説明

吸音体

【課題】清掃作業の負担を低減するとともに、吸音材を有効利用することが可能な吸音体を提供すること。
【解決手段】吸音体10は、所定軸方向に延び、吸音性を有する吸音材1と、吸音材1の所定軸方向に延びる外側面を覆う被覆材2と、吸音材1における所定軸方向と交差する方向に延在する両端面にそれぞれ設けられた一対の側蓋4a,4bと、を備え、被覆材2には、被覆材2を吸音材1から着脱自在にする接続部3が設けられている。このため、経年劣化した吸音体自体を新しい吸音体と交換する場合と比較して、清掃作業の負担を低減することができる。また、被覆材2を交換することにより、吸音材1は続けて使用することができるため、吸音材1を有効利用することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、映画館、コンサートホール、駅、空港等の室内における反響音を低減させるために、吸音材を壁面や天井に埋め込み、吸音材を内装材または下地材として使用している。また、天井から吸音体を吊り下げて、反響効果を調整することも行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−219932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の吊り下げタイプの吸音体では、壁面や天井に埋め込むタイプの吸音材と比較して、吸音体の単位体積あたりの室内空間に面する表面積が多くなる。このため、吊り下げタイプの吸音体は、吸音体を構成する発泡樹脂成形体や無機繊維成形体などの劣化の進行が比較的早く、また、吸音体に埃が溜まり易い。
【0005】
そこで、特許文献1に記載の吸音システムでは、天井面に吸音体設置用レールを取り付けて、係止部材を介して吸音体を天井に吊り下げる構造を採用し、吸音体の交換を行っている。特許文献1に記載の吸音システムにおいて、経年劣化した吸音体は、新しい吸音体に交換する必要が生じうるが、吸音体の配置状況によっては交換が困難であり、清掃作業の負担が大きい。また、取り外された吸音体自体は廃棄物となっていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、清掃作業の負担を低減するとともに、吸音材を有効利用することが可能な吸音体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明の吸音体は、所定軸方向に延び、吸音性を有する吸音材と、吸音材の所定軸方向に延びる外側面を覆う被覆材と、吸音材における所定軸方向と交差する方向に延在する両端面にそれぞれ設けられた一対の側蓋と、を備え、被覆材には、被覆材を吸音材から着脱自在にする接続部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の吸音体では、被覆材が吸音材の外側面を覆って設けられているため、ごみや埃などの汚れは被覆材に付着することとなる。接続部によって被覆材を吸音材から着脱自在にすることが可能であるため、交換が必要となった被覆材を取り外して、新しい被覆材を吸音材に取り付けることにより、簡単に吸音体の清掃を行うことができる。従って、吸音体自体を新しい吸音体と交換する場合と比較して、清掃作業の負担を低減することができる。また、汚れた被覆材を新しい被覆材と交換することにより、継続使用可能な吸音材自体を交換する必要がなく、吸音材を有効利用することが可能となる。
【0009】
また、吸音材は、円筒状または円柱状であることが好ましい。吸音材が円筒状または円柱状であることにより、吸音方向の均一性が良くなる。
【0010】
また、接続部は、ファスナーであることが好ましい。これにより、吸音体が天井などの清掃作業が困難な場所に取り付けられている場合であっても、被覆材の交換作業を容易にすることができる。
【0011】
また、一対の側蓋は、環状のリブを有するキャップ構造をなし、一対の側蓋に対し、被覆材で覆われた吸音材の両端部が嵌め込まれていることが好ましい。このようなキャップ構造を有する一対の側蓋により、吸音材及び被覆材を堅固に固定することができる。
【0012】
