説明

回転部材用物理量測定装置

【課題】工作機械の主軸が高速回転する状態での検出分解能及び測定精度の確保と、同じく低速回転する状態での応答性の確保との両立を図る。
【解決手段】演算器は、円周方向に隣り合う1対の凹溝10a、10bに基づいて発生する1対のパルス間の周期である部分周期δと、互いに異なる1対の被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aに対応する1対のパルス間の周期である全周期Lとの比であるパルス周期比δ/Lに基づいて、前記主軸の軸方向変位量を求める。この主軸の回転速度が所定値よりも低い場合に、(A)に示す様に、前記全周期Lとして、円周方向に隣り合う1対の被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aに関する値Laを採用する。これに対して、前記回転速度が前記所定値以上である場合に、(B)に示す様に、前記全周期Lとして、中間を飛ばして存在する1対の被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aに関する値Lbを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フライス盤、マシニングセンタ等の各種工作機械の主軸の如く、荷重を受けつつ高速で回転する回転軸等の回転部材に加わる荷重、或いはこの回転部材の変位量等の物理量を測定する為の、回転部材用物理量測定装置の改良に関する。具体的には、この回転部材が高速回転する状態での検出分解能及び測定精度の確保と、同じく低速回転する状態での応答性の確保との両立を図れる構造を実現する事を目的としている。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸は、先端部に刃物等の工具を固定した状態で高速回転し、加工台上に固定した被加工物に、切削等の加工を施す。前記主軸を回転自在に支持したヘッドは、この被加工物の加工の進行に伴って、所定方向に所定量だけ移動し、この被加工物を、所定の寸法及び形状に加工する。この様な加工作業時、前記ヘッドの移動速度を適正にする事が、加工能率を確保しつつ、前記工具の耐久性及び前記被加工物の品質を確保する為に必要である。前記移動速度が速過ぎると、前記工具に無理な力が加わり、この工具の耐久性が著しく損なわれるだけでなく、前記被加工物の表面性状が悪化したり、著しい場合にはこの被加工物に亀裂等の損傷が発生する。逆に、前記移動速度が遅過ぎると、前記被加工物の加工能率が徒に悪化する。
【0003】
前記ヘッドの移動速度の適正値は一定ではなく、工具の種類(大きさ)、被加工物の材質や形状により大きく変わる為、前記移動速度を一定としたまま、この移動速度を適正値に維持する事は難しい。この為、前記工具を固定した主軸に加わる荷重を測定する事により、前記移動速度を適正値に調節する事が、従来から知られている。即ち、工具により被加工物に切削等の加工を施す際には、加工抵抗により、この工具及びこの工具を固定した主軸に荷重が加わる。この加工抵抗、延いてはこの主軸に加わる荷重は、前記移動速度が速くなる程大きくなり、逆に、この移動速度が遅くなる程小さくなる。そこで、前記荷重が所定範囲に収まる様に、前記移動速度を調節すれば、この移動速度を適正範囲に収める事ができる。
【0004】
又、この移動速度等、他の条件を同じとした場合に前記荷重は、前記工具の切削性(切れ味)が劣化する程大きくなる。そこで、前記移動速度との関係で前記荷重の大小を観察すれば、前記工具が寿命に達した事を知る事ができて、寿命に達した不良工具で加工を継続する事による、歩留まりの悪化を防止できる。又、前記荷重を、前記移動速度等、他の加工条件と関連付けて継続的に観察する事により、最適な加工条件を見出して、省エネルギ化や工具の長寿命化に繋げる事もできる。更に、継続的観察により、工具破損等の事故発生時に、その原因を特定する事もできる。
【0005】
この様な目的で、工作機械の主軸等の回転軸に加わる荷重(切削抵抗)を測定する為の装置として従来から、例えば特許文献1に記載された構造のものが知られている。この特許文献1に記載された荷重測定装置は、水晶圧電式の荷重センサを複数個、荷重の作用方向に対して直列に配置し、これら各荷重センサの測定信号に基づいて、切削工具を支持固定した回転軸に加わる荷重(切削抵抗)を測定する様に構成している。この様な特許文献1に記載された荷重測定装置の場合、高価な水晶圧電式の荷重センサを使用する為、荷重測定装置全体としてのコストが嵩む事が避けられない。
