説明

四分の一波長板を有する光学製品およびその製造方法

【課題】基材と高分子物質層との間の界面で起こる干渉縞現象が抑制され、経時的に、特に、光分解に対して安定である、眼用レンズ等の光学製品を提供する。
【解決手段】有機またはミネラルガラス基材1と透明高分子物質層3とを有する光学製品であって、基材の一つの主面に直接接触する少なくとも一つの中間層2と、高分子物質層とを有し、中間層が少なくとも一つのコロイド状ミネラル酸化物の粒子と、任意にバインダとを有し、中間層が初期空隙を有し、中間層の初期空隙が高分子物質層からの物質または基材が有機ガラスである場合には基材の物質で充填され、バインダが存在する場合には部分的にバインダで充填されてもよく、中間層が初期空隙の充填の後に、400〜700nm、好ましくは450〜650nmの範囲の波長で、それぞれ四分の一波長板2となる光学製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、高屈折率(nD 25=1.5以上、好ましくは1.55以上)の合成樹脂またはミネラルガラス製の透明基材と、少なくとも一つの耐擦傷性塗膜または下塗層および耐擦傷性塗膜等の透明基材と、前記基材と前記透明塗膜との間に挿入された四分の一波長板層とを有する、光学製品、例えば、眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐衝撃性、耐擦傷性、反射防止性等の種々の有利な特性を製品に与えるために、1以上の塗膜が、眼用レンズ等の合成樹脂またはミネラルガラス製の透明基材の主面上に形成されている。
【0003】
したがって、一般に、基材の少なくとも一方の面には、耐擦傷性層が、直接に、または、一般にレンズの耐衝撃性を改良する層であり、耐擦傷性層が塗布されてもよい下塗層とともに、塗布される。下塗層は、基材の面上のそのような耐擦傷性層のアンカリングを改良する。最後に、前記耐擦傷性層に耐反射塗膜が塗布されてもよい。
【0004】
一般に、基材と耐擦傷性層または下塗層とは、異なる屈折率を有し、その結果、基材と耐擦傷性層または下塗層との間の界面でのそのような屈折率の差異のため、干渉縞が発生する。
【0005】
特許文献1には、高屈折率(≧1.55)の合成樹脂製の基材を有するレンズであって、その一方の面に、屈折率が基材のとは異なる誘電体の耐擦傷性層が塗布され、基材と耐擦傷性層との間の界面での反射を抑制するために、基材と耐擦傷性層との間に塗布される、少なくとも一つの誘電体または金属物質の耐反射層を有するレンズが記載されている。
【0006】
前記耐擦傷性層は、SiO2の層である。
【0007】
挿入された耐反射層は、四分の一波長板であり、SiO2 と酸化アルミニウムとが混合された単層、または、SiO2 の1層とZrO2 、HfO2 、Ti23 、TiO2 、Ta25、Si34 、Yb23、Y23 およびAl23の中から選ばれる物質からなる第2層との2層により構成される。
【0008】
そのような耐反射層および耐擦傷性層は、真空蒸着により得られる。
【0009】
現在、耐擦傷性下塗および塗膜層を形成させるために、ワニスが用いられる。即ち、金属酸化物層および/または酸化ケイ素層のような、本質的にミネラルの性質を有する層とは異なって、主に有機物質である組成物である。
【0010】
更に、工業的な眼用レンズの製造工程においては、そのようなワニス層の塗布は、ワニス溶液または分散液の浴に浸せきさせ、または、基材の一方の面に遠心力でワニス溶液または分散液を被覆させることにより、行われる。
【0011】
仮に、ワニスと有機ガラス基材の屈折率が一致しないとすると、即ち、仮に、屈折率が有意に異なるとすると、干渉縞現象がまた、基材とワニスとの間の界面で現れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,609,267号明細書
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明の目的は、有機またはミネラルガラス基材と、少なくとも一つの、例えば、下塗層または耐擦傷性塗膜層等の透明高分子物質層とを有し、基材と高分子物質層との屈折率の差異に関連し、基材と高分子物質層との間の界面で起こる干渉縞現象が有意に抑制されている、眼用レンズ等の光学製品を提供することである。本発明の別の目的は、経時的に、特に、光分解に対して安定である、光学製品を提供することである。
【0014】
本発明の更に別の目的は、従来の製造方法の中に容易に組み入れることができ、特に、真空塗布またはその他の処理工程が、光学製品の製造方法において中断となるのを可能な限り防止する、後に規定するような光学製品の製造方法を提供することである。
【0015】
上述した目的は、有機またはミネラルガラス基材と、光学的に透明な高分子物質層とを有する、本発明の光学製品、例えば、眼用レンズ、特に、眼鏡用レンズにより達成される。本発明は、基材の一方の面に直接接触する少なくとも一つの中間層と、高分子物質層とを有し、中間層が少なくとも一つのコロイド状ミネラル酸化物の粒子と、任意にバインダとを有し、中間層が初期空隙を有し、中間層の初期空隙が高分子物質層からの物質または基材が有機ガラスである場合には基材の物質で充填され、バインダが存在する場合には部分的にバインダで充填されてもよく、中間層が初期空隙の充填の後に、400〜700nm、好ましくは450〜650nmの範囲の波長で、それぞれ四分の一波長板となることを特徴とする。
【0016】
本発明は、上記で規定したような光学製品を製造する方法であって、
a)透明支持体の少なくとも一つの主面の上に、任意にバインダを含有していてもよい少なくとも一つのコロイド状ミネラル酸化物のゾルの浸せき塗布または遠心法およびゾルの乾燥により、初期空隙を有する少なくとも一つの中間層を形成させる工程と、
b)そのような中間層を、光学的に透明な高分子物質層または有機ガラス基材の上に形成させる工程とを有し、
中間層の初期空隙が前記層の高分子物質または工程b)で形成された基材物質で充填されており、かつ、部分的に中間層のバインダで充填されていてもよく、それにより、中間層が初期空隙の充填の後に、波長400〜700nm、好ましくは450〜650nmの範囲で、四分の一波長板となる方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の四分の一波長板を有する光学製品の実施態様の概略図である。
【図2】図2は、本発明の四分の一波長板を有する光学製品の他の実施態様の概略図である。
【図3】図3は、本発明の四分の一波長板を有する光学製品の更に他の実施態様の概略図である。
【図4】図4は、本発明の二つの四分の一波長板を有する光学製品の実施態様の概略図である。
【図5】図5は、本発明の光学製品の製造方法のフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の光学製品の製造方法の第一の実行の概略図である。
