説明

含油廃水の処理方法

【課題】効率よく油分および懸濁物質の濃度を低減でき、かつ無機凝集剤の使用量を抑えることができる含油廃水の処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】含油廃水を無機凝集剤で処理するにあたり、無機凝集剤と同時にまたは別々にカチオン系ディスパージョン型(共)重合体を添加し、次いで凝集沈澱処理および脱水処理に付すことを特徴とする含油廃水の処理方法により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含油廃水の処理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、効率よく油分および懸濁物質の濃度を低減することができる含油廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼、石油化学、食品加工、自動車工業などの産業における含油廃水は、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸バン土、鉄塩などの無機凝集剤、有機カチオン系凝集剤、有機アニオン系凝集剤などの有機凝集剤の添加による凝集処理、沈降分離または加圧浮上分離などによるフロック分離処理などの方法で処理されている。
【0003】
従来から実施されている含油廃水の処理方法として、例えば、特開2004−255349号公報(特許文献1)には、特定のカチオン性単量体を少なくとも5モル%含有する単量体混合物を重合することによって得たカチオン性水溶性高分子を含油廃水に添加した後、アニオン性水溶性高分子を添加して処理する方法が開示されている。
また、特開平7−96284号公報(特許文献2)には、油吸着剤と凝集剤とを含油廃水に添加して処理する方法、特許第2881384号公報(特許文献3)には、含油廃水にタンニンを添加・混合した後、無機凝集剤と有機カチオン系凝集剤とを加え、pHを調整してから有機ノニオン系凝集剤および/または有機アニオン系凝集剤を加えて処理する方法、特開昭60−238193号公報(特許文献4)には、含油廃水をリグニンスルホン酸と無機凝集剤およびカチオン系高分子凝集剤とで処理する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、カチオン系ディスパージョン型(共)重合体と無機凝集剤とを組み合わせた含油廃水の処理方法は知られていない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−255349号公報
【特許文献2】特開平7−96284号公報
【特許文献3】特許第2881384号公報
【特許文献4】特開昭60−238193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、効率よく油分および懸濁物質の濃度を低減でき、かつ無機凝集剤の使用量を抑えることができる含油廃水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、無機凝集剤とカチオン系ディスパージョン型(共)重合体とを併用することにより、効率よく含油廃水の油分および懸濁物質の濃度を低減でき、かつ無機凝集剤の使用量を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
かくして、本発明によれば、含油廃水を無機凝集剤で処理するにあたり、無機凝集剤と同時にまたは別々にカチオン系ディスパージョン型(共)重合体を添加し、次いで凝集沈澱処理および脱水処理に付すことを特徴とする含油廃水の処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の含油廃水の処理方法によれば、効率よく含油廃水の油分および懸濁物質の濃度を低減でき、かつ無機凝集剤の使用量を抑えることができる。また、無機凝集剤の使用量を抑えることでスラッジの発生量も抑えられ、スラッジ処分のコストも低減されることから、本発明の含油廃水の処理方法は産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の含油廃水の処理方法は、含油廃水を無機凝集剤で処理するにあたり、無機凝集剤と同時にまたは別々にカチオン系ディスパージョン型(共)重合体を添加し、次いで凝集沈澱処理および脱水処理に付すことを特徴とする。
【0011】
本発明の方法で用いられるカチオン系ディスパージョン型(共)重合体は、例えば、特開昭62−15251号公報に記載の方法によって製造することができる。
カチオン系ディスパージョン型(共)重合体は、カチオン性単量体、またはカチオン性単量体とノニオン性単量体を、塩水溶液中で該塩水溶液に可溶なイオン性高分子からなる分散剤の共存下で攪拌しながら重合して製造された、粒径100mμ以下、好ましくは粒径5〜100μmの高分子微粒子の分散液からなるのが好ましい。
本発明において「(共)重合体」は、重合体と共重合体とを意味する。
【0012】
カチオン系ディスパージョン型(共)重合体の製造に用いられるカチオン性単量体としては(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリドおよび(メタ)アクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。ここで「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルとメタクリロイルとを意味する。
【0013】
また、ノニオン性単量体としては、アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N、N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミドおよび2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トなどが挙げられる。
【0014】
重合に用いられる塩水溶液としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの水溶液が挙げられる。
また、イオン性高分子からなる分散剤としては、例えば、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。
【0015】
カチオン系ディスパージョン型(共)重合体としては、カチオン性単量体とノニオン性単量体との共重合体が好ましく、カチオン性単量体とアクリルアミドとの共重合体が特に好ましい。
カチオン系ディスパージョン型(共)重合体の分子量は、単量体の種類や組み合わせにより異なるが、100万〜1,000万程度である。
このような(共)重合体としては、市販品を用いることができ、例えば、ハイモ株式会社製の「ハイモロック Eシリーズ(ディスパージョンタイプ)」、株式会社片山化学工業研究所製の「フロクランSC-680」などが挙げられる。
【0016】
本発明の方法で用いられるカチオン系ディスパージョン型(共)重合体のカチオン密度は、0.1〜1meq/g、好ましくは0.2〜0.7meq/gである。
カチオン密度が上記の範囲であれば、効率よく含油廃水の油分および懸濁物質の濃度を低減でき、かつ無機凝集剤の使用量を抑えることができる。
カチオン密度(「カチオン度」ともいう)は、(共)重合体を滴定薬として(1/400)ポリビニル硫酸カリウム(PVSK)溶液および指示薬として0.1%トルイジンブルー溶液を用いたコロイド滴定法により測定し、下記の計算式で得られた値である。
【0017】
【数1】

