説明

回転電機

【課題】この発明は、磁石保持の信頼性を高めることができるとともに、磁石保持構造を簡素化し、磁石の組み付け性を高め、生産コストの低下および量産性を高めることができる回転電機およびその製造方法を得る。
【解決手段】第1及び第2磁石保持台座30,40が第1及び第2爪状磁極部20,24の先端側の内周面に対向する第2及び第1継鉄部23,19の部位に一体に突設され、第1及び第2磁石保持穴31,41が第1及び第2磁石保持台座30,40に穴中心を軸方向に一致させて軸方向の一端から他端に貫通し、かつ軸方向の一端から他端に至る全域に亘って径方向外方に開口する、C字状の円弧形の断面にあけられている。第1及び第2磁石ケース36,46が、第1及び第2永久磁石33,43に嵌着され、翼部38,48が湾曲状態を拡大されて復元力を蓄勢した状態で第1及び第2磁石保持穴31,41と嵌合部34,44との間に介装されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用交流発電機などの回転電機に関し、特にランデル型の回転子における永久磁石の保持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ランデル型の回転子を用いる車両用交流発電機は、数十年にわたって自動車に使用されてきた。そして、近年の環境問題から車載される電装品の負荷が急増しており、ランデル型の回転子の発電量のより一層の増加が求められている。
【0003】
従来、このような課題を解決するために、ランデル型の回転子の周方向に対向する爪状磁極間に永久磁石を配設する手段がとられていた(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
また、永久磁石をファンに一体に形成されたポケット内に保持させ、ポケットを第1ポールピースのボディの上面と第2ポールピースのポールフィンガーの下面との間に圧入してファンを第1ポールピースに取り付け、ポケットを第2ポールピースのボディの上面と第1ポールピースのポールフィンガーの下面との間に圧入してファンを第2ポールピースに取り付ける手段がとられていた(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−85045号公報
【特許文献2】米国特許第4959577号明細書
【特許文献3】特表2002−527015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2において、永久磁石を爪状磁極部間に保持するに当たっては、永久磁石を対向する爪状磁極部に対して高精度に位置決めする必要があり、磁石保持部材を付加し、或いは磁石保持用の溝を機械加工により爪状磁極部に形成することが必要となり、生産コストの高騰および量産性の低下をもたらしていた。また、高速回転時には、隣り合う爪状磁極部間の相対的な変位が生じるので、永久磁石に加わる遠心力を爪状磁極部間で保持する構造では、安定した永久磁石の保持が得られない。
【0007】
特許文献3に記載のものでは、永久磁石を保持するポケットは一方のポールピースのボディと他方のポールピースのポールフィンガーとの間の嵌合空間に適合する概略矩形の断面形状に形成される。永久磁石を保持するポケットの保持を強固にするためには、ポールピースのポケットとの嵌合面を高精度に加工する必要がある。しかし、ポールピースのポケットとの嵌合面は平面或いは緩やかな曲面であり、高性能な工作機械によるポールピースの後加工が必要となり、膨大な加工コストおよび加工時間がかかってしまう。また、高速回転時には、爪状磁極部の先端が径方向外方に変位するので、永久磁石に加わる遠心力を爪状磁極部で保持する構造では、安定した永久磁石の保持が得られない。
【0008】
この発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、遠心力に起因する爪状磁極部の先端部の変位や隣り合う爪状磁極部間の相対的な変位が磁石保持に直接影響せず、磁石保持の信頼性を高めることができるとともに、磁石保持構造を簡素化し、磁石の組み付け性を高め、生産コストの低下および量産性を高めることができる回転電機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による回転電機は、ボス部、該ボス部の軸方向両端縁部から径方向外方に延設された一対の継鉄部、および該一対の継鉄部のそれぞれから交互に軸方向に延設され、噛み合って周方向に配列された複数の爪状磁極部を有し、上記ボス部の軸心位置に挿通された回転軸に固着されたポールコアと、上記ボス部、上記一対の継鉄部、および上記複数の爪状磁極部に囲まれた空間内に収納された界磁コイルと、を有する回転子と、上記回転子の外周を所定のエアギャップを介して囲繞して配設された固定子と、を備えている。そして、本回転電機は、上記複数の爪状磁極部の先端側の内周面に対向する上記一対の継鉄部の部位に該継鉄部から一体に突設された永久磁石保持部と、上記永久磁石保持部のそれぞれに穴方向を軸方向に向けて設けられ、軸方向の少なくとも一端が開口し、かつ径方向外方に開口する、断面がC字状の円弧形の磁石保持穴と、断面がC字状の円弧形の嵌合部および該嵌合部の円弧形の弦部から一体に径方向外方に突出する突出部からなる柱状体に作製され、該嵌合部を上記磁石保持穴に収納され、かつ該突出部を上記磁石保持穴の開口から突出させて配置され、上記界磁コイルの作る磁界の向きと逆向きに着磁配向された永久磁石と、上記突出部の外周面を覆う形状の冠部および該冠部の両端から上記嵌合部の外周面を覆う形状に延出され、上記嵌合部の外周面の曲率半径より小径の曲率半径を有する一対の断面円弧状の翼部を有し、該冠部が上記突出部に嵌着され、かつ一対の該翼部が断面円弧の湾曲状態を拡大されて復元力を蓄勢した状態で上記磁石保持穴と上記嵌合部との間に介装された磁石ケースと、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、永久磁石が継鉄部側に保持されている。そこで、遠心力に起因する爪状磁極部の変位が永久磁石に影響しないので、永久磁石の保持が容易となり、磁石保持の信頼性が上がる。また、永久磁石が爪状磁極部の内径側に位置しているので、永久磁石に作用する遠心力が小さくなり、永久磁石の保持が容易となり、磁石保持の信頼性が上がる。また、永久磁石が磁石ケースに嵌着されているので、永久磁石の割れや欠けの発生が抑制される。
【0011】