【図7】図7は、本発明の光学製品の製造方法の第二の実行の概略図である。
【図8】図8は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図9】図9は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図10】図10は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図11】図11は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図12】図12は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図13】図13は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図14】図14は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図15】図15は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図16】図16は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図17】図17は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図18】図18は、本発明の光学製品、および、比較を目的とする、四分の一波長中間層を有しない同様の光学製品の波長の目的である反射率のグラフである。
【図19】図19は、本発明の光学製品の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一般に、中間層の初期空隙は、バインダが存在しない場合において、中間層の全体積に対して、体積で少なくとも40%の割合を占める。
【0019】
好ましくは、空隙率は、中間層にバインダが存在しない場合において、体積で少なくとも50%の割合を占める。
【0020】
中間層がバインダを有する場合、そのような層の実際の空隙、即ち、バインダに占められた体積を考慮した、上述した層の高分子物質により充填される前の空隙は、中間層の全体積に対して、体積で好ましくは25%、より好ましくは30%である。
【0021】
中間層が上に設けられる支持体は、有機またはミネラル基材で形成されていてもよく、好ましくは、あらかじめ形成された光学レンズのような、有機ガラスであり、また、有機またはミネラルガラス基材に適用されまたは移送されるように設計された光学的に透明な高分子物質層となる、少なくとも一つの塗膜を有する成形部分の主成形面であってもよい。
【0022】
後者の場合においては、基材が有機ガラス製の場合は、モールド中の液状重合性組成物のキャストトランスファーおよび重合によりその場で成形され、その後、基材により、ミネラル酸化物中間層において空隙が確実に充填される。
【0023】
充填高分子物質層は、20mJ/m2 以上、好ましくは25mJ/m2 以上、より好ましくは30mJ/m2 以上の表面力エネルギーを有する。
【0024】
表面力エネルギーは、”Estimation of the surface force energy of polymers” Owens D.K.,Wendt R.G.(1969),J.APPL.POLYM.SCI,13,1741−1747に記載されているOwens−Wendt法に従って計算される。
【0025】
充填高分子物質を導く組成物は、本質的に一つの(またはそれより多い)非フッ素化合物を有する。
【0026】
好ましくは、充填高分子物質を導く組成物は、前記組成物の乾燥抽出物(1)を形成する化合物の全重量に対して、少なくとも80%の非フッ素化合物を有する。より好ましくは重量で少なくとも90%、最も好ましくは重量で少なくとも95%、更により好ましくは重量で100%である。
【0027】
典型的には、充填高分子物質におけるフッ素量(重量)は、重量で5%未満、好ましくは重量で1%未満、より好ましくは重量で0%である。
【0028】
四分の一波長板(充填後)の空隙は、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満、最も好ましくは0%である。
【0029】
充填後、充填物質は、基材表面に接触し(充填物質が基材のものでなく、下塗層または耐摩耗層等の他の層のものである場合)、四分の一波長板の基材への接着を得ることを可能とする。
【0030】
本発明においては、乾燥抽出物は、100℃で15分間加熱した後に残存している固形物の重量分を意味する。
【0031】
中間層空隙の充填を確実にする高分子物質層が基材を構成しない場合、そのような層は、一般に、浸せき塗布または遠心法により、好ましくは遠心法により、形成される。
【0032】
開示の残りは、添付の図面に言及する。
【0033】
四分の一波長板の光学的または幾何学的特性は、下記関係により与えられる。
【0034】
n=(ns×nv1/2
n.e=λ/4
【0035】
ここで、nは、四分の一波長板の25℃における波長λ=550nmに対する屈折率(眼の極大の感受性に相当する波長)であり、
sは、基材の25℃における波長λ=550nmに対する屈折率であり、
vは、四分の一波長板に直接接触している高分子物質層の25℃における波長λ=550nmに対する屈折率である。
【0036】
換言すると、四分の一波長板の屈折率nは、それを取り巻く物質の屈折率の幾何学的平均である。
【0037】
図1において、光学的に透明な基材1、例えば、有機ガラスを有する、本発明の光学製品の概略が図示されている。基材1の主面の一つは、バインダなしで、体積で少なくとも40%の空隙と適当な厚さとを有する、少なくとも一つのコロイド状ミネラル酸化物の層を塗布されている。耐擦傷性塗布層3は、コロイド状ミネラル酸化物の層で形成されており、それにより、コロイド状ミネラル酸化物の層の初期空隙、またはバインダが存在する場合は現実の空隙が充填され、四分の一波長板2が達成されている。
【0038】
図2は、耐衝撃性下塗層4がコロイド状ミネラル酸化物層と耐擦傷性塗布層3との間に挿入されている点で、図1の光学製品と異なる光学製品を概略的に図示している。その場合、酸化物層の初期または現実の空隙は、明らかに四分の一波長板2を形成する下塗層物質により充填されている。
【0039】
基材の屈折率nsおよび耐擦傷性層または下塗層の屈折率nv(例えば、25℃、λ=550nmで)が分かれば、後述する式により、原理的に四分の一波長板の厚さeと屈折率nとを決定することができる。
【0040】
このようにして、下記第1表に、種々の基材と耐擦傷性層または下塗層との組み合わせに対する四分の一波長板の厚さおよび屈折率特性が示される。
【0041】
【表1】

