説明

回転電機

【課題】エネルギー効率が低下するおそれも、ステータの絶縁性が低下するおそれも少なく、ロータの冷却効果も高め易い回転電機を提供する。
【解決手段】横向きに配置した回転軸1、及び、当該回転軸によってケース2に軸支され、かつ、磁性を有する複数の鋼板6aが積層されたロータ本体3を有するロータ4と、ロータの径方向外側に配置され、かつ、ケースに固定されたステータ5と、ケースに対して固定された位置からロータのロータ端面9に冷媒15を供給する冷媒供給部16とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸によってケースに軸支され、かつ、磁性を有する複数の鋼板が積層されたロータ本体を有するロータと、前記ロータの径方向外側に配置され、かつ、前記ケースに固定されたステータとを備えた回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記回転電機では、ステータのコイルを形成する巻き線の表面に、巻き線どうしの絶縁性を確保するためのエナメル被覆層などの絶縁層を形成してある。また、コイルとそのコイルが巻き付けられているステータコアとの絶縁性、及び、各相のコイルどうしの絶縁性を確保するために、これらの間には樹脂などで形成された絶縁紙を装着してある。
従来の上記回転電機では、ロータ及びステータを冷却するために、回転軸の軸芯に平行な冷媒流路をロータ本体に貫通形成し、ロータを冷媒流路内の冷媒と共に回転させて当該ロータを冷却すると共に、ロータ本体の冷媒出口から流出した冷媒をロータの径方向外方に向けて放出させることにより、ステータのコイルなどに噴き掛けて冷却できるように構成してある(例えば、特許文献1参照)。
ロータ本体に形成された冷媒流路内の冷媒は、ロータの回転速度にかかわらず、その冷媒流路への冷媒供給量に応じた速度で当該冷媒流路内を移動し、ロータ本体の冷媒出口から流出した冷媒は遠心力でステータのコイルなどに対して噴き掛けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−71923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転電機では、冷媒流路内の冷媒をロータと共に回転させるために、ロータの回転エネルギーの一部が、冷媒流路内の冷媒を回転させるためのエネルギーとして消費され、回転電機のエネルギー効率が低下するおそれがある。
また、ロータ本体の冷媒出口から流出した冷媒が遠心力で絶縁層や絶縁紙に対して高速で衝突し易いので、絶縁層や絶縁紙が破損されてステータの絶縁性が低下するおそれがある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、エネルギー効率が低下するおそれも、ステータの絶縁性が低下するおそれも少なく、ロータの冷却効果も高め易い回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の回転電機の第1特徴構成は、横向きに配置した回転軸、及び、当該回転軸によってケースに軸支され、かつ、磁性を有する複数の鋼板が積層されたロータ本体を有するロータと、前記ロータの径方向外側に配置され、かつ、前記ケースに固定されたステータと、前記ケースに対して固定された位置から前記ロータのロータ端面に冷媒を供給する冷媒供給部とを備えた点にある。
【0006】
本構成であれば、冷媒をロータと共に回転させることなく、ケースに対して固定された位置から回転中のロータ端面に冷媒を供給するので、回転電機のエネルギー効率が低下するおそれが少ない。
また、ロータが横向きに配置した回転軸によってケースに軸支され、回転中のロータ端面に供給された冷媒は、その一部が遠心力でロータの径方向外方に飛散しながらも、ロータ端面に沿って流れ落ちるので、冷媒とロータ端面との接触を維持してその冷媒とロータ端面との熱交換でロータを冷却することができる。
その上、回転中のロータ端面とそのロータ端面に沿って流れ落ちる冷媒との相対速度が大きく、冷媒を温度が大きく上昇しないうちのロータ端面を通過させることができるので、冷媒とロータとの温度差を大きく維持して、冷却効果を高め易い。
さらに、冷媒が遠心力でロータの径方向外方に飛散し難いので、ステータの絶縁層や絶縁紙に対して高速で衝突する冷媒が少なく、絶縁層や絶縁紙が破損されてステータの絶縁性が低下するおそれも少ない。
したがって、本構成の回転電機であれば、エネルギー効率が低下するおそれも、ステータの絶縁性が低下するおそれも少なく、ロータの冷却効果も高め易い。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記ロータ端面が、前記冷媒の当該ロータ端面に沿う流動抵抗が前記鋼板の表面よりも小さい材料で形成されている点にある。
