説明

回転角検出装置

【課題】 片方のレゾルバセンサが故障した場合でも、正常側のレゾルバセンサを用いて絶対角を検出する。
【解決手段】 回転部材を回転可能範囲にわたって回転させたときn回の周期波形信号を出力する第1レゾルバセンサとm(m≠n)回の周期波形信号を出力する第2レゾルバセンサとを備え、両レゾルバセンサの検出した相対角θa,θbの相対角差θabに基づいて回転部材の絶対角度θを算出する。また、回転部材の回転可能範囲を各レゾルバセンサの信号出力周期に応じた分割数で分割して得られる複数の分割領域のうちで、回転部材の回転位置が属する所属分割領域を各レゾルバセンサの信号出力の推移に基づいて導出する。片方のレゾルバセンサが故障したときには、正常側のレゾルバセンサの出力値と所属分割領域とから回転部材の絶対回転角度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾルバセンサを用いて回転部材の回転角度を検出する回転角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レゾルバセンサを用いて回転部材の絶対角度を検出する技術が知られている。例えば、特許文献1において提案された絶対回転角検出装置は、回転部材としてのロータにセンサAとセンサBとを設け、この2つのセンサA,Bの出力信号の位相差に基づいてロータの絶対回転角度を算出して車輪の転舵角を求める。
各センサA,Bは、ロータの回転に合わせて鋸歯形状の周期波形信号を出力するが、その周期が異なるように設定される。例えば、ロータが15回転するあいだ(転舵範囲)に、センサAは12周期分の信号を出力し、センサBは13周期分の信号を出力するように設定される。このため、センサAの信号とセンサBの信号との位相差は、ロータが15回回転する間、電気角で0度から360度まで周期性を有することなく単調に増加する。
従って、このセンサAの信号とセンサBの信号との位相差を求めることにより、ロータの絶対回転角度を検出することができる。
【特許文献1】特開2004−325182号公報
【発明の開示】
【0003】
しかしながら、こうした2つのセンサの周期波形信号の位相差に基づいて回転部材の絶対角度を検出する構成の場合、片方のセンサが故障したときには、位相差を算出することができず、絶対角度の検出が不能となってしまう。
【0004】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、片方のセンサが故障した場合でも、正常側のセンサを用いて絶対角度を検出することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、被検出対象となる回転部材を所定角度範囲回転させたときに、n回の周期波形信号を出力する第1レゾルバセンサと、上記回転部材を上記所定角度範囲回転させたときに、m(m≠n)回の周期波形信号を出力する第2レゾルバセンサと、上記第1レゾルバセンサの信号出力値と上記第2レゾルバセンサの信号出力値との出力差に基づいて上記回転部材の絶対回転角度を算出する絶対角度算出手段とを備えた回転角検出装置において、上記所定角度範囲を上記第1レゾルバセンサの信号出力周期に応じた分割数で分割して得られる複数の分割領域のうちで、上記回転部材の回転位置が属する所属分割領域を、上記第1レゾルバセンサの信号出力の推移に基づいて導出する第1所属分割領域導出手段と、上記所定角度範囲を上記第2レゾルバセンサの信号出力周期に応じた分割数で分割して得られる複数の分割領域のうちで、上記回転部材の回転位置が属する所属分割領域を、上記第2レゾルバセンサの信号出力の推移に基づいて導出する第2所属分割領域導出手段と、上記第1レゾルバセンサおよび上記第2レゾルバセンサの異常を検出する異常検出手段と、上記第1レゾルバセンサおよび上記第2レゾルバセンサのいずれか一方の異常が検出されたとき、上記異常が検出されていない方のレゾルバの信号出力の推移に基づいて導出した所属分割領域と信号出力値とに基づいて上記回転部材の絶対回転角度を算出する異常時絶対角度算出手段とを備えたことにある。
【0006】
この発明によれば、回転部材を所定範囲回転させたとき、第1レゾルバセンサはn回の周期波形信号を出力し、第2レゾルバセンサはm回の周期波形信号を出力する。二つのレゾルバセンサの信号出力値の差(位相差)を求めた場合、その出力差は、回転部材の広い回転範囲において回転部材の回転位置(回転角度)に一対一に対応する値となる。絶対角度算出手段は、この原理を利用して回転部材の絶対回転角度を算出する。
各レゾルバセンサは回転部材を所定範囲回転させたとき周期波形信号を出力することから、この信号出力が基準位置に対して何周期目のものなのかを認識できれば、片方のレゾルバセンサが故障しても正常側のレゾルバセンサだけで回転部材の絶対回転角度を検出することができる。
【0007】
そこで、この発明では、片方のレゾルバセンサの故障時に対処するために、第1所属分割領域導出手段および第2所属分割領域導出手段を備える。回転部材を所定範囲回転させたとき、第1レゾルバセンサはn回の周期波形信号を出力することから、第1所属分割領域導出手段は、所定角度範囲をその周期nに応じた分割数で分割して得られる複数の分割領域のうちで回転部材の回転位置が属している所属分割領域を導出する。
この所属分割領域は、両方のレゾルバセンサが正常であれば、その出力差から算出される絶対回転角度から求められるが、片方のレゾルバセンサが故障した場合には、求められない。そこで、この所属分割領域の導出にあたっては、第1レゾルバセンサの信号出力の推移に基づいて行う。例えば、信号出力波形に特徴点が現れるポイントを分割領域の境界に設定し、この特徴点を検出するたびに所属分割領域を変更していけばよい。この場合、両レゾルバセンサが正常であるときに回転部材の回転位置が属している所属分割領域を初期値として求めておき、この初期値に対して所属分割領域の変更を行っていくと良い。
【0008】
同様にして、第2所属分割領域導出手段も、所定角度範囲を第2レゾルバセンサの周期mに応じた分割数で分割して得られる複数の分割領域のうちで回転部材の回転位置が属している所属分割領域を第2レゾルバセンサの信号出力の推移に基づいて導出する。
【0009】
そして、異常検出手段により第1レゾルバセンサおよび第2レゾルバセンサのいずれか一方の異常が検出されたとき、異常時絶対角度算出手段は、異常が検出されていない方のレゾルバセンサの信号出力の推移に基づいて導出した所属分割領域と信号出力値とに基づいて回転部材の絶対回転角度(回転位置)を算出する。
【0010】
この結果、一対のレゾルバセンサの片方が故障しても、回転部材の絶対回転角度を算出することができる。
【0011】
本発明の他の構成は、上記nと上記mとの関係を、n=m+1としたことにある。
【0012】
