説明

回転軸の軸方向変位測定装置、スケール部および角度スケール部

【課題】回転軸の軸方向の変位(アキシャルモーション)の測定精度を向上させることができる回転軸の軸方向変位測定装置、スケール部および角度スケール部を提供すること。
【解決手段】アキシャルスケール吸収部52は、主軸2の外周面の円周方向に連続して凹設された断面V字形状の溝であり、アキシャルスケール反射部53は、主軸2の外周面の円周方向に連続して延設される円筒面である。そのアキシャルスケール吸収部52とアキシャルスケール反射部53とは交互に配設されている。よって、主軸2が軸心Tを中心として回転している状態において、アキシャルスケール吸収部52でレーザー光線L1が吸収または拡散されて、アキシャルスケール反射部53でレーザー光線L1が反射回折される。その反射回折されたレーザー光線L1を照射部31で測定することで主軸2の軸心T方向の変位を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸の軸方向変位測定装置に関し、特に、回転軸の軸方向変位に対する出力特性の変動を抑えることで、回転軸の軸方向変位の測定精度を向上させることができる回転軸の軸方向変位測定装置、スケール部および角度スケール部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転軸の軸方向変位を測定する測定装置として、回転軸に非接触とすることで回転軸への影響を除去して、回転軸の軸方向変位を測定する回転軸の軸方向変位測定装置が知られている。その内の1つに回転軸の静電容量を測定する静電容量型変位計がある。
【0003】
例えば、特開昭59−153143号公報には、静電容量型変位計を用いて、回転軸の軸方向の運動(軸方向の変位、アキシャルモーション)を検出(測定)する技術が記載されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭59−153143号公報([第2カラム])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術では、静電容量型変位計を用いているため、回転軸と静電容量型変位計の測定プローブとの間に介在する物質(気体、液体)の温度変化によって測定プローブが検出する静電容量が変動して、回転軸の変位に対する静電容量型変位計の出力特性が変動する。そのため、特に、長時間の計測では、回転軸が回転することにより発生する摩擦熱などの影響で回転軸と静電容量型変位計の測定プローブとの間に介在する物質(気体、液体)の温度が変動して、回転軸の変位に関係なく測定プローブが検出する静電容量が変動していた。その結果、回転軸の変位に対する静電容量の出力特性が変動し、測定精度が悪化するという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、回転軸の変位に対する出力特性の変動を抑えることで、回転軸の軸方向の変位(アキシャルモーション)の測定精度を向上させることができる回転軸の軸方向変位測定装置、スケール部および角度スケール部を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために請求項1記載の回転軸の軸方向変位測定装置は、光線を照射する照射部と、その照射部により照射された光線を反射回折すると共に回転軸に取着されるスケール部と、そのスケール部によって反射回折された光線の強さを測定するエンコーダ受光部とを備え、前記スケール部は、前記照射部より照射された光線を吸収拡散するか透過させる複数のスケール吸収部と、それら複数のスケール吸収部の間に交互に配設されると共に前記光線を反射する複数のスケール反射部とを備え、前記エンコーダ受光部は、前記光線の強さを測定するA相受光部と、そのA相受光部と同時に前記光線を測定できる範囲内に配設されその範囲内で前記スケール部の移動方向に前記A相受光部と位置を違えて配設されると共に前記光線の強さを測定するB相受光部とを備える回転軸の軸方向変位測定装置であって、前記スケール吸収部は、環状に構成され、前記スケール反射部は、前記スケール吸収部に対して軸心を共有する環状に構成されると共に前記スケール吸収部の前記軸心方向に並んで配設されている。
【0007】
請求項2記載の回転軸の軸方向変位測定装置は、請求項1記載の回転軸の軸方向変位測定装置において、前記エンコーダ受光部を複数備え、それら複数のエンコーダ受光部の内の少なくとも1つは、その他のエンコーダ受光部から前記軸心方向に位置を違えて配設されている。
【0008】
請求項3記載の回転軸の軸方向変位測定装置は、請求項1記載の回転軸の軸方向変位測定装置において、前記エンコーダ受光部を複数備え、それら複数のエンコーダ受光部の内の少なくとも1つは、前記軸心を挟んでその他のエンコーダ受光部に対向する位置に配設されている。
【0009】
請求項4記載の回転軸の軸方向変位測定装置は、請求項1から3のいずれかに記載の回転軸の軸方向変位測定装置において、前記照射部により照射された光線を反射回折すると共に回転軸に取着される角度スケール部を備え、前記角度スケール部は、略円筒状に構成され、前記照射部より照射された光線を吸収拡散するか透過させる複数の角度スケール吸収部と、前記角度スケール部の円周方向でそれら複数の角度スケール吸収部の間に交互に配設されると共に前記光線を反射する複数の角度スケール反射部とを備え、前記角度スケール反射部および角度スケール吸収部は、前記角度スケール部の外周面上であって前記軸心方向にそれぞれ平行に配設されている。
【0010】
請求項5記載の回転軸は、請求項1から3のいずれかに記載のスケール部が取着されている。
【0011】
請求項6記載の回転軸は、請求項4記載の角度スケール部が取着されている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の回転軸の軸方向変位測定装置によれば、照射部からスケール部に光線が照射される。スケール部のスケール吸収部に照射された光線は、スケール吸収部に吸収拡散され、スケール部のスケール反射部に照射された光線は、スケール反射部にて反射され、エンコーダ受光部にて測定される。そのため、照射部およびエンコーダ受光部の位置が固定された状態で、複数のスケール吸収部および、それら複数のスケール吸収部の間毎に交互に配設される複数のスケール反射部が、スケール吸収部とスケール反射部とを結ぶ方向に移動された場合には、スケール反射部にて反射される光線も同じ方向に同じ距離だけ移動する。
【0013】
よって、複数のスケール反射部の間毎には、複数のスケール吸収部が配設されているので、エンコーダ受光部にて測定される光線の強さが変化する。その光線の強さの変化の回数を測定することで、照射部およびエンコーダ受光部に対するスケール部の変位を測定することができる。
【0014】
また、A相受光部およびB相受光部は、それぞれが同時に光線を測定できる範囲内に配設され、その範囲内でそれぞれが配設される位置がスケール部の移動方向に対して異なる。よって、スケール部がA相受光部からB相受光部へ向かう方向に移動すると、A相受光部が光線を測定した後に、A相受光部およびB相受光部が同時に光線を測定して、その後、B相受光部が光線を測定する。
【0015】
一方、スケール部がB相受光部からA相受光部へ向かう方向に移動すると、B相受光部が光線を測定した後にB相受光部およびA相受光部が同時に光線を測定して、その後、A相受光部が光線を測定する。
【0016】
このように、スケール部の移動方向によりA相受光部およびB相受光部の光線を測定する順番が変わることを利用して、照射部およびエンコーダ受光部に対してのスケール部の移動方向を判別する。
【0017】
上述したように、光線の強さの変化の回数を測定することと、A相受光部およびB相受光部が光線を測定する順番によってスケール部の移動方向を判別することで、照射部およびエンコーダ受光部に対しての変位を測定する。
【0018】
ここで、本発明によれば、スケール吸収部は、環状に構成され、スケール反射部は、スケール吸収部に対して軸心を共有する環状に構成されると共にスケール吸収部の軸心方向へ並んで配設されているので、回転軸の軸方向の変位(アキシャルモーション)を測定することができる。
【0019】
即ち、スケール吸収部およびスケール反射部を回転軸に取り付け、回転軸を照射部およびエンコーダ受光部に対して回転させると、スケール反射部は、スケール吸収部に対して軸心を共有する環状に構成されると共にスケール吸収部の軸心方向に並んで配設されているので、照射部から照射された光線を回転軸が回転する間連続してエンコーダ受光部に反射する。
【0020】
そのため、エンコーダ受光部にて測定される光線の強さの変化を、回転軸が回転する間連続して測定することができるので、その光線の強さの変化の回数を測定することと、スケール部の移動方向を判別することで、照射部およびエンコーダ受光部に対するスケール部の変位を測定することができる。よって、回転軸が回転する間の変位を、回転軸の軸方向の変位(アキシャルモーション)として測定することができる。
【0021】
