説明

周波数補正回路及びそれを用いた無線通信装置

【課題】 発振器の出力周波数が増減した場合に自動補正を可能として常に出力周波数の精度を一定の範囲内に維持する周波数補正回路を得る。
【解決手段】 発振器2の発振周波数よりも高精度の基準周波数を、発振周波数を分周した分周周期毎に計数するカウンタ5と、発振周波数が正常な時のカウンタの計数値に相当する正常値に対して所定値Mを加算した値とカウンタの計数値とを比較して一致したときに発振周波数の減少を示す信号を生成する比較回路7と、正常値に対してMを減算した値とカウンタの計数値とを比較する比較回路8と、この比較回路8の一致結果に応答してこの一致結果を所定時間マスクするためのマスク信号を生成する単安定マルチバイブレータ11と、比較回路7の減少を示す信号に応じて発振周波数を減少方向に制御し、マスク信号の非生成時に発振周波数を増加方向に制御する制御回路12及びCPU1とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は周波数補正回路及びそれを用いた無線通信装置に関し、特に発振器の出力周波数を自動的に補正するための周波数補正方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムにおける無線基地局は、無線基地局制御装置(RNC:Radio Network Controller)に接続されている伝送路からの抽出クロック信号に同期して動作している。この場合、RNCは、周波数安定度の非常に高い水晶発振器を搭載しているために、無線基地局をこのRNCから送られてくる伝送路からの抽出クロック信号に同期させるように動作させれば、無線基地局に搭載される水晶発振器も出力周波数安定度を高く保ち続けることが可能である。
【0003】
しかしながら、無線基地局とRNCとの伝送路には、IP(Internet Protocol )伝送路を使用する場合がある。この場合、無線基地局は、伝送路からの抽出クロック信号に同期するように動作させることができないために、無線基地局に搭載された水晶発振器が自走して動作することになる。従って、無線基地局がこのようなネットワーク環境下で使用される可能性があることを考慮すると、無線基地局に搭載される水晶発振器にも、RNCに搭載される水晶発振器と同様に、周波数安定度の非常に高い水晶発振器を搭載する必要性が発生する。
【0004】
なお、上述の周波数安定度には、温度変化による周波数変動、電源電圧変化による周波数変動、経年変化に対する周波数変動などの全ての変動要素が含まれるものである。一般的には、経年変化に対する周波数変動が最も大きいが、無線基地局として、前述の各々の周波数変動量の合計が、運用期間中に対して、許容値内の変動量であることが要求されることになる。
【0005】
近年では、数年間の運用期間に対して、出力周波数安定度が±数10ppb(part per billion)以下の厳しい要求がなされることも珍しくない。このような周波数安定度の高い水晶発振器は、非常に高価であり、かつ運用期間中に対して、許容値内の周波数変動量に抑えるために、変動量の大きい経年変化に対する周波数変動量をどのように抑制するかが大きな課題となっている。
【0006】
ここで、特許文献1に開示の技術には、高価な水晶発振器を使用することなく、簡単な操作で、経年変化に対する周波数変動を迅速かつ正確に調整する方法が提案されている。しかしながら、この技術による周波数調整方法では、保守者が、周波数調整を実施するために外部計測器を持って無線基地局の設置場所まで行かなければならない。また、実際の周波数調整作業時には、無線基地局の状態を一旦テストモードに設定変更する必要があり、よって無線基地局の運用状態に大きな影響を与えることになる。
【0007】
そこで、水晶発振器の出力周波数変動を自動的に補正する技術が、特許文献2に開示されている。この技術では、GPS(Global Positioning System )による高精度の基準周波数を利用して、電圧制御発振器の出力周波数をカウンタで係数して、この計数値と期待値との差を検出し、その差をなくす様に、電圧制御発振器の制御電圧を生成するものである。
【0008】
【特許文献1】特開平4−275731号公報
【特許文献2】特開平8−056153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献2の技術では、電圧制御発振器の周波数が期待値よりも増大した場合には、自動的に電圧制御発振器の出力周波数を制御することができるが、逆に、電圧制御発振器の周波数が期待値よりも減少した場合には、カウンタの計数値が期待値まで到達しないので、電圧制御発振器の出力周波数を制御することができない。
