説明

回転機の制御装置

【課題】エンジン10の始動に際しての初期回転の付与手段として発電機(始動発電機40)を併用するに際し、始動発電機40によって生成可能なトルクが小さいために、エンジン10の始動性等が低下すること。
【解決手段】リレー48は、バッテリ46の正極端子を、インバータINVの正極側入力端子と始動発電機40の中性点Nとのいずれかに選択的に接続する。エンジン10の始動に際しては、バッテリ46の正極を中性点Nに接続してインバータINVの入力電圧を昇圧し、インバータINVの入力電圧がバッテリ46の端子電圧Vbであるときよりも生成可能なトルクを増大させる。発電処理に移行する場合、リレー48を流れる電流が規定値以下となるタイミングでリレー48を切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機を制御対象とする回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記特許文献1に見られるように、自動2輪車において、内燃機関のクランク軸の回転エネルギを電気エネルギに変換する発電機を、内燃機関の始動に際してクランク軸に初期回転を付与する電動機として併用することが提案されている。ここでは、内燃機関の始動に際して、電動機によって生成されるトルクによっては、圧縮行程においてクランク軸に付与される負荷トルクに打ち勝つことが困難であることに鑑み、圧縮行程において排気バルブを開弁させ、負荷トルクを低減するデコンプ装置を利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−255272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただし、上記デコンプ装置を備えたとしても、電動機のトルクが小さいために、始動に要する時間が長くなる等、クランク軸に付与するトルクが小さいことによる問題が解消されるわけではない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、回転機を制御対象とする新たな回転機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、回転機を制御対象とする回転機の制御装置において、前記回転機は、固定子巻線同士が中性点で接続されたものであり、前記回転機には、該回転機の各固定子巻線とコンデンサを備える直流電圧源の正極および負極のそれぞれとの間を開閉するスイッチング素子を備える直流交流変換回路が接続され、前記直流交流変換回路の一対の入力端子のいずれかおよび前記中性点と車載バッテリの一対の端子とを接続する第1接続状態と、前記直流交流変換回路の一対の入力端子と前記車載バッテリの一対の端子とを接続する第2接続状態とを切り替える切替手段を備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、第1接続状態において、車載バッテリの電圧を昇圧して直流電圧源に印加したり、直流電圧源の電圧を降圧して車載バッテリに印加したりすることができる。また、第2接続状態において、車載バッテリを電源として回転機を電動機として用いたり、回転機を発電機として用いて車載バッテリに充電したりすることができる。ここで、第1接続状態におけるものよりも第2接続状態におけるものの方が車載バッテリの充放電電流のリップルが小さい。このため、直流電圧源を昇圧する要求等がない場合には、第2接続状態とすることで、車載バッテリの充放電電流のリップルを極力低減することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記回転機は、車載主機としての内燃機関のクランク軸に機械的に連結され、前記第2接続状態において前記クランク軸の回転エネルギが前記回転機によって電気エネルギに変換されて車載バッテリに充電され、前記第1接続状態において前記直流交流変換回路を構成する前記スイッチング素子の操作によって前記直流電圧源の電圧を前記車載バッテリの電圧に対して昇圧する昇圧制御手段と、前記昇圧制御手段によって前記直流電圧源の電圧が前記車載バッテリの電圧よりも高くなっている状態で前記直流交流変換回路を構成する前記スイッチング素子を操作することで、前記回転機を電動機として利用して前記クランク軸にトルクを付与するトルク付与手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
上記発明では、第1接続状態において、固定子巻線および直流交流変換回路を構成するスイッチング素子によって昇圧チョッパ回路を構成することで、直流電圧源の電圧を車載バッテリの端子電圧に対して昇圧することができる。このため、部品点数の増加等を極力抑制または回避しつつ直流交流変換回路の入力電圧を上昇させることができる。そしてこれにより、回転機を電動機として機能させる際のトルクを増大させることができるため、発電機としての機能が主である回転機を用いてクランク軸の回転に必要なトルクを付与することができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記トルク付与手段によるトルクを付与する処理から前記クランク軸の回転エネルギを電気エネルギに変換して車載バッテリに充電する処理へと移行するに際し、前記中性点と前記車載バッテリとの間を流れる電流量が規定値以下となることを条件に、前記第1接続状態を解除する接続制御手段を備えることを特徴とする。
【0012】
上記発明では、上記電流量が規定値以下となることを条件に第1接続状態を解除することで、第1接続状態の解除に伴って第1接続状態において流れていた電流が減少する速度を小さくすることができる。このため、電流の減少速度が大きくなる場合に生じるサージ電圧を抑制することができる。また、第1接続状態を実現するためにリレーを用いていた場合には、これが溶着することを回避することができる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、電圧源の正極側に接続されるものおよび負極側に接続されるもののそれぞれについてのオン状態となりうる期間であるベースオン期間が、前記固定子巻線のそれぞれで互いに等しい長さとされて且つ、前記固定子巻線毎に各別の位相に設定されるに際し、正極側に接続されるスイッチング素子および前記負極側に接続されるスイッチング素子のいずれかを前記ベースオン期間において周期的にオンオフ操作するものであることを特徴とする。
【0014】