このように、回転軸の軸方向の変位(アキシャルモーション)を、スケール反射部の変位による光線の強さの変化によって測定しているので、長時間の測定においても回転軸と静電容量型変位計の測定プローブとの間に介在する物質(気体、液体)の電気的特性(誘電率)の変化に影響されることなく、回転軸の変位に対する出力特性の変動を抑えて、回転軸の軸方向の変位(アキシャルモーション)を測定することができる。よって、長時間の測定において、回転軸の軸方向の変位(アキシャルモーション)の測定精度を向上させることができるという効果がある。
【0022】
請求項2記載の回転軸の軸方向変位測定装置によれば、請求項1記載の回転軸の軸方向変位測定装置の奏する効果に加え、それら複数のエンコーダ受光部の内の少なくとも1つは、その他のエンコーダ受光部から軸心方向に位置を違えて配設されているので、スケール部の長さ変化が加味された測定データを得ることができる。その測定データを基に計算処理することで、測定データの精度向上を図ることができるという効果がある。
【0023】
即ち、回転軸の温度が変化して回転軸の軸方向の長さが変化した場合には、回転軸に取着されるスケール部も同様に軸方向の長さが変化する。そのため、スケール部の長さ変化分だけスケール部を構成するスケール吸収部またはスケール反射部が一対のエンコーダ受光部の光線の受光領域を横切る。よって、一対のエンコーダ受光部が受光する光線の強さが変化してスケール部の長さ変化が加味された測定データを得ることができる。その測定データを基に計算処理することで、測定データの精度向上を図ることができるという効果がある。なお、回転軸の軸方向の長さの変化は、測定精度への影響度合いが大きいので、測定データの精度向上を図る上での効果が大きいのである。
【0024】
請求項3記載の回転軸の軸方向変位測定装置によれば、請求項1記載の回転軸の軸方向変位測定装置の奏する効果に加え、複数のエンコーダ受光部の内の少なくとも1つは、軸心を挟んでその他のエンコーダ受光部に対向する位置に配設されているので、回転軸の外周面であって、一の外周面の一部および一の外周面に対して軸心を挟んで配設される他の外周面の一部に光線を照射することができる。
【0025】
これら一の外周面の一部および他の外周面の一部は、回転軸の軸心を挟んで配設されているので、回転軸の軸心が傾くと互いに反対の向きに変位する。よって、一対のエンコーダ受光部の一方のエンコーダ受光部の測定データに、傾きによる変化分が加算された場合には、他方のエンコーダ受光部の測定データには、傾きによる変化分が減算される。また、逆に、一対のエンコーダ受光部の一方のエンコーダ受光部の測定データに、傾きによる変化分が減算された場合には、他方のエンコーダ受光部の測定データには、傾きによる変化分が加算される。
【0026】
このように、一対のエンコーダ受光部の測定データには、傾きによる変化分が加算(減算)され、他方のエンコーダ受光部の測定データには、減算(加算)されるので、一方のエンコーダ受光部の測定データと他方エンコーダ受光部の測定データとの平均を取ることで、軸の傾きによる変化分を相殺した測定データを得ることができる。
【0027】
その結果、軸の傾きによる測定データの変化分を回転軸の軸方向の変位から差し引いて、回転軸の軸方向の変位(アキシャルモーション)の測定精度を向上させることができるという効果がある。
【0028】
請求項4記載の回転軸の軸方向変位測定装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の回転軸の軸方向変位測定装置の奏する効果に加え、回転軸の回転角度を精度よく計測することができるという効果がある。
【0029】
即ち、照射部から角度スケール吸収部に照射された光線は、角度スケール吸収部に吸収拡散され、照射部から角度スケール反射部に照射された光線は、角度スケール反射部にて反射され、エンコーダ受光部にて測定される。
【0030】
そのため、照射部およびエンコーダ受光部の位置が固定された状態で、複数の角度スケール吸収部と、それら複数の角度スケール吸収部の間に交互に配設される複数の角度スケール反射部とが、角度スケール吸収部と角度スケール反射部とを結ぶ方向(角度スケール部の円周方向)に移動された場合には、角度スケール反射部にて反射された光線も同じ回転方向に同じ角度だけ移動する。
【0031】
よって、複数の角度スケール反射部の間毎には、複数の角度スケール吸収部が配設されているので、エンコーダ受光部にて測定される光線の強さが角度スケール部の回転に応じて変化する。その光線の強さの変化の回数を測定することで照射部およびエンコーダ受光部に対する角度スケール部の角変位を測定することができる。
【0032】
例えば、角度スケール反射部および角度スケール吸収部が軸心を中心とする放射状に延設されている場合には、回転軸の軸方向の変位(アキシャルモーション)によって、角度スケール反射部および角度スケール吸収部とエンコーダ受光部との間の距離が変化する。この場合、その距離の変化によりエンコーダ受光部で受光される光線の強さが変化して、測定の精度が悪化するという問題点が生じる。
【0033】
ここで、本発明では、角度スケール反射部および角度スケール吸収部が軸心方向にそれぞれ平行に配設されているので、回転軸が軸方向に変位した場合には、角度スケール反射部および角度スケール吸収部とエンコーダ受光部との間の距離が変化することを防止することができる。よって、回転軸の軸方向の変位(アキシャルモーション)の影響を受けることなく、回転軸の回転角度を精度よく計測することができるという効果がある。
【0034】
請求項5記載の回転軸によれば、請求項1から3のいずれかに記載のスケール部が取着されている回転軸と同等の効果がある。
【0035】
請求項6記載の回転軸によれば、請求項4記載の回転軸の角度スケール部が取着されている回転軸と同等の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、軸方向変位測定装置1が取り付けられた磁気軸受100の構成について説明する。図1は、本発明の一実施の形態における磁気軸受100の概略を示した概略図であり、図面の簡素化のために、アキシャル軸受AEおよびラジアル軸受REを支持する土台を省略して図示している。なお、図1に示す矢印X,Yは、主軸2の径方向を示し、矢印Zは、主軸2の軸心T方向を示している。この磁気軸受100は、磁力によって主軸2を浮かせた状態で軸支する軸受であり、その磁力の強さを調整することで、主軸2を支持する位置を制御する。
【0037】
磁気軸受100は、図1に示すように、主軸2と、一対のラジアル軸受REと、アキシャル軸受AEと、一対の軸方向変位測定装置1と、一対の軸心振れ測定装置4とを備えている。
【0038】
主軸2は、略円柱形状に構成され端部に取着される工具ホルダーにてエンドミルやドリルなどの切削工具を保持する軸であり、モータ3の回転軸と一体に構成されており、そのモータ3により駆動力が伝達されて回転する。また、主軸2は、軸心T方向両側(図1Z方向両側)に一対のアキシャルスケール基体部50を備えている。なお、アキシャルスケール基体部50の構成については、図4(a)及び図4(b)を参照して後述する。
【0039】
ラジアル軸受REは、主軸2のラジアル方向(図1矢印X,Y方向)の位置を制御する軸受であり、ロータRERとステータRESとを備えている。ロータRERは、リング状に構成され、主軸2の外周面から張り出している強磁性体である。そのロータRERの外側には、主軸2の周方向に90度間隔でステータRESが配設されている。なお、ステータRESは、電磁石として構成されている。そして、ステータRESに電流を流して発生する磁力を調節しロータRERの位置を制御する。
【0040】
また、一対のラジアル軸受REは、図1に示すように、主軸2の両側(図1矢印Z方向両側)にそれぞれ1個ずつ配設されている。よって、主軸2を安定して保持することができる。
【0041】
アキシャル軸受AEは、主軸2のアキシャル方向(図1矢印Z方向)の位置を制御する軸受であり、ロータAERと二対のステータAESとを備えている。ロータAERは、リング状に構成され、主軸2の外周面から張り出している強磁性体である。
【0042】
二対のステータAESは、軸心Tを挟んで両側(図1矢印X方向両側)に配設される。各一対のステータAESは、ロータAERの両側(図1矢印Z方向両側)にそれぞれ配設される電磁石であり、それぞれのステータAESから発生される磁力により、ロータAERの位置を制御する。よって、主軸2のアキシャル方向(図1矢印Z方向)の位置が制御される。
【0043】
また、ロータAERは、後述する一対のアキシャルヘッド部60の間の位置に配設されており、一方のアキシャルヘッド部60から軸心T方向に距離W1、他方のアキシャルヘッド部60から軸心T方向に距離W2の位置に配設されている。
【0044】
軸方向変位測定装置1は、図1に示すように、主軸2のアキシャル方向(図1矢印Z方向)の変位を測定する測定装置であり、後述するレーザー光線L1を照射するアキシャルヘッド部60と、そのアキシャルヘッド部60から照射されたレーザー光線L1を反射または吸収するアキシャルスケール部51とを備えている。
