説明

周波数可変光を生成する周波数可変光源および方法

【課題】モードホッピングを伴わない周波数チューニングを達成する。
【解決手段】
周波数可変光源および該光源を生成する方法が提供される。周波数可変光源は、共振光空洞(12)、光利得媒体(18)、光学モードフィルタ(20)、およびモード周波数チューナー(22)を備える。共振光空洞は、対応するモード周波数を有する少なくとも1つの縦モードの光の発振をサポートする。光利得媒体は、該空洞に配置され、光を増幅する。光学モードフィルタは、空洞で発振する光と交差するよう配置され、チューニング可能な中央周波数を備えた光透過通過帯域を有する。モード周波数チューナーは、発振する光と交差するよう配置され、空洞の縦モードのモード周波数を、チューニング可能なように変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数可変光を生成する周波数可変光源および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの周波数可変光源には、1つの光学利得要素と1つ又は複数のフィルタ要素とを含む共振光空洞(キャビティ)が含まれている。該共振光空洞により、光の発振が、均等な間隔を有する一組の離散した光学モードに量子化され、これらの大部分が、フィルタ要素によって消滅する。多くの用途では、単一の光学モードの単一波長出力ビームを生成することが望ましい。又、指定された周波数範囲にわたって、モードホッピング(mode hopping)なしに光源を連続的に調整することができることが望ましい。しかしながら、このような結果を達成するには、光源の共振光空洞の光学モードとフィルタ要素の周波数応答を、同期してチューニングしなければならない。又、高度なモード安定性を実現するには、光学モードの間隔に対するフィルタの帯域幅の比を相対的に小さくする必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
モードホッピングなしに周波数をチューニングすることが可能な光源を実現する方法には、多数の様々なものが存在している。
【0004】
いくつかの方法においては、反射器を移動させることによって光空洞の光学的な長さを変化させ、これにより、光空洞のモード周波数を変化させる。十分な周波数チューニングの安定性と精度を有する実用的なチューニングレンジを達成するには、高精度で(例:数ピコメートルのレベル)、大きな範囲にわたって(例:500マイクロメートル以上のレベル)、反射器を移動させる能力を有する反射器移動メカニズムを具備する必要があるが、このような反射器移動メカニズムは、まだ開発されてはいない。
【0005】
他の方法においては、一対の音響光学装置を使用して、光空洞のモード周波数を変化させる。これらの方法においては、音響光学偏向器もまた、光空洞のモードを選択する処理に使用される。音響光学装置における機能のこのような結合により、モードホッピングを伴わない周波数チューニングを達成するのに、空洞フィルタリング機能とモードフィルタリング機能の同期化が更に困難になっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、周波数可変光を生成する周波数可変光源及び方法を特徴とする。本発明によれば、モードホッピングなしに、指定された周波数範囲にわたって迅速かつ連続的に掃引可能な単一波長の出力ビームを生成することができる。
【0007】
一つの側面によると、本発明は、共振光空洞、光学利得媒体、光学モードフィルタ、及びモード周波数チューナーを含む周波数可変光源を特徴とする。共振光空洞は、モード周波数をそれぞれが有する少なくとも1つの縦モードにおける光の発振をサポートする。光学利得媒体は、該共振光空洞内に配置されており、光を増幅するよう動作可能である。光学モードフィルタは、共振光空洞内で発振する光と交差するよう配置されており、チューニング可能な中央周波数を備えた光透過の通過帯域を有している。モード周波数チューナーは、共振光空洞内において発振する光と交差するよう配置されており、共振光空洞の少なくとも1つの縦モードのモード周波数を、チューニング可能なように変化させるよう動作可能である。
【0008】
他の側面においては、本発明は、波長可変光を生成する方法を特徴とする。この本発明による方法によれば、まず、共振光空洞を提供する。この共振光空洞は、モード周波数をそれぞれが有する少なくとも1つの縦モードの光の発振をサポートする。該共振光空洞内の少なくとも1つの縦モードの光を増幅する。該共振光空洞のモード周波数を変化させる。そして、この光を、透過帯域フィルタリングする。