【0042】
図3は、図2と同様の本発明の光学製品であるが、耐擦傷性塗膜3の上に形成された耐反射塗膜5を付加的に有している。
【0043】
図4は、図1と同様の本発明の光学製品であるが、二つの四分の一波長中間層2a、2bを有している。極めて明らであるが、そのような積層された二つの中間層は、図2および図3に示されている光学製品にも作ることができる。
【0044】
本発明の製品のために適した基材は、ミネラルまたは有機ガラス製、好ましくは有機ガラス製の光学的に透明な基材のいかなるものであってもよい。
【0045】
そのような基材に適切なプラスチック物質としては、カーボネート、(メタ)アクリル、チオ(メタ)アクリル、PPGにより市販されている物質CR39(R) 等のジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ウレタン、チオウレタン、エポキシド、エピスルフィドおよびこれらの組み合わせの単独または共重合体が含まれる。
【0046】
基材として好ましい物質は、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、ポリウレタン、(メタ)アクリルおよびチオ(メタ)アクリルポリマーである。
【0047】
一般に、基材は、1.55から1.80、好ましくは1.60から1.75の範囲の屈折率nD25を有する。
【0048】
中間層2または2a、2bは、SiO2、TiO2 、ZrO2 、SnO2 、Sb23 、Y23 、Ta25 およびこれらの組み合わせの中から一般に選ばれるコロイド状ミネラル酸化物を少なくとも有する。
【0049】
好ましいコロイド状シリカは、ストーバ法により調製されるシリカである。ストーバ法は、単純でよく知られた方法であり、アンモニアを触媒とする、エタノール中でのテトラエチルシリケート(Si(OC254 、即ち、TEOS)の加水分解および濃縮を含む。この方法により、エタノール中で直接に、ある程度、単分散粒子群であるシリカを得ることができ、シリカは粒径を制御可能であり、粒子表面は(SiO- NH4+ )である。
【0050】
コロイド状ミネラル酸化物の混合物の場合、混合物が、少なくとも一つの屈折率が高い、即ち、nD25≧1.54である酸化物と、少なくとも一つの屈折率が低い、即ち、nD25<1.54である酸化物とを有するのが好ましい。好ましくは、ミネラル酸化物混合物は、2種混合物であり、特に、屈折率が低い酸化物と屈折率が高い酸化物との2種混合物である。一般に、屈折率が低い酸化物/屈折率が高い酸化物の重量比の範囲は、20/80から80/20、好ましくは30/70から70/30、より好ましくは40/60から60/40である。
【0051】
ミネラル酸化物の粒径の範囲は、一般に、10から80nm、より好ましくは30から80nm、最も好ましくは30から60nmである。
【0052】
特に、ミネラル酸化物は、小さい粒子、即ち、10から15nmの範囲と、大きい粒子、即ち、30から80nmの混合物で構成されていてもよい。
【0053】
典型的には、コロイド状ミネラル酸化物の層2または中間層2a、2bのそれぞれは、60から100nm、好ましくは70から90nm、より好ましくは80から90nmの範囲の厚さを有する。ただし、物質が干渉縞が抑制された最適な結果のために光学製品に用いられることを考慮すると、そのような厚さは、四分の一波長板の理論的な厚さにできるだけ近い方がよい。
【0054】
コロイド状ミネラル酸化物層は、任意に、高分子物質層により充填される前において、例えば、ミネラル酸化物の層の乾燥重量に対して、重量で1から30%の少なくとも一つのバインダを有する。好ましくは重量で10から25%であり、より好ましくは10から20%である。
【0055】
バインダは、一般に、最終の四分の一波長板の光学特性を損なわせず、かつ、基材表面上のミネラル酸化物粒子の密着および粘着を増加させる高分子物質である。
【0056】
バインダは、一般に、後述する耐衝撃性下塗組成物と同様の物質である。
【0057】
好ましいバインダは、ポリウレタンラテックスおよび(メタ)アクリルラテックスであり、より好ましくはポリウレタンラテックスである。
【0058】
上記で示したように、コロイド状ミネラル酸化物の中間層またはそのそれぞれは、バインダがなく、かつ、下塗または耐擦傷性層の高分子物質により充填される前において、層の全体積に対して、少なくとも体積で40%、好ましくは体積で50%のオーダーの空隙率を有する。
【0059】
下塗層がある場合は、光学分野、特に、眼の分野で従来用いられているどのような下塗層であってもよい。
【0060】
典型的には、そのような下塗、特に、耐衝撃性下塗は、(メタ)アクリルポリマー、ポリウレタン、ポリエステルに基づく塗膜、または、エポキシ/(メタ)アクリレート共重合体に基づく塗膜である。
【0061】
(メタ)アクリルポリマーに基づく耐衝撃性塗膜は、中でも、米国特許第5,015,523号明細書および同5,619,288号明細書に開示されているが、熱可塑性および架橋ポリウレタン樹脂に基づく塗膜は、中でも、特開昭63−141001号公報および特開昭63−87223号公報、欧州特許第040,411号明細書ならびに米国特許第5,316,791号明細書に開示されている。
【0062】
特に、本発明による耐衝撃性下塗塗膜は、ポリ(メタ)アクリルラテックスから製造されていてもよく、例えば、仏国特許出願第2,790,317号明細書に開示されている、ポリウレタンラテックスまたはポリエステルラテックスから製造されるもののようなコア−シェル型を含む。
【0063】
特に好ましい耐衝撃性下塗塗膜組成物としては、商品名A−639の下でゼネカ(Zeneca)から市販されているアクリルラテックス、ならびに、商品名W−240およびW−234の下でバクセンデン(Baxenden)から市販されているポリウレタンラテックスが挙げられる。
【0064】
ラテックスは、好ましくは、粒径が≦50nmであるものから選ばれ、より好ましくは≦20nmである。
【0065】
一般に、硬化後、耐衝撃性下塗層は、0.05から20μm、好ましくは0.5から10μm、より好ましくは0.6から6μmの厚さを有する。最適な厚さの範囲は、一般に、0.5から2μmである。
【0066】
耐擦傷性塗膜は、光学分野、特に、眼の分野で従来用いられているどのような耐擦傷性塗膜であってもよい。
【0067】
当然のことながら、耐擦傷性塗膜は、完成した光学製品の耐擦傷性を、耐擦傷性塗膜を有しない同様の製品に比べて、向上させる塗膜である。
【0068】
好ましい耐擦傷性塗膜は、1以上のアルコキシシラン(好ましくは1以上のエポキシアルコキシシラン)またはその加水分解物を含有する組成物の硬化により得られるものであり、好ましくは、コロイド状酸化物充填剤等のミネラルコロイド状充填剤である。
【0069】
特定の態様によれば、好ましい耐擦傷性塗膜は、1以上のエポキシアルコキシシランまたはその加水分解物と、シリカと、硬化触媒とを含有する組成物の硬化により得られるものである。そのような組成物の例は、国際公開第94/10230号パンフレット、米国特許第4,211,823号および同第5,015,523号明細書、ならびに、欧州特許第614,957号明細書に開示されている。
【0070】
特に好ましい耐擦傷性塗膜組成物は、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)等のエポキシアルコキシシランと、例えば、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)等のジアルキルジアルコキシシランと、コロイド状シリカと、アルミニウムアセチルアセトネート等の硬化触媒の触媒量、または、これらの成分の加水分解物を、主成分として含有し、組成物の平衡は、そのような組成物を形成するために従来用いられている溶媒と、任意に用いられる1以上の界面活性剤との中で、実質的に構成される。
【0071】
耐擦傷性塗膜の接着性を改善するために、特に、塗布された基材がインモールド金型鋳造またはIMCを用いて製造された場合には、耐擦傷性塗膜組成物は、任意に、効果的な量のカップリング剤を含有してもよい。
【0072】
