回転角センサ、モータ、回転角検出装置、及び電動パワーステアリング装置
【課題】簡素な構成にて高精度の回転角検出が可能であるとともに磁極数の変更に対しても高い柔軟性を有する磁気式の回転角センサを提供すること。
【解決手段】回転角センサは、周方向に沿って複数の磁極が形成されたマグネットロータと、そのマグネットロータの同心円上に均等角度間隔で配置された3つのセンサデバイス33とを備える。また、各センサデバイス33は、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bを有する3つのハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)を備える。そして、各センサデバイス33は、そのマグネットロータの回転に伴う磁束変化に基づき各ハーフブリッジ回路38が出力するセンサ信号Vu,Vv,Vwが、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成される。
【解決手段】回転角センサは、周方向に沿って複数の磁極が形成されたマグネットロータと、そのマグネットロータの同心円上に均等角度間隔で配置された3つのセンサデバイス33とを備える。また、各センサデバイス33は、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bを有する3つのハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)を備える。そして、各センサデバイス33は、そのマグネットロータの回転に伴う磁束変化に基づき各ハーフブリッジ回路38が出力するセンサ信号Vu,Vv,Vwが、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンバルブ型磁気抵抗素子を用いた磁気式の回転角センサ、その回転角センサを備えたモータ及び回転角検出装置、並びに電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置(EPS)等、円滑な回転と高い静粛性とが要求される用途では、通常、各相(U,V,W)コイルに対し、それぞれ120°(電気角)の位相差を設けて正弦波通電を行なうことにより、そのモータの作動が制御される。このため、従来、そのモータレゾルバ(モータ回転角センサ)には、高精度の回転角検出が可能な巻線式のレゾルバを用いるのが一般的となっていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、巻線式のレゾルバには、その巻線を有するがゆえのデメリットとして、小型化が難しく、製造コストが高いという問題がある。そこで、近年、こうした巻線式のレゾルバに代わり得る高精度の回転角検出が可能な磁気式の回転角センサが提案されるようになっている。
【0004】
例えば、特許文献2には、ホール素子をセンサ要素としてセンサデバイスを形成するとともに、当該センサデバイスを磁石回転子の周方向に沿って複数箇所に配置し、各センサデバイスが出力する複数のセンサ信号を用いた補正を行なうことにより、その検出精度を高める方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献3の回転角検出装置は、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列に接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を有するフルブリッジ回路を形成するとともに、このフルブリッジ回路を二つ用いることにより、磁石回転子の回転に伴う磁束変化に基づいて、電気角で90°の位相差を有する二相のセンサ信号を出力可能なセンサデバイスを形成する。尚、この例においては、そのスピンバルブ型磁気抵抗素子として巨大磁気抵抗素子(GMR:Giant Magnetic Resistance)を用いたフルブリッジ回路が形成されている。そして、このような構成を有する二つのセンサデバイスを、磁石回転子の周方向において電気角換算で90×n°(「n」は整数)離れた位置に配置する構成が開示されている。
【0006】
即ち、このような構成を採用することで、各センサデバイスが出力する位相の異なる二つのセンサ信号は、それぞれ他方のセンサデバイスが出力する二つのセンサ信号と位相が重複することになる。従って、その位相が重複した双方のセンサ信号を当該重複する位相毎に平均化することにより波形歪みを除去することが可能になる。そして、その整形後の二相の本信号に基づいて回転角を検出することにより、その検出精度を大幅に向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−160099号公報
【特許文献2】特開2003−75108号公報
【特許文献3】特許第4273363号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このような構成を採用するとしてもなお、解決すべき課題は残されている。即ち、通常、磁気式の回転角センサをモータレゾルバに用いる場合、その用途に応じて磁石回転子の磁極数が変更される。具体的には、高トルクが要求される用途では多極化される一方、高速回転が要求される用途では比較的少ない磁極数が設定されやすい。しかしながら、このような磁極数の変更に対し、上記のような電気角換算で90×n°という二つのセンサデバイスの位置関係は必ずしも一様ではない。そのため、上記従来の構成では、その磁極数の変更に併せて、各センサデバイスの配置をも変更しなければならないという問題があり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、簡素な構成にて高精度の回転角検出が可能であるとともに磁極数の変更に対しても高い柔軟性を有する磁気式の回転角センサ、その回転角センサを備えたモータ及び回転角検出装置、並びに電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、周方向に沿って複数の磁極が形成された磁石回転子と、前記磁石回転子の回転に伴う磁束変化に基づくセンサ信号を出力するセンサデバイスとを備えた回転角センサにおいて、前記磁石回転子の同心円上に均等角度間隔で配置された3つの前記センサデバイスを備え、前記各センサデバイスは、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を有する3つのブリッジ回路を備えるとともに、該各ブリッジ回路の出力する前記センサ信号が、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成されること、を要旨とする。
【0011】
即ち、センサデバイスにおいて、そのセンサ要素となるスピンバルブ型磁気抵抗素子を用いたブリッジ回路は、半導体プロセスを用いて形成可能である。そのため、これらが出力する各センサ信号間の位相差は、高精度に電気角で120°に管理することができる。そして、機械角120°の均等角度間隔で磁石回転子の同心円上に配置された各センサデバイスは、その磁石回転子の磁極数に関わらず、電気角換算での間隔が120×n°となる。
【0012】
従って、上記構成によれば、各センサデバイスが出力する三相のセンサ信号を、それぞれ他のセンサデバイスが出力するセンサ信号の何れかと重複させることができ、その重複する位相毎に平均化することにより、磁石回転子の回転に応じた歪みのない三相の正弦波形を得ることができる。その結果、簡素な構成にて、より高精度の回転角検出が可能になるとともに、その磁極数の変更に対しても高い柔軟性を持たせることができる。加えて、各センサデバイスの何れかに故障が生じた場合でも、その多重化の利点を活かして、残る二つのセンサデバイスが出力する各センサ信号により回転角検出を継続することができる。その結果、その信頼性を向上させることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記スピンバルブ型磁気抵抗素子は、トンネル磁気抵抗効果型素子であること、を要旨とする。
上記構成によれば、そのスピンバルブ型磁気抵抗素子として巨大磁気抵抗素子(GMR)を用いる場合よりも信号強度を高めることができる。その結果、より高精度の検出ができるようになる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記ブリッジ回路は、ハーフブリッジ回路であること、を要旨とする。
上記構成によれば、その構成の簡素化により、装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の回転角センサを備えたモータであること、を要旨とする。
上記構成によれば、より高精度の回転角検出が可能になる。その結果、そのトルクリップルを低減して、より円滑なモータ回転と高い静粛性を実現することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の回転角センサと、前記回転角センサから入力される前記センサ信号に基づき前記磁石回転子と一体に回転する回転軸の回転角を検出する検出手段とを備え、前記検出手段は、前記回転角センサから入力される各センサ信号を重複する位相毎に平均化することにより生成される三相の本信号に基づいて前記回転角を検出する回転角検出装置であること、を要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、各センサデバイスが出力する三相のセンサ信号を、それぞれ他のセンサデバイスが出力するセンサ信号の何れかと重複させることができ、その重複する位相毎に平均化することにより得られる磁石回転子の回転に応じた歪みのない三相の正弦波形に基づいて、その回転角検出を行なうことができる。その結果、簡素な構成にて、より高精度の回転角検出が可能になるとともに、その磁極数の変更に対しても高い柔軟性を持たせることができる。加えて、各センサデバイスの何れかに故障が生じた場合でも、その多重化の利点を活かして、残る二つのセンサデバイスが出力する各センサ信号により回転角検出を継続することができる。その結果、その信頼性を向上させることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の回転角検出装置によりモータの回転角を検出する電動パワーステアリング装置であること、を要旨とする。