上記のように正弦波制御を採用せず矩形波制御を採用する場合、ベースオン期間において周期的にオンオフ操作を行なうことで、電圧利用率が低下する。このため、通常、矩形波制御においてはベースオン期間のオンオフ操作は、トルクを制限する場合に行なわれる。これに対し、上記発明では、電圧利用率の低下による回転機のトルクの低下を直流交流変換回路の入力電圧の昇圧による回転機のトルクの増大が上回る制御が可能であることに着目した。これにより、部材の仕様変更や部品点数の増加を極力抑制または回避しつつ、直流交流変換回路の入力電圧を車載バッテリの端子電圧とする場合と比較して回転機のトルクを増大させることができる。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記接続制御手段は、前記昇圧制御手段による制御がなされているときであって且つ、前記正極側に接続されるスイッチング素子または前記負極側に接続されるスイッチング素子について、前記ベースオン期間内におけるオンオフ操作以外のスイッチング状態の切替タイミングに対して規定時間経過後に前記第1接続状態を解除することを特徴とする。
【0016】
上記態様にて昇圧制御を行なう場合、正極側に接続されるスイッチング素子または負極側に接続されるスイッチング素子について、ベースオン期間内におけるオンオフ操作以外のスイッチング状態の切替タイミングと、中性点と車載バッテリとの間を流れる電流が極小値となるタイミングとの間の位相差は、予め把握することが可能なものである。このため、上記切替タイミングと電流量が規定値以下となるタイミングとの位相差に応じて規定時間を設定することで、電流量が規定値以下となるタイミングで第1接続状態を解除することができる。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記接続制御手段は、前記昇圧制御手段による制御がなされているときにおいて、前記直流電圧源の電圧の検出値を入力とし、該検出値が極値となるタイミングに対して規定時間経過後に前記第1接続状態を解除することを特徴とする。
【0018】
上記態様にて昇圧制御を行なう場合、中性点と車載バッテリとの間を流れる電流が極小値となるタイミングと、直流電圧源の電圧が極値となるタイミングとの間の位相差は、予め把握することができる。このため、直流電圧源の電圧が極値となるタイミングと電流量が規定値以下となるタイミングとの位相差に応じて規定時間を設定することで、電流量が規定値以下となるタイミングで第1接続状態を解除することができる。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項2〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記クランク軸の回転速度をアイドリング時の目標値に制御するアイドル回転速度制御手段を備え、前記直流交流変換回路の入力電圧を前記車載バッテリの端子電圧とする場合に生成可能な前記回転機のトルクが、前記クランク軸の回転速度をゼロから前記目標値まで上昇させるのに要するトルクよりも小さいことを特徴とする。
【0020】
上記発明では、回転機を電動機として利用した場合のトルクが、直流交流変換回路の入力電圧を車載バッテリの端子電圧とすると、非常に小さいものとなっている。このため、回転機の主の用途である発電機としての用途に従って設計した場合と比較して体格の大型化等を極力抑制した回転機や直流交流変換回路を実現することができる。そしてこの場合、クランク軸にトルクを付与するに際してトルクが不足する懸念が生じるものの、これについては昇圧制御手段およびトルク付与手段によって解消される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる回転機の生成可能なトルクと回転速度との関係を示す図。
【図3】同実施形態にかかる昇圧処理の原理を示す図。
【図4】同実施形態にかかる昇圧処理時の操作信号波形を示すタイムチャート。
【図5】同実施形態にかかる発電処理の手順を示す流れ図。
【図6】同実施形態にかかる始動アシスト処理の手順を示す流れ図。
【図7】上記発電処理のサブルーチンを示す図。
【図8】上記サブルーチンの処理を示すタイムチャート。
【図9】第2の実施形態にかかる発電処理のサブルーチンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる回転機の制御装置を自動2輪車に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0024】
エンジン10は、単気筒の火花点火式内燃機関であり、詳しくは、4ストロークエンジンである。エンジン10の吸気通路12には、スロットルグリップ58に機械的に連結されて且つその操作に連動して通路断面積を調節するスロットルバルブ16が設けられている。スロットルバルブ16の開口度θは、スロットルセンサ18によって検出される。吸気通路12のうちスロットルバルブ16の下流には、電子制御式の燃料噴射弁20が設けられている。
【0025】
吸気通路12は、吸気バルブ22の開動作に伴って燃焼室24と連通する。燃焼室24には、点火プラグ26が設けられている。点火プラグ26による点火操作によって、吸気通路12に吸入された空気(新気)と燃料噴射弁20から噴射された燃料との混合気が燃焼室24において燃焼に供される。この際生成される燃焼エネルギは、ピストン28の往復動を介して、クランク軸30の回転エネルギに変換される。ちなみに、クランク軸30付近には、その回転角度を検出するクランク角センサ32が設けられている。
【0026】
燃焼室24は、排気バルブ36の開動作に伴って排気通路38と連通する。これにより、燃焼室24内において燃焼に供された混合気が排気として排気通路38に排出される。なお、排気バルブ36を開閉させる手段については、デコンプ装置を備えることが望ましい。
【0027】
一方、始動発電機40は、その回転子40aがクランク軸30に機械的に連結されており、クランク軸30の回転エネルギを電気エネルギに変換する交流発電機となるものである。詳しくは、始動発電機40の回転子40aには、永久磁石が備えられている。一方、始動発電機40の固定子には、固定子巻線40u,40v,40wが設けられている。これら固定子巻線40u,40v,40wは、中性点Nにて互いに接続されている。ちなみに、本実施形態では、始動発電機40として、表面磁石同期機(SPM)を想定している。また、クランク軸30と回転子40aとは回転速度比1で機械的に連結されている一方、始動発電機40の極は4以上(たとえば12)とされている。このため、始動発電機40の電気角の1回転は、クランク軸30の1回転よりも小さい回転角度量となる。
【0028】
始動発電機40の端子(固定子巻線40u,40v,40wのうち中性点Nに接続されない側の端部)は、インバータINVに接続されている。インバータINVは、スイッチング素子S¥p,S¥n(¥=u,v,w)の直列接続体を3組備えており、これら各直列接続体の接続点が始動発電機40のU,V,W相にそれぞれ接続されている。これらスイッチング素子S¥#(¥=u,v,w;#=p,n)として、本実施形態では、NチャネルMOS電界効果トランジスタが用いられている。そして、これらにはそれぞれ、ダイオードD¥#が逆並列に接続されている。なお、ダイオードD¥#は、スイッチング素子S¥#のボディーダイオードであってもよい。