【0009】
尚、本発明の他の特徴および利点については、図面を含む以下の説明を参照することにより、明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下の説明においては、類似の要素は類似の参照符号を使用して識別される。又、図面は、模範的な実施例の主要な特徴を示すよう意図されたものであり、これらの図面は、実際の実施例のすべての特徴を表すことを意図しておらず、また、表されている要素の相対的な寸法も正確な縮尺によって示されていない。
【0011】
図1は、その位置が互いに固定されている第1及び第2の反射器14および16間に規定された共振光空洞12を含む周波数可変光源10の一実施例を示している。共振光空洞12は、光学利得媒体18、光学モードフィルタ20、及びモード周波数チューナー22を含む。光学利得媒体18は、共振光空洞12において発振する光を増幅する。光学モードフィルタ20は、光空洞12のモードを選択し、モード周波数チューナー22は、該モードの実際の周波数を設定する。モード周波数チューナー22は、共振光空洞12のモード周波数を制御する。光学モードフィルタ20は、或る光透過の通過帯域(optical transmission band-pass)内の限られたいくつかのものを除いてすべての光学モードを消滅させることにより、共振光空洞12の光学モードを選択する。例えば、いくつかの実現形態においては、光学モードフィルタ20は、共振光空洞12によってサポートされる最大10個の縦モード(longitudinal mode)を達成する3dBの帯域幅を有する。この実施例においては、光学モードフィルタ20によって提供される光透過帯域機能により、モードフィルタリング機能と空洞チューニング機能が分離されており(結合されていない)、これにより、モードホッピングを伴わない周波数チューニングを達成するのに、モードフィルタリング機能及び空洞チューニング機能の同期化が容易になっている。又、モード周波数チューナー22は、可動部品なしに共振光空洞12をチューニングし、これにより、高精度で大きな範囲にわたって反射器を移動させる能力を有する反射器移動メカニズムが不要となっている。
【0012】
後程詳述するように、いくつかの実現形態においては、光学モードフィルタ20を、モード周波数チューナー22と同期するようチューニングすることにより、出力光の周波数チューニング中に、共振光空洞12の光が、同じモードを発振するようにしている。この周波数可変光源10は、出力光の周波数を設定する静的モードと、出力光の周波数が1つの周波数から別のものに変化する動的モード、という2つの動作モードを備えている。
【0013】
光学利得媒体18は、共振光空洞12において発振する光を増幅するよう構成された、任意のタイプの光学利得媒体であってもよい。例えば、いくつかの実現形態においては、光学利得媒体18は半導体増幅器であり、これは、PN接合において光学的に励起された正孔と電子の再結合によって光を増幅する。このような半導体増幅器から放射される光は、通常、半導体増幅器の活性領域の材料のバンドギャップエネルギーに近接した中心を有する光子エネルギーの有限の広がりによって特徴付けられる。これらの実現形態のいくつかにおいては、1つ又は複数のコリメータレンズが共振光空洞12内に配置されており、光学利得媒体18から発散する出力光ビームを平行な光ビームに変換すると共に、リターン光ビームを光学利得媒体18の活性領域上に合焦する。
【0014】
半導体増幅器の活性領域は、通常、共振光空洞12内の光路に直交する半導体基板の一対のフェーセット(facet)間に位置している。これらのフェーセットは、共振光空洞12における要素の配置に応じて、反射防止コーティング及び反射コーティングを含む1つ又は複数の表面処理を含むことができる。
【0015】
第1及び第2の反射器14および16は、共振光空洞12において発振する光を、少なくとも部分的に反射する。これらの第1及び第2の反射器14および16は、それぞれ、周波数可変光源10の指定された光学周波数範囲内の光を少なくとも部分的に反射するようになっている。典型的な反射器には、光学利得媒体の反射フェーセット、ミラー、回折格子、及びリトロレフレクター(retororeflector)が含まれる。
【0016】
