圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置
【課題】ロールギャップを高精度に測定でき、且つクロスロール圧延機などのクラウン制御ミルにも適用可能なロールギャップ測定装置を提供する。
【解決手段】上下ワークロール1a,1bのうちの少なくとも一方のワークロールの外周部に、バックアップロール及び被圧延材と干渉しないように設けられる渦流式距離センサ5と、この渦流式距離センサ5への電力供給及び渦流式距離センサ5の測定信号の取り出しを行うためのスリップリング機構6を備える。一方のワークロールの外周部に設けられた渦流式距離センサ5は、他方のワークロールとの最短距離を磁気的に高精度に測定できるので、外乱の影響を受けることなくロールギャップを高精度に測定することができ、しかも、クロスロール圧延機などのクラウン制御ミルにも適用可能である。
【解決手段】上下ワークロール1a,1bのうちの少なくとも一方のワークロールの外周部に、バックアップロール及び被圧延材と干渉しないように設けられる渦流式距離センサ5と、この渦流式距離センサ5への電力供給及び渦流式距離センサ5の測定信号の取り出しを行うためのスリップリング機構6を備える。一方のワークロールの外周部に設けられた渦流式距離センサ5は、他方のワークロールとの最短距離を磁気的に高精度に測定できるので、外乱の影響を受けることなくロールギャップを高精度に測定することができ、しかも、クロスロール圧延機などのクラウン制御ミルにも適用可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置と、この装置を利用した圧延機および熱延鋼帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱間連続圧延等の分野においては、ペアクロスロール圧延機など各種のクラウン制御ミルが実用化された結果、板クラウンのない平坦な鋼帯を安定して製造できるようになってきた。しかしながら、板クラウンが小さくなった分だけ圧延中に鋼帯が蛇行しやすくなり、特に被圧延材(以下、便宜上「熱延鋼帯」という)の尾端部が尻抜けする際に、熱延鋼帯がサイドガイドに衝突して倒れ込んで圧延される、いわゆる絞り込みが発生するという新たな問題が生じている。熱延仕上圧延機における熱延鋼帯の尾端部通板性向上は、稼動率向上およびロール原単位向上のために、非常に重要な課題である。
【0003】
圧延機における熱延鋼帯の蛇行現象は、一般的に2階積分特性を持つと言われている。図14はその物理的解釈を示したもので、図14(A)は、鋼帯の尾端がワークロールを抜ける瞬間を上方から見た図である。例えば、熱延鋼帯が蛇行した場合、図14(B)に示すように鋼帯が寄った側の圧延荷重が一方よりも高くなるため、ロール開度が一方よりも広くなる。当然、ロールギャップの狭い側は他方よりも薄く圧延されるため、圧延方向に長く伸ばされ、通板速度は他方よりも遅くなる。このため、鋼帯は図14(A)に示すように圧延部を境界にくの字型に折れ曲がることになる。一旦、鋼帯が曲がると、そこから後方の蛇行量は時間とともに増大する。これにより、図14(B)に示すように、板道がロールセンタから外れると、鋼帯が曲がった方向(図14(B)では右方向)のミル伸びが増大してロールギャップが開き、図14(C)に示すように、さらにたわみを助長することで、時間の2乗に比例した蛇行量が発生する。
【0004】
こうした問題を回避するための代表的な熱延鋼帯の蛇行制御技術は、図15に示すように圧延機の圧延荷重の左右差Pdfにより発生する左右ロール開度差Sdfを打ち消すように、比例制御でレベリング修正量SLを動かす蛇行制御(平行剛性制御)である。図15において、αは制御ゲイン(0〜1)、Mは平行剛性である。この蛇行制御技術は、圧延機の圧下装置(スクリュー、油圧シリンダ等)のレベリング修正量SLを、下記の(i)式に従い蛇行を抑制する方向に制御する方法(一般にレベリング操作と呼ぶ)である。なお、下記(i)〜(iii)式において、αは制御ゲイン、Pdfは圧延荷重の左右差(以下、「差荷重Pdf」という)、Sdfは左右ロールの開度差、Mは平行剛性または左右剛性、Lは左右圧下装置間距離、ycは熱間圧延ラインの幅方向中心に対する熱延鋼帯の幅中央のずれ量(以下、単に「蛇行量yc」という)を示す。
【0005】
平行剛性または左右剛性Mは、下記(ii)式に示すように、差荷重Pdfと圧下装置位置での左右ロール開度差Sdfの比で表される。また、蛇行量ycと差荷重Pdfとの関係は、下記(iii)式のように表される。つまり、平行剛性Mが高い圧延機では、差荷重Pdfによる左右ロール開度差Sdfが生じにくいこと、また、下記(iii)式に示す関係から、被圧延材の蛇行量ycによって発生する差荷重Pdfに起因した左右ロール開度差Sdfも生じにくいことになる。
SL=−α(Pdf/M) …(i)
M=Pdf/Sdf …(ii)
yc=(Pdf・L)/2P=(Sdf・L)/(2P・M) …(iii)
【0006】
上記(iii)式に示すように被圧延材の蛇行量ycと差荷重Pdfとは比例関係にあるが、実際の圧延においては、差荷重を発生させる要因が他にも多数存在する。例えば、被圧延材の左右板厚差、左右温度差(≒左右塑性定数差)、圧延機の腐食および磨耗劣化に伴う左右バネ定数差、ワークロールとバックアップロールの平行度ズレによるロール間スラスト力等がそれにあたる。全ての差荷重の要因をモニタするためには、各要因に対応して複数のセンサが必要となり、これに伴う多額の導入コスト、メンテナンスコストが発生する。また、上記(iii)式に示す蛇行量ycは上下ワークロールに挟まれた被圧延領域におけるものであり、例えば、蛇行センサを設ける場合には、必然的にワークロールとの干渉を避けるために、被圧延領域から数m退避した位置に設置することが必要となるため、被圧延領域における蛇行量ycを直接測定することは困難である。
