説明

含金属複合構造体及びその製造方法

【課題】基材の組成や形状の制約を受けず、又、その表面に被覆する金属等(酸化物等を含む)の種類の制約を受けない含金属複合構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材2表面に、カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーの網目構造を消失性鋳型とし該鋳型の表面の外側に形成された含金属網目構造4を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基材表面に含金属構造が形成された複合構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物の機能(触媒機能等)を向上させるためには、その比表面積を増大させることが有効である。そこで、界面活性剤をテンプレート(鋳型)として用い、金属酸化物の微細構造を形成する技術が以下のように報告されている。まず、界面活性剤が金属酸化物をメソポーラス構造を持つよう組織化することに着目し、金属アルコキシドの有機溶媒溶液と界面活性剤とを加え、アルコキシドをゾルゲル法によってメソポーラス状に固化した後、界面活性剤を水洗によって取り除く技術がある(特許文献1)。又、金属アルコキシドの有機溶媒溶液と、界面活性剤と、水とを接触させて混合し、ゾルゲル法によって固化させることにより、ナノチューブ状の金属酸化物構造体を得る技術がある(特許文献2)。
一方、例えば炭素繊維表面に金属酸化物をコーティングする技術がある(特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】特開2003-277062号公報
【特許文献2】特開2003-034531号公報
【特許文献3】特開2002-180370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1、2記載の技術の場合、ゾルゲル法によるアルコキシドの固化に数日以上を要するため、二種以上の金属アルコキシドを用いると各アルコキシドの加水分解速度に差が生じ、複合金属酸化物の製造が困難になるという問題がある。又、固化時間が長くなると生産効率も低下する。
又、これらの方法の場合、溶液中の界面活性剤を鋳型とするため、金属酸化物構造体の単体を得ることはできるが、基材表面に金属酸化物構造体を形成させることができない。
【0005】
一方、例えばシリカファイバー等の繊維の表面に金属酸化物をコーティングすることは困難とされており、このような基材表面に金属酸化物を均一にコーティングする技術が要望されている。つまり、基材の組成や形状の制約を受けず、又、コーティングされる金属(酸化物)の種類の制約を受けない汎用性の高いコーティング手法が要望されている。
すなわち、本発明は、基材の組成や形状の制約を受けず、又、その表面に被覆する金属等(酸化物等を含む)の種類の制約を受けずに金属等を基材表面に均一に被覆できる含金属複合構造体及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明の含金属複合構造体は、基材表面に、カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーの網目構造を消失性鋳型とし該鋳型の表面の外側に形成された含金属網目構造を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の含金属複合構造体の製造方法は、基材表面に部分的に触媒金属を担持する工程と、前記金属触媒を担持した基材に炭素源となるガスを導入し、前記触媒金属表面にカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーを網目状に成長させる工程と、前記カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーの少なくとも表面に金属塩の溶液又は金属アルコキシドの溶液を保持させる工程と、前記溶液を保持した前記カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーを加熱して消失させ、前記溶液中の金属を含む含金属網目構造を前記基材表面に生成させる工程とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の含金属複合構造体の製造方法において、前記含金属網目構造をさらに酸化、窒化、硫化、又は還元する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、基材の組成や形状の制約を受けず、又、その表面に被覆する金属等(酸化物等を含む)の種類の制約を受けずに金属等を基材表面に均一に被覆できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<含金属複合構造体>
