説明

吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法及びこの決定方法で得られた吹き付けコンクリートと吹き付けコンクリートの増粘剤添加割合の決定方法

【課題】各工事現場での吹き付け試験を行わないで、または極力減らして微粉末または増粘剤の配合・添加割合を決定できてコストを低減できる。
【解決手段】所定割合で配合したセメントと水と細骨材と粗骨材とを含み、更に石灰石微粉末微粉末を配合して練り混ぜることで、リバウンドを低減した吹き付けコンクリートを製造する。吹き付けコンクリートの粗骨材を取り除いたモルタルの配合に関し、細骨材の一部を微粉末に置換すると共に微粉末の含有量を順次変化させて配合して練り混ぜして複数種類のモルタルを製造する。これら複数種類のモルタルについて流動性試験と粘性試験を行い、流動性と粘性の特性を示す曲線を得て、流動性と粘性の変曲点P1、P2を検出する。流動性と粘性のいずれかの変曲点P1、P2付近における微粉末の配合割合によってモルタル中の配合量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル等でコンクリートの吹き付けを行う際、コンクリートのはね返り(以下、リバウンドという)を低減できる最適な配合割合を決定するようにした吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法と増粘剤添加割合の決定方法と、吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法で得られた吹き付けコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルの施工工法としてシールド工法やベンチカット工法、NATM工法等が知られている。これらの工法においてはトンネルの内壁の地山をコンクリートで覆う覆工工事が行われている。覆工工事として、トンネル内の地山に直接コンクリートを吹き付けて一次覆工として仮支保工を施工するコンクリート吹き付け工法が用いられている。
ところで、従来のコンクリート吹き付け工法では地山にコンクリートを吹き付ける際にリバウンドが約30%発生しており、大きなロスになっていた。これを改善するコンクリート吹き付け工法として、コンクリート材料中にシリカヒュームと石灰石微粉末を併用して配合させることで吹き付け用コンクリートの粘性を高くした技術が提案されている。
この場合、シリカヒュームと石灰石微粉末は予め特定の配合量に設定され、これを細骨材の一部と置換して混入することにしている。この工法によって、吹き付け時のリバウンドによるコンクリートのロスを約20%前後に低減できる。また、粉塵の飛散量も切羽から50m後方に下がった位置での空気中の粉塵量を従来の工法では7〜8mmg/mだったものを3mmg/m程度に低減するように指定されている。
【0003】
特許文献1に記載された方法では、セメントに内割りで5wt%のシリカヒュームを置換混合し、細骨材にはフルイ目0.15mm以下のものが15wt%となるように石灰石微粉末で混合調整している。しかしながら、この方法ではシリカヒュームが比較的高価でありコスト高になる欠点があり、しかも石灰石微粉末の置換添加量15wt%も経験的に設定されている値であるから、細骨材の品質や種類等によってはリバウンド低減効果にバラツキが生じることもあった。
【0004】
ところで、トンネル等の各工事現場で地山にコンクリートを吹き付けて仮支保工を施工する場合、セメントや細骨材や粗骨材等は工事現場の周辺地域で採取されたものを使用するのが一般的である。そのため、各現場毎に材料の種類が変わることになるので、吹き付け試験を行ってリバウンドの少ない最適な各材料の配合比を決定していた(特許文献2参照)。
特許文献2等に記載されたコンクリート材料の配合比の決定方法では、吹き付け試験に際して、現場でセメント、細骨材や粗骨材、そして微粉末等の配合比を変えたものを10種程度選定して練り混ぜて試験用のサンプルを製造する。この場合、シリカヒュームと石灰石微粉末の配合量は細骨材との置換割合を適当に変えることによって複数種の配合比を選定していた。そして、得られた10種程度の配合比のコンクリートから3種程度のコンクリートを絞り込んで実際に地山に吹き付けて、その中からリバウンドの少ない最適な配合比のコンクリートを職人が選定していた。
【特許文献1】特許第3448634号公報
【特許文献2】特開2002−337132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、工事現場の地域が変わるとセメントや骨材等の材料の種類が変わるため、工事現場での吹き付け試験を工事現場毎に毎回やり直す必要があり、極めて煩雑でコスト高であった。特に工事現場で行う吹き付け試験は機材や人件費等が多くかかるためにコスト高になる欠点があった。しかも、工事現場での吹き付け試験は非常に手間がかかると共に試験期間中は工事を中断する必要があるため工期や工事費に与える影響も大きかった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みて、各工事現場での吹き付け試験を行わないで或いは極力少なくして、リバウンド等に影響を与えるコンクリート中の微粉末または増粘剤の配合・添加割合を決定できてコストを低減できるようにした吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法及びこの決定方法で得られた吹き付けコンクリート、そして吹き付けコンクリートの増粘剤添加割合の決定方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法は、セメントと水と細骨材と粗骨材とを含み、石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末またはフライアッシュ等の微粉末を配合して練り混ぜた吹き付けコンクリートの配合割合の決定方法において、吹き付けコンクリートから粗骨材を除いたモルタルの配合に関し、細骨材の一部を微粉末に置換すると共に該微粉末の含有量を順次変化させて配合して練り混ぜすることで複数種類のモルタルを得て、これら複数種類のモルタルの流動性と粘性の変化を流動性試験と粘性試験によって測定して流動性と粘性の変曲点をそれぞれ検出し、流動性と粘性のいずれかの変曲点付近またはこれら変曲点の範囲内における微粉末の配合割合によってモルタル中の配合割合を決定するようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、微粉末の配合割合を異ならせたモルタルについての流動性試験と粘性試験を行い、試験結果から流動性と粘性の変化の変曲点を見いだして、これら流動性と粘性の変曲点付近のいずれかまたはこれら変曲点の範囲内における微粉末の配合割合をモルタル中の配合割合として決定するようにした。