また、永久磁石が磁石ケースの一対の翼部の復元力を利用して支持されているので、磁石ケースの永久磁石への嵌着が容易となる。また、磁石保持穴をドリルやリーマなどの回転切削工具を用いて簡易に、高精度に作製でき、磁石ケースと磁石保持穴との嵌め合い部のがたつきを抑えることができる。さらに、磁石保持穴の穴方向を軸方向に向けているので、磁石ケースを軸方向から磁石保持穴に挿入することができ、磁石ケースの組み付け性が容易となる。これらのことから、生産コストの低下および量産性の向上が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機を模式的に示す断面図、図2はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機に適用される回転子を示す分解斜視図、図3はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機に適用される磁石ケースの製造方法を説明する工程図、図4はこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機における永久磁石の磁石ケースへの実装方法を説明する図、図5および図6はそれぞれこの発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機における磁束の流れを説明するための模式図である。
【0013】
図1および図2において、車両用交流発電機1は、それぞれ略椀形状のアルミ製のフロントブラケット2とリヤブラケット3とからなるケース4と、回転軸16をケース4に軸受5を介して支持されて、ケース4内に回転自在に配設された回転子13と、ケース4のフロント側に延出する回転軸16の端部に固着されたプーリ6と、回転子13の軸方向の両端面に固定されたファン7と、回転子13に対して一定のエアギャップを有して、回転子13の外周を囲繞してケース4に固定された固定子10と、回転軸16のリヤ側に固定され、回転子13に電流を供給する一対のスリップリング8と、各スリップリング8に摺動するようにケース4内に配設された一対のブラシ9と、を備えている。なお、図示していないが、固定子10で生じた交流を直流に整流する整流器、固定子10で生じた交流電圧の大きさを調整する電圧調整器などがケース4内に配設されている。
【0014】
固定子10は、円筒状の固定子鉄心11と、固定子鉄心11に巻装され、回転子13の回転に伴い、後述する界磁コイル14からの磁束の変化で交流が生じる固定子コイル12と、を備えている。
【0015】
回転子13は、励磁電流が流されて磁束を発生する界磁コイル14と、界磁コイル14を覆うように設けられ、その磁束によって磁極が形成されるポールコア15と、ポールコア15の軸心位置に貫装された回転軸16と、を備えている。
ポールコア15は、それぞれ例えばS10Cなどの低炭素鋼で冷間鍛造製法により作製された第1および第2ポールコア体17,21に分割構成されている。
【0016】
第1ポールコア体17は、外周面を円筒形状とし、回転軸挿通穴18aが軸心位置を貫通して形成された第1ボス部18と、第1ボス部18の一端縁部から径方向外側に延設された厚肉リング状の第1継鉄部19と、第1継鉄部19の外周部から軸方向他端側に延設された第1爪状磁極部20とを有している。第1爪状磁極部20は、その最外径面形状を略台形形状とし、周方向幅が先端側に向かって徐々に狭くなり、かつ、径方向厚みが先端側に向かって徐々に薄くなる先細り形状に形成され、第1継鉄部19の外周部に周方向に等角ピッチで例えば8個配列されている。
【0017】
第2ポールコア体21は、外周面を円筒形状とし、回転軸挿通穴22aが軸心位置を貫通して形成された第2ボス部22と、第2ボス部22の他端縁部から径方向外側に延設された厚肉リング状の第2継鉄部23と、第2継鉄部23の外周部から軸方向一端側に延設された第2爪状磁極部24とを有している。第2爪状磁極部24は、その最外径面形状を略台形形状とし、周方向幅が先端側に向かって徐々に狭くなり、かつ、径方向厚みが先端側に向かって徐々に薄くなる先細り形状に形成され、第2継鉄部23の外周部に周方向に等角ピッチで例えば8個配列されている。
【0018】
このように構成された第1および第2ポールコア体17,21は、第1および第2爪状磁極部20,24を交互に噛み合わせ、かつ、第1ボス部18の他端面を第2ボス部22の一端面に突き合わせ、回転軸挿通穴18a,22aに貫装された回転軸16に固着されている。そして、ボビン(図示せず)に巻装された界磁コイル14が、第1および第2ボス部18,22、第1および第2継鉄部19,23および第1および第2爪状磁極部20,24に囲まれた空間に装着されている。ここで、第1および第2ボス部18,22および第1および第2継鉄部19,23が、それぞれポールコア15のボス部および一対の継鉄部に相当する。
【0019】
永久磁石保持部としての第1磁石保持台座30は、冷間鍛造製法により第1ポールコア体17に一体成形される。この第1磁石保持台座30が、各第2爪状磁極部24の先端側内周面と対向する第1継鉄部19の外周面上に一体に突設されている。第1磁石保持穴31が、第1磁石保持台座30に、穴中心を軸方向に一致させて軸方向一端から他端に貫通し、かつ軸方向の一端から他端に至る全域に亘って径方向外方に開口する、穴中心に直交する断面がC字状の円弧形に形成されている。第1磁石保持穴31を軸方向の一端から他端に至る全域に亘って径方向外方に開口する第1軸方向開口32は、第2爪状磁極部24の先端側内周面と対向している。
【0020】
第1永久磁石33は、断面がC字状の円弧形の嵌合部34と、嵌合部34の円弧形の弦部から一体に径方向外方に突き出た断面が台形の突出部35と、を備えた柱状体に作製されている。嵌合部34の半径は、第1磁石保持穴31の半径よりほぼ第1磁石ケース36の板厚分小さくなっている。
【0021】
第1磁石ケース36は、後述するように、ステンレス平板を屈曲成形して作製され、突出部35の外形形状に適合する内形形状の断面コ字状の冠部37と、冠部37のコ字状の両端から嵌合部34の外周を覆う形状に延出され、それぞれ所定の曲率半径の断面円弧状に形成された一対の翼部38と、を備えている。翼部38の内周面の曲率半径は、嵌合部34の外周面の曲率半径より僅かに小さくなっている。この第1磁石ケース36は、冠部37を突出部35に嵌着して第1永久磁石33に外嵌状態に装着される。この時、一対の翼部38は湾曲状態を拡大され、自身の弾性力により嵌合部34の外周面を押圧し、一対の翼部38の先端間に所定の隙間が確保されている。また、各翼部38は、少なくともその断面円弧の中央側が嵌合部34の外周面から離反している。これにより、第1永久磁石33を第1磁石ケース36内に保持した第1磁石モジュール39が組み立てられる。
【0022】