本発明の含金属複合構造体は、基材表面に、カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーの網目構造を消失性鋳型とし該鋳型の表面の外側に形成された含金属網目構造を有する。
なお、以下の説明では、カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーを総称して「CNT/CNF」と略記する。
【0011】
(基材)
基材としては、例えば、各種無機ファイバー(石英ファイバー、シリカファイバー)、石英、アルミナ、シリコン酸化物の板等の各種無機材料が挙げられる。基材の形状も板状、ファイバー状等、特に制限されない。特に、後述する炭素源と反応せず、触媒金属とも反応しない材料であればよい。
【0012】
(CNT/CNFの網目構造)
CNT/CNFは網目構造を形成する。網目構造(網目状)とは、基材表面に複数本成長したCNT/CNFが相互に絡み合った構造をいう。CNT/CNFの長さがある程度以上ないと、網目構造が得られない。CNT/CNFの長さを厳密に規定することはできないが、通常0.1−30 μm程度である。又、CNT/CNFの直径は通常、10−200 nm程度であり、隣接するCNT/CNF同士の間隙は通常、20 nm−2 μm程度である。
なお、CNT/CNFが基材上にまっすぐ(直毛)成長し、互いに接点を有しない場合は本発明の網目構造に含まない。このような場合、CNT/CNFを鋳型とする含金属構造体もそれぞれまっすぐなチューブ状となり、他のチューブと接しないために強度が低くなって折れやすいという問題がある。
又、基材表面からのCNT/CNFの網目構造の厚みはCNT/CNFの長さにほぼ対応し,0.1−30 μm程度である。
【0013】
CNT/CNFの表面に、例えば後述する金属塩の溶液又は金属アルコキシドの溶液を保持させ、CNT/CNFを加熱することにより、CNT/CNFが消失する。そして、CNT/CNFの表面の外側に、上記溶液が乾燥してなる含金属網目構造が形成される。含金属網目構造はCNT/CNF表面を鋳型とするため、それぞれほぼ中空の含金属チューブが網目状に絡み合った構造となる。又、含金属網目構造の大きさは、鋳型であるCNT/CNFの直径や長さに対し含金属の保持(付着)厚みを考慮したものとなる。
CNT/CNFの加熱温度は通常、室温〜1000℃程度とすることができ、加熱雰囲気としては、CNT/CNFを構成する炭素が酸化する雰囲気(例えば酸素(C+O2→CO2))、又は還元する雰囲気(例えば水素(2H2+C→CH4))とすることができる。
本発明においては、鋳型であるCNT/CNFが網目構造になっているため、基材表面のうちCNT/CNFで覆われていない部分が少なく、又、CNT/CNFの表面積も増大する。そのため、表面に確実に金属塩の溶液又は金属アルコキシドの溶液を保持させることができ、含金属網目構造で基材表面を均一に被覆するとともに、被覆欠陥が少ない。さらに、網目状の含金属構造により含金属の表面積が増大するため、含金属の活性(例えば、触媒の場合の触媒能)がより高くなる。
【0014】
(含金属網目構造)
含金属網目構造は、CNT/CNFの表面に保持した金属塩の溶液又は金属アルコキシドの溶液を適宜乾燥させ、さらに必要に応じて、酸化、窒化、硫化、又は還元することにより得ることができる。上記溶液に含まれる金属としては特に制限されないが、遷移金属,貴金属,各種ペロブスカイト型複合酸化物に含まれる金属元素が挙げられる。従って、本発明において「含金属」とは、上記溶液に含まれる金属元素の単体、又はその金属元素の酸化物、窒化物、硫化物若しくは水酸化物等を意味する。
又、上記CNT/CNFの網目構造の目が細かい(密)な場合や、CNT/CNFへの上記溶液の保持量が多い場合、上記溶液がCNT/CNFの表面だけでなく、表面張力により隣接するCNT/CNF間の空隙にも保持されることがある。この場合には、得られた含金属網目構造の網目の一部が埋められた状態となるが、このような場合も本発明に含むものとする。
【0015】
図1は、基材2(シリカファイバー)表面にCNT/CNFを網目状に形成した状態を示すSEM像である。なお、この図では、CNT/CNFの網目構造10の一部を剥離して下地の基材2が視認できるようにしているが、通常、基材2の表面を網目構造10がほぼ均一に覆っている。
図1によれば、網目構造10の形態は、複数のチューブが絡み合った網目状であることがわかる。又、基材2の直径約5μmに対し、網目構造10の厚みは1-5μm程度であることがわかる。
【0016】
<含金属複合構造体の製造方法>
次に、含金属複合構造体の製造方法について説明する。
(触媒金属担持工程)