【0007】
以上の理由により、複数の差荷重要因の中から蛇行量ycによる差荷重のみを抽出することは事実上困難であり、全ての要因の総和である差荷重Pdfに基づく圧下位置制御を行う必要があった。したがって、圧延時に発生する差荷重Pdfが全て蛇行量ycに起因するものと仮定して蛇行制御を行った場合、他要因による差荷重変動によって圧下位置制御が過制御となり、逆に絞り込みトラブルを助長させてしまうケースが発生するため、現状の制御ゲインαは圧延条件に応じて低めに設定せざるを得ず、このため、尾端蛇行による絞り込みトラブルを完全に解消できないという問題があった。
【0008】
これを解決する手段として、差荷重Pdfに基づく蛇行制御ではなく、上下ワークロールのロールギャップを直接測定し、このロールギャップの左右差が零となるようにレベリング制御を実施する提案がなされている(特許文献1)。この考え方はごく自然な発想であるが、問題はその測定が極めて困難ということにある。これまで多くのロールギャップ測定手段が提案されており、その代表的な方式として、光学式(例えば、特許文献2〜4)と機械式(例えば、特許文献5〜8)がある。
【0009】
【特許文献1】特開平6−297013号公報
【特許文献2】特開昭62−198705号公報
【特許文献3】特開平6−147843号公報
【特許文献4】特開昭57−132009号公報
【特許文献5】特開昭64−31508号公報
【特許文献6】特開昭58−199610号公報
【特許文献7】特開昭57−137012号公報
【特許文献8】特開昭64−78608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
光学式のロールギャップ測定手段は、ロールギャップの入側・出側のどちらか一方に光源を配置し、ロールギャップを通過して他方に設置した受光装置に入力される信号に基づきロールギャップを測定するものである。しかし、熱間圧延機の周囲は蒸気や冷却水が充満しており、このような環境下で測定のために投受光を行っても、蒸気による光量低下や水飛沫による受光信号ノイズにより高精度の測定は困難であり、光路をクリアに確保するために蒸気や冷却水のシール対策が必要となる。
【0011】
一方、機械式のロールギャップ測定手段は、上下ワークロールのロールネック部間またはロールチョック間に、その間隔距離を測定する機構を介在させるものであり、蒸気や冷却水による測定精度への影響はほとんどないが、上下ロールネック部またはロールチョック間の最短距離を測定する必要上、上下ワークロールの軸心が同一鉛直線上になくてはならないという制約がある。これに対し、近年、実用化されているクラウン制御ミルの一つであるクロスロール圧延機は、図8に示すように右上および左下のロールチョック若しくは右下および左上のロールチョックを圧延方向に変位させることで上下ワークロールをクロスさせ、必要となる製品鋼帯クラウン形状に応じてクロス角度を制御する方式であるため、上記制約条件を満足できない。したがって、近年の主要方式であるクラウン制御ミルには、従来の機械式のロールギャップ測定手段は適用できない。
【0012】
したがって本発明の目的は、上記のような従来技術の課題を解決し、蒸気や冷却水等の外乱の影響を受けることなくロールギャップを高精度に測定することができ、しかも、クロスロール圧延機などのようなクラウン制御ミルにも適用可能なロールギャップ測定装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのようなロールギャップ測定装置を利用して安定した圧延を行うことができる圧延機を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、そのような圧延機を用いて、良好な形状の熱延鋼帯を製造できるとともに、安定した蛇行制御を行うことで、絞りトラブルを生じることなく熱延鋼帯を安定して製造することができる熱延鋼帯の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、渦流式距離センサをワークロールの外周部に直接取り付け、スリップリングを介して電力供給と測定信号の取り出しを行うことで、蒸気や冷却水の影響を受けることなくロールギャップ測定が可能であり、しかも各種クラウン制御ミルにも適用できるようにしたロールギャップ測定装置を新たに創案した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0014】
[1]上下ワークロールのうちの少なくとも一方のワークロールの外周部に、バックアップロール及び被圧延材と干渉しないように設けられる渦流式距離センサと、該渦流式距離センサへの電力供給及び渦流式距離センサの測定信号の取り出しを行うためのスリップリング機構とを備えたことを特徴とする圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置。