また、吸音材を貫いて所定軸方向に伸びる棒状材を更に備え、棒状材に対して一対の側蓋を固定することにより、該一対の側蓋間で吸音材が固定されていることが好ましい。これにより、吸音材を堅固に固定することができる。また、棒状材は吸音材の内側にあるため、棒状材を吸音材の外側に設ける場合と比較して、吸音特性に与える影響は少ない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、清掃作業の負担を低減するとともに、吸音材を有効利用することが可能な吸音体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る吸音体を示す斜視図である。
【図2】図1におけるII−II線に沿った断面図である。
【図3】被覆材が吸音材を被覆している状態を示す斜視図である。
【図4】実施形態に係る吸音体を室内に取付けた例を示す図である。
【図5】吸音材と被覆材との間に中間材を設けた状態を示す斜視図である。
【図6】中間材の有無による吸音率の周波数依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る吸音体10を示す斜視図である。図2は、図1におけるII−II線に沿った断面図である。図3は、被覆材2が吸音材1を被覆している状態を示す斜視図である。吸音体10は、吸音性を有する吸音材1と、吸音材1の外側面を覆う被覆材2と、被覆材2に設けられ、被覆材2を吸音材1から着脱自在にする接続部3と、吸音材1の両端面に設けられた一対の側蓋4a,4bと、を備える。
【0017】
吸音材1は中空部9を有する円筒状をなし、軸X方向に延びている。吸音材1には、反響音などの音を吸収する素材が用いられ、例えば、グラスウールおよびロックウール等の無機質繊維や、樹脂発泡体などを用いることができる。吸音材1の厚みT1は、音源の騒音レベルなどによって適宜調整され、例えば10mm〜200mmとすることができる。
【0018】
被覆材2は、上記軸X方向に延び、吸音材の外側面を覆っている。被覆材2は、吸音材1に巻き付ける方法によって、吸音材1を覆うことができる。被覆材2には、吸音材1の劣化抑制機能を有する素材が用いられ、例えば、シート、樹脂フィルムなどのフィルム、綿などの布帛、ガラスクロスなどを用いることができる。また、被覆材2は、通気性や不燃性を有することが好ましい。被覆材2の厚みT2は、吸音体10の吸音性能や重量制限の観点から適宜調整され、例えば0.05mm〜10mmとすることができる。
【0019】
図1及び図3に示すように、本実施形態の接続部3は線ファスナーである。線ファスナーの開閉によって、被覆材2を吸音材1から自由に着脱できる。線ファスナーを閉めた状態(接続部3による被覆材2の2辺部2a,2bを接合した状態)には、被覆材2は、底部の無い円筒状をなす。線ファスナーを開けた状態(接続部3による被覆材2の2辺部2a,2bの接合を外して広げた状態)には、被覆材2は帯状(矩形状)をなす。被覆材2の辺部2a,2bのほつれを防ぐため、線ファスナーと被覆材2の間は、熱溶融性樹脂シートなどの補強膜により補強されていてもよい。
【0020】
一対の側蓋4a,4bは、吸音材1における上記軸Xと交差(図2では直交)する方向に延在する両端面にそれぞれ設けられている。一対の側蓋4a,4bは、本体部4cと、本体部4cの外縁に設けられた環状のリブ4dとからなるキャップ構造をそれぞれなしている。図1では、側蓋4a,4bの本体部4cが円板状である例を示す。一対の側蓋4a,4bに対し、被覆材2で覆われた吸音材1の両端部が嵌め込まれている。側蓋4a,4bの本体部4cは、被覆材2で覆われた吸音材1の端面と実質的に同じ形状を有する。本実施形態では、側蓋4a,4bの本体部4cと、被覆材2で覆われた吸音材1の端面は、円形状を有する。側蓋4aの本体部4cの中心付近には貫通孔4eが設けられており、その貫通孔4eの側壁には雌ネジ4fが切られている。側蓋4bの本体部4cの中心付近には非貫通孔4gが設けられており、その非貫通孔4gの側壁には雌ネジ4hが切られている。側蓋4a,4bには、金属材料、樹脂材料、木質材料などが用いられる。
【0021】