この発明によれば、第1レゾルバセンサの信号出力と第2レゾルバセンサの信号出力とは、回転部材が所定角度回転してはじめて同位相となる。従って、両レゾルバセンサの信号出力差は、所定角度範囲内において周期性を有することなく単調に変化し、回転角度と一対一に対応したものとなる。この結果、所定角度範囲における絶対角度を良好に検出することができる。
【0013】
本発明の他の特徴は、上記第1レゾルバセンサおよび上記第2レゾルバセンサは、上記回転部材の回転位置に応じた周期波形信号として鋸歯形状の信号を出力し、上記第1所属分割領域導出手段および上記第2所属分割領域導出手段は、上記鋸歯形状信号における三角形頂点の通過を検出し、その三角形頂点の通過を検出するたびに上記回転部材の回転位置が隣接する分割領域に移動したとして所属分割領域を変更することにある。
この場合、上記鋸歯形状信号における三角形頂点の通過方向に基づいて、上記回転部材の所属分割範囲を決定するとよい。
【0014】
この発明によれば、回転部材を所定角度回転させたとき、第1レゾルバセンサはn回の鋸歯形状信号を出力し、同様に、第2レゾルバセンサはm回の鋸歯形状信号を出力する。そして、第1所属分割領域導出手段および上記第2所属分割領域導出手段は、それぞれレゾルバセンサの出力する鋸歯形状の信号における三角形頂点の通過を検出するたびに回転部材の回転位置が隣接する分割領域に移動したことを認識する。
レゾルバセンサの出力は、鋸歯形状信号の三角形頂点の通過時に大きく変動する。従って、三角形頂点の通過ポイントを検出しやすい。
また、レゾルバセンサの信号の推移から、鋸歯形状信号における三角形頂点の通過方向も容易に把握することができる。つまり、鋸歯形状信号は、回転部材の回転方向によって、その出力値の変化が異なるため、回転部材の回転方向を識別することができる。
この結果、回転部材の所属分割領域を適正に検出することができる。
【0015】
本発明の他の特徴は、上記回転部材は車両の操舵ハンドルと一体に回転する操舵軸であり、上記所定角度範囲は上記操舵ハンドルの回転可能範囲であることにある。
【0016】
この発明によれば、対となる一方のレゾルバセンサが故障しても、操舵ハンドルの操舵角を適正に検出することができるため、車両の安全性、信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、一実施形態としての回転角検出装置を備えた車両の操舵装置を示している。
【0018】
この車両の操舵装置は、運転者によって操舵操作される操舵操作装置10と、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を運転者の操舵操作に応じて転舵する転舵装置20とを機械的に分離したステアバイワイヤ方式を採用している。操舵操作装置10は、運転者によって回動操作される操作部としての操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は操舵入力軸12の上端に固定され、操舵入力軸12の下部には操舵反力用電動モータ13が組み付けられている。操舵反力用電動モータ13は、減速機構14を介して操舵入力軸12を軸線周りに回転駆動する。
【0019】
転舵装置20は、車両の左右方向に延びて配置されたラックバー21を備えている。このラックバー21の両端部には、図示省略したタイロッドおよびナックルアームを介して、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2が転舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、ラックバー21の軸線方向の変位により左右に転舵される。ラックバー21の外周上には、図示しないハウジングに組み付けられた転舵用電動モータ22が設けられている。転舵用電動モータ22の回転は、ねじ送り機構23により減速されるとともにラックバー21の軸線方向の変位に変換される。また、転舵装置20は、軸線周りに回転可能な操舵出力軸24も有している。操舵出力軸24の下端にはピニオンギヤ25が固定されており、同ピニオンギヤ25はラックバー21に設けたラック歯21aに噛み合っていて、操舵出力軸24の軸線周りの回転によりラックバー21が軸線方向に変位する。
【0020】
操舵入力軸12と操舵出力軸24との間には中間部材としてのケーブル31が配置されている。ケーブル31は、操舵入力軸12の軸線周りの回転を操舵出力軸24に伝達するものである。このケーブル31の上端の固定部材31aと操舵入力軸12の下端との間には第1電磁クラッチ32が配置されている。第1電磁クラッチ32は、通電状態にて切断状態に設定されてケーブル31と操舵入力軸12とを動力伝達不能に切り離し、非通電状態にて接続状態に設定されてケーブル31と操舵入力軸12とを動力伝達可能に連結する。ケーブル31の下端の固定部材31bと操舵出力軸24の上端との間には第2電磁クラッチ33が配置されている。第2電磁クラッチ33は、通電状態にて切断状態に設定されてケーブル31と操舵出力軸24とを動力伝達不能に切り離し、非通電状態にて接続状態に設定されてケーブル31と操舵出力軸24とを動力伝達可能に連結する。
【0021】
次に、操舵反力用電動モータ13、転舵用電動モータ22および電磁クラッチ32,33を制御する電気制御装置40について説明する。
電気制御装置40は、操舵ハンドル11の操舵角θを検出するための操舵角検出装置50と、操舵反力用電子制御ユニット(以下、操舵反力用ECUという)60と、前輪転舵用電子制御ユニット(以下、前輪転舵用ECUという)70とを備えている。
【0022】
操舵角検出装置50は、本発明の回転角検出装置に相当するものであり、第1レゾルバセンサ51と、第2レゾルバセンサ52と、絶対角検出用演算装置(以下、絶対角検出用ECUと呼ぶ)53とから構成される。
第1レゾルバセンサ51は、操舵入力軸12の中間部に設けられる第1レゾルバ51sと、第1レゾルバ51sの出力信号から相対角θaを検出する第1相対角検出回路51cとからなる。
第2レゾルバセンサ52は、第1レゾルバ51sと並んで操舵入力軸12の中間部に設けられる第2レゾルバ52sと、第2レゾルバ52sの出力信号から相対角θbを検出する第2相対角検出回路52cとからなる。
【0023】
第1レゾルバ51sおよび第2レゾルバ52sは、それぞれ環状のレゾルバロータ51sr,52srとレゾルバステータ51ss,52ssとを備える。各レゾルバ51s、52sにおいては、レゾルバロータ51sr,52srが操舵入力軸12の外周面上に固定されており、レゾルバステータ51ss,52ssがその内周面にレゾルバロータ51sr,52srの外周面が対向するように車体側に固定して設けられる。
第1レゾルバ51sおよび第2レゾルバ52sは、各レゾルバロータ51sr,52srに励磁コイルである1次巻線(図示略)が設けられ、各レゾルバステータ51ss,52ssに検出コイルである2次巻線(図示略)が複数設けられる。
【0024】
