説明

吸音体及びその製造方法

【課題】軽量化や吸音性能の安定化を図ることができ、広い音域での吸音性能を向上させることができるようにすること。
【解決手段】吸音体10は、剛体からなる遮音層11と、この遮音層11の音響空間側に設けられた吸音部12とを備えて構成されている。吸音部12は、遮音層11との間に空間14を形成する膜状体15からなり、枠体を省略した構成となっている。空間14は、膜状体15により所定間隔を隔てて複数形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音体及びその製造方法に係り、更に詳しくは、構造の簡略化を図りつつ吸音性能を高めることができる吸音体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種ホールや室内、車内等の音響空間において吸音体が利用されており、かかる吸音体として、板体等の遮音層における音響空間側の面に吸音構造を設けた構成がある。この吸音構造としては、例えば、特許文献1〜3に開示されているものが知られている。
特許文献1の吸音構造は、不織布からなる層を複数積層することにより構成されている。
特許文献2の吸音構造は、枠体を介して薄膜を張設することにより構成され、当該薄膜を振動させることで吸音作用が得られる。
特許文献3の吸音構造は、板状体及び枠体の間に設けられた弾性体からなる制振材を備え、制振材を介して板状体を振動させることで吸音作用が得られるようになっている。
【0003】
【特許文献1】特許3632876号公報
【特許文献2】国際公開2004/107313号公報
【特許文献3】特開2005−134653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にあっては、不織布により吸音を行っているため、周波数が400Hz以下の中低域における吸音性能が得られ難いという不都合を招来する。
ここで、特許文献2及び3では、特許文献1に比べれば前記中低域の吸音性能を若干改善できるものの、枠体を用いるために吸音構造全体の重量が増大する傾向がある他、枠体を組み立てたる等の作業負担が大きくなるという不都合がある。特に、特許文献2は、薄膜の張力が経時的に弱くなり、吸音性能が変化し易くなる、という不都合を生じる。
【0005】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、簡単な構造としつつ軽量化や吸音性能の安定化を図ることができ、広い音域での吸音性能を向上させることができる吸音体及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、簡単に製造することができる吸音体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の吸音体は、音響空間に用いられる吸音体であって、
剛体からなる遮音層と、この遮音層の音響空間側に設けられた吸音部とを備え、
前記吸音部は、遮音層に取り付けられ、当該遮音層との間に空間を形成する膜状体からなる、という構成を採っている。
【0007】
また、本発明の吸音体は、音響空間に用いられる吸音体であって、
剛体からなる遮音層と、この遮音層の音響空間側に設けられた吸音部とを備え、
前記吸音部は、遮音層に取り付けられ、当該遮音層との間に空間を形成する膜状体と、前記空間の外側であって膜状体に隣接する位置及び/又は前記空間内に設けられた多孔質材とからなる、という構成も採用される。
【0008】
本発明において、前記空間は、膜状体により所定間隔を隔てて複数形成される、という構成を採ることが好ましい。
【0009】
また、本発明の吸音体の製造方法は、少なくとも一枚のシートを賦形して膜状体を形成した後、当該膜状体を剛体からなる遮音層に取り付けることにより、膜状体と遮音層との間に空間を形成して吸音部を設ける、という方法を採っている。
【0010】
更に、前記空間を形成した後、当該空間の外側であって膜状体に隣接する位置に多孔質材を設けたり、前記空間を形成する前、膜状体と遮音層との間に多孔質材を設けたりすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、膜状体が遮音層を利用して空間を形成しているので、吸音部において従来構造の枠体を省略でき、構造の簡略化や軽量化を図ることができる他、膜状体の振動により中低域の吸音性能を高めることが可能となる。また、膜状体に張力を付与しなくても、当該膜状体を遮音層に取り付けるだけで、吸音部により膜吸音型の吸音作用を簡単に安定して得ることが可能となる。