[2]上記[1]のロールギャップ測定装置において、ワークロールの外周面に凹部を形成し、該凹部内に渦流式距離センサを配置したことを特徴とする圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置。
【0015】
[3]ワークロールの左右ロール端に上記[1]または[2]のロールギャップ測定装置を有することを特徴とする圧延機。
[4]上記[3]の圧延機において、クロスロール圧延機であることを特徴とする圧延機。
[5]上記[3]または[4]の圧延機で被圧延材を熱間仕上圧延し、熱延鋼帯を製造する方法であって、圧延中、ロールギャップ測定装置によりワークロールの左右ロールギャップを測定し、左右ロールギャップ差が目標値となるようにレベリング制御を行うことを特徴とする熱延鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のロールギャップ測定装置によれば、蒸気や冷却水等の外乱の影響を受けることなくロールギャップを高精度に測定することができ、しかも、クロスロール圧延機などのようなクラウン制御ミルにも問題なく適用することができる。
また、このようなロールギャップ測定装置を利用した本発明の圧延機およびこれを用いた熱延鋼帯の製造方法によれば、左右ロールギャップ差をモニタした高精度のレベリング制御を容易に実施することができため、差荷重Pdfに基づく現状の圧下位置制御の問題点を解消し、良好な熱延鋼帯形状を得ることができるとともに、安定した蛇行制御を行うことで、絞りトラブルを生じることなく熱延鋼帯を安定して製造することができる。このため薄物の熱延鋼帯の製造においても、良好な鋼帯形状の確保と安定通板を実現することができ、絞りトラブル抑制によるライン稼動率向上およびロール原単位向上を達成しつつ、優れた品質の熱延鋼帯を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜図6は、本発明のロールギャップ測定装置を熱間仕上圧延機に適用した場合の一実施形態を示すもので、図1はロールギャップ零の場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠正面図、図2は同じく部分切欠側面図(但し、スリップリング機構の図示は省略してある)、図3はロールギャップがある場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠正面図、図4は同じく部分切欠側面図(但し、スリップリング機構の図示は省略してある)、図5はロールギャップ測定装置を取り付けた上ワークロール端部を部分的に示す斜視図、図6は同じく上ワークロールの部分切欠側面図(但し、スリップリング機構の図示は省略してある)である。
【0018】
図において、1aは上ワークロール、3aはそのロールチョック、1bは下ワークロール、3bはそのロールチョック、2aは上バックアップロール、4aはそのロールチョック、2bは下バックアップロール、4bはそのロールチョックである。また、10aは上ワークロール1aのロール胴部、11aは同じくロールネック部、10bは下ワークロール1bのロール胴部、11bは同じくロールネック部、Sは被圧延材である。
【0019】
本実施形態の圧延機では、ロールギャップ測定装置Aは、上ワークロール1aの左右ロール端にそれぞれ設けられている。各ロールギャップ測定装置Aは、ワークロールの外周部に、バックアップロール2a及び被圧延材Sと干渉しないように設けられる渦流式距離センサ5と、この渦流式距離センサ5への電力供給及び渦流式距離センサ5の測定信号(出力信号)の取り出しを行うためのスリップリング機構6を備えている。
本実施形態では、上ワークロール1aの外周面にザグリ加工などによって凹部7を形成し、この凹部7内に渦流式距離センサ5(センサヘッド)を配置している。この渦流式距離センサ5は、上ワークロール表面から距離δ0だけ凹部7内方に位置した状態で設けられている。なお、凹部7はロール全周わたって形成される溝であってもよい。渦流式距離センサ5としては、従来一般に使用されているセンサを用いることができる。
【0020】
前記スリップリング機構6は、上ワークロール1aのロール胴部10aの端面に同心円状に設けられる複数の集電リング60と、これら集電リング60に各々摺動接触する固定側の複数のブラシ61を備えた多極型である。このように本発明で用いるスリップリング機構6は、渦流式距離センサ5への電力供給と渦流式距離センサ5の測定信号の伝送(信号取り出し)を行うため、2極以上の極数を有する。
【0021】
前記各集電リング60は、ロール本体とは絶縁体で絶縁されており、ロール内部に配置されるリード線9で渦流式距離センサ5と電気的に接続されている。また、前記ブラシ61はロールチョックやハウジングなどの固定部に支持され、電源および測定信号処理系に電気的に接続される。本実施形態では、各ブラシ61に接続されたリード線(図示せず)が、ロールチョック3aやハウジング(図示せず)などの固定部に支持されたセンサボックス8に引き込まれている。このセンサボックス8は、電源用のバッテリーと無線ユニット(いずれも図示せず)を備えており、電力供給用のリード線がバッテリーに、測定信号伝送用のリード線が無線ユニットにそれぞれ接続されている。
なお、ロールギャップ測定装置Aは、下ワークロール1bに設けてもよいし、上下ワークロール1a,1bの両方に設けてもよい。
【0022】