第1相対角検出回路51cおよび第2相対角検出回路52cは、それぞれ第1レゾルバ51sおよび第2レゾルバ52sの1次巻線を正弦波信号により励磁するとともに、その励磁信号による誘起電圧信号を複数の2次巻線から入力する。操舵入力軸12が回転して各レゾルバ51s,52sのレゾルバステータ51ss,52ssとレゾルバロータ51sr,52srとの位置関係が変化すると、2次巻線を通過する磁束が変化する。従って、1次巻線に印加される正弦波電圧と2次巻線に作用する誘起電圧との位相差を比較することにより、レゾルバステータ51ss,52ssとレゾルバロータ51sr,52srとの相対的な角度位置を検出することができる。
【0025】
操舵入力軸12は、図示しないストロークエンドにより、その軸線回りの回転が規制されている。この操舵入力軸12の回転可能範囲は、操舵ハンドル11の回転可能範囲と同一である。以下、この範囲を操舵可能範囲と呼ぶ。
操舵可能範囲は、本実施形態においては、操舵ハンドル11の中立位置を「0」とし、左方向の操舵限界角度−θmaxから右方向の操舵限界角度+θmaxまでとする。
【0026】
そして、第1相対角検出回路51cは、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程においてn回(本実施形態においては13回)の周期波形信号を出力するように構成される。
一方、第2相対角検出回路52cは、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程においてm回(本実施形態においては12回)の周期波形信号を出力するように構成される。つまり、第1相対角検出回路51cと第2相対角検出回路52cは、操舵ハンドル11を左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において周期波形信号の出力回数が1回だけ異なるように(n=m+1)位相差を設けて構成される。
【0027】
図9は、第1相対角検出回路51cおよび第2相対角検出回路52cの出力する周期波形信号を表す。横軸は、操舵ハンドル11の操舵角θ(絶対舵角θ)を表し、縦軸は、電気角を表す。図中、1点鎖線で表される信号波形は、第1相対角検出回路51cの出力する相対角θaを、2点鎖線で表される信号波形は、第2相対角検出回路52cの出力する相対角θbを表す。
相対角θaは、操舵可能範囲を値nで徐算した角度(2・θmax/n)を1周期(2π)とした電気角であり、第1レゾルバ51sのレゾルバステータ51ssに対するレゾルバロータ51srの相対的な位置を表す。同様に、相対角θbは、操舵可能範囲を値mで徐算した角度(2・θmax/m)を1周期(2π)とした電気角であり、第2レゾルバ52sのレゾルバステータ52ssに対するレゾルバロータ52srの相対的な位置を表す。
これに対して絶対舵角θは、操舵ハンドル11の中立位置を「0」として、この中立位置を基準とした操舵ハンドル11の機械的な回転角度(回転位置)を表す。
以下の説明において、相対角θaを表す第1相対角検出回路51cの出力信号を第1レゾルバセンサ51の出力信号θaと呼び、相対角θbを表す第2相対角検出回路52cの出力信号を第2レゾルバセンサ52の出力信号θbと呼ぶ。
【0028】
図9に示すように、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52の出力する周期波形信号θa,θbは、横軸に対して垂直な辺を有する直角三角形を複数連ねた鋸歯形状の信号として現れる。この鋸歯形状の信号波形の一山分が1周期となる。
第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52は、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmax位置に回された状態において、その出力が電気角で0ラジアンとなるようにそれぞれ設定される。また、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52は、操舵ハンドル11を左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において周期波形信号の出力回数が1回だけ異なるように設定されるため、操舵ハンドル11が右操舵限界角度+θmax位置にまで回されたときに、位相差がなくなって出力が同一値(電気角で2πラジアン)となる。従って、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52の出力値(相対角θa,θb)は、左右操舵限界のあいだとなる操舵可能範囲においては常に異なる値となる。
【0029】
第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52の出力信号θa,θbは、絶対角検出用ECU53に入力される。絶対角検出用ECU53は、マイクロコンピュータを主要部として構成され、この相対角θa,θbを用いて操舵ハンドル11の操舵角θ(絶対舵角)を算出する。この絶対角検出用ECU53が行う操舵角算出処理については後述する。
【0030】
操舵反力用ECU60は、マイクロコンピュータを主要部として構成され、運転者のハンドル操作に対して適切な操舵反力を発生させる制御装置で、絶対角検出用ECU53および車速センサ41を接続している。車速センサ41は、車速Vを表す検出信号を出力する。操舵反力用ECU60は、絶対角検出用ECU53で算出された操舵角θおよび車速センサ41により検出された車速Vに基づいて目標操舵反力を算出する。この目標操舵反力の算出に当たっては、図7に示す操舵反力テーブルを参照する。この操舵反力テーブルは、操舵反力用ECU60のROM内に記憶されるもので、複数の代表的な車速値ごとに、ハンドル操舵角θの増加に従って非線形増加する複数の目標操舵反力値が設定されている。
なお、この操舵反力テーブルを利用するのに代えて、操舵角θおよび車速Vに応じて変化する目標操舵反力値を関数により予め定義しておき、同関数を利用して目標操舵反力値を計算するようにしてもよい。
【0031】
操舵反力用ECU60は、計算した目標操舵反力に対応した駆動電流を図示しない駆動回路を介して操舵反力用電動モータ13に流す。これにより、操舵ハンドル11の回動操作に対して、操舵反力用電動モータ13による目標操舵反力が付与され、運転者は、適度な操舵反力を感じながら、操舵ハンドル11を回動操作できる。
尚、操舵反力用電動モータ13は、3相同期式永久磁石モータが使用され、2相回転磁束座標系で記述されるベクトル制御により回転制御される。この場合、2相・3相変換処理を行うためにモータ回転角に同期した信号を入力する必要がある。そこで、操舵反力用ECU60は、絶対角検出用ECU53から相対角θaあるいは相対角θbの信号を入力する。
【0032】