第1磁石モジュール39は、一対の翼部38で覆われた嵌合部34を第1磁石保持穴31に軸方向から挿入、保持される。この時、一対の翼部38は、一対の翼部38の先端間の隙間を縮小しつつ、かつ断面円弧の中央側が嵌合部34の外周面に近接して、曲率半径が嵌合部34の外周面の曲率半径に近づくように湾曲状態がさらに拡大され、第1永久磁石33の嵌合部34の外周面との密着面積が増大する。これにより、第1磁石モジュール39が圧入状態で第1磁石保持穴31に保持される。この時、翼部38は復元力が蓄勢された状態で第1磁石保持穴31と嵌合部34との間に介装され、第1永久磁石33が第1磁石保持穴31に弾性支持される。また、冠部37で覆われた突出部35が、第1軸方向開口32から突出し、第2爪状磁極部24の先端側内周面に対向している。
【0023】
永久磁石保持部としての第2磁石保持台座40は、冷間鍛造製法により第2ポールコア体21に一体成形される。この第2磁石保持台座40が、各第1爪状磁極部20の先端側内周面と対向する第2継鉄部23の外周面上に一体に突設されている。第2磁石保持穴41が、第2磁石保持台座40に、穴中心を軸方向に一致させて軸方向一端から他端に貫通し、かつ軸方向の一端から他端に至る全域に亘って径方向外方に開口する、穴中心に直交する断面がC字状の円弧形に形成されている。第2磁石保持穴41を軸方向の一端から他端に至る全域に亘って径方向外方に開口する第2軸方向開口42は、第1爪状磁極部20の先端側内周面と対向している。
【0024】
第2永久磁石43は、断面がC字状の円弧形の嵌合部44と、嵌合部44の円弧形の弦部から一体に径方向外方に突き出た断面が台形の突出部45と、を備えた柱状体に作製されている。嵌合部44の半径は、第2磁石保持穴41の半径よりほぼ第2磁石ケース46の板厚分小さくなっている。
【0025】
第2磁石ケース46は、同様に、ステンレス平板を屈曲成形して作製され、突出部45の外形形状に適合する内形形状の断面コ字状の冠部47と、冠部47のコ字状の両端から延出され、それぞれ所定の曲率半径の断面円弧状に形成された一対の翼部48と、を備えている。翼部48の内周面の曲率半径は、嵌合部44の外周面の曲率半径より僅かに小さくなっている。この第2磁石ケース46は、冠部47を突出部45に嵌着して第2永久磁石43に外嵌状態に装着される。この時、一対の翼部48は湾曲状態を拡大され、自身の弾性力により嵌合部44の外周面を押圧し、一対の翼部48の先端間に所定の隙間が確保されている。また、各翼部48は、少なくともその断面円弧の中央側が嵌合部44の外周面から離反している。これにより、第2永久磁石43を第2磁石ケース46内に保持した第2磁石モジュール49が組み立てられる。
【0026】
第2磁石モジュール49は、一対の翼部48で覆われた嵌合部44を第2磁石保持穴41に軸方向から挿入、保持される。この時、一対の翼部48は、一対の翼部48の先端間の隙間を縮小しつつ、かつ断面円弧の中央側が嵌合部44の外周面に近接して、曲率半径が嵌合部44の外周面の曲率半径に近づくように湾曲状態がさらに拡大され、第2永久磁石43の嵌合部44の外周面との密着面積が増大する。これにより、第2磁石モジュール49は圧入状態で第2磁石保持穴41に保持される。この時、翼部48は復元力が蓄勢された状態で第2磁石保持穴41と嵌合部44との間に介装され、第2永久磁石43が第2磁石保持穴41に弾性支持される。また、冠部47で覆われた突出部45が、第2軸方向開口42から突出し、第1爪状磁極部20の先端側内周面に対向している。
【0027】
また、第1および第2永久磁石33,43は、着磁方向25が、界磁コイル14を流れる界磁電流が回転子13の軸心と直交する平面において作る磁界26の向きと反対となるように着磁配向されている。つまり、図1に示されるように、界磁コイル14に通電され、磁界26が矢印方向に発生された場合、第1および第2永久磁石33,43は、磁界26と逆向きに着磁配向される。ここでは、第1および第2永久磁石33,43の着磁方向25は、径方向に一致しており、その着磁方向25の延長線が対向する第1および第2爪状磁極部20,24の先端側の内周面に向かっている。なお、界磁コイル14を流れる界磁電流が作る磁界26の向きが反転した設計の場合には、第1および第2永久磁石33,43も逆向きに着磁配向される。
【0028】
つぎに、第1磁石ケース36の製造方法について図3を参照しつつ説明する。ここで、薄板100は、例えば厚さ0.5〜2mmのステンレス平板である。第1金型101は、断面がC字状の円弧形の基部102と、基部102の円弧形の弦部から一体に径方向外方に突き出た断面台形の突部103とからなる柱状体に作製されている。そして、突部103は第1永久磁石33の突出部35と同等の外形形状に形成され、基部102は円弧形の半径が嵌合部34の円弧形の半径より僅かに小径に形成されている。第2金型104の下面には、基部102の断面円弧形の中心から突部103の上端までの第1金型101の外形形状に対してほぼ薄板100の板厚分大きな内形形状のプレス溝105が凹設されている。第3金型106の先端には、基部102の断面円弧形の中心から突部103の上端までの第1金型101の外形形状と同等の外形形状のプレス面107が形成されている。第4金型108には、基部102の断面円弧形の中心から突部103と逆側の一側半分の外形形状に対してほぼ薄板100の板厚分大きな内形形状のプレス面109が凹設されている。
【0029】
まず、図3の(a)に示されるように、薄板100を第2金型104にセットし、第3金型106により薄板100をプレスする。これにより、薄板100がプレス面107に押圧され、図3の(b)に示されるように、プレス溝105の溝形状に屈曲成形され、薄板100の両端側が第2金型104から平行に延出している。ついで、第3金型106を取り外し、第1金型101が、図3の(c)に示されるように、プレス溝105の溝形状に屈曲成形された薄板100内に嵌着される。その後、図3の(c)に示されるように、第4金型108により左右から薄板100の第2金型104からの延出部をプレスする。これにより、薄板100の第2金型104からの延出部がプレス面109に押圧され、第1金型101の基部102の外周面形状に屈曲成形される。ついで、薄板100を第2金型104から取り外し、図3の(d)に示される第1磁石ケース36が得られる。
【0030】
このように成形された第1磁石ケース36を、図4に示されるように、一対の翼部38を押し広げ、第1永久磁石33を第1磁石ケース36内に差し入れる。その後、一対の翼部38の押し広げ力を解除して、第1磁石モジュール39が組み立てられる。この時、冠部37は突出部35の外周面に密着状態に嵌着される。また、翼部38の内周面の曲率半径が、嵌合部34の外周面の曲率半径より小さいので、翼部38は、湾曲状態を拡大されて、自身の弾性力により嵌合部34に押圧状態に嵌着される。これにより、第1永久磁石33が抜け落ちることなく第1磁石ケース36に保持される。