【0012】
また、空間の内側や外側に多孔質材を配置した場合、高域での吸音性能も向上でき、広い音域での吸音を実現することが可能となる。
【0013】
更に、膜状体により空間を複数形成することで、吸音性能をより一層高めたり、遮音層が広い面積を有する場合にも容易に対応可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「音響空間」とは、自動車の車内や各種装置の内部、ホール等の室内のような閉塞された空間を意味する他、屋外等の開放した空間も意味し、この場合、吸音体に主たる音を入射する方の空間が音響空間となる。
【0015】
[第1実施形態]
図1には、第1実施形態に係る吸音体を模式的に表した概略縦断面図が示されている。この図において、吸音体10は、遮音層11と、この遮音層11の音響空間側(同図中右側)の面に設けられた吸音部12とにより構成されている。
【0016】
前記遮音層11は、剛体となる板状体からなり、音響空間の外部から当該音響空間に向かう音を遮断する作用を奏するようになっている。遮音層11の厚みは、0.5mm〜20mm、好ましくは1mm〜10mmに形成されている。遮音層11は、平板とする他、表裏が湾曲面となる板状としてもよい。遮音層11の材質は、木材、鉄やアルミニウム等の金属、ABS等の樹脂材(発泡樹脂含む)が例示できる。
【0017】
前記吸音部12は、遮音層11との間に閉塞された複数の空間14を形成する膜状体15からなる。具体的には、吸音部12は、複数のドーム状体又は椀状体が相互に隣り合うように膜状体15を形成することで構成される。前記ドーム状体又は椀状体の正面形状は、正方形、長方形、円形、楕円形、多角形等とすることができ、その最大幅Wは50mm〜500mmに設定されている。空間14の遮音層11からの最大高さHは、5mm〜50mm、好ましくは10mm〜30mmに設定されている。膜状体15の厚みtは、0.2mm〜5mm、好ましくは0.5mm〜2mmに設定され、音が入射したときに、その内部損失により音のエネルギを消費可能に設けられている。また、膜状体15の材質は、シリコンゴム、熱可塑ポリマー等の樹脂材からなる。
【0018】
前記吸音体10を作製する場合、先ず、熱可塑エラストマー等からなる熱可塑プラスチックシートを真空成形やプレス成形により賦形し、前記ドーム状体又は椀状体が複数並設される膜状体15を形成する。その後、この膜状体15を遮音層11の一方の面に取り付けることにより、膜状体15と遮音層11との間に複数の空間14が所定間隔を隔てて形成され、吸音部12が設けられる。この膜状体15の取り付け手段としては、接着剤や粘着剤を用いた接着の他、ねじやボルト、ナット等を用いた固定、膜状体15における遮音層11との接触面を溶融して固定する融着が例示できる。
【0019】
従って、このような第1実施形態によれば、枠体等を設けることなく、簡単に吸音部12を形成可能となる他、吸音体10全体の軽量化を図ることができ、吸音部12による膜振動型吸音を行うことが可能となる。また、吸音部12における膜状体15の定形性を維持し易くなり、吸音作用を長期に亘って安定的に得ることが可能となる。
【0020】
次に、本発明の第1実施形態以外の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、前記第1実施形態と同一若しくは同等の構成部分については必要に応じて同一符号を用いるものとし、説明を省略若しくは簡略にする。
【0021】
[第2実施形態]
図2には、本発明の第2実施形態が示されている。この第2実施形態における吸音部12は、前記膜状体15と、前記空間14の外側であって膜状体15に隣接する位置に設けられた多孔質材18とからなる。多孔質材18は、不織布等の繊維類のように毛細管を持つ材料や、発泡体等の連続気泡を持つ材料からなり、音が入射したときに、その細孔中で音波が周壁との摩擦や粘性抵抗及び材料小繊維の振動などによって、音のエネルギの一部を熱エネルギとして消費可能に設けられている。多孔質材18は、遮音層11に膜状体15を取り付けて前記空間14を形成した後、膜状体15の外面を覆うようにして設けられる。
【0022】
このような第2実施形態によれば、第1実施形態の吸音体10による吸音性能だけでなく、多孔質材18による吸音性能も得られるようになる。これにより、良好な吸音作用が得られる音域の拡大化を図ることができ、快適な音場が作り出されることが期待できる。