【0006】
一方、特許文献2〜4には、水晶圧電式の荷重センサに比べて低コストで調達できる、磁気式の被検出リングとセンサとにより構成する、荷重測定装置付転がり軸受ユニットに関する発明が記載されている。例えば特許文献2の段落[0066]〜[0068]には、図7に示す様な被検出リング(トーンホイール或いはエンコーダ)1を使用して、この被検出リング1を同心に支持した回転部材の軸方向に関する変位量、延いてはこの回転部材に加わるアキシアル荷重を測定する技術が記載されている。後述する本発明の実施の形態の構造は、前記被検出リング1と同様の特性を有する被検出リングを使用して、工作機械の主軸の軸方向変位量、更に必要に応じてこの主軸に加わるアキシアル荷重を測定するものである。そこで、先ず、前記被検出リング1の形状、並びに、この被検出リング1を使用して、軸方向変位量及びアキシアル荷重を測定する原理に就いて説明する。
【0007】
前記被検出リング1は、鋼板等の磁性金属板を円筒状に形成して成るもので、それぞれが1対ずつの透孔2a、2bから成る、複数の被検出用特性変化組み合わせ部3、3を、周方向に関して等間隔に配置している。この様な各被検出用特性変化組み合わせ部3、3を構成する前記各透孔2a、2bの、前記被検出リング1の軸方向に対する傾斜方向は、互いに逆向きとしている。従って、前記各被検出用特性変化組み合わせ部3、3を構成する、それぞれ1対ずつの透孔2a、2bの周方向に関するピッチ(間隔)は、前記アキシアル荷重の測定方向に一致する、前記被検出面の幅方向に関して漸次変化している。この為、前記被検出リング1のうち、被検出面である外周面の磁気特性は、前記各透孔2a、2bの存在により、円周方向に関して変化している。又、この円周方向に関して前記磁気特性が変化するパターン(後述するパルス周期比δ/Lに対応する、円周方向に亙る特性変位状況)は、前記測定すべきアキシアル荷重の作用方向に関する位置である、前記被検出リング1の軸方向位置が異なると、互いに異なるものとなる。
【0008】
上述の様な被検出リング1は、工作機械の主軸の如き回転部材の一部に、この回転部材と同心に(この回転部材の回転中心と共通する回転中心を有する状態で)固定する。又、この回転部材に隣接する部分に設けられた静止部材の一部で前記被検出リング1の外周面に対向する部分にセンサを設けている。これら被検出リング1の外周面とセンサの検出部とは、微小隙間を介して近接対向させており、この被検出リング1の回転に伴って前記センサの出力信号が変化する様にしている。この為に、例えばこのセンサとして、ホール素子、磁気抵抗素子等の磁気検出素子と永久磁石とを組み合わせた、磁気検知式のものを使用する。
【0009】
前記回転部材と共に前記被検出リング1が回転すると、前記センサがこの被検出リングの外周面を走査する。この被検出面の磁気特性は、前述の様に、前記各透孔2a、2bの存在により円周方向に変化している為、前記被検出リング1の回転に伴って前記センサの出力信号が変化する。例えば、このセンサの検出部がこの被検出リング1の外周面のうち、図8の(A)の鎖線イ位置を走査すると、このセンサの出力信号が、この図8の(B)に示す様に変化する。この図8の(B)で、円周方向に隣り合う1対の透孔2a、2bに基づいて発生する1対のパルス間の周期を部分周期δ1とする。又、円周方向に隣り合う1対の被検出用特性変化組み合わせ部3、3のうちで、互いに対応する(傾斜方向が同じである)透孔2a、2a(又は2b、2b)に基づいて発生する1対のパルス間の周期を全周期L1とする。前記センサの検出部が前記鎖線イ位置を走査する場合には、前記部分周期δ1と前記全周期L1との比であるパルス周期比δ1/L1は、比較的小さな(0に近い)値となる。これに対して、前記センサの検出部が図8の(A)の鎖線ロ位置を走査すると、このセンサの出力信号が、この図8の(C)に示す様に変化する。そして、部分周期δ2と全周期L2との比(パルス周期比δ2/L2)は、比較的大きな(1に近い)値となる。以上の説明では、走査位置に伴ってパルス周期比の大小が変化する方向が、分子となる部分周期δとして、同じ被検出用特性変化組み合わせ部3を構成する1対の透孔2a、2bに関するパルス間の周期を採用した場合に就いて述べた。分子となる部分周期として、円周方向に隣り合う被検出用特性変化組み合わせ部3、3を構成し、互いに逆方向に傾斜した(円周方向に隣り合う)1対の透孔2a、2bに関するパルスの周期を採用した場合には、前記パルス周期比の大小が変化する方向が、上述した場合とは逆になる。