光学モードフィルタ20は、その中央周波数がチューニング可能である任意のタイプの、光学的に透過性を有する光学帯域(バンドパス)フィルタである。光学モードフィルタ20は、1つ又は複数のチューニング可能な干渉(interference)タイプのフィルタ、及びチューニング可能な吸収(absorption)タイプのフィルタから形成されることができる。典型的なチューニング可能な干渉タイプのフィルタは、エタロンフィルタ(etalon filter)を含み、これは、複数の反射干渉によって狭い通過帯域を定義する間隔だけ離れた2つの(多くの場合に、平行な)部分的な反射性を有する表面を備えた干渉計である。該2つの部分的な反射性を有する表面は、両方とも平坦であってよいが、これらの表面のうちの1つ又は両方を湾曲させてもよい。エタロンフィルタは、該2つの反射表面間の間隔を変化させるか、又は、該2つの反射表面間に配置されている材料の屈折率を変化させることによって、チューニングされる。例えば、エアギャップエタロン(air gap etalon)は、機械的、熱的、電気的、又は磁気的に動作させることができる、気体が充填されたギャップを含むことができ、該ギャップを充填している材料の屈折率又はギャップの厚さのいずれか又は両方を変化させることができる。代替的に、一対の反射表面間に配置された電気光学媒体を有するエタロンを使用することもできる。該電気光学媒体は、電気的にチューニング可能な屈折率を有する。さらに、代替的に、光学モードフィルタ20は、複屈折媒体、1つ又は複数の偏光器、及び、共振光空洞12において発振する光の偏光面を制御可能なように回転させる可変ファラデー回転器(variable Faraday rotator)などの要素を含む複屈折フィルタを含むこともできる。該複屈折媒体は、電気刺激又は機械刺激に応答して、可変光路長を生成する「ポッケルス・セル(Pockets Cell)」または「カー・セル(Kerr cell)」などの、任意のタイプの材料であってよい。
【0017】
モード周波数チューナー22は、共振光空洞12のモード周波数を、チューニング可能なように変化させることができる任意のタイプの光学装置であることができる。例えば、いくつかの実現形態においては、モード周波数チューナー22は、音響光学偏向器、音響光学変調器、及び音響光学可変フィルタの中から選択された1つ又は複数の音響光学装置を含む。これらのタイプの音響光学装置は、いずれも、共振光空洞において発振する光に対して、ドップラー周波数シフト(Doppler frequency shift)を引き起こす。該周波数シフトの方向は、光の伝播方向に対する、音響光学装置における音波の伝播方向によって左右される。周波数可変光源10のいくつかの実現形態においては、モード周波数チューナー22は、第1及び第2の音響光学装置を含む。第1の音響光学装置は、共振光空洞において発振する光のモード周波数に対して第1のドップラーシフトを引き起こすよう動作可能であり、第2の音響光学装置は、共振光空洞において発振する光のモード周波数に対して第2のドップラーシフトを引き起こすよう動作可能であり、ここで、第1及び第2のドップラーシフトの方向は反対である。
【0018】
第1及び第2の音響光学装置に印加される駆動周波数間の差により、共振光空洞12のモード周波数の時間当たりの変化率を制御する。
【0019】
静的動作モードにおいては、モードチューニングフィルタ22に対するRF駆動信号は、周波数と位相において等しくなっており、よって出力光の光学周波数は変化しない。光学モードフィルタ20の中央周波数も静止状態にある。従って、光学モードフィルタ20の通過帯域内の光学モードは、周波数が固定された状態にあり、共振光空洞12において、単一の光学モードのみが、固定された光学周波数において発振することになる。
【0020】
動的動作モードにおいては、出力光の光学周波数が変化する。この動作モードにおいては、モード周波数チューナー22に対する駆動信号は、周波数又は位相において異なっている。共振光空洞12によってサポートされるモードは、モード周波数チューナー22に対する駆動信号間の周波数差又は位相差によって決定される一定のレートで、上方又は下方に周波数が変化することになる。音響光学のアップシフト側(upshifter)の駆動周波数が、音響光学ダウンシフト側(downshifter)の駆動周波数を上回っている場合には、空洞のそれぞれの往復ごとに、正味の(最終的には)周波数アップシフトが存在し、モードは、周波数の上昇方向に連続的にチューニングされることになる。