【0045】
また、軸方向変位測定装置1は、主軸2の両端(図1矢印Z方向両端)にそれぞれ1個ずつ配設されており、主軸2の2箇所の軸方向(図1矢印Z方向)の変位データを測定することができる。よって、主軸2の温度が変化して、主軸2の軸方向(図1矢印Z方向)の長さが変化した場合でも、その長さ変化を検出して、その長さ変化分を取り除き主軸2の軸方向(図1矢印Z方向)の変位を精度よく測定することができる。
【0046】
その結果、主軸2の軸方向(図1矢印Z方向)の変位の測定データを基にアキシャル軸受AEを精度よく制御することができる。詳細については、図4を参照して軸方向変位測定装置1の測定について説明した後に、再度図1を参照して後述する。
【0047】
軸心振れ測定装置4は、図1に示すように、主軸2のラジアル方向(図1矢印X,Y方向)の変位を測定する測定装置であり、後述するレーザー光線L1を照射するラジアルヘッド部20と、そのラジアルヘッド部20から照射されたレーザー光線L1を反射または吸収するラジアルスケール基体部10とを備えている。
【0048】
また、軸心振れ測定装置4は、主軸2の両端にそれぞれ1個ずつ配設されており、主軸2の2箇所の径方向(図1矢印X,Y方向)の変位データを測定することができるので、主軸2の振れと傾きとの両方を測定することができる。その結果、主軸2の2箇所の径方向(図1矢印X,Y方向)の変位の測定データを基に一対のラジアル軸受REをそれぞれ制御して、主軸2の振れと傾きとの両方を制御することができる。
【0049】
次いで、図2を参照して、軸心振れ測定装置4の構成について説明する。図2(a)は、図1のIIa−IIa線における磁気軸受100の断面図であり、軸心振れ測定装置4が図示されている。なお、理解を容易とするために、ラジアルスケール吸収部12にハッチングを施している。また、図面を簡素化するために、ラジアルヘッド部20が取り付けられアキシャル軸受AEおよびラジアル軸受REを支持する土台の図示を省略している。
【0050】
図2(b)は、図2(a)のIIb−IIb線における軸心振れ測定装置4の断面の概略を示した概略断面図である。なお、理解を容易とするために、寸法Sの尺度のみ拡大して図示している。
【0051】
図2(a)及び図2(b)に示す矢印Xは、ラジアルスケール基体部10の半径方向を示しており、矢印Yは、ラジアルスケール基体部10の半径方向で矢印Xに直交する方向を示しており、矢印Zは、ラジアルスケール基体部10が取り付けられている主軸2の軸心Tの方向を示している。
【0052】
なお、ラジアルヘッド部20から照射されたレーザー光線L1を実線で、ラジアルスケール基体部10にて反射回折されたレーザー光線L2を破線で示している。また、ラジアルスケール吸収部12及びラジアルスケール反射部13は、理解を容易とするためにそれぞれ6個ずつ図示しているが、実際には、もっと細かな間隔で複数配設されている。
【0053】
軸心振れ測定装置4は、アキシャル軸受AEおよびラジアル軸受REを支持する土台に対する主軸2の径方向の変位を測定するものであり、その主軸2の軸心Tにラジアルスケール基体部10の中心Cを一致させることでラジアルスケール基体部10の中心Cを主軸2の軸心Tと見なし、ラジアルスケール基体部10の軸心Tに直交する方向の変位を測定することにより、主軸2の軸心Tの振れを測定するものである。
【0054】
図2(a)及び図2(b)に示すように、軸心振れ測定装置4は、レーザー光線L1を照射すると共に後述するレーザー光線L2を受光するラジアルヘッド部20と、そのラジアルヘッド部20のレーザー光線L1を照射する側(図2(b)下側)に配設されるラジアルスケール基体部10とを備えている。
【0055】
図2(a)及び図2(b)に示すように、ラジアルスケール基体部10は、アルミニウム素材から略円形の板状体に構成されている。そのラジアルスケール基体部10の軸心Tと、主軸2の軸心Tとは、同一とされている。その円板の一対の円形面上の内の一方の円形面(以下、「測定面」と称す。)には、ラジアルスケール部11が形成されている。
【0056】
また、図2(b)に示すように、上述したラジアルヘッド部20は、測定面から軸心T方向で主軸2の端部側(図2(b)矢印Z方向上側)に寸法Sの距離に配設されている。なお、本実施の形態において、寸法Sは、約2mm〜約4mmの範囲に設定され、ラジアルスケール基体部10の直径D1(図2(a)参照)は、約50mmに設定されている。
【0057】
図2(b)に示すように、ラジアルスケール部11は、複数のラジアルスケール吸収部12と、複数のラジアルスケール反射部13とを備えている。複数のラジアルスケール吸収部12は、測定面から軸心T方向でモータ3(図1参照)側(図2(b)矢印Z方向下側)に向かって凹設された断面V字形状の複数の溝である。それら複数のラジアルスケール吸収部12は、測定面上に延設されており、上面視(図2(a)矢印Z方向視)において、ラジアルスケール基体部10の中心Cを中心とするそれぞれ半径の異なる略円環状に構成されている(図2(a)参照)。
【0058】
また、図2(a)に示すように、半径R1がラジアルスケール吸収部12の最大半径で、半径R2がラジアルスケール吸収部12の最小半径であり、その他の複数の円の半径は、約1.6×10−3mmずつ異なる半径に構成されている。なお、本実施の形態では、半径R1が20mmであり、半径R2が10mmに設定されている。
【0059】
図2(b)に示すように、複数のラジアルスケール反射部13は、複数のラジアルスケール吸収部12の間毎に配設される複数の平坦面であり、それら複数の平坦面は、測定面上に延設されており、上面視(図2(a)矢印Z方向視)において、ラジアルスケール基体部10の中心Cを中心とするそれぞれ半径の異なる円形に構成されている(図2(a)参照)。また、それら同心円の半径は、1.6×10−3mmずつ異なる半径に設定されている。
【0060】
このように、ラジアルスケール吸収部12とラジアルスケール反射部13とが交互に配設されているので、ラジアルスケール吸収部12でレーザー光線L1が拡散されて、ラジアルスケール反射部13でレーザー光線L1が反射回折される。
【0061】
なお、レーザー光線L1は、コヒーレント性が高く、反射回折される際に、進行方向の異なる複数の光線に分けられる。本実施の形態では、1個のレーザー光線L1がラジアルスケール反射部13にて反射回折されることで複数の光線に分けられるが、その内の1個の光線がレーザー光線L2として測定に使用されている。
【0062】
また、後述する照射回折格子部32(図3(a)参照)では、回折により分かれた複数のレーザー光線L1の内の2個のレーザー光線L1を測定に使用し、エンコーダ回折格子部42a,42b(図3(a)参照)では、回折により分かれた複数のレーザー光線L2の内の1個のレーザー光線L2が測定に使用されている(図3(a)参照)。
【0063】
即ち、照射回折格子部32から2個のレーザー光線L1がラジアルスケール部11に照射され、その2個のレーザー光線L1がラジアルスケール部11にて反射回折された後、エンコーダ回折格子部42a,42bに照射され、そのエンコーダ回折格子部42a,42bに照射された2個のレーザー光線L2がエンコーダ回折格子部42a,42bにて1個のレーザー光線L2に合成される(図3(a)参照)。
【0064】
図2(a)及び図2(b)に示すように、ラジアルヘッド部20は、ラジアルスケール部11の軸心T方向で、ラジアルスケール部11の円形面に対向して配設される平面視矩形のY軸ヘッド部21と、中心Cを回転の中心としてY軸ヘッド部21を時計回り(図2(a)紙面垂直方向視右回り)に90度回転させた位置に配設されるX軸ヘッド部22と、中心Cを回転の中心としてX軸ヘッド部22を時計回り(図2(a)紙面垂直方向視右回り)に180度回転させた位置に配設される補正用ヘッド部23とを備えている。
【0065】
次に、図3を参照して、Y軸ヘッド部21、X軸ヘッド部22及び補正用ヘッド部23の詳細な構成について説明する。図3(a)は、図2(b)のIIIaで示した部分を拡大した拡大断面図である。なお、理解を容易とするために、X軸ヘッド部22のハッチンングを省略し、照射遮断部34及びエンコーダ遮断部44a,44bには、ハッチングを施している。
【0066】
また、図3(a)に示す矢印Xは、ラジアルスケール基体部10の半径方向を示しており、矢印Yは、ラジアルスケール基体部10の半径方向で矢印Xに直交する方向を示しており、矢印Zは、ラジアルスケール部11が取り付けられている主軸2の軸心Tの方向を示している。なお、図3(a)には、ラジアルスケール部11、照射回折格子部32及びエンコーダ回折格子部42a,42bで回折されて分けられた複数のレーザー光線L1,L2の内、測定に使用されるレーザー光線L1,L2のみを図示している。
【0067】
また、理解を容易とするために、照射回折格子部32の1箇所の照射通過部33を通過するレーザー光線L1を1本の線で図示している。ただし、実際、レーザー光線L1には、照射幅があるので、複数の照射通過部33を通過してラジアルスケール部11にて反射回折された後、複数のエンコーダ通過部43a,43bを通過してエンコーダ受光部41a,41bにて受光される。
