説明

回転駆動装置、ロボットの関節構造及びロボットアーム

【課題】バックラッシを除去、低減するとともに組立性の向上を図り、さらに出力軸のふら付きを防止できる回転駆動装置と、この回転駆動装置を用いたロボットの関節構造及びこのロボットの関節構造を備えたロボットアームを提供する。
【解決手段】不思議遊星歯車を備える回転駆動装置であって、中空主軸周りに回転自在に設けられる第1キャリア52と、遊星歯車5を回転自在に支持する第2キャリア53と、第1キャリア52と第2キャリア53とを互いに連結するとともに第1キャリア52に対して第2キャリア53を主軸と直交する方向に移動自在に案内する連結部54と、第2キャリア53を主軸と直交する方向に付勢する付勢部55とを有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転駆動装置、この回転駆動装置によって構成されるロボットの関節構造及びロボットアームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転駆動装置としては、例えば特許文献1に開示されているように、所謂不思議遊星歯車を利用した減速機と太陽歯車を回転駆動させる駆動モータとを備えて構成されたものが提案されている。
不思議遊星歯車は、太陽歯車と、上記太陽歯車と噛み合うとともにこの太陽歯車の主軸を中心として公転する遊星歯車と、この遊星歯車の外方に噛み合うとともに上記太陽歯車と同軸上に固定配置された固定内歯歯車と、この固定内歯歯車と歯数が異なり上記遊星歯車に噛み合うとともに上記太陽歯車と同軸上に回転自在に配置された可動内歯歯車とを有しており、この可動内歯歯車には、上記主軸と同軸で回転駆動される出力軸が設けられる。
【0003】
太陽歯車が回転すると、遊星歯車は自転しつつこの太陽歯車の主軸周りに公転する。ここで、遊星歯車と夫々噛み合う固定内歯歯車と可動内歯歯車とは歯数が異なるように構成されているので、遊星歯車の自転及び公転によって固定内歯歯車と可動内歯歯車との回転方向の相対位置がずらされていき、可動内歯歯車が上記主軸周りに回転するようになっている。このように構成される不思議遊星歯車を用いた減速機を駆動モータで駆動させ、可動内歯歯車の出力軸若しくは該出力軸に連結される部材を回転駆動させる。
【0004】
このような不思議遊星歯車を用いた回転駆動装置では、遊星歯車と、太陽歯車あるいは可動内歯歯車及び固定内歯歯車との間には予めバックラッシが設定されており、このバックラッシにより各歯車同士が円滑に駆動する。
【特許文献1】特開2000−274495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来から太陽歯車と可動内歯歯車及び固定内歯歯車との間において遊星歯車を高精度で位置決めすることが難しいという課題が存在する。これは、各歯車間の噛み合い不良による装置の停止・破損を防止すべく、バックラッシは予め若干大きめに設定されることに起因する。このため、従来では、遊星歯車と各歯車との間のバックラッシが大きく、仕様値を満足しなかった。例えば、大きめに設定されるバックラッシにより出力軸が上記主軸の回転方向にふら付き、位置精度が低下する虞があった。
【0006】
他方、このような出力軸の回転方向のふら付きを防止するために、各歯車の噛み合い部分の歯形の加工精度を向上させ、バックラッシュを低減する方法が考えられるが、そのための精密加工に要する費用は非常に高価となり、また加工に時間がかかる。よって生産性が悪く、大幅なコストアップとなる。
また、それぞれの遊星歯車の位置(中心距離)は、各構成部品の加工精度に大きく依存するため、加工精度が悪いと組立が困難となる。さらに、組立性が悪いと、例えば、遊星歯車が軸方向に移動して、可動内歯歯車や固定内歯歯車と歯端部同士の接触が起こり、摩擦によるトルク損失が生じて伝達効率が低下する。
【0007】
本発明は、上述のような事情を鑑みてなされたもので、バックラッシを除去、低減するとともに組立性の向上を図り、さらに出力軸のふら付きを防止できる回転駆動装置と、この回転駆動装置を用いたロボットの関節構造及びこのロボットの関節構造を備えたロボットアームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、主軸周りに回転自在に設けられる太陽歯車と、上記太陽歯車に噛み合うとともに上記主軸周りに公転自在な遊星歯車と、上記太陽歯車と同軸上に固定配置されるとともに上記遊星歯車に噛み合う固定内歯歯車と、上記固定内歯歯車とは異なる歯数を有して上記太陽歯車と同軸上に回転自在に配置されるとともに上記遊星歯車に噛み合う可動内歯歯車とを備える回転駆動装置であって、上記主軸周りに回転自在に設けられる第1キャリアと、上記遊星歯車を回転自在に支持する第2キャリアと、上記第1キャリアと上記第2キャリアとを互いに連結するとともに上記第1キャリアに対して上記第2キャリアを上記主軸と直交する方向に移動自在に案内する連結部と、上記第2キャリアを上記主軸と直交する方向に付勢する付勢部とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、遊星歯車を支持する第2キャリアが主軸と直交する方向に付勢され、遊星歯車が太陽歯車あるいは可動内歯歯車及び固定内歯歯車に常時押接された状態とされる。