上記構成によれば、モータのトルクリップルを低減して、高い静粛性と優れた操舵フィーリングを実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡素な構成にて高精度の回転角検出が可能であるとともに磁極数の変更に対しても高い柔軟性を有する磁気式の回転角センサ、その回転角センサを備えた及び回転角検出装置、並びに電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電動パワーステアリング装置の概略構成図。
【図2】モータの概略構成図。
【図3】(a)モータレゾルバ(回転角センサ)の平面図、(b)断面図。
【図4】(a)(b)一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を用いたハーフブリッジ回路の構成及びそのセンサ要素としての作用を示す説明図。
【図5】センサデバイスの概略構成図。
【図6】(a)(b)(c)センサデバイスが出力する三相のセンサ信号の波形図。
【図7】各センサデバイスが出力するセンサ信号間の位相の重複を示す波形図。
【図8】重複する位相毎の平均化により波形歪みが除去された本信号の波形図。
【図9】別例のセンサデバイスの概略構成図。
【図10】別例のセンサデバイスの概略構成図。
【図11】別例のセンサデバイスの概略構成図。
【図12】別例のセンサデバイスの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0022】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0023】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、減速機構13には、周知のウォーム&ホイールが採用されている。また、モータ12には、ブラシレスモータが採用されており、同モータ12は、ECU11から三相(U,V,W)の駆動電力の供給を受けることにより回転する。そして、EPSアクチュエータ10は、同モータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0024】
一方、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されている。そして、ECU11は、これらトルクセンサ14及び車速センサ15により検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、操舵系に付与すべきアシスト力(目標アシスト力)を演算、詳しくは、その検出される操舵トルクτ(の絶対値)が大きいほど、また車速Vが低いほど、より大きなアシスト力を操舵系に付与すべく目標アシスト力を演算する。
【0025】
また、ECU11は、モータ12に設けられたモータレゾルバ17が出力するセンサ信号に基づいて、同モータ12の回転角(電気角)θを検出する。即ち、本実施形態では、これらモータレゾルバ17(後述する回転角センサ35)及びECU11により、回転角検出装置が構成されている。そして、上記目標アシスト力に相当するモータトルクを発生させるべく、その検出される回転角θに基づいて、モータ12の各相に対して正弦波通電を行なうことにより、同モータ12を駆動源とするEPSアクチュエータ10の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する構成となっている。
【0026】
次に、本実施形態のモータ及びモータレゾルバに用いた回転角センサの構成について説明する。
図2に示すように、本実施形態のモータ12は、略円筒状に形成されたハウジング20の内周に固定されたステータ21と、同ステータ21の径方向内側において回転自在に支承されたロータ22とを備えてなる。
【0027】
ステータ21は、ハウジング20の内周から径方向内側に向って延設された複数のティース23にモータコイル24を巻回してなる。また、ロータ22は、回転軸25とともに一体回転するモータコア26の外周にマグネットを固定することにより形成される。詳しくは、ロータ22は、その周方向に沿って極性(N/S)の異なる磁極が交互に形成されるように着磁されたリングマグネット27をモータコア26に外嵌することにより形成されている。そして、同ロータ22は、その回転軸25がハウジング20に設けられた軸受28,29に軸支されることにより、上記ステータ21の径方向内側において回転自在に支承されている。
【0028】
即ち、このようにブラシレスモータとして構成された本実施形態のモータ12は、モータコイル24への通電によりステータ21側に回転磁界が形成されることにより、その回転磁界とリングマグネット27が形成する界磁磁束との関係に基づいてロータ22が回転する。また、本実施形態のモータ12では、上記回転軸25の一端をハウジング20の外部に突出させることにより出力部30が形成されている。そして、本実施形態では、この出力部30を介して、そのロータ22の回転により生ずるモータトルクを外部に出力することが可能となっている。
【0029】
また、本実施形態では、回転軸25には、その上記モータコア26よりも軸方向、出力部30側(同図中、上側)に、円盤状(円環状)に形成された磁石回転子としてのマグネットロータ31が固定されている。そして、上記モータレゾルバ17は、このマグネットロータ31が回転軸25とともに一体回転することにより生ずる磁束変化に基づいて、モータ12の回転角θを検出するように構成されている。
【0030】
詳述すると、本実施形態では、ハウジング20内には、その軸方向、上記モータコア26とマグネットロータ31との間の位置に、電子回路基板32が収容されている。そして、同電子回路基板32上(図2中、上側に面する実装面32a)には、その対向する位置に配置された上記マグネットロータ31の回転に伴い、その磁束変化に応じたセンサ信号を出力するセンサデバイス33が実装されている。
【0031】
具体的には、図3(a)(b)に示すように、所定の径方向幅を有して円環状に形成されたマグネットロータ31には、その周方向に沿って極性(N/S)の異なる磁極が交互に形成されている。そして、本実施形態では、このマグネットロータ31は、そのN極及びS極を合わせた磁極数が「10」に設定されている。尚、この図3(a)(b)においては、説明の便宜上、回転軸25に対してマグネットロータ31を一体回転可能に支持する部材の記載が省略されている。
【0032】
一方、電子回路基板32上には、その実装面32aに対向配置された上記マグネットロータ31の同心円上、詳しくは、その径方向幅の略中央部に相当する径方向位置(図3(a)中、破線に示す同心円L上)に、均等角度間隔(120°間隔)で3つのセンサデバイス33a,33b,33cが配置されている。そして、本実施形態のモータでは、これらマグネットロータ31及びセンサデバイス33(33a,33b,33c)により、上記モータレゾルバ17を構成する磁気式の回転角センサ35が形成されている。
【0033】
さらに詳述すると、本実施形態のセンサデバイス33(33a,33b,33c)は、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を有するブリッジ回路をセンサ要素として、その対向配置されたマグネットロータ31の回転に伴い正弦波状に変化するセンサ信号を出力するように構成されている。
【0034】
即ち、スピンバルブ型磁気抵抗素子は、スピン固定層の固定された磁化方向に対して、スピン自由層の磁化方向が通過磁束の向きに応じて変化することで、その抵抗値が変化する。具体的には、その通過磁束の向きがスピン固定層の磁化方向に近いほど、その抵抗値が低下する特性を有している。また、図4(a)(b)に示すように、そのスピン固定層の磁化方向(各図中、実線の各矢印が示す方向)が逆向きとなるように一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bを直列接続し、ハーフブリッジ回路38を形成することで、その接続点38aの電圧は、両者の抵抗値に基づく分圧となる。
【0035】
つまり、その通過磁束の向きに応じてハーフブリッジ回路38を構成する二つのスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bの抵抗値が変化することで、その接続点38aの電圧もまた変動する。そして、その接続点38aの電圧をセンサ信号として出力端子38bから出力することにより、同ハーフブリッジ回路38がセンサ要素として機能するのである。
【0036】
具体的には、図4(a)(b)に示されるハーフブリッジ回路38では、電源端子38c側のスピンバルブ型磁気抵抗素子37aは、そのスピン固定層の磁化方向が上記接続点38a側から電源端子38c側に向う方向となるように配置されている。そのため、このスピンバルブ型磁気抵抗素子37aの抵抗値は、図4(a)に示すように、その通過する磁束の向き(各図中、破線の矢印が示す方向)が接地端子38d側から電源端子38c側に向う方向である場合に最小化する。
