説明

圧力容器

【課題】受熱しても内部にまで熱が伝わり難い圧力容器を提供する
【解決手段】内部が貯蔵室20となるライナー21と、ライナー21の外表面に形成された繊維強化プラスチックからなる補強層22と、補強層22の外表面に形成され、ガラス繊維23bとガラス繊維23bとの間に熱発泡性樹脂層23aを介在させてなる保護層と、保護層の外表面に形成された防水層とを備える。保護層は、ガラス繊維23bの束を液状の熱発泡性樹脂溶液に浸して含浸させた後に補強層22の外表面に巻き付けて固化して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高圧ガス等を貯留する圧力容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を搭載し、燃料電池で発電した電気をエネルギー源として走行する燃料電池車両には、前記燃料電池に水素(燃料)を供給する水素タンク(圧力容器)、前記燃料電池に酸化剤としての酸素を含む空気を供給するコンプレッサ、燃料電池を循環する冷媒を送出する冷媒ポンプ、直流電力を交流電力に変換するPDU(Power Drive Unit)、走行用のモータ、モータの駆動力を駆動輪に伝達するドライブトレイン等が搭載されている。ここで、コンプレッサ、冷媒ポンプ、PDU、ドライブトレイン等の外部機器は、その作動に伴って発熱する。
【0003】
前記水素タンクには水素が高圧で充填されていて、水素タンクから燃料電池に水素を供給する水素供給流路には、減圧弁が設けられている。そして、アクセル開度等に基づいて算出された要求電力に応じて水素の目標圧力を設定し、前記減圧弁の二次側圧力が前記目標圧力となるように、前記減圧弁を制御している。
【0004】
このような水素タンクに充填される水素(ガス)とは異なるが、液体燃料(ガソリン)が貯溜される燃料タンクにおいて、入熱による燃料蒸気の発生を抑制するために、多層タンク構造とし、放熱手段を組み込んだ燃料タンクが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−130271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、燃料電池車両は、真夏の高温環境下で走行したり、また、前記したようにコンプレッサ等の外部機器の発熱によって、水素タンクに熱が入力されると、貯蔵されている水素が膨張し、水素タンク内の圧力が上昇してしまう。
このように、水素タンクにおける水素の圧力が上昇してしまうと、前記減圧弁の一次側圧力も上昇することになり、そのため前記目標圧力よりも高い圧力で、水素が燃料電池に供給される虞がある。そして、このように高い圧力で水素が供給されると、燃料電池で消費されずに排出される水素の量が多くなり、効率が低下する虞がある。また、過剰な水素供給により燃料電池スタックの固体高分子電解質膜が劣化する虞もある。
【0007】
ここで、制御範囲が広いワイドレンジの減圧弁を用いる方法も考えられるが、このようなワイドレンジの減圧弁は非常に高価であるため、コストを要してしまう。
また、水素タンク内への入熱を抑制するために多層タンク構造にすると、水素タンクの外径が大きくなるという課題がある。
【0008】
そこで、この発明は、受熱しても内部にまで熱が伝わり難いコンパクトな圧力容器を提供するものである
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る圧力容器では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、内部が貯蔵室となるライナー(例えば、後述する実施例におけるライナー21)と、前記ライナーの外表面に形成された繊維強化プラスチックからなる補強層(例えば、後述する実施例における補強層22)と、前記補強層の外表面に形成され、繊維材(例えば、後述する実施例におけるガラス繊維23b)と繊維材との間に熱発泡性材(例えば、後述する実施例における熱発泡性樹脂層23a)を介在させてなる保護層(例えば、後述する実施例における保護層23)と、を備えることを特徴とする圧力容器(例えば、後述する実施例における水素タンク3)である。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記保護層は、繊維材の束を液状の熱発泡性材に浸して含浸させた後に前記補強層の外表面に巻き付けて固化して形成されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記保護層の外表面に、防水層(例えば、後述する実施例における防水層24)を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、圧力容器が外部から受熱すると、保護層の熱発泡性材が発泡して断熱材となり、貯蔵室への入熱量を抑制することができ、その結果、貯蔵室の内部圧力の上昇を抑制することができる。