したがって、各歯車間のバックラッシが適切に除去・低減され、出力軸が主軸の回転方向にふら付くことが防止される。
【0009】
また、本発明のロボットの関節構造は、先に記載の回転駆動装置を2つ備え、これら2つの回転駆動装置が、一の回転駆動装置の上記主軸と他の回転駆動装置の上記主軸とを互いに交差するように組み付けられ、2軸方向に回転可能に構成されることを特徴としている。
このロボットの関節構造によれば、2つの回転駆動装置によって2軸の関節構造が構成されているので、複雑な動作を行うことができるとともに、この関節構造の先端に取り付けられる例えば把持機構からなる作業部等の精度が向上する。
【0010】
また、本発明のロボットアームは、先に記載のロボットの関節構造を備えることを特徴としている。この場合、回転駆動装置が減速比の大きな不思議遊星歯車機構を備えているので、小型の駆動モータであっても比較的大きなトルクを出力することができ、小型、且つ高出力のロボットアームを構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る回転駆動装置、ロボットの関節構造及びロボットアームによれば、遊星歯車と、太陽歯車あるいは可動内歯歯車及び固定内歯歯車との間のバックラッシを簡便且つ安価に除去、低減することができるとともに組立性が良く、出力軸の回転方向の位置精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る回転駆動装置10を示す斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る回転駆動装置10の平面図である。図3は、本発明の実施形態に係る回転駆動装置10の主軸方向における断面図である。図4は、本発明の実施形態に係る回転駆動装置10の主軸方向と直交する方向における断面図である。図5は、本発明の実施形態に係る回転駆動装置10の部分断面分解斜視図である。
【0013】
本実施形態の回転駆動装置10は、取付プレート1と、駆動モータ2と、所謂不思議遊星歯車機構からなる減速機3とを有する。取付プレート1は、略正方形板状を有し、その四隅のコーナー部にはボルト孔1aが形成され、中央部には厚さ方向に貫通するとともに中空主軸(主軸)8が取り付けられる挿通孔1bが形成される(図3参照)。取付プレート1の一方側(図3における上側)の面には、減速機3が配設され、他方側(図3における下側)の面には、駆動モータ2が配設される。
【0014】
駆動モータ2は、取付プレート1の厚さ方向に延びる回転軸C周りに回転するピニオン2aを有する。ピニオン2aは、取付プレート1から上記一方側に向け突出する位置で、回転軸C周りに回転する構成となっている。
【0015】
減速機3は、中空主軸8周りに回転自在に設けられる太陽歯車4と、太陽歯車4に噛み合うとともに中空主軸8周りに公転する複数の遊星歯車5と、太陽歯車4と同軸上に配置され、取付プレート1に固定されるとともに遊星歯車5に噛み合う固定内歯歯車6と、固定内歯歯車6とは異なる歯数を有して太陽歯車4と同軸上に回転自在に配置されるとともに遊星歯車5に噛み合う可動内歯歯車7と、複数の遊星歯車5を回転自在に支持するとともに中空主軸8の中心軸Oに沿った主軸方向と直交する方向(主軸と直交する方向)に付勢する付勢ユニット50とを有する。
【0016】
中空主軸8は、取付プレート1の厚さ方向に突出する略円筒形状を有し、その一端部が挿通孔1bと対応する位置に固定される。中空主軸8の内径と取付プレート1の挿通孔1bの内径とは同一とされ、主軸方向において中空主軸8の内周面と挿通孔1bの内周面とが滑らかに連なる。中空主軸8の他端部にはロックナット8aが取り付けられ、一端部側に設けられる段差部8bとの間で、太陽歯車4、遊星歯車5、可動内歯歯車7の主軸方向における相対位置関係を規制する。
【0017】