【0010】
本発明の目的は、発振器の出力周波数が増加した場合にも減少した場合にも、自動補正を可能として、常に出力周波数の精度を一定の範囲内に維持することが可能な周波数補正回路及びそれを用いた無線通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による周波数補正回路は、発振器の出力周波数を補正する周波数補正回路であって、前記発振器の出力周波数よりも高精度の基準周波数を、前記出力周波数を分周した分周周期毎に計数するカウンタと、前記出力周波数が正常な時の前記カウンタの計数値に相当する正常値に対して所定値を加算した値と前記カウンタの計数値とを比較して一致したときに前記出力周波数の減少を示す信号を生成する第一の比較手段と、前記正常値に対して所定値を減算した値と前記カウンタの計数値とを比較する第二の比較手段と、前記第二の比較手段の一致結果に応答してこの一致結果を所定時間マスクするためのマスク信号を生成するマスク手段と、前記第一の比較手段の前記減少を示す信号に応じて前記発振器の周波数を増加方向に制御し、前記マスク信号の非生成時に前記発振器の周波数を減少方向に制御する制御手段とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明による無線通信装置は、上記の周波数補正回路を内蔵の水晶発振器の補正回路として使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発振器の出力周波数の期待値に対する上下変動を検出することにより、常に出力周波数の精度を一定の範囲内に維持することが可能なになるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態の構成を示す回路図である。図1を参照すると、本発明の実施の形態による周波数補正回路は、CPU(Central Processing Unit )1と、水晶発振器2と、分周回路3と、エッジ検出回路4と、カウンタ5と、ラッチ回路6と、比較回路7及び8と、加算回路9と、減算回路10と、単安定マルチバイブレータ11と、制御回路12と、周波数変換回路13と、受信回路14とを備えいてる。
【0015】
CPU1は、制御回路12の出力に基づいて水晶発振器2の制御を行う。水晶発振器2は、その出力周波数が制御されるべき発振器であり、その出力は出力端子23に導出される。なお、水晶発振器2は、CPU1からのディジタル制御信号に従って出力周波数を調整するように動作するものである。分周器3は、水晶発振器2の出力周波数を所望の周波数に分周する。
【0016】
エッジ検出回路4は、分周回路3の分周出力の立上がりエッジを検出する。カウンタ5は、エッジ検出回路4の出力によりリセットされ、クロックパルスを計数する。受信回路14は、GPS信号入力端子21に引加されてGPSからの高精度信号を受信する。周波数変換回路13は、受信回路12で受信した信号の周波数を変換して、カウンタ5のクロック入力とすると共に、ラッチ回路6へも供給する。ラッチ回路6は、カウンタ5からのnビットの計数値を、スイッチ入力端子22からの制御信号に応答して、クロックパルスに同期して記憶する。
【0017】
加算回路9は、ラッチ回路6の記憶値に対して一定値を加算し、減算回路10は、ラッチ回路6の記憶値に対して一定値を減算する。比較回路7は、カウンタ5のからのnビットの計数値と加算回路9からのnビットの計数値とを比較する。比較回路8は、カウンタ5からのnビットの計数値と減算回路10からのnビットの計数値とを比較する。単安定マルチバイブレータ11は、比較回路8からの出力をトリガとして、所定時間だけ、一定の出力レベル(“0”か“1”)状態を維持するリトリガブルな回路である。
【0018】
制御回路12は、比較回路7及び単安定マルチバイブレータ11からの信号に応じて、CPU1への設定制御信号を生成する。なお、端子22は、ラッチ回路6及び制御回路12の動作制御を行うスイッチ入力端子である。
【0019】
図2は、図1の周波数変換回路13の構成例を示す回路図である。図2において、入力端子31には、受信回路14(図1参照)からの基準となる入力信号が印加される。この入力信号は、分周回路33により、所望の周波数に分周される。この分周出力は、位相比較器34により、他の分周器37の出力と位相比較される。この位相比較結果は、フィルタ35により、不要な高周波成分が除去されて直流信号に変換される。フィルタ35からの直流信号は、電圧制御発振器36の制御信号となり、この出力周波数が出力端子32から導出されて、エッジ検出回路4、カウンタ5及びラッチ回路6へ供給される。