【0068】
図3(b)は、図3(a)の矢印Z方向でラジアルスケール部11側から見た照射回折格子部32とエンコーダ回折格子部42a,42bとの底面を模式的に示した底面模式図であり、照射回折格子部32及びエンコーダ回折格子部42a,42bの一部を代表的に図示している。また、図3(b)に示す矢印Xは、ラジアルスケール基体部10の半径方向を示しており、矢印Yは、ラジアルスケール基体部10の半径方向で矢印Xに直交する方向を示しており、矢印Zは、スケール1が取り付けられている主軸2の軸心Tの方向を示している。なお、理解を容易とするために、照射遮断部34及びエンコーダ遮断部44a,44bには、ハッチングを施している。
【0069】
なお、図3(a)に示す矢印X、矢印Y及び矢印Zは、図2(b)に示す矢印X、矢印Y及び矢印Zにそれぞれ対応しており、図3(b)に示す矢印X、矢印Y及び矢印Zは、図2(a)に示す矢印X、矢印Y及び矢印Zにそれぞれ対応しており、図3(b)に示す矢印Zの方向は、図2(b)に示す矢印Zに対して180度反転されている。また、Y軸ヘッド部21、X軸ヘッド部22及び補正用ヘッド部23は、ラジアルスケール部11から反射回折されるレーザー光線L2の強さを測定している。
【0070】
上述したように、Y軸ヘッド部21、X軸ヘッド部22及び補正用ヘッド部23は、ラジアルスケール基体部10に対する取り付け位置の違いがあるのみで、その他は同一の構成であるので、Y軸ヘッド部21及び補正用ヘッド部23の構成についての説明は省略し、X軸ヘッド部22の構成について説明する。
【0071】
図3(a)に示すように、X軸ヘッド部22は、ラジアルスケール基体部10にレーザー光線L1を照射する照射ユニット30と、ラジアルスケール部11によって反射回折されたレーザー光線L2の強さを測定するエンコーダ受光ユニット40とを備えており、照射ユニット30とエンコーダ受光ユニット40とは、X軸ヘッド部22の長手方向(図3矢印X方向)に並んで配設されている。
【0072】
照射ユニット30は、図3(a)に示すように、ラジアルスケール部11にレーザー光線L1を照射する照射部31と、照射部31から照射されたレーザー光線L1を回折させる照射回折格子部32とを備えている。
【0073】
照射部31は、レーザー光線L1を発生させる装置であり、照射回折格子部32は、透明板に金属被膜が印刷された平板状の格子である。照射回折格子部32は、照射部31から発生されたレーザー光線L1の進行方向(図3(a)矢印Z方向)に対して金属被膜が印刷された平面を垂直にして配設されている。
【0074】
図3(b)に示すように、照射回折格子部32は、レーザー光線L1を通過させる矩形の透明部分である複数の照射通過部33と、それら複数の照射通過部33の間毎に配設されレーザー光線L1を遮断する矩形の印刷部分である複数の照射遮断部34とを備えている。
【0075】
そのため、図3(a)に示すように、照射部31から照射されたレーザー光線L1は、進行方向の異なる複数のレーザー光線L1に分けられる。その複数のレーザー光線L1の内の2個(0次回折光、一対の一次回折光の内の一方)のレーザー光線L1が測定に使用されている。
【0076】
また、図3(b)に示すように、複数の照射通過部33は、ピッチPの間隔で配設されており、同様に複数の照射遮断部34は、ピッチPの間隔で配設されている。なお、本実施の形態において、ピッチPは、1.6×10−3mmに設定されている。
【0077】
図3(a)に示すように、エンコーダ受光ユニット40は、ラジアルスケール部11によって反射回折されたレーザー光線L2の強さを測定するエンコーダ受光ユニット40aと、そのエンコーダ受光ユニット40aに対して照射ユニット30とエンコーダ受光ユニット40とを結ぶ方向(図3(b)矢印X方向)に距離Wだけ位置をずらして配設されると共にラジアルスケール部11によって反射回折されたレーザー光線L2の強さを測定するエンコーダ受光ユニット40bとを備えている。本実施の形態では、距離Wは、ピッチPの半分の寸法値に設定されている。
【0078】
なお、エンコーダ受光ユニット40aとエンコーダ受光ユニット40bとは、同一の構成であるので、エンコーダ受光ユニット40bの構成についての説明は省略し、エンコーダ受光ユニット40aの構成について説明する。
【0079】
図3(a)に示すように、エンコーダ受光ユニット40aは、エンコーダ受光部41aとエンコーダ回折格子部42aとを備えている。エンコーダ受光部41aは、ラジアルスケール部11に反射されたレーザー光線L2を受光して、その光の強さをエンコーダアンプ(図示せず)に電気信号として出力するセンサであり、エンコーダ回折格子部42aは、透明板に金属被膜が印刷された平板状の格子である。
【0080】
図3(b)に示すように、エンコーダ回折格子部42aは、レーザー光線L2を通過させる矩形の透明部分である複数のエンコーダ通過部43aと、それら複数のエンコーダ通過部43aの間毎に配設されレーザー光線L2を遮断する矩形の印刷部分である複数のエンコーダ遮断部44aとを備えている。
【0081】
そのため、2個(0次回折光、一対の一次回折光の内の一方)のレーザー光線L1がラジアルスケール部11で反射され、2個のレーザー光線L2(一対の1次回折光の内の一方)としてエンコーダ回折格子部42aに入射される。その2個のレーザー光線L2は、エンコーダ回折格子部42aへの入射角が異なるが、エンコーダ回折格子部42aで回折されて、平行となりエンコーダ受光部41aにて測定される。よって、エンコーダ受光部41aは、入射角の異なる2個のレーザー光線L2を測定することができる。また、複数のエンコーダ通過部43aは、ピッチPの間隔で配設されており、同様に、複数のエンコーダ遮断部44aは、ピッチPの間隔で配設されている。
【0082】
このように、軸心振れ測定装置4によれば、ラジアルスケール部11にX軸ヘッド部22の照射ユニット30からレーザー光線L1が照射される。ラジアルスケール部11のラジアルスケール吸収部12に照射されたレーザー光線L1は、ラジアルスケール吸収部12によって拡散され、ラジアルスケール部11のラジアルスケール反射部13に照射されたレーザー光線L1は、ラジアルスケール反射部13にて反射されてX軸ヘッド部22のエンコーダ受光ユニット40にて測定される。
【0083】
そのため、X軸ヘッド部22の位置が固定された状態で、複数のラジアルスケール吸収部12及びそれら複数のラジアルスケール吸収部12の間に交互に配設されるラジアルスケール反射部13が、ラジアルスケール吸収部12とラジアルスケール反射部13とを結ぶ方向(ラジアルスケール部11の半径方向)に移動された場合には、ラジアルスケール反射部13にて反射されるレーザー光線L2も同じ方向に同じ距離だけ移動される。
【0084】
よって、エンコーダ受光ユニット40にて測定されるレーザー光線L2の強さが変化する。そのレーザー光線L2の強さの変化の回数を測定することでX軸ヘッド部22に対するラジアルスケール部11の移動量を測定することができる。
【0085】
また、エンコーダ受光ユニット40a,40bは、図3(a)に示すように、照射ユニット30とエンコーダ受光ユニット40とを結ぶ方向(図3(b)矢印X方向)に距離Wだけ位置をずらして配設されている。また、同様にエンコーダ回折格子部42a,42bも照射ユニット30とエンコーダ受光ユニット40とを結ぶ方向(図3(b)矢印X方向)に距離Wだけ位置をずらして配設されている。
【0086】
また、レーザー光線L1は、レーザー光線L1の進行方向に対して幅を持っているので、エンコーダ回折格子部42a,42bの両方にレーザー光線L2が照射される。そして、エンコーダ回折格子部42a,42bを通過してきたレーザー光線L2の強さをエンコーダ受光部41a,41bにて測定する。
【0087】
よって、ラジアルスケール部11がエンコーダ受光部41aからエンコーダ受光部41bへ向かう方向(ラジアルスケール部11の半径方向外側向き)に移動すると、レーザー光線L2の強さが変化し、例えば、エンコーダ受光部41aだけが強いレーザー光線L2(ラジアルスケール反射部13によって反射されたレーザー光線L2)を測定した後に、エンコーダ受光部41a,41bが同時に強いレーザー光線L2を測定して、その後、エンコーダ受光部41bだけが強いレーザー光線L2を測定する。
【0088】
一方、ラジアルスケール部11がエンコーダ受光部41bからエンコーダ受光部41aへ向かう方向(ラジアルスケール部11の半径方向内側向き)に移動すると、エンコーダ受光部41bだけが強いレーザー光線L2(ラジアルスケール反射部13によって反射されたレーザー光線L2)を測定した後に、エンコーダ受光部41b,41aが同時に強いレーザー光線L2を測定して、その後、エンコーダ受光部41aだけが強いレーザー光線L2を測定する。
【0089】
このように、ラジアルスケール部11の移動する方向によって、エンコーダ受光部41a,41bが強いレーザー光線L2を測定する順番が変わることを利用して、ラジアルスケール部11の移動方向を判別する。