また、保護層は、繊維材と繊維材の間に熱発泡性材を介在させて構成されているので、補強層の外表面にほぼ均一に熱発泡性材を積層することが可能となる。また、熱発泡性材の膜厚の均一化により、膜厚を薄くすることが可能になるので、圧力容器の軽量・コンパクト化を図ることができる。
さらに、保護層の形成後においても、繊維材が熱発泡性材の脱落を防止する。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、補強層の外表面に保護層を形成する際に、熱発泡性材の液垂れを防止することができ、熱発泡性材の膜厚を所定の厚さに確保することができる。
請求項3に係る発明によれば、保護層に対する耐水性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る圧力容器としての水素タンクを備えた燃料電池車両の概略構成図である。
【図2】受熱前の圧力容器の一部を断面にして示す図である。
【図3】発泡前の保護層の断面図である。
【図4】保護層の熱発泡性材が発泡した状態を示す図2に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明に係る圧力容器の実施例を図1から図4の図面を参照して説明する。なお、この実施例は、この発明に係る圧力容器を、燃料電池車両に搭載される水素タンク(燃料タンク)に適用した態様である。
図1は、燃料電池車両の概略構成を示す図であり、燃料電池車両1は、燃料としての水素と酸化剤としての酸素が供給されて発電をする燃料電池スタック(燃料電池)2と、高圧の水素を貯蔵する水素タンク(圧力容器)3と、水素タンク3から放出される高圧の水素を減圧する減圧弁4と、燃料電池スタック2に酸素を含む空気を供給するコンプレッサ5と、希釈器6等を備えている。
【0016】
燃料電池スタック2は、固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)であり、MEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)をセパレータ(図示しない)で挟持してなる単セルが複数積層されて構成されている。MEAは、電解質膜(固体高分子膜)と、これを挟持するカソードおよびアノードとを備えている。各セパレータには、溝や貫通孔からなるアノード流路2aおよびカソード流路2cが形成されている。
【0017】
空気はコンプレッサ5により所定圧力に加圧され、空気供給流路7を通って燃料電池スタック2のカソード流路2cに供給される。カソード流路2cに供給された空気は、発電に供された後、空気オフガスとして燃料電池スタック2から排出され、空気排出流路8を通って希釈器6に排出される。なお、コンプレッサ5は、燃料電池スタック2や、燃料電池スタック2で発電した電気を蓄電する高圧バッテリ(図示略)を電源としている。
空気排出流路8には、燃料電池スタック2のカソード流路2cにおける空気圧力を調整するための背圧弁9が設けられている。
図示しない電子制御装置は、アクセル開度に基づいて、要求電力、目標空気圧力、目標水素圧力を算出し、目標空気圧力となるように、背圧弁9の開度およびコンプレッサ5の回転速度を制御する
【0018】
一方、水素は、水素タンク3に高圧で貯蔵されており、水素タンク3から放出された水素は、水素供給流路10を通り、水素供給流路10に設けられた減圧弁4によって減圧されて、燃料電池スタック2のアノード流路2aに供給される。減圧弁4は、空気供給流路7から導圧管11を介して入力される空気の圧力(すなわち、カソード圧力)を信号圧として、水素タンク3から供給される高圧の水素を、前記信号圧よりも所定圧力だけ高い圧力となるように減圧する。これにより、燃料電池スタック2のカソードとアノードの間の極間差圧を所定の圧力に保持する。
【0019】
燃料電池スタック2で消費されなかった未反応の水素は、燃料電池スタック2から水素オフガスとして排出され、水素オフガス流路12を通って希釈器6に排出される。そして、希釈器6において水素オフガスは空気オフガスと混合されて希釈され、混合ガスが希釈器6から排気管13を介して外部に排出される。
【0020】
コンプレッサ5は作動すると熱を発生する熱源であり、この実施例では、コンプレッサ5で発生した熱の一部が水素タンク3に伝達する場合で説明する。コンプレッサ5で発生した熱を水素タンク3が受熱したときに、その熱が水素タンク3の内部まで伝わってしまうと、水素タンク3に貯蔵された水素が膨張し、水素の圧力が増大してしまう。そこで、この実施例の水素タンク3では、水素タンク3が外部から受熱しても、内部にまで熱が伝わり難い構造を採用している。なお、このように水素タンク3に熱を与える熱源としては、コンプレッサ5の外に、電子制御装置、冷媒ポンプ、高圧バッテリ、PDU、ドライブトレイン等、種々挙げることができる。