【0029】
インバータINVの一対の入力端子間には、直流電圧源(コンデンサ42)が接続されている。また、インバータINVの負極端子側(車体電位側)には、バッテリ46の負極端子が接続されている。バッテリ46は、車載補機の電源となる2次電池であり、端子電圧がたとえば18V以下(望ましくは12V前後)となるものである。バッテリ46としては、たとえば鉛蓄電池等を用いることができる。
【0030】
バッテリ46の正極端子側には、メインリレー54を介して電磁形リレー(リレー48)が接続されている。詳しくは、本実施形態では、可動鉄心形のものを例示している。リレー48は、バッテリ46の正極端子を中性点NとインバータINVの正極側の入力端子とのいずれに接続するかを切り替えるための手段である。なお、リレー48としては、通電のなされない場合にインバータINVの正極側の入力端子とバッテリ46の正極端子とを接続状態とするものであることが望ましい。リレー48のコイルの一方の端子は、開閉制御用スイッチング素子50を介して接地されており、他方の端子は、メインリレー54を介してバッテリ46の正極に接続されている。メインリレー54のコイルの一方の端子とバッテリ46の正極との間には、ユーザによって操作可能なイグニッションスイッチ52が接続されている。また、メインリレー54のコイルの他方の端子は、接地されている。これにより、イグニッションスイッチ52がオン操作されることで、メインリレー54は閉状態となる。
【0031】
制御装置56は、上記エンジン10や始動発電機40を制御対象とする制御装置である。なお、制御装置56とインバータINVとは、同一基板に形成されることが望ましい。制御装置56は、スロットルセンサ18や、クランク角センサ32に加えて、始動発電機40の回転角度を検出するたとえばホール素子等の回転角度センサ66、車速を検出する車速センサ67、バッテリ46の端子電圧Vbを検出する電圧センサ68、コンデンサ42の充電電圧Vcを検出する電圧センサ69等の検出値を取り込む。そして、これらに基づき燃料噴射弁20や点火プラグ26を操作することでエンジン10の出力トルクを制御する。また、スイッチング素子S¥#の操作信号g¥#によってインバータINVのスイッチング素子S¥#を操作することで始動発電機40を制御する。
【0032】
始動発電機40は、基本的には、上述したようにクランク軸30の回転エネルギを電気エネルギに変換してバッテリ46に供給するための発電機として機能する。ただし、始動発電機40は、エンジン10の始動等にも利用される。ここで、自動2輪車においては、始動発電機40の搭載スペースの制約が特に厳しいものとなっている。たとえば、スクータ等の小型の自動2輪車においては、始動発電機40は、φ130mm程度で軸方向寸法が40mm程度以下の体格に制限される。このため、始動発電機40を電動機として利用する際の生成可能トルクが制限され、ひいては始動性の低下等が懸念される。以下、これについて説明する。
【0033】
図2に、一点鎖線にて、インバータINVの一対の入力端子間に端子電圧Vbのバッテリ46を接続した場合の始動発電機40の生成可能トルクと回転速度NEとの関係を示す(上述したように、クランク軸30と始動発電機40の回転子40aとが回転速度比1となるようにして機械的に連結されているため、エンジン10の回転速度NEは始動発電機40の回転速度でもある)。
【0034】
図示されるように、始動発電機40によって生成可能なトルクは、低速度領域において上限値Tmaxで一定となって且つ、それ以外の領域において回転速度NEの上昇とともに低下する。これは、基本的には、始動発電機40に流し込める電流が「(Vm−E)/√{r^2+(ωL)^2}」に比例することによる。ここで、回転子40aの永久磁石による磁束が固定子巻線40u,40v,40wに生じさせる逆起電力E、印加電圧Vm、始動発電機40の抵抗r、インダクタンスLおよび回転速度に応じた周波数ωを用いた。このため、回転速度NEが上昇するにつれて始動発電機40によって生成可能なトルクTが低下する。ここで、本実施形態では、トルクがゼロとなる上限速度は、アイドリング時の目標回転速度Ni(たとえば1300〜1800rpm、より望ましくは、1400〜1700rpm)よりも小さくなっている。このため、始動発電機40は、エンジン10の燃焼制御を行なわないなら、回転速度NEをゼロから目標回転速度Niまで上昇させることができないものとなっている。
【0035】
一方、速度が低い領域において上限値Tmaxで固定されるのは、始動発電機40の構造上、流せる電流に発熱に起因した限界があるためである。この電流値は、本実施形態では、電動機の機能を兼ねることで始動発電機40が大型化することを極力回避した設計とすることに起因している。
【0036】
すなわち、発電機としての要求を満たす上では、発電量が小さくなるアイドリング運転時において、バッテリ46に所定の電圧(たとえば14V)を印加して且つ所定量の電流(たとえば1A)を流せるようにする必要がある。ここで、発電電圧や発電電流を増大させるうえでは、固定子巻線40u,40v,40wの巻数を増加させることが有効である一方、巻数の増加は、始動発電機40の大型化を招く。このため、発電機としての要求を満たす上では、固定子巻線40u,40v,40wの巻数を増やして且つそれらの線径を細くする必要がある。
【0037】
これに対し、電動機としての要求を満たす上では、生成可能なトルクを大きくすべく流せる電流を大きくする必要が生じる。そして流せる電流を大きくする上では、固定子巻線40u,40v,40wの線径を太くすることが必要である。
【0038】
このため、発電機としての要求と電動機としての要求との双方を満たす上では、始動発電機40を大型化する必要が生じる。しかし、電動機としての機能を兼ねることで始動発電機40が大型化することは望ましくない。そこで、発電機としての要求のみを満たすうえでの体格と比較して体格の大型化を無視しうるレベルに抑えるべく、固定子巻線40u,40v,40wの線径を制限して設計したため、発熱限界に起因した流せる電流(連続定格電流)の上限が小さくなり、ひいては回転速度NEがある値以上小さくなっても生成可能な最大トルクに変化のない領域が生じている。
【0039】
ここで、エンジン10の始動時においてクランク軸30を回転させるに際してクランク軸30の回転を妨げるトルク(負荷トルク)は、周期性を有し、エンジン10の圧縮上死点に起因して極大となる。そして本実施形態では、停止中のエンジン10を回転させる処理の開始時に上記極大値に打ち勝つために要求されるトルクが上限値Tmaxよりも大きいものとなっている。ここで、負荷トルクに打ち勝つのに要する始動発電機46の出力トルクは、回転速度NEがゼロのときよりもある程度高回転となるときの方が、クランク軸30およびピストン28等の運動エネルギが大きくなっているために小さくなる。特に、本実施形態では、回転速度NEがゼロよりも大きくて且つ目標回転速度Niよりも小さい領域において圧縮行程に伴う極大値を有した負荷トルクにもかかわらず正回転を継続させることが可能なトルクを生成可能な設定となっている。