そのようなカップリング剤は、典型的には、エポキシアルコキシシランと、好ましくは末端エチレン二重結合を有する、不飽和アルコキシシランとのあらかじめ濃縮された溶液である。
【0073】
エポキシアルコキシシランの例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルペンタメチルジシロキサン、γ−グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、(γ−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメトキシエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジイソプロピルエトキシシランおよび(γ−グリシドキシプロピル)ビス(トリメチルシロキシ)メチルシランが挙げられる。
【0074】
好ましいエポキシアルコキシシランは、(γ−グリシドキシプロピル)トリメトキシシランである。
【0075】
不飽和アルコキシシランは、ビニルシラン、アリルシラン、アクリルまたはメタクリルシランであってもよい。
【0076】
ビニルシランの例としては、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス−イソブトキシシラン、ビニルトリス−t−ブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニル−ビス(トリメチルシロキシ)シランおよびビニルジメトキシシランが挙げられる。
【0077】
アリルシランの例としては、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシランおよびアリルトリス(トリメチルシロキシ)シランが挙げられる。
【0078】
アクリルシランの例としては、3−アクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシランおよびn−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0079】
メタクリルシランの例としては、3−メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメトキシシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−メタクリロキシプロペニルトリメトキシシランおよび3−メタクリロキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシランが挙げられる。
【0080】
好ましいシランは、アクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
【0081】
典型的には、耐擦傷性塗膜組成物に導入されるカップリング剤の量は、組成物の総重量に対して、重量で0.1から15%であり、好ましくは1から10%である。
【0082】
耐擦傷性塗膜の厚さの範囲は、硬化後において、通常、1から15μmであり、好ましくは2から6μmである。
【0083】
耐衝撃性下塗および耐擦傷性塗膜組成物は、熱および/または照射により硬化することができるが、好ましくは熱である。
【0084】
極めて明らかに、上記で示したように、下塗層または耐擦傷性塗膜層の物質は、コロイド状ミネラル酸化物中間層の空隙まで貫通し、充填している。
【0085】
後述するように、耐衝撃性下塗および耐擦傷性塗膜層は、好ましくは、浸せきまたは遠心法により形成される。したがって、そのような層を形成する組成物は、好ましくはゾル−ゲル組成物である。
【0086】
本発明の光学製品は、任意に、耐擦傷性塗膜の上に形成された耐反射塗膜を有していてもよい。
【0087】
耐反射塗膜は、光学分野、特に、眼の光学分野で従来用いられているどのような耐反射塗膜であってもよい。
【0088】
例として、耐反射塗膜は、単層または複層のフィルムで、SiO、SiO2、Si34 、TiO2 、ZrO2、Al23 、MgF2 もしくはTa25 またはこれらの混合物等の誘電体により構成される。
【0089】
したがって、レンズ−空気の界面で反射が発生するのを防止することができる。
【0090】
そのような耐反射塗膜は、一般に、下記技術の一つに従う真空塗布により設けられる。
−任意にイオンビームを用いる、蒸着
−イオンビームによる蒸発
−スパッタリング
−気相でのプラズマに補助された化学塗布
【0091】
真空塗布に加え、(例えば、テトラエトキシシラン加水分解物からの)ゾル−ゲル法によりミネラル層を設けることについても熟考することができる。
【0092】
フィルムが単層のみを有する場合、その光学厚さは、λ/4(λは450から650nmの範囲の波長)に等しいのが好ましい。
【0093】
3層を有する複層フィルムの場合、λ/4、λ/2、λ/4またはλ/4、λ/4、λ/4のそれぞれの各光学厚さに相当して、組み合わせを用いることができる。
【0094】
更に、上記3層の部分である層のいくつかの代わりに、より多い層により形成された等価のフィルムを用いることができる。
【0095】
図5は、本発明の光学製品の製造方法の主工程のブロック図である。
【0096】
有機またはミネラルガラス製の未被覆の基材、例えば、眼用レンズの表面が、まず、加熱下、例えば、50℃で(3分間)、5%ソーダ溶液に浸せきされて処理され、その後、水およびアルコールにより洗浄される。
【0097】
ついで、コロイド状ミネラル酸化物ゾルへの浸せきまたはゾル遠心分離法、好ましくは浸せき塗布が行われ、基材の処理表面をコロイド状ミネラル酸化物層で被覆する。
【0098】
浸せき塗布の場合、塗布厚さは、ゾル固形分量、粒径および不濡れ率(Landau−Levich則)に依存する。したがって、ゾル組成物、粒径、基材および下塗または耐擦傷性塗膜の屈折率を知ることにより、コロイド状ミネラル酸化物層の所望の厚さおよび所望の厚さを得るための不濡れ率を決定することができる。
【0099】
塗布された層が乾燥した後、空隙を有するコロイド状ミネラル酸化物層が、所望の厚さで得られる。層の空隙率は、重要な因子であり、バインダが存在しない場合、少なくとも体積で40%、好ましくは少なくとも体積で50%であるのが好ましく、また、バインダが存在する場合、少なくとも体積で25%、好ましくは少なくとも体積で30%であるのが好ましい。層の空隙率は、偏光解析法により測定された層の屈折率から算出することができる。
【0100】
塗布後の層の乾燥は、20から130℃、好ましくは20℃から120℃の範囲の温度で、行うことができる。
【0101】
好ましくは、乾燥は、室温(20−25℃)で行われる。
【0102】
バインダを有しない層の場合
空隙を有するコロイド状ミネラル酸化物層の空隙率は、以下のとおりである。
p=Vp/(Vc+Vp)
ここで、Vpは層中に含まれる空隙の体積であり、Vcは層中のミネラル酸化物により占められる体積である。
【0103】
層の空隙率pは、ここでは、バインダの存在しない空隙率と等しい。
【0104】
空隙率pの値は、屈折率:
−(偏光解析法により測定される)空隙を有するミネラル層の屈折率n、
−(種々の酸化物が用いられた場合の任意に混合される)ミネラル酸化物粒子の平均屈折率nc
および関係式:
2 =p+nc2 (1−p)
から求められる。ここで、空隙が空気で充填されていると仮定したときのpは空隙の体積のフラクションであり、1−pはミネラル酸化物の体積のフラクションである。
【0105】
屈折率は、25℃において波長632nmで決定される。
【0106】
バインダを有する層の場合
層の空隙率pは、下記関係式から算出される。
(1)n2 =p+xcc 2 +xlnλ2
ここで、nは、空隙を有するミネラル酸化物層の屈折率であり、pは層の空隙率=Vp/Vtotalであり、xcは層中のミネラル酸化物の体積のフラクションxc=Vc/Vtotalを表し、xlは層中のバインダの体積のフラクションxl=Vλ/Vtotalを表し、Vp、Vc、Vl、Vtotalは、それぞれ、空隙(空気)、ミネラル酸化物、バインダおよび層全体に占められる体積を表し、ncはミネラル酸化物粒子の平均屈折率であり、nlはバインダの屈折率である。
(2)p+xl+xc =1
【0107】
【数1】