【0023】
[第3実施形態]
図3には、本発明の第3実施形態が示されている。この第3実施形態における吸音部12は、前記膜状体15と、前記空間14内に設けられた多孔質材18とからなる。多孔質材18は、遮音層11に膜状体15を取り付けて前記空間14を形成する前、膜状体15と遮音層11との間に配置することで設けられる。このような第3実施形態によっても、第2実施形態と同様の吸音性能が得られるようになる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0025】
[実施例1〜4]
実施例1では、前記第1実施形態と同じ形態の吸音体10を作製した。吸音体10全体の平面形状を1000mm×1000mmの方形とし、遮音層11の厚さ8mm、遮音層11の材質を木材とした。膜状体15の厚みtを1mm、膜状体15を形成するドーム状体又は椀状体の最大幅Wを100mm、遮音層11からの空間14の最大高さHを30mmとした。
実施例2では、前記第2実施形態と同じ形態の吸音体10を作製した。具体的には、実施例1の吸音体10に材質がグラスウールとなる多孔質材18を設け、吸音部12の遮音層11からの高さhを40mmに設定した。
実施例3は、実施例1に対し、前記高さHを10mmに変え、実施例4は、実施例2に対し、前記高さhを20mmに変えた。
【0026】
[比較例1〜4]
比較例1の吸音体は、厚さ1mmの薄膜を張設した枠体を、略直方体型の有底容器状をなす箱体の開口に取り付ける構成とし、内部に閉塞空間を形成した。枠体及び箱体の開口形状は、それぞれ1000mm×1000mmの方形とし、前記閉塞空間の高さを30mmに設定した。
比較例2の吸音体は、平面形状が1000mm×1000mmの方形で厚さ8mmの木材に、高さ30mmのグラスウールを取り付けた構成とした。
比較例3は、比較例1に対し、前記閉塞空間の高さを10mmに変え、比較例4は、比較例2に対し、グラスウールの高さを10mmに変えた。
【0027】
実施例1〜4、比較例1〜4の吸音体を評価するにあたって、ランダム入射吸音率を評価指標として用いた。ランダム入射吸音率は、残響室吸音率と呼ばれるもので、JIS A 1409に準じた方法により、残響室内で音を出して急に止めた際の、残響室の減衰時間から算出したものである。
各実施例及び各比較例ではさらに、湾曲した残響減衰波形に理論式をフィットさせて完全拡散下の残響時間を推定計算するPLD(Power law decay)補正法(J.Acous.Soc.Jpn.(E)19,5(1998)315−326)、及び材料周囲にアクリル板囲い(Deep well)を設置することにより面積効果を抑制するDeep−well法(J.Acous.Soc.Jpn.(E)19,5(1998)327−338)を用いて吸音率を測定した。
各実施例及び各比較例では、図4に示されるように、容積(V)64m、表面積(S)100m、V/S=0.64の残響室30の床面30aのほぼ中央に、縦1m、横1mの大きさの各実施例及び各比較例の吸音体10を設置し、吸音体10の周囲には厚さ20mmのアクリル板からなる高さ800mmの拡散枠板32を設置した。そして、音源33を、吸音体10から離れた位置に配置した。このようにして、吸音体10の表面10aに対して、ランダムな方向から音(音による空気振動)が入射するようにした。
各実施例及び各比較例の吸音率の結果を図5及び図6のグラフに示す。なお、図5では、空間又はグラスウールの高さが30mmとなる実施例1,2及び比較例1,2の結果を比較し、図6では、前記高さが10mmとなる実施例3,4及び比較例3,4の結果を比較した。
【0028】
吸音率は大きくなる程、吸音性能は良好となるが、実際の健常者の体感では、吸音率が0.40以上あれば、効果が実感でき、良好な吸音体といえる。
ここで、図5のグラフにおいて、各実施例及び各比較例の吸音率が0.40以上となる中心周波数を見ると、実施例2が最も広く、次いで、実施例1、比較例2、比較例1となり、その順序に従って吸音性能が良好となることが理解できる。
具体的には、吸音率が0.40以上となるのは、比較例1が250Hz〜500Hz、比較例2が1000Hz〜5000Hzであり、これに対し、実施例1は、200Hz〜2500Hzであるため、主に、中低域から高域に亘って吸音性能を高くなり、実施例2は、200Hz〜5000Hzであるため、実施例1より更に高い音域の吸音性能が良好となる。
【0029】