前輪転舵用ECU70は、マイクロコンピュータを主要部として構成され、運転者のハンドル操作に応じた舵角で前輪(転舵輪)を転舵する制御装置であり、絶対角検出用ECU53、車速センサ41、転舵角センサ43を接続する。
転舵角センサ43は、ラックバー21に組み付けられて、ラックバー21の軸線方向の変位を測定することにより、左右前輪FW1,FW2の実転舵角δを検出して出力する。なお、実転舵角δは、左右前輪FW1,FW2の中立位置を「0」とし、左右前輪FW1,FW2の右方向の転舵角を正の値で表し、左右前輪FW1,FW2の左方向の転舵角を負の値で表す。また、この転舵角センサ43を、操舵出力軸24の回転角を検出することにより、実転舵角δを検出するように構成してもよい。
【0033】
前輪転舵用ECU70は、絶対角検出用ECU53で算出されたハンドル操舵角θおよび車速センサ41により検出された車速Vに基づいて目標前輪転舵角を算出する。この目標前輪転舵角の算出に当たっては、図8に示す転舵角テーブルを参照する。この転舵角テーブルは、前輪転舵用ECU70のROM内に記憶されるもので、複数の代表的な車速値ごとに、ハンドル操舵角θの増加に従って非線形に増加するステヤバイワイヤ用の目標前輪転舵角が設定されている。この目標前輪転舵角のハンドル操舵角θに対する変化率は、ハンドル操舵角θの絶対値|θ|の小さな範囲内で小さく、ハンドル操舵角θの絶対値|θ|が大きくなると大きくなるように設定されている。なお、この転舵角テーブルを利用するのに代えて、ハンドル操舵角θと目標前輪転舵角との関係を示す関数を予め用意しておき、同関数を利用してステヤバイワイヤ用の目標前輪転舵角を計算するようにしてもよい。
【0034】
前輪転舵用ECU70は、転舵角センサ43により検出した実転舵角δが最終的な目標前輪転舵角に等しくなるように、その舵角差を用いて図示しない駆動回路を介して転舵用電動モータ22の回転を制御する。これにより、転舵用電動モータ22は回転駆動され、ねじ送り機構23を介してラックバー21を軸線方向に駆動して、左右前輪FW1,FW2を目標転舵角に転舵する。
【0035】
次に、操舵角検出装置50が行う操舵ハンドル11の操舵角検出処理について説明する。図2は、操舵角検出を行うに当たって、絶対角検出用ECU53が実施する初期設定処理を表すフローチャートである。この処理は、絶対角検出用ECU53のROM内に制御プログラムとして記憶され、車両のイグニッションスイッチがONしたときに実行される。
【0036】
車両のイグニッションスイッチがONして本初期設定ルーチンが起動すると、絶対角検出用ECU53は、ステップS11において、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52の出力信号θa,θbを読み込む。続いて、読み込んだ相対角θaが相対角θb以上であるか否かを判断し(S12)、θa≧θbである場合には(S12:YES)、θaからθbを減算した値を相対角差θab(=θa−θb)として算出する(S13)。一方、θa<θbである場合には(S12:NO)、θaからθbを減算し2πを加算した値を相対角差θab(=θa−θb+2π)として算出する(S14)。
【0037】
図9に示すように、操舵ハンドル11を左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において、第1レゾルバセンサ51はn回(13回)の鋸歯形状信号θaを出力し、第2レゾルバセンサ52はm回(12回)の鋸歯形状信号θbを出力する。従って、操舵可能範囲(−θmax〜+θmax)においては、操舵限界端を除いて、常に2つの出力信号θa,θbに位相差が発生する。操舵角θ(絶対舵角)は、この位相差に基づいて算出することができる。
【0038】
ここで、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxの位置から右方向に操舵操作されるケースを考える。第1レゾルバセンサ51の出力信号θaと第2レゾルバセンサ52の出力信号θbとの位相差は、左操舵限界角度−θmaxの位置を基準(位相差=0)とすると、右操舵方向に進むにつれて増大し、右操舵限界角度+θmaxの位置で最大の「2π」となり同位相に戻る。従って、操舵可能範囲における位相差がわかれば操舵角θを求めることができる。
【0039】
ステップS13,S14の処理は、この位相差を算出するものであるが、相対角θaと相対角θbとは、途中で大小関係が逆転する。そこで、相対角θaと相対角θbとの大小関係が逆転する場合(θa<θb)には、相対角差θabに2πを加算する。
従って、相対角差θabは、図9に破線にて示すように、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において、周期性を有することなく操舵角θに比例して「0」から「2π」まで直線的に増加する。これにより、相対角差θabを求めることで操舵ハンドル11の操舵角θを検出することができる。
【0040】
続いて、ステップS13あるいはステップS14にて求めた相対角差θabから操舵角θ(絶対舵角)を算出する(S15)。この操舵角θの算出は、図10に示す操舵角テーブルを参照して行う。この操舵角テーブルは、絶対角検出用ECU53のROM内に記憶され、操舵ハンドル11の操舵角θと相対角差θabとを関係付けたものである。
尚、操舵角θは、関数を用いて算出してもよい。例えば、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する回転角度を2・θmaxとすると、相対角差θabは、操舵ハンドル11が2・θmax回転する間に電気角で2π変化する。従って、操舵角θは次式のように算出することができる。
θ=θmax・θcb/π
【0041】
次に、絶対角検出用ECU53は、先のステップS15において算出した操舵角θが、第1レゾルバセンサ51の出力する鋸歯形状信号θaにおける何サイクル目に存在するのか、および、第2レゾルバセンサ52の出力する鋸歯形状信号θbにおける何サイクル目に存在するのかをそれぞれ判断するためのカウント値Na,Nbを決定する(S16)。
つまり、カウント値Naは、図9に示すように、操舵可能範囲(−θmax〜+θmax)を、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において、第1レゾルバセンサ51から周期波形信号θaが出力される回数n(=13)で等しく分割した範囲を分割領域として、操舵ハンドル11の回転位置(操舵角θ)が属している所属分割領域を特定する値となる。この場合、分割された各分割領域の機械角は、2・θmax/13となる。
このカウント値Naは、操舵ハンドル11の回転位置(操舵角θ)が左操舵限界角度−θmaxに最も近い分割領域に存在するときに値「0」に設定され、右操舵方向に進むほど「1」ずつ大きな値に設定される。従って、カウント値Naは、値「0」から値「12」までの13通りとなる。
【0042】