棒状材5は、一対の側蓋4a,4bを固定する補強部材である。棒状材5は、吸音材1の中空部9内を貫き、上記軸X方向に延びている。棒状材5の一端は、側蓋4aの中心付近に設けられた貫通孔4eを貫通しており、棒状材5の他端は、側蓋4bの中心付近に設けられた非貫通孔4gに固定されている。棒状材5の一端には上述の雌ネジ4fに対応する雄ネジが切られている。棒状材5の他端には上述の雌ネジ4hに対応する雄ネジが切られている。より具体的には、棒状材5の一端には、側蓋4aの貫通孔4eを貫通し、かつ、側蓋4aと側蓋4bとで吸音材1を挟みこむために必要な場所まで側蓋4aが移動可能な長さまで雄ネジが切られている。また、棒状材5の他端には、側蓋4bの非貫通孔4gに棒状材5をねじ込んで固定できる長さまで雄ネジが切られている。棒状材5として、例えば長ネジなどを用いることができる。このように、棒状材5を備えることにより、一対の側蓋4a,4bを堅固に固定することができる。また、棒状材5と一対の側蓋4a,4bとにより、吸音材1を好適に固定することができる。また、棒状材5は吸音材1の内側にあるため、棒状材5を吸音材1の外側に設ける場合と比較して、吸音特性に与える影響は少ない。
【0022】
さらに、図2に示すように、棒状材5の一端において、棒状材5の雄ネジ及び側蓋4aの雌ネジ4fによる固定に加え、ナット5aの開口部に棒状材5を通し、ナット5aにより側蓋4aを押さえても良い。また、棒状材5の他端において、棒状材5の雄ネジ及び側蓋4bの雌ネジ4hによる固定に加え、ナット5bの開口部に棒状材5を通し、ナット5bにより側蓋4bを押さえても良い。また、棒状材5の一端において、棒状材5の雄ネジ及び側蓋4aの雌ネジ4fによる固定に加え、棒状材5の一端と側蓋4aとを溶接により固定しても良い。また、棒状材5の他端において、棒状材5の雄ネジ及び側蓋4aの雌ネジ4hによる固定に加え、棒状材5の他端と側蓋4bとを溶接により固定しても良い。
【0023】
取付け具6aは、側蓋4aの本体部4cの中心付近に設けることができる。取付け具6aは、吸音体10を天井などから吊下げて取り付けるための部材である。例えば、取付け具6aとしてリング型金具を用いることができる。取付け具6aには、金属材料や樹脂材料が用いられる。
【0024】
また、吸音体1の両端に、貫通孔4eを有する側蓋4aと取付け具6aとを用いる構造とすることも可能である。この場合、棒状材5は、吸音材1を貫いて所定軸方向に伸び、一対の側蓋4aのそれぞれに設けられた貫通孔4eを貫通するように設けることができる。
【0025】
固定具7a,7bは、側蓋4a,4bの本体部4cの外縁の一部に設けることができる。固定具7a,7bは、吸音体10を天井や壁面などに取り付けるための部材である。例えば、固定具7としてL字型金具を用いることができる。固定具7a,7bには、金属材料や樹脂材料が用いられる。
【0026】
図4に本実施形態に係る吸音体10を室内40に取り付けた状態を示す。吸音体10を天井21に吊り下げる場合には、鎖などの吊り部材31を介して、天井21の支持具11と、吸音体10の取付け具6aとが接続されている。あるいは、固定具7a,7bによって、吸音体10を壁面22に直接取り付けてもよい。また、吸音体10を床面23に直接配置してもよい。
【0027】
以上のような吸音体10によれば、被覆材2が吸音材1の外側面を覆って設けられているため、ごみや埃などの汚れは被覆材2に付着することとなる。そして、接続部3によって被覆材2を吸音材1から着脱自在にすることが可能であるため、汚れた被覆材2を取り外して、新しい被覆材を吸音材1に取り付けることにより、簡単に吸音体10の清掃を行うことができる。従って、吸音体10自体を新しい吸音体と交換する場合と比較して、清掃作業の負担を低減することができる。また、汚れた被覆材2を新しい被覆材と交換することにより、吸音材1自体を交換する必要なく続けて使用することができるため、吸音材1を有効利用することが可能となる。
【0028】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、吸音材1が中空部9を有する円筒状である例を示したが、吸音材1は中空部9を有さない円柱状などであってもよい。ここで、吸音体10として、円柱状の吸音材1と棒状材5とを用いる場合、所定軸方向に伸びる棒状材5を、吸音材1の中心付近を貫くように設ければよい。吸音材1が円筒状または円柱状などの円形であることにより、吸音方向の均一性が良くなる。
【0029】
上記実施形態では、線ファスナーを閉めた状態には、被覆材2が底部の無い円筒状をなし、線ファスナーを開けた状態には、被覆材2が帯状をなす例を示した。しかし、被覆材2の形状はこれに限定されず、被覆材2が、袋状をなし、吸音材1の全表面を覆うようにしてもよい。すなわち、被覆材2が、吸音材1の外側面のみならず、端面をも覆うようにすることもできる。この場合、袋状の被覆材2の一部に設けた切り込みに線ファスナーなどの接続部3を設けることができる。