【0008】
本構成であれば、冷媒がロータ端面に沿って流動し易いので、ロータを構成している鋼板の表面に対して冷媒を直に供給する場合に比べて、供給された冷媒が飛散しにくいと共にロータ端面に沿って拡がり易い。
したがって、冷媒とロータ端面との熱交換をロータ端面の広い領域において促進することができるので、冷却効果を一層高め易い。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記ロータ端面が、前記ロータ本体の端面を覆い、かつ、円滑な平面を有するエンドプレートで形成されている点にある。
【0010】
本構成であれば、円滑な平面を有するエンドプレートでロータ本体の端面を覆うことによって、供給された冷媒が飛散しにくいと共にロータ端面に沿って拡がり易いロータ端面を設けることができる。
【0011】
本発明の第4特徴構成は、前記エンドプレートが、前記ロータ本体を構成する最外側の前記鋼板を開口部のない鋼板とすることで形成されている点にある。
【0012】
本構成であれば、特別な材料を使用することなく、ロータ本体を構成する最外側の鋼板を使用しながら、その鋼板を開口部のない鋼板とすることで、供給された冷媒が飛散しにくいと共にロータ端面に沿って拡がり易いロータ端面を設けることができる。
【0013】
本発明の第5特徴構成は、前記ロータ端面が、前記ロータ本体の端面を撥液処理してある撥液処理層で形成されている点にある。
【0014】
本構成であれば、ロータ本体の端面を形成する鋼板に対して特別な機械加工を施すことなく、供給された冷媒が飛散しにくいと共にロータ端面に沿って拡がり易いロータ端面を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】回転電機(電動モータ)の縦断面図である。
【図2】ロータ端面に対して備えた冷却油供給パイプを示す正面図である。
【図3】第2実施形態におけるロータ端面に対して備えた冷却油供給パイプを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1,図2は、車両などに搭載される本発明による回転電機の一例としての電動モータを示す。
電動モータは、横向きに配置した動力取出用の回転軸1、及び、当該回転軸1によってハウジング(ケース)2の内側に軸支されたロータ本体3を有するロータ4と、ハウジング2の内側に固定されたステータ5とを備えている。
【0017】
ロータ本体3は、磁性を有する複数の電磁鋼板6aが回転軸芯Xの方向に積層されたロータコア7と、ロータコア7の内部にロータ周方向に間隔を隔てて取り付けた複数の永久磁石10とを有している。
【0018】
ロータ4は、ロータ本体3の回転軸芯Xの方向の両端面の夫々を全面に亘って覆い、かつ、円滑な扁平表面を有するエンドプレート8を備えている。両エンドプレート8の外向き面(円滑な扁平表面)がロータ端面9を形成している。
【0019】
ロータ本体3は、回転軸1に外嵌固定されていて、この回転軸1によって一対のベアリング11を介してハウジング2に横向きの回転軸芯X周りで矢印aの方向に回転自在に軸支されている。
【0020】
ステータ5は、複数の電磁鋼板6bを回転軸芯Xの方向に積層してあるステータコア12と、ステータコア12に巻き付けたステータコイル13とを備えている。ステータ5は、ステータコア12をロータ4の径方向外側に僅かな隙間を隔てて配置して、ハウジング2の内側に固定されている。
【0021】
ステータコア12の両端部におけるステータコイル13の巻き返し部分がコイルエンド14として形成され、ステータコイル13に電流を流すことにより、ロータ4を回転させる磁界が発生する。
【0022】
ハウジング2の内側には、左右のロータ端面9の夫々に対して、ハウジング2に対して固定された位置からロータ端面9の上部箇所に冷媒としての冷却油15を連続的に流し掛けて供給する冷却油供給部16を備えている。
【0023】
左右のロータ端面9は、冷却油15の当該ロータ端面9に沿う流動抵抗がロータコア7を構成する電磁鋼板6aの表面よりも小さい材料で形成されている。具体的には、エンドプレート8が、ロータコア7を構成する最外側の電磁鋼板を、永久磁石10の挿通用の開口部10aのない鋼板6cとすることで形成されている。
【0024】
冷却油供給部16は、各ロータ端面9毎の左右一対の冷却油供給パイプ17と、ロータ端面9から流れ落ちた冷却油15を溜めるオイルパン18と、オイルパン18に溜まった冷却油15をポンプ19で各冷却油供給パイプ17に戻す冷却油循環路20とを備えている。