同様に、カウント値Nbは、操舵可能範囲(−θmax〜+θmax)を、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程において第2レゾルバセンサ52から周期波形信号が出力される回数m(=12)で等しく分割した範囲を分割領域として、その分割領域を特定する値となる。この場合、分割された各分割領域の機械角は、2・θmax/12となる。
このカウント値Nbは、操舵ハンドル11の回転位置(操舵角θ)が左操舵限界角度−θmaxに最も近い分割領域に存在するときに値「0」に設定され、右操舵方向に進むほど「1」ずつ大きな値に設定される。従って、カウント値Nbは、値「0」から値「11」までの12通りとなる。
以下、このカウント値Na,Nbを周期カウント値Na,Nbと呼ぶ。
【0043】
このステップS16においては、先のステップS15にて操舵角θが算出されているため、その操舵角θに基づいて周期カウント値Na,Nbが決定される。この周期カウント値Na,Nbは、絶対角検出用ECU53のRAM内に記憶される。
続いて、絶対角検出用ECU53は、ステップS17において、先のステップS15にて算出された操舵角θ(絶対舵角θ)を操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に出力する。また、ステップS18において、相対角θbを操舵反力用ECU60に出力する。
【0044】
この相対角θbは、操舵反力用ECU60が操舵反力用電動モータ13を2相回転磁束座標系で記述されるベクトル制御で駆動するときに、2相・3相変換処理を行うためにモータ回転角に同期した信号として利用される。従って、この相対角θbを出力する第2レゾルバセンサ52の信号出力周期を、操舵反力用電動モータ13の極数と対応させることが好ましい。尚、相対角θbに代えて相対角θaを出力するようにしてもよい。
こうしてステップS18の処理が完了すると、本制御ルーチンを終了する。
【0045】
次に、初期設定処理が完了した後の操舵角算出処理について説明する。図3は、絶対角検出用ECU53が実施する操舵角算出ルーチンを表すフローチャートである。この処理は、絶対角検出用ECU53のROM内に制御プログラムとして記憶され、初期設定処理が完了した後に所定の周期で繰り返し行われる。
【0046】
本操舵角算出ルーチンが起動すると、絶対角検出用ECU53は、ステップS21において、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52が共に正常であるか否かを判断する。この判断は、各レゾルバ51s、52sに設けられる巻線の端子電圧をチェックすることにより行う。各レゾルバ51s、52sに設けられる巻線に断線、ショート、絶縁不良等が発生した場合には、この巻線端子電圧が基準範囲から外れる。従って、このステップS21においては、第1相対角検出回路51cおよび第2相対角検出回路52cにより巻線端子電圧を検出し、検出電圧が基準範囲から外れているときにレゾルバ51s、52sが異常であると判断する。
【0047】
尚、各レゾルバセンサ51,52の異常検出に当たっては、相対角検出回路51c,52c自身の異常も含めて、絶対角検出用ECU53にて検出するようにしてもよい。例えば、相対角検出回路51c,52cの出力する周期波形信号の電圧値を絶対角検出用ECU53にてチェックし、その電圧値が基準範囲から外れたとき回路異常と判断してもよい。また、相対角検出回路51c,52ccの出力信号の波形から回路異常を判断してもよい。
【0048】
絶対角検出用ECU53は、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52が正常であると判断した場合には(S21:YES)、ステップS22に処理を進め、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52からそれぞれ相対角θa,θbを入力する。
続いて、相対角θaが相対角θb以上であるか否かを判断し(S23)、θa≧θbである場合には(S23:YES)、θaからθbを減算した値を相対角差θab(=θa−θb)として算出し(S24)、θa<θbである場合には(S23:NO)、θaからθbを減算し2πを加算した値を相対角差θab(=θa−θb+2π)として算出する(S25)。
【0049】
そして、相対角差θabが算出されると、この相対角差θabから操舵角θ(絶対舵角θ)を算出し(S26)、この算出した操舵角θを操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に出力する(S27)。また、相対角θbを操舵反力用ECU60に出力する(S28)。
尚、このステップS22〜S28の処理は、先に説明した初期設定処理におけるステップS12〜S18(ステップS16を除く)と同様な処理である。
【0050】
一方、ステップS21において、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52の少なくとも1つが異常であると判断された場合には、更に、第1レゾルバセンサ51が正常であるか否かを判断し(S29)、第1レゾルバセンサ51が正常である場合(S29:YES)、つまり、第2レゾルバセンサ52のみが異常である場合には、後述の第1異常ルーチンを実行する(S30)。
また、ステップS29において第1レゾルバセンサ51が正常でないと判断された場合には、ステップS31において、第2レゾルバセンサ52が正常か否かを判断する。第2レゾルバセンサ52が正常である場合(S31:YES)、つまり、第1レゾルバセンサ51のみが異常である場合には、後述の第2異常ルーチンを実行する(S32)。
【0051】
また、ステップS31において第2レゾルバセンサ52が正常でないと判断された場合には、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52の両方が異常であるため、ステップS33において、第1電磁クラッチ32および第2電磁クラッチ33に接続指令を出力する。この接続指令により、第1電磁クラッチ32は、ケーブル31と操舵入力軸12とを動力伝達可能に連結する。また、第2電磁クラッチ33は、ケーブル31と操舵出力軸24とを動力伝達可能に連結する。この結果、操舵入力軸12と操舵出力軸24とは、ケーブル31を介して動力伝達可能に連結される。従って、運転者の行う操舵ハンドル11の回動操作により、左右前輪FW1,FW2が直接転舵される状態に設定される。
【0052】