そのため、工事現場以外の場所で、吹き付けコンクリートのリバウンドを低減するための微粉末の配合割合を決定でき、従来のように工事現場で微粉末の配合割合を異ならせた複数のコンクリートのサンプルを製造して吹き付け試験を行うことで最適な微粉末の配合割合を決定する必要がなく、吹き付け試験コストや吹き付け試験の手間を削減できると共に吹き付け試験中に工事を中止する必要もなく吹き付け試験にかかるコストを低減できる。
【0008】
なお、流動性と粘性の変曲点付近における微粉末の配合割合のうち、微粉末量の少ない方または粘性の高い方を選択することが好ましい。
微粉末の混入量が少なければ材料コストを低減できる。或いはトータルでコストの低い変曲点付近における微粉末の配合割合を選択すれば微粉末の混入量の多い方を採用してもよい。粘性の高い方の変曲点付近における微粉末の配合割合を選択すれば吹き付けコンクリートのリバウンドを一層低減できる。
【0009】
本発明による吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法は、セメントと水と細骨材と粗骨材とを含み、石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末またはフライアッシュ等の微粉末を配合して練り混ぜた吹き付けコンクリートの配合割合の決定方法において、吹き付けコンクリートから粗骨材を除いたモルタルの配合に関し、細骨材の一部を微粉末に置換すると共にこの微粉末の含有量を順次変化させて配合すると共にモルタルの流動性が一定になるように減水剤を配合して練り混ぜすることで複数種類のモルタルを得て、これら複数種類のモルタルの粘性試験を行うことによって粘性の変曲点を検出し、粘性の変曲点付近またはこれら変曲点の範囲内における微粉末の配合割合によってモルタル中の配合割合を決定するようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、流動性を一定に維持しながら、微粉末の配合割合を異ならせたモルタルについての粘性試験を行って粘性の変化の変曲点を検出し、これら粘性の変曲点付近またはこれら変曲点の範囲内における微粉末の配合割合によってモルタル中の配合割合を決定するようにした。そのため、工事現場以外の場所で、吹き付けコンクリートのリバウンドを低減するための微粉末の配合割合を決定でき、しかもモルタルの粘性の変化に関わらず流動性を一定に維持するようにしたから、微粉末の配合割合の決定がいっそう容易になる。
【0010】
また、変曲点付近における微粉末の複数の配合割合を設定し、それぞれの配合割合の微粉末を混入したモルタルを含むコンクリートで、吹き付け試験を行うことによって最適な微粉末の配合割合を決定するようにしてもよい。
本発明では、工事現場等で吹き付け試験を行うことになるが、流動性または粘性の変曲点付近の微粉末配合量を複数設定して吹き付け試験を行えば、いずれのコンクリートもリバウンドが低減されたものであるから、コンクリートの少ないサンプル数でよりリバウンドの低い高精度なコンクリートを得る微粉末配合割合を決定できる。
【0011】
本発明による吹き付けコンクリートは、請求項1乃至4のいずれかに記載のコンクリートの微粉末配合割合の決定方法によって配合割合が決定された微粉末を混入して得た吹き付けコンクリートに関し、次式(1)に示すようにセメントの拘束水量(α×C)、微粉末の拘束水量(γ×Ls)、細骨材の拘束水量(βOH×S)を累計して一時水量として分割練り混ぜすることを特徴とする。
W1=α×C+γ×Ls+βOH×S (1)
ただし、W1:最適一次水量
α :セメントの拘束水率
γ :石灰石微粉末の拘束水率
βOH:細骨材の拘束水率
C :単位セメント量
Ls:単位石灰石微粉末量
S :単位細骨材量
【0012】
本発明による吹き付けコンクリートの増粘剤添加量の決定方法は、セメントと水と細骨材と粗骨材とを含み、増粘剤を添加して練り混ぜた吹き付けコンクリートの増粘剤添加割合の決定方法において、吹き付けコンクリートから粗骨材を除いたモルタルの配合に関し、増粘剤の添加量を順次変化させて添加して練り混ぜすることで複数種類のモルタルを得て、これら複数種類のモルタルの流動性と粘性の変化を流動性試験と粘性試験によって測定して流動性と粘性の変曲点をそれぞれ検出し、流動性と粘性のいずれかの変曲点付近またはこれら変曲点の範囲内における増粘剤の添加割合によってモルタル中の増粘剤の添加割合を決定するようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、増粘剤の添加割合を異ならせたモルタルについての流動性試験と粘性試験を行い、試験結果から流動性と粘性の変化の変曲点を検出して、これら流動性と粘性の変曲点付近またはこれら変曲点の範囲内における増粘剤の添加割合をモルタルへの添加割合として決定するようにした。そのため、工事現場以外の場所で、吹き付けコンクリートのリバウンドを低減するための増粘剤の添加割合を決定でき、従来のように工事現場で増粘剤の添加割合を異ならせた多数のコンクリートを製造して吹き付け試験を行うことで最適な増粘剤の添加割合を決定する必要がなく、吹き付け試験コストや吹き付け試験の手間を低減できると共に吹き付け試験中に工事を中止する必要もなく吹き付け試験にかかるコストを低減できる。