【0018】
本発明の方法で用いられるカチオン系ディスパージョン型(共)重合体の添加量は、含油廃水に対し0.5〜2mg/リットル、好ましくは1〜1.5mg/リットルである。カチオン系ディスパージョン型(共)重合体の添加量が上記の範囲であれば、効率よく含油廃水の油分および懸濁物質の濃度を低減でき、かつ無機凝集剤の使用量を抑えることができる。
【0019】
本発明の方法で用いられる無機凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化第二鉄、ポリ塩化アルミニウム(PAC)などが挙げられ、廃水処理設備の状況に応じて単独または組み合わせて使用することができる。
【0020】
本発明の方法で用いられる無機凝集剤の添加量は、含油廃水に対して5〜150mg/リットルが好ましく、50〜80mg/リットルが特に好ましい。無機凝集剤の添加量が上記の範囲であれば、効率よく含油廃水の油分および懸濁物質の濃度を低減でき、かつ無機凝集剤の使用量を抑えることができる。
添加量が150mg/リットルを超える場合には、スラッジの発生量が増加し、処分コストが上がってしまうため好ましくない。
【0021】
本発明の方法は、まず含油廃水に無機凝集剤とカチオン系ディスパージョン型(共)重合体とを同時にまたは別々に添加し、次いで凝集沈澱処理および脱水処理に付す。
凝集沈澱処理および脱水処理は、公知の装置や方法を用いて実施することができる。このような装置としては、例えば、凝集反応槽、シックナーなどの、沈降分離装置、浮上分離装置、濾過分離装置、遠心分離装置などの固液分離装置が挙げられる。
【0022】
本発明の含油廃水の処理方法は、例えば、鉄鋼、石油化学、食品加工、自動車工業などの産業における含油廃水を処理対象として適用できる。
【実施例】
【0023】
本発明を試験例により具体的に説明するが、これらの試験例により本発明が限定されるものではない。
【0024】
試験例1(含油廃水中の不純物の除去効果確認試験)
某製鉄所内の廃水処理設備において、凝集反応槽(容量:100m3)の廃水(油分:35mg/リットル、懸濁物質(SS);15mg/リットル)に、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)を表1に示す有効濃度となるように添加した。次いで、高分子凝集剤としてカチオン系ディスパージョン型(共)重合体を表1に示す有効濃度となるように添加し凝集沈殿処理した後、上澄み液中の油分および懸濁物質の濃度(それぞれmg/リットル)と、脱水機を用いて脱水処理した後、1ヶ月分の汚泥発生量(ton)を測定した。また、ストレーナーの目詰りの有無を調べた。
また、カチオン系ディスパージョン型(共)重合体に代えて、以下に示す各種高分子凝集剤を表1に示す有効濃度となるように添加すること以外は、上記と同様にして試験を行なった。
得られた結果を表1に示す。
【0025】
(各種高分子凝集剤)
CD:カチオン系ディスパージョン型(共)重合体
カチオン密度:0.29〜0.44meq/g、粒径:5〜10μm
(株式会社片山化学工業研究所製、商品名「フロクランSC-680」)
A :アニオン系共重合体
(株式会社片山化学工業研究所製、商品名「フロクランA-238」)
N :ノニオン系共重合体
(株式会社片山化学工業研究所製、商品名「フロクランN-123」)
【0026】
【表1】