本制御ルーチンは所定の短い周期で繰り返し実行される。従って、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52が共に正常である間においては、ステップS22〜S28の処理が繰り返されて、算出した操舵ハンドル11の操舵角θが操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に出力される。また、第1レゾルバセンサ51のみが正常である間においては、第1異常ルーチンが繰り返され、第2レゾルバセンサ52のみが正常である間においては、第2異常ルーチンが繰り返される。また、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52の両方の異常が検出されているあいだは、第1電磁クラッチ32および第2電磁クラッチ33を接続して、運転者の操舵操作により左右前輪FW1,FW2が直接転舵される状態に設定される。
【0053】
次に、上述した操舵角算出ルーチンと並行して行われる相対角周期カウント処理について説明する。図4は、絶対角検出用ECU53が行う相対角周期カウントルーチンを表すフローチャートである。この処理は、絶対角検出用ECU53のROM内に制御プログラムとして記憶され、初期設定処理が完了した後に操舵角算出ルーチンと並行して所定の周期で繰り返し行われる。
【0054】
初期設定処理が完了して、本相対角周期カウントルーチンが起動すると、絶対角検出用ECU53は、ステップS41において第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52から相対角θa,θbを入力する。
続いて、ステップS42において、相対角θaの値が「2π」から「0」に変化したか否かを判断する。つまり、第1レゾルバセンサ51から出力される相対角θaを表す鋸歯形状の出力信号が、その波形頂点となる値「2π」から波形谷部となる値「0」に変化したか否かを判断する。例えば、図9の信号波形において、点Aが波形頂点、点Bが波形谷部となる。この場合、直前回検出した相対角θa(n-1)と今回検出した相対角θanとの関係から、波形頂点の通過を判断する。
【0055】
操舵ハンドルが右方向に回転した場合には、図9の矢印a1にて示すように、相対角θaは、波形頂点Aを通過するときに2π減少する。そこで、本実施形態においては、例えば、直前回検出した相対角θa(n-1)に対して、今回検出した相対角θanの値が所定値(例えば、π)以上減少した場合に、相対角θaの値が「2π」から「0」に変化したと判断する。この場合には、ステップS43において周期カウント値Naを1だけインクリメントする(Na=Na+1)。
【0056】
上述したように、周期カウント値Naは、操舵可能範囲(−θmax〜+θmax)をn等分(13等分)した分割領域のうち、操舵ハンドル11の回転位置(操舵角θ)が属している所属分割領域を特定する値である。従って、このステップS42において「YES」と判断された場合は、操舵ハンドル11の回転位置(操舵角θ)が属している所属分割領域が右回転方向に隣接する分割領域に移行したことを意味する。
また、ステップS42において、相対角θaの値が「2π」から「0」に変化していないと判断された場合には(S42:NO)、このステップS43の処理を飛ばす。
【0057】
続いて、絶対角検出用ECU53は、その処理をステップS44に進める。このステップS44では、相対角θaの値が「0」から「2π」に変化したか否かを判断する。つまり、第1レゾルバセンサ51から出力される相対角θaを表す鋸歯形状の出力信号が、その波形谷部Bとなる値「0」から波形頂点Aとなる値「2π」に変化したか否かを判断する。
この場合においても、直前回検出した相対角θa(n-1)と今回検出した相対角θanとの関係から、波形頂点Aの通過を判断する。
操舵ハンドル11が左方向に回転した場合には、図9の矢印a2にて示すように、相対角θaは、波形谷部Bを通過するときに2π増大する。そこで、本実施形態においては、例えば、直前回検出した相対角θa(n-1)に対して、今回検出した相対角θanの値が所定値(例えば、π)以上増大した場合に、相対角θaの値が「0」から「2π」に変化したと判断する。この場合には、ステップS45において周期カウント値Naを1だけディクリメントする(Na=Na−1)。
一方、ステップS44において、相対角θaの値が「0」から「2π」に変化していないと判断された場合には(S44:NO)、このステップS45の処理を飛ばす。
【0058】
続いて、絶対角検出用ECU53は、その処理をステップS46に進める。このステップS46では、相対角θbの値が「2π」から「0」に変化したか否かを判断する。つまり、第2レゾルバセンサ52から出力される相対角θbを表す鋸歯形状の出力信号が、その波形頂点となる値「2π」から波形谷部となる値「0」に変化したか否かを判断する。
この判断は、ステップS42と同様に、直前回検出した相対角θb(n-1)に対して、今回検出した相対角θbnの値が所定値(例えば、π)以上減少した場合に、相対角θbの値が「2π」から「0」に変化したと判断する。
【0059】
例えば、図9に示すように、相対角θbを表す出力信号が、矢印b1に沿って波形頂点Cから波形谷部Dに変化したときにステップS46の判断は「YES」となる。
この場合は、操舵ハンドル11の回転位置(操舵角θ)が属している所属分割領域が右回転方向に隣接する分割領域に移行したと判断して、ステップS47において周期カウント値Nbを1だけインクリメントする(Nb=Nb+1)。
一方、ステップS46において、相対角θbの値が「2π」から「0」に変化していないと判断された場合には(S46:NO)、このステップS47の処理を飛ばす。
【0060】
続いて、絶対角検出用ECU53は、その処理をステップS48に進める。このステップS48では、相対角θbの値が「0」から「2π」に変化したか否かを判断する。つまり、第2レゾルバセンサ52から出力される相対角θbを表す鋸歯形状の出力信号が、その波形谷部となる値「0」から波形頂点となる値「2π」に変化したか否かを判断する。
この判断は、ステップS44と同様に、直前回検出した相対角θb(n-1)に対して、今回検出した相対角θbnの値が所定値(例えば、π)以上増大した場合に、相対角θbの値が「0」から「2π」に変化したと判断する。
【0061】
例えば、図9に示すように、相対角θbを表す出力信号が、矢印b2に沿って波形谷部Dから波形頂点Cに変化したときにステップS48の判断は「YES」となる。
この場合は、操舵ハンドル11の回転位置(操舵角θ)が属している所属分割領域が左回転方向に隣接する分割領域に移行したと判断して、ステップS49において周期カウント値Nbを1だけディクリメントする(Nb=Nb−1)。
一方、ステップS48において、相対角θbの値が「0」から「2π」に変化していないと判断された場合には(S48:NO)、このステップS49の処理を飛ばす。
【0062】
続いて、絶対角検出用ECU53は、ステップS50において、ステップS41にて入力した相対角θa,θbを前回値として記憶更新する。従って、この記憶更新した相対角θa,θbが、次回の処理における直前回の相対角θa(n-1),θb(n-1)として使われることになる。
【0063】
