説明

土壌の膨潤性の評価方法

【課題】簡単に土壌の膨潤性を評価する。
【解決手段】測定対象の土壌を、ふるいにかけて小粒径の粒子を選択する。選択した土壌の粒子を加熱し、加熱後の土壌の粒子を土色計によって、L***表色系によるa*とb*を測定する。測定した加熱後のa*とb*との比率を求めて、膨潤性を数値化して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌の膨潤性の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水分環境の変化にともない膨張と収縮の可逆反応を起こす粘土を含む土壌や表層地質の特性を把握することは、下記のような各種の目的からきわめて重要な課題である。
<1>膨潤性粘土に起因する地すべり等の災害発生予測のため。
<2>農耕地、とくに水田の基盤整備のため。
<3>膨潤前後に降雨浸透能が変化することから、小規模なダム集水域などにおける地下水涵養能の適正な見積もりのため。
<4>膨潤性粘土の存在により、舗装が難しい道路の設計や管理のため。
<5>アースフィルダムの材料としての適正性の評価のため。
<6>その他、農業土木、建設、防災事業の基礎となる数値の把握のため。
【0003】
そのような目的のために行われている従来の土壌の膨潤性の評価方法としては次のようなもの知られている。
<1>定容量(100cc)のステンレス・シリンダーを用いて現場から採取した土壌コアのpF水分特性などの物理的測定を実験室で行うことによって膨潤性を定量評価する方法。
<2>土壌懸濁液から回収される2μm以下の粘土粒子にグリセロール飽和処理等を施し、X線回折装置で結晶構造の底面間隔の変化(14Å→17Å)を測定してモンモリロナイトなどの膨潤性粘土が含まれることを定性評価する方法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したような従来の土壌の膨潤性の評価方法にあっては、次のような問題点がある。
<1> いずれの場合も煩雑な手順であり、測定試料数は時間とコストに大きく制約される。
<2> その結果、本来空間的な広がりを把握する必要があるにもかかわらず、制約のために目的を達成できない。
<3> 途上国においては分析に必要な装置が入手できないことが多く、高価な分析装置を用いたデータ取得が難しい。
<4> 災害国の日本においても、山間部まで空間的に精度の高い土地基盤情報を整備するに至っていないことから迅速かつ簡便に土地情報を取得する手法の開発が必要である。
<5> 以上のように、従来から膨潤性粘土の現場における簡単な判定方法が望まれていながら開発されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明の土壌の膨潤性の評価方法は、測定対象の土壌を採取するステップと、採取した土壌をふるいにかけて小粒径の粒子を選択するステップと、選択した土壌の粒子を加熱するステップと、加熱後の土壌の粒子を土色計によって、L***表色系によるa*とb*を測定するステップと、測定した加熱後のa*とb*との比率を求めて、a*/b*と膨潤性との相関関係から、膨潤性を数値化して行うステップとによって構成した、土壌の膨潤性の評価方法を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の土壌の膨潤性の評価方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 高温で、例えば850℃で強熱処理した土壌について土色計を用いてICI=国際照明委員会によるCIE表色のa*,b*の比(Processed a*/b*)を計測するだけの簡単な作業で膨潤性を評価することができる。
<2> 極めて少量の試料で、かつ簡便、安価な方法によって、膨潤性粘土(スメクタイト群モンモリロナイト等)を含む土壌の膨潤現象や膨潤性粘土の分布を把握することができる。
<3> 本手法を用いることにより、膨潤性粘土群を含む土壌ばかりでなく堆積物など表層地質の性状把握を簡便に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0008】
<1>評価方法の思想の背景。
本件発明の発明者は、非晶質鉄が土壌粒子の間隙に保持されることに着目した。
ここで間隙とは、結晶構造単位層の層間が閉じていないスメクタイト群のモンモリロナイトなどの層間のことである。
スメクタイトは、粘土の中に含まれている粘土鉱物のことであり、100万分の1mmの薄い層がナトリウム、カルシュウム、鉄などのイオンを挟んで本のように重なった結晶からできている。
ここに不安定な非晶質鉄が介在することにより、土壌構造が不安定となる。
したがって、この非晶質鉄の存在の多寡を測定することによって、その土壌の膨潤性を評価できるはずである。
以上の背景から、非晶質鉄(フエリハイドライト)を加熱して非晶質鉄の色を変化させ(へマタイト化)変化後の土壌の色を測定して土壌膨潤性の評価を行う方法を開発した。
以下、実際の評価の手順を説明する。
【0009】
<2>土壌の採取ステップ。
まず測定対象の土壌を採取する。その場合に、試料は後述するような色味の変化を測定できればよいのであるから、きわめて少量で足りる。
【0010】
<3>第一次加熱ステップ。
その試料をたとえば電気炉において105℃で24時間加熱する。(第一次加熱)
その結果、試料の毛細水、吸着水などの土壌水分を除去することができる。
なお、この工程は試料の状態におうじて省略することもできる。
【0011】
<4>ふるいわけステップ。
第一次加熱した土壌をふるいにかけて小粒径の粒子を選択する。