一方、音響光学のダウンシフト側の駆動周波数が音響光学のアップシフト側の駆動周波数を上回っている場合には、空洞のそれぞれの往復ごとに、正味の周波数ダウンシフトが存在し、モードは、周波数の下降方向に連続的にチューニングされることになる。このような動的動作モードにおいては、変化するモード周波数に追随するよう、光学モードフィルタ20の中央周波数が変化し、こうして、モードホッピングなしに、出力光の光学周波数を増加又は減少させることができる。この動的モードには、出力光の周波数が掃引されるチャープモード(chirp mode)と、出力光の周波数が1つの静的周波数から別の静的周波数に変化するチューニングモードという2つの動作モードが含まれている。
【0021】
図2は、周波数可変光源10によって周波数可変光を生成する方法の一実施例を示している。まず、モード周波数をそれぞれが有する少なくとも1つの縦モードの光の発振をサポートする共振光空洞を提供する(ブロック30)。該共振光空洞において、光学利得媒体18により、少なくとも1つの縦モードの光を増幅する(ブロック32)。次いで、モード周波数チューナー22により、該共振光空洞のモード周波数を変化させる(ブロック34)。光学モードフィルタ20により、該共振光空洞内の光を、透過帯域フィルタリングする(ブロック36)。光学モードフィルタ20の光透過通過帯域は、通常、光の目標光学周波数に実質的に対応する中央周波数を有している。
【0022】
図3は、光学モードフィルタ20がファブリ−ペロエタロン(Fabry-Perot etalon)25を含み、モード周波数チューナー22が、一対の音響光学偏向器40および42によって実現されており、半導体増幅器の光学利得媒体45の反射フェーセット44が、第1の反射器14を提供し、ミラー46が、第2の反射器16を提供している周波数可変光源10の実現形態38を示している。フェーセット44及びミラー46は、ファブリ−ペロエタロン25、一対の音響光学偏向器ア40および42、及び、レンズ64を有する共振光空洞48を画定している。共振光空洞48は、少なくとも1つの縦モードの光の発振をサポートする。この実施例においては、ミラー46が高反射率を呈する一方で、反射フェーセット44が、部分的な反射性を呈することにより、共振光空洞48において発振する光の一部が、出力ビーム50の形態で出射することを可能にしている。
【0023】
光学モードフィルタ20のファブリ−ペロエタロン25は、第1及び第2のわずかに離隔した部分的な反射性を有する表面26および27を有する。光が、第1及び第2の表面26および27に到達するたびに、該光の一部が透過し、この結果、複数のビームが互いに干渉して、高分解能を有する干渉計を生成する。例示の目的のため、ここでは、表面26を平坦なものとし、表面27を凹状のものとして示しているが、実際には、これらの表面のいずれか又は両方が、平坦でもよいし、凹状でもよいし、又は凸状でもよい。フィルタドライバ28は、反射器26、27間の間隔を調節して、ファブリ−ペロエタロン25の通過帯域の中央周波数を調節する。いくつかの実現形態において、ファブリーペローエタロン25は、例えば、米国特許第6,339,603号、米国特許第6,345,059号、米国特許第6,282、215号、及び米国特許第6,526,071号の各明細書のいずれにも記述されているように、MEMS(Micro−Electo−Mechanical System)又はMOEMS(Micro−Opto−Electro−Mechanical System)の一部である。
【0024】
いくつかの実現形態においては、1/4波長板が、光学モードフィルタ20のそれぞれの側に配置されており、ファブリ−ペロエタロン25の反射面からの反射を打ち消す挙動をする。
【0025】
音響光学偏向器40および42は、それぞれ、対応する複屈折水晶基板52および54(例:二酸化テルル又はニオブ酸リチウム)と、対応する電気機械変換器56および58を含む。変換器56および58のそれぞれは、例えば、単一の圧電変換器又は圧電変換器のアレイによって実現されることができる。該変換器56および58は、図3に示されているように、1つのRFドライバ59(又は、それぞれが変換器に対応して設けられる複数のRFドライバ)によって駆動されることができる。該変換器56および58は、整合回路(図示されてはいない)によって、1つ又は複数のRFドライバに接続されている。受信したRF駆動信号に応答して、該変換器56および58は、それぞれ、複屈折水晶基板52および54に、RF駆動信号の周波数に対応する音響周波数の音波60および62を生成する。