【0013】
また、流動性と粘性の変曲点付近における複数の増粘剤の添加割合のうち、添加量の少ない方または粘性の高い方を選択するようにしてもよい。
増粘剤の添加量が少なければ材料コストを低減できる。或いは、トータルでコストの低い変曲点付近における増粘剤の添加割合を選択できれば増粘剤の添加量の多い方を採用してもよい。粘性の高い方の増粘剤の添加割合に決定すれば吹き付けコンクリートのリバウンドを一層低減できる。
また、変曲点付近における増粘剤の添加割合によって増粘剤の添加割合を決定してなるモルタルを用いて、変曲点付近における増粘剤の複数の添加割合を設定し、それぞれの添加割合の増粘剤を含むコンクリートで吹き付け試験を行うことで最適な増粘剤の添加割合を決定するようにしてもよい。
本発明では、最終的に工事現場等で吹き付け試験を行うことになるが、流動性または粘性の変曲点付近の増粘剤添加量を複数設定して吹き付け試験を行えば、いずれのモルタルもリバウンドが低減されたものであるから、コンクリートの少ないサンプル数でよりリバウンドの低い高精度なコンクリートを得る増粘剤添加量を決定できる。
【0014】
また、モルタルの練り混ぜに際し、細骨材に一次水量(W1)を加えて調整練りを行い、その後セメントとセメントに石灰石微粉末や混和剤等を含む混合粉体を加えて練り混ぜ、更に全水量(W)から一次水量(W1)を除去した二次水量(W2)を加えて練り混ぜることでモルタルを製造するようにしてもよい。
或いは、一次水と二次水に分割することなく全水量を供給して一括練り混ぜを行うことでモルタルを製造するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
上述のように本発明による吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法と増粘剤添加割合の決定方法によれば、流動性試験及び粘性試験、または粘性試験によって微粉末または増粘剤の配合・添加割合に対するモルタルの特性の変曲点を見つけて配合割合・添加割合を決定するようにしたから、リバウンドと粉塵の少ないコンクリートの最適な配合を決定できる。しかも決定に際し、各工事現場で使用するセメントや細骨材等が相違しても微粉末または増粘剤の配合・添加割合を変更した複数種類のコンクリートのサンプルによって吹き付け試験を行う必要がなく、吹き付け試験費用を大幅に削減できると共に吹き付けコンクリートの配合・添加割合の決定を工事現場とは別の場所で短期間で完了できるため、吹き付け試験の間、工事を中断する必要がなくコストを低減できる。
また、最終的に工事現場で吹き付け試験を行う場合でも、微粉末または増粘剤の配合・添加割合による粘性特性等の変曲点とその前後における数種の配合・添加割合の吹き付けコンクリートのみを吹き付け試験すればよいので短期間でしかも比較的低コストで吹き付け試験を行うことができる。
本発明による吹き付けコンクリートによれば、リバウンドと粉塵の少ない最適な配合のコンクリートが得られ、吹き付け用として最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の第一の実施の形態による、石灰石微粉末の置換率を変えた場合における吹き付けコンクリートの流動性と粘性について試験した結果を示すグラフである。
本発明の第一実施形態に用いる高強度吹き付けコンクリートの基材として、工事現場の周辺地域で採取されたセメント、水、細骨材、粗骨材、混和剤を下記表1に示す割合で配合したものを用いる。なお、このコンクリートは混和剤(減水剤)が含まれていなくてもよい。
【0017】
【表1】

【0018】
表1に示す配合の吹き付けコンクリートにおいて、粗骨材を除いた部分が同一配合条件のモルタルの配合比になる。このモルタルにおいて、吹き付け時のリバウンド(はね返り率)低減のために、細骨材の容積に対して細骨材の一部を置換することで石灰石微粉末を混入する。細骨材と置換する石灰石微粉末の割合を表2に示すように、NO.1〜8で0vol%〜25vol%まで所定間隔で増大したものを試験用のサンプルとして選択する。このモルタルの配合条件は、概ね砂セメント比200%、水セメント比47.5%となる。
表2において、NO.1で細骨材の総重量を2kg、石灰石微粉末の配合量を0とし、総重量を変えることなく石灰石微粉末の配合量を3vol%、5vol%、7vol%、10vol%、15vol%、20vol%、25vol%と、順次増大させるに応じて細骨材の含有量を減少させる。なお、表2において、参考のために石灰石微粉末の配合割合(置換率)を容積(vol)%に加えて重量(wt)%でも示している。
【0019】
【表2】

【0020】
石灰石微粉末の配合割合を表2で示すNO.1〜8に設定したモルタル配合に所定割合の粗骨材を加えて各吹き付けコンクリートを製造するには、一括練り混ぜしてもよいが、本実施形態では例えば特許第2597835号公報、特許第3318580号公報、特許第3448634号公報等に開示された分割練り混ぜ工法(SEC(登録商標)工法)を用いて二段階に分けて練混することで製造する。
分割練り混ぜ工法については上述の各特許公報に詳しいので簡単に説明する。分割練り混ぜ工法では、細骨材(粗骨材を含んでいてもよい)からなる骨材に一次水量W1を添加して調整練りを行い、各細骨材の全周に水分を均等に付着させる。その後、所要量のセメントまたはセメントに石灰石微粉末や混和材を含む混合粉体を添加して一次練り混ぜを行い、各細骨材の周囲にキャピラリー状態のセメントまたは混合粉体が付着して造殻される。
そして全水量Wから一次水量W1を除去した二次水量W2(及び必要なら混和剤)を添加して二次練り混ぜを行うことで、セメントや混合粉体が良く分散して均質なコンクリートが得られることになる。
得られた吹き付けコンクリートは粗骨材を含むが、粗骨材を除いたモルタル成分についていえば、粗骨材を含まないモルタルと同一の成分比になる。