【0040】
ただし、この場合、エンジン10のクランク軸30の停止角度によっては、圧縮行程となるまでの回転角度が小さいため、クランク軸30の回転速度を十分に加速することができず、ひいてはスタータ兼用発電機46によって圧縮行程に起因した負荷トルクに打ち勝つトルクを生成できない。このため、こうした領域では、クランク軸30を一旦逆回転させその後クランク軸30を正回転させることで、圧縮行程における回転速度NEを上昇させるいわゆるスイングバック処理を行なうこととなる。
【0041】
しかし、インバータINVの入力電圧をバッテリ46の端子電圧Vbとした場合、スタータ兼用発電機46の生成可能なトルクが低下し始める回転速度NEが低いため、圧縮行程に達する以前に十分に加速するうえでは、逆回転させる量を大きくする等、スイングバックに要する時間が伸長する。
【0042】
そこで本実施形態では、中性点Nにバッテリ46の正極を接続することでインバータINVの入力電圧を昇圧し、図2に実線にて示すようにトルクの生成可能領域を拡大する。
【0043】
図3に、昇圧処理の原理を示す。この昇圧処理は、固定子巻線40¥(¥=u,v,w)を昇圧チョッパ回路のリアクトルとして利用することでバッテリ46の端子電圧Vb対して昇圧した電圧をコンデンサ42に印加するものである。すなわち、図3(a)に示すようにスイッチング素子S¥nをオン操作することで、バッテリ46、固定子巻線40¥、およびスイッチング素子S¥nを備えるループ経路に電流が流れ、固定子巻線40¥にエネルギが蓄積される。そして、図3(b)に示すように、スイッチング素子S¥nをオフ操作することで、バッテリ46、固定子巻線40¥、ダイオードD¥pおよびコンデンサ42を備えるループ経路に電流が流れ、固定子巻線40¥に蓄積されたエネルギがコンデンサ42に出力される。
【0044】
具体的には、本実施形態では、図4に示すように、矩形波制御(180°通電処理)に従ってスイッチング素子S¥#を操作するに際し、下側アームのスイッチング素子S¥nのオンとすべき期間(ベースオン期間)において、そのオンとすべき期間(電気角で180°の期間)よりも短い期間Tcを周期としてスイッチング素子S¥nをオン・オフ操作する。ここで、180°通電処理は、スイッチング素子S¥pとスイッチング素子S¥nとを電気角の180°毎に交互にオン状態として且つ、相毎にオン操作の位相が「120°」ずつずれたものである。
【0045】
これにより、周期Tcに対するオン期間の時間比率(デューティD)によって昇圧電圧を制御することができる。ここで、180°通電処理を採用したのは、第1に、制御の簡素化のためであり、第2に、電圧利用率が最大となるためである。すなわち、本実施形態では、始動時等、限られた期間に始動発電機40を電動機として利用するに過ぎず、また単気筒の内燃機関を主機としていることもあり、トルクリップル等が問題となることはない。むしろここで要求されるのは、始動発電機40によって生成可能な最大トルクを実現することである。このため、電圧利用率が最大となる180°通電処理を採用した。
【0046】
ちなみに、180°通電処理においてもスイッチング状態の切替位相を操作することでトルクは変動しうる。本実施形態では、最大のトルクに開ループ制御すべく、スイッチング状態の切替位相δ(インバータINVの出力電圧の位相)を回転速度NEに応じて操作する。
【0047】
また、上記のように、下側アームのスイッチング素子S¥nをオン・オフ操作する(PWM処理する)場合には、180°通電処理の本来の電圧利用率と比較して実際の電圧利用率が低下する。実際、正弦波制御を行わない簡易な制御器において120°通電処理や180°通電処理等を用いる場合、これら方式に従ってオンとすべき期間においてPWM処理することは、通常、電流を制限する目的でなされている。しかし、本実施形態では、PWM処理によるトルクの低減効果を昇圧によるトルクの増大効果が上回るように、デューティDおよびPWM処理の位相を設定することで、PWM処理によってトルクを増大させている。
【0048】
なお、インバータINVとバッテリ46との間に昇圧チョッパ回路を別途設けるなら、インバータINVの入力電圧をバッテリ46の電圧よりも上昇させて且つ、180°通電処理の電圧利用率を実現することができる。しかし、これは、上述した搭載スペースの制約を満たすことを困難としうる。また、エンジン10の始動等、車両の走行利用期間に対してクランク軸30を正回転させるためのトルクを付与する電動機が必要とされる期間が極めて短いにもかかわらず、この僅かな期間のために新たなハードウェア手段を搭載することとなり、望ましくない。
【0049】
上記昇圧処理により、本実施形態では、先の図2に実線にて示すように、生成可能な最大トルクを上限値Tmaxとすることのできる領域を回転速度Ntまで拡大することができ、ひいてはエンジン10の始動に要する時間を短縮することができる。
【0050】
以下、始動発電機40の制御に関し、「発電処理」、「始動アシスト処理」の順に説明した後、最後に、「リレー48の切替処理」について説明する。
【0051】
「発電処理」
図5に、本実施形態にかかる発電処理の手順を示す。この処理は、制御装置56によってたとえば所定周期で繰り返し実行される。
【0052】
この一連の処理では、まずステップS10において、回転速度NEが目標回転速度Niよりも小さいことと後述するトルクアシスト処理の実行要求が生じていることとについて、それらの論理和が真であるか否かを判断する。そしてステップS10において否定判断される場合、ステップS12において、開閉制御用スイッチング素子50を通じてリレー48を操作することで、バッテリ46の正極側をインバータINVの正極側の入力端子に接続する。これは、始動発電機40の発電処理時において、インバータINVの一対の入力端子を介して始動発電機40の発電エネルギをバッテリ46に出力するための設定である。ここで、中性点Nを介してバッテリ46の充電を行わないのは、インバータINVの入力端子を介してバッテリ46に電力を出力する場合、3相のそれぞれの電流が全波整流されバッテリ46に出力されることから、バッテリ46への充電電流のリップルを低減することができることなどのためである。
【0053】
続くステップS14においては、バッテリ46の端子電圧Vbが上限電圧VthH以上である状態が継続するか否かを判断する。この処理は、バッテリ46への充電が可能であるか否かを判断するためのものである。ここで、バッテリ46の端子電圧Vbは、バッテリ46の充電率(満充電に対する実際の充電量:SOC)と相関を有する物理量である。ちなみに、バッテリ46の充電率は、開放端電圧(OCV)との間により強い相関を有するものであるが、ここでは、簡易的に端子電圧Vb(通常、閉路端電圧となる)を用いて充電率を定量化している。なお、上記上限電圧VthHは、バッテリ46が満充電状態であるか否かを判断するための値に設定されている。また、上限電圧VthH以上である状態の継続を問題とすることの理由については、後述の処理の説明時に説明する。