尚、図2は、図1における左側のロータ端面9に対して備えた冷却油供給パイプ17を示しており、図1における右側のロータ端面9に対して備えた冷却油供給パイプ17も同様に配設されている。
【0025】
ロータ端面9毎の左右一対の冷却油供給パイプ17は、図2に示すように、一方の冷却油供給パイプ17の冷却油排出口17aが回転軸1の直上位置よりもロータ4の回転方向aの上手側に離れた位置においてロータ端面9に対向し、他方の冷却油供給パイプ17の冷却油排出口17bが回転軸1の直上位置よりもロータ4の回転方向aの下手側に離れた位置においてロータ端面9に対向するように、ハウジング2の内側上部に固定してある
【0026】
したがって、各冷却油排出口17a,17bから排出されてロータ端面9の上部箇所に流し掛けられた冷却油15が、回転軸1の外周面に掛かり難い。
オイルパン18はステータ5よりも低い高さ位置となるようにハウジング2の内側底部に設けられている。
【0027】
左右の冷却油排出口17a,17bのうちのロータ4の回転方向aの上手側に配置した冷却油排出口17aから流し掛けられた冷却油15の流下方向はロータ4の回転方向aに対向しているので、その冷却油15は、ロータ4の回転方向aの下手側に配置した冷却油排出口17bから流し掛けられた冷却油15に比べて、ロータ4の下方に向けて流れ落ち難い。
【0028】
このために、ロータ4の回転方向aの上手側に配置した冷却油排出口17aから流し掛けられた冷却油15がロータ4の下方に向けて流れ落ち易くなるように、その冷却油排出口17aからの冷却油15の排出量を、ロータ4の回転方向aの下手側に配置した冷却油排出口17bからの冷却油15の排出量よりも大きくしてあってもよい。
【0029】
〔第2実施形態〕
図3は本発明による回転電機の別実施形態を示す。
本実施形態では、各ロータ端面9毎に一つの冷却油供給パイプ17を備えた冷却油供給部16を設けてある。
冷却油供給パイプ17は、その冷却油排出口17aをロータ端面9に対して回転軸1の直上位置において対向させてある。
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0030】
〔第3実施形態〕
図示しないが、ロータ端面9を、冷却油15の当該ロータ端面9に沿う流動抵抗がロータコア7を構成する電磁鋼板6aの表面よりも小さい材料で形成するために、ロータ端面9がロータコア7又はロータ本体3の端面をフッ素樹脂などを塗布することにより撥油処理してある撥油処理層(フッ素樹脂被膜)で形成されていてもよい。
【0031】
〔その他の実施形態〕
1.本発明による回転電機は、電動モータの他に、発電機や、電動モータ又は発電機として機能するモータジェネレータであってもよい。
2.本発明による回転電機は、冷却油循環路の途中に冷却用熱交換器などを備えた冷却油の冷却手段を設けてあってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 回転軸
2 ケース
3 ロータ本体
4 ロータ
5 ステータ
6a 鋼板
6c 鋼板
8 エンドプレート
9 ロータ端面
10a 開口部
15 冷媒
16 冷媒供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横向きに配置した回転軸、及び、当該回転軸によってケースに軸支され、かつ、磁性を有する複数の鋼板が積層されたロータ本体を有するロータと、
前記ロータの径方向外側に配置され、かつ、前記ケースに固定されたステータと、
前記ケースに対して固定された位置から前記ロータのロータ端面に冷媒を供給する冷媒供給部とを備えた回転電機。
【請求項2】
前記ロータ端面が、前記冷媒の当該ロータ端面に沿う流動抵抗が前記鋼板の表面よりも小さい材料で形成されている請求項1記載の回転電機。
【請求項3】
前記ロータ端面が、前記ロータ本体の端面を覆い、かつ、円滑な平面を有するエンドプレートで形成されている請求項2記載の回転電機。
【請求項4】
前記エンドプレートが、前記ロータ本体を構成する最外側の前記鋼板を開口部のない鋼板とすることで形成されている請求項3記載の回転電機。
【請求項5】
前記ロータ端面が、前記ロータ本体の端面を撥液処理してある撥液処理層で形成されている請求項2記載の回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−254579(P2011−254579A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124730(P2010−124730)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】