【0021】
ここで、吹き付けコンクリートのリバウンドを低減させた吹き付けのためには、モルタルの流動性と粘性が重要になる。吹き付けコンクリートはポンプによって圧送するため、流動性が低いと圧送がスムーズに行われない不具合が生じ、流動性が高すぎるとコンクリートの強度が低下して吹き付けによる付着能力が低下するため、リバウンドが増大する。また、吹き付けコンクリートのリバウンドを低減させるためには粘性が要求され、他方、粘性が高すぎると流動性が低下するためにポンプによる圧送がスムーズでなくなる。
そのため、表2で得られたNO.1〜8の各モルタルについて、モルタルの流動性をモルタルフロー試験によって「F15 フロー値(mm)」として測定する。またモルタルの粘性を例えば回転粘度計やモルタルの流下時間測定試験等の粘性測定試験によって「塑性粘度(Pa−s)」(粘性)として測定する。
【0022】
表1及び表2に示す吹き付けコンクリートでは、石灰石微粉末の置換率(配合割合)を増大させるに従って得た流動性と粘性とをプロットすると図1に示すグラフのようになる。
ここで、図1において、流動性について、石灰石微粉末の混入率を0から増大させると極めて緩やかな傾斜で10vol%まではほぼ同一のフロー値を呈し、石灰石微粉末の混入率10vol%を変曲点P1として更に混入率を増大させると流動性が漸次低下する結果が得られた。
また、粘性について、石灰石微粉末の混入率を0から増大させると15vol%までは緩やかな傾斜でほぼ直線的に増大し、石灰石微粉末の混入率15vol%を変曲点P2として更に混入率を増大させると粘性が急上昇する結果が得られた。粘性が急上昇した領域では、所定の流動性を確保するためには減水剤等の薬剤を添加したり、水の配分量を増量する等の処置が必要になる。しかし、薬剤添加では材料コストが上昇し、水を増量するとコンクリート強度が低下する可能性がある。
【0023】
このため、吹き付けコンクリートの好ましい性状として流動性と粘性の各特性をバランスさせる必要性を考慮した場合、各変曲点である石灰石微粉末の混入率10vol%と15vol%前後、或いは10vol%〜15vol%の範囲が好ましい配合比であるといえる。このように石灰石微粉末の置換率を順次変化させた場合、流動性と粘性の変曲点からモルタルの吹き付け特性の好ましい領域を検出できるので、トンネル等の工事現場で多数のサンプルを設定して吹き付け試験を行う必要がなく、室内等で流動性と粘性の試験を行うことで最適な配合割合を決定できる。
本実施形態では、コスト低減のために石灰石微粉末の配合比の最も小さい10vol%を採用することが好ましいといえる。或いは、石灰石微粉末の配合比15vol%を選択した場合でも、10vol%の場合に粘性を確保するための薬剤を添加するケース等と比較してトータルでコストを低減できるのであればよい。
【0024】
石灰石微粉末の配合比10vol%を選択した場合、高強度吹き付けコンクリートの配合比は表3に示すようになる。そして、表3に示すコンクリート配合比について練混ぜを行い、得られた吹き付け用フレッシュコンクリートについてその性状と強度を測定したところ、表4に示す結果が得られた。表4に示された結果から、吹き付け用コンクリートのサンプル(標準供試体)の目標スランプ及び強度は十分満足できるものであった。
また、この配合比による吹き付けコンクリートについて工事現場において実機バッチャーで練り混ぜを行い、吹き付け施工試験を行ったところ、表5で示す結果が得られ、吹き付けコンクリートとして性状が良好であり、リバウンドを20%以下に低減できることが確認できた。
【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
【表5】

【0028】
上述のように、本実施形態による吹き付けコンクリートの配合割合の決定方法によれば、工事現場とは別の室内等の場所で、細骨材の一部を置換した石灰石微粉末を含有した複数種類の配合割合の各モルタルにより、流動性試験と粘性試験を行うことによって最適な石灰石微粉末の配合割合である変曲点P1,P2とその付近に決定できるから、流動性と粘性をバランスさせると共に十分な強度を確保してリバウンドを低減できる吹き付けコンクリートが得られる。しかも、石灰石微粉末の配合割合の決定に際し、各工事現場毎にセメントや骨材等の材料が変わったとしても多数のサンプルを設定して吹き付け試験を工事現場毎に行う必要がなく、工事現場での吹き付け試験を行う手間がかからず工事を中断することも必要ないので工事現場で吹き付け試験を行うためのコストを大幅に低減できる。
また、吹き付けコンクリートを低リバウンドにすることで吹き付け時の粉塵の発生を抑制できる。
【0029】
なお、上述の第一の実施形態では、工事現場とは別の室内で石灰石微粉末の配合割合を複数種類設定してモルタルを製造し、流動性試験と粘性試験によって適切な石灰石微粉末の配合割合を決定するようにしたが、更に精密に石灰石微粉末の配合割合を決定してもよい。そのためには、流動性または粘性の変曲点P1,P2付近で決定した石灰石微粉末の配合割合に加えて、その変曲点P1,P2近傍の配合比を複数種類設定してそれぞれ吹き付け用モルタルを製造し、工事現場で吹き付け試験を行ってリバウンドの最も少ない好適な配合比の石灰石微粉末を含むモルタルを決定すればよい。
この場合でも、従来の工事現場で行う吹き付け試験による決定方法と比較してサンプルの数が少なくてすみ、しかもよりリバウンドの少ない高精度な配合比の吹き付けコンクリートを製造できる。
【0030】
次に本発明の第二実施形態による吹き付けコンクリートの配合割合の決定方法について説明する。
上述の第一の実施形態では、石灰石微粉末の配合量を変えることによってモルタルの流動性と粘性を可変として両者のそれぞれの変曲点から最適な石灰石微粉末の配合比を決定するようにしたが、本実施形態ではモルタルの流動性を一定にして石灰石微粉末配合量と粘度(塑性粘度)との関係から配合割合を決定している。