以上のようなロールギャップ測定装置Aによれば、上ワークロール1aの1回転周期において渦流式距離センサ5が下ワークロール1bと対向する位置に来る毎に図7に示すような測定信号が得られ、その信号強度(電圧出力)に基づき下ワークロール1bとの距離が測定される。ここで、例えば、図1および図2のようにロールギャップが無い状態でワークロールを回転させた場合、図7(A)に示すような測定信号が得られるが、この測定信号は、上下ワークロール1a,1bの接触位置において距離δ0が測定されたものである。したがって、この最小距離δ0をセンサヘッドの零点とした調整をしておくことで、図3および図4に示すような圧延状態において得られる図7(B)に示すような測定信号、すなわち距離δ(=ロールギャップ)+距離δ0の測定信号から、ロールギャップ測定値が得られる。また、圧延機の左右に配置したロールギャップ測定装置Aによるロールギャップ測定値の差演算により、左右ロールギャップ差を得ることができる。
【0023】
図8にクロスロール圧延機の概略を示すが、さきに述べたように、従来の機械式によるロールギャップ測定装置は、上下ワークロール軸心が同じ鉛直線上にある必要があり、したがって、このようなクロスロール圧延機には事実上適用することができない。これに対して本発明のロールギャップ測定装置は、ギャップ計測手段として、一方のワークロールの外周部に直接設けられた渦流式距離センサを用い、他方のワークロールとの距離を磁気的に測定するものであるため、ロールチョックの圧延方向位置の変位に対応でき、したがって、クロスロール圧延機に対しても問題なく適用できる。
【0024】
図9および図10は、本発明のロールギャップ測定装置をクロスロール圧延機(熱間仕上圧延機)に適用した場合の一実施形態を示すもので、図9(A)はロールギャップ零の場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの正面図、図9(B)は同じく側面図(本図では、ロールギャップ測定装置Aは本来破線で表すべきところ、説明の便宜上実線で表している)、図10(A)はロールギャップがある場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの正面図、図10(A)は同じく側面図(本図では、ロールギャップ測定装置Aは本来破線で表すべきところ、説明の便宜上実線で表している)である。
【0025】
さきに述べたようにこのクロスロール圧延機は、上下ワークロール1a,1bが平面的にみてクロスしているため、上下ワークロール1a,1bの軸心が同じ鉛直線上にないが、本発明のロールギャップ測定装置Aの構成および機能は、図1〜図6に示す実施形態と同様であるので、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
このようなクロスロール圧延機に本発明のロールギャップ測定装置Aを適用した場合、上ワークロール1aに設けられた渦流式距離センサ4は下ワークロール1bとの最短距離を測定できるので、上下ワークロール1a,1bの軸心が同じ鉛直線上になくても、その機能が阻害されることはない。ここで、例えば、図9のようにロールギャップが無い状態でワークロールを回転させた場合、[図6に示すような凹部内の距離]+[ロールをクロスさせたことにより生じる離間距離]である距離δ0の測定信号が得られる。したがって、この最小距離δ0をセンサヘッドの零点とした調整をしておくことで、図10に示すような圧延状態において得られる距離δ(=ロールギャップに比例する距離)+距離δ0の測定信号から、ロールギャップ測定値が得られる。また、圧延機の左右に配置したロールギャップ測定装置Aによるロールギャップ測定値の差演算により、左右ロールギャップ差を得ることができる。このように本発明のロールギャップ測定装置Aは、クロスロール圧延機にも問題なく適用できる。
【0026】
本発明の圧延機は、以上述べた実施形態のようにワークロールの左右ロール端にロールギャップ測定装置Aを有するものである。
また、本発明の熱延鋼帯の製造方法では、そのような圧延機で被圧延材を圧延し、熱延鋼板を製造するに際し、圧延中、ロールギャップ測定装置Aによりワークロール1a,1bの左右ロールギャップを測定し、左右ロールギャップ差が目標値となるようにレベリング制御を行う。具体的には、圧延材の左右板厚差(板ウェッジ)が零となるように、つまりは左右ロールギャップ差が零となるようにレベリング制御を行う。
【実施例】
【0027】
熱延仕上圧延機の最終スタンドに本発明のロールギャップ測定装置を設置し、圧延中のロールギャップを測定した。図11にデータ測定時の圧延機周辺の機器配置図を示す。実操業においては、ワークロールは2〜3時間おきに使用済みのロールと研磨済みの新品ロールとの組み替えを実施する必要があるため、ロール組み替えの度にロールギャップ測定装置の取り付け作業によって操業ラインを停止させることのないように配慮する必要がある。そこで、ロールギャップ測定装置は、ロール組み替え待ち状態の研磨済み新品ロールに事前に取り付けておき、ロール組み替えの際に共に圧延機内に組み込む方式とした。
【0028】
また、圧延機とその外部間において、渦流式距離センサ5の測定信号用及び電源用の配線が必要となるが、図11に示すようにドライブ側のワークロール周辺には、主機モータの動力をワークロールに伝達するためのスピンドルが配置されており、配線作業のためのアクセスが難しく、上記配線作業をする場合には足場の設置が必要となり、大きなライン停止時間が発生することが予想される。これらの問題を解決するため、渦流式距離センサ5の電源は小型バッテリーとし、測定信号は無線ユニットを用いたデータ送信を行うこととし、このためにロールチョック3aに小型バッテリーと無線ユニットを備えたセンサボックス8を取り付けた。以上により、通常必要となる渦流式距離センサ5の測定信号用及び電源用の配線作業を無くすことができた。