【0108】
ここで、dcはミネラル酸化物の密度であり、dlはバインダの密度であり、mlは層中のバインダの乾燥質量であり、mcは層中のミネラル酸化物の乾燥質量である。
【0109】
バインダが存在しない場合の空隙率は、定義p′=p+xl、即ち、バインダ体積が空気で占められたとした場合の層の空隙率により定まる。
【0110】
pおよびp′の値は、nを偏光解析法により測定することにより得られる。ここで、屈折率ncおよびnl は、追加的に知られ、mλ/mc 比は、実験的に決定される。
【0111】
種々の屈折率は、25℃において波長632nmで決定される。
【0112】
第一の態様の方法においては、耐擦傷性塗膜物質は、今度は、浸せき塗布され(または遠心法により塗布され)、その後、例えば、オーブン中、75℃で約210秒間乾燥され、最後に、100℃で3時間、前硬化され、本発明の製品が得られる。
【0113】
もう一方においては、空隙を有するミネラル酸化物層が形成された後、耐衝撃性下塗組成物が浸せき塗布され(または遠心法により塗布され)、ついで、例えば、オーブン中、85℃で乾燥され、その後、上述したように耐擦傷性塗膜が設けられる。
【0114】
最後に、任意に、耐反射塗膜を、耐擦傷性塗膜の上に、従来の方法で設けることができる。
【0115】
図6は、予備成形品の上への移送による、本発明の四分の一波長板の製造の概略図である。
【0116】
図6に示されるように、バインダを有するコロイド状ミネラル酸化物の中間層2が、好ましくは遠心法または浸せき塗布により、好ましくは有機ガラスにより形成された予備成形品1の上に形成される。
【0117】
モールド表面6、好ましくは可撓性のあるモールドの上には、従来の耐反射塗膜層5、耐擦傷性塗膜層4および下塗層3がこの順に形成される。好ましくは、耐反射塗膜層5、耐擦傷性塗膜層4および下塗層3は、乾燥および/または硬化を少なくとも部分的に施される。
【0118】
ついで、中間層2の上または下塗層3の表面の上のいずれか、好ましくは中間層2の上には、十分量の接着物質が塗布され、その後、中間層2を保持する予備成形品1が、モールド6に保持された全層3、4および5に対して圧着される。
【0119】
接着剤が硬化した後、モールド6が除去され、本発明のレンズが得られる。
【0120】
中間層2の空隙率は、ついで、高分子物質層を形成する接着剤7で、中間層2との直接の接触により、充填される。
【0121】
その場合、接着剤層7は、積層3、4、5が、それ自体が基材1と結合している中間層2と接着するのを確実にする。
【0122】
そのような接着剤7は、予備成形品1に保持されている中間層2の上に、遠心法もしくは浸せき塗布法により塗布し、もしくは、積層の最後の層の上に塗布し、または、中間層2を保持する予備成形品1と可撓性のあるモールド6により保持された積層との間に射出することもできる。
【0123】
予備成形品1に保持されている中間層2の上への接着剤の塗布は、好ましい態様である。
【0124】
好ましくは、接着剤7は、照射、例えば、UV照射により硬化することができる有機物質である。
【0125】
接着剤7の粘度が高い場合は、それを加熱して粘度を抑制することにより、貫通、したがって、中間層2の最適な充填を可能とすることができる。加熱温度は、反射積層5の熱劣化を避けるためには高すぎないのが好ましい。
【0126】
形成された四分の一波長板2は、特に、基材1と接着剤7を構成する物質との間の屈折率の差異が高い場合、干渉縞を防止する(最もよくある場合、高い屈折率を有するのは基材1であり、低い屈折率を有するのは接着剤7である。)。
【0127】
形成された接着剤層7よりも高い隣接層4は、一般に、耐衝撃性下塗層である。
【0128】
しかしながら、この場合、接着剤7を構成する物質の組成が、それ自身で耐衝撃性を有するように形成されるよう、考慮することができる。
【0129】
そのような場合、接着剤7は、耐衝撃性下塗の役割も果たし、したがって、耐擦傷性塗膜層4に直接に隣接する。
【0130】
そのような接着剤7は、米国特許第5,619,288号明細書に開示されている物質により作ることができる(UV硬化性アクリレート)。
【0131】
図6においては、四分の一波長板2は、予備成形品の後ろから示されている。これは同様に表側から形成することができる。
【0132】
しかしながら、表側については、四分の一波長板2は、好ましくは図5の関係で示される方法により形成される。
【0133】
モールド6は、固くても、可撓性があってもよいが、好ましくは可撓性がある。
【0134】
固いモールドの使用は、予備成形品の幾何学的表面に適合するように規定される幾何学的表面をそれぞれ有する、多数のモールドを必要とするため、推奨されない。
【0135】
一方、可撓性のあるモールドが用いられる場合は、移送が行われる予備成形品の表面の幾何学的形状、即ち、凸または凹形状に、一般に適合する幾何学的形状の表面を有する単一のモールドが、十分なものである。
【0136】
モールドは、いかなる適切な物質、特に、プラスチック物質、例えば、ポリカーボネートであってもよい。
【0137】
可撓性のあるモールドは、典型的には、0.3から5mmの範囲の厚さを有する。好ましくは、ポリカーボネートで形成され、0.5から1mmの範囲の厚さを有する。
【0138】
図7は、いわゆるIMC法を用いた、本発明の四分の一波長板の製造の概略図である。
【0139】
光学レンズの製造に従来用いられている二つの部分を有するモールドのモールド10aの第一の部分の適切な表面の上に、連続的に後述する順序で、疎水性の高い塗膜6、複層耐反射塗膜5、耐擦傷性硬化塗膜4および/または耐衝撃性下塗層3が従来の方法で形成される。
【0140】
下塗層3の表面の上には、好ましくは遠心法または浸せき塗布により、コロイド状ミネラル酸化物の中間層が、要求される厚さおよび空隙率で、形成される。
【0141】
モールド10a、10bの二つの部分が接着シール11を用いて組み立てられた後、液体モノマー組成物がモールドの空洞に射出される。
【0142】
モノマー組成物を硬化させて基材1を形成させ、解放した後、本発明の製品が得られる。
【0143】
この場合、中間層2の空隙は、基材1を構成する物質により充填される。
【0144】
適切なモノマー組成物は、光学製品、特に、眼用レンズの製造に従来用いられているいかなる組成物であってもよい。
【0145】
図7においては、種々の層が製品の表側に形成されているが、最終のガラスの両側に同様に形成してもよい。
【実施例】
【0146】
後述する実施例においては、特に断らない限り、すべてのパーセンテージおよび部は、重量により表現される。
【0147】
種々の実施例におけるコロイド状比は、乾燥物重量により表現される。
【0148】
実施例に用いられる物質を以下に示す。
1)基材
−ポリカーボネート(PC):帝人またはゼネラル・エレクトリック(General Electric)により市販されているビスフェノールAの単独重合ポリカーボネート
−熱硬化性ポリチオウレタン−屈折率nD25=1.6:三井化学により市販されているMR6
−熱硬化性ポリチオウレタン−屈折率nD25=1.67:三井化学により市販されているMR7
−ポリエピスルフィド−屈折率nD25=1.74:三井化学により市販されているもの
−ミネラルガラス:white Stigmal Essilor−屈折率nD25=1.807
【0149】
2)コロイド状ミネラル酸化物
【0150】
【表2】