ステップS50の処理が終了すると本制御ルーチンを一旦終了する。本制御ルーチンは繰り返し実行されることから、第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52の出力信号に基づいて、操舵ハンドル11の回転位置(操舵角θ)が属している所属分割領域を周期カウント値Na,Nbにより常に把握していることになる。そして、第1レゾルバセンサ51または第2レゾルバセンサ52が故障したときに、後述するように、この周期カウント値Naまたは周期カウント値Nbを使って操舵角θを検出する。
【0064】
次に、上述した操舵角算出ルーチンにおいて組み込まれる第1異常ルーチンについて説明する。この第1異常ルーチンは、第2レゾルバセンサ52の異常が検出されたときに実行される制御ルーチンで、図5に示すフローチャートに沿って処理される。
【0065】
この第1異常ルーチンが開始されると、絶対角検出用ECU53は、ステップS61において、第1レゾルバセンサ51から相対角θaを入力する。続いて、ステップS62において、相対角θaの絶対角相当量Δθを算出する。
第1レゾルバセンサ51では、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程においてn回(n=13)の周期波信号θaを出力する。従って、第1レゾルバセンサ51の出力信号θaの1周期分の角度(相対角θaにおける2π分の角度)は、操舵ハンドル11の機械舵角2・θmax/nに相当する。従って、相対角θaにおける絶対角相当量Δθは、次式のように表すことができる。
Δθ=(2・θmax/n)×(θa/2π)=(θmax・θa)/(n・π)
尚、絶対角相当量Δθの算出にあたっては、相対角θaと絶対角相当量Δθとを関係付けるテーブルを用意しておいて、このテーブルを参照して求めるようにしてもよい。
【0066】
続いて、絶対角検出用ECU53は、その処理をステップS63に進める。このステップS63においては、先の相対角周期カウントルーチンにて求めた周期カウント値Naと、ステップS62にて算出した相対角θaの絶対角相当量Δθを使って、次式(1)により操舵ハンドル11の操舵角θ(絶対舵角θ)を算出する。
θ=−θmax+(2・θmax/n)・Na+Δθ …(1)
【0067】
第1レゾルバセンサ51の出力する周期波形信号θaは、同じ分割領域内では周期性を有さず単調に増加するため、異なる操舵角θに対しては同一の値を出力しない。そのため、操舵ハンドル11の回転位置(操舵角θ)が属している所属分割領域が分かれば、その所属分割領域の原点(図9における各分割領域の左端の絶対舵角)に相対角θaの絶対角相当量Δθを加算することで絶対舵角θを算出することができる。また、分割領域はカウント値Naで特定されるため、所属分割領域の原点の絶対角度は、−θmax+(2・θmax/n)・Naとして表される。
従って、操舵ハンドルの操舵角θは上記式(1)にて算出することができる。
【0068】
次に、絶対角検出用ECU53は、ステップS64において、算出した操舵角θを操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に出力する。また、ステップS65において、相対角θaを操舵反力用ECU60に出力する。この相対角θaは、操舵反力用ECU60が操舵反力用電動モータ13を2相回転磁束座標系で記述されるベクトル制御で駆動するときに、2相・3相変換処理を行うためにモータ回転角に同期した信号として利用される。
尚、操舵反力用電動モータ13は、相対角θbを回転角度信号として制御されるため、このステップS65においては、相対角θaを相対角θb相当の回転角度に変換した信号を出力する。
【0069】
こうしてステップS65の処理が終了すると、第1異常ルーチンを一旦終了する。この第1異常ルーチンは図3に示す操舵角算出制御ルーチンに組み込まれるため、繰り返し実行される。従って、第2レゾルバセンサ52が途中で故障した場合においても、第1レゾルバセンサ51に基づいて操舵ハンドル11の操舵角θを検出することができる。
【0070】
次に、第2異常ルーチンについて説明する。この第2異常ルーチンは、操舵角算出ルーチンにおいて組み込まれ、第1レゾルバセンサ51の異常が検出されたときに実行される制御ルーチンで、図6に示すフローチャートに沿って処理される。
尚、この第2異常ルーチンは、上述した第1異常ルーチンに対して、扱う信号が異なるのみで操舵角θの計算手法は同様であるため、簡単な説明にとどめる。
【0071】
この第2異常ルーチンが開始されると、まず、ステップS71において、第2レゾルバセンサ52から相対角θbを入力する。続いて、ステップS72において、相対角θbの絶対角相当量Δθを算出する。
第2レゾルバセンサ52では、操舵ハンドル11が左操舵限界角度−θmaxから右操舵限界角度+θmaxまで回転する過程においてm回(m=12)の周期波信号を出力する。従って、相対角θbにおける絶対角相当量Δθは、次式のように表すことができる。
Δθ=(2・θmax/m)×(θb/2π)=(θmax・θb)/(m・π)
尚、絶対角相当量Δθの算出にあたっては、相対角θbと絶対角相当量Δθとを関係付けるテーブルを用意しておいて、このテーブルを参照して求めるようにしてもよい。
【0072】
続いて、絶対角検出用ECU53は、ステップS73において、先の相対角周期カウントルーチンにて求めたカウント値Nbと、ステップS72にて算出した相対角θbの絶対角相当量Δθを使って、次式により操舵ハンドル11の操舵角θを算出する。
θ=−θmax+(2・θmax/m)・Nb+Δθ …(2)
続いて、絶対角検出用ECU53は、ステップS74において、算出した操舵角θを操舵反力用ECU60および前輪転舵用ECU70に出力する。また、ステップS75において、相対角θbを操舵反力用ECU60に出力する。この相対角θbは、操舵反力用ECU60が操舵反力用電動モータ13を2相回転磁束座標系で記述されるベクトル制御で駆動するときに、2相・3相変換処理を行うためにモータ回転角に同期した信号として利用される。
【0073】
こうしてステップS75の処理が終了すると、第2異常ルーチンを一旦終了する。この第2異常ルーチンは図3に示す操舵角算出制御ルーチンに組み込まれるため、繰り返し実行される。従って、第1レゾルバセンサ51が途中で故障した場合においても、第2レゾルバセンサ52に基づいて操舵ハンドル11の操舵角θを検出することができる。
【0074】
以上本実施形態の車両の操舵装置によれば、操舵可能範囲(−θmax〜+θmax)を第1レゾルバセンサ51および第2レゾルバセンサ52の信号出力周期に対応した分割数で分割した分割領域を設定し、車両起動時において、相対角差θabから算出した操舵角θに基づいて操舵ハンドル11の回転位置がどの分割領域に属するかを判断する。