【0037】
また、接地端子38d側のスピンバルブ型磁気抵抗素子37bは、そのスピン固定層の磁化方向が上記接続点38a側から接地端子38d側に向う方向となるように配置されている。そのため、このスピンバルブ型磁気抵抗素子37bの抵抗値は、図4(b)に示すように、その通過する磁束の向きが電源端子38c側から接地端子38d側に向う方向である場合に最小化する。
【0038】
従って、このハーフブリッジ回路38から出力されるセンサ信号のレベル(出力電圧)は、両スピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bを通過する磁束の向きが、図4(a)に示される方向(同図中、上向き)である場合に最大となり、その通過磁束の向きが、図4(b)に示される方向である場合(同図中、下向き)である場合に最小となる。
【0039】
本実施形態の回転角センサ35では、このようなハーフブリッジ回路38を備えた各センサデバイス33(33a,33b,33c)が、上記のようにマグネットロータ31の同心円上に配置される(図3(a)参照)。そして、マグネットロータ31の回転に伴って、そのハーフブリッジ回路38を通過する磁束の向きが回転することにより、各センサデバイス33(33a,33b,33c)が、それぞれ正弦波状に変化するセンサ信号を出力するようになっている。
【0040】
さらに詳述すると、図5に示すように、本実施形態のセンサデバイス33は、図4(a)(b)に示すハーフブリッジ回路38と同様の構成を有する3つのハーフブリッジ回路38u,38v,38wを備えている。
【0041】
本実施形態では、これらのハーフブリッジ回路38u,38v,38wは、その接地端子38d側に配置された各スピンバルブ型磁気抵抗素子37bの一端がスター結線により三相接続されている。また、これらのハーフブリッジ回路38u,38v,38wは、その接続点Nを中心として均等角度間隔(120°間隔)で配置されている。そして、本実施形態では、これにより、これらの各ハーフブリッジ回路38u,38v,38wの出力する各センサ信号Vu,Vv,Vwが、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成されている。
【0042】
尚、本実施形態では、これらのハーフブリッジ回路38u,38v,38wにおいては、その一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bとして、トンネル磁気抵抗効果型素子(TMR:Tunnel Magnetic Resistance)が用いられている。そして、本実施形態のセンサデバイス33では、半導体プロセスにより上記各ハーフブリッジ回路38u,38v,38wが形成されている。
【0043】
図3(a)に示すように、本実施形態では、各センサデバイス33a,33b,33cは、電子回路基板32上において、それぞれ、その直線状に延びるハーフブリッジ回路38uの延伸方向が、マグネットロータ31の径方向外側に向う方向に一致するように配置されている。尚、この場合における「ハーフブリッジ回路38uの延伸方向」とは、図5中に示されるハーフブリッジ回路38uにおいて、その接続点Nから電源端子38cに向う方向である。そして、本実施形態の回転角センサ35では、これにより、各センサデバイス33a,33b,33cが出力する三相のセンサ信号(Vu1,Vv1,Vw1)(Vu2,Vv2,Vw2)(Vu3,Vv3,Vw3)の位相が、図6(a)〜(c)に示すように、それぞれ、電気角で120×n°(「n」は整数)ずつずれるようになっている。
【0044】
即ち、図3(a)に示すように、マグネットロータ31が時計回り方向に回転する場合、センサデバイス33aを基準とすると、その他のセンサデバイス33b,33cは、それぞれセンサデバイス33aからその回転方向進行側に120°(機械角)ずつ離れた位置に配置されている。このため、これら各センサデバイス33a,33b,33cの電気角換算での間隔は、マグネットロータ31の磁極数に関わらず、120×n°となる。従って、センサデバイス33bが出力する各センサ信号Vu2,Vv2,Vw2、及びセンサデバイス33cが出力する各センサ信号Vu3,Vv3,Vw3は、センサデバイス33aが出力する各センサ信号Vu1,Vv1,Vw1に対し、その位相が、図6(a)〜(c)に示すように、電気角で120×n°ずつずれるのである。
【0045】
本実施形態のECU11には、このような各センサ信号Vu1,Vv1,Vw1,Vu2,Vv2,Vw2,Vu3,Vv3,Vw3が入力される。そして、これら各センサ信号に基づいて、そのモータ12の回転角θを検出する構成となっている。
【0046】
次に、本実施形態のECU11による回転角θの検出方法について説明する。
上記のように、センサデバイス33aが出力する各センサ信号Vu1,Vv1,Vw1、センサデバイス33bが出力する各センサ信号Vu2,Vv2,Vw2、及びセンサデバイス33cが出力する各センサ信号Vu3,Vv3,Vw3は、その位相が、それぞれ電気角で120×n°ずつずれている。
【0047】
即ち、これら各センサデバイス33a,33b,33cが出力する三相のセンサ信号は、図7に示すように、それぞれ、他のセンサデバイスが出力するセンサ信号の何れかと重複する位相を有するものとなっている。
【0048】
具体的には、センサデバイス33aのU相センサ信号(Vu1)は、センサデバイス33bのV相センサ信号(Vv2)及びセンサデバイス33cのW相センサ信号(Vw3)に対して、互いに重複する位相を有している。また、センサデバイス33aのV相センサ信号(Vv1)は、センサデバイス33bのW相センサ信号(Vw2)及びセンサデバイス33cのU相センサ信号(Vu3)に対して、互いに重複する位相を有している。そして、センサデバイス33aのW相センサ信号(Vw1)は、センサデバイス33bのW相センサ信号(Vu2)及びセンサデバイス33cのV相センサ信号(Vv3)に対して、互いに重複する位相を有している。
【0049】
本実施形態において検出手段を構成するECU11は、そのモータレゾルバ17(回転角センサ35)から入力される各センサ信号Vu1,Vv1,Vw1,Vu2,Vv2,Vw2,Vu3,Vv3,Vw3を、その重複する位相毎に仕分けする。そして、当該位相毎に、以下の(1)〜(3)式を用いて平均化することにより、図8に示すように、波形歪みが除去された三相の本信号Su,Sv,Swを得る。
【0050】
Su=(Vu1+Vv2+Vw3)/3 ・・・(1)
Sv=(Vv1+Vw2+Vu3)/3 ・・・(2)
Sw=(Vw1+Vu2+Vv3)/3 ・・・(3)
即ち、磁気式の回転角センサにおいては、その磁石回転子が形成する空間磁束密度分布の歪み、或いはセンサ要素を構成する個々の磁気検出素子間温度特性のばらつき等に起因した出力波形の歪みが問題となる。そこで、本実施形態では、その重複する位相毎に平均化することで、その波形歪みを補正する。そして、その補正が施された後の三相の本信号Su,Sv,Swに基づいて、モータ12(回転軸25)の回転角θを演算する。
【0051】
具体的には、先ず、次の(4)式により本信号Su,Sv,Swの振幅Aを演算する。
A=√((2/3)×(Su^2+Sv^2+Sw^2)) ・・・(4)
尚、この(4)式において「^2」は「二乗」の意味である。
【0052】
そして、本実施形態のECU11は、上記(4)式により得られる振幅A、及び各本信号Su,Sv,Swの値に基づいて、以下の(5)〜(7)式を解くことにより、モータ12の回転角θを演算する。
【0053】
Su=A×SIN(θ) ・・・(5)
Sv=A×SIN(θ+2/3π) ・・・(6)
Sw=A×SIN(θ+4/3π) ・・・(7)
また、本実施形態のECU11は、各センサデバイス33a,33b,33cについて、それぞれが出力する三相のセンサ信号Vu,Vv,Vwを用いた次の(8)式により得られる二乗平均Bを監視することにより、その故障判定を実行する。
【0054】
B=√(Vu^2+Vv^2+Vw^2) ・・・(8)
そして、何れかのセンサデバイスに故障が生じた場合には、残る二つのセンサデバイスが出力する各センサ信号Vu,Vv,Vwを用いることにより、その回転角検出を継続する構成となっている。
【0055】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)回転角センサ35は、周方向に沿って複数の磁極が形成されたマグネットロータ31と、そのマグネットロータ31の同心円上に均等角度間隔で配置された3つのセンサデバイス33(33a,33b,33c)とを備える。また、各センサデバイス33は、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bを有する3つのハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)を備える。そして、各センサデバイス33は、そのマグネットロータ31の回転に伴う磁束変化に基づき各ハーフブリッジ回路38が出力するセンサ信号Vu,Vv,Vwが、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成される。
【0056】
