説明

回転機器状態監視用複合センサ

【課題】回転機器の状態を監視しその異常状態を検知するためのセンサを提供する。
【解決手段】誘導コイルやホール素子などの磁場センサを備えた磁石と、この磁石に取り付けられた振動センサであり、この磁石が振動センサを被測定部に固定すると共に回転機の回転部に静磁場を発生させる役割を有し、振動センサによる振動信号測定と、回転部が静磁場中を横切ることによって発生する誘導電流による動磁場を磁石に備え付けられた磁場センサにより検出する測定を、単一のセンサとして実現することができる状態監視用複合センサである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機器の状態を監視しその異常状態を検知するためのセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転機器は現代産業において欠かすことはできず、特にプラント等の大規模施設における重要機器として組み込まれている回転機器に対しては、その停止がシステム全体の停止及びシステム自身の損傷につながる可能性もあるなど、その健全性の確保は重要な課題である。現在、回転機の健全性評価のためには、運転中の回転機器の振動を測定し、その振幅値、各種統計量、そしてスペクトル分析結果などから各種異常および不具合を検知するという手法が最も多く採用されている。振動は比較的簡便でありながら回転機器の異常状態の大半を検出できるとされており、極めて多くの振動診断に関連した研究成果が報告されている。しかしながら、振動診断だけでは回転機器の異常状態および余寿命を必ずしも正しく評価することが出来ないということもまた、近年問題視されている。すなわち、異常振動の度合いが回転機器の機能損失の程度を表すとは必ずしも言うことができず、振動で検出される不具合は回転機が機能を損失するごく直前であったり、または逆に機能には影響が無いと考えられる微細なきずであるにもかかわらず大きな異常振動が測定されたりという場合がある。このような問題を解決するために、複数の状態監視技術を用いて同時に回転機器の状態監視を行い、得られた信号を総合的に評価することで、より異常状態および余寿命を定量的に評価しようとする試みが行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように複数の状態監視技術を同時に用いて回転機器の状態監視を行う際に問題となるのが、機器へのアクセス性である。回転機器の外面は配管や壁面のような単純な形状ではなく、異常信号測定という観点から最適あると考えられる個所に常にセンサが物理的に取り付け可能であるとは限らない。よって、複数のセンサを配置することが必要である場合、それらの配置個所が問題となり、場合によっては最適ではない個所にセンサを取り付けざるを得ないという事態が発生する。さらに、回転機器の状態監視においては、各回の測定において得られた信号が同一個所におけるものであることが必要であるが、複数のセンサを配置する場合は各々のセンサの取り付け位置決め精度の保証がより一層困難となることは言うまでもない。
【0004】
このような問題を解決しうる方法の一つが複合型センサである。例えば吉岡らは振動とアコースティックエミッションを同時に測定することができる複合型のセンサを、トライボロジスト誌第51巻第8号607項にて提唱している。このセンサはセンサの圧電素子部に振動領域(100Hz〜数10kHz)とアコースティックエミッション領域(100kHz〜1MHz)の両方で感度が高い素子を用いるというものであり、得られた信号を2系統に分離し、各々に対して1〜50kHz以下のバンドパスフィルタ、50kHzのハイパスフィルタを施すことで振動測定信号およびアコースティックエミッション測定信号とするというものである。一般的にアコースティックエミッションは振動と比べ劣化のより初期の段階で信号が検出されるものであるため、より早期の異常検出が可能となる。しかしながらその半面、前述の機能損失に至るはるか手前で測定される異常信号に対する問題は依然として残されており、よって異常状態および余寿命の定量的な評価にはさらなる検討が必要と考えられる。また、広い周波数帯で高い感度を有する特殊な圧電素子を用いる必要があるという問題もある。
【0005】
本発明は、このような課題を鑑み創案されたものであり、特殊な装置もしくは機器を用いることなく、複数の状態監視技術による信号を単一のセンサで収集することを可能とする、簡便な状態監視用複合センサの実現を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するための請求項1の発明は、誘導コイルやホール素子などの磁場センサを備えた磁石(永久磁石もしくは電磁石)と、この磁石に取り付けられた振動センサであり、この磁石が振動センサを被測定部に固定すると共に回転機の回転部に静磁場を発生させる役割を有し、振動センサによる振動信号測定と、回転部が静磁場中を横切ることによって発生する誘導電流による動磁場を磁石に備え付けられた磁場センサにより検出する測定を、単一のセンサとして実現することができる状態監視用複合センサである。