【0151】
【表3】

【0152】
【表4】

【0153】
3)下塗
−バクセンデンのW234ポリウレタンラテックス
−仏国特許第2,790,317号明細書に開示されているブチルアクリレート/メチルメタクリレートラテックス(ABu/MMA)
【0154】
4)耐擦傷性塗膜
耐擦傷性塗膜組成物は、42.9部の0.1N塩酸を、135.7部のγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GLYMO)および49部のジメチルジエトキシシラン(DMDES)を含有する溶液に、滴下により添加して調製される。
【0155】
加水分解された溶液は、24時間室温で添加され、ついで、8.8部のアルミニウムアセチルアセトネート、26.5部のエチルセルロース、400部のメタノール中の30%コロイド状シリカおよび157部のメタノールが添加される。
【0156】
その後、少量の界面活性剤が添加される。組成物の理論上の乾燥抽出物は、約10%の加水分解されたDMDESからの乾燥物を含む。
【0157】
5)耐反射塗膜
耐反射塗膜は、存在する場合、後述する連続する層の従来の真空塗布により形成される。
【0158】
【表5】

【0159】
光学厚さは、λ=550nmに対して与えられている。
【0160】
すべての実施例において、示されている空隙率pまたはp′は、充填前の初期空隙である。
【0161】
実施例1ならびに比較例C1およびC2
上述したようにソーダ溶液によりあらかじめ処理された、ポリチオウレタンMR6基材の一つの表面の上に、シリカ(MA−ST)およびTiO2(1130F2)の重量で30/70の混合物の3%メタノール溶液中への浸せき塗布により、コロイド状ミネラル酸化物層が形成される。乾燥後、ミネラル酸化物層の特性は以下のとおりである。
−厚さ:63mm
−屈折率:1.385
−空隙率p=42%
【0162】
その後、連続して、上述した条件での浸せき塗布により、耐衝撃性下塗層(W234)および耐擦傷性塗膜層の形成が行われる。
【0163】
下塗層の厚さは約1μmであり、耐擦傷性塗膜の厚さは約3.5μmである(実施例1)。
【0164】
比較のため、二つのMR6基材の表面の上に、同じ条件での浸せき塗布により、一方では、基材の屈折率に順応する、屈折率1.6の耐擦傷性硬化塗膜層(ポリシロキサン)が形成された(比較例C1)。また、実施例1の場合と同様の下塗層および耐擦傷性硬化塗膜の積層にも形成された(比較例C2)。
【0165】
図8のグラフは、塗布された基材の目的の波長の反射率のグラフである。
【0166】
順応する屈折率の系(C1)の平均反射率の高さは、順応しない系(実施例1およびC2)のそれよりも高いことが分かる。
【0167】
(四分の一波長板が挿入された)実施例1の系においては、比較例C2の系に比べて、縦の振幅が強く抑制されることも分かる。
【0168】
実施例2から4および比較例C3
ポリカーボネート基材Lexan(R) (ゼネラル・エレクトリック)および後述するコロイド状ミネラル酸化物ゾルを用いる以外は、実施例1が繰り返される。
【0169】
【表6】