即ち、センサデバイス33において、そのセンサ要素となるスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bを用いた各ハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)は、半導体プロセスを用いて形成可能である。このため、これらが出力する各センサ信号Vu,Vv,Vw間の位相差は、高精度に電気角で120°に管理することができる。そして、機械角120°の均等角度間隔でマグネットロータ31の同心円上に配置された各センサデバイス33a,33b,33cは、同マグネットロータ31の磁極数に関わらず、その電気角換算での間隔が120×n°となる。
【0057】
従って、上記構成によれば、各センサデバイス33a,33b,33cが出力する三相のセンサ信号を、それぞれ他のセンサデバイスが出力するセンサ信号の何れかと重複させることができ、その重複する位相毎に平均化することにより、マグネットロータ31の回転に応じた歪みのない三相の正弦波形を得ることができる。その結果、簡素な構成にて、より高精度の回転角検出が可能になるとともに、その磁極数の変更に対しても高い柔軟性を持たせることができる。加えて、各センサデバイス33a,33b,33cの何れかに故障が生じた場合でも、その多重化の利点を活かして、残る二つのセンサデバイスが出力する各センサ信号により回転角検出を継続することができる。その結果、その信頼性を向上させることができる。
【0058】
(2)センサ要素を構成するスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bには、トンネル磁気抵抗効果型素子(TMR)が用いられる。
上記構成によれば、そのセンサ要素となるブリッジ回路をフルブリッジ化することなく、十分な信号強度を得ることができる。そして、これにより、その構成の簡素化が可能になるとともに、そのスピンバルブ型磁気抵抗素子として巨大磁気抵抗素子(GMR)を用いた場合との比較においても、より高精度の検出ができるようになる。
【0059】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明をEPS用のモータ12に設けられたモータレゾルバ17を構成する回転角センサ35に具体化したが、モータレゾルバ以外の回転角センサに適用してもよい。また、EPSに適用する場合においても、本実施形態のEPS1のような所謂コラム型に限らず、所謂ラックアシスト型や所謂ピニオン型等、その他の形式のEPSに具体化してもよい。
【0060】
・上記実施形態では、センサ要素を構成するスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bとして、トンネル磁気抵抗効果型素子(TMR)を用いたが、巨大磁気抵抗素子(GMR)を用いる構成であってもよい。
【0061】
・上記実施形態では、各ハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)において、電源端子38c側のスピンバルブ型磁気抵抗素子37aは、そのスピン固定層の磁化方向が上記接続点38a側から電源端子38c側に向う方向となるように配置される。そして、接地端子38d側のスピンバルブ型磁気抵抗素子37bは、そのスピン固定層の磁化方向が上記接続点38a側から接地端子38d側に向う方向となるように配置されることとした。
【0062】
しかし、これに限らず、両者のスピン固定層の磁化方向が逆向きとなれば、例えば、図9に示すセンサデバイス40のように、その各ハーフブリッジ回路38(38v,38u,38w)を形成する両スピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bにおいて、そのスピン固定層の磁化方向が、共に、その接続点38aに向う方向となるようにしてもよい。
【0063】
また、図10に示すセンサデバイス41のように、各ハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)の延伸方向(同図中、接続点Nからそれぞれ電源端子38cに向う方向)に対して、各スピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bにおけるスピン固定層の磁化方向が直交するようにしてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、ハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)をセンサ要素としてセンサデバイス33を構成した。しかし、これに限らず、フルブリッジ回路をセンサ要素としてセンサデバイスを構成してもよい。このように、フルブリッジ回路38uu,38vv,38wwをセンサ要素とすることで、その信号強度を高めることができる。そして、これにより、その検出精度の更なる向上を図ることができるようになる。
【0065】
具体的には、例えば、図11に示すセンサデバイス42では、スピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bの直列回路と、スピンバルブ型磁気抵抗素子37a´,37b´の直列回路とを並列接続することにより、3つのフルブリッジ回路38uu,38vv,38wwが形成されている。更に、各フルブリッジ回路38uu,38vv,38wwにおいて、並列配置されたスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37a´、及びスピンバルブ型磁気抵抗素子37b,37b´は、そのスピン固定層の磁化方向が、各直列回路の延伸方向(同図中、接続点Nからそれぞれ電源端子38cに向う方向)に沿って逆向きとなるように配置されている。そして、この例においては、これにより、各フルブリッジ回路38uu,38vv,38wwは、上記の各直列回路の接続点38a,38a´から延びる二つの出力端子38b,38b´の差動出力を、そのセンサ信号として出力することが可能となっている。
【0066】
尚、各フルブリッジ回路38uu,38vv,38wwを構成する各スピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37b,37a´,37b´の配置については、図12に示すセンサデバイス43のように、そのスピン固定層の磁化方向が、各直列回路の延伸方向(同図中、接続点Nからそれぞれ電源端子38cに向う方向)と直交する方向であってもよいことはいうまでもない。
【0067】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)周方向に沿って複数の磁極が形成された磁石回転子と、前記磁石回転子の同心円上に均等角度間隔で配置された3つの前記センサデバイスとを備え、前記各センサデバイスは、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を有する3つのブリッジ回路を備えるとともに、前記磁石回転子の回転に伴う磁束変化に基づき該各ブリッジ回路の出力する前記センサ信号が、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成された回転角センサを用いて、前記磁石回転子と一体に回転する回転軸の回転角を検出する回転角検出方法であって、前記各センサデバイスが出力する各センサ信号を重複する位相毎に仕分けし、その重複する位相毎に平均化することにより生成される三相の本信号に基づいて前記回転角を検出すること、を特徴とする回転角検出方法。これにより、簡素な構成で高精度の回転角検出が可能になるとともに磁極数の変更に対して高い柔軟性を確保することができる。
【符号の説明】
【0068】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、10…EPSアクチュエータ、11…ECU、12…モータ、17…モータレゾルバ、25…回転軸、26…モータコア、27…リングマグネット、31…マグネットロータ、33(33a,33b,33c),40,41,42,43…センサデバイス、35…回転角センサ、37a,37b…スピンバルブ型磁気抵抗素子、38(38u,38v,38w)…ハーフブリッジ回路、38uu,38vv,38ww…フルブリッジ回路、Vu,Vv,Vw,Vu1,Vv1,Vw1,Vu2,Vv2,Vw2,Vu3,Vv3,Vw3…センサ信号、Su,Sv,Sw…本信号、θ…回転角。
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンバルブ型磁気抵抗素子を用いた磁気式の回転角センサ、その回転角センサを備えたモータ及び回転角検出装置、並びに電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置(EPS)等、円滑な回転と高い静粛性とが要求される用途では、通常、各相(U,V,W)コイルに対し、それぞれ120°(電気角)の位相差を設けて正弦波通電を行なうことにより、そのモータの作動が制御される。このため、従来、そのモータレゾルバ(モータ回転角センサ)には、高精度の回転角検出が可能な巻線式のレゾルバを用いるのが一般的となっていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、巻線式のレゾルバには、その巻線を有するがゆえのデメリットとして、小型化が難しく、製造コストが高いという問題がある。そこで、近年、こうした巻線式のレゾルバに代わり得る高精度の回転角検出が可能な磁気式の回転角センサが提案されるようになっている。
【0004】