【0029】
図12に、渦流式距離センサ5に対する電力供給と渦流式距離センサ5の測定信号の伝送についてのフローを示す。圧延機周辺の環境(蒸気、冷却水、温度)から保護するため、樹脂製のセンサボックス8をロールチョック3aに固定し、このセンサボックス8内に、渦流式距離センサ5の電源となる小型バッテリーと、渦流式距離センサ5の測定信号を送信する送信側無線ユニットなどの機器一式を収納した。渦流式距離センサ5への電力供給及び渦流式距離センサ5の測定信号の取り出しをスリップリング機構6を介して行うとともに、前記送信側無線ユニットからの信号はライン外の安全通路上に設置した受信側無線ユニットへと伝送し、データロガーに記録した。
【0030】
ロールギャップ測定装置Aからの出力信号を確認した後、通常ロール組み替え後に実施されているレベリング零調を実施した。ここでは、図1および図2に示すように上下ワークロールを接触させた状態でワークロールを回転させ、左右圧下位置バランスを調整するレベリング零調を実施した。この時、ロール回転周期毎に変動する渦流式距離センサ5の測定信号が得られるが、先に述べたように測定信号が最小となる点が上下ワークロールが接触した状態であると考えられることから、このレベリング零調時における左右測定信号の最小値を上下ワークロールの左右ロールギャップ差が0になった点と考え、左右ロールギャップ測定装置の零調を行った。
【0031】
熱延鋼帯の圧延において、同一操業条件(入側板厚h1=2.8mm、出側板厚h0=2.0mm、板巾b=1200mm)での計8本の圧延について、圧延機出側に設置された蛇行計出力に基づく蛇行量ycのデータ及びロールギャップ測定装置からのロールギャップデータを採取した。図13に測定結果より求めた圧延完了時における蛇行量ycと左右ロールギャップ差との関係を示す。±20μm程度のばらつきが見られるものの、両者にはほぼ線形な相関が見られ、本発明によって信頼性の高いロールギャップ測定が可能であることが確認できた。
さらに、同一操業条件での計8本の圧延について、左右ロールギャップ差が零となるようにレベリング制御をおこなった結果、圧延機出側蛇行量ycは制御なしの場合に比べて1/3以下に低減し、蛇行制御に効果的であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のロールギャップ測定装置を熱間仕上圧延機に適用した場合の一実施形態を示すもので、ロールギャップ零の場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠正面図
【図2】図1の実施形態において、ロールギャップ零の場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠側面図
【図3】図1の実施形態において、ロールギャップがある場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠正面図
【図4】図1の実施形態において、ロールギャップがある場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠側面図
【図5】図1の実施形態において、ロールギャップ測定装置を取り付けた上ワークロール端部を部分的に示す斜視図
【図6】図1の実施形態において、ロールギャップ測定装置を取り付けた上ワークロールの部分切欠側面図
【図7】本発明のロールギャップ測定装置の渦流式距離センサで得られる測定信号に関する説明図
【図8】クロスロール圧延機の概略斜視図
【図9】本発明のロールギャップ測定装置をクロスロール圧延機(熱間仕上圧延機)に適用した場合の一実施形態を示すもので、(A)はロールギャップ零の場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの正面図、(B)は同じく側面図(本図では、ロールギャップ測定装置Aは本来破線で表すべきところ、説明の便宜上実線で表している)
【図10】図9の実施形態において、(A)はロールギャップがある場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの正面図、(B)は同じく側面図(本図では、ロールギャップ測定装置Aは本来破線で表すべきところ、説明の便宜上実線で表している)
【図11】実施例における本発明装置及び測定機器の配置を示す説明図
【図12】実施例において、渦流式距離センサに対する電力供給と渦流式距離センサの測定信号の伝送についてのフローを示す説明図
【図13】実施例における圧延機出側の蛇行量ycと本発明装置による左右ロールギャップ差との関係を示すグラフ
【図14】蛇行現象の物理的解釈を示す説明図
【図15】蛇行に対する従来の平行剛性制御の考え方を説明するための説明図
【符号の説明】
【0033】
1a,1b ワークロール
2a,2b バックアップロール
3a,3b,4a,4b ロールチョック
5 渦流式距離センサ
6 スリップリング機構
7 凹部
8 センサボックス
9 リード線
10a,10b ロール胴部
11a,11b ロールネック部
60 集電リング
61 ブラシ