本実施形態において、モルタル中の石灰石微粉末の配合量を順次増大させることによって流動性が次第に減少する傾向にあるが、石灰石微粉末の配合量を変化させても流動性を一定に維持できるように減水剤の使用量を調整して練り混ぜる。
このようにしてモルタルの粘性測定試験を実施して石灰石微粉末の配合量と粘性(塑性粘度)との関係を求めると図2に示すようになる。図2において、石灰石微粉末の配合量0から細骨材と置換して次第に増大させると塑性粘度は当初急傾斜で増大し、変曲点P3を境になだらかな傾斜に移行する曲線が描かれる。この変曲点P3付近における石灰石微粉末の配合量が、吹き付けコンクリートにおけるリバウンドや粉塵発生量が少なく且つ石灰石微粉末の配合量が必要最小限となる低コストな値であるといえる。
【0031】
そのため、本実施形態においても、流動性を一定に保つことで吹き付けコンクリートをポンプで圧送する際のポンプ圧を一定に維持すると共に、粘性試験で得られた吹き付けコンクリートの粘性の変曲点P3における石灰石微粉末の配合量に決定することで、第一実施形態と同様に、吹き付けコンクリートのリバウンドを低減できると共に石灰石微粉末の配合量を低く抑えて配合コストを低減できる。しかも、工事現場での吹き付け試験を必要としないので吹き付けコンクリート決定にかかるコストを低減できる。
【0032】
なお、本第二実施形態の変形例として、第一実施形態による決定方法と同様に、粘性の変曲点付近で決定した石灰石微粉末の配合割合に対し、その変曲点P3近傍の配合比を複数種類設定してそれぞれ吹き付け用モルタルを製造し、工事現場で吹き付け試験を行ってリバウンドの少ない好適なモルタルを得る石灰石微粉末の配合比を決定することができる。
この場合でも、従来の工事現場で行う吹き付け試験による決定方法と比較してサンプルの数が少なくてすみ、しかもよりリバウンドが少なく低コストで高精度な配合比の吹き付けコンクリートを製造できる。
【0033】
次に本発明の第三実施形態による吹き付けコンクリートの配合割合の決定方法について説明する。
本第三実施形態では、リバウンドを低減するための材料として石灰石微粉末に代えて粉塵低減剤等の増粘剤が使用されている。この場合、増粘剤は細骨材の一部に置換するのではなく、吹き付けコンクリート配合材料に添加される。増粘剤の添加量はセメントの重量に対する割合で設定され、図3に示すように添加量は0wt%から、0.02wt%、0.05wt%、0.10wt%、0.15wt%、0.20wt%の順に増大するものとする。なお、増粘剤を除く吹き付けコンクリートの配合比は表1に示すものと同一である。
このような各添加量で増粘剤を添加した吹き付けコンクリート配合材料を練り混ぜて吹き付けコンクリートを製造する。各増粘剤を添加して得られた吹き付けコンクリートについてモルタルフロー(F15)で測定した流動性の値「F15 フロー値」とB型回転粘度計で測定した塑性粘度(粘性)をプロットすると図3に示すようになる。
【0034】
図3において、流動性は増粘剤の添加量の増大に応じて次第に低減する傾向を示し、その後0.20wt%では若干上昇している。また、粘性は増粘剤の添加量の増大に応じて次第に増大する傾向を示し、0.10wt%付近までは上昇傾向にあるが、0.15wt%以上では粘性が増大しない。ここで、増粘剤添加率が0.10wt%超えのある程度の値になると、その粘性効果からモルタル内部に微細な空気泡が混入されるため、流動性が若干大きくなったり、粘性が増加しなかったりする傾向を示す。
図3から明らかなように、これら流動性と粘性を示す曲線は、石灰石微粉末を混入した場合と同様にそれぞれ変曲点P4、P5が存在しており、これらの変曲点P4,P5付近の増粘剤添加量で、モルタルの流動性と粘性のバランスがとれている。しかもこれら変曲点P4,P5で、安定した流動性と粘性を発揮できるモルタルについての増粘剤添加量が最も少なく低コストであるといえる。特に流動性の変曲点P4付近の増粘剤の添加量が変曲点P5のものより少なく、低コストであるといえる。
図3に示す変曲点P4における最適な増粘剤添加率は0.12wt%となる。
【0035】
本第三実施形態においても、変曲点P4付近の添加量の増粘剤を配合することで、工事現場で多数のサンプルを作成して吹き付け試験を行うことなく、工事現場とは別の場所でリバウンドと粉塵を低減できると共に十分な強度を有する吹き付けコンクリートの増粘剤添加量を決定できる。そのため、低コストでリバウンドの少ない最適な吹き付けコンクリートの配合比を決定できる。
【0036】
なお、本第三実施形態の変形例として、第一、第二実施形態による決定方法と同様に、流動性または粘性の変曲点P4またはP5付近で決定した増粘剤の添加量に対し、その変曲点近傍の増粘剤添加量を複数種類設定してサンプルとしてそれぞれ吹き付け用モルタルを製造するものとする。そして、これらサンプルのモルタルに基づいて工事現場で吹き付け試験を行って、十分な強度で、よりリバウンドと粉塵の少ない最適な添加量の増粘剤を含むモルタルまたはコンクリートを決定することができる。
この場合でも、従来の工事現場で行う吹き付け試験による決定方法と比較してサンプルの数が少なくてすみ、しかもよりリバウンドと粉塵が少なく低コストで高精度な配合比の吹き付けモルタルまたはコンクリートを製造できる。
【0037】
なお、上述の各実施形態では、微粉末として石灰石微粉末を採用したが、これに代えて或いは石灰石微粉末と共に高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等の各種微粉末を採用することができる。
また、いうまでもないが、セメント、細骨材等、粗骨材の配合比は表1等の実施形態によるものに限定されない。工事現場毎で採用するセメント、細骨材等、粗骨材等のコンクリート材料の特性に応じて種々異なる。
【0038】
次に第四実施形態として、上述したコンクリートの微粉末配合割合の決定方法によって配合割合が決定された石灰石微粉末を混入し、分割練り混ぜ工法によって得た吹き付けコンクリートについて説明する。この分割練り混ぜ工法はSEC(登録商標)工法である。