まず、基材表面に部分的に触媒金属を担持する。基材表面に触媒金属を担持すると、後述する炭素源が熱分解した際、触媒金属の位置のみにカーボンが蒸着、成長し、CNT/CNFが形成される。従って、触媒金属としてはカーボンを成長させる元素、例えばFe,Co,Ni,Pd,Mo,Cu等の金属、又はこれらの群から選ばれる任意の2種以上を組み合わせた合金を用いることができる。又、基材としては、上記したものが挙げられる。
なお、担持するものとして、例えばNiOのような金属酸化物を用いる場合もあるが、金属酸化物は触媒として作用せず、NiOに炭素源(メタン等)を高温で接触させた際にNiOがメタン等により還元され,反応中は金属Niとして存在し,金属Niが触媒として作用することになる。
【0017】
触媒金属の担持法としては、いわゆる含浸法と呼ばれ,金属塩を溶解した溶液中に基材を浸漬し,溶液を乾燥除去することで金属塩をシリカ上に分散して付着させる手法がある。又、この他、イオン交換法,蒸着(CVD)法等が触媒金属の担持法として公知であり、本発明では、従来公知のあらゆる触媒金属担持法を適用することができる。
触媒金属の担持量は基材に対して1-50wt%程度,担持された触媒金属の粒径は10-200nm程度とすることができ、又、含浸法を用いる場合、溶液中の金属イオン濃度は0.01-1mol/L程度とすることができる。
なお、基材表面に分散して担持した触媒金属上にカーボンナノチューブが成長することは、例えば特開平09-031757号公報に記載されている。
【0018】
(CNT/CNFの成長工程)
次に、触媒金属を担持した基材にCNT/CNFの炭素源となるガスを導入し、触媒金属表面にCNT/CNFを網目状に成長させる(CVD法;化学気相成長法)。網目状の定義は既に説明した通りである。
炭素源となるガスとしては、炭化水素ガスや一酸化炭素ガスを挙げることができ、炭化水素ガスとしては例えばメタン、エタン,エチレン,アセチレン,プロパンなどがあるがこれらに限定されない。又、常温で液体の炭化水素も気化して導入することで炭素源として用いることができる。炭化水素以外の炭素源としては,各種アルコール,芳香族化合物等,炭素原子と水素原子を含む有機物を挙げることができる。
【0019】
炭素源は熱分解し、炭素原子が触媒金属上に蒸着し、金属触媒表面から外側に向かって成長してファイバー状やチューブ状のCNT/CNFとなる。通常、基材の周囲を400〜1000℃程度に加熱し,ここにガスを流通させることで,ガスが加熱されて基材に接触して反応する。加熱雰囲気は特に限定されず、水素等を共存させて還元雰囲気で反応を行うこともできるが、原料炭化水素が消費されるような酸化雰囲気は通常用いない。反応時の圧力は特に制限されず、減圧下でも高圧でもよい。
上記した工程により、通常、直径10−200 nm程度で長さ0.1−30 μm程度のCNT/CNFが成長し、これらが絡み合って網目構造となる。CNT/CNFの径や長さ、隣接するCNT/CNFの間隔は,用いる触媒金属の種類,触媒金属の粒子径(10−200 nm),反応温度(450−1000℃),炭素源となるガス、炭化水素、アルコール等の種類,反応時間(数分から数十時間まで)、後述する前駆体溶液のCNT/CNFへの付着回数等を変えることにより制御可能であり、これらの因子を制御することで、網目構造を得ることができる。
【0020】
(金属塩の溶液又は金属アルコキシドの溶液の保持工程)
次に、CNT/CNFの少なくとも表面に金属塩の溶液又は金属アルコキシドの溶液(以下、適宜、「前駆体溶液」という)を保持させる。前駆体溶液に含まれる金属としては、既に説明したように、例えば遷移金属,貴金属,各種ペロブスカイト型複合酸化物に含まれる金属元素が挙げられる。
金属塩としては特に制限されないが、これらの金属の塩化物、硝酸塩,硫酸塩,塩化物,水酸化物などが挙げられる。金属のアルコキシドとしては特に制限されないが、これらの金属のエトキシド,プロポキシド,ブトキシド,メトキシプロピレイトなどが挙げられる。又、前駆体溶液の溶媒としては特に制限されないが、例えばメタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール,アセトン,水,四塩化炭素,クロロメタン,2−メトキシエタノールなどが挙げられる。
通常、CNT/CNFへ前駆体溶液を保持させる方法は特に制限なく、CNT/CNFを前駆体溶液中に浸漬する方法や、前駆体溶液をスプレーする方法等が挙げられる。又、前駆体溶液はCNT/CNFの表面に加え、これ以外の部分、例えばカーボンナノチューブの内部や隣接するCNT/CNFの間に保持されてもよい。
【0021】
上記したようにCNT/CNFが網目構造になっているため、基材表面のうちCNT/CNFで覆われていない部分が少なく、又、CNT/CNFの表面積が増大する。そのため、基材表面に確実かつ均一に前駆体溶液を保持させることができる。例えば、従来はコーティングが困難であった基材(例えばシリカファイバー)上に前駆体溶液を均一に保持することができ、この前駆体溶液を乾燥等させることにより含金属網目構造で基材を被覆することができる。