【0027】
上記の試験結果から、本発明の含油廃水の処理方法(実施例1および2)では、凝集沈澱処理した上澄み液の油分および懸濁物質(SS)の濃度はそれぞれ0.5mg/リットル未満および2mg/リットル未満になり、これらの除去率が共に高いことがわかる。また、ストレーナーの目詰りはない。
汚泥の発生量はポリ塩化アルミニウム(PAC)の添加量に依存し、ポリ塩化アルミニウムの添加量を低減することにより、汚泥の発生量を抑えることができる。本発明の含油廃水の処理方法では、従来の高分子凝集剤とポリ塩化アルミニウムとを併用する場合のポリ塩化アルミニウムの添加量を1/2にしても上澄み液の水質として良好な結果が得られることがわかる(実施例2)。
【0028】
従来の高分子凝集剤とポリ塩化アルミニウムとの併用(比較例2および5)では、上澄み液の油分はある程度低減されるが、懸濁物質(SS)の濃度は低減されないことがわかる。なお、ストレーナーの目詰りはない。
また、アニオン系共重合体の高分子凝集剤とポリ塩化アルミニウムとの併用(比較例3)では、上澄み液の水質は良好であるが、ストレーナーの目詰りが生じて送水不能となり、含油廃水の処理に不適であることがわかる。
従来の高分子凝集剤の単独使用(比較例1および4)、カチオン系ディスパージョン型(共)重合体の単独使用(比較例6)およびポリ塩化アルミニウムの単独使用(比較例7)では、上澄み液の油分の濃度が改善されないか、油分の濃度が改善されても懸濁物質(SS)の濃度が改善されないことがわかる。なお、ストレーナーの目詰りはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含油廃水を無機凝集剤で処理するにあたり、無機凝集剤と同時にまたは別々にカチオン系ディスパージョン型(共)重合体を添加し、次いで凝集沈澱処理および脱水処理に付すことを特徴とする含油廃水の処理方法。
【請求項2】
カチオン系ディスパージョン型(共)重合体が、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリドおよび(メタ)アクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムクロリドから選択されるカチオン性単量体、または前記カチオン性単量体と、アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N、N−ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミドおよび2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トから選択されるノニオン性単量体とを、塩水溶液中で該塩水溶液に可溶なイオン性高分子からなる分散剤の共存下で攪拌しながら重合して製造された、粒径5〜100μmの高分子微粒子の分散液である請求項1に記載の含油廃水の処理方法。
【請求項3】
カチオン系ディスパージョン型(共)重合体のカチオン密度が、0.1〜1.2meq/gである請求項1または2に記載の含油廃水の処理方法。
【請求項4】
無機凝集剤が、ポリ塩化アルミニウムである請求項1〜3にいずれか1つに記載の含油廃水の処理方法。
【請求項5】
無機凝集剤の添加量が、含油廃水に対して50〜150mg/リットルであり、カチオン系ディスパージョン型(共)重合体の添加量が含油廃水に対して0.5〜2mg/リットルである請求項1〜3にいずれか1つに記載の含油廃水の処理方法。

【公開番号】特開2008−6382(P2008−6382A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180016(P2006−180016)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(505112048)ナルコジャパン株式会社 (8)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】