また、図6のグラフにおいて、各実施例及び各比較例の吸音率が0.40以上となる中心周波数を見ると、実施例4が最も広く、次いで、実施例3、比較例4、比較例3となり、その順序に従って吸音性能が良好となることが理解できる。
具体的には、吸音率が0.40以上となるのは、比較例3が400Hz〜630Hz、比較例4が2000Hz〜5000Hzであり、これに対し、実施例3は、315Hz〜3150Hzであるため、主に、中低域から高域に亘って吸音性能を高くなり、実施例4は、315Hz〜5000Hzであるため、実施例3より更に高い音域の吸音性能が良好となる。
【0030】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、特定の実施の形態に関して特に図示し、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上に述べた実施形態、実施例に対し、形状、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
【0031】
例えば、吸音部12の膜状体15は、必要に応じて複数枚の樹脂シートを用いて形成してもよい。
【0032】
また、吸音部12は、種々の設計変更が可能であり、例えば、図7(A)〜(C)に示されるようにしてもよい。図7(A)は、膜状体15を形成するドーム状体又は椀状体の相互間隔を拡げたものであり、当該膜状体15と遮音層11との接触面積を拡大している。図7(B)は、隣り合う前記ドーム状体又は椀状体の間にだけ多孔質材18を設け、膜状体の同図中右面を露出するようにしたものであり、図7(C)は、図7(B)の吸音体10の右面にシート状の多孔質材18を取り付けたものである。
【0033】
更に、前記空間14は、閉塞された空間に限られるものでなく、膜状体15が前述のように膜振動型の吸音作用を奏する限りにおいて、膜状体15と遮音層11との間で部分的に開放したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態に係る吸音体の一部を模式的に表した概略縦断面図。
【図2】第2実施形態に係る吸音体の図1と同様の縦断面図。
【図3】第3実施形態に係る吸音体の図1と同様の縦断面図。
【図4】吸音率を測定する残響室の説明図。
【図5】実施例1,2及び比較例1,2の吸音率を表すグラフ。
【図6】実施例3,4及び比較例3,4の吸音率を表すグラフ。
【図7】(A)〜(C)は、変形例に係る吸音体の図1と同様の縦断面図。
【符号の説明】
【0035】
10・・・吸音体、11・・・遮音層、12・・・吸音部、14・・・空間、15・・・膜状体、18・・・多孔質材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響空間に用いられる吸音体であって、
剛体からなる遮音層と、この遮音層の音響空間側に設けられた吸音部とを備え、
前記吸音部は、遮音層に取り付けられ、当該遮音層との間に空間を形成する膜状体からなることを特徴とする吸音体。
【請求項2】
音響空間に用いられる吸音体であって、
剛体からなる遮音層と、この遮音層の音響空間側に設けられた吸音部とを備え、
前記吸音部は、遮音層に取り付けられ、当該遮音層との間に空間を形成する膜状体と、前記空間の外側であって膜状体に隣接する位置及び/又は前記空間内に設けられた多孔質材とからなることを特徴とする吸音体。
【請求項3】
前記空間は、膜状体により所定間隔を隔てて複数形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の吸音体。
【請求項4】
少なくとも一枚のシートを賦形して膜状体を形成した後、当該膜状体を剛体からなる遮音層に取り付けることにより、膜状体と遮音層との間に空間を形成して吸音部を設けることを特徴とする吸音体の製造方法。
【請求項5】
前記空間を形成した後、当該空間の外側であって膜状体に隣接する位置に多孔質材を設けることを特徴とする請求項4記載の吸音体の製造方法。
【請求項6】
前記空間を形成する前、膜状体と遮音層との間に多孔質材を設けることを特徴とする請求項4又は5記載の吸音体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−167702(P2009−167702A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7535(P2008−7535)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】