【0010】
何れにしても、前記センサの出力信号に関するパルス周期比δ/Lは、このセンサの検出部が走査する、前記被検出リング1の外周面の軸方向位置により変化する。そして、この軸方向位置は、被検出リングを固定した回転部材の軸方向変位により変化する。又、この回転部材が、予圧を付与された転がり軸受により回転自在に支持されていた場合、この回転部材の軸方向変位量は、この回転部材に加わるアキシアル荷重の大きさに応じて変化する。言い換えれば、この回転部材に加わるアキシアル荷重と、この回転部材の軸方向変位量との間には、反復・再現性のある相関関係が存在する。そして、この相関関係は、転がり軸受の分野で広く知られている弾性接触理論により計算で求められる他、実験によっても求められる。従って、前記センサの出力信号を処理する為の演算器に、前記相関関係を勘案した、前記アキシアル荷重を算出する為の式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記パルス周期比δ/Lに基づいて、前記回転部材に加わるアキシアル荷重を算出できる。
【0011】
例えば、前記回転部材を工作機械の主軸とし、外周面に図7〜8に示す様な被検出用特性変化組み合わせ部3、3を形成した被検出リング1を前記主軸に外嵌固定すると共に、工作機械のハウジング(主軸頭)にセンサを支持固定すれば、この主軸に加わるアキシアル荷重を測定可能になる。そして、この主軸の移動速度を適正範囲に収めたり、この主軸の先端部に支持した工具の寿命を判定したり、最適な加工条件を求めて省エネルギ化や工具の長寿命化に繋げたり、事故発生時にその原因を特定したりできる。
【0012】
ところで、上述の様にして、例えば主軸に加わるアキシアル荷重を測定する為の測定装置を構成した場合に、コストを抑えつつ信頼性の高い測定を行う場合には、単位時間当たりに、前記パルス周期比δ/Lに関して前記演算器が行う計算の回数を抑える事が好ましい。即ち、単位時間当たりに発生する、演算器が行う計算、即ち、前記部分周期δと前記全周期Lとの比であるパルス周期比δ/Lを求め、次いでこのパルス周期比δ/Lから前記主軸の軸方向変位を求める計算(更に必要に応じてこの軸方向変位からこの主軸に加わるアキシアル荷重を求める計算)の回数が過大になると、前記演算器の処理能力が追い付かなくなる可能性がある。その場合には、前記軸方向変位やアキシアル荷重に関する計算をできなくなったり、検出分解能が低くなって、これら軸方向変位やアキシアル荷重に関する測定精度が悪化したりする。単に前記演算器の処理能力が不足しない様にする為には、前記被検出リング1の外周面に設ける、前記各被検出用特性変化組み合わせ部の数を少なくすれば済む。この数を少なくすれば、例え前記主軸が高速で回転する様な状況下でも、前記演算器の処理能力が不足する事を防止して、検出分解能の低下や測定精度の悪化を防止しつつ、前記軸方向変位やアキシアル荷重の測定を行える。
【0013】
但し、単に前記各被検出用特性変化組み合わせ部の数を少なくした場合には、前記主軸が低速で回転する場合に、この主軸に関する制御の応答性が悪化し、必ずしも適切な制御を行えなくなる可能性がある。即ち、前記工作機械の運転時に、前記主軸に加わる荷重が細かく変動する様な状況下でも、この変動を確実に捉えて、この主軸の回転や送りに関する制御を適切に行わせる為には、単位時間当たりに前記変位或はアキシアル荷重を求める回数を確保する必要がある。従って、前記主軸が低速で回転する場合にも、この主軸に関する制御の応答性を確保する為には、上述の場合とは逆に、前記被検出リング1の外周面に設ける、前記各被検出用特性変化組み合わせ部の数を多くする必要がある。
【0014】
勿論、前記演算器として、処理能力の高い(計算速度が速い)CPUを備えたものを使用すれば、前記各被検出用特性変化組み合わせ部の数を多くし、しかも、単位時間当たりに前記変位或いはアキシアル荷重を求める回数を多くできる。従って、前記主軸が高速回転する状態での検出分解能及び測定精度の確保と、同じく低速回転する状態での応答性の確保との両立を図れる。但し、処理能力の高いCPUは高価である為、回転部材用物理量測定装置を備えた工作機械等のコスト低減の面からは、特に処理能力の高いCPUを使用しなくても、前記各性能(検出分解能、測定精度、応答性)を何れも確保できる構造の実現が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−187048号公報