【0026】
第1の音響光学偏向器40は、共振光空洞48を伝播する光と交差するよう配置されており、該交差した光を偏向して、共振光空洞48の縦モードの周波数に対して第1のドップラーシフトを引き起こすよう動作可能である。又、第2の音響光学偏向器42も、共振光空洞48を伝播する光と交差するよう配置されており、該交差した光を偏向して、共振光空洞48の縦モードの周波数に対して第2のドップラーシフトを引き起こすよう動作可能である。該第1及び第2のドップラーシフトは、その方向が反対になっている。この図示の実施例においては、図3に示されているように、第1及び第2の音響光学偏向器40および42は、交差した光を、実質的に等しく且つ反対の角度に偏向させており、この結果、該交差した光の角度偏向は、実質的に正味ゼロになっている。この結果、第1及び第2の音響光学偏向器40および42に印加される駆動信号の周波数に応じて、光ビームは、第1のミラー46の表面上の様々な場所に入射するが、発振する光ビームは、常に、ミラー46の表面に対して実質的に垂直になっている。
【0027】
動作の際、光学利得媒体45が光を増幅する。光は、レンズ64に向かって発散し、該レンズ64が、光を平行ビームに変換する。光学モードフィルタ20により、この平行ビームには、モードホッピングに対する光源38の抵抗力全体に寄与する狭いフィルタ通過帯域が適用される。フィルタリング済みのビームは、第1の音響光学偏向器40に進入する。該偏向器は、ビームを、変換器56に向けて偏向し、該フィルタリング済みのビームの周波数を、音波60の音響周波数に対応する量だけ、ダウンシフトする。該偏向され且つアップシフトされたビームは、第1の音響光学偏向器40の平坦な面66から出射する。該偏向されたビームは、第2の音響光学偏向器42の平坦な面68を通過する。第2の音響光学偏向器42は、変換器58から離れる方向にビームを偏向させ、このビームの周波数を、音波62の音響周波数に対応する量だけ、アップシフトする。いくつかの動作モードにおいては、第1の音響光学偏向器40による光ビームのスペクトルシフトを実質的にキャンセルするように、第2の音響光学偏向器42は駆動される。ミラー46は、第2の音響光学偏向器42によって偏向されたビームを遮り、該遮ったビームを反射して第2の音響光学偏向器42に向かって返す。
【0028】
復路においては、光ビームは、同一の光ビーム経路48を通り、光学利得媒体18に戻ってくる。レンズ64が、この平行なリターンビームを、半導体増幅器の光学利得媒体45の活性領域上に合焦する。次いで、反射フェーセット44が、該リターンビームと交差し、該リターンビームを、同一のビーム経路に沿って反射してレンズ64に向かって戻す。こうして、共振光空洞48内における光の往復が完成することになる。この反射光は、光学利得媒体45を通過するに伴って、該光学利得媒体45によって増幅される。出力ビーム50は、部分的な反射性を有するフェーセット44を介して抽出される。
【0029】
反射フェーセット44及びミラー46により、光は、共振光空洞48内において往復伝播する。光場(optical field)の位相が1往復後に連続しているため、共振光空洞48により、光は、一組の離散した共振光学周波数(即ち、モード周波数)に閉じ込められることになる。これらのモード周波数は、間隔c/(L)だけ、等間隔で離隔しており、ここで、cは、光の速度であり、Lは、共振光空洞48の往復光路長である。図4Aは、発振する光の波長の関数として表された、典型的な一組の縦モードを示している。
【0030】
第1及び第2の音響光学偏向器40、42によって組み合わされるビーム偏向、および光学モードフィルタ20の通過帯域は、光学利得媒体45によって光の単一周波数のみが増幅されるように、共振光空洞48の光路長を構成している。図4Bは、光学周波数に対する光学利得媒体18の全体的な利得70の典型を示している。又、図4Bは、光学周波数に対する光空洞48の1往復当たりの正味の光学利得72の典型を示している。この正味光学利得は、全体利得70と光学モードフィルタ20の通過帯域応答との積になっている。図4Bに示されているように、光学モードフィルタ20により、周波数の狭い帯域のみが光学利得媒体45によって増幅される。この周波数帯域に含まれているのは、図4Bに示されているように、限られた数のモードのみである。多くの場合、所与の時点において共振光空洞48内で発振する光学モードフィルタの通過帯域内のモードは1つのみであることが望ましい。光学モードフィルタ20の通過帯域内のモード数が相対的に小さいことから(例:1〜10個のモード)、シングルモードに対応する出力を確実に生成する光源38の能力が向上することになる。