【0170】
得られたミネラル酸化物層の厚さ、屈折率および空隙率は、後述するとおりである。
【0171】
【表7】

【0172】
比較のため(比較例C3)、実施例1と同様に、ポリカーボネートの同様の基材の上に直接に、下塗および耐擦傷性塗膜層が形成される(上記で規定されるようなバクセンデンのW234PU下塗および耐擦傷性塗膜)。
【0173】
目的とする波長の反射率の結果は、図9のグラフにより表される。
【0174】
実施例5から7
ミネラル酸化物ゾルの中にバインダを、ゾル乾燥抽出物が10%、20%および30%のバインダを含むようになる量で導入する以外は、実施例2が繰り返される。用いられるバインダは、バクセンデンのW−234PUラテックスであり、導入されるバインダのパーセンテージは、ゾルミネラル酸化物の全乾燥重量に対する重量により表される。ゾル組成物および得られたミネラル酸化物の層は、下記表に表される。
【0175】
【表8】

【0176】
*PU W234ラテックスは、ミネラル酸化物重量に対する%である。
【0177】
目的とする波長の反射率の結果は、図10および図11のグラフにより表される。
【0178】
図10においては、実施例5の反射率の結果は、比較例C3および実施例2の結果と直接に比較される。
【0179】
実施例8から10および比較例C4
MR7基材を用い、かつ、後述するミネラル酸化物ゾルを用いる以外は、実施例1が繰り返される。
【0180】
【表9】

【0181】
*PU W234ラテックスは、ミネラル酸化物乾燥重量に対する%である。
【0182】
比較例C4のため、MR7基材が下塗層および耐擦傷性塗膜層を塗布されることによっても調製される。
【0183】
目的とする波長の反射率測定の結果は、図12のグラフにより表される。
【0184】
実施例11から13および比較例C5
ミネラルガラス基材を用い、かつ、後述するミネラル酸化物ゾルを用いる以外は、実施例1が繰り返される。
【0185】
【表10】

【0186】
*PU W234ラテックスは、金属酸化物乾燥重量に対する%である。
【0187】
比較例C5のため、ミネラル基材が下塗層および耐擦傷性塗膜層を直接に塗布されることによっても調製される。
【0188】
目的とする波長の反射率測定の結果は、図13のグラフにより表される。
【0189】
実施例14から19ならびに比較例C6およびC7
下記表に示される基材、ミネラル酸化物ゾルおよび下塗を用いる以外は、実施例1と同様の手順が用いられる。
【0190】
【表11】

【0191】
目的とする波長の反射率の結果は、図14から図15のグラフにより表される。
【0192】
図19は、実施例17の塗布された製品の顕微鏡写真である。
【0193】
実施例20から22および比較例C8
後述する実施例は、二層のミネラル酸化物層の使用を示す。
【0194】
そのような二層のミネラル酸化物層のそれぞれは、実施例1と同様の浸せき塗布により形成される。下塗および耐擦傷性塗膜は、実施例1と同一であり、同様に製造される。用いられる基材およびミネラル酸化物ゾルは、下記表に示される。
【0195】
【表12】

【0196】
実施例1と同様の手順を用い、かつ、基材および後述するミネラル酸化物ゾル、ならびに、実施例1と同じ下塗および耐擦傷性塗膜を用いることにより、本発明の単層のミネラル酸化物層を有する製品も製造される。
【0197】
【表13】