【特許文献2】特開2006−317420号公報
【特許文献3】特開2008−39155号公報
【特許文献4】特開2008−64731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、例えば工作機械の主軸の軸方向の変位量とこの主軸の軸方向に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方を測定するのに利用した場合に、この主軸が高速回転する状態での検出分解能及び測定精度の確保と、同じく低速回転する状態での応答性の確保との両立を図れる回転部材用物理量測定装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の回転部材用物理量測定装置は、ハウジングと、回転部材と、被検出リングと、センサと、演算器とを備える。
このうちのハウジングは、例えば工作機械の主軸頭(ヘッド)等であり、回転しない。
又、前記回転部材は、例えば工作機械の主軸であり、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により前記ハウジングの内側に、回転自在に支持されている。
又、前記被検出リングは、前記回転部材の一部に支持固定されたもので、この回転部材と同心の被検出面を有する。この被検出面は、複数の被検出用特性変化組み合わせ部を、周方向に関して等間隔に、それぞれ前記物理量の測定方向に一致する前記被検出面の幅方向に形成している。そして、前記各被検出用特性変化組み合わせ部は、この幅方向に対する傾斜方向が互いに異なる1対の特性変化部を、前記被検出リングの周方向に離隔した状態で設けている。
又、前記センサは、検出部を前記被検出面に対向させた状態で、前記ハウジングに支持されており、前記各被検出用特性変化組み合わせ部を構成する前記各特性変化部が前記検出部が対向する部分を通過する瞬間に出力信号を変化させるものである。
更に、前記演算器は、円周方向に隣り合う1対の特性変化部に基づいて発生する1対のパルス間の周期である部分周期と、互いに異なる1対の被検出用特性変化組み合わせ部の対応する特性変化部に基づいて発生する、別の1対のパルス間の周期である全周期との比であるパルス周期比に基づいて、前記物理量を求める機能を有する。
【0018】
特に、本発明の回転部材用物理量測定装置に於いては、前記演算器は、前記回転部材の回転速度に応じて、前記互いに異なる1対の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせを変更する機能を備える。そして、前記回転速度が所定値よりも低い場合に、これら両被検出用特性変化組み合わせ部として、円周方向に関する間隔が短い組み合わせを採用する。これに対して、前記回転速度が前記所定値以上である場合に、前記両被検出用特性変化組み合わせ部として、円周方向に関する間隔が長い組み合わせを採用する。
【0019】
この様な本発明の回転部材用物理量測定装置を実施する場合に、具体的には、請求項2に記載した発明の様に、前記回転速度が所定値よりも低い場合に、前記両被検出用特性変化組み合わせ部として、円周方向に隣り合う1対の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせを採用する。これに対して、前記回転速度が前記所定値以上である場合に、前記両被検出用特性変化組み合わせ部として、途中に存在する1乃至複数の被検出用特性変化組み合わせ部を除いた、別の1対の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせを採用する。
又、請求項3に記載した発明の様に、前記被検出面を、前記被検出リングの外周面とし、前記物理量を、前記回転部材の軸方向の変位量とこの回転部材の軸方向に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方とする。
【発明の効果】
【0020】
上述の様に構成する本発明の回転部材用物理量測定装置によれば、例えば工作機械の主軸の軸方向の変位量とこの回転部材の軸方向に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方である物理量を測定するのに適用した場合に、この主軸が高速回転する状態での検出分解能及び測定精度の確保と、同じく低速回転する状態での応答性の確保との両立を図れる。
【0021】