なお、図示していないが、第2磁石ケース46も同様に作製され、第2磁石モジュール49も同様に組み立てられる。
【0031】
つぎに、このように構成された車両用交流発電機1の動作について説明する。
まず、電流がバッテリ(図示せず)からブラシ9およびスリップリング8を介して回転子13の界磁コイル14に供給され、磁束が発生される。この磁束により、第1ポールコア体17の第1爪状磁極部20がN極に着磁され、第2ポールコア体21の第2爪状磁極部24がS極に着磁される。
一方、エンジンの回転トルクがベルト(図示せず)およびプーリ6を介して回転軸16に伝達され、回転子13が回転される。そこで、回転磁界が固定子10の固定子コイル12に与えられ、起電力が固定子コイル12に発生する。この交流の起電力が、整流器で直流電流に整流され、バッテリが充電され、或いは電気負荷に供給される。
【0032】
つぎに、磁束の動作について図5および図6を参照しつつ説明する。
まず、界磁コイル14に通電されると、磁束27が発生される。この磁束27は、第1爪状磁極部20からエアギャップ29を通って固定子鉄心11のティース部に入る。そして、磁束27は、固定子鉄心11のティース部からコアバック部を通って周方向に移動し、隣の第2爪状磁極部24に対向するティース部からエアギャップ29を通ってその第2爪状磁極部24に入る。ついで、第2爪状磁極部24に入った磁束27は、第2継鉄部23、第2ボス部22、第1ボス部18、第1継鉄部19を通って第1爪状磁極部20に至る。ここで、従来のランデル型回転子では、第1および第2ポールコア体は限界設計されているので、界磁コイルの発生する磁界により磁気飽和し、回転子で発生する磁束が減少してしまう。
【0033】
この実施の形態1では、第1および第2永久磁石33,43は、界磁コイル14の発生する磁界26の向きと反対となるように着磁配向されている。そこで、第1および第2永久磁石33,43の発生する磁界の向きは、界磁コイル14の発生する磁界26と逆向きである。この第1および第2永久磁石33,43から発生した磁束28が固定子鉄心11に鎖交するには、大きな磁気抵抗をもつエアギャップ29を往復する必要がある。また、第1および第2永久磁石33,43は、第2および第1爪状磁極部24,20の内径側に配設されており、第1および第2爪状磁極部20,24の内周面側に対してより短い磁路長で周回するように配設されている。そこで、磁束28の大部分が、固定子鉄心11に迂回することなく、回転子13内部で閉じた磁気回路を形成する。
【0034】
つまり、第1永久磁石33から発生する磁束28は、第1磁石保持台座30から第1継鉄部19、第1ボス部18、第2ボス部22、第2継鉄部23および第2爪状磁極部24を通り、第1永久磁石33に戻る。また、第2永久磁石43から発生する磁束28は、空隙を介して第1爪状磁極部20に入り、第1継鉄部19、第1ボス部18、第2ボス部22、第2継鉄部23および第2磁石保持台座40を通り、第2永久磁石43に戻る。
そこで、第1および第2永久磁石33,43の発生する磁束28は、界磁コイル14の発生する磁束27と逆向きとなり、第1および第2ポールコア体17,21を構成する磁性体の磁束密度を大幅に低減することができ、磁気飽和を解消することができる。
【0035】
この実施の形態1によれば、第1および第2永久磁石33,43を配設しているので、磁気飽和が解消され、固定子10に鎖交する磁束が増加し、発電量が増加することができる。特に、磁気飽和が顕著な低速アイドリング域での発電量を大幅に増大できる。
また、第1および第2永久磁石33,43は、第1および第2爪状磁極部20,24の内周面に対向するように配設されているので、第1および第2永久磁石33,43は、回転子13の最外周面に対して径方向内方に位置している。そこで、固定子スロット高調波は第1および第2爪状磁極部20,24の最外周面部に留まり、第1および第2永久磁石33,43を直接誘導加熱するように作用しない。その結果、第1および第2永久磁石33,43が加熱されて、熱減磁することが未然に防止される。
【0036】
また、第1および第2永久磁石33,43が、第1および第2爪状磁極部20,24の内周面に対向するように配設されているので、第1および第2永久磁石33,43の磁気回路が回転子内部で閉じた磁気回路となり、固定子10に鎖交する磁束成分がなくなる。そこで、無負荷無励磁における第1および第2永久磁石33,43の誘起電圧の発生が抑制される。その結果、第1および第2永久磁石33,43の磁石量を増大させることができる。
【0037】
また、第1および第2永久磁石33,43が第1および第2継鉄部19,23に取り付けられている。そこで、第1および第2永久磁石33,43が第1および第2爪状磁極部20,24の内径側に位置しているので、第1および第2永久磁石33,43にかかる遠心力が小さくなり、第1および第2永久磁石33,43の保持構造を簡略化できる。また、第1および第2永久磁石33,43は遠心力に対して大きく変位する第1および第2爪状磁極部20,24の影響を受けないので、第1および第2永久磁石33,43の保持が容易となる。これらのことから、第1および第2永久磁石33,43の保持の信頼性が向上される。
【0038】
ここで、第1および第2ポールコア体17,21は冷間鍛造製法により作製されるので、高精度な磁石保持形状は得られにくい。そこで、高精度な磁石保持形状を得るには、冷間鍛造製法により作製された第1および第2ポールコア体17,21にNC加工機等を用いて削り加工を施す必要があった。
この実施の形態1では、磁石保持のための第1および第2磁石保持穴31,41の穴形状が断面C字状の円弧形の筒状であるので、冷間鍛造製法により作製された第1および第2ポールコア体17,21に、ドリルやリーマなどの回転切削工具による簡便な追加工を施すことにより、高精度の穴寸法の第1および第2磁石保持穴31,41を形成できる。このように、第1および第2磁石保持穴31,41の嵌合面を回転切削工具による切削で作製でき、NC加工機などを使っての立体的な切削加工が必要ではなく、製造時間が短縮されると共に、製造コストを低減することができる。
【0039】
また、第1および第2磁石保持穴31,41の嵌合面の加工精度を高くすることができるので、第1および第2永久磁石33,43が組み込まれた第1および第2磁石モジュール39,49を第1および第2磁石保持穴31,41に、がたつき無く安定した状態で強固に保持することができる。そこで、回転子13が高速回転しても、第1および第2磁石モジュール39,49が第1および第2磁石保持穴31,41から抜けて飛散し、第1および第2永久磁石33,43が損傷するような事態が回避される。