【0198】
比較のため(比較例C8)、同様の基材(n=1.74)が下塗層および耐擦傷性塗膜を直接に塗布される。
【0199】
目的とする波長の反射率の結果は、図17および図18のグラフにより表される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機またはミネラルガラス基材と透明高分子物質層とを有する光学製品であって、基材の一つの主面に直接接触する少なくとも一つの中間層と、高分子物質層とを有し、中間層が少なくとも一つのコロイド状ミネラル酸化物の粒子と、任意にバインダとを有し、中間層が初期空隙を有し、中間層の初期空隙が高分子物質層からの物質または基材が有機ガラスである場合には基材の物質で充填され、バインダが存在する場合には部分的にバインダで充填されてもよく、中間層が初期空隙の充填の後に、400〜700nm、好ましくは450〜650nmの範囲の波長で、それぞれ四分の一波長板となることを特徴とする光学製品。
【請求項2】
請求項1に記載の光学製品であって、中間層のバインダが存在しない場合の空隙率が、体積で少なくとも40%、好ましくは体積で少なくとも50%であることを特徴とする光学製品。
【請求項3】
請求項2に記載の光学製品であって、中間層のバインダが存在する場合であって充填前において、中間層が、体積で少なくとも25%、好ましくは体積で少なくとも30%の空隙率を有することを特徴とする光学製品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光学製品であって、コロイド状ミネラル酸化物の粒径の範囲が、10から80nm、好ましくは30から80、より好ましくは30から60nmであることを特徴とする光学製品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光学製品であって、バインダが、中間層の乾燥ミネラル酸化物の全重量に対して、30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは10から20%を占めることを特徴とする光学製品。
【請求項6】
前記請求項のいずれかに記載の光学製品であって、バインダがポリウレタンラテックスであることを特徴とする光学製品。
【請求項7】
前記請求項のいずれかに記載の光学製品であって、コロイド状ミネラル酸化物が、SiO2、TiO2 、ZrO2 、SnO2 、Sb23 、Y23 、Ta25 およびこれらの混合物の中から選ばれることを特徴とする光学製品。
【請求項8】
請求項7に記載の光学製品であって、中間層が、少なくとも一つの屈折率が低いコロイド状ミネラル酸化物(nD25<1.54)と、少なくとも一つの屈折率が高いコロイド状ミネラル酸化物(nD25≧1.54)との混合物を有することを特徴とする光学製品。
【請求項9】
請求項8に記載の光学製品であって、屈折率が低いコロイド状ミネラル酸化物/屈折率が高いミネラル酸化物の重量比の範囲が30/70から70/30であることを特徴とする光学製品。
【請求項10】
請求項8または9に記載の光学製品であって、コロイド状ミネラル酸化物混合物が、SiO2およびTiO2 混合物またはSiO2 およびZrO2 混合物であることを特徴とする光学製品。
【請求項11】
前記請求項のいずれかに記載の光学製品であって、二つの中間層を有することを特徴とする光学製品。
【請求項12】
前記請求項のいずれかに記載の光学製品であって、有機ガラス基材が、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独または共重合体、単独または共重合ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリチオ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリエポキシド、ポリエピスルフィドおよびこれらの組み合わせから選ばれることを特徴とする光学製品。
【請求項13】
前記請求項のいずれかに記載の光学製品であって、基材が、1.55から1.80、好ましくは1.60から1.75の範囲の屈折率nD25を有することを特徴とする光学製品。
【請求項14】
前記請求項のいずれかに記載の光学製品であって、高分子物質層が耐衝撃性下塗層であることを特徴とする光学製品。
【請求項15】
請求項14に記載の光学製品であって、下塗が(メタ)アクリルポリマー、チオ(メタ)アクリルポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリチオウレタンに基づく物質またはこれらの組み合わせであることを特徴とする光学製品。
【請求項16】
請求項15に記載の光学製品であって、下塗がポリ(メタ)アクリルまたはポリウレタンラテックスであることを特徴とする光学製品。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれかに記載の光学製品であって、高分子物質層が耐擦傷性塗膜層であることを特徴とする光学製品。
【請求項18】
請求項17に記載の光学製品であって、耐擦傷性塗膜が、主成分として、エポキシアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランおよびコロイド状シリカまたはそれらの成分の加水分解物を含有する組成物の硬化により得られることを特徴とする光学製品。
【請求項19】
請求項14〜16のいずれかに記載の光学製品であって、耐衝撃性下塗層の上に設けられている耐擦傷性塗膜を有することを特徴とする光学製品。
【請求項20】
請求項17〜19のいずれかに記載の光学製品であって、耐擦傷性塗膜の上に形成されている耐反射塗膜を有することを特徴とする光学製品。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに記載の光学製品であって、製品が眼用レンズ、特に、眼鏡用レンズであることを特徴とする光学製品。
【請求項22】
光学製品の製造方法であって、
a)透明支持体の少なくとも一つの主面の上に、少なくとも一つのコロイド状ミネラル酸化物および任意の用いられるバインダの塗布により、初期空隙を有する、少なくとも一つのコロイド状ミネラル酸化物の少なくとも一つの中間層を形成させる工程と、
b)中間層の上に、光学的に透明な高分子物質層または有機ガラス基材の上に形成させる工程と、
c)中間層の初期空隙が、前記層の高分子物質または工程b)で形成された基材物質で充填され、かつ、部分的にバインダで充填され、それにより、中間層が初期空隙の充填の後に、それぞれ、400〜700nm、好ましくは450〜650nmの範囲で、四分の一波長板となる工程と
を有することを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、支持体が有機またはミネラルガラス基材であることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法であって、支持体が、少なくとも光学的に透明な高分子物質の層となる塗膜を有する成形部分の主成形表面であり、中間層の初期空隙が、有機ガラス基材からの物質で充填されることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、基材がモールド中での液体重合性組成物の鋳造および組成物の重合により形成されることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項23に記載の方法であって、工程(a)の前に、塩基性溶液による基材処理を有することを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項22〜26のいずれかに記載の方法であって、中間層の初期空隙が、バインダが存在しない場合、体積で少なくとも40%であることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項22〜26のいずれかに記載の方法であって、中間層からのバインダが存在する場合の空隙が、体積で少なくとも50%であることを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項22〜28のいずれかに記載の方法であって、コロイド状ミネラル酸化物の粒径の範囲が、10から80nm、好ましくは30から80、より好ましくは30から60nmであることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項22〜29のいずれかに記載の方法であって、バインダが、中間層の乾燥ミネラル酸化物の全重量に対して、30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは10から20%を占めることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項22〜30のいずれかに記載の方法であって、バインダがポリウレタンラテックスであることを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項22〜31のいずれかに記載の方法であって、コロイド状ミネラル酸化物が、SiO2、TiO2 、ZrO2 、SnO2 、Sb23 、Y23 、Ta25 およびこれらの混合物の中から選ばれることを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項22〜32のいずれかに記載の方法であって、中間層が、少なくとも一つの屈折率が低いコロイド状ミネラル酸化物(nD25<1.54)と、少なくとも一つの屈折率が高いコロイド状ミネラル酸化物(nD25≧1.54)との混合物を有することを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法であって、屈折率が低いコロイド状ミネラル酸化物/屈折率が高いミネラル酸化物の重量比の範囲が30/70から70/30であることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項33または34に記載の方法であって、コロイド状ミネラル酸化物混合物が、SiO2およびTiO2 混合物またはSiO2 およびZrO2 混合物であることを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項22〜33のいずれかに記載の方法であって、二つの中間層を形成する工程を有することを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項22〜36のいずれかに記載の方法であって、有機ガラス基材が、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独または共重合体、単独または共重合ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリチオ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリエポキシド、ポリエピスルフィドおよびこれらの組み合わせから選ばれることを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項22〜37のいずれかに記載の方法であって、基材が、1.55から1.80、好ましくは1.60から1.75の範囲の屈折率nD25を有することを特徴とする方法。
【請求項39】
請求項22〜38のいずれかに記載の方法であって、高分子物質層が耐衝撃性下塗層であることを特徴とする方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法であって、下塗が(メタ)アクリルポリマー、チオ(メタ)アクリルポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリチオウレタンに基づく物質またはこれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項41】
請求項40に記載の方法であって、下塗がポリ(メタ)アクリルまたはポリウレタンラテックスであることを特徴とする方法。
【請求項42】
請求項22〜38のいずれかに記載の方法であって、高分子物質層が耐擦傷性塗膜層であることを特徴とする方法。
【請求項43】
請求項42に記載の方法であって、耐擦傷性塗膜が、主成分として、エポキシアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランおよびコロイド状シリカまたはそれらの成分の加水分解物を含有する組成物の硬化により得られることを特徴とする方法。
【請求項44】
請求項39〜41のいずれかに記載の方法であって、耐衝撃性下塗層の上に、浸せき塗布または遠心法および硬化により、耐擦傷性塗膜を形成させる工程を有することを特徴とする方法。
【請求項45】
請求項42〜44のいずれかに記載の方法であって、耐反射塗膜を耐擦傷性塗膜の上に形成させる工程を有することを特徴とする方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2010−49265(P2010−49265A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212497(P2009−212497)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願2003−556833(P2003−556833)の分割
【原出願日】平成14年12月26日(2002.12.26)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】