この工程は、粒子を統一することによって光の反射率を向上させるためである。粒子が不ぞろいであると、光は粒子間に侵入して吸収されやすく、測定結果が不安定となる可能性がある。
ふるいわけによって例えば100μm以下の粒子を選択する。
【0012】
<5>第二次加熱ステップ。
こうして選択した土壌の粒子を、第一次加熱の温度よりも高温で加熱する。
たとえばマッフル炉で850℃で5時間加熱することによって、非晶質鉄の色を変化させる。
なお850℃という数値を示した理由は、その温度以下では非晶質鉄(フェリハイドライト)がヘマタイトにならないからである。
850℃以上の高温であると、溶解してしまい変質するために採用することができない。また加熱のコストも無駄になってしまう。
【0013】
<6>測定ステップ。
加熱後の非晶質鉄の色が変化した土壌の粒子を、土色計によって、L***表色系によるa*とb*を測定する。
【0014】
<7>比率の算定ステップ。
測定した加熱後のa*とb*との比率、a*/b*を求める。
この結果、土壌の膨潤性を数値化して評価することができる。
なお、色彩の違いによって鉄化合物(ゲータイト、ヘマタイト)の判定が可能であることはすでに知られている。例としてNagano and Nakashima,1989,Geochemical Journal 23,pp.75-83 を上げることができる。
【0015】
<8>L***表色系について。
ここでL***表色系について説明する。
「L***表色系」とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した、知覚的にほぼ均等な歩度をもつ色空間(均等色空間)のひとつである。
***色空間では、明度L*を縦軸として、赤〜緑のa*軸と、黄〜青のb*で色度をあらわす。
*=100は白、L*=0は黒、
+a*は赤方向、−a*は緑方向、
+b*は黄方向、−b*は青方向をしめす。
中心に近いほど彩度が低い。
色差は、この色空間の中での2色間の直線距離を計算して求める。
このための計算式が色差式である。
なお、以上は理論的な背景であるが、実際にはすでに多くのメーカーから携帯できる軽量な「土色計」が発売されている。
それらの簡便な装置では、対物レンズに試料を接してスイッチを押せば、直ちに少量の試料からデジタル表示でL***の値を読み取ることができる。
【0016】
<9>b*を考慮する理由。
赤色方向の色彩だけで判断するのであれば、b*(黄方向)を考慮する必要はないとも考えられる。
しかし土壌を加熱した後にも、石英などの白味が残っている場合がある。するとa*だけでは白味の影響を受けて、a*値が大きく変わる可能性があり、膨潤性との相関関係が弱くなる。
また場所によって鉄化合物の含有量が違うとa*値が大きく変わる可能性があり、やはり膨潤性との相関関係が弱くなる。
その点を図2において説明すると、図2(石膏を含む試料)、図3(石膏をのぞいた試料)ではa*(赤みの強度)と膨潤性の相関関係は弱い。
それに対して図1に見るように、a*とb*との比(a*/b*)を採用すれば、膨潤性の相関関係はきわめて強いことが分かる。
なお図1は、フィリピン・ルソン島における事例研究によるものであり、その研究では、飽和したコアの膨潤特性値(コア100に対する膨潤量で示す膨潤体積率%)加熱後の a*/b*との間には、高い相関性が確認された。
なお図1において左の円で囲んだ試料は特に石膏含有量を高いので関係式から外れている。
【0017】
<10>評価の利用。
以上のような評価を行うことによって、膨潤性粘土に起因する地すべり等の災害発生予測、農耕地、とくに水田の基盤整備、膨潤性粘土の存在により舗装が難しい道路の設計や管理、アースダムとしての材料評価など、農業土木、建設、防災関係における応用が広く考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】加熱後のL***表色系の数値の割合と膨潤現象(体積率%)との関係を示す図。
【図2】加熱後のa*のみを考慮した場合の膨潤性との相関関係を示す図。
【図3】加熱後のa*のみを考慮した場合の膨潤性との相関関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の土壌を採取するステップと、
採取した土壌をふるいにかけて小粒径の粒子を選択するステップと、
選択した土壌の粒子を加熱するステップと、
加熱後の土壌の粒子を土色計によって、L***表色系によるa*とb*を測定するステップと、
測定した加熱後のa*とb*との比率を求めて、a*/b*と膨潤性との相関関係から、膨潤性を数値化して行うステップとによって構成した、
土壌の膨潤性の評価方法。
【請求項2】
測定対象の土壌を採取するステップと、
第一次加熱して土壌水分を除去するステップと、
第一次加熱した土壌をふるいにかけて小粒径の粒子を選択するステップと、
選択した土壌の粒子を、第一次加熱の温度よりも高温で加熱して非晶質鉄の色を変化させるステップと、
加熱後の非晶質鉄の色が変化した土壌の粒子を、土色計によって、L***表色系によるa*とb*を測定するステップと、
測定した加熱後のa*とb*との比率を求めて、a*とb*と膨潤性との相関関係から、膨潤性を数値化して行うステップとによって構成した、
請求項1記載の、土壌の膨潤性の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−101363(P2007−101363A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291604(P2005−291604)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】