太陽歯車4は、軸受40A及び軸受40Bを介して中空主軸8周りに回転自在に設けられる。軸受40Aと軸受40Bとの間にはリング状のカラー40Cが配設され、主軸方向において両者が所定距離で離間するとともに相対位置関係が規制される。本実施形態の軸受40A及び軸受40Bには、深溝玉軸受を用いる。
太陽歯車4は、第1歯車部41と第2歯車部42とを有する。第1歯車部41の径は第2歯車部の径よりも大きく、また、第1歯車部41の歯数は第2歯車部42の歯数よりも多い。第1歯車部41は、外周側でピニオン2aと噛み合わされており、駆動モータ2の回転駆動により中空主軸8周りに回転する。第2歯車部42は、第1歯車部41と一体的に固定され、第1歯車部41と共に回転する。
【0018】
遊星歯車5は、第2歯車部42の外周側に複数(本実施形態では3つ)設けられる(図4参照)。遊星歯車5は、周方向に等間隔(120°間隔)で配置される。遊星歯車5は、軸受51を介して中空主軸8周りに回転自在に設けられる付勢ユニット50(後述)により主軸と直交する方向に付勢される。軸受51と軸受40Bとの間にはリング状のカラー50Cが配設され、主軸方向において両者が所定距離で離間するとともに相対位置関係が規制される。本実施形態の軸受51には、深溝玉軸受を用いる。
遊星歯車5の外方には、内周面に遊星歯車5に噛み合う固定内歯歯車6及び可動内歯歯車7が、主軸方向において重なるように、且つ、それぞれが遊星歯車5に主軸方向において略半分ずつ噛み合わされるようにして配置される。
【0019】
固定内歯歯車6の主軸方向一端部は、取付プレート1に固定される。一方、固定内歯歯車6の主軸方向他端部には、その内周側において可動内歯歯車7を中心軸O周りに回転自在に支持する軸受60が設けられる。本実施形態の軸受60には、クロスローラベアリングを用いる。
可動内歯歯車7は、固定内歯歯車6とは異なる歯数を有しており、本実施形態ではその歯数差が3に設定されている。可動内歯歯車7の主軸方向上面には、出力プレート71が螺合される。出力プレート71は、平面視略リング状の板形状を有し、開口部71aの径が中空主軸8に螺合するロックナット8aの径よりも大きく設計されている。
【0020】
次に、図6〜図10を参照して、付勢ユニット50の構成について詳しく説明する。
図6は、本発明の実施形態に係る付勢ユニット50を示す斜視図である。図7は、本発明の実施形態に係る付勢ユニット50の平面図及び線視A−A断面図である。図8〜図10は、本発明の実施形態に係る付勢ユニット50の部分分解斜視図である。
【0021】
付勢ユニット50は、中空主軸8周りに回転自在に設けられる第1キャリア52と、遊星歯車5を回転自在に支持する第2キャリア53と、第1キャリア52と第2キャリア53とを互いに連結するとともに第1キャリア52に対して第2キャリア53を主軸と直交する方向に移動自在に案内する連結部54と、第2キャリア53を主軸と直交する方向に付勢する付勢部55とを有する。
【0022】
第1キャリア52は、主軸と直交する方向に対して垂直な平側面52aを有する平面視略正三角形状を備え、その中心部に軸受51が嵌合する開口部521が形成される(図7及び図9参照)。開口部521には、軸受51の外径よりも小径の段差部522が形成される。第1キャリア52の各頂点部(コーナー部)にはそれぞれ、段差部522との間で軸受51外輪側を主軸方向において挟持する挟持部材523が設けられる。挟持部材523は、主軸方向に挿入される螺子部材524を介して第1キャリア52と螺合される。
【0023】
連結部54は、平側面52aから垂直方向に突出するシャフト(軌道体)541と、第2キャリア53をシャフト541に沿って移動自在に案内するボールケージ(移動体)542とを有する(図9及び図10参照)。シャフト541及びボールケージ542は、それぞれ対となって計2列、より詳しくは、第2キャリア53に支持される遊星歯車5の回転軸と中心軸Oとを結ぶ線を挟んだ対称の位置にそれぞれ配設される。
シャフト541は、略円柱形状を有する。ボールケージ542の内周部には、不図示のボール(転動体)が複数設けられる。ボールケージ542は、その内周面と円柱形状のシャフト541の外周面との間で不図示のボールが転動することにより、シャフト541に沿って移動する。シャフト541は、第1キャリア52の平側面52aに取り付けられるため、主軸と直交する方向に対する案内精度を出し易く、これにより遊星歯車5を高精度で主軸と直交する方向に付勢することが可能となる。
【0024】