さらに、前駆体溶液を上記網目構造に物理的に保持すればよいため、前駆体溶液に溶解する金属であれば、その種類に制限を受けることがない。例えば、従来、ナノチューブ状の金属酸化物構造体を得る方法は、ゾルゲル法に限定されていたが、本発明の製造方法によれば、前駆体溶液に溶解する金属であればよい。
【0022】
(前駆体溶液の乾燥)
CNT/CNFに保持された前駆体溶液を乾燥させ、さらに適宜酸化等させることにより前駆体溶液中の金属を構造体に変化させることができる。この乾燥工程は独立して設けなくともよく、後述するCNT/CNFの加熱・消失工程で乾燥を兼用してもよいが、前駆体溶液をCNT/CNFに複数回付着させる場合には乾燥工程を独立して設けることが好ましい。
これは、前駆体溶液をCNT/CNFに複数回付着させる場合、溶液が網目構造に付着したままであると次の溶液を付着させることが困難になり,また前駆体(塩やアルコキシド等)が残っていると次の溶液を付着させた際に,最初から残っていた前駆体が次の溶液中に溶出する恐れがあるためである。特に、乾燥によって前駆体の分解(例えば硝酸塩を酸化物に変化させる)を促進することで後者の問題を回避できる。
乾燥雰囲気は、酸化雰囲気(酸素下など),還元雰囲気(水素下など),不活性ガス雰囲気等,前駆体溶液の種類等に応じて適宜選定することができる。又、乾燥温度は室温〜500℃程度とすることができる。
【0023】
(CNT/CNFの加熱・消失工程)
次に、前駆体溶液を保持したCNT/CNFを加熱して消失させ、既に説明したように、CNT/CNFを鋳型とし前駆体溶液中の金属を含む含金属網目構造を形成する。加熱により、前駆体溶液中の金属以外の成分は除去され、残存した金属は加熱雰囲気に応じて酸化又は還元される。CNT/CNFの加熱温度や加熱雰囲気は既に説明した通りである。
例えば、含酸素雰囲気(例えば空気)中で加熱(400-800℃程度)すると、カーボンナノチューブ(ファイバー)の炭素がC+ O2 →CO2の反応式に示される酸化反応により除去され、前駆体溶液中の金属が酸化されて金属酸化物からなる含金属網目構造が形成される。
【0024】
さらに、含金属網目構造中の金属酸化物を金属に還元することもできる。還元条件としては、例えば水素流通下,室温〜1000℃程度の温度で,数時間処理することが挙げられる。
又、上記した例に限られず、含金属網目構造を窒化又は硫化させて窒化物や硫化物とすることもできる。
【0025】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
<触媒金属の担持>
基材としてシリカファイバー(商品名:Qiartz Wool Grade Fine, 販売元 東ソー株式会社,製造元 東ソー・エスジーエム株式会社,直径2−6μm)0.2gを用い、硝酸ニッケル0.3mol/Lのアセトン溶液約10mlに一分程度浸漬した。浸漬したファイバーから余分な溶液を落とし、空気中で300℃,30分の加熱処理をし、シリカファイバー表面に触媒金属としてNiO微粒子を担持させた(XRDによりNiOであることを確認した。NiO微粒子の粒子径は判定できなかったが生成するカーボンナノチューブ(ファイバー)の直径にほぼ対応するため、Ni(NiOが還元したもの)の粒子径もおよそ10-200 nmの範囲内である。
【0027】
<CNT/CNFの成長>
NiOを担持した上記シリカファイバーを石英製固定床流通式反応装置に設置した(自作装置、装置内は常圧で,メタン流通前に室温で不活性ガスを流通させ空気を除去)。反応装置に99.99%メタンガスを通し、400-1000℃に加熱したファイバーに接触させることにより,シリカファイバー上のNiOを起点としてCNT/CNFを成長させた。得られたCNT/CNFの直径は10−200 nm程度の範囲で、長さ0.1−30 μm程度であり、多数のCNT/CNFが絡み合って網目構造を形成していることをSEM像で確認した(図1)。
【0028】
<前駆体溶液の保持>
次に、CNT/CNFを成長させたシリカファイバーを、硝酸ランタン0.15mol/L・硝酸マンガン六水和物0.15mol/Lのアセトン溶液に浸漬した。シリカファイバーを溶液から引き上げて余分な溶液を落とした後, 300℃で30分乾燥させた。これを室温まで冷却後,再び硝酸ランタン・硝酸マンガン六水和物のアセトン溶液に浸漬し、同様に乾燥させた。この浸漬・乾燥工程を4回繰返した。
【0029】
<CNT/CNFの加熱除去>
次に、シリカファイバーを空気中で350〜1000℃程度で数時間加熱処理した。得られた試料のSEM像を図2に示す。
なお、図2の試料は、シリカファイバーの全面が網目状に被覆されている。もとのシリカファイバーの直径は6μm程度であり、網目状の被覆の直径は12μm程度であった。
又、この被覆をX線回折装置 (XRD)で同定し、ペロブスカイト型のLaMnO3であることを確認した。