また、第1および第2永久磁石33,43が第1および第2磁石ケース36,46に組み込まれているので、自動車のエンジンによる振動が車両用交流発電機1に加わっても、第1および第2永久磁石33,43の割れや欠けの発生が抑制される。
【0040】
また、第1および第2磁石保持穴31,41が、穴中心を軸方向に一致させて、断面C字状の円弧形の筒状に作製され、第1および第2磁石モジュール39,49が軸方向から第1および第2磁石保持穴31,41に挿入、保持されている。そこで、第1および第2磁石モジュール39,49の保持構造が簡略化されると共に、組み付け性が上がり、生産コストの低下および量産性の向上が図られる。
【0041】
また、第1および第2磁石保持穴31,41と第1および第2磁石ケース36,46との接触面が円筒面となるので、局部的な応力集中が無く、第1および第2磁石保持台座30,40の破損の発生が抑制される。
また、第1および第2永久磁石33,43が非磁性の第1および第2磁石ケース36,46を介して第1および第2磁石保持穴31,41に装着されているので、第1および第2永久磁石33,43の磁束の一部が第1および第2磁石保持台座30,40に漏れて第1および第2永久磁石33,43に戻る漏れ磁束が減少する。そこで、第1および第2永久磁石33,43から対向する第2および第1爪状磁極部24,20に向かう磁束量が増大し、回転子内部への磁石磁束が増加され、磁気飽和緩和の効果が高められる。
【0042】
また、第1および第2磁石ケース36,46がステンレス平板を屈曲成形して作製されているので、第1および第2永久磁石33,43の複雑な外形形状に適合する形状の第1および第2磁石ケース36,46を容易に、安価に作製できる。
【0043】
また、ステンレス平板の弾性力(復元力)を利用して第1および第2磁石ケース36,46を第1および第2永久磁石33,43に嵌着し、かつ一対の翼部38,48の先端間に隙間を持たせている。そこで、第1および第2永久磁石33,43および第1および第2磁石ケース36,46の加工誤差を吸収して、第1および第2磁石ケース36,46を第1および第2永久磁石33,43に簡易に嵌着できる。さらに、第1および第2磁石モジュール39,49と第1および第2磁石保持穴31,41との寸法誤差が第1および第2磁石ケース36,46の弾性力で吸収でき、両者の嵌め合い不良の発生が抑えられるとともに、第1および第2磁石モジュール39,49を第1および第2磁石保持穴31,41にがたつき無く保持できる。
【0044】
また、第1磁石モジュール39が周方向に隣り合う第1爪状磁極部20間の第1継鉄部19の部位に突設された8個の第1磁石保持台座30の全てに保持されて、第2磁石モジュール49が周方向に隣り合う第2爪状磁極部24間の第2継鉄部23の部位に突設された8個の第2磁石保持台座40の全てに保持されているので、第1および第2磁石モジュール39,49が等角ピッチに配列されている。そこで、回転軸16の中心から第1および第2磁石モジュール39,49のそれぞれの磁石重心に向かうベクトルの総和がゼロとなり、第1および第2永久磁石33,43を配設することに起因する遠心力に対する重量的なアンバランスの発生が抑制される。ここで、磁石重心とは、第1永久磁石33と第1磁石ケース36とを含めた第1磁石モジュール39の重心であり、第2永久磁石43と第2磁石ケース46とを含めた第2磁石モジュール49の重心である。
【0045】
なお、上記実施の形態1では、第1および第2永久磁石33,43の突出部35,45が断面台形に形成されているものとしているが、突出部の断面は台形に限定されるものではない。特に、磁石の製造し易さから、断面が台形、正方形、長方形の四角形であることが好ましい。さらに、断面四角形の角部に面取り或いはアール加工が施されていてもよい。第1および第2磁石ケース36,46の冠部37,47の形状は、第1および第2永久磁石33,43の突出部35,45の外形形状に適合するように形成される。
また、上記実施の形態1では、第1および第2永久磁石33,43が第1および第2磁石ケース36,46により第1および第2磁石保持穴31,41に弾性支持されているものとしているが、さらに接着剤を用いて第1および第2永久磁石33,43を第1および第2磁石保持穴31,41に固着するようにしてもよい。
【0046】
また、上記実施の形態1では、第1および第2磁石モジュール39,49が全ての第1および第2磁石保持台座30,40に配設されているものとしているが、第1および第2磁石モジュール39,49は全ての第1および第2磁石保持台座30,40に配設させる必要はなく、第1および第2磁石モジュール39,49の配設個数は要求性能とコストとを勘案して適宜選択すればよい。この場合、遠心力に対して重量的なアンバランスを生じさせないために、回転軸16の中心から第1および第2磁石モジュール39,49のそれぞれの磁石重心に向かうベクトルの総和がゼロとなるように第1および第2磁石モジュール39,49を配置すればよい。
【0047】
例えば、第1および第2磁石保持台座30,40の個数が8個であることから、要求性能とコストとを勘案して、第1および第2磁石モジュール39,49のそれぞれの配設個数を6個とした場合には、回転軸16の中心に対して点対称となる位置、即ち周方向に180度離れた位置の第1および第2磁石保持台座30,40を除く6個の第1および第2磁石保持台座30,40に第1および第2磁石モジュール39,49を配設すればよい。これにより、回転軸16の中心から第1および第2磁石モジュール39,49のそれぞれの磁石重心に向かうベクトルの総和がゼロとなる。また、第1および第2磁石モジュール39,49のそれぞれの配設個数を4個とした場合には、第1および第2磁石モジュール39,49をそれぞれ90度の等角ピッチで第1および第2磁石保持台座30,40に配設すればよい。これによっても、回転軸16の中心から第1および第2磁石モジュール39,49のそれぞれの磁石重心に向かうベクトルの総和がゼロとなる。
【0048】
また、上記実施の形態1では、第1および第2磁石モジュール39,49を保持する第1および第2磁石保持台座30,40が周方向に隣り合う第1および第2爪状磁極部20,24の間の全てに配設されているものとしているが、第1および第2磁石モジュール39,49を保持する第1および第2磁石保持台座30,40は周方向に隣り合う第1および第2爪状磁極部20,24の間の全てに配設させる必要はなく、第1および第2磁石保持台座30,40の配設個数は要求性能とコストとを勘案して適宜選択すればよい。この場合、遠心力に対して重量的なアンバランスを生じさせないために、回転軸16の中心から第1および第2磁石モジュール39,49を保持する第1および第2磁石保持台座30,40のそれぞれの磁石保持台座全体の重心に向かうベクトルの総和がゼロとなるように第1および第2磁石保持台座30,40を配置すればよい。ここで、磁石保持台座全体の重心とは、第1磁石保持台座30、第1永久磁石33および第1磁石ケース36を含めた重心であり、第2磁石保持台座40、第2永久磁石43および第2磁石ケース46を含めた重心である。