【0020】
電圧制御発振器36からの出力信号は、分周回路37により所望の周波数に分周される。なお、この図2に示した周波数変換回路13は、周波数変換の必要性がない場合には削除しても良いものである。
【0021】
以下に、本発明の動作について、図3〜図5を参照して具体例を用いつつ説明する。先ず、図3を参照すると、水晶発振器2の出力周波数が正常な場合の動作を示す図である。例えば、水晶発振器2の出力周波数が10MHzであるとし、分周回路3で10の7乗の分周がなされて1Hzになるとする。そして、加算回路9及び減算回路10での加算値及び減算値を共に“M”とする。同時に、GPS信号入力端子21から入力される信号を受信回路12で受信し、周波数変換回路13にて1GHzに変換される場合を考える。
【0022】
図3において、水晶発振器2の出力周波数が正常である場合、カウンタ5のリセット入力端子(R)には、エッジ検出回路4から1Hz周期の信号が入力され、この信号によりカウンタ5はリセットされる。また、カウンタ5のクロック(CLK)入力端子には、周波数変換回路13からの1GHzのクロック信号が入力される。
【0023】
すなわち、カウンタ5は、水晶発振器2の分周出力の周期である1Hz毎に、周波数変換回路13の出力パルス(基準パルスとなる)を計数するものである。従って、水晶発振器2の出力周波数が正常な場合、カウンタ5は計数値が“0”から“109 −1”までカウントアップした後にリセットされて計数値が“0”に戻り、再び“109 −1”までカウントアップする動作を繰返している。図3の“N”が“109 −1”に相当する。
【0024】
水晶発振器2の出力周波数が正常である時に、スイッチ端子22による制御信号により、ラッチ回路6に水晶発振器2の出力周波数が正常である時のカウンタ5の計数値、すなわち正常値“N”を書込む。そして、この正常値を書込んだ後は、スイッチ端子22からの制御により、ラッチ回路6を書込み禁止状態に設定する。加算回路9では、ラッチ回路6でラッチした正常値に“M”を加算し、減算回路10では、ラッチ回路6でラッチした正常値から“M”を減算する。
【0025】
図3は、“M”を“50”に設定した場合の動作を示している。水晶発振器2の出力周波数が正常な場合、ラッチ回路6の正常値に50を加算した計数値までカウンタ5がカウントすることはないので、比較回路7での比較結果が一致することはない。このとき、比較回路7の出力はローレベルの“0”を示している。また、ラッチ回路6の正常値に50を減算した計数値までは、カウンタ5は毎回カウントするために、比較回路8からは特定の周期毎に一致信号が発生する。なお、図3では、一致信号を、例えば、ハイレベルである“1”のパルスとして示している。
【0026】
この比較回路8からの一致信号により、単安定マルチバイブレータ11にトリガをかけ、この単安定マルチバイブレータの時定数で定まる所定時間だけ、強制的に不一致状態にして、比較回路8の一致信号をマスクする。この場合、図3では、単安定マルチバイブレータ11のマスク信号をハイレベルの“1”として示している。従って、水晶発振器2の出力周波数が正常である場合には、制御回路12は、このハイレベルのマスク信号を検知して、自動補正機能を動作させないように動作する。この単安定マルチバイブレータ11の時定数により定まる所定時間は、比較回路8の一致信号によりリトリガされて必ずマスク信号が生成されるに十分な時間とする。
【0027】
一方、図4に示す様に、水晶発振器2の出力周波数が減少方向に変動した場合には、カウンタ5をリセットするエッジ検出回路4からの信号が1Hz周期以上になるために、カウンタ5の計数値は“109 −1”より大きくなる。水晶発振器2の出力周波数が減少方向に変動し続けた場合、カウンタ5の計数値が“(109 −1)+50”になると、比較回路7での比較結果が一致することになる。
【0028】
比較回路7は、水晶発振器2の出力周波数が減少方向に変動したことを示す信号(図では、ハイレベルの“1”として示している)を制御回路12に送り、制御回路12はCPU1に対して水晶発振器2へのディジタル制御信号を周波数増加方向に制御するように指示を出す。この場合、“M”を“50”に設定したので、水晶発振器2の出力周波数が−50ppbまで変動した時に、自動補正機能が動作することになる。
【0029】