例えば、特許文献2には、ホール素子をセンサ要素としてセンサデバイスを形成するとともに、当該センサデバイスを磁石回転子の周方向に沿って複数箇所に配置し、各センサデバイスが出力する複数のセンサ信号を用いた補正を行なうことにより、その検出精度を高める方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献3の回転角検出装置は、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列に接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を有するフルブリッジ回路を形成するとともに、このフルブリッジ回路を二つ用いることにより、磁石回転子の回転に伴う磁束変化に基づいて、電気角で90°の位相差を有する二相のセンサ信号を出力可能なセンサデバイスを形成する。尚、この例においては、そのスピンバルブ型磁気抵抗素子として巨大磁気抵抗素子(GMR:Giant Magnetic Resistance)を用いたフルブリッジ回路が形成されている。そして、このような構成を有する二つのセンサデバイスを、磁石回転子の周方向において電気角換算で90×n°(「n」は整数)離れた位置に配置する構成が開示されている。
【0006】
即ち、このような構成を採用することで、各センサデバイスが出力する位相の異なる二つのセンサ信号は、それぞれ他方のセンサデバイスが出力する二つのセンサ信号と位相が重複することになる。従って、その位相が重複した双方のセンサ信号を当該重複する位相毎に平均化することにより波形歪みを除去することが可能になる。そして、その整形後の二相の本信号に基づいて回転角を検出することにより、その検出精度を大幅に向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−160099号公報
【特許文献2】特開2003−75108号公報
【特許文献3】特許第4273363号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このような構成を採用するとしてもなお、解決すべき課題は残されている。即ち、通常、磁気式の回転角センサをモータレゾルバに用いる場合、その用途に応じて磁石回転子の磁極数が変更される。具体的には、高トルクが要求される用途では多極化される一方、高速回転が要求される用途では比較的少ない磁極数が設定されやすい。しかしながら、このような磁極数の変更に対し、上記のような電気角換算で90×n°という二つのセンサデバイスの位置関係は必ずしも一様ではない。そのため、上記従来の構成では、その磁極数の変更に併せて、各センサデバイスの配置をも変更しなければならないという問題があり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、簡素な構成にて高精度の回転角検出が可能であるとともに磁極数の変更に対しても高い柔軟性を有する磁気式の回転角センサ、その回転角センサを備えたモータ及び回転角検出装置、並びに電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、周方向に沿って複数の磁極が形成された磁石回転子と、前記磁石回転子の回転に伴う磁束変化に基づくセンサ信号を出力するセンサデバイスとを備えた回転角センサにおいて、前記磁石回転子の同心円上に均等角度間隔で配置された3つの前記センサデバイスを備え、前記各センサデバイスは、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を有する3つのブリッジ回路を備えるとともに、該各ブリッジ回路の出力する前記センサ信号が、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成されること、を要旨とする。
【0011】
即ち、センサデバイスにおいて、そのセンサ要素となるスピンバルブ型磁気抵抗素子を用いたブリッジ回路は、半導体プロセスを用いて形成可能である。そのため、これらが出力する各センサ信号間の位相差は、高精度に電気角で120°に管理することができる。そして、機械角120°の均等角度間隔で磁石回転子の同心円上に配置された各センサデバイスは、その磁石回転子の磁極数に関わらず、電気角換算での間隔が120×n°となる。
【0012】
従って、上記構成によれば、各センサデバイスが出力する三相のセンサ信号を、それぞれ他のセンサデバイスが出力するセンサ信号の何れかと重複させることができ、その重複する位相毎に平均化することにより、磁石回転子の回転に応じた歪みのない三相の正弦波形を得ることができる。その結果、簡素な構成にて、より高精度の回転角検出が可能になるとともに、その磁極数の変更に対しても高い柔軟性を持たせることができる。加えて、各センサデバイスの何れかに故障が生じた場合でも、その多重化の利点を活かして、残る二つのセンサデバイスが出力する各センサ信号により回転角検出を継続することができる。その結果、その信頼性を向上させることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記スピンバルブ型磁気抵抗素子は、トンネル磁気抵抗効果型素子であること、を要旨とする。
上記構成によれば、そのスピンバルブ型磁気抵抗素子として巨大磁気抵抗素子(GMR)を用いる場合よりも信号強度を高めることができる。その結果、より高精度の検出ができるようになる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記ブリッジ回路は、ハーフブリッジ回路であること、を要旨とする。
上記構成によれば、その構成の簡素化により、装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の回転角センサを備えたモータであること、を要旨とする。
上記構成によれば、より高精度の回転角検出が可能になる。その結果、そのトルクリップルを低減して、より円滑なモータ回転と高い静粛性を実現することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の回転角センサと、前記回転角センサから入力される前記センサ信号に基づき前記磁石回転子と一体に回転する回転軸の回転角を検出する検出手段とを備え、前記検出手段は、前記回転角センサから入力される各センサ信号を重複する位相毎に平均化することにより生成される三相の本信号に基づいて前記回転角を検出する回転角検出装置であること、を要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、各センサデバイスが出力する三相のセンサ信号を、それぞれ他のセンサデバイスが出力するセンサ信号の何れかと重複させることができ、その重複する位相毎に平均化することにより得られる磁石回転子の回転に応じた歪みのない三相の正弦波形に基づいて、その回転角検出を行なうことができる。その結果、簡素な構成にて、より高精度の回転角検出が可能になるとともに、その磁極数の変更に対しても高い柔軟性を持たせることができる。加えて、各センサデバイスの何れかに故障が生じた場合でも、その多重化の利点を活かして、残る二つのセンサデバイスが出力する各センサ信号により回転角検出を継続することができる。その結果、その信頼性を向上させることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の回転角検出装置によりモータの回転角を検出する電動パワーステアリング装置であること、を要旨とする。
上記構成によれば、モータのトルクリップルを低減して、高い静粛性と優れた操舵フィーリングを実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡素な構成にて高精度の回転角検出が可能であるとともに磁極数の変更に対しても高い柔軟性を有する磁気式の回転角センサ、その回転角センサを備えた及び回転角検出装置、並びに電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電動パワーステアリング装置の概略構成図。
【図2】モータの概略構成図。
【図3】(a)モータレゾルバ(回転角センサ)の平面図、(b)断面図。
【図4】(a)(b)一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を用いたハーフブリッジ回路の構成及びそのセンサ要素としての作用を示す説明図。
【図5】センサデバイスの概略構成図。
【図6】(a)(b)(c)センサデバイスが出力する三相のセンサ信号の波形図。
【図7】各センサデバイスが出力するセンサ信号間の位相の重複を示す波形図。
【図8】重複する位相毎の平均化により波形歪みが除去された本信号の波形図。
【図9】別例のセンサデバイスの概略構成図。
【図10】別例のセンサデバイスの概略構成図。
【図11】別例のセンサデバイスの概略構成図。
【図12】別例のセンサデバイスの概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0022】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0023】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。尚、本実施形態では、減速機構13には、周知のウォーム&ホイールが採用されている。また、モータ12には、ブラシレスモータが採用されており、同モータ12は、ECU11から三相(U,V,W)の駆動電力の供給を受けることにより回転する。そして、EPSアクチュエータ10は、同モータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0024】