【0049】
例えば、要求性能とコストとを勘案して、第1および第2磁石モジュール39,49を保持する第1および第2磁石保持台座30,40のそれぞれの配設個数を6個とした場合には、回転軸16の中心に対して点対称となる位置、即ち周方向に180度離れた位置を除く6箇所に第1および第2磁石保持台座30,40を設け、各第1および第2磁石保持台座30,40に第1および第2磁石モジュール39,49を配設すればよい。これにより、回転軸16の中心から第1および第2磁石保持台座30、40のそれぞれの磁石保持台座全体の重心に向かうベクトルの総和がゼロとなる。また、第1および第2磁石モジュール39,49を保持する第1および第2磁石保持台座30,40のそれぞれの配設個数を4個とした場合には、4個の第1および第2磁石保持台座30,40をそれぞれ90度の等角ピッチで設け、各第1および第2磁石保持台座30,40に第1および第2磁石モジュール39,49を配設すればよい。これによっても、回転軸16の中心から第1および第2磁石保持台座30、40のそれぞれの磁石保持台座全体の重心に向かうベクトルの総和がゼロとなる。
【0050】
このように、第11および第2磁石モジュール39,49の配設個数が変わっても、磁気的には、第1および第2永久磁石33,43の磁束は回転子内部で閉じているので、固定子に対して、磁気的なアンバランスも生じない。
【0051】
実施の形態2.
図7はこの発明の実施の形態2に係る車両用交流発電機に適用される回転子を示す分解斜視図、図8はこの発明の実施の形態2に係る車両用交流発電機における永久磁石の磁石ケースへの実装方法を説明する図である。
【0052】
この実施の形態2では、第1および第2永久磁石50,51が、上記実施の形態1における突出部35,45と同等の外形形状、即ち断面台形の柱状体に作製されている。第1および第2嵌合部材52,53が、鉄などの磁性材料を用い、上記実施の形態1における嵌合部34,44と同等の外形形状、即ち断面C字状の円弧形をなす柱状体に作製されている。そして、第1および第2永久磁石50,51の断面台形の底面を第1および第2嵌合部材52,53の断面円弧形の弦部で構成される平面に突き合わせて第1および第2磁石ケース36,46に装着して、第1および第2磁石モジュール54,55が組み立てられている。
【0053】
第1および第2磁石モジュール54,55は、一対の翼部38,48で覆われた第1および第2嵌合部材52,53を第1および第2磁石保持穴31,41に軸方向から挿入、保持されている。この時、一対の翼部38,48は、一対の翼部38,48の先端間の隙間を縮小しつつ、曲率半径が第1および第2嵌合部材52,53の外周面の曲率半径に近づくように湾曲状態がさらに拡大され、第1および第2嵌合部材52,53の外周面に密接する。これにより、第1および第2磁石モジュール54,55は第1および第2磁石保持穴31,41に圧入・保持される。そして、翼部38,48は復元力が蓄勢された状態で第1および第2磁石保持穴31,41と第1および第2嵌合部材52,53との間に介装され、第1および第2嵌合部材52,53が第1および第2磁石保持穴31,41に弾性支持される。また、冠部37,47で覆われた第1および第2永久磁石50,51が、第1および第2軸方向開口32,42から突出し、第2および第1爪状磁極部24,20の先端側内周面に対向している。
【0054】
また、第1および第2永久磁石50,51は、着磁方向25が、界磁コイル14を流れる界磁電流が回転子13の軸心と直交する平面において作る磁界26の向きと反対となるように着磁配向されている。
なお、他の構成は上記実施の形態1と同様に構成されている。
【0055】
従って、この実施の形態2においても、上記実施の形態1と同様の効果が得られる。
また、第1および第2嵌合部材52,53が磁性材料で作製されているので、第1および第2永久磁石50,51と第1および第2磁石保持台座30,40との間の磁気抵抗が低減される。そこで、上記実施の形態1における第1および第2永久磁石33,43に代えて断面台形の柱状体に作製された第1および第2永久磁石50,51を用いることに起因する磁石磁路の磁気抵抗の増加が抑えられ、回転子の磁気飽和緩和の効果の低下が抑制される。
【0056】
この実施の形態2によれば、第1および第2永久磁石50,51が断面台形の柱状体に作製されているので、磁石を製造しやすく、歩留まりを高くすることができる。
特に、異方性焼結磁石では、磁石粉末を高圧でプレス加圧し磁場配向しながら焼結体とする。そこで、対向する辺が平行な平面であると、プレス型内で磁石粉末に加わる圧力が均一となり、高密度の磁石を製造できる。また、このようにして得られた焼結体に砥石加工を施して焼結体を所望の外形形状に仕上げた後、所望の形状の磁石を切り出す場合、磁石形状が断面台形であれば、材料歩留まりが高くなる。この時、切り出し面を配向方向面に対して垂直とすることで、断面が台形の磁石が切り出されるので、生産性が高くなると共に、製造コストを低減できる。
【0057】
また、上記実施の形態2では、第1および第2永久磁石50,51が断面台形に形成されているものとしているが、磁石の断面は台形に限定されるものではなく、断面が正方形や長方形の四角形であってもよい。さらに、断面四角形の角部に面取り或いはアール加工が施されていてもよい。第1および第2磁石ケース36,46の冠部37,47の形状は、第1および第2永久磁石50,51の外形形状に適合するように形成される。
【0058】
また、上記実施の形態2では、第1磁石モジュール54が周方向に隣り合う第1爪状磁極部20間の第1継鉄部19の部位に突設された8個の第1磁石保持台座30の全てに保持されて、第2磁石モジュール55が周方向に隣り合う第2爪状磁極部24間の第2継鉄部23の部位に突設された8個の第2磁石保持台座40の全てに保持されているので、第1および第2磁石モジュール54,55が等角ピッチに配列されている。そこで、回転軸16の中心から第1および第2磁石モジュール54,55のそれぞれの磁石重心に向かうベクトルの総和がゼロとなり、第1および第2永久磁石50,51を配設することに起因する遠心力に対する重量的なアンバランスの発生が抑制される。ここで、磁石重心とは、第1永久磁石50と第1嵌合部材52と第1磁石ケース36とを含めた第1磁石モジュール54の重心であり、第2永久磁石51と第2嵌合部材53と第2磁石ケース46とを含めた第2磁石モジュール55の重心である。