S 被圧延材
A ロールギャップ測定装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置と、この装置を利用した圧延機および熱延鋼帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱間連続圧延等の分野においては、ペアクロスロール圧延機など各種のクラウン制御ミルが実用化された結果、板クラウンのない平坦な鋼帯を安定して製造できるようになってきた。しかしながら、板クラウンが小さくなった分だけ圧延中に鋼帯が蛇行しやすくなり、特に被圧延材(以下、便宜上「熱延鋼帯」という)の尾端部が尻抜けする際に、熱延鋼帯がサイドガイドに衝突して倒れ込んで圧延される、いわゆる絞り込みが発生するという新たな問題が生じている。熱延仕上圧延機における熱延鋼帯の尾端部通板性向上は、稼動率向上およびロール原単位向上のために、非常に重要な課題である。
【0003】
圧延機における熱延鋼帯の蛇行現象は、一般的に2階積分特性を持つと言われている。図14はその物理的解釈を示したもので、図14(A)は、鋼帯の尾端がワークロールを抜ける瞬間を上方から見た図である。例えば、熱延鋼帯が蛇行した場合、図14(B)に示すように鋼帯が寄った側の圧延荷重が一方よりも高くなるため、ロール開度が一方よりも広くなる。当然、ロールギャップの狭い側は他方よりも薄く圧延されるため、圧延方向に長く伸ばされ、通板速度は他方よりも遅くなる。このため、鋼帯は図14(A)に示すように圧延部を境界にくの字型に折れ曲がることになる。一旦、鋼帯が曲がると、そこから後方の蛇行量は時間とともに増大する。これにより、図14(B)に示すように、板道がロールセンタから外れると、鋼帯が曲がった方向(図14(B)では右方向)のミル伸びが増大してロールギャップが開き、図14(C)に示すように、さらにたわみを助長することで、時間の2乗に比例した蛇行量が発生する。
【0004】
こうした問題を回避するための代表的な熱延鋼帯の蛇行制御技術は、図15に示すように圧延機の圧延荷重の左右差Pdfにより発生する左右ロール開度差Sdfを打ち消すように、比例制御でレベリング修正量SLを動かす蛇行制御(平行剛性制御)である。図15において、αは制御ゲイン(0〜1)、Mは平行剛性である。この蛇行制御技術は、圧延機の圧下装置(スクリュー、油圧シリンダ等)のレベリング修正量SLを、下記の(i)式に従い蛇行を抑制する方向に制御する方法(一般にレベリング操作と呼ぶ)である。なお、下記(i)〜(iii)式において、αは制御ゲイン、Pdfは圧延荷重の左右差(以下、「差荷重Pdf」という)、Sdfは左右ロールの開度差、Mは平行剛性または左右剛性、Lは左右圧下装置間距離、ycは熱間圧延ラインの幅方向中心に対する熱延鋼帯の幅中央のずれ量(以下、単に「蛇行量yc」という)を示す。
【0005】
平行剛性または左右剛性Mは、下記(ii)式に示すように、差荷重Pdfと圧下装置位置での左右ロール開度差Sdfの比で表される。また、蛇行量ycと差荷重Pdfとの関係は、下記(iii)式のように表される。つまり、平行剛性Mが高い圧延機では、差荷重Pdfによる左右ロール開度差Sdfが生じにくいこと、また、下記(iii)式に示す関係から、被圧延材の蛇行量ycによって発生する差荷重Pdfに起因した左右ロール開度差Sdfも生じにくいことになる。
SL=−α(Pdf/M) …(i)
M=Pdf/Sdf …(ii)
yc=(Pdf・L)/2P=(Sdf・L)/(2P・M) …(iii)
【0006】
上記(iii)式に示すように被圧延材の蛇行量ycと差荷重Pdfとは比例関係にあるが、実際の圧延においては、差荷重を発生させる要因が他にも多数存在する。例えば、被圧延材の左右板厚差、左右温度差(≒左右塑性定数差)、圧延機の腐食および磨耗劣化に伴う左右バネ定数差、ワークロールとバックアップロールの平行度ズレによるロール間スラスト力等がそれにあたる。全ての差荷重の要因をモニタするためには、各要因に対応して複数のセンサが必要となり、これに伴う多額の導入コスト、メンテナンスコストが発生する。また、上記(iii)式に示す蛇行量ycは上下ワークロールに挟まれた被圧延領域におけるものであり、例えば、蛇行センサを設ける場合には、必然的にワークロールとの干渉を避けるために、被圧延領域から数m退避した位置に設置することが必要となるため、被圧延領域における蛇行量ycを直接測定することは困難である。
【0007】
以上の理由により、複数の差荷重要因の中から蛇行量ycによる差荷重のみを抽出することは事実上困難であり、全ての要因の総和である差荷重Pdfに基づく圧下位置制御を行う必要があった。したがって、圧延時に発生する差荷重Pdfが全て蛇行量ycに起因するものと仮定して蛇行制御を行った場合、他要因による差荷重変動によって圧下位置制御が過制御となり、逆に絞り込みトラブルを助長させてしまうケースが発生するため、現状の制御ゲインαは圧延条件に応じて低めに設定せざるを得ず、このため、尾端蛇行による絞り込みトラブルを完全に解消できないという問題があった。
【0008】
これを解決する手段として、差荷重Pdfに基づく蛇行制御ではなく、上下ワークロールのロールギャップを直接測定し、このロールギャップの左右差が零となるようにレベリング制御を実施する提案がなされている(特許文献1)。この考え方はごく自然な発想であるが、問題はその測定が極めて困難ということにある。これまで多くのロールギャップ測定手段が提案されており、その代表的な方式として、光学式(例えば、特許文献2〜4)と機械式(例えば、特許文献5〜8)がある。