上述した第一及び第二実施形態による方法によって石灰石微粉末の混入割合を決定した吹き付けコンクリートの決定方法については、セメントの拘束水水量(α×C)、微粉末の拘束水量(γ×Ls)、細骨材の拘束水量(βOH×S)を累計してなる一次水量は、次式(1)によって決定する。
W1=α×C+γ×Ls+βOH×S (1)
ただし、W1:最適一次水量
α :セメントの拘束水率
γ :石灰石微粉末の拘束水率
βOH:細骨材の拘束水率
C :単位セメント量
Ls:単位石灰石微粉末量
S :単位細骨材量
【0039】
ここで、セメントの拘束水率αはセメントの種類によって予め試験によって決定されるものである。この試験では、図4に示すように、単位セメント量C当たりの一次水量Wを横軸にとり、W/Cにおいてトルク試験を行いながら、単位セメント量Cに対して投入する水量Wを徐々に増加させることで、W/Cを徐々に上昇させていくものとする。図4に示す例では、W/Cを2%刻みで設定し、各単位セメント当たりの一次水量Wに対してスクリューを回転させて調整練り混ぜすることによってスクリューの負荷電流値(トルク値)Aを求める。そして、W/Cを横軸に、トルク値(A)を縦軸にとって2%刻みのW1/Cに対するトルク値(A)を測定してプロットすると、図4に示すグラフになる。
この場合、W/C=24%の位置で最もトルク値が高く最適値であり、キャピラリ状態であるといえる。このようにして単位セメントの拘束水率αを求める。
また、石灰石微粉末の拘束水率γは石灰石微粉末が粉体であるため、上述したセメントの拘束水率αと同じような試験で設定できる。図5は単位石灰石微粉末量当たりの一次水量W/Lsを横軸にとり、W/Lsにおいてトルク試験を行いながら、単位石灰石微粉末量Lsに対して投入する水量Wを5%刻みで徐々に増加させて順次トルク試験を行う。
そして、トルク値A(負荷電流値)が最も高い値W/Ls=21%が最適な拘束水率γとなる。
【0040】
また、細骨材の拘束水率βOHについても予め試験によって決定する。
単位セメントC当たりの単位細骨材量SをS/Cで表し、加水したモルタルを遠心脱水して残った水の比率を残留水粉体比WZ/Cで表す。そして、図6において、単位セメントCに対して単位細骨材量Sを徐々に添加した絶乾重量S/C(=0,1,2)を横軸にとり、縦軸に残留水粉体比WZ/Cをとり、S/Cに対するWZ/Cの比はtanθ=βo(吸着水率)で表す。
そして、細骨材の拘束水率βOHは表乾状態での含水率であるから、次式で表される。
βOH=(βo−Q)÷(1+Q/100) (2)
ここで、Q:細骨材の吸水率(JISで規定された方法により測定される物性値)
【0041】
このようにしてセメントの拘束水率α、石灰石微粉末の拘束水率γ、細骨材の拘束水率βOHを求めておき、上記(1)式により一次水率W1を求める。
そして、分割練り混ぜ工法では、細骨材(粗骨材を含んでいてもよい)からなる骨材に一次水量W1を添加して調整練りを行い、各細骨材の全周に水分を均等に付着させる。その後、分散材として所要量のセメントまたはセメントに石灰石微粉末や混和剤を含む混合粉体を添加して一次練り混ぜを行い、各細骨材の周囲にキャピラリー状態のセメントまたは混合粉体が付着して造殻される。
そして全水量Wから一次水量W1を除去した二次水量W2(及び必要なら混和剤)を添加して二次練り混ぜを行うことで、セメントや混合粉体が良く分散して均質なコンクリートが得られる。
なお、第三実施形態では、増粘剤は細骨材の一部に置換するのではなく、吹き付けコンクリート配合材料に添加されるものであるから、上述した分割練り混ぜ工法における(1)式による一次水量の決定方法は採用されず、一次水量が添加されたキャピラリー状態のモルタルに増粘剤を漸次添加すればよい。
【実施例】
【0042】
次に本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1として第一実施形態による吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法について具体例を説明する。
まず、従来例として表1に示す配合比の吹き付けコンクリートを製造した。この吹き付けコンクリートには石灰石微粉末は混合されず、細骨材のみで948kg/mとした。これに対して、本実施例では第一実施形態で示す表2のNo.1〜8の各モルタルについてその流動性と粘性の変化を図1に示すグラフでプロットした。図1から、変曲点P1とP2を決定できる。
そして、実施例1では、上述の表2のNo.5に示すように、モルタルの粘性と石灰石微粉末置換量のコストを考慮して変曲点P1である10vol%の石灰石微粉末を選択した。細骨材に対して10vol%の石灰石微粉末を置換したモルタル配合に対して粗骨材を加えた表3に示す配合(石灰石微粉末=98kg/m)の吹き付けコンクリートを製造し、実施例1とした。
そして、従来例と実施例1について各吹き付けコンクリートをトンネル内の壁面に吹き付ける試験を行った。その結果は表6に示すようになった。はね返り率の測定は土木学会基準のJSCE−F−563−2005に準拠して行った。はね返り率の測定はそれぞれ3回づつ実施した。
なお、はね返り率の測定方法は下記の実施例2〜4においても同一のものを用いるものとする。
【0043】
【表6】

【0044】
試験結果において、従来例のはね返り率は25.5vol%、実施例のはね返り率は15.1vol%であった。従って、本実施例の配合比による吹き付けコンクリートによれば、数値の小さい方の変曲点における石灰石微粉末の置換率10vol%によって、従来の配合比による吹き付けコンクリートより吹き付け時のリバウンドによるコンクリートのロスを一層低減できることを確認できた。
【0045】
以下の実施例2〜4では、各工事現場A,B,Cにおける工事発注者の一般的な仕様に多く使用されている通常の吹き付けコンクリートについて、第一乃至第三実施形態による吹き付けコンクリートの微粉末配合割合決定方法や増粘剤添加割合決定方法を適用した場合の具体例を説明する。
【0046】
(実施例2)