一方、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されている。そして、ECU11は、これらトルクセンサ14及び車速センサ15により検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、操舵系に付与すべきアシスト力(目標アシスト力)を演算、詳しくは、その検出される操舵トルクτ(の絶対値)が大きいほど、また車速Vが低いほど、より大きなアシスト力を操舵系に付与すべく目標アシスト力を演算する。
【0025】
また、ECU11は、モータ12に設けられたモータレゾルバ17が出力するセンサ信号に基づいて、同モータ12の回転角(電気角)θを検出する。即ち、本実施形態では、これらモータレゾルバ17(後述する回転角センサ35)及びECU11により、回転角検出装置が構成されている。そして、上記目標アシスト力に相当するモータトルクを発生させるべく、その検出される回転角θに基づいて、モータ12の各相に対して正弦波通電を行なうことにより、同モータ12を駆動源とするEPSアクチュエータ10の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する構成となっている。
【0026】
次に、本実施形態のモータ及びモータレゾルバに用いた回転角センサの構成について説明する。
図2に示すように、本実施形態のモータ12は、略円筒状に形成されたハウジング20の内周に固定されたステータ21と、同ステータ21の径方向内側において回転自在に支承されたロータ22とを備えてなる。
【0027】
ステータ21は、ハウジング20の内周から径方向内側に向って延設された複数のティース23にモータコイル24を巻回してなる。また、ロータ22は、回転軸25とともに一体回転するモータコア26の外周にマグネットを固定することにより形成される。詳しくは、ロータ22は、その周方向に沿って極性(N/S)の異なる磁極が交互に形成されるように着磁されたリングマグネット27をモータコア26に外嵌することにより形成されている。そして、同ロータ22は、その回転軸25がハウジング20に設けられた軸受28,29に軸支されることにより、上記ステータ21の径方向内側において回転自在に支承されている。
【0028】
即ち、このようにブラシレスモータとして構成された本実施形態のモータ12は、モータコイル24への通電によりステータ21側に回転磁界が形成されることにより、その回転磁界とリングマグネット27が形成する界磁磁束との関係に基づいてロータ22が回転する。また、本実施形態のモータ12では、上記回転軸25の一端をハウジング20の外部に突出させることにより出力部30が形成されている。そして、本実施形態では、この出力部30を介して、そのロータ22の回転により生ずるモータトルクを外部に出力することが可能となっている。
【0029】
また、本実施形態では、回転軸25には、その上記モータコア26よりも軸方向、出力部30側(同図中、上側)に、円盤状(円環状)に形成された磁石回転子としてのマグネットロータ31が固定されている。そして、上記モータレゾルバ17は、このマグネットロータ31が回転軸25とともに一体回転することにより生ずる磁束変化に基づいて、モータ12の回転角θを検出するように構成されている。
【0030】
詳述すると、本実施形態では、ハウジング20内には、その軸方向、上記モータコア26とマグネットロータ31との間の位置に、電子回路基板32が収容されている。そして、同電子回路基板32上(図2中、上側に面する実装面32a)には、その対向する位置に配置された上記マグネットロータ31の回転に伴い、その磁束変化に応じたセンサ信号を出力するセンサデバイス33が実装されている。
【0031】
具体的には、図3(a)(b)に示すように、所定の径方向幅を有して円環状に形成されたマグネットロータ31には、その周方向に沿って極性(N/S)の異なる磁極が交互に形成されている。そして、本実施形態では、このマグネットロータ31は、そのN極及びS極を合わせた磁極数が「10」に設定されている。尚、この図3(a)(b)においては、説明の便宜上、回転軸25に対してマグネットロータ31を一体回転可能に支持する部材の記載が省略されている。
【0032】
一方、電子回路基板32上には、その実装面32aに対向配置された上記マグネットロータ31の同心円上、詳しくは、その径方向幅の略中央部に相当する径方向位置(図3(a)中、破線に示す同心円L上)に、均等角度間隔(120°間隔)で3つのセンサデバイス33a,33b,33cが配置されている。そして、本実施形態のモータでは、これらマグネットロータ31及びセンサデバイス33(33a,33b,33c)により、上記モータレゾルバ17を構成する磁気式の回転角センサ35が形成されている。
【0033】
さらに詳述すると、本実施形態のセンサデバイス33(33a,33b,33c)は、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を有するブリッジ回路をセンサ要素として、その対向配置されたマグネットロータ31の回転に伴い正弦波状に変化するセンサ信号を出力するように構成されている。
【0034】
即ち、スピンバルブ型磁気抵抗素子は、スピン固定層の固定された磁化方向に対して、スピン自由層の磁化方向が通過磁束の向きに応じて変化することで、その抵抗値が変化する。具体的には、その通過磁束の向きがスピン固定層の磁化方向に近いほど、その抵抗値が低下する特性を有している。また、図4(a)(b)に示すように、そのスピン固定層の磁化方向(各図中、実線の各矢印が示す方向)が逆向きとなるように一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bを直列接続し、ハーフブリッジ回路38を形成することで、その接続点38aの電圧は、両者の抵抗値に基づく分圧となる。
【0035】
つまり、その通過磁束の向きに応じてハーフブリッジ回路38を構成する二つのスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bの抵抗値が変化することで、その接続点38aの電圧もまた変動する。そして、その接続点38aの電圧をセンサ信号として出力端子38bから出力することにより、同ハーフブリッジ回路38がセンサ要素として機能するのである。
【0036】
具体的には、図4(a)(b)に示されるハーフブリッジ回路38では、電源端子38c側のスピンバルブ型磁気抵抗素子37aは、そのスピン固定層の磁化方向が上記接続点38a側から電源端子38c側に向う方向となるように配置されている。そのため、このスピンバルブ型磁気抵抗素子37aの抵抗値は、図4(a)に示すように、その通過する磁束の向き(各図中、破線の矢印が示す方向)が接地端子38d側から電源端子38c側に向う方向である場合に最小化する。
【0037】
また、接地端子38d側のスピンバルブ型磁気抵抗素子37bは、そのスピン固定層の磁化方向が上記接続点38a側から接地端子38d側に向う方向となるように配置されている。そのため、このスピンバルブ型磁気抵抗素子37bの抵抗値は、図4(b)に示すように、その通過する磁束の向きが電源端子38c側から接地端子38d側に向う方向である場合に最小化する。
【0038】
従って、このハーフブリッジ回路38から出力されるセンサ信号のレベル(出力電圧)は、両スピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bを通過する磁束の向きが、図4(a)に示される方向(同図中、上向き)である場合に最大となり、その通過磁束の向きが、図4(b)に示される方向である場合(同図中、下向き)である場合に最小となる。
【0039】
本実施形態の回転角センサ35では、このようなハーフブリッジ回路38を備えた各センサデバイス33(33a,33b,33c)が、上記のようにマグネットロータ31の同心円上に配置される(図3(a)参照)。そして、マグネットロータ31の回転に伴って、そのハーフブリッジ回路38を通過する磁束の向きが回転することにより、各センサデバイス33(33a,33b,33c)が、それぞれ正弦波状に変化するセンサ信号を出力するようになっている。
【0040】
さらに詳述すると、図5に示すように、本実施形態のセンサデバイス33は、図4(a)(b)に示すハーフブリッジ回路38と同様の構成を有する3つのハーフブリッジ回路38u,38v,38wを備えている。
【0041】
本実施形態では、これらのハーフブリッジ回路38u,38v,38wは、その接地端子38d側に配置された各スピンバルブ型磁気抵抗素子37bの一端がスター結線により三相接続されている。また、これらのハーフブリッジ回路38u,38v,38wは、その接続点Nを中心として均等角度間隔(120°間隔)で配置されている。そして、本実施形態では、これにより、これらの各ハーフブリッジ回路38u,38v,38wの出力する各センサ信号Vu,Vv,Vwが、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成されている。
【0042】
尚、本実施形態では、これらのハーフブリッジ回路38u,38v,38wにおいては、その一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bとして、トンネル磁気抵抗効果型素子(TMR:Tunnel Magnetic Resistance)が用いられている。そして、本実施形態のセンサデバイス33では、半導体プロセスにより上記各ハーフブリッジ回路38u,38v,38wが形成されている。
【0043】