【0009】
【特許文献1】特開平6−297013号公報
【特許文献2】特開昭62−198705号公報
【特許文献3】特開平6−147843号公報
【特許文献4】特開昭57−132009号公報
【特許文献5】特開昭64−31508号公報
【特許文献6】特開昭58−199610号公報
【特許文献7】特開昭57−137012号公報
【特許文献8】特開昭64−78608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
光学式のロールギャップ測定手段は、ロールギャップの入側・出側のどちらか一方に光源を配置し、ロールギャップを通過して他方に設置した受光装置に入力される信号に基づきロールギャップを測定するものである。しかし、熱間圧延機の周囲は蒸気や冷却水が充満しており、このような環境下で測定のために投受光を行っても、蒸気による光量低下や水飛沫による受光信号ノイズにより高精度の測定は困難であり、光路をクリアに確保するために蒸気や冷却水のシール対策が必要となる。
【0011】
一方、機械式のロールギャップ測定手段は、上下ワークロールのロールネック部間またはロールチョック間に、その間隔距離を測定する機構を介在させるものであり、蒸気や冷却水による測定精度への影響はほとんどないが、上下ロールネック部またはロールチョック間の最短距離を測定する必要上、上下ワークロールの軸心が同一鉛直線上になくてはならないという制約がある。これに対し、近年、実用化されているクラウン制御ミルの一つであるクロスロール圧延機は、図8に示すように右上および左下のロールチョック若しくは右下および左上のロールチョックを圧延方向に変位させることで上下ワークロールをクロスさせ、必要となる製品鋼帯クラウン形状に応じてクロス角度を制御する方式であるため、上記制約条件を満足できない。したがって、近年の主要方式であるクラウン制御ミルには、従来の機械式のロールギャップ測定手段は適用できない。
【0012】
したがって本発明の目的は、上記のような従来技術の課題を解決し、蒸気や冷却水等の外乱の影響を受けることなくロールギャップを高精度に測定することができ、しかも、クロスロール圧延機などのようなクラウン制御ミルにも適用可能なロールギャップ測定装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのようなロールギャップ測定装置を利用して安定した圧延を行うことができる圧延機を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、そのような圧延機を用いて、良好な形状の熱延鋼帯を製造できるとともに、安定した蛇行制御を行うことで、絞りトラブルを生じることなく熱延鋼帯を安定して製造することができる熱延鋼帯の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、渦流式距離センサをワークロールの外周部に直接取り付け、スリップリングを介して電力供給と測定信号の取り出しを行うことで、蒸気や冷却水の影響を受けることなくロールギャップ測定が可能であり、しかも各種クラウン制御ミルにも適用できるようにしたロールギャップ測定装置を新たに創案した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0014】
[1]上下ワークロールのうちの少なくとも一方のワークロールの外周部に、バックアップロール及び被圧延材と干渉しないように設けられる渦流式距離センサと、該渦流式距離センサへの電力供給及び渦流式距離センサの測定信号の取り出しを行うためのスリップリング機構とを備えたことを特徴とする圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置。
[2]上記[1]のロールギャップ測定装置において、ワークロールの外周面に凹部を形成し、該凹部内に渦流式距離センサを配置したことを特徴とする圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置。
【0015】
[3]ワークロールの左右ロール端に上記[1]または[2]のロールギャップ測定装置を有することを特徴とする圧延機。
[4]上記[3]の圧延機において、クロスロール圧延機であることを特徴とする圧延機。
[5]上記[3]または[4]の圧延機で被圧延材を熱間仕上圧延し、熱延鋼帯を製造する方法であって、圧延中、ロールギャップ測定装置によりワークロールの左右ロールギャップを測定し、左右ロールギャップ差が目標値となるようにレベリング制御を行うことを特徴とする熱延鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のロールギャップ測定装置によれば、蒸気や冷却水等の外乱の影響を受けることなくロールギャップを高精度に測定することができ、しかも、クロスロール圧延機などのようなクラウン制御ミルにも問題なく適用することができる。