【0021】
以下、水素タンク3の構造を説明する。
図1に示すように、水素タンク3は略円筒状をなし、燃料電池車両1に長手方向(軸方向)を水平にして設置されている。水素タンク3の口金3aには、プレッシャリリーフバルブ(図示略)が内蔵されている。
【0022】
図2は、水素タンク3の周壁部の一部を破断して示したものである。水素タンク3は、一番内側の壁部を構成しその内側が水素の貯蔵室20となる略円筒状のアルミニウム合金製のライナー21と、ライナー21を覆うようにライナー21の外表面に形成された補強層22と、補強層22を覆うように補強層22の外表面に形成された保護層23と、保護層23を覆うように保護層23の外表面に形成された防水層24と、を備えて構成されている。
【0023】
補強層22は、ライナー21を補強して機械的強度を上げるもので、種々の繊維強化プラスチックのうち、一例として炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic 、以下CFRPと略す)で構成されている。補強層22は、例えば、熱硬化性樹脂が含浸された長い炭素繊維を、ライナー21に所定に巻回した後、前記熱硬化性樹脂を硬化させることによって形成することができる。
【0024】
保護層23は、補強層22が損傷するのを防止するとともに、受熱したときに断熱層を形成して内部に熱が伝わり難くするものである。
保護層23は、例えば、長いガラス繊維の束を、熱発泡性樹脂を水で溶かしてなる熱発泡性樹脂溶液に浸し、前記ガラス繊維に熱発泡性樹脂溶液を含浸させ、これを補強層22の外表面に沿って円周方向に巻き付け、乾燥させ固化することによって形成することができる。なお、熱発泡性樹脂としては、例えばポリ燐酸アンモニウム等の発泡剤を成分とする公知の熱発泡性断熱塗料を例示することができる。
【0025】
図3はこのようにして形成された保護層23の断面図であり、熱発泡性樹脂層(熱発泡性材)23aに多数のガラス繊維(繊維材)23bが隙間を有して配置されている。換言すると、ガラス繊維23bとガラス繊維23bとの間に熱発泡性樹脂層23aが介在している。
この熱発泡性樹脂は、外部から加熱され温度上昇すると軟化し、発泡剤が発泡温度に到達すると、ガスを発生して発泡し、内部に多数の気泡が形成されて膨張する。なお、熱発泡性樹脂が発泡する温度は、発泡剤の発泡温度によって決まるので、発泡剤を変更することによって所望の温度に設定することが可能である。
防水層24は、保護層23に耐水性を付与するものであり、例えばウレタン樹脂で構成することができる。
【0026】
このように構成された水素タンク3によれば次の作用効果が得られる。
補強層22の外側に保護層23を設けているので、水素タンク3に小石等が飛んできても、保護層3によって補強層22が保護され、小石等が補強層22に直接ぶつかることがないので、補強層22が傷付くことがない。
保護層23の外側に防水層24が設けられているので、水素タンク3が雨水等により被水しても、水は防水層24によって遮断され保護層23にまで浸入することがない。その結果、水溶性の熱発泡性樹脂層23aを備える保護層23を、長期に亘って適正な状態に保持することができる。
【0027】
また、コンプレッサ5がその作動により発熱し、その熱が水素タンク3に伝わり、保護層23の熱発泡性樹脂層23aの温度が所定の発泡温度に上昇すると、熱発泡性樹脂層23aが軟化し、発泡して、膨張し、図4に示すように、ガラス繊維23bをそのままの位置に残して、熱発泡性樹脂層23aだけがガラス繊維23bより上方まで膨出し、その上部に気泡からなる断熱層23cが形成される。
【0028】
これにより、水素タンク3においてコンプレッサ5から熱を受けた部分の表面が断熱層23cにより覆われることとなり、コンプレッサ5で発生した熱は、断熱層23cによって断熱されるため、熱が内部(ライナー21に接近する方向)に伝わり難くなり、貯蔵室20への入熱量を抑制することができる。その結果、ライナー21内に充填されている水素の温度も上昇し難くなり、水素が膨張するのを抑制することができ、水素の圧力上昇を抑制することができる。
したがって、図1に示す減圧弁4の一次側圧力が、コンプレッサ5の発熱の影響を受けて上昇することがない。
【0029】