【0090】
上述したように、エンコーダ受光部41a,41bが強いレーザー光線L2(ラジアルスケール反射部13によって反射されたレーザー光線L2)を測定した回数と、強いレーザー光線L2を測定する順番によってラジアルスケール部11の移動方向を判別することとで、照射ユニット30及びエンコーダ受光ユニット40に対するラジアルスケール部11の移動量を測定する。
【0091】
ここで、本実施の形態によれば、ラジアルスケール吸収部12は、環状に構成され、ラジアルスケール反射部13は、ラジアルスケール吸収部12に対して同心円の環状に構成されているので、ラジアルスケール吸収部12及びラジアルスケール反射部13を主軸2に取り付け、X軸ヘッド部22に対して主軸2を回転させると、ラジアルスケール吸収部12及びラジアルスケール反射部13は、X軸ヘッド部22の照射ユニット30から照射されたレーザー光線L1を、主軸2が一回転する間連続してX軸ヘッド部22のエンコーダ受光ユニット40に反射する。
【0092】
そのため、X軸ヘッド部22のエンコーダ受光ユニット40にて測定されるレーザー光線L2の強さの変化を主軸2が一回転する間、連続して測定することができるので、強いレーザー光線L2(ラジアルスケール反射部13によって反射されたレーザー光線L2)を測定した回数と、移動方向を判別することとで、X軸ヘッド部22に対するラジアルスケール部11の移動量(以下、「X軸移動量」と称す。)を測定することができる。よって、主軸2が一回転する間の移動量を、主軸2の軸心Tの振れとして測定することができる。
【0093】
このように、主軸2の軸心Tの振れを、ラジアルスケール部11の変位によるレーザー光線L2の強さの変化によって測定しているので、長時間の測定においても、主軸2の電気的特性変化に影響されることなく主軸2の軸心Tの振れを測定することができる。よって、長時間の測定において軸心Tの振れの測定精度を向上させることができる。
【0094】
また、例えば、極小径切削工具(直径が0.05mm以下である切削工具)を主軸2に取り付けて切削加工を行う場合には、主軸2の軸心Tの振れを、長時間連続して精度よく測定することができるので、軸心Tの振れが一定値を越えた値として測定された場合には、切削を中止することができる。よって、極小径切削工具によって切削加工されている加工物に対して精度が悪い加工を施すことを防止することができる。
【0095】
また、例えば、ラジアルスケール部11の中心Cを、主軸2の軸心Tを中心とする円(要求される測定精度以下の直径を有する円)の円周内領域に取り付けると、ラジアルスケール部11の中心Cの位置と、主軸2の軸心Tの位置とを同一と見なすことができる。
【0096】
よって、ラジアルスケール部11の中心Cと主軸2の軸心Tとの取り付け位置のずれを考慮する必要がなくなり、X軸移動量をそのまま主軸2の軸心Tの移動量とすることができる。その結果、要求される測定精度の範囲内であれば、X軸移動量を主軸2の軸心Tの振れの値とすることができる。また、ラジアルスケール吸収部12及びラジアルスケール反射部13の中心Cと、ラジアルスケール部11の中心Cとは、同一である。
【0097】
また、X軸ヘッド部22と同様に、要求される測定精度の範囲内であれば、ヘッド部21、及び補正用ヘッド部23に対するラジアルスケール部11の移動量を主軸2の軸心Tの振れの値と見なすことができる。
【0098】
また、照射回折格子部32と、エンコーダ回折格子部42a,42bとを備えているので、照射回折格子部32で分けられた2個のレーザー光線L1がラジアルスケール部11によって反射回折され、2個のレーザー光線L2としてエンコーダ回折格子部42aに入射されてエンコーダ受光部41aに向かう方向に回折されて合成される。その合成されたレーザー光線L2は、合成により干渉して、合成前のレーザー光線L2の半分の周期で変化するため、ラジアルスケール部11がピッチPだけ移動するのに対して2周期変化をする。
【0099】
よって、照射回折格子部32と、エンコーダ回折格子部42a,42bとを省略した場合と比べて、ラジアルスケール部11の移動量の分解能が半分になり、更に小さな移動でも測定することができる。
【0100】
また、ラジアルスケール部11の中心Cを回転の中心として、X軸ヘッド部22を時計回り(図2(a)紙面垂直方向視右回り)に180度回転させた位置に補正用ヘッド部23が配設されているので、X軸ヘッド部22及び補正用ヘッド部23によってラジアルスケール部11を測定して得られた一対の測定データの差を取ることで、温度変化や遠心力によるラジアルスケール部11の形状変化の影響が相殺された測定データを得ることができる。
【0101】
即ち、X軸ヘッド部22と補正用ヘッド部23とは、ラジアルスケール部11の中心Cを挟んだ180度対向する位置に配設されており、主軸2の軸心Tの移動量を測定した測定データは、X軸ヘッド部22の測定方向と補正用ヘッド部23の測定方向と方向は異なるが移動量は同一となるので、例えば、温度変化や遠心力によりラジアルスケール部11の半径方向への形状が拡大した場合には、ラジアルスケール部11の中心Cを挟んだ180度対向する位置に配設されているX軸ヘッド部22及び補正用ヘッド部23は、その拡大量をラジアルスケール部11の向きの異なる移動量として測定する。
【0102】
よって、X軸ヘッド部22の測定データと補正用ヘッド部23の測定データとの差を取ると、その測定データの差からは、半径方向への形状の拡大量が相殺されて、その測定データの差は、ラジアルスケール部11の中心Cの移動量に対して2倍となるので、その測定データの差を半分にすることで、温度変化や遠心力によるラジアルスケール部11の形状変化の影響が相殺された測定データを得ることができる。
【0103】
その結果、温度変化や遠心力により、ラジアルスケール部11の形状が半径方向へ拡大した場合でもラジアルスケール部11の中心Cの測定データには影響しないので、主軸2の回転速度が変化したり主軸2の環境温度が変わったりする長時間の測定において、主軸2の軸心Tの振れの測定精度を向上させることができる。
【0104】
なお、ラジアルスケール部11の半径方向の形状拡大は、円周方向に均等であるので、X軸ヘッド部22及び補正用ヘッド部23によって測定されて得られた一対の測定データの差を取っても、ラジアルスケール部11の中心Cの位置の測定には影響を与えない。
【0105】
また、ラジアルスケール部11の中心Cを回転の中心として、X軸ヘッド部22を時計回り(図2(a)紙面垂直方向視右回り)に180度回転させた位置に補正用ヘッド部23が配設されているので、補正用ヘッド部23を省略した場合と比べて、ラジアルスケール部11のX軸方向への移動量を測定する測定精度を1/2倍とすることができる。
【0106】
また、例えば、ラジアルスケール部11の中心CがX軸ヘッド部22及び補正用ヘッド部23を結ぶ方向に対して直角方向(図2(a)矢印Y方向)にずれた場合には、ラジアルスケール吸収部12及びラジアルスケール反射部13が円形であるので、ラジアルスケール吸収部12及びラジアルスケール反射部13は、X軸ヘッド部22に対しては、中心C方向(図2(a)左方向)に移動し、補正用ヘッド部23に対しては、中心C方向(図2(a)右方向)に移動する。
【0107】
このように、X軸ヘッド部22が検出するラジアルスケール吸収部12及びラジアルスケール反射部13の移動方向と、補正用ヘッド部23が検出するラジアルスケール吸収部12及びラジアルスケール反射部13の移動方向とが反対向きなので、X軸ヘッド部22と補正用ヘッド部23との測定データを平均すると、ラジアルスケール部11の中心CがX軸ヘッド部22及び補正用ヘッド部23を結ぶ方向に対して直角方向(図2(a)矢印Y方向)に移動することによる測定データへの影響を取り除くことができる。
【0108】
また、Y軸ヘッド部21は、X軸ヘッド部22からラジアルスケール部11の円周方向にラジアルスケール部11の中心C及び主軸2の軸心Tに対して直角に位置を違えて配設されているので、直交する2方向(図2(a)矢印X方向、矢印Y方向)から主軸2の移動量を測定することで、その直交する2方向を座標軸とする座標値として主軸2の軸心Tの位置を定義することができる。よって、その座標位置に基づいて主軸2の軸心Tの軌跡をモニタや紙面上に表示させてその軌跡の形状を観察することで、主軸2の軸心Tの動きの良否を視覚的に判断することができる。
【0109】
また、主軸2がラジアル軸受REで軸支されているので、測定された座標値を基に主軸2の軸心Tの位置が所定の範囲内に収まるように主軸2の軸心Tの位置を補正することができる。特に、本実施の形態では、主軸2の軸心Tの振れをラジアルスケール部11の変位によるレーザー光線L2の強さの変化によって測定しているので、長時間の測定においても、主軸2の電気的特性変化に影響されることなく主軸2の軸心Tの振れを測定することができ、長時間連続して主軸2の軸心Tの位置を補正することができる。
【0110】
