード電極と、
前記蒸着材料に近接した位置に配置されたトリガ電極と、
前記蒸着材料を軸方向に移動させる移動手段と、
前記カソード電極と前記アノード電極の間における放電を制御する電源ユニットと、
前記電源ユニットの出力に基づいて前記移動手段の駆動制御を行う制御手段と
を具備する蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−179863(P2009−179863A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21310(P2008−21310)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】