即ち、前記主軸等の回転部材の回転速度が所定値よりも低い場合に、円周方向に隣り合う1対の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせに基づいてパルス周期比を求め、このパルス周期比に基づいて前記物理量を求める。この場合には、被検出リングの被検出面に設けた複数の被検出用特性変化組み合わせ部を総て利用して前記物理量を求める為、前記回転部材の回転速度が遅い場合でも、単位時間当たりに前記変位或いはアキシアル荷重を求める回数を確保できて、この回転部材に関する制御の応答性を確保できる。
【0022】
これに対して、前記回転速度が前記所定値以上である場合に、前記被検出リングの被検出面に設けた複数の被検出用特性変化組み合わせ部を部分的に利用してパルス周期比を求め、このパルス周期比に基づいて前記物理量を求める。この場合には、前記回転部材が1回転する間に求めるパルス周期比の数が、この回転部材の被検出面に設けられた被検出用特性変化組み合わせ部の数よりも少なくなる。従って、演算器に組み込むCPUとして、特に処理能力が高い高価なものを使用しなくても、前記物理量の算出を確実に行えて、この物理量に関する検出分解能及び測定精度の確保を図れる。この場合には、前記回転部材の回転速度が速い為、この回転部材が1回転する間に前記物理量を求める回数が少なくなっても、この物理量を求める時間間隔は短くできる。従って、前記回転部材に関する制御の応答性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の対象となる構造の1例を示す断面図。
【図2】図1のX部拡大図。
【図3】被検出リングを取り出して示す斜視図。
【図4】センサユニットを取り出して、先端のセンサ装着部を被覆していない状態(A)と被覆した状態(B)とで示す斜視図。
【図5】センサ部分を略示する模式図。
【図6】主軸の低速回転時にパルス周期比を求める状態(A)と、同じく高速回転時にパルス周期比を求める状態(B)とを示す模式図。
【図7】従来から知られている被検出リングの斜視図。
【図8】この被検出リングを利用してアキシアル荷重を測定できる理由を説明する為の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1〜6により、本発明の実施の形態の1例に就いて説明する。本例の構造は、工作機械の主軸4に加わるアキシアル荷重を測定する為の構造に本発明を適用した場合に就いて示している。この為に本例の構造では、工作機械のハウジング(主軸頭)5の内径側に前記主軸4を、多列転がり軸受ユニット6により回転自在に支持すると共に、電動モータ7により、前記主軸4を回転駆動自在としている。前記多列転がり軸受ユニット6を構成する複数個の転がり軸受8a〜8dのうち、先端寄りに配置した2個の転がり軸受8a、8bと、基端寄りに配置した2個の転がり軸受8c、8dとには、互いに逆向きの接触角を付与すると共に、これら各転がり軸受8a〜8dに、予圧を付与している。これにより、前記主軸4を前記ハウジング5に対して、ラジアル荷重及び両方向のアキシアル荷重を支承する状態で、がたつきなく、回転自在に支持している。前記工作機械の運転時には、前記主軸4の先端部(図1の左端部)に固定した工具(図示省略)を、高速で回転しつつ被加工物に押し付け、この被加工物に、切削等の加工を施す。この様にして加工を施す際に、前記主軸4には、この被加工物に前記工具を押し付ける事の反作用として、各方向の荷重が加わる。図1に示した本例の構造では、このうち、前記主軸4の軸方向に一致する、前記アキシアル荷重に基づく、この主軸4の軸方向の変位量(更に必要に応じてこのアキシアル荷重)を求められる様にしている。
【0025】
この為に本例の構造の場合には、前記主軸4の中間部先端寄り部分で、前記多列転がり軸受ユニット6を構成する転がり軸受8b、8c同士の間に、図3に示す様な被検出リング1aを外嵌固定すると共に、前記ハウジング5に、図2、4に示す様なセンサユニット9を支持固定している。このうちの被検出リング1aは、内輪間座を兼ねるもので、鋼等の磁性金属により造り、全体を円筒状としている。そして、被検出面である前記被検出リング1aの外周面に、複数の被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aを、周方向に関して等間隔に形成している。これら各被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aは、前記被検出リング1aの軸方向に対する傾斜方向が互いに異なる1対の特性変化部である、それぞれが直線状の凹溝10a、10bを、前記被検出リング1aの周方向に離隔した状態で設けている。又、この様な凹溝10a、10bを形成した、この被検出リング1aの外周面に、前記センサユニット9の検出部を近接対向させている。そして、このセンサユニット9の出力信号中に含まれる、パルスの間隔(パルス周期)に関する情報に基づいて、前記主軸4の軸方向に関する変位量を求め、更に必要に応じて、この主軸4に作用するアキシアル荷重を求める様にしている。