【0031】
1つの動的動作モードにおいては、第1及び第2の音響光学偏向器40および42により、モード周波数を、非常に便利な手法でチューニングすることができる。具体的には、同一音響周波数の駆動信号を第1及び第2の変換器56、58に印加し、これらの駆動信号間の位相差を調節することにより、モード周波数をチューニングする。光空洞48では、位相差πラジアンごとに、1モード間隔に対応する距離だけ、空洞の光路長がチューニングされることになる。リング(ring)空洞の場合には(例えば、図8に示されている実施例を参照されたい)、位相差2πラジアンごとに、1モード間隔に対応する距離だけ、光路長がチューニングされる。
【0032】
他の動的動作モードにおいては、わずかに異なる音響周波数f及びfにおいて第1及び第2の音響光学偏向器40および42を駆動して光空洞48のモード周波数をチューニングすることにより、出力光の連続的な周波数チューニングを達成する。これらの実現形態においては、音響光学偏向器40および42によって引き起こされる光のドップラー周波数シフトは、正確にはキャンセルされない。駆動周波数f及びfが一定に(但し、異なって)保持されている場合には、モード周波数は、最終的に、光学モードフィルタ20の通過帯域外においてチューニングされることになり、別のモードの発振が始まることになる。これは、望ましくない。従って、連続チューニングを達成するために、変化するモード周波数に追随するように、光学モードフィルタ20の通過帯域の中央周波数を変化させる。
【0033】
前述したように、周波数可変光源10は、出力光が周波数掃引(frequency sweep)を受けるチャープモード(chirp mode)において動作することができる。以下の説明においては、周波数可変光源の実現形態38の期待される自由スペクトル領域(free spectral range)は、2GHzであると仮定しており、且つ、該光源は、レーザー公称波長が1550nmである場合に、1000nm/s(すなわち、125THz/s)のチャープスキャンレート(chirp scan rate)を有するチャープ出力を生成するものと仮定している。これらのパラメータの場合には、或る特定の設計の或る動作モードにおいては、第1及び第2の音響光学偏向器40および42に印加される駆動信号の周波数は、Δf=31.3kHzだけ異なっている。この設計のこの動作モードにおいて、周波数差Δfによって発生するミラー46におけるビームのずれ(deviation)ΔΦは、ΔΦ=0.00254Δfによって与えられる(この角度の計測単位は、ラジアンであり、周波数差の単位は、MHzである)。1往復後に光学利得媒体45に戻ってきたときの角度のずれは、この値の2倍である。
【0034】
1000nm/sのスキャンレートの場合には、Δf=31.3kHzであり、この周波数差によれば、共振光空洞48における1往復の後に、0.16mrad(ミリラジアン)のビームのずれが発生する。半導体増幅器の光学利得媒体45の角度許容値は、通常、±1mradであるため、このビームのずれは、この設計のこのスキャンレートにおいては、許容可能である。但し、1000nm/sを大幅に上回るスキャンレートの場合には、この特定の設計においても、ビームのずれは大きなものになる。
【0035】
図5を参照すると、このビームのずれは、リトロレフレクター90でミラー46(図3に示されている)を置換することにより、少なくとも部分的に低減され、リトロレフレクターは、その外に向かう経路(outward path)に平行な経路に沿ってリターンビームを反射する。但し、リターンビームが該外に向かうビームと平行である場合にも、光学周波数のチャープに伴って、リターンビームは、該外に向かうビームから離れる方向にシフトされる。この結果、リターンビームの一部が光学利得媒体45から外れ、システムの光学利得が低下することになる。多くの場合、この影響は無視可能な程度に小さいが、常にそうであるというわけではない。このため、これらの実現形態のいくつかにおいては、チャープを生成するよう第2の音響光学偏向器42を駆動する音響周波数を変化させることに加え、第1の音響光学偏向器を駆動する音響周波数をも変化させる。
【0036】