【0059】
なお、上記実施の形態2では、第1および第2磁石モジュール54,55が全ての第1および第2磁石保持台座30,40に配設されているものとしているが、第1および第2磁石モジュール54,55は全ての第1および第2磁石保持台座30,40に配設させる必要はなく、第1および第2磁石モジュール54,55の配設個数は要求性能とコストとを勘案して適宜選択すればよい。この場合、遠心力に対して重量的なアンバランスを生じさせないために、回転軸16の中心から第1および第2磁石モジュール54,55のそれぞれの磁石重心に向かうベクトルの総和がゼロとなるように第1および第2磁石モジュール54,55を配置すればよい。
【0060】
例えば、要求性能とコストとを勘案して、第1および第2磁石モジュール54,55のそれぞれの配設個数を6個とした場合には、回転軸16の中心に対して点対称となる位置、即ち周方向に180度離れた位置の第1および第2磁石保持台座30,40を除く6個の第1および第2磁石保持台座30,40に第1および第2磁石モジュール54,55を配設すればよい。これにより、回転軸16の中心から第1および第2磁石モジュール54,55のそれぞれの磁石重心に向かうベクトルの総和がゼロとなる。また、第1および第2磁石モジュール54,55のそれぞれの配設個数を4個とした場合には、第1および第2磁石モジュール54,55をそれぞれ90度の等角ピッチで第1および第2磁石保持台座30,40に配設すればよい。これによっても、回転軸16の中心から第1および第2磁石モジュール54,55のそれぞれの磁石重心に向かうベクトルの総和がゼロとなる。
【0061】
また、上記実施の形態2では、第1および第2磁石モジュール54,55を保持する第1および第2磁石保持台座30,40が周方向に隣り合う第1および第2爪状磁極部20,24の間の全てに配設されているものとしているが、第1および第2磁石モジュール54,55を保持する第1および第2磁石保持台座30,40は周方向に隣り合う第1および第2爪状磁極部20,24の間の全てに配設させる必要はなく、第1および第2磁石保持台座30,40の配設個数は要求性能とコストとを勘案して適宜選択すればよい。この場合、遠心力に対して重量的なアンバランスを生じさせないために、回転軸16の中心から第1および第2磁石モジュール54,55を保持する第1および第2磁石保持台座30,40のそれぞれの磁石保持台座全体の重心に向かうベクトルの総和がゼロとなるように第1および第2磁石保持台座30,40を配置すればよい。ここで、磁石保持台座全体の重心とは、第1磁石保持台座30、第1永久磁石50、第1嵌合部材52および第1磁石ケース36を含めた重心であり、第2磁石保持台座40、第2永久磁石51、第2嵌合部材53および第2磁石ケース46を含めた重心である。
【0062】
例えば、要求性能とコストとを勘案して、第1および第2磁石モジュール54,55を保持する第1および第2磁石保持台座30,40のそれぞれの配設個数を6個とした場合には、回転軸16の中心に対して点対称となる位置、即ち周方向に180度離れた位置を除く6箇所に第1および第2磁石保持台座30,40を設け、各第1および第2磁石保持台座30,40に第1および第2磁石モジュール54,55を配設すればよい。これにより、回転軸16の中心から第1および第2磁石保持台座30、40のそれぞれの磁石保持台座全体の重心に向かうベクトルの総和がゼロとなる。また、第1および第2磁石モジュール54,55を保持する第1および第2磁石保持台座30,40のそれぞれの配設個数を4個とした場合には、4個の第1および第2磁石保持台座30,40をそれぞれ90度の等角ピッチで設け、各第1および第2磁石保持台座30,40に第1および第2磁石モジュール54,55を配設すればよい。これによっても、回転軸16の中心から第1および第2磁石保持台座30、40のそれぞれの磁石保持台座全体の重心に向かうベクトルの総和がゼロとなる。
【0063】
このように、第11および第2磁石モジュール54,55の配設個数が変わっても、磁気的には、第1および第2永久磁石50,51の磁束は回転子内部で閉じているので、固定子に対して、磁気的なアンバランスも生じない。
【0064】
また、上記各実施の形態では、車両用交流発電機について説明しているが、この発明は、車両用交流発電機に限らず、車両用電動機や車両用発電電動機などの回転電機に適用しても、同様の効果を奏する。
また、上記各実施の形態では、磁石ケースがステンレス平板をプレス成形して作製されているものとしているが、磁石ケースはステンレスに限定されるものではなく、永久磁石を保持できる程度の嵌着力(弾性力)があればよく、例えば鉄などの金属やプラスチックを用いることができる。特に、磁石の磁束の一部が磁石保持台座に漏れて永久磁石に戻る漏れ磁束を減少させるには、磁石ケースの材料を非磁性材料とすることが好ましい。
【0065】
また、上記各実施の形態では、第1および第2永久磁石の材料については説明していないが、ランデル型の回転子構造から永久磁石を配設するための大きなスペースは確保できない。そこで、小容積の磁石で十分な磁気飽和緩和効果を得るためには、エネルギー積BHMAXが30MGOe以上の異方性焼結希土類磁石を用いることが好ましい。
【0066】
また、上記各実施の形態では、第1および第2磁石保持穴31,41が、第1および第2磁石保持台座30,40に、穴中心を軸方向に一致させて軸方向一端から他端に貫通し、かつ径方向外方に開口する、断面がC字状の円弧形に形成されているものとしているが、第1および第2磁石保持穴は必ずしも軸方向一端から他端に貫通している必要はなく、軸方向一端又は他端の少なくとも一方が開口していればよい。
また、第1および第2磁石保持穴の穴中心を必ずしも軸方向に一致させる必要はなく、軸方向に対して傾斜していてもよい。例えば、第1および第2磁石保持穴の穴中心を相対する第2および第1爪状磁極部の先端側の内周面と略平行にすればより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機を模式的に示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機に適用される回転子を示す分解斜視図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機に適用される磁石ケースの製造方法を説明する工程図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機における永久磁石の磁石ケースへの実装方法を説明する図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機における磁束の流れを説明するための模式図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る車両用交流発電機における磁束の流れを説明するための模式図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係る車両用交流発電機に適用される回転子を示す分解斜視図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係る車両用交流発電機における永久磁石の磁石ケースへの実装方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0068】