【0054】
上記ステップS14において否定判断される場合、バッテリ46が未だ満充電状態でないと判断し、ステップS16において発電処理を行なう。ここでは、先の図4に例示した180°通電処理を行なう。ただし、この際、下側アームのスイッチング素子S¥nのPWM処理を行わない。なお、発電処理の実行時においてバッテリ46の端子電圧Vbが上限電圧VthH以上となると判断される場合、インバータINVの出力電圧の位相(スイッチング状態の切替位相)を進角させる処理を行なうことで発電量を低減させる。そして、位相の進角処理によってもバッテリ46の端子電圧Vbが上限電圧VthH以上となる状態が継続されることで、上記ステップS14において肯定判断されることとなる。
【0055】
上記ステップS14において肯定判断される場合、バッテリ46が満充電状態にあると判断し、ステップS18においてゼロトルク制御を行なう。これは、エネルギの浪費を極力抑制するための設定である。すなわち、本実施形態では、ハードウェア手段の簡素化のため、インバータINVと始動発電機40との間を遮断する手段や、クランク軸30と回転子40aとの機械的な連結を解除する手段を備えていない。このため、インバータINVのスイッチング素子S¥#を全てオフとしたとしても、始動発電機40が回転することで、固定子巻線40¥を鎖交する永久磁石の鎖交磁束数が周期的に変動することに起因した逆起電圧によって、ダイオードD¥#を介して電流が流れ、ひいてはクランク軸30に負荷トルクが付与されることでエンジン10の燃料消費量が増大する。また、上側アームのスイッチング素子S¥pの全てや下側アームのスイッチング素子S¥nの全てをオン操作したとしても、クランク軸30に負荷トルクが付与されることでエンジン10の燃料消費量が増大する。そのため、ステップS18では、始動発電機40の生成トルクがゼロとなるようにインバータINVを操作する。ちなみに、この際、インバータINVを操作することなどに起因して電力が消費されるが、これによる電力消費量は、上記負荷トルクによる燃料消費量の増大と比較して、巨視的な時間スケールにおける燃料消費率を低減しうるものである。
【0056】
なお、上記ステップS16,S18の処理が完了する場合や、ステップS10において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0057】
「始動アシスト処理」
図6に、本実施形態にかかる始動アシスト処理の手順を示す。この処理は、制御装置56によってたとえば所定周期で繰り返し実行される。
【0058】
この一連の処理では、まずステップS20において、始動要求があるか否かを判断する。これは、たとえばイグニッションスイッチ52と連動して操作される図示しない起動スイッチがオンとされるか否かに基づき判断すればよい。なお、後述するアイドルストップ制御における自動始動処理時においても、この処理において始動要求があると判断される。
【0059】
ステップS20において肯定判断される場合、ステップS22においてエンジン10の回転速度NEが下限速度NthL以下であるか否かを判断する。この処理は、昇圧処理を行なうか否かを判断するためのものである。すなわち、インバータINVの入力電圧をバッテリ46の端子電圧Vbとした場合の始動発電機40を流れる電流の上限値は、先の図2に示したように、発熱限界によって規定される最大トルクに対応するものであるため、始動発電機40の低速領域においては一定値(連続定格電流)となる。このため、低速領域では、始動発電機40に流れる電流を上限値に制御すべく、始動発電機40に印加する電圧の実効値を制限する。このため、この領域においては、昇圧処理を行わない。なお、下限速度NthLは、インバータINVの入力電圧をバッテリ46の端子電圧Vbとした場合の始動発電機40の生成可能トルクが上限値Tmaxから低下し始める回転速度程度に設定する。
【0060】
ステップS22において肯定判断される場合、ステップS24において、開閉制御用スイッチング素子50を通じてリレー48を操作することで、バッテリ46の正極側をインバータINVの正極側の入力端子に接続する。また、ステップS24では、回転速度が低い領域では、周知の120°通電処理を行ない、回転速度の上昇に伴って、180°通電処理に移行させる。なお、始動発電機40を流れる電流を上限値に高精度に制御する上では、120°通電処理や180°通電処理によってオンとすべき期間においてPWM処理を実行することが望ましい。また、このステップS24においては、クランク軸30を逆回転させるスイングバック等を適宜利用することで、圧縮行程に起因してクランク軸30の負荷トルクが極大となるタイミングにおいて回転速度NEがある程度高回転となるように制御する。
【0061】
一方、ステップS22において否定判断される場合、ステップS26に移行する。ここでは、開閉制御用スイッチング素子50を通じてリレー48を操作することで、バッテリ46の正極側を中性点Nに接続し、先の図4に示した態様にてスイッチング素子S¥#を操作する。
【0062】
続くステップS28においては、昇圧処理の開始からの時間を計時するカウンタの計時動作を行なう。そして、ステップS30においては、カウンタ値Tが閾値時間Tth以上となることとスロットルグリップ58の操作に従ってアイドル制御が終了することとについて、それらの論理和が真であるか否かを判断する。この処理は、燃焼制御を開始し、また昇圧処理を停止するか否かを判断するためのものである。ここで、本実施形態では、閾値時間Tthを、バッテリ46の端子電圧Vbが高いほど長く設定する。ここで、端子電圧Vbは、バッテリ46の充電率を定量化したものであり、この処理によって、目標回転速度Niとなった後も始動発電機40のみによってクランク軸30を回転させる処理を許容し、バッテリ46の充電率が高いほど燃焼制御の開始までの時間を伸長させる。これは、長期的な時間スケールにおける燃料消費率を低減するための設定である。
【0063】
すなわち、エンジン10の燃料消費率は、回転速度およびトルクに応じて定まる動作点毎に変動し、特に、低負荷低回転速度領域においては高いものとなる。このため、燃料消費率が高い領域において燃焼制御を極力行わないようにするためには、エンジン10の始動に際して始動発電機40によってクランク軸30を回転させる期間を長くすることが望ましい。加えて、エンジン10の回転速度NEが目標回転速度Niよりも高い領域においては燃料消費率の低下傾向があるものの、この時点でバッテリ46が満充電に達すると、先の図5のステップS18に示したゼロトルク制御によってバッテリ46の電力が浪費されることとなる。このため、バッテリ46の充電率をある程度低下させることで、ゼロトルク制御の開始までの期間を伸長させることが燃料消費率を改善することにつながる。