平側面52aと対向する第2キャリア53の平側面53aには、ボールケージ542が嵌合する開口部532が形成される。第2キャリア53の中央部には、遊星歯車5を支持するシャフト533が挿通する開口部534が形成される(図7及び図8参照)。開口部534には、シャフト533を回転自在に支持する軸受535の外径よりも小径の段差部536が形成される。第2キャリア53には、段差部536との間で軸受535外輪側を主軸方向において挟持する挟持部材537が設けられる。挟持部材537は、開口部534を挟んで設けられるとともに主軸方向に挿入される一対の螺子部材538を介して第2キャリア53と螺合される。
【0025】
付勢部55は、第1キャリア52と第2キャリア53との間に設けられた一対のコイルばね551を有する(図9及び図10参照)。コイルばね551は、第2キャリア53に支持される遊星歯車5の回転軸と中心軸Oとを結ぶ線を挟んだ対称の位置に対となって配設される。コイルばね551の一端部は、第1キャリア52の平側面52aに対して垂直に設けられた溝部52a1に挿入されるとともに固定される。一方、コイルばね551の他端部は、第2キャリア53の平側面53aに対して垂直に設けられた溝部53a1に挿入されるとともに固定される。なお、溝部52a1及び溝部53a1の位置は、第1キャリア52と第2キャリア53との対向方向において一致する。
【0026】
続いて、上記構成の付勢ユニット50の回転駆動装置10に対する組立動作(取り付け/取り外し動作)及び上記構成の付勢ユニット50を備える回転駆動装置10の駆動及び作用について説明する。
付勢ユニット50をメンテナンスすべく回転駆動装置10から取り外す際には、図5に示すように、先ず、出力プレート71と可動内歯歯車7との螺合解除を行い、出力プレート71を取り外す。次に、中空主軸8とロックナット8aとの螺合解除を行い、ロックナット8aを取り外す。ロックナット8aを取り外すことで、軸受51の主軸方向における規制(固定)が解除されるため、付勢ユニット50を中空主軸8から取り外すことが容易に達成される。また、付勢ユニット50には、第1キャリア52、第2キャリア53、連結部54、付勢部55、遊星歯車5が一体としてユニット化されているため、取り外しの際に各構成部品がバラけることなく取り外し可能となる。
【0027】
付勢ユニット50を回転駆動装置10に取り付ける際には、取り外しと逆の手順を踏む。
先ず、軸受51を中空主軸8に嵌め込み、付勢ユニット50を主軸方向にスライドさせる。このとき、第2キャリア53を第1キャリア52側に押さえ付け、コイルばね551を収縮させつつスライドさせる。そして、軸受51の内輪側がカラー50Cと当接したら(遊星歯車5が太陽歯車4と固定内歯歯車6及び可動内歯歯車7との間に位置したら)、第2キャリア53の押えを解除する。この押え解除により、遊星歯車5は、コイルばね551の復元力で、主軸と直交する方向の外径側に移動するとともに固定内歯歯車6及び可動内歯歯車7に押接する。第2キャリア53は、連結部54により主軸と直交する方向にのみ移動する。さらに、それらが一体となってユニット化されているため、各遊星歯車5の相対位置(周方向に120°間隔)を維持しつつ容易に取り付けできる。
【0028】
次に、ロックナット8aを中空主軸8に螺合して、軸受51の内輪側をカラー50Cとの間で挟み込み、付勢ユニット50を固定する(図3参照)。この固定により、第1キャリア52の主軸方向における位置(傾き)が一定に規制されるため、この第1キャリア52と連結される第2キャリア53及びそれに支持されている遊星歯車5の主軸方向に対するふら付きが防止される。したがって、遊星歯車5を高精度で主軸と直交する方向に付勢することが可能となり、上記傾きに起因する歯車間の噛み合い不良を防止できる。最後に、出力プレート71を可動内歯歯車7に螺合させて取り付けが終了する。
【0029】
次に、この回転駆動装置10の動作について説明する。
図3に示すように、駆動モータ2がピニオン2aを回転軸C周りに回転すると、ピニオン2aが、太陽歯車4の第1歯車部41を中心軸O周りに回転する。ここで、第1歯車部41の歯数は、ピニオン2aの歯数よりも多く設定されているため、ピニオン2aの回転が減速されて第1歯車部41に伝達される。
【0030】
第1歯車部41が中心軸O周りに回転すると、該第1歯車部41に一体とされた第2歯車部42が中心軸O周りに回転するとともに、遊星歯車5が自転する。ここで、第1歯車部41の歯数は第2歯車部42の歯数よりも多く設定されていることから、ピニオン2aの回転が、さらに減速されて遊星歯車5に伝達される。遊星歯車5が自転すると、該遊星歯車5に噛み合う固定内歯歯車6が取付プレート1に固定されていることから、遊星歯車5は、第2歯車部42の外周に沿って中心軸O周りに公転する。
【0031】