10 固定子、13 回転子、14 界磁コイル、15 ポールコア、16 回転軸、17 第1ポールコア体、18 第1ボス部、19 第1継鉄部、20 第1爪状磁極部、21 第2ポールコア体、22 第2ボス部、23 第2継鉄部、24 第2爪状磁極部、29 エアギャップ、30 第1磁石保持台座(永久磁石保持部)、31 第1磁石保持穴、32 第1軸方向開口、33 第1永久磁石、34 嵌合部、35 突出部、36 第1磁石ケース、37 冠部、38 翼部、39 第1磁石モジュール、40 第2磁石保持台座(永久磁石保持部)、41 第2磁石保持穴、42 第2軸方向開口、43 第2永久磁石、44 嵌合部、45 突出部、46 第2磁石ケース、47 冠部、48 翼部、50 第1永久磁石、51 第2永久磁石、52 第1嵌合部材、53 第2嵌合部材、54 第1磁石モジュール、55 第2磁石モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボス部、該ボス部の軸方向両端縁部から径方向外方に延設された一対の継鉄部、および該一対の継鉄部のそれぞれから交互に軸方向に延設され、噛み合って周方向に配列された複数の爪状磁極部を有し、上記ボス部の軸心位置に挿通された回転軸に固着されたポールコアと、上記ボス部、上記一対の継鉄部、および上記複数の爪状磁極部に囲まれた空間内に収納された界磁コイルと、を有する回転子と、
上記回転子の外周を所定のエアギャップを介して囲繞して配設された固定子と、を備えた回転電機において、
上記複数の爪状磁極部の先端側の内周面に対向する上記一対の継鉄部の部位に該継鉄部から一体に突設された永久磁石保持部と、
上記永久磁石保持部のそれぞれに穴方向を軸方向に向けて設けられ、軸方向の少なくとも一端が開口し、かつ径方向外方に開口する、断面がC字状の円弧形の磁石保持穴と、
断面がC字状の円弧形の嵌合部および該嵌合部の円弧形の弦部から一体に径方向外方に突出する突出部からなる柱状体に作製され、該嵌合部を上記磁石保持穴に収納され、かつ該突出部を上記磁石保持穴の開口から突出させて配置され、上記界磁コイルの作る磁界の向きと逆向きに着磁配向された永久磁石と、
上記突出部の外周面を覆う形状の冠部および該冠部の両端から上記嵌合部の外周面を覆う形状に延出され、上記嵌合部の外周面の曲率半径より小径の曲率半径を有する一対の断面円弧状の翼部を有し、該冠部が上記突出部に嵌着され、かつ一対の該翼部が断面円弧の湾曲状態を拡大されて復元力を蓄勢した状態で上記磁石保持穴と上記嵌合部との間に介装された磁石ケースと、を備えていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
ボス部、該ボス部の軸方向両端縁部から径方向外方に延設された一対の継鉄部、および該一対の継鉄部のそれぞれから交互に軸方向に延設され、噛み合って周方向に配列された複数の爪状磁極部を有し、上記ボス部の軸心位置に挿通された回転軸に固着されたポールコアと、上記ボス部、上記一対の継鉄部、および上記複数の爪状磁極部に囲まれた空間内に収納された界磁コイルと、を有する回転子と、
上記回転子の外周を所定のエアギャップを介して囲繞して配設された固定子と、を備えた回転電機において、
上記複数の爪状磁極部の先端側の内周面に対向する上記一対の継鉄部の部位に該継鉄部から一体に突設された永久磁石保持部と、
上記永久磁石保持部のそれぞれに穴方向を軸方向に向けて設けられ、軸方向の少なくとも一端が開口し、かつ径方向外方に開口する、断面がC字状の円弧形の磁石保持穴と、
断面がC字状の円弧形の柱状体に作製され、上記磁石保持穴に収納された磁性材料からなる嵌合部材と、
断面四角形の柱状体に作製され、上記嵌合部材の円弧形の弦部で構成される平面上に上記磁石保持穴の開口から突出するように配置され、上記界磁コイルの作る磁界の向きと逆向きに着磁配向された永久磁石と、
上記永久磁石の外周面を覆う形状の冠部および該冠部の両端から上記嵌合部材の外周面を覆う形状に延出され、上記嵌合部材の外周面の曲率半径より小径の曲率半径を有する一対の断面円弧状の翼部を有し、該冠部が上記永久磁石に嵌着され、かつ一対の該翼部が断面円弧の湾曲状態を拡大されて復元力を蓄勢した状態で上記磁石保持穴と上記嵌合部材との間に介装された磁石ケースと、を備えていることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
上記磁石ケースは、金属薄板を屈曲成形して作製されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の回転電機。
【請求項4】
上記磁石ケースは、非磁性材料で作製されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項5】
上記永久磁石保持部が、全ての上記爪状磁極部の先端側の内周面に対向する上記一対の継鉄部の部位に突設され、
上記永久磁石が、上記回転軸の中心から上記磁石保持穴に保持された上記永久磁石のそれぞれの上記磁石ケースを含む磁石重心又は上記嵌合部材と上記磁石ケースとを含む磁石重心に向かうベクトルの総和がゼロとなるように配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項6】
上記永久磁石が上記永久磁石保持部の全てに保持され、
上記永久磁石が保持された上記永久磁石保持部は、上記回転軸の中心から上記永久磁石が保持された上記永久磁石保持部のそれぞれの永久磁石保持部全体の重心に向かうベクトルの総和がゼロとなるように配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−50075(P2009−50075A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212992(P2007−212992)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】