【0064】
上記ステップS30において肯定判断される場合、ステップS32において燃焼制御を開始し、また、始動アシスト処理を終了することで始動発電機40を発電機として利用するモードに切り替える。
【0065】
上記ステップS32の処理が完了する場合や、ステップS20において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0066】
「リレー48の切替処理」
上記始動アシスト処理が終了することで発電処理に移行させるべくリレー48を切り替える際、リレー48を流れる電流が大きい場合、切り替えによって溶着が生じたり、サージ電圧が大きくなったりするおそれがある。そこで、本実施形態では、リレー48を流れる電流量が規定値以下となることを条件に、リレー48を切り替える。ここでの規定値は、上記問題を回避することのできる電流量の上限値以下に設定される。
【0067】
図7に、先の図5のステップS12の処理の詳細を示す。
【0068】
この一連の処理では、まずステップS12aにおいて、コンデンサ42の充電電圧Vcが第1極小値となるタイミングまで待機する。ここで、第1極小値について、図8に基づき説明する。
【0069】
図8(a)は、先の図4に示した昇圧処理の実行時において、リレー48を流れる電流(中性点電流)の推移を例示し、図8(b)は、充電電圧Vcの推移を例示す。図示される例では、中性点電流が極小値となる周期は、充電電圧Vcが極小値となる周期の2倍である。このため、中性点電流が極小値となる位相と充電電圧Vcが極小値となる位相との位相差を予め把握しているなら、充電電圧Vcが極小値となるタイミングから中性点電流が極小値となるタイミングを予測することができる。
【0070】
ただし、充電電圧Vcが極小値となるタイミングに基づき中性点電流が極小値となるタイミングを予測するうえでは、中性点電流の1周期内に出現する2つの充電電圧Vcの極小値のうちのいずれであるかを特定する必要がある。ここで、本実施形態では、第1極小値とこれよりも値が大きい第2極小値とが交互に生じることに着目した。すなわち、極小値の時系列データに基づき第1極小値および第2極小値を特定することができることから、特定する処理が完了した後には、次にくる極小値が第1極小値であるか第2極小値であるかを判断することができる。
【0071】
なお、中性点電流が極小値となる周期と充電電圧Vcが極小値となる周期との関係は、たとえば中性点電流が極小値となる周期が充電電圧Vcが極小値となる周期の3倍となる等、始動発電機40の固定子巻線40¥のインダクタンスや、コンデンサ42の静電容量、さらにはデューティD等に応じて変動しうる。ただし、この場合であっても、上記と同様の考え方で、充電電圧Vcが極小値となるタイミングから中性点電流が極小値となるタイミングを予測することができる。
【0072】
第1極小値となるタイミングで、先の図7に示すステップS12bにおいて、第1極小値となるタイミングからの経過時間を計時するカウンタの計時動作を開始する。続くステップS12cにおいては、カウンタ値Tが切替値Ttrgとなったか否かを判断する。切替値Ttrgは、第1極小値となるタイミングに対する中性点電流が規定値以下(望ましくは「0」)となるタイミングまでの遅延時間に設定されている。切替値Trgは、デューティDに応じて可変設定される。切替値Trgは、さらに回転速度NEに応じて可変設定することが望ましい。そして、切替値Ttrgとなることで、ステップS14dにおいて、リレー48を切り替える。
【0073】
上記ステップS14dの処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0074】
ちなみに、リレー48を切り替えるまで昇圧処理を継続するのは、昇圧処理を停止することで、リレー48を介して中性点Nからバッテリ46に電流が流れることがあり、これは、先の図3に示した発電処理時の電流と比較してリップルが大きくなるためである。また、昇圧処理を低下することで、リレー48を介して中性点Nからバッテリ46に電流が流れる場合、バッテリ46の充電効率も低いと考えられる。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0075】
図9に、先の図5のステップS12の処理の詳細を示す。なお、図9において、先の図7に示した処理に対応するものについては、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0076】
この一連の処理では、まずステップS12eにおいて、上側アームのスイッチング素子S¥pの操作信号g¥pがオンからオフに切り替わるタイミングとなるまで待機する。そして、このタイミングからの経過時間を計時するカウンタ値Tが切替値Trgとなることでリレー48を切り替える(ステップS12b〜12d)。
【0077】
ここで、上側アームのスイッチング素子S¥pの操作信号g¥pがオンからオフに切り替わるタイミングは、先の図8に示す例では、充電電圧Vcが上記第1極小値となるタイミングである。このため、操作信号g¥pがオンからオフに切り替わるタイミングに対する中性点電流が規定値以下(望ましくは「0」)となるタイミングまでの遅延時間に切替値Ttrgを設定することで、リレー48の切替に際してリレー48を流れる電流量を規定値以下とすることができる。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0078】
「接続制御手段について」
上記第1の実施形態では、第1極小値となるタイミングを基準にリレー48の切替タイミングを定めたが、第2極小値となるタイミングを基準にしてもよい。同様に、中性点電流の極小値の一周期の間に生じる充電電圧Vcの一対の極大値のうち大きい方となるタイミングや小さい方となるタイミングを基準としてもよい。
【0079】
上記第1の実施形態では、バッテリ46の端子電圧Vbを検出する電圧センサ68とは別に、コンデンサ42の充電電圧Vcを検出する電圧センサ69を備えたが、これに限らない。たとえば、電圧センサ69のみを備えたとしても、バッテリ46の正極とインバータINVの正極側の入力端子とが接続されている場合には、電圧センサ69によってバッテリ46の端子電圧Vbを検出することができることに鑑みれば、電圧センサ69のみを備えることも可能ではある。
【0080】
また、バッテリ46の端子電圧Vbも中性点電流のリップルと相関を有することに鑑み、バッテリ46の端子電圧Vbを検出する電圧センサ68の検出値を用いてもよい。
【0081】
上記第2の実施形態では、上側アームのスイッチング素子S¥pの操作信号g¥pのオン状態からオフ状態への切替タイミングからの経過時間に基づきリレー48を切り替えたが、これに限らない。たとえば、上側アームのスイッチング素子S¥pの操作信号g¥pのオフ状態からオン状態への切替タイミング(第2極小値となるタイミング)からの経過時間に基づきリレー48を切り替えてもよい。またたとえば、下側アームのスイッチング素子S¥nの操作信号g¥nのオン状態からオフ状態への切替タイミングや、オフ状態からオン状態への切替タイミングからの経過時間に基づきリレー48を切り替えてもよい。