また、例えば、極小径切削工具(直径が0.05mm以下である切削工具)にて切削加工を行う場合には、切削工具が取り付けられる主軸2の軸心Tの位置を、長時間連続して補正することができるので、長時間連続して切削しても切削工具による切削形状精度を高精度に保つことができる。
【0111】
よって、硬度が高く切削または研削が長時間におよぶ軸状の素材を旋盤にて加工する場合でも、素材が磁気軸受で軸支されていれば、素材の軸心の位置の振れを少なくできるので、素材から加工される製品の加工精度を向上させることができる。
【0112】
次いで、図4を参照して、軸方向変位測定装置1の構成について説明する。図4(a)は、図1のIVaで示した部分の拡大断面図であり、図4(b)は、図4(a)のIVb−IVb線における角度スケール部55の断面図である。なお、第1Z軸ヘッド部61、第2Z軸ヘッド部62、第1傾き補正用ヘッド部63、第2傾き補正用ヘッド部64及び回転角度用ヘッド部65の構成は、上述したX軸ヘッド部22と同一であるので説明を省略する。
【0113】
軸方向変位測定装置1は、上述したように、アキシャル軸受AEおよびラジアル軸受REを支持する土台に対する主軸2の軸心T方向の変位を測定する測定装置であり、図4(a)に示すように、レーザー光線L1を照射すると共にレーザー光線L2(図3(a)参照)を受光するアキシャルヘッド部60と、そのアキシャルヘッド部60のレーザー光線L1を照射する側(図4(a)矢印X方向内側)に配設されるアキシャルスケール部51とを備えている。
【0114】
上述したように、主軸2は、軸心T方向両側(図1Z方向両側)に一対のアキシャルスケール基体部50を備えており、そのアキシャルスケール基体部50は、図4(a)及び図4(b)に示すように、アルミニウム素材から直径D5の略円柱状体に構成され、そのアキシャルスケール基体部50の軸心T5と主軸2の軸心Tとは、同一とされている。
【0115】
また、アキシャルスケール基体部50の外周面には、アキシャルスケール部51と角度スケール部55とが形成(請求項1、4、5及び6に記載の「取着」に対応する。)されている。なお、本実施の形態において、アキシャルスケール基体部50の直径D5(図4(a)参照)は、約10mmに設定されている。
【0116】
アキシャルスケール部51は、図4(a)に示すように、複数のアキシャルスケール吸収部52と、複数のアキシャルスケール反射部53とを備えている。アキシャルスケール吸収部52は、アキシャルスケール基体部50の外周面から軸心T側(図4(a)矢印X方向内側)に向かって凹設された断面V字形状の溝である。
【0117】
そのアキシャルスケール吸収部52は、アキシャルスケール基体部50の外周面上を周方向に一周に渡って延設されており、側面視(図4(a)矢印Y方向視)において、アキシャルスケール基体部50の軸心T5方向(図4(a)矢印Z方向)に並んで配設されている。また、アキシャルスケール吸収部52とアキシャルスケール反射部53とは、軸心T5に直交する仮想平面上にそれぞれ形成されている。
【0118】
アキシャルスケール反射部53は、図4(a)に示すように、アキシャルスケール基体部50の外周面上に延設される円筒面であり、複数のアキシャルスケール吸収部52の間毎に交互に配設されている。また、それら複数のアキシャルスケール反射部53は、側面視(図4(a)矢印Y方向視)において、アキシャルスケール基体部50の軸心T5方向(図4(a)矢印Z方向)に並んで配設されている。
【0119】
なお、本実施の形態では、隣接するアキシャルスケール吸収部52の間隔が約1.6×10−3mmに構成され、隣接するアキシャルスケール反射部53の間隔が約1.6×10−3mmに構成されている。
【0120】
このように、アキシャルスケール吸収部52とアキシャルスケール反射部53とが交互に配設されているので、アキシャルスケール吸収部52でレーザー光線L1が吸収または拡散されて、アキシャルスケール反射部53でレーザー光線L1が反射回折される。
【0121】
なお、上述したようにレーザー光線L1は、コヒーレント性が高く、反射回折される際に、進行方向の異なる複数の光線に分けられる。本実施の形態では、1個のレーザー光線L1がアキシャルスケール反射部53にて反射回折されることで複数の光線に分けられるが、その内の1個の光線がレーザー光線L2として測定に使用されている。
【0122】
即ち、アキシャルスケール部51は、レーザー光線L1を吸収または拡散する複数のアキシャルスケール吸収部52と、レーザー光線L1を反射回折する複数のアキシャルスケール反射部53とを備え、それらアキシャルスケール吸収部52とアキシャルスケール反射部53とが軸心T5方向(図4(a)矢印Z方向)に並んで配設されているので、軸心T5方向(図4(a)矢印Z方向)のアキシャルスケール部51の変位をアキシャルヘッド部60によって測定することができる。
【0123】
アキシャルヘッド部60は、図4(b)に示すように、軸心T5に直交する方向(図4(b)矢印X方向)であってアキシャルスケール部51の外周面に対向して配設される第1Z軸ヘッド部61と、軸心T5を挟んで第1Z軸ヘッド部61に対して180度対向する位置に配設される第1傾き補正用ヘッド部63と、その第1傾き補正用ヘッド部63に対して軸心T5を回転の中心として約90度ずらした位置に配設される第2Z軸ヘッド部62と、軸心T5を挟んで第2Z軸ヘッド部62に対して180度対向する位置に配設される第2傾き補正用ヘッド部64とを備えている。
【0124】
例えば、アキシャルスケール吸収部52とアキシャルスケール反射部53とが、軸心T5に斜めに交わる仮想平面上にそれぞれ形成されている場合には、主軸2の回転によって、アキシャルヘッド部60によって測定されるアキシャルスケール吸収部52及びアキシャルスケール反射部53の一部が軸心T5方向(図4(a)矢印Z方向)に変位する。そのため、主軸2が軸心T5方向(図4(a)矢印Z方向)に変位していない場合でも、測定データが変動して測定精度が悪化するという不具合が生じる。
【0125】
ここで、本実施の形態では、第1Z軸ヘッド部61が主軸2の矢印X方向右側(図4(a)矢印X方向右側)に配設され、第1傾き補正用ヘッド部63が軸心T5を挟んで第1Z軸ヘッド部61に対して180度対向する位置に配設されている。よって、アキシャルスケール基体部50の外周面であって、第1傾き補正用ヘッド部63に対面する外周面および第1Z軸ヘッド部61に対面する外周面にレーザー光線L1が照射される。即ち、軸心T5を挟んで180度対向する位置にそれぞれレーザー光線L1が照射される。
【0126】
なお、上述したように、主軸2は、軸心T5を中心として回転しているので、アキシャルスケール基体部50の第1傾き補正用ヘッド部63に対面する外周面およびアキシャルスケール基体部50の第1Z軸ヘッド部61に対面する外周面も軸心T5を中心として回転している。
【0127】
これらアキシャルスケール基体部50の第1傾き補正用ヘッド部63に対面する外周面およびアキシャルスケール基体部50の第1Z軸ヘッド部61に対面する外周面は、主軸2の軸心T5を挟んで配設されているので、主軸2の軸心T5が矢印X側に傾くと互いに反対の向きに変位する。
【0128】
そのため、主軸2が時計回り(図4(a)紙面上時計回り)方向に傾いた場合には、第1Z軸ヘッド部61の測定データには、傾きによる変化分が減算され第1傾き補正用ヘッド部63の測定データには、傾きによる変化分が加算される。
【0129】
よって、第1Z軸ヘッド部61の測定データと第1傾き補正用ヘッド部63の測定データとの平均を取ることで、主軸2の矢印X側への傾きによる測定データの変化分を相殺した測定データを得ることができ、主軸2の軸T5方向の変位(アキシャルモーション)の測定精度の向上を図ることができる。
【0130】
また、同様に、第2Z軸ヘッド部62は、アキシャルスケール基体部50側から見て、第1Z軸ヘッド部61から反時計周り(図4(b)紙面方向視反時計周り)に90度位置を違えて配設され、第2傾き補正用ヘッド部64は、軸心T5を挟んで第2Z軸ヘッド部62に対して180度対向する位置に配設されている。
【0131】
よって、上述した第1Z軸ヘッド部61と第1傾き補正用ヘッド部63との関係と同じ理由で、主軸2の矢印Y側への傾きによる測定データの変化分を相殺した測定データを得ることができ、主軸2の軸T5方向の変位(アキシャルモーション)の測定精度の向上を図ることができる。
【0132】
その結果、主軸2のアキシャル軸受AEによる軸心T5方向の制御精度の向上を図ることができるので、極小径切削工具(直径が約0.05mm以下である切削工具)を主軸2に取り付けて超微小加工を行うことができる。
【0133】
なお、アキシャルヘッド部60を構成する第1Z軸ヘッド部61、第2Z軸ヘッド部62、第1傾き補正用ヘッド部63、第2傾き補正用ヘッド部64及び回転角度用ヘッド部65は、図4(a)及び図4(b)に示すように、アキシャルスケール基体部50の外周面から径方向(図4(a)矢印X方向及び矢印Y方向)に寸法S5の距離に配設されている。なお、本実施の形態において、寸法S5は、約2mm〜約4mmの範囲に設定されている。
【0134】