【0026】
本例の回転部材用物理量測定装置の場合には、単一のセンサ11の出力信号のパルス周期比δ/L(部分周期/全周期)により、前記被検出リング1a(を固定した前記主軸4)に関する物理量(軸方向に関する変位量とアキシアル荷重との一方又は双方)を求める様にしている。この為に使用する前記センサ11は、前記被検出リング1aの外周面に形成した、前記各凹溝10a、10bの存在に基づいて出力信号が変化するもので、ホールIC、磁気抵抗素子等の磁気検出素子である。又、前記センサ11の背面(前記被検出リング1aの外周面と対向する検出部と反対側の面)に永久磁石12を配置し、これらセンサ11と永久磁石12とを、合成樹脂製のホルダ13の先端部に包埋保持している。この永久磁石12の着磁方向は、前記センサ11が前記被検出リング1aの被検出面に対向している方向とする。以上の構成を採用している為、これらセンサ11と被検出リング1aとの、この被検出リング1aの軸方向に関する相対変位に伴って、前記パルス周期比δ/Lがずれる。このパルス周期比δ/Lに基づいて、前記主軸4に加わるアキシアル荷重を求める原理に就いては、前述の図7〜8で説明した通りである。即ち、前記センサの出力信号を演算器(図示省略)に送る。すると、この演算器が、予めインストールされたソフトウェア中の式により、前記パルス周期比δ/Lに基づいて、前記主軸4の軸方向に関する変位量を求め、更に、必要に応じて、この主軸4に加わるアキシアル荷重を求める。
【0027】
特に、本例の回転部材用物理量測定装置の場合には、前記演算器は、前記主軸4の回転速度Vに応じて、前記互いに異なる1対の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせを変更する機能を備える。そして、前記回転速度Vが所定値Kよりも低い(V<K)場合には、これら両被検出用特性変化組み合わせ部として、円周方向に関する間隔が短い組み合わせを採用する。本例の場合には、図6の(A)に示す様に、前記パルス周期比δ/Lを求める際の分母Laとして、円周方向に隣り合う被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aを構成する1対ずつの凹溝10a、10bのうちで、互いに同じ方向に傾斜した凹溝10a、10a(10b、10b)により変化するパルス同士のピッチを利用する。
【0028】
これに対して、前記回転速度Vが前記所定値K以上(V≧K)である場合には、前記両被検出用特性変化組み合わせ部として、円周方向に関する間隔が長い組み合わせを採用する。本例の場合には、図6の(B)に示す様に、前記パルス周期比δ/Lを求める際の分母Lbとして、円周方向に関して、1つ置きの被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aを構成する1対ずつの凹溝10a、10bのうちで、互いに同じ方向に傾斜した凹溝10a、10a(10b、10b)により変化するパルス同士のピッチを利用する。即ち、この場合に、前記演算器は、図6の(B)に破線で示すパルス組である、前記1つ置きの被検出用特性変化組み合わせ部3a、3a同士の間に存在する、各被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aに基づいて前記センサ11が発生するパルス組(これら各被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aを構成する1対の凹溝10a、10bに基づいて近接した状態で発生する1対のパルス)を認識しない(無視して飛ばす)。
【0029】
そして、前記パルス周期比δ/Lを求める際の分母をLbとして、このパルス周期比δ/Lを求め、このパルス周期比δ/Lに基づいて、前記主軸4の軸方向変位、更に必要に応じて、この主軸4に加わるアキシアル荷重を求める。勿論、この場合に前記パルス周期比δ/Lに基づいて前記主軸4の軸方向変位、更にはこの主軸4に加わるアキシアル荷重を求める為に使用する式は、図6の(A)に示した低速回転時とは異なるものとする。具体的には、前記パルス周期比δ/Lと前記軸方向変位(アキシアル荷重)との関係を表す式中の係数を2倍にする。