ここで、遊星歯車5に噛み合う固定内歯歯車6と可動内歯歯車7とは、各々の内周面に形成される歯数が異なって設定されていることから、遊星歯車5が中心軸O周りに1周公転すると、可動内歯歯車7は固定内歯歯車6に対し互いの歯数差分だけ中心軸O周りに相対的に回転する。このように、可動内歯歯車7が中心軸O周りに回転すると、この可動内歯歯車7に一体とされた出力プレート71が中心軸O周りに回転する。
【0032】
各遊星歯車5は、付勢部55によって主軸と直交する方向に付勢力を付与されている。これにより、各遊星歯車5は、中心軸Oの外方へと付勢された状態とされ、可動内歯歯車7及び固定内歯歯車6に常時押接される。したがって、これら遊星歯車5と可動内歯歯車7及び固定内歯歯車6との間に予め大きめに設けられるバックラッシが適切に除去、低減されるので、出力軸のふら付きが防止される。
【0033】
さらに、駆動モータ2を停止し可動内歯歯車7に駆動力が伝達されなくなった状態でも、該可動内歯歯車7に連結される出力プレート71の出力軸はその中心軸O周りの回転方向にふら付くことなく安定した状態とされ、その位置精度が向上する。つまり、駆動停止状態の遊星歯車5は、可動内歯歯車7及び固定内歯歯車6に常時押接されており、固定内歯歯車6は取付プレート1に固定されているので、これとともに押接される可動内歯歯車7が固定された状態となる。
【0034】
加えて、遊星歯車5のそれぞれに対して第2キャリア53、連結部54、付勢部55がそれぞれ設けられ、複数の遊星歯車5が主軸と直交する方向に向け常時押接された状態とされているので、各遊星歯車5に作用する付勢力の反力がバランスして、高精度な位置精度が得られる。
さらに、遊星歯車5をそれぞれ、主軸周りの周方向に等間隔で配置することにより、より高い位置精度が得られ、出力軸の回転方向のふら付きをより確実に防止できる。
【0035】
したがって、上記実施形態によれば、中空主軸8周りに回転自在に設けられる太陽歯車4と、太陽歯車4に噛み合うとともに中空主軸8周りに公転自在な遊星歯車5と、太陽歯車4と同軸上に固定配置されるとともに遊星歯車5に噛み合う固定内歯歯車6と、固定内歯歯車6とは異なる歯数を有して太陽歯車4と同軸上に回転自在に配置されるとともに遊星歯車5に噛み合う可動内歯歯車7とを備える回転駆動装置10であって、中空主軸8周りに回転自在に設けられる第1キャリア52と、遊星歯車5を回転自在に支持する第2キャリア53と、第1キャリア52と第2キャリア53とを互いに連結するとともに第1キャリア52に対して第2キャリア53を主軸と直交する方向に移動自在に案内する連結部54と、第2キャリア53を主軸と直交する方向に付勢する付勢部55とを有するという構成を採用することによって、遊星歯車5と可動内歯歯車7及び固定内歯歯車6との間のバックラッシを簡便且つ安価に除去、低減することができるとともに組立性が良く、出力軸の回転方向の位置精度を向上させることができる効果が得られる。
【0036】
次に、上述の回転駆動装置10を用いたロボットの関節構造100と、これを備えたロボットアーム200とについて説明する。
図11は、本発明の実施形態に係る回転駆動装置10を用いたロボットの関節構造100を示す斜視図である。図12は、図11のロボットの関節構造200を用いたロボットアームを示す斜視図である。
尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0037】
図11に示すように、ロボットの関節構造100は、上述の回転駆動装置10を2つ用いて構成されている。ロボットの関節構造100は、2つの回転駆動装置10のうち、一の回転駆動装置10a(図11における左側)の駆動モータ2と、他の回転駆動装置10b(図11における右側)の駆動モータ2とを互いに交差させるように、かつ、一の回転駆動装置10aの中心軸Oと他の回転駆動装置10bの中心軸Oとを互いに交差させるように配設されており、夫々の出力プレート71を2軸方向に回転自在に構成されている。詳しくは、これらの回転駆動装置10a,10bは、中心軸O同士を互いに直交させており、夫々の取付プレート1の外周面において互いに対向する辺部同士を当接させている。
【0038】
このように構成されたロボットの関節構造100によれば、2つの回転駆動装置10a,10bにより2軸の関節構造が構成されていることから、複雑な動作を行わせることができる。また、2つの回転駆動装置10a,10bの駆動モータ2を互いに交差させるように配設しているので、回転駆動装置10a,10b同士をより近接させることができ、ロボットの関節構造100の小型化を図ることができる。
【0039】