図3(a)に示すように、本実施形態では、各センサデバイス33a,33b,33cは、電子回路基板32上において、それぞれ、その直線状に延びるハーフブリッジ回路38uの延伸方向が、マグネットロータ31の径方向外側に向う方向に一致するように配置されている。尚、この場合における「ハーフブリッジ回路38uの延伸方向」とは、図5中に示されるハーフブリッジ回路38uにおいて、その接続点Nから電源端子38cに向う方向である。そして、本実施形態の回転角センサ35では、これにより、各センサデバイス33a,33b,33cが出力する三相のセンサ信号(Vu1,Vv1,Vw1)(Vu2,Vv2,Vw2)(Vu3,Vv3,Vw3)の位相が、図6(a)〜(c)に示すように、それぞれ、電気角で120×n°(「n」は整数)ずつずれるようになっている。
【0044】
即ち、図3(a)に示すように、マグネットロータ31が時計回り方向に回転する場合、センサデバイス33aを基準とすると、その他のセンサデバイス33b,33cは、それぞれセンサデバイス33aからその回転方向進行側に120°(機械角)ずつ離れた位置に配置されている。このため、これら各センサデバイス33a,33b,33cの電気角換算での間隔は、マグネットロータ31の磁極数に関わらず、120×n°となる。従って、センサデバイス33bが出力する各センサ信号Vu2,Vv2,Vw2、及びセンサデバイス33cが出力する各センサ信号Vu3,Vv3,Vw3は、センサデバイス33aが出力する各センサ信号Vu1,Vv1,Vw1に対し、その位相が、図6(a)〜(c)に示すように、電気角で120×n°ずつずれるのである。
【0045】
本実施形態のECU11には、このような各センサ信号Vu1,Vv1,Vw1,Vu2,Vv2,Vw2,Vu3,Vv3,Vw3が入力される。そして、これら各センサ信号に基づいて、そのモータ12の回転角θを検出する構成となっている。
【0046】
次に、本実施形態のECU11による回転角θの検出方法について説明する。
上記のように、センサデバイス33aが出力する各センサ信号Vu1,Vv1,Vw1、センサデバイス33bが出力する各センサ信号Vu2,Vv2,Vw2、及びセンサデバイス33cが出力する各センサ信号Vu3,Vv3,Vw3は、その位相が、それぞれ電気角で120×n°ずつずれている。
【0047】
即ち、これら各センサデバイス33a,33b,33cが出力する三相のセンサ信号は、図7に示すように、それぞれ、他のセンサデバイスが出力するセンサ信号の何れかと重複する位相を有するものとなっている。
【0048】
具体的には、センサデバイス33aのU相センサ信号(Vu1)は、センサデバイス33bのV相センサ信号(Vv2)及びセンサデバイス33cのW相センサ信号(Vw3)に対して、互いに重複する位相を有している。また、センサデバイス33aのV相センサ信号(Vv1)は、センサデバイス33bのW相センサ信号(Vw2)及びセンサデバイス33cのU相センサ信号(Vu3)に対して、互いに重複する位相を有している。そして、センサデバイス33aのW相センサ信号(Vw1)は、センサデバイス33bのW相センサ信号(Vu2)及びセンサデバイス33cのV相センサ信号(Vv3)に対して、互いに重複する位相を有している。
【0049】
本実施形態において検出手段を構成するECU11は、そのモータレゾルバ17(回転角センサ35)から入力される各センサ信号Vu1,Vv1,Vw1,Vu2,Vv2,Vw2,Vu3,Vv3,Vw3を、その重複する位相毎に仕分けする。そして、当該位相毎に、以下の(1)〜(3)式を用いて平均化することにより、図8に示すように、波形歪みが除去された三相の本信号Su,Sv,Swを得る。
【0050】
Su=(Vu1+Vv2+Vw3)/3 ・・・(1)
Sv=(Vv1+Vw2+Vu3)/3 ・・・(2)
Sw=(Vw1+Vu2+Vv3)/3 ・・・(3)
即ち、磁気式の回転角センサにおいては、その磁石回転子が形成する空間磁束密度分布の歪み、或いはセンサ要素を構成する個々の磁気検出素子間温度特性のばらつき等に起因した出力波形の歪みが問題となる。そこで、本実施形態では、その重複する位相毎に平均化することで、その波形歪みを補正する。そして、その補正が施された後の三相の本信号Su,Sv,Swに基づいて、モータ12(回転軸25)の回転角θを演算する。
【0051】
具体的には、先ず、次の(4)式により本信号Su,Sv,Swの振幅Aを演算する。
A=√((2/3)×(Su^2+Sv^2+Sw^2)) ・・・(4)
尚、この(4)式において「^2」は「二乗」の意味である。
【0052】
そして、本実施形態のECU11は、上記(4)式により得られる振幅A、及び各本信号Su,Sv,Swの値に基づいて、以下の(5)〜(7)式を解くことにより、モータ12の回転角θを演算する。
【0053】
Su=A×SIN(θ) ・・・(5)
Sv=A×SIN(θ+2/3π) ・・・(6)
Sw=A×SIN(θ+4/3π) ・・・(7)
また、本実施形態のECU11は、各センサデバイス33a,33b,33cについて、それぞれが出力する三相のセンサ信号Vu,Vv,Vwを用いた次の(8)式により得られる二乗平均Bを監視することにより、その故障判定を実行する。
【0054】
B=√(Vu^2+Vv^2+Vw^2) ・・・(8)
そして、何れかのセンサデバイスに故障が生じた場合には、残る二つのセンサデバイスが出力する各センサ信号Vu,Vv,Vwを用いることにより、その回転角検出を継続する構成となっている。
【0055】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)回転角センサ35は、周方向に沿って複数の磁極が形成されたマグネットロータ31と、そのマグネットロータ31の同心円上に均等角度間隔で配置された3つのセンサデバイス33(33a,33b,33c)とを備える。また、各センサデバイス33は、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bを有する3つのハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)を備える。そして、各センサデバイス33は、そのマグネットロータ31の回転に伴う磁束変化に基づき各ハーフブリッジ回路38が出力するセンサ信号Vu,Vv,Vwが、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成される。
【0056】
即ち、センサデバイス33において、そのセンサ要素となるスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bを用いた各ハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)は、半導体プロセスを用いて形成可能である。このため、これらが出力する各センサ信号Vu,Vv,Vw間の位相差は、高精度に電気角で120°に管理することができる。そして、機械角120°の均等角度間隔でマグネットロータ31の同心円上に配置された各センサデバイス33a,33b,33cは、同マグネットロータ31の磁極数に関わらず、その電気角換算での間隔が120×n°となる。
【0057】
従って、上記構成によれば、各センサデバイス33a,33b,33cが出力する三相のセンサ信号を、それぞれ他のセンサデバイスが出力するセンサ信号の何れかと重複させることができ、その重複する位相毎に平均化することにより、マグネットロータ31の回転に応じた歪みのない三相の正弦波形を得ることができる。その結果、簡素な構成にて、より高精度の回転角検出が可能になるとともに、その磁極数の変更に対しても高い柔軟性を持たせることができる。加えて、各センサデバイス33a,33b,33cの何れかに故障が生じた場合でも、その多重化の利点を活かして、残る二つのセンサデバイスが出力する各センサ信号により回転角検出を継続することができる。その結果、その信頼性を向上させることができる。
【0058】
(2)センサ要素を構成するスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bには、トンネル磁気抵抗効果型素子(TMR)が用いられる。
上記構成によれば、そのセンサ要素となるブリッジ回路をフルブリッジ化することなく、十分な信号強度を得ることができる。そして、これにより、その構成の簡素化が可能になるとともに、そのスピンバルブ型磁気抵抗素子として巨大磁気抵抗素子(GMR)を用いた場合との比較においても、より高精度の検出ができるようになる。
【0059】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明をEPS用のモータ12に設けられたモータレゾルバ17を構成する回転角センサ35に具体化したが、モータレゾルバ以外の回転角センサに適用してもよい。また、EPSに適用する場合においても、本実施形態のEPS1のような所謂コラム型に限らず、所謂ラックアシスト型や所謂ピニオン型等、その他の形式のEPSに具体化してもよい。
【0060】
・上記実施形態では、センサ要素を構成するスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bとして、トンネル磁気抵抗効果型素子(TMR)を用いたが、巨大磁気抵抗素子(GMR)を用いる構成であってもよい。
【0061】
・上記実施形態では、各ハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)において、電源端子38c側のスピンバルブ型磁気抵抗素子37aは、そのスピン固定層の磁化方向が上記接続点38a側から電源端子38c側に向う方向となるように配置される。そして、接地端子38d側のスピンバルブ型磁気抵抗素子37bは、そのスピン固定層の磁化方向が上記接続点38a側から接地端子38d側に向う方向となるように配置されることとした。