【0030】
上述の様に構成する本発明の回転部材用物理量測定装置によれば、工作機械の主軸4が高速回転する状態での検出分解能及び測定精度の確保と、同じく低速回転する状態での応答性の確保との両立を図れる。
即ち、前記主軸4の回転速度が所定値よりも低い場合には、前述した図6の(A)に示す様に、円周方向に隣り合う1対の被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aの組み合わせに基づいてパルス周期比δ/Lを求め、このパルス周期比δ/Lに基づいて、物理量である、前記軸方向変位(アキシアル荷重)を求める。この為、前記被検出リング1aの外周面に設けた複数の被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aを総て利用して前記物理量を求める事になる。従って、前記主軸4の回転速度が遅い場合でも、単位時間当たりに前記変位或いはアキシアル荷重を求める回数を確保できて、この主軸4に関する制御の応答性を確保できる。
【0031】
これに対して、この主軸4の回転速度が前記所定値以上である場合には、前述の図6の(B)に示す様に、前記被検出リング1aの外周面に設けた複数の被検出用特性変化組み合わせ部3a、3aを部分的に(一部のみを)利用してパルス周期比δ/Lを求め、このパルス周期比δ/Lに基づいて前記物理量を求めるので、前記主軸4が1回転する間に求めるパルス周期比δ/Lの数が、前記被検出リング1aの外周面に設けられた被検出用特性変化組み合わせ部の数よりも少なくなる。従って、前記演算器に組み込むCPUとして、特に処理能力が高い高価なものを使用しなくても、前記変位或いはアキシアル荷重の算出を確実に行えて、この変位或いはアキシアル荷重に関する検出分解能及び測定精度の確保を図れる。この場合には、前記主軸4の回転速度が速い為、この主軸4が1回転する間に前記変位或いはアキシアル荷重を求める回数が少なくなっても、この変位或いはアキシアル荷重を求める時間間隔を短くできる。従って、前記主軸4に関する制御の応答性を確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、工作機械の主軸の軸方向変位、更にはこの主軸に加わるアキシアル荷重を測定して、この主軸の動きを適切に制御する為に利用する事が好適な用途であるが、他の用途にも利用できる。
又、本発明を実施する場合に、複数の被検出用特性変化組み合わせ部を被検出リングの被検出面に、円周方向に関して等間隔で配置する事は必要であるが、これら各被検出用特性変化組み合わせ部の数は、高速回転時にパルス周期比に関する処理を行わずに飛ばす被検出用特性変化組み合わせ部との関係で規制する(例えば、1回のパルス周期比を求める度に飛ばす数に1を足した数の整数倍とする)必要はない。言い換えれば、全被検出特性変化組み合わせ部の数を、1回のパルス周期比を求める度に飛ばす数に1を足した数の、非整数倍としても良い。例えば、被検出リングの全周に設けた被検出用組み合わせ部の数を偶数とし、高速回転時に、2つ置きの被検出用特性変化組み合わせ部に関して前記パルス周期比に関する処理を行う(1回のパルス周期比を求める度に飛ばす数に1を足した数=3)事もできる。或いは、前記被検出リングの全周に設けた被検出用組み合わせ部の数を奇数とし、高速回転時に、1つ置きの被検出用特性変化組み合わせ部に関して前記パルス周期比に関する処理を行う(1回のパルス周期比を求める度に飛ばす数に1を足した数=2)事もできる。これらの場合には、このパルス周期に関する処理を行う被検出用特性変化組み合わせ部が1回転毎にずれるが、主軸4に関する物理量を測定する面からは、特に差し支えない。
【0033】
又、前記パルス周期を求める為に利用する1対の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせを、前記回転部材の回転速度に応じて3段階以上に変更する機能を、演算器に持たせる事もできる。例えば、低速回転時には円周方向に隣り合う1対の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせに基づいて前記物理量を求め、中速回転時には円周方向に関して1つ置きの被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせに基づいて前記物理量を求め、高速回転時には円周方向に関して2つ置き(更には3つ置き以上)の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせに基づいて前記物理量を求める事もできる。