図5及び図6は、音響駆動周波数の変化を見積もる方法を示している。図5は、音響光学偏向器40および42の両方が同一の音響周波数f(例:f≒50MHz)で駆動される定常状態のケースを示している。したがって、第2の音響光学偏向器42から出るビームは、第1の音響光学偏向器40に進入するビームと平行である。リトロレフレクター90は、R点に配置されている。
【0037】
図6においては、第1及び第2の音響光学偏向器40および42に対する駆動周波数を、異なる量Δf及びΔfだけ、それぞれ増やしている。この結果、ビーム経路が、角度Δε及びΔρだけずれている(これらの角度は、周波数の増分Δf及びΔfの線形関数である)。そして、この角度のずれの結果、リトロレフレクターにおいて、ビームは、距離Δhだけ線形に変位されている。
【0038】
駆動周波数の増分Δf及びΔfは、Δh=0となるように選択される。これは、これらが次の式(1)を満足することを意味している。
【0039】
A×Δf+B×Δf=0 (1)
ここで、A及びBは、音響光学偏向器の特性と共振光空洞48のレイアウトによって決まる定数である。これらの定数については、算出又は計測することができる。
【0040】
所与のチャープレートについて、音響周波数の差は、次のように、既知の値Δfを有する。
【0041】
Δf−Δf=Δf (2)
図3に示されている特定の光源の場合には、式(1)及び式(2)の解は、次の式(3)及び式(4)によって与えられる。
【0042】
Δf=−0.92Δf (3)
Δf=−1.92Δf (4)
このように、f=50MHzであって、Δf=31.3kHzの場合、第1及び第2の音響光学偏向器を駆動する音響周波数は、49.9712MHzと49.9399MHzである。
【0043】
図7は、第1及び第2の音響光学偏向器40および42の向きが異なることを除いて、実現形態38と同一の周波数可変光源10の実現形態80を示している。この形態においては、フィルタリング済みのビーム82は、第1の音響光学偏向器40内に進入し、該偏向器は、ビームを、変換器56に向かって偏向し、フィルタリング済みのビームの周波数は、音波60の音響周波数に対応する量だけ、ダウンシフトされる。該偏向されダウンシフトされたビームは、第1の音響光学偏向器40の平坦な面84から出射する。次いで、該偏向されたビームは、第2の音響光学偏向器42の平坦な面86を通過する。第2の音響光学偏向器42は、ビームを、変換器58から離れるように偏向し、ビームの周波数は、音波62の音響周波数に対応する量だけ、アップシフトされる。他の観点においては、この光源80の動作は、光源38の動作に非常に類似したものとなる。
【0044】
図8は、光学利得媒体18、光学モードフィルタ20、モード周波数チューナー22、及び、共振光空洞94を画定する4つの反射表面96、98、100、102を含む循環型(すなわちリング型)の共振光空洞94を含む周波数可変光源92の実施例を示している。光源92の各コンポーネントは、波長光源10と関連して前述した対応するコンポーネントと同一の手法で実現されることができる。光源92の動作も、周波数可変光源10の動作と実質的に同一である。
【0045】
尚、他の実施形態も、特許請求項の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】周波数可変光源の一実施例のブロック図。
【図2】周波数可変光を生成する方法の一実施例のフローチャート。
【図3】図1に示されている周波数可変光源の実現形態のブロック図。
【図4A】図3に示されている周波数可変光源の実現形態における共振光空洞の典型的なモードを示す図。
【図4B】図3に示されている周波数可変光源の実現形態におけるスペクトルの特徴をグラフィカルに示す図。
【図5】音響光学偏向器を、同一周波数の別個の駆動信号によって駆動した場合の、図3のモード周波数チューナーを介した光の経路を示すブロック図。
【図6】音響光学偏向器を、異なる周波数の別個の駆動信号によって駆動した場合の、図3のモード周波数チューナーを介した光の経路を示すブロック図。
【図7】図1に示されている周波数可変光源の別の実現形態のブロック図。
【図8】循環型共振光空洞を有する周波数可変光源の一実施例の図。
【符号の説明】
【0047】
10 周波数可変光源
12 共振光空洞
18 光学利得媒体
20 光学モードフィルタ
22 モード周波数チューナー
40 第1の音響光学装置
42 第2の音響光学装置