【0082】
また、リレー48を流れる電流を直接検出することで、リレー48の切替処理を行ってもよい。
【0083】
「切替手段について」
バッテリ46の正極端子とインバータINVの正極側の入力端子との接続状態(第2接続状態)と、バッテリ46の正極端子と中性点Nとの接続状態(第1接続状態)との一対の状態のいずれかを必ず取るものに限らない。たとえばいずれの接続状態ともならない第3の状態を継続できる構成であってもよい。この場合、第1接続状態を解除した後、第2接続状態とするに先立ち、コンデンサ42の電圧値が規定の電圧となるタイミングまで待機することなどが可能である。
【0084】
リレーに限らず、半導体スイッチであってもよい。この場合であっても、中性点電流が大きいときにバッテリ46の正極と中性点Nとの接続を遮断するなら、サージ電圧が大きくなる等の問題が生じるため、本発明の適用が有効である。
【0085】
なお、切替手段の用途については、「回転機について」の欄に記載してある。
【0086】
「トルク付与手段について」
上記第1の実施形態では、始動アシスト処理の実行期間を時間にて定めたが、エンジン10の回転速度NEにて定めてもよい。この場合、回転速度NEの閾値を高くするほど実行期間が長くなる。
【0087】
また、始動アシスト処理を行なうものにも限らない。たとえば、ユーザによって車両を駆動するトルクの増大要求がなされる場合に、それに迅速に応えるために始動発電機40を電動機として利用するトルク増アシスト処理を行うものであってもよい。またたとえば、燃料カット制御からの復帰(燃焼制御の再開)に際してクランク軸30に始動発電機40のトルクを付与する復帰アシスト処理を行なうものであってもよい。この処理は、燃焼制御を再開させる回転速度を低下させ、燃料消費率を低減するためのものである。すなわち、復帰アシスト処理を行わない場合、エンジン10の応答性等を考慮し、再開させる回転速度をアイドル時の目標回転速度Niよりも十分に高くする必要が生じる。
【0088】
「制限トルク付与手段について」
バッテリ46の正極および負極の双方をインバータINVの入力端子に接続して且つ120°通電処理や180°通電処理(PWM処理による電流制限を含む)によって始動発電機40を駆動するものに限らない。たとえば、120°通電処理(PWM処理による電流制限を含む)を採用するものの、180°通電処理(PWM処理による電流制限を含む)についてはこれを採用しないものであってもよい。またたとえば、180°通電処理(PWM処理による電流制限を含む)を採用するものの、120°通電処理(PWM処理による電流制限を含む)についてはこれを採用しないものであってもよい。さらにたとえば、バッテリ46を始動発電機40の中性点に接続したとしても、昇圧処理のためのDutyの値によっては、昇圧によるトルクの増大効果よりもPWM処理によるトルクの低減効果が大きくなることに鑑み、Duty制限によってトルクを上限値Tmax以下に制限しつつトルクアシストを実行してもよい。
【0089】
「回転機のトルク制御について」
上記発明では、180°通電処理(または昇圧処理)または120°通電処理(PWM処理による電流制限を含む)によって実現されるトルクに制御したが、これに限らない。たとえば正弦波制御を実行してもよい。この場合、昇圧制御としては、たとえば特開2010−28941に記載されているように、下側アームの短絡期間と上側アームの短絡期間との合計期間に対する下側アームの短絡期間の時比率によって昇圧率を制御すればよい。
【0090】
「昇圧制御手段について」
昇圧制御手法としては、上記実施形態で例示したものに限らないことについては、「回転機のトルク制御について」の欄に記載したとおりである。
【0091】
「中性点とバッテリ46との接続手法について」
たとえば、バッテリ46の正極をインバータINVの正極側の入力端子に接続し、バッテリ46の負極側を中性点に接続するとともに、中性点とインバータINVの負極側の入力端子との間にコンデンサを接続してもよい。この場合、コンデンサ42を削除することができ、インバータINVの一対の入力端子間に接続される直流電圧源は、バッテリ46とコンデンサとの直列接続体となり、昇圧制御によってコンデンサの充電電圧を増大させることで直流電圧源の電圧を昇圧する。なお、この場合、上側アームのスイッチング素子S¥pのオンとすべき期間において昇圧のためのPWM処理を実行する。
【0092】
「内燃機関について」
単気筒内燃機関に限らず、たとえば2気筒等、複数気筒を有するものであってもよい。この場合、始動時に要求されるトルクがさらに大きくなりうるが、この場合であっても、始動発電機40の体格を発電性能によって要求される必要最小限の大きさを極力越えないものとしつつも始動処理を実現可能とするうえでは、上記実施形態の要領で昇圧電圧を利用することが有効である。ちなみに、この論理は、内燃機関を筒内噴射式のガソリン機関や圧縮着火式内燃機関(ディーゼル機関等)に変更することに対しても成立する。
【0093】
「回転機について」
上記実施形態では、停止状態から圧縮乗り越えを行なう場合に要するトルクが上限値Tmaxよりも大きいものを採用したが、これに限らず、小さいものであってもよい。また、昇圧を行わない場合に生成可能なトルクがゼロとなる回転速度の最低値が目標回転速度Niよりも小さいものを採用したに限らず、たとえば目標回転速度Niよりも大きいものであってもよい。この場合であっても、発電機のみの要求に応じたものから体格の大型化等を極力抑制しつつ始動性の向上や燃料消費率の低下等を図る上では、昇圧処理を行なうことは有効である。
【0094】
もっとも、切替手段の用途自体は、発電機のみの要求に応じたものから体格の大型化等を極力抑制しつつ始動性の向上や燃料消費率の低下等を図る目的で設計された回転機に適用するものに限らない。
【0095】
また、SPMに限らず、たとえば埋め込み磁石同期機(IPM)等であってもよい。
【0096】
「回転機の回転子とクランク軸40との連結について」
回転速度比1に限らない。ちなみに、クランク軸40の回転速度に対して回転子の回転速度の方が高くなる設定とするなら、回転機の極対数を低減しても、始動アシスト処理等を的確に行なうことが容易となる。
【0097】
「回転機のトルクの上限値Tmaxについて」
上記実施形態では、始動発電機40に流せる電流(連続定格電流)のために、上限値Tmax以上のトルクを生成できないとしたが、これに限らない。たとえば、上限値Tmaxに対応する電流(連続定格電流)を超えることで、インバータINVを構成するスイッチング素子S¥#が発熱限界に達し信頼性の低下が懸念されることから、上限値Tmax以下に制御する仕様であってもよい。ここでは、インバータINVの連続定格電流が発電時に要求される電流を極力超えないように設定されることが、インバータINVの小型化の観点から望ましい。