次に、図5に示す様に、水晶発振器2の出力周波数が増加方向に変動した場合には、カウンタ5をリセットするエッジ検出回路4からの信号が1Hz周期以下になるために、カウンタ5の計数値は“109 −1”より小さくなる。水晶発振器2の出力周波数が増加方向に変動し続けた場合、カウンタ5の計数値が“(109 −1)−50”以下(図では、“N−55”としている)になると、比較回路8での比較結果が一致しなくなり、ローレベルである“0”の信号出力され続けることになる。従って、以後は、比較回路8からのハイレベルの一致信号が発生しなくなり、単安定マルチバイブレータ11にはトリガもリトリガもかからなくなる。
【0030】
よって、所定時間後に、単安定マルチバイブレータ11の出力が変化して、ローレベルである“0”の信号が出力され続けて、周波数が増加方向に変動したことを示す信号として制御回路12に送られる。制御回路12は、CPU1に対して水晶発振器2へのディジタル制御信号を周波数減少方向に制御するように指示を出す。この場合、“M”を“50”に設定しているので、水晶発振器2の出力周波数が+50ppbまで変動した時に自動補正機能が動作することになる。
【0031】
このように、無線基地局など、水晶発振器が自走して動作するネットワーク環境下で使用された場合であっても、水晶発振器の出力周波数変動を高精度で検出し、出力周波数精度を一定量(±Mppb)以下に保つように出力周波数を自動補正することが可能になる。また、本自動補正機能を持たせることで、水晶発振器の周波数安定度も必要以上に高精度であることはなく、水晶発振器の原価低減にもつながることになる。
【0032】
なお、上記実施の形態においては、GPS受信パルスを基準信号パルスとして用いているが、これに限らず、補正されるべき発振器よりも、より高い周波数でより高精度の信号パルスを用いることができる。また、本発明は、無線基地局の水晶発振器の周波数補正回路に適用できることは勿論であるが、広く無線通信装置における内蔵発振器の周波数補正回路に適用できることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態の構成を示す回路図である。
【図2】図1の周波数変換回路13の具体例を示す回路図である。
【図3】本発明の実施の形態の動作を説明するための図であり、発振周波数が正常な場合のものである。
【図4】本発明の実施の形態の動作を説明するための図であり、発振周波数が減少した場合のものである。
【図5】本発明の実施の形態の動作を説明するための図であり、発振周波数が増加した場合のものである。
【符号の説明】
【0034】
1 CPU
2 水晶発振器
3 分周器
4 エッジ検出回路
5 カウンタ
6 ラッチ回路
7,8 比較回路
9 加算回路
10 減算回路
11 単安定マルチバイブレータ
12 制御回路
13 周波数変換回路
14 受信回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振器の出力周波数を補正する周波数補正回路であって、
前記発振器の出力周波数よりも高精度の基準周波数を、前記出力周波数を分周した分周周期毎に計数するカウンタと、
前記出力周波数が正常な時の前記カウンタの計数値に相当する正常値に対して所定値を加算した値と前記カウンタの計数値とを比較して一致したときに前記出力周波数の減少を示す信号を生成する第一の比較手段と、
前記正常値に対して所定値を減算した値と前記カウンタの計数値とを比較する第二の比較手段と、
前記第二の比較手段の一致結果に応答してこの一致結果を所定時間マスクするためのマスク信号を生成するマスク手段と、
前記第一の比較手段の前記減少を示す信号に応じて前記発振器の周波数を増加方向に制御し、前記マスク信号の非生成時に前記発振器の周波数を減少方向に制御する制御手段とを含むことを特徴とする周波数補正回路。
【請求項2】
前記マスク手段は、前記第二の比較手段の比較結果によりトリガされるリトリガブルの単安定マルチバブレータであることを特徴とする請求項1記載の周波数補正回路。
【請求項3】
前記基準周波数は、GPS(Global Positioning System )受信手段により得られる基準パルスを利用したものであることを特徴とする請求項1または2記載の周波数補正回路。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の周波数補正回路を、内蔵の水晶発振器の補正回路として使用したことを特徴とする無線通信装置。
【請求項5】
移動通信システムにおける無線基地局であることを特徴とする請求項4記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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