また、図12に示すように、ロボットアーム200は、第1構成部材201と第2構成部材202とを接続する第1関節部30aと、第2構成部材202と第3構成部材203とを接続する第2関節部30bと、第3構成部材203の先端に配設された第3関節部30cと、を有している。またこのロボットアーム200は、第1関節部30aが肩関節、第2関節部30bが肘関節、第3関節部30cが手首関節に相当するものとされており、これらの第1、第2及び第3関節部30a,30b,30cが前述のロボットの関節構造100によって夫々形成されている。
【0040】
第1関節部30aにおいては、第1構成部材201の端部から上方に向け突出する取付軸201aが、一の回転駆動装置10aの出力プレート71に連結されている。また、第2構成部材202の基端から第1構成部材201側へ向け突出する取付軸202aが、他の回転駆動装置10bの出力プレート71に連結されている。
【0041】
第2関節部30bにおいては、一の回転駆動装置10aの出力プレート71の径方向内側にヒンジ軸204が挿通されて、該出力プレート71に連結されている。また第2構成部材202の先端には断面略コ字状又は断面略C字状をなす接続部材205が設けられており、この接続部材205によりヒンジ軸204の両端部分が軸支されている。また、他の回転駆動装置10bの出力プレート71には、第3構成部材203の基端部分が接続されている。
【0042】
第3関節部30cにおいては、一の回転駆動装置10aの出力プレート71の径方向内側にヒンジ軸206が挿通されて、該出力プレート71に連結されている。また第3構成部材203の先端には断面略コ字状又は断面略C字状をなす接続部材207が設けられており、この接続部材207によりヒンジ軸206の両端部分が軸支されている。
【0043】
このように構成されたロボットアーム200は、第1、第2及び第3関節部30a,30b,30cにおいて、2つの回転駆動装置10a,10bが互いの中心軸O同士を直交させるように夫々配設されているので、直交2軸の関節構造が構成され、複雑な動作を行わせることができる。
【0044】
また、これらの回転駆動装置10a,10bが減速比の大きな不思議遊星歯車機構からなる構成とされているので、小型の駆動モータ2を用いても比較的大きなトルクを出力することができ、従って、小型かつ高トルクのロボットアーム200を構成することができる。
【0045】
さらに、2つの回転駆動装置10a,10bの駆動モータ2同士が互いに交差するように配置されているので、この関節構造のさらなる小型化を図ることができる。
また、回転駆動装置10a,10bは、各出力プレート71における径方向内側の中空主軸8の内部に電源ケーブルや信号ケーブル等の配線部材を挿通することができるので、装置が複雑な動作を行う場合でもこれらの配線部材が大きく移動することがなく、従って、該配線部材の取り回しが容易であるとともに破損等が防止される。
【0046】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0047】
例えば、本実施形態において、付勢ユニット50は遊星歯車5を主軸と直交する方向の外径側に付勢し可動内歯歯車7及び固定内歯歯車6と押接させると説明したが、回転駆動装置10の用い方によっては、太陽歯車4が出力側となる。この場合、付勢ユニット50は、遊星歯車5を主軸と直交する方向の内径側に付勢し太陽歯車4と押接させる構成であっても良い。この場合、例えば、コイルばね551を引っ張り力を与えるようにして、組み付けることとなる。
【0048】
また、例えば、本実施形態において、遊星歯車5は3つ設けられると説明したが、この構成に限定されるものでは無く、例えば、さらに複数設ける構成であっても良い。この場合、第1キャリア52は、遊星歯車5の数に応じた平側面52aを有することが望ましいため、例えば平面視略正方形状や平面視略正5角形状と設計変更される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態における回転駆動装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における回転駆動装置の平面図である。
【図3】本発明の実施の形態における回転駆動装置の主軸方向における断面図である。
【図4】本発明の実施の形態における回転駆動装置の主軸方向と直交する方向における断面図である。
【図5】本発明の実施の形態における回転駆動装置の部分断面分解斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態における付勢ユニットを示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態における付勢ユニットの平面図及び線視A−A断面図である。