【0098】
なお、いずれにせよ、連続定格電流に基づき上限値Tmaxが定まることに鑑みれば、エンジン10の始動に際し始動発電機40やインバータINVの発熱量が上限値に達する以前の短時間に限って上限値Tmaxを上回るトルクを生成する制御を行なうことも可能となり得る。このため、上限値Tmaxが一定である回転速度領域において、昇圧処理によって上限値Tmaxを超えるトルクを生成することで圧縮上死点を通過させて始動性を向上させるようにしてもよい。なお、この場合、トルクアシストを継続することが困難なため、たとえば圧縮上死点に起因してクランク軸30に加わる負荷トルクが最大となる直前から圧縮上死点を通過するまでの規定期間に限ってトルクアシストを行えばよい。ただし、圧縮上死点を通過する直前の回転速度NEが過度に低いと、燃焼制御を良好に開始することができないおそれがあるため、この場合には、上記規定期間となる都度、トルクアシストを行なうことでクランク軸30を加速し、回転速度NEが燃焼制御を良好に行なうことができる速度となった時点で燃焼制御を開始することが望ましい。
【0099】
「直流交流変換回路について」
先の図1に例示したものに限らず、たとえば上側アームのスイッチング素子S¥pをPチャネルMOS電界効果トランジスタとしてもよい。また、スイッチング素子S¥#としては、電界効果トランジスタに限らず、たとえば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等であってもよい。
【0100】
「車両について」
自動2輪車に限らず、たとえば後輪が2つある自動3輪車等であってもよい。こうした場合であっても、バッテリ46の充電用の回転機を内燃機関の始動等において電動機として併用する用途等において、充電用のものに対する要求以上の要求を極力回避するうえでは、本発明の適用が有効である。
【0101】
「そのほか」
始動発電機40とインバータINVとの間を開閉する開閉手段を備えてもよい。この場合、発電を行わないときには開閉手段を開状態とすることで、始動発電機40からクランク軸30に加えられる負荷トルクを、機械的な要因によるものを除き、ゼロとすることができる。しかしこの場合であっても、始動アシスト処理等において燃焼制御を遅らせることは燃料消費率の大きい領域で燃焼制御がなされることを極力抑制することができるため、燃料消費量を低減するうえで有効ではある。
【0102】
発電処理を行なう条件としては、先の図5に例示したものに限らない。たとえば図5のステップS10における回転速度NEの条件として、目標回転速度Niよりも高い規定速度以上であることとしてもよい。
【符号の説明】
【0103】
10…エンジン、40…スタータ兼用発電機(回転機の一実施形態)、40u,40v,40w…固定子巻線、42…平滑コンデンサ(直流電圧源の一実施形態)、46…バッテリ、56…制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機を制御対象とする回転機の制御装置において、
前記回転機は、固定子巻線同士が中性点で接続されたものであり、
前記回転機には、該回転機の各固定子巻線とコンデンサを備える直流電圧源の正極および負極のそれぞれとの間を開閉するスイッチング素子を備える直流交流変換回路が接続され、
前記直流交流変換回路の一対の入力端子のいずれかおよび前記中性点と車載バッテリの一対の端子とを接続する第1接続状態と、前記直流交流変換回路の一対の入力端子と前記車載バッテリの一対の端子とを接続する第2接続状態とを切り替える切替手段を備えることを特徴とする回転機の制御装置。
【請求項2】
前記回転機は、車載主機としての内燃機関のクランク軸に機械的に連結され、
前記第2接続状態において前記クランク軸の回転エネルギが前記回転機によって電気エネルギに変換されて車載バッテリに充電され、
前記第1接続状態において前記直流交流変換回路を構成する前記スイッチング素子の操作によって前記直流電圧源の電圧を前記車載バッテリの電圧に対して昇圧する昇圧制御手段と、
前記昇圧制御手段によって前記直流電圧源の電圧が前記車載バッテリの電圧よりも高くなっている状態で前記直流交流変換回路を構成する前記スイッチング素子を操作することで、前記回転機を電動機として利用して前記クランク軸にトルクを付与するトルク付与手段とを備えることを特徴とする請求項1記載の回転機の制御装置。
【請求項3】
前記トルク付与手段によるトルクを付与する処理から前記クランク軸の回転エネルギを電気エネルギに変換して車載バッテリに充電する処理へと移行するに際し、前記中性点と前記車載バッテリとの間を流れる電流量が規定値以下となることを条件に、前記第1接続状態を解除する接続制御手段を備えることを特徴とする請求項2記載の回転機の制御装置。
【請求項4】
前記昇圧制御手段は、前記直流交流変換回路を構成するスイッチング素子のうち前記直流電圧源の正極側に接続されるものおよび負極側に接続されるもののそれぞれについてのオン状態となりうる期間であるベースオン期間が、前記固定子巻線のそれぞれで互いに等しい長さとされて且つ、前記固定子巻線毎に各別の位相に設定されるに際し、正極側に接続されるスイッチング素子および前記負極側に接続されるスイッチング素子のいずれかを前記ベースオン期間において周期的にオンオフ操作するものであることを特徴とする請求項2または3記載の回転機の制御装置。
【請求項5】
前記接続制御手段は、前記昇圧制御手段による制御がなされているときであって且つ、前記正極側に接続されるスイッチング素子または前記負極側に接続されるスイッチング素子について、前記ベースオン期間内におけるオンオフ操作以外のスイッチング状態の切替タイミングに対して規定時間経過後に前記第1接続状態を解除することを特徴とする請求項4記載の回転機の制御装置。
【請求項6】
前記接続制御手段は、前記昇圧制御手段による制御がなされているときにおいて、前記直流電圧源の電圧の検出値を入力とし、該検出値が極値となるタイミングに対して規定時間経過後に前記第1接続状態を解除することを特徴とする請求項4記載の回転機の制御装置。
【請求項7】
前記クランク軸の回転速度をアイドリング時の目標値に制御するアイドル回転速度制御手段を備え、
前記直流交流変換回路の入力電圧を前記車載バッテリの端子電圧とする場合に生成可能な前記回転機のトルクが、前記クランク軸の回転速度をゼロから前記目標値まで上昇させるのに要するトルクよりも小さいことを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−93967(P2013−93967A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234305(P2011−234305)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】