更に、前記各パルス周期比δ/Lを求める際に分子とする、円周方向に隣り合う特性変化部としては、同じ被検出用特性変化組み合わせ部を構成するものに限らず、円周方向に隣り合う被検出用特性変化組み合わせ部を構成するものを採用する事もできる。
【符号の説明】
【0034】
1、1a 被検出リング
2a、2b 透孔
3、3a 被検出用特性変化組み合わせ部
4 主軸
5 ハウジング
6 多列転がり軸受ユニット
7 電動モータ
8a、8b、8c、8d 転がり軸受
9 センサユニット
10a、10b 凹溝
11 センサ
12 永久磁石
13 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転しないハウジングと、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、このハウジングの内側に回転自在に支持された回転部材と、この回転部材の一部に支持固定された、この回転部材と同心の被検出面を有する被検出リングと、検出部をこの被検出面に対向させた状態で前記ハウジングに支持されたセンサと、このセンサの出力信号を処理する演算器とを備え、
前記被検出リングの被検出面は、複数の被検出用特性変化組み合わせ部を、周方向に関して等間隔に、それぞれ前記物理量の測定方向に一致する前記被検出面の幅方向に形成したもので、前記各被検出用特性変化組み合わせ部は、この幅方向に対する傾斜方向が互いに異なる1対の特性変化部を、前記被検出リングの周方向に離隔した状態で設けたものであり、
前記センサは、前記各被検出用特性変化組み合わせ部を構成する前記各特性変化部が前記検出部が対向する部分を通過する瞬間に出力信号を変化させるものであり、
前記演算器は、円周方向に隣り合う1対の特性変化部に基づいて発生する1対のパルス間の周期である部分周期と、互いに異なる1対の被検出用特性変化組み合わせ部の対応する特性変化部に基づいて発生する、別の1対のパルス間の周期である全周期との比であるパルス周期比に基づいて、前記物理量を求めるものである回転部材用物理量測定装置に於いて、
前記演算器は、前記回転部材の回転速度に応じて、前記互いに異なる1対の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせを変更する機能を備え、前記回転速度が所定値よりも低い場合に、これら両被検出用特性変化組み合わせ部として、円周方向に関する間隔が短い組み合わせを採用し、前記回転速度が前記所定値以上である場合に、前記両被検出用特性変化組み合わせ部として、円周方向に関する間隔が長い組み合わせを採用する事を特徴とする回転部材用物理量測定装置。
【請求項2】
前記回転速度が所定値よりも低い場合に、前記両被検出用特性変化組み合わせ部として、円周方向に隣り合う1対の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせを採用し、前記回転速度が前記所定値以上である場合に、前記両被検出用特性変化組み合わせ部として、途中に存在する1乃至複数の被検出用特性変化組み合わせ部を除いた、別の1対の被検出用特性変化組み合わせ部の組み合わせを採用する、請求項1に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項3】
前記被検出面が、前記被検出リングの外周面であり、前記物理量が、前記回転部材の軸方向の変位量とこの回転部材の軸方向に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方である、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した回転部材用物理量測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−73086(P2012−73086A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217474(P2010−217474)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】