【0062】
しかし、これに限らず、両者のスピン固定層の磁化方向が逆向きとなれば、例えば、図9に示すセンサデバイス40のように、その各ハーフブリッジ回路38(38v,38u,38w)を形成する両スピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bにおいて、そのスピン固定層の磁化方向が、共に、その接続点38aに向う方向となるようにしてもよい。
【0063】
また、図10に示すセンサデバイス41のように、各ハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)の延伸方向(同図中、接続点Nからそれぞれ電源端子38cに向う方向)に対して、各スピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bにおけるスピン固定層の磁化方向が直交するようにしてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、ハーフブリッジ回路38(38u,38v,38w)をセンサ要素としてセンサデバイス33を構成した。しかし、これに限らず、フルブリッジ回路をセンサ要素としてセンサデバイスを構成してもよい。このように、フルブリッジ回路38uu,38vv,38wwをセンサ要素とすることで、その信号強度を高めることができる。そして、これにより、その検出精度の更なる向上を図ることができるようになる。
【0065】
具体的には、例えば、図11に示すセンサデバイス42では、スピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37bの直列回路と、スピンバルブ型磁気抵抗素子37a´,37b´の直列回路とを並列接続することにより、3つのフルブリッジ回路38uu,38vv,38wwが形成されている。更に、各フルブリッジ回路38uu,38vv,38wwにおいて、並列配置されたスピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37a´、及びスピンバルブ型磁気抵抗素子37b,37b´は、そのスピン固定層の磁化方向が、各直列回路の延伸方向(同図中、接続点Nからそれぞれ電源端子38cに向う方向)に沿って逆向きとなるように配置されている。そして、この例においては、これにより、各フルブリッジ回路38uu,38vv,38wwは、上記の各直列回路の接続点38a,38a´から延びる二つの出力端子38b,38b´の差動出力を、そのセンサ信号として出力することが可能となっている。
【0066】
尚、各フルブリッジ回路38uu,38vv,38wwを構成する各スピンバルブ型磁気抵抗素子37a,37b,37a´,37b´の配置については、図12に示すセンサデバイス43のように、そのスピン固定層の磁化方向が、各直列回路の延伸方向(同図中、接続点Nからそれぞれ電源端子38cに向う方向)と直交する方向であってもよいことはいうまでもない。
【0067】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)周方向に沿って複数の磁極が形成された磁石回転子と、前記磁石回転子の同心円上に均等角度間隔で配置された3つの前記センサデバイスとを備え、前記各センサデバイスは、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を有する3つのブリッジ回路を備えるとともに、前記磁石回転子の回転に伴う磁束変化に基づき該各ブリッジ回路の出力する前記センサ信号が、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成された回転角センサを用いて、前記磁石回転子と一体に回転する回転軸の回転角を検出する回転角検出方法であって、前記各センサデバイスが出力する各センサ信号を重複する位相毎に仕分けし、その重複する位相毎に平均化することにより生成される三相の本信号に基づいて前記回転角を検出すること、を特徴とする回転角検出方法。これにより、簡素な構成で高精度の回転角検出が可能になるとともに磁極数の変更に対して高い柔軟性を確保することができる。
【符号の説明】
【0068】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、10…EPSアクチュエータ、11…ECU、12…モータ、17…モータレゾルバ、25…回転軸、26…モータコア、27…リングマグネット、31…マグネットロータ、33(33a,33b,33c),40,41,42,43…センサデバイス、35…回転角センサ、37a,37b…スピンバルブ型磁気抵抗素子、38(38u,38v,38w)…ハーフブリッジ回路、38uu,38vv,38ww…フルブリッジ回路、Vu,Vv,Vw,Vu1,Vv1,Vw1,Vu2,Vv2,Vw2,Vu3,Vv3,Vw3…センサ信号、Su,Sv,Sw…本信号、θ…回転角。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に沿って複数の磁極が形成された磁石回転子と、前記磁石回転子の回転に伴う磁束変化に基づくセンサ信号を出力するセンサデバイスとを備えた回転角センサにおいて、
前記磁石回転子の同心円上に均等角度間隔で配置された3つの前記センサデバイスを備え、
前記各センサデバイスは、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を有する3つのブリッジ回路を備えるとともに、該各ブリッジ回路の出力する前記センサ信号が、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成されること、を特徴とする回転角センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転角センサにおいて、
前記スピンバルブ型磁気抵抗素子は、トンネル磁気抵抗効果型素子であること、
を特徴とする回転角センサ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の回転角センサにおいて、
前記ブリッジ回路は、ハーフブリッジ回路であること、
を特徴とする回転角センサ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の回転角センサを備えたモータ。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の回転角センサと、前記回転角センサから入力される前記センサ信号に基づき前記磁石回転子と一体に回転する回転軸の回転角を検出する検出手段とを備え、前記検出手段は、前記回転角センサから入力される各センサ信号を重複する位相毎に平均化することにより生成される三相の本信号に基づいて前記回転角を検出すること、を特徴とする回転角検出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の回転角検出装置によりモータの回転角を検出する電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
周方向に沿って複数の磁極が形成された磁石回転子と、前記磁石回転子の回転に伴う磁束変化に基づくセンサ信号を出力するセンサデバイスとを備えた回転角センサにおいて、
前記磁石回転子の同心円上に均等角度間隔で配置された3つの前記センサデバイスを備え、
前記各センサデバイスは、スピン固定層の磁化方向が逆向きとなるように直列接続された一対のスピンバルブ型磁気抵抗素子を有する3つのブリッジ回路を備えるとともに、該各ブリッジ回路の出力する前記センサ信号が、互いに電気角で120°の位相差を有するように構成されること、を特徴とする回転角センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転角センサにおいて、
前記スピンバルブ型磁気抵抗素子は、トンネル磁気抵抗効果型素子であること、
を特徴とする回転角センサ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の回転角センサにおいて、
前記ブリッジ回路は、ハーフブリッジ回路であること、
を特徴とする回転角センサ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の回転角センサを備えたモータ。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の回転角センサと、前記回転角センサから入力される前記センサ信号に基づき前記磁石回転子と一体に回転する回転軸の回転角を検出する検出手段とを備え、前記検出手段は、前記回転角センサから入力される各センサ信号を重複する位相毎に平均化することにより生成される三相の本信号に基づいて前記回転角を検出すること、を特徴とする回転角検出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の回転角検出装置によりモータの回転角を検出する電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−69635(P2011−69635A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218800(P2009−218800)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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