59 ドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数可変光源であって、
それぞれが対応するモード周波数を有する少なくとも1つの縦モードの光の発振をサポートする共振光空洞(12)と、
前記共振光空洞(12)内に配置され、光を増幅するよう動作可能な光学利得媒体(18)と、
前記共振光空洞(12)内で発振する光と交差するよう配置されており、チューニング可能な中央周波数を有する光透過通過帯域を備えた光学モードフィルタ(20)と、
前記共振光空洞(12)内において発振する光と交差するよう配置されており、前記共振光空洞の前記少なくとも1つの縦モードのモード周波数を変化させてチューニングするよう動作可能なモード周波数チューナー(22)と、
を備える、周波数可変光源。
【請求項2】
前記光学モードフィルタ(20)の前記通過帯域は、前記共振光空洞(12)によってサポートされる最大10個の前記縦モードを達成する3dBの帯域幅を備える、
請求項1に記載の周波数可変光源。
【請求項3】
前記光学モードフィルタ(20)は、チューニング可能な光干渉要素を有する、
請求項1に記載の周波数可変光源。
【請求項4】
前記モード周波数チューナー(22)は、
前記共振光空洞(12)内において発振する光と交差するよう配置される第1の音響光学装置(40)であって、該共振光空洞(12)の前記少なくとも1つの縦モードのモード周波数に対して第1のドップラーシフトを引き起こすよう動作可能である第1の音響光学装置と、
前記共振光空洞(12)内において発振する光と交差するよう配置される第2の音響光学装置(42)であって、該共振光空洞(12)の前記少なくとも1つの縦モードのモード周波数に対して第2のドップラーシフトを引き起こすよう動作可能である第2の音響光学装置と、を備え、
前記第1及び第2のドップラーシフトの方向は、反対である、
請求項1に記載の周波数可変光源。
【請求項5】
前記第1及び第2の音響光学装置(40、42)に接続されたドライバ(59)を更に備え、
該ドライバ(59)は、前記周波数可変光源の1つの動作モードにおいて、異なる駆動周波数で前記第1及び第2の音響光学装置(40、42)を駆動するよう構成されている、
請求項4に記載の周波数可変光源。
【請求項6】
前記第1及び第2の音響光学装置(40、42)に接続されたドライバ(59)を更に備え、
該ドライバ(59)は、前記周波数可変光源の1つの動作モードにおいて、実質的に等しい周波数で、かつ相対的に異なる位相により、前記第1及び第2の音響光学装置(40、42)を駆動するよう構成されている、
請求項4に記載の周波数可変光源。
【請求項7】
前記第1及び第2の音響光学装置(40、42)に接続されたドライバ(59)を更に備え、
該ドライバ(59)は、前記共振光空洞(12)の前記縦モードの前記モード周波数を変化させた結果として、前記モード周波数チューナー(22)による光のずれを実質的に補正するように、前記第1及び第2の駆動信号の周波数を変化させるよう構成されている、
請求項4に記載の周波数可変光源。
【請求項8】
波長可変光を生成するための方法であって、
それぞれが対応するモード周波数を有する少なくとも1つの縦モードの光の発振をサポートする共振光空洞(12)を提供するステップと、
前記共振光空洞(12)内の少なくとも1つの縦モードの光を増幅するステップと、
前記共振光空洞(12)の前記モード周波数を変化させるステップと、
前記光を透過帯域通過フィルタリングするステップと、
を含む、方法。
【請求項9】
前記共振光空洞(12)の前記モード周波数を変化させるステップは、反対方向に、前記光に対して第1及び第2のドップラーシフトを引き起こすステップを含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記共振光空洞(12)の前記モード周波数を変化させるステップは、時間に依存した所望の変動を前記光の周波数において達成するよう選択された量だけ、大きさの異なる前記第1及び第2のドップラーシフトを引き起こすステップを更に含む、
請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−80512(P2006−80512A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253140(P2005−253140)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】