【0030】
上記実施形態では、接続部3として線ファスナーを例に挙げたが、接続部3は、ファスナーなどの接続手段であればよく、マジックテープ(登録商標)などの面ファスナーや、スナップボタンなどの点ファスナー等でもよい。
【0031】
また、図1及び図2では、側蓋4a,4bがキャップ構造を有する例を示したが、側蓋は、円板などの板状であってもよい。また、側蓋4a,4bが本体部4cと環状のリブ4dとからなるキャップ構造において、本体部4cは、円板状に限らず、半球体などの立体状などであってもよい。また、吸音体10を床面23に直接設置する場合などには、転倒防止の為に、吸音体10は脚台などを更に備えてもよい。
【0032】
上記実施形態では、棒状材5が一本である例を示したが、棒状材は複数であってもよい。これにより、より堅固に一対の側蓋4a,4bを固定することができる。
【0033】
上記実施形態では、一対の側蓋4a,4bに、取付け具6a,6b及び固定具7a,7bの両方を設けた例を示したが、吸音体10の設置状態に応じて、取付け具6a,6b及び固定具7a,7bのいずれか一方だけを用いてもよい。
【0034】
また、吸音性能を向上させるために、図5に示すように、吸音体20には、吸音材1と被覆材2との間に中間材8を設けてもよい。中間材8として、例えば、ポリエチレンフィルムなどのフィルムが用いられる。図6に、中間材8(ポリエチレンフィルム)の有無による、吸音率の周波数依存性を示す。図6中、横軸は周波数(Hz)を示し、縦軸は吸音率を示し、G1が中間材8有りの場合を示し、G2が中間材8無しの場合を示す。図6から分かるように、中間材8が有る場合の方が無い場合よりも、高周波数における吸音率が低い。このように吸音材1と被覆材2との間に中間材8を設けることによって、所望の周波数帯域の吸音特性を調整することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…吸音材、2…被覆材、3…接続部、4a,4b…側蓋、4c…本体部、4d…リブ、4e…貫通孔、4f,4h…雌ネジ、4g…非貫通孔、5…棒状材、5a,5b…ナット、6a…取付け具、7a,7b…固定具、8…中間材、9…中空部、10,20…吸音体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定軸方向に延び、吸音性を有する吸音材と、
前記吸音材の前記所定軸方向に延びる外側面を覆う被覆材と、
前記吸音材における前記所定軸方向と交差する方向に延在する両端面にそれぞれ設けられた一対の側蓋と、を備え、
前記被覆材には、前記被覆材を前記吸音材から着脱自在にする接続部が設けられている吸音体。
【請求項2】
前記吸音材は、円筒状または円柱状である請求項1に記載の吸音体。
【請求項3】
前記接続部は、ファスナーである請求項1または2に記載の吸音体。
【請求項4】
前記一対の側蓋は、環状のリブを有するキャップ構造をなし、
前記一対の側蓋に対し、前記被覆材で覆われた前記吸音材の両端部が嵌め込まれている請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸音体。
【請求項5】
前記吸音材を貫いて前記所定軸方向に伸びる棒状材を更に備え、
前記棒状材に対して前記一対の側蓋を固定することにより、前記一対の側蓋間で前記吸音材が固定されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸音体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−237386(P2010−237386A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84438(P2009−84438)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【出願人】(501131830)株式会社日東紡マテリアル (4)
【出願人】(390029023)日東紡音響エンジニアリング株式会社 (19)
【出願人】(503130024)オーエイフロアサービス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】