現場Aにおける通常の吹き付けコンクリート(単位セメント量C=360kg/m)について、表7の従来配合(練り混ぜ方法として上述したSEC工法(登録商標)を用いた)から粗骨材を除いたモルタルの配合比で、第一実施形態による石灰石微粉末の置換率と流動性及び粘性の関係を求めた。その結果、図7に示すグラフが得られた。
なお、このときの粘性は、土木学会基準JSCE−F−531−1999に示されているJ14ロートを振動台に固定し、30Hzの振動を付加したときの流下時間とした。
図7に示すモルタル試験結果より、粘性(流下時間)の変曲点P2における石灰石微粉末置換率は7.7vol%となった。そして、表7に示す従来配合に対し、この置換率7.7vol%で石灰石微粉末を混合する場合の吹付けコンクリート配合は下記表8に示す通りである。これを実施例2とする。
【0047】
【表7】

【0048】
【表8】

【0049】
(実施例3)
実施例3では、吹き付けコンクリートに配合される細骨材と一部置換する微粉末として石灰石に替えてフライアッシュを用いた。
現場Bにおける通常の吹付けコンクリート(単位セメント量C=360kg/m)について、表9の従来配合から粗骨材を除いたモルタルの配合比で、フライアッシュの置換率と流動性および粘性の関係を求めた。その結果、図8に示すグラフが得られた。
図8に示すモルタル試験結果より、粘性(流下時間)の変曲点P2におけるフライアッシュ置換率は10vol%となった。表9に示す従来配合に対し、この置換率10vol%でフライアッシュを混合する場合の吹付けコンクリート配合は下記表10に示す通りである。これを実施例3とする。
【0050】
【表9】

【0051】
【表10】

【0052】
(実施例4)
実施例4は第三実施形態による吹き付けコンクリートの増粘剤添加割合の決定方法について具体例を説明する。
現場Cにおける通常の吹付けコンクリート(単位セメント量C=360kg/m)について、下記に示す表11の従来配合から粗骨材を除いたモルタルの配合比で、増粘剤の添加率と流動性および粘性の関係を求めた。その結果、図9に示すグラフが得られた。
図9に示すモルタル試験結果より、粘性(流下時間)の変曲点P2における増粘剤添加率はC×0.05wt%となった。表11の従来配合に対し、この添加率で増粘剤(C×0.05wt%)を混合する場合の吹付けコンクリート配合は表12に示す通りである。これを実施例4とする。
【0053】
【表11】

【0054】
【表12】

【0055】
そして、各現場A,B,Cにおける単位セメント量Cが360kg/mである従来型(通常)の吹付けコンクリートと共に、各従来型に対して石灰石微粉末を7.7vol%置換した実施例2、フライアッシュを10vol%置換した実施例3、増粘剤をC×0.05%混入した実施例4について、吹付けコンクリートの吹き付け試験を含む各種試験をそれぞれ実施した。その結果を表13に示す。
【0056】
【表13】

【0057】
以上、実施例1〜4で説明したように、コンクリート配合より粗骨材を除いたモルタル配合を用いて実施した、各微粉末および増粘剤の置換率または添加率と流動性ならびに粘性の測定試験結果との関係から、微粉末および増粘剤の最適な置換率または添加率が求まる。
また、実施例2〜4についてそれぞれの最適置換率または添加率にて各吹付けコンクリートを製造し、トンネル壁面に吹付けて吹き付け試験を行った。微粉末または増粘剤を用いない各現場A,B,Cでの従来型(通常)の吹付けコンクリートに比べて、各現場A,B,Cでの実施例2〜4によって微粉末や増粘剤の最適な置換率または添加率を決定した吹付けコンクリートは、いずれもリバウンド率が小さくなることが確認された。
【0058】
なお、上述した実施例1では、混和剤を添加していて高流動配合の吹き付けコンクリートを採用しているため、混和剤の添加量が少ない方が製造コストが低廉になることを考慮して石灰石微粉末の添加割合の比較的小さい流動性の変曲点P1を選択した。
これに対し、実施例2〜4では吹き付けコンクリートに混和剤を添加していないので混和剤による材料コストを考慮する必要がない。しかも、微粉末や増粘剤の添加量が若干増大したとしても材料コストの増大は小さい。一方で、吹き付けコンクリートのリバウンドを小さくするには粘性が大きい方が好ましいので、変曲点P2を選択してリバウンドのより小さい特性にしたものである。このようにいずれの変曲点P1,P2を選択するかは、コストやリバウンド等、各工事現場でのコンクリートの要求特性やコスト等を考慮して適宜選定できる。
【0059】
また、本発明では、上述した各実施形態及びその実施例1〜4等における、各微粉末または増粘剤の置換率または添加率を決定する際に、流動性や粘性との関係を示すグラフにおけるいずれかの変曲点P1、P2またはその付近に決定することが好ましいが、変曲点P1とP2付近の値であってもよい。或いは、変曲点P1とP2の範囲内における各微粉末または増粘剤のいずれかの置換率または添加率を選択してもよい。変曲点P1〜P2の範囲内に決定した場合、変曲点P1、P2またはその付近に決定した場合よりも若干リバウンド等が増大するおそれがあるが、その場合でも、変曲点P1〜P2の範囲を外れた置換率または添加率を選択した場合や従来型の吹き付けコンクリートよりも好ましい結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第一実施形態による吹き付け用コンクリートに関するもので、石灰石微粉末の置換率(配合割合)を変化させた場合のモルタルの流動性と粘性の変化を示すグラフである。
【図2】第二実施形態による吹き付け用コンクリートに関するもので、流動性を一定に制御した状態における石灰石微粉末の置換率(配合割合)を変化させた場合のモルタルの粘性の変化を示すグラフである。
【図3】第三実施形態による吹き付け用コンクリートに関するもので、増粘剤の添加率を変化させた場合のモルタルの流動性と粘性の変化を示すグラフである。
【図4】第四実施形態に関するもので、配合割合が決定された石灰石微粉末を用いてコンクリートを製造する際における、セメントの拘束水率を決定するためのトルク試験結果を示す図である。