また、本実施の形態は、約1μmの分解能を有しているが、エンコーダ受光ユニット40のエンコーダ回折格子部42a,42bの構成を変更することで、更に1/1000の分解能(約1nm)の測定精度を確保することが可能である。なお、エンコーダ受光ユニット40のエンコーダ回折格子部42a,42bの構成の変更による測定精度を向上する技術は、周知技術であるため説明を省略する。
【0135】
角度スケール部55は、図4(a)に示すように、複数の角度スケール吸収部56と、それら複数の角度スケール吸収部56の間毎に交互に配設される複数の角度スケール反射部57とを備えている。
【0136】
複数の角度スケール吸収部56は、図4(b)に示すように、軸心Tに向かって凹設された断面V字形状の複数の溝として構成され、それら複数の溝は、軸心T5に平行に延設されると共にアキシャルスケール基体部50の外周面一周に渡って軸心T5を中心として1度毎に配設されている。
【0137】
複数の角度スケール反射部57は、図4(a)に示すように、複数の角度スケール吸収部56の間毎に配設される部分円筒面として構成され、それら複数の角度スケール反射部57は、アキシャルスケール基体部50の外周面一周に渡って軸心T5を中心として1度毎に配設されている。
【0138】
このように、角度スケール吸収部56と角度スケール反射部57とが交互に配設されているので、角度スケール吸収部56でレーザー光線L1が拡散されて、角度スケール反射部57でレーザー光線L1が反射回折される。
【0139】
また、回転角度用ヘッド部65の照射ユニット30から角度スケール部55に照射されたレーザー光線L1は、角度スケール吸収部56によって拡散され、回転角度用ヘッド部65の照射ユニット30から角度スケール反射部57に照射されたレーザー光線L1は、角度スケール反射部57にて反射されて回転角度用ヘッド部65のエンコーダ受光ユニット40にて測定される。
【0140】
そのため、回転角度用ヘッド部65の位置が固定された状態で、複数の角度スケール吸収部56と、それら複数の角度スケール吸収部56の間毎に交互に配設される複数の角度スケール反射部57とが、角度スケール吸収部56と角度スケール反射部57とを結ぶ方向(図4(a)矢印Z方向)に移動された場合には、角度スケール反射部57にて反射されたレーザー光線L2も同じ回転方向に同じ角度だけ移動される。
【0141】
よって、回転角度用ヘッド部65のエンコーダ受光ユニット40にて測定される角度スケール部55にて反射されたレーザー光線L2の強さが変化する。そのレーザー光線L2の強さの変化の回数を測定することで回転角度用ヘッド部65に対する角度スケール部55の移動量を測定することができる。その結果、回転角度用ヘッド部65に対する主軸2の回転角度を測定することができる。
【0142】
また、主軸2の回転角度を測定するための角度スケール部55と、主軸2の軸心T方向の変位を測定するためのアキシャルスケール部51とが一体として構成されているので、アキシャルスケール部51を位置決めして固定した後に、ロータリーエンコーダを固定する必要がない。
【0143】
よって、ロータリーエンコーダを固定することで主軸2に対するアキシャルスケール部51の固定位置がずれることがないので、ロータリーエンコーダを別体とする場合に比べて、アキシャルスケール部51の組み付け精度が向上され、主軸2の軸心Tの変位の測定精度を向上させることができる。
【0144】
また、角度スケール部55がアキシャルスケール部51と一体として構成されているので、主軸2の回転角度を計測する装置を別体とする場合に比べて、アキシャルスケール部51又は角度スケール部55のどちらか一方の位置を決めれば、必然的に、他方の位置がきまる。よって、ロータリーエンコーダの組み付け時の位置調整の手間を省くことができる。
【0145】
ここで、図1に戻って、軸方向変位測定装置1の配設位置について説明する。上述したように、磁気軸受100は、主軸2の両側に一対の軸方向変位測定装置1を備えている。よって、主軸2が回転した状態において、主軸2の両側部分の軸心T5方向の変位を測定することができる。
【0146】
例えば、主軸2の温度が室温の変化などにより変化した場合には、主軸2はその温度変化に応じて膨張または収縮する。ここで、主軸2は、直径より軸方向が長い軸状に構成されているので、主軸2の温度が変化すると径方向の形状に変化に比べて軸方向の形状変化の度合いが大きい。そのため、主軸2の端部の位置が変化し、その端部に取着されるエンドミルやドリルなどの軸方向の制御の精度が低下するという不具合が生じる。
【0147】
ここで、本実施の形態では、上述したように、主軸2の両端部に一対の軸方向変位測定装置1をそれぞれ備えている。そのため、室温の変化によって主軸2の温度が変化するほどの長時間に渡って主軸2の変位を測定する場合に、一対の軸方向変位測定装置1の測定データの差(以下、「差分データ」と称す。)であって、温度変化の後に測定した差分データと温度変化の前に測定した差分データとの差を取ることで、主軸2の一部であって、温度変化前に一対の軸方向変位測定装置1の間に位置していた主軸2の部位の温度変化前後での軸心T方向の変位量(以下、「測定変位量」と称す。)とすることができる。
【0148】
よって、その測定変位量を一対の軸方向変位測定装置1の互いの間隔距離(距離W1と距離W2との和)で除算することで、主軸2の単位長さ当りの変位量(以下、「単位変位量」と称す。)を算出することができる。
【0149】
即ち、主軸2の温度が変化して主軸2の軸心T方向の長さが変化した場合には、主軸2に取着されるアキシャルスケール部51も同様に軸方向の長さが変化する。そのため、アキシャルスケール部51の長さ変化分だけ、アキシャルスケール部51が一対の軸方向変位測定装置1のエンコーダ受光ユニット40の受光領域を横切る。
【0150】
よって、一対のエンコーダ受光ユニット40が受光する光線の強さが変化してアキシャルスケール部51の長さ変化が加味された一対の測定データを得ることができる。それら一対の測定データから差分データを算出し、主軸2の温度変化前後での差分データから測定変位量を算出し、その測定変位量から単位変位量を算出することができる。
【0151】
例えば、測定開始時に基準位置に対してキャリブレーションを行った時点での差分データを温度変化前の差分データとし、測定中の差分データを温度変化後の差分データとすることで、基準位置に対する測定変位量を得ることができる。具体的には、主軸2の取着された工具ホルダーに保持されるエンドミルの先端をワークに接触させた位置を基準位置とする。
【0152】
また、温度による主軸2の形状変化が主軸2の軸心T方向に均一であると仮定できる場合には、温度変化前の軸心T方向の長さに単位変位量を乗算することで、温度変化後の軸心T方向の長さを推定することができる。
【0153】
ここで、本実施の形態では、ロータAERの軸心T方向における位置を制御するので、ロータAERに対するエンドミルの先端の変位を推定することで、その変位分を加味してロータAERを制御することができる。
【0154】
即ち、本実施の形態では、ロータAERからエンドミル先端までの距離に単位変位量を乗算することで、ロータAERからエンドミル先端までの距離の変化を推定することができる。よって、その変化分だけロータAERの位置をずらすことで、基準位置に対してエンドミルの先端位置を正確に制御することができる。なお、実際の切削加工では、切削による発熱分、エンドミルが軸方向に伸びており、その分は加工誤差となる。
【0155】
なお、一対の軸方向変位測定装置1の間の距離は、それぞれの軸方向変位測定装置1が備えるアキシャルヘッド部60の受光部の位置である。また、軸方向変位測定装置1の測定データとしては、第1Z軸ヘッド部61、第2Z軸ヘッド部62、第1傾き補正用ヘッド部63及び第2傾き補正用ヘッド部64のどのヘッド部の測定データを利用してもよく、それら4個のヘッド部の取り付け位置が軸心T方向に同一であれば、4個のヘッド部の測定データの平均値を測定データとしてもよい。上述したように、4個の平均値を測定データとして利用する場合には、ヘッド部の測定精度のばらつきを少なくすることができるので、主軸2の端部の制御精度を向上させることができる。
【0156】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0157】
例えば、上記各実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や寸法・角度など)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0158】
上記実施の形態では、アキシャルスケール吸収部52が断面V字形状の溝として構成され、アキシャルスケール反射部53が複数のアキシャルスケール吸収部52の間毎に配設される円筒面として構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、アキシャルスケール基体部50を透明な材質により構成して、アキシャルスケール基体部50に反射物質(金属被膜)を印刷することでアキシャルスケール反射部53を形成し、その印刷されたアキシャルスケール反射部53の間の透明な部分をアキシャルスケール吸収部52としても良い。