このように、本発明の実施例によれば、CNT/CNFの網目構造を消失性鋳型とする網目状の金属酸化物(LaMnO3)がシリカファイバー上に均一に被覆される。
【0030】
図3は、図2の径方向(輪切り)断面を示すTEM(透過電子顕微鏡)像である。この図より、網目状の金属酸化物(LaMnO3)層のうち、シリカファイバー2側から金属酸化物層の中心までの内側層4aは、外側に行くほど像が暗く、金属酸化物の網目が密集している。同様に、金属酸化物層の中心から金属酸化物層の最外層に向かう外側層4bは、内側に行くほど像が暗く、金属酸化物の網目が密集している。つまり、金属酸化物層はその中心部分が最もの網の密度が高いことがわかる。
【0031】
<比較例>
比較として、カーボンナノチューブ(ファイバー)をシリカファイバー表面に形成させなかったこと以外は実施例とまったく同様にして、シリカファイバー表面に金属酸化物(LaMnO3)を形成させた。
図4は、比較例の試料のSEM像を示す。もとのシリカファイバーの直径は5μm程度であり、金属酸化物で被覆後の直径は7μm程度であるので、シリカファイバーが金属酸化物でほとんど覆われなかったことがわかる。
【0032】
<触媒能の測定>
得られた本発明の試料(網目状LaMnO3で被覆されたシリカファイバー)を触媒として用い、プロパンの完全酸化反応を行い触媒能(プロパン転化率)を測定した。反応ガスとしては、プロパン1%,酸素10%,He希釈したものを用い,これを100ml/minで試料に流通させた。転化率はガスクロマトグラフによるプロパンの定量分析により算出した。比較として、クエン酸法(ペチニ法、アモルファス酸前駆体法)によって作成したペロブスカイト型LaMnO3粉末を用いた(650℃で焼成)。クエン酸法は、生成する酸化物の表面積を増大させるため、材料となる金属塩を混合する際にクエン酸を加えて金属錯体を形成させ、金属の分散度を高める方法である。
なお、触媒能の測定にあたり、本発明の試料と比較試料のLaMnO3の質量を同一とした。
図5は、プロパン転化率について得られた結果を示す.比較試料より本発明の試料の方がプロパン完全酸化活性が高く、網目状のLaMnO3をシリカファイバー上に有すると触媒活性が向上することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】CNT/CNFで被覆された基材のSEM像を示す図である。
【図2】金属酸化物で被覆された基材のSEM像を示す別の図である。
【図3】図2の径方向(輪切り)断面のTEM像を示す図である。
【図4】比較例のコーティング後の試料のSEM像を示す図である。
【図5】本発明の試料と比較試料のプロパン転化率を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
2 基材(シリカファイバー)
4 含金属網目構造(金属酸化物)
10 CNT/CNFの網目構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーの網目構造を消失性鋳型とし該鋳型の表面の外側に形成された含金属網目構造を有することを特徴とする含金属複合構造体。
【請求項2】
基材表面に部分的に触媒金属を担持する工程と、
前記金属触媒を担持した基材に炭素源となるガスを導入し、前記触媒金属表面にカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーを網目状に成長させる工程と、
前記カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーの少なくとも表面に金属塩の溶液又は金属アルコキシドの溶液を保持させる工程と、
前記溶液を保持した前記カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーを加熱して消失させ、前記溶液中の金属を含む含金属網目構造を前記基材表面に生成させる工程と
を有することを特徴とする含金属複合構造体の製造方法。
【請求項3】
前記含金属網目構造をさらに酸化、窒化、硫化、又は還元する工程を有することを特徴とする請求項1記載の含金属複合構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−74628(P2008−74628A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252032(P2006−252032)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月19日〜20日 触媒学会主催の「第97回触媒討論会」において文書をもって発表
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000110170)トスコ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】