【0007】
請求項2の発明は、誘導コイルやホール素子などの磁場センサを備え、さらに誘導コイルとは同一もしくは異なる励磁用コイルを備えた磁石(永久磁石もしくは電磁石)と、この磁石に取り付けられた振動センサであり、請求項1の発明と同様に振動センサの信号と回転部が静磁場中を横切ることによって発生する誘導電流により発生する動磁場に起因する磁場センサの信号を収集することを可能としつつ、さらに励磁用コイルに交流電流もしくはパルス電流を印加し、励磁用コイルのインピーダンスもしくは磁場センサ出力信号を測定する渦電流探傷も可能とした状態監視用複合センサである。
【0008】
請求項3の発明は、誘導コイルやホール素子などの磁場センサを備え、さらに誘導コイルとは同一もしくは異なる励磁用コイルを備えた磁石(永久磁石もしくは電磁石)と、この磁石に取り付けられた振動センサであり、励磁用コイルにパルス電流を印加することで被検査部に電磁超音波を発生および伝播させ、請求項1の発明と同様に振動センサの信号と回転部が静磁場中を横切ることによって発生する誘導電流により発生する動磁場に起因する磁場センサの信号を収集することを可能としつつ、さらに誘導コイルもしくは励磁用コイルにより電磁超音波信号を収集することも可能とした状態監視用複合センサである。
【発明の効果】
【0009】
以上のような状態監視用複合センサにおいては、単一のセンサでありながら、複数の物理現象に起因する信号を同一個所において測定することが可能となり、センサ取り付けスペースおよび取り付け作業を改善することができるのみならず、回転機器を停止もしくは分解させることなく、異常状態および余寿命予測のための複数の診断手法による情報を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明における実施例について、添付図面に基づいてより詳細に説明する。各図に共通の部分は同じ符号を使用している。
【0011】
図1は、本発明における請求項1の実施形態の一例を示す。本発明の主要部は振動測定用センサ部11、センサを被検査部に固定するとともに回転体通過部に静磁場を発生させるための磁石12、そして磁場センサ13および信号入出力用のケーブル14から成る。振動測定用センサ11の内部には振動加速度を電気信号に変換するための圧電素子15、ダンパ材16、カバー17、そして必要に応じてチャージアンプ等が組み込まれているものとするが、具体的にどのような素子または回路が組み込まれているかについては本発明においては本質的ではなく、振動信号が適切な電気信号としてケーブル14を通じて外部に出力されることが肝要である。振動測定用センサ11は磁石12とネジもしくは接着剤等により密着しており、磁石12には磁場センサ13が取り付けられている。ここでの磁場センサ13は磁石12の外周に巻かれた誘導コイルとしているが、前述の通り、回転部が静磁場中を横切ることによって発生する誘導電流による動磁場をとらえることが肝要であるため、誘導コイルは必ずしも磁石の外周に巻かれる必要はなく、さらに誘導コイル以外のホール素子等の磁場センサも適用されうるものである。また、図では信号入出力ケーブル14は振動センサと磁場センサで同一となっているが、必ずしも単一の信号線である必要はないことは言うまでもない。
【0012】
図2に、本発明における請求項2もしくは3の実施形態の一例を示す。図1に示した請求項1における実施形態に加え、励磁コイル18に交流もしくはパルス電流を供給するための信号発生器19および電流供給用ケーブル20を備えたものとなっている。ケーブル14を通じて、振動信号と磁場センサ出力信号が外部に出力される。この場合、信号の相互干渉を避けるため、必ずしも常に励磁コイル18に電流が供給された状態とする必要はなく、渦電流探傷および電磁超音波探傷は必要に応じて実施すればよい。尚、図では励磁コイル18と磁場センサ13を同一として示したが、前述のようにこれらは必ずしも同一のものである必要はない。また、信号発生器19と励磁コイル18の間には、必要に応じて電力増幅器等が挿入される。
【0013】
図3は、本発明における請求項1が転がり軸受の状態監視に適用された場合の実施例である。測定対象である転がり軸受は転動体21、内輪22、外輪23からなり、軸受はハウジング24に組み込まれており、回転軸25が内輪22と共に回転するものとしている。ハウジング31は磁性を有する材料とし、センサは磁石12の磁気的な吸着力によりハウジング31に固定される。図ではセンサは軸受のラジアル方向上方側に配置されているが、これはセンサ取り付け位置に関する制約を示すものではない。このとき、振動センサからは従来の振動信号、即ちハウジング31の振動の変位もしくは速度もしくは加速度に関する情報を得ることができ、その信号分析は従来より広く用いられている、振幅値や実効値、尖り度、そして軸受の回転周波数および幾何学的条件によって定まる各種固有周波数成分の振幅値を適用することが可能である。その一方、磁場センサは主として磁場中を通過する転動体内部に誘導される誘導電流分布に起因する信号をとらえるものであり、よって含まれる情報は主としてセンサ直下を通過する転動体の動きおよび形状変化に関する情報を得ることができる。その信号分析においては振動分析に用いられている各種手法に加え、例えば特許文献1にて示されているいるような時系列信号の分析が適用可能である。尚、センサの出力信号はケーブル14を通して取り出され、それは必要に応じてチャージアンプや増幅器を通した後の電圧信号として測定されるものである。