【0159】
この場合、印刷にてアキシャルスケール吸収部52及びアキシャルスケール反射部53をアキシャルスケール基体部50上に形成することができる。よって、複数のアキシャルスケール基体部50を製作するときには、アキシャルスケール基体部50を1つずつ製作する場合に比べて、それら複数のアキシャルスケール基体部50上に形成されるアキシャルスケール吸収部52及びアキシャルスケール反射部53の形状を一様に製作することができるので、アキシャルスケール吸収部52及びアキシャルスケール反射部53の形状のばらつきを抑えることができる。
【0160】
また、上記実施の形態では、アキシャルスケール吸収部52及び角度スケール吸収部56が凹設された断面V字形状の溝である場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、アキシャルスケール吸収部52及び角度スケール吸収部56を凸設された断面V字状の凸部としても良い。この場合、上記実施の形態と同等の効果を奏することができる。また、アキシャルスケール吸収部52または角度スケール吸収部56のどちらか一方のみを断面V字状の凸部としても同様の効果を奏することができる。
【0161】
上記実施の形態では、角度スケール吸収部56が軸心T方向(図2(a)矢印Z方向)に凹設された断面V字形状の溝であり、角度スケール反射部57が複数の角度スケール吸収部56の間毎に配設される部分円筒面である場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、アキシャルスケール部51と同様に、印刷にて角度スケール吸収部56及び角度スケール反射部57をアキシャルスケール基体部50上に形成しても良い。この場合、アキシャルスケール吸収部52及びアキシャルスケール部51をアキシャルスケール基体部50上に印刷にて形成した場合と同様の効果を奏することができる。
【0162】
また、上記実施の形態では、回転角度用ヘッド部65を1個備える場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、さらに、一対の回転角度用ヘッド部65を主軸2を挟んで180度対向する位置に配設しても良い。
【0163】
この場合、主軸2の軸心Tがそれら2個の回転角度用ヘッド部65を結ぶ方向に対して直角方向にずれると、それら2個の回転角度用ヘッド部65の内の一方の回転角度用ヘッド部65は、そのずれによって角度スケール部55の角度変化が増加したように計測し、他方の回転角度用ヘッド部65は、減少したように計測する。
【0164】
そのため、それぞれの回転角度用ヘッド部65の計測する回転角の平均を取ることで、回転角度増減を相殺することができ、主軸2の軸心Tの位置ずれが発生していても精度良く回転角度を計測することができる。
【0165】
また、上記実施の形態では、アキシャルスケール部51及び角度スケール部55が主軸2のアキシャルスケール基体部50の外周面上に形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、アキシャルスケール部51及び角度スケール部55の少なくとも一方を主軸2のアキシャルスケール基体部50と別の部材に形成しても良い。
【0166】
この場合、主軸2に取着される工具ホルダーにてアキシャルスケール部51及び角度スケール部55の少なくとも一方が形成された部材を保持することにより、アキシャルヘッド部60で主軸2の変位を測定することができる。そのため、主軸2のアキシャルスケール基体部50にアキシャルスケール部51及び角度スケール部55の少なくとも一方が形成(加工)されていない磁気軸受であっても、その磁気軸受の回転軸(主軸)の変位を測定することができる。
【0167】
その結果、既設の磁気軸受であっても、アキシャルスケール部51及び角度スケール部55の少なくとも一方が形成された部材を回転軸(主軸)で保持することで、回転軸の変位を測定することができる。
【0168】
また、上記実施の形態では、アキシャルスケール部51及びラジアルスケール部11にレーザー光線L1が照射される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、発光ダイオードから照射される光線を照射しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】本発明の一実施の形態における磁気軸受の概略を示した概略図である。
【図2】(a)は、図1のIIa−IIa線における磁気軸受の断面図であり、(b)は、図2(a)のIIb−IIb線における軸心振れ測定装置の断面の概略を示した概略断面図である。
【図3】(a)は、図2(b)のIIIaで示した部分を拡大した拡大断面図であり、(b)は、図3(a)の矢印Z方向でラジアルスケール部側から見た照射回折格子部とエンコーダ回折格子部との底面を模式的に示した底面模式図である。
【図4】(a)は、図1のIVaで示した部分の拡大断面図であり、(b)は、図4(a)のIVb−IVb線における角度スケール部の断面図である。
【符号の説明】
【0170】
1 軸方向変位測定装置(軸方向変位測定装置)
2 主軸(回転軸)
3 モータ
4 軸心振れ測定装置
50 アキシャルスケール基体部(回転軸の一部)
51 アキシャルスケール部(スケール部)
52 アキシャルスケール吸収部(スケール吸収部)
53 アキシャルスケール反射部(スケール反射部)
55 角度スケール部
56 角度スケール吸収部
57 角度スケール反射部
31 照射部
41a エンコーダ受光部(エンコーダ受光部の一部、A相受光部)
41b エンコーダ受光部(エンコーダ受光部の一部、B相受光部)
L1 レーザー光線(照射された光線)
L2 レーザー光線(反射回折された光線)
T,T5 軸心
AE アキシャル軸受
RE ラジアル軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線を照射する照射部と、その照射部により照射された光線を反射回折すると共に回転軸に取着されるスケール部と、そのスケール部によって反射回折された光線の強さを測定するエンコーダ受光部とを備え、前記スケール部は、前記照射部より照射された光線を吸収拡散するか透過させる複数のスケール吸収部と、それら複数のスケール吸収部の間に交互に配設されると共に前記光線を反射する複数のスケール反射部とを備え、前記エンコーダ受光部は、前記光線の強さを測定するA相受光部と、そのA相受光部と同時に前記光線を測定できる範囲内に配設されその範囲内で前記スケール部の移動方向に前記A相受光部と位置を違えて配設されると共に前記光線の強さを測定するB相受光部とを備える回転軸の軸方向変位測定装置において、
前記スケール吸収部は、環状に構成され、
前記スケール反射部は、前記スケール吸収部に対して軸心を共有する環状に構成されると共に前記スケール吸収部の前記軸心方向に並んで配設されていることを特徴とする回転軸の軸方向変位測定装置。
【請求項2】
前記エンコーダ受光部を複数備え、
それら複数のエンコーダ受光部の内の少なくとも1つは、その他のエンコーダ受光部から前記軸心方向に位置を違えて配設されていることを特徴とする請求項1記載の回転軸の軸方向変位測定装置。
【請求項3】
前記エンコーダ受光部を複数備え、
それら複数のエンコーダ受光部の内の少なくとも1つは、前記軸心を挟んでその他のエンコーダ受光部に対向する位置に配設されていることを特徴とする請求項1記載の回転軸の軸方向変位測定装置。
【請求項4】
前記照射部により照射された光線を反射回折すると共に回転軸に取着される角度スケール部を備え、
前記角度スケール部は、略円筒状に構成され、
前記照射部より照射された光線を吸収拡散するか透過させる複数の角度スケール吸収部と、
前記角度スケール部の円周方向でそれら複数の角度スケール吸収部の間に交互に配設されると共に前記光線を反射する複数の角度スケール反射部とを備え、
前記角度スケール反射部および角度スケール吸収部は、前記角度スケール部の外周面上であって前記軸心方向にそれぞれ平行に配設されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の回転軸の軸方向変位測定装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のスケール部が取着されていることを特徴とする回転軸。
【請求項6】
請求項4記載の角度スケール部が取着されていることを特徴とする回転軸。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−270868(P2009−270868A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119951(P2008−119951)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】