【図8】本発明の実施の形態における付勢ユニットの部分分解斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態における付勢ユニットの部分分解斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態における付勢ユニットの部分分解斜視図である。
【図11】本発明の実施の形態における回転駆動装置を用いたロボットの関節構造を示す斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態におけるロボットの関節構造を用いたロボットアームを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
4…太陽歯車、5…遊星歯車、6…固定内歯歯車、7…可動内歯歯車、8…中空主軸(主軸)、10,10a,10b…回転駆動装置、30a…第1関節部(ロボットの関節構造)、30b…第2関節部(ロボットの関節構造)、30c…第3関節部(ロボットの関節構造)、51…軸受(軸受部)、52…第1キャリア、52a…平側面、53…第2キャリア、54…連結部、55…付勢部、100…ロボットの関節構造、200…ロボットアーム、541…シャフト(軌道体)、542…ボールケージ(移動体)、O…中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸周りに回転自在に設けられる太陽歯車と、前記太陽歯車に噛み合うとともに前記主軸周りに公転自在な遊星歯車と、前記太陽歯車と同軸上に固定配置されるとともに前記遊星歯車に噛み合う固定内歯歯車と、前記固定内歯歯車とは異なる歯数を有して前記太陽歯車と同軸上に回転自在に配置されるとともに前記遊星歯車に噛み合う可動内歯歯車とを備える回転駆動装置であって、
前記主軸周りに回転自在に設けられる第1キャリアと、
前記遊星歯車を回転自在に支持する第2キャリアと、
前記第1キャリアと前記第2キャリアとを互いに連結するとともに前記第1キャリアに対して前記第2キャリアを前記主軸と直交する方向に移動自在に案内する連結部と、
前記第2キャリアを前記主軸と直交する方向に付勢する付勢部とを有することを特徴とする回転駆動装置。
【請求項2】
前記第1キャリアと、前記第2キャリアと、前記連結部と、前記付勢部と、前記遊星歯車とが、一体として着脱自在にユニット化されていることを特徴とする請求項1に記載の回転駆動装置。
【請求項3】
前記第1キャリアは、前記主軸方向において固定された軸受部を介して前記主軸に回転自在に取り付けられることを特徴とする請求項1または2に記載の回転駆動装置。
【請求項4】
前記第1キャリアは、前記主軸と直交する方向に対し垂直な平側面を有し、
前記連結部は、前記平側面から垂直方向に突出する軌道体と、前記第2キャリアを前記軌道体に沿って移動自在に案内する移動体とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転駆動装置。
【請求項5】
前記遊星歯車を複数有し、
前記複数の遊星歯車のそれぞれに対して前記第2キャリア、連結部、付勢部がそれぞれ設けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転駆動装置。
【請求項6】
前記遊星歯車を複数有し、
前記遊星歯車はそれぞれ、前記主軸周りの周方向に等間隔で配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の回転駆動装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の回転駆動装置を2つ備えると共に、これら2つの回転駆動装置が、一の回転駆動装置の前記主軸と他の回転駆動装置の前記主軸とを互いに交差させるように配設され、2軸方向に回転自在に構成されていることを特徴とするロボットの関節構造。
【請求項8】
請求項7に記載のロボットの関節構造を備えることを特徴とするロボットアーム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−151269(P2010−151269A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331891(P2008−331891)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】