【特許文献1】特開2008−096410
【0014】
図4は、本発明における請求項1がタービン翼やポンプのインペラ等の回転翼に対して適用された場合の実施例である。測定対象である回転翼31は、中心軸32を中心として回転しているものとし、センサはケーシング33の外側に配置される。ケーシング33は磁性を有する材料とし、センサは磁石12の磁気的な吸着力によりケーシングに固定される。振動センサはケーシング33の振動の変位もしくは速度もしくは加速度を測定するものであり、磁場センサは磁石12によって作られた静磁場中を回転翼31が通過する際の誘導電流に起因する信号を測定していることになる。後者はセンサ直下を通過する回転翼からの信号が支配的であるため、機器全体に関する情報を反映した振動センサ信号と併せて評価することで、損傷発生位置の特定も可能となる。
【0015】
図3、図4は本発明における請求項1の実施形態に関する説明であるが、請求項2および請求項3においても同様に、センサを被検査部に吸着させ、ケーブル14を通して信号を取り出すということは同様である。交流電流を励磁コイル18に供給した場合は渦電流探傷を、パルス電流を供給した場合はパルス渦電流探傷もしくは電磁超音波探傷を実施することが可能であり、励磁コイル18に電流を供給しない場合は請求項1と全く同様の測定が行われることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の請求項1の実施形態である複合センサの正面図である。
【図2】本発明に請求項2もしくは3の実施形態である複合センサの正面図である。
【図3】本発明の実施例であり、請求項1の実施形態である複合センサを用いて転がり軸受を測定した場合の正面図である。
【図4】本発明の実施例であり、請求項1の実施形態である複合センサを用いて回転翼を測定した場合の正面図である。
【符号の説明】
【0017】
11 複合センサの振動測定部
12 複合センサの磁石
13 複合センサの磁場測定部
14 信号入出力用ケーブル
15 圧電素子
16 ダンパ材
17 カバー
18 励磁コイル
19 信号発生器
20 電流供給ケーブル
21 転がり軸受の転動体
22 転がり軸受の内輪
23 転がり軸受の外輪
24 転がり軸受が組み込まれているハウジング
25 回転軸
31 回転翼
32 回転翼の中心軸
33 ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導コイルやホール素子などの磁場センサを備えた磁石(永久磁石もしくは電磁石)と、この磁石に取り付けられた振動センサであり、この磁石が振動センサを対象物に固定すると共に回転機の回転部に静磁場を発生させる役割を有し、振動センサによる振動信号測定と、回転部が静磁場中を横切ることによって発生する誘導電流による動磁場を磁石に備え付けられた磁場センサにより検出する測定を、単一のセンサとして実現することができる状態監視用複合センサ。
【請求項2】
誘導コイルやホール素子などの磁場センサを備え、さらに誘導コイルとは同一もしくは異なる励磁用コイルを備えた磁石(永久磁石もしくは電磁石)と、この磁石に取り付けられた振動センサであり、請求項1の発明と同様に振動センサの信号と回転部が静磁場中を横切ることによって発生する誘導電流により発生する動磁場に起因する磁場センサの信号を収集することを可能としつつ、さらに励磁用コイルに交流電流もしくはパルス電流を印加し、励磁用コイルのインピーダンスもしくは磁場センサ出力信号を測定する渦電流探傷も可能とした状態監視用複合センサ。
【請求項3】
誘導コイルやホール素子などの磁場センサを備え、さらに誘導コイルとは同一もしくは異なる励磁用コイルを備えた磁石(永久磁石もしくは電磁石)と、この磁石に取り付けられた振動センサであり、励磁用コイルにパルス電流を印加することで被検査部に電磁超音波を発生および伝播させ、請求項1の発明と同様に振動センサの信号と回転部が静磁場中を横切ることによって発生する誘導電流により発生する動磁場に起因する磁場センサの信号を収集することを可能としつつ、さらに誘導コイルもしくは励磁用コイルにより電磁超音波信号を収集することも可能とした状態監視用複合センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−151773(P2010−151773A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−336198(P2008−336198)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(302070545)株式会社IIU (6)
【Fターム(参考)】