そして、操舵ハンドル11の回転操作により、その所属分割領域が変更されるたびに、所属分割領域を記憶する周期カウント値Na,Nbを増減変更していく。従って、走行途中で一方のレゾルバセンサ51(52)が故障しても、正常側のレゾルバセンサ51(52)の相対角θa(θb)と周期カウント値Na(Nb)とから操舵ハンドル11の絶対舵角θを算出することができる。
【0075】
また、両方のレゾルバセンサ51,52が故障した場合には、電磁クラッチ32,33の作動により操舵入力軸12と操舵出力軸24とを連結するため、操舵ハンドル11の回動操作により左右前輪FW1,FW2を直接転舵することができる。
これらの結果、ステアバイワイヤ方式の操舵装置の信頼性を向上することができ、車両の安全性向上を図ることができる。
【0076】
以上、本発明の回転角検出装置の実施形態として操舵装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、車両の転舵装置の回転角度検出に適用したが、なんら適用対象を限定するものではない。例えば、電動モータの回転角度検出装置等に適用しても良い。
【0077】
また、本実施形態において、車両起動時からカウント値Na,Nbを用いて所属分割領域を記憶更新しているが、例えば、一方のレゾルバセンサの故障を検出したときに、相対角θa,θbの相対角差θabから操舵ハンドルの回転位置に対応する分割領域を検出し、その後、正常側のレゾルバセンサの出力する相対角の推移に基づいて所属分割領域を更新(周期カウント値の増減変更)していくようにしてもよい。つまり、2つのレゾルバセンサの正常時においては分割領域の検出を行わす、レゾルバセンサの故障が検出されてから分割領域の検出および更新を行うようにしてもよい。
【0078】
尚、本実施形態における絶対角検出用ECU53が行う操舵角算出ルーチンにおけるステップS21〜S27の処理が本発明の絶対角度算出手段に相当し、絶対角検出用ECU53が行う相対角周期カウントルーチンにおけるステップS42〜S45の処理が本発明の第1所属分割領域導出手段に相当し、絶対角検出用ECU53が行う相対角周期カウントルーチンにおけるステップS46〜S49の処理が本発明の第2所属分割領域導出手段に相当し、絶対角検出用ECU53が行う操舵角算出ルーチンにおけるステップS21,S29,S31の処理が本発明の異常検出手段に相当し、絶対角検出用ECU53が行う第1異常ルーチンおよび第2異常ルーチンが本発明の異常時絶対角度算出手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施形態としての回転角検出装置を備えた車両の操舵装置の全体概略図である。
【図2】初期設定ルーチンを表すフローチャートである。
【図3】操舵角算出ルーチンを表すフローチャートである。
【図4】相対角周期カウントルーチンを表すフローチャートである。
【図5】第1異常ルーチンを表すフローチャートである。
【図6】第2異常ルーチンを表すフローチャートである。
【図7】操舵角から目標操舵反力を算出するためのテーブルを表す説明図である。
【図8】操舵角から目標前輪転舵角を算出するためのテーブルを表す説明図である。
【図9】相対角、絶対舵角、相対角差、分割領域を表す説明図である。
【図10】相対角差から操舵角を算出するための操舵角テーブルを表す説明図である。
【符号の説明】
【0080】
10…操舵操作装置、11…操舵ハンドル、12…操舵入力軸、13…操舵反力用電動モータ、20…転舵装置、22…転舵用電動モータ、24…転舵出力軸、40…電気制御装置、50…操舵角検出装置、51…第1レゾルバセンサ、51s…第1レゾルバ、51c…第1相対角検出回路、52…第2レゾルバセンサ、52s…第2レゾルバ、52c…第2相対角検出回路、53…絶対角検出用ECU、θ…操舵角(絶対舵角)、θa,θb…相対角、θab…相対角差、Na,Nb…周期カウント値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出対象となる回転部材を所定角度範囲回転させたときに、n回の周期波形信号を出力する第1レゾルバセンサと、
上記回転部材を上記所定角度範囲回転させたときに、m回(m≠n)の周期波形信号を出力する第2レゾルバセンサと、
上記第1レゾルバセンサの信号出力値と上記第2レゾルバセンサの信号出力値との出力差に基づいて上記回転部材の絶対回転角度を算出する絶対角度算出手段と
を備えた回転角検出装置において、
上記所定角度範囲を上記第1レゾルバセンサの信号出力周期に応じた分割数で分割して得られる複数の分割領域のうちで、上記回転部材の回転位置が属する所属分割領域を、上記第1レゾルバセンサの信号出力の推移に基づいて導出する第1所属分割領域導出手段と、
上記所定角度範囲を上記第2レゾルバセンサの信号出力周期に応じた分割数で分割して得られる複数の分割領域のうちで、上記回転部材の回転位置が属する所属分割領域を、上記第2レゾルバセンサの信号出力の推移に基づいて導出する第2所属分割領域導出手段と、
上記第1レゾルバセンサおよび上記第2レゾルバセンサの異常を検出する異常検出手段と、
上記第1レゾルバセンサおよび上記第2レゾルバセンサのいずれか一方の異常が検出されたとき、上記異常が検出されていない方のレゾルバの信号出力の推移に基づいて導出した所属分割領域と信号出力値とに基づいて上記回転部材の絶対回転角度を算出する異常時絶対角度算出手段と
を備えたことを特徴とする回転角検出装置。
【請求項2】
上記nと上記mとの関係を、n=m+1としたことを特徴とする請求項1記載の回転角検出装置。
【請求項3】
上記第1レゾルバセンサおよび上記第2レゾルバセンサは、上記回転部材の回転位置に応じた周期波形信号として鋸歯形状の信号を出力し、
上記第1所属分割領域導出手段および上記第2所属分割領域導出手段は、上記鋸歯形状信号における三角形頂点の通過を検出し、その三角形頂点の通過を検出するたびに上記回転部材の回転位置が隣接する分割領域に移動したとして所属分割領域を変更することを特徴とする請求項1または2記載の回転角検出装置。
【請求項4】
上記鋸歯形状信号における三角形頂点の通過方向に基づいて、上記回転部材の所属分割領域を決定することを特徴とする請求項3記載の回転角検出装置。
【請求項5】
上記回転部材は車両の操舵ハンドルと一体に回転する操舵軸であり、上記所定角度範囲は上記操舵ハンドルの回転可能範囲であることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか一項記載の回転角検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−333658(P2007−333658A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168235(P2006−168235)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】