【図5】図4と同様に石灰石微粉末の拘束水率を決定するためのトルク試験結果を示す図である。
【図6】細骨材の拘束水率を決定するための試験結果を示す図である。
【図7】実施例2による吹き付け用コンクリートに関するもので、石灰石微粉末の置換率を変化させた場合のモルタルの流動性と粘性の変化を示すグラフである。
【図8】実施例3による吹き付け用コンクリートに関するもので、フライアッシュの置換率を変化させた場合のモルタルの流動性と粘性の変化を示すグラフである。
【図9】実施例4による吹き付け用コンクリートに関するもので、増粘剤の添加率を変化させた場合のモルタルの流動性と粘性の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと水と細骨材と粗骨材とを含み、石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末またはフライアッシュ等の微粉末を混入して練り混ぜた吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法において、
前記吹き付けコンクリートから粗骨材を除いたモルタルの配合に関し、
前記細骨材の一部を前記微粉末に置換すると共に該微粉末の含有量を順次変化させて配合して練り混ぜすることで複数種類のモルタルを得て、これら複数種類のモルタルの流動性と粘性の変化を流動性試験と粘性試験によって測定して流動性と粘性の変曲点をそれぞれ検出し、流動性と粘性のいずれかの変曲点付近またはこれら変曲点の範囲内における微粉末の配合割合によってモルタル中の配合割合を決定するようにしたことを特徴とする吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法。
【請求項2】
前記流動性と粘性の変曲点付近における微粉末の配合割合のうち、前記微粉末量の少ない方または粘性の高い方を選択するようにした請求項1に記載の吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法。
【請求項3】
セメントと水と細骨材と粗骨材とを含み、石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末またはフライアッシュ等の微粉末を混入して練り混ぜた吹き付けコンクリートの配合割合の決定方法において、
前記吹き付けコンクリートから粗骨材を除いたモルタルの配合に関し、
前記細骨材の一部を前記微粉末に置換すると共に該微粉末の含有量を順次変化させて配合し且つモルタルの流動性が一定になるように減水剤を配合して練り混ぜすることで複数種類のモルタルを得て、これら複数種類のモルタルの粘性試験を行うことによって粘性の変曲点を検出し、粘性の変曲点付近またはこれら変曲点の範囲内における微粉末の配合割合によってモルタル中の配合割合を決定するようにしたことを特徴とする吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法。
【請求項4】
前記変曲点付近における微粉末の複数の配合割合を設定し、それぞれの配合割合の前記微粉末を混入した前記モルタルを含むコンクリートで、吹き付け試験を行うことによって最適な微粉末の配合割合を決定するようにした請求項1乃至3のいずれかに記載の吹き付けコンクリートの微粉末配合割合の決定方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のコンクリートの微粉末配合割合の決定方法によって配合割合が決定された前記微粉末を混入して得た前記吹き付けコンクリートに関し、
次式(1)に示すように前記セメントの拘束水量(α×C)、前記微粉末の拘束水量(γ×Ls)、前記細骨材の拘束水量(βOH×S)を累計して一時水量として分割練り混ぜすることを特徴とする吹き付けコンクリート。
W1=α×C+γ×Ls+βOH×S (1)
ただし、W1:最適一次水量
α :セメントの拘束水率
γ :石灰石微粉末の拘束水率
βOH:細骨材の拘束水率
C :単位セメント量
Ls:単位石灰石微粉末量
S :単位細骨材量
【請求項6】
セメントと水と細骨材と粗骨材とを含み、増粘剤を添加して練り混ぜた吹き付けコンクリートの増粘剤添加量の決定方法において、
前記吹き付けコンクリートから粗骨材を除いたモルタルの配合に関し、
前記増粘剤の添加量を順次変化させて添加して練り混ぜすることで複数種類のモルタルを得て、これらの複数種類のモルタルの流動性と粘性の変化を流動性試験と粘性試験によって測定して流動性と粘性の変曲点をそれぞれ検出し、流動性と粘性のいずれかの変曲点付近またはこれら変曲点の範囲内における前記増粘剤の添加割合によってモルタル中の増粘剤の添加割合を決定するようにしたことを特徴とする吹き付けコンクリートの増粘剤添加割合の決定方法。
【請求項7】
前記流動性と粘性の変曲点付近における前記増粘剤の添加割合のうち、添加量の少ない方または粘性の高い方を選択するようにした請求項6に記載の吹き付けコンクリートの増粘剤添加割合の決定方法。
【請求項8】
前記変曲点付近における増粘剤の添加割合によって増粘剤の添加割合を決定してなるモルタルを用いて、前記変曲点付近における増粘剤の複数の添加割合を設定し、それぞれの添加割合の増粘剤を混入したモルタルを含むコンクリートで吹き付け試験を行うことで最適な増粘剤の添加割合を決定するようにした請求項6または7に記載の吹き付けコンクリートの増粘剤添加割合の決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−302507(P2008−302507A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149290(P2007−149290)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(592068130)リブコンエンジニアリング株式会社 (11)
【Fターム(参考)】