よって、減圧弁4を制御範囲が広範囲のものにする必要がなく、燃料電池車両1を低コストで製造可能となる。そして、減圧弁4は、水素を適切な圧力に減圧・調整することができ、水素を適切な圧力でアノード流路2aに供給することができるので、過剰な水素供給による燃料電池スタック2の劣化を防止することもできる。また、過剰な水素供給がなくなるので、消費されずに燃料電池スタック2から排出される水素の量が増加せず、燃料電池車両1の燃費(水素の消費効率)が低下するのを防止することができる。
なお、水素タンク3の全外周面で受熱して、総ての保護層23の熱発泡性樹脂層23aが発泡温度まで上昇した場合には、水素タンク3の全外周に断熱層23cが形成されることとなる。
【0030】
ところで、ガラス繊維23bを有さずに、補強層22の外周面に熱発泡性樹脂溶液を直に塗った場合には、固化する前に熱発泡性樹脂溶液が垂れてしまうので、1回の塗布で形成することができる熱発泡性樹脂層の膜厚が薄くなり、所定の膜厚を得るには複数回塗布しなければならず、工数が多くなり、生産性が低い。また、熱発泡性樹脂層の膜厚が不均一であると、一番膜厚の薄い部分で所定膜厚を確保するため、全体的に見ると膜厚を厚くせざるを得ない。
【0031】
これに対して、この実施例の保護層23は、ガラス繊維23bに熱発泡性樹脂溶液を含浸させ、これを補強層22の外表面に沿って円周方向に巻き付け、乾燥させ固化することによって形成するので、固化するまでの間も、ガラス繊維23bとガラス繊維23bの間に熱発泡性樹脂溶液を保持させることができ、保護層23の形成中に熱発泡性樹脂溶液が液垂れすることがない。その結果、ガラス繊維23bとガラス繊維23bの間に熱発泡性樹脂層23aを介在させることができ、保護層23の熱発泡性樹脂層23aの膜厚を所定の厚さに均一に形成することができる。また、膜厚の均一化が可能なことから、熱発泡性樹脂層23aの膜厚を薄くすることができ、その結果、水素タンク3を軽量にすることが可能となる。しかも、工数を減らすことができ、生産性が向上する。
【0032】
また、保護層23は、ガラス繊維23bとガラス繊維23bの間に熱発泡性樹脂層23aを介在させて構成されているので、衝撃等を受けたときに、熱発泡性樹脂層23aが脱落するのを防止することができる。
【0033】
なお、この実施例における水素タンク3では、ライナー21の直径は50〜70cm、補強層21の厚さは10〜100mm、保護層22の厚さは0.05〜5mm、防水層24の厚さは0.05〜5μm、保護層23のガラス繊維の23bの直径は1〜50μmを例示することができる。
【0034】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、保護層23の繊維材をガラス繊維で構成したが、これに限るものではなく、炭素繊維等であってもよい。
また、保護槽23の熱発泡性樹脂層23aは水溶性ではなく、油性のものを適宜選択してもよい。
また、前述した実施例では、圧力容器の貯蔵室に貯蔵される物質を水素としたが、貯蔵物は水素に限るものではなく、例えば、酸素、窒素、天然ガス(メタン)等であってもよい。
【0035】
また、前述した実施例では、燃料電池車両に搭載された燃料タンクとしての水素タンクの態様で説明したが、搭載される対象は車両に限らず、船舶、航空機等であってもよいし、あるいは、地上に固定されて使用される据え置き型であってもよい。さらに、圧力容器は燃料タンクに限るものではない。
【符号の説明】
【0036】
3 水素タンク(圧力容器)
21 ライナー
22 補強層
23 保護層
23a 熱発泡性樹脂層(熱発泡性材)
23b ガラス繊維(繊維材)
24 防水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が貯蔵室となるライナーと、
前記ライナーの外表面に形成された繊維強化プラスチックからなる補強層と、
前記補強層の外表面に形成され、繊維材と繊維材との間に熱発泡性材を介在させてなる保護層と、
を備えることを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記保護層は、繊維材の束を液状の熱発泡性材に浸して含浸させた後に前記補強層の外表面に巻き付けて固化して形成されることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
前記保護層の外表面に、防水層を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧力容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−2257(P2012−2257A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136158(P2010−136158)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】