また、このようなロールギャップ測定装置を利用した本発明の圧延機およびこれを用いた熱延鋼帯の製造方法によれば、左右ロールギャップ差をモニタした高精度のレベリング制御を容易に実施することができため、差荷重Pdfに基づく現状の圧下位置制御の問題点を解消し、良好な熱延鋼帯形状を得ることができるとともに、安定した蛇行制御を行うことで、絞りトラブルを生じることなく熱延鋼帯を安定して製造することができる。このため薄物の熱延鋼帯の製造においても、良好な鋼帯形状の確保と安定通板を実現することができ、絞りトラブル抑制によるライン稼動率向上およびロール原単位向上を達成しつつ、優れた品質の熱延鋼帯を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜図6は、本発明のロールギャップ測定装置を熱間仕上圧延機に適用した場合の一実施形態を示すもので、図1はロールギャップ零の場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠正面図、図2は同じく部分切欠側面図(但し、スリップリング機構の図示は省略してある)、図3はロールギャップがある場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠正面図、図4は同じく部分切欠側面図(但し、スリップリング機構の図示は省略してある)、図5はロールギャップ測定装置を取り付けた上ワークロール端部を部分的に示す斜視図、図6は同じく上ワークロールの部分切欠側面図(但し、スリップリング機構の図示は省略してある)である。
【0018】
図において、1aは上ワークロール、3aはそのロールチョック、1bは下ワークロール、3bはそのロールチョック、2aは上バックアップロール、4aはそのロールチョック、2bは下バックアップロール、4bはそのロールチョックである。また、10aは上ワークロール1aのロール胴部、11aは同じくロールネック部、10bは下ワークロール1bのロール胴部、11bは同じくロールネック部、Sは被圧延材である。
【0019】
本実施形態の圧延機では、ロールギャップ測定装置Aは、上ワークロール1aの左右ロール端にそれぞれ設けられている。各ロールギャップ測定装置Aは、ワークロールの外周部に、バックアップロール2a及び被圧延材Sと干渉しないように設けられる渦流式距離センサ5と、この渦流式距離センサ5への電力供給及び渦流式距離センサ5の測定信号(出力信号)の取り出しを行うためのスリップリング機構6を備えている。
本実施形態では、上ワークロール1aの外周面にザグリ加工などによって凹部7を形成し、この凹部7内に渦流式距離センサ5(センサヘッド)を配置している。この渦流式距離センサ5は、上ワークロール表面から距離δ0だけ凹部7内方に位置した状態で設けられている。なお、凹部7はロール全周わたって形成される溝であってもよい。渦流式距離センサ5としては、従来一般に使用されているセンサを用いることができる。
【0020】
前記スリップリング機構6は、上ワークロール1aのロール胴部10aの端面に同心円状に設けられる複数の集電リング60と、これら集電リング60に各々摺動接触する固定側の複数のブラシ61を備えた多極型である。このように本発明で用いるスリップリング機構6は、渦流式距離センサ5への電力供給と渦流式距離センサ5の測定信号の伝送(信号取り出し)を行うため、2極以上の極数を有する。
【0021】
前記各集電リング60は、ロール本体とは絶縁体で絶縁されており、ロール内部に配置されるリード線9で渦流式距離センサ5と電気的に接続されている。また、前記ブラシ61はロールチョックやハウジングなどの固定部に支持され、電源および測定信号処理系に電気的に接続される。本実施形態では、各ブラシ61に接続されたリード線(図示せず)が、ロールチョック3aやハウジング(図示せず)などの固定部に支持されたセンサボックス8に引き込まれている。このセンサボックス8は、電源用のバッテリーと無線ユニット(いずれも図示せず)を備えており、電力供給用のリード線がバッテリーに、測定信号伝送用のリード線が無線ユニットにそれぞれ接続されている。
なお、ロールギャップ測定装置Aは、下ワークロール1bに設けてもよいし、上下ワークロール1a,1bの両方に設けてもよい。
【0022】
以上のようなロールギャップ測定装置Aによれば、上ワークロール1aの1回転周期において渦流式距離センサ5が下ワークロール1bと対向する位置に来る毎に図7に示すような測定信号が得られ、その信号強度(電圧出力)に基づき下ワークロール1bとの距離が測定される。ここで、例えば、図1および図2のようにロールギャップが無い状態でワークロールを回転させた場合、図7(A)に示すような測定信号が得られるが、この測定信号は、上下ワークロール1a,1bの接触位置において距離δ0が測定されたものである。したがって、この最小距離δ0をセンサヘッドの零点とした調整をしておくことで、図3および図4に示すような圧延状態において得られる図7(B)に示すような測定信号、すなわち距離δ(=ロールギャップ)+距離δ0の測定信号から、ロールギャップ測定値が得られる。また、圧延機の左右に配置したロールギャップ測定装置Aによるロールギャップ測定値の差演算により、左右ロールギャップ差を得ることができる。
【0023】
図8にクロスロール圧延機の概略を示すが、さきに述べたように、従来の機械式によるロールギャップ測定装置は、上下ワークロール軸心が同じ鉛直線上にある必要があり、したがって、このようなクロスロール圧延機には事実上適用することができない。これに対して本発明のロールギャップ測定装置は、ギャップ計測手段として、一方のワークロールの外周部に直接設けられた渦流式距離センサを用い、他方のワークロールとの距離を磁気的に測定するものであるため、ロールチョックの圧延方向位置の変位に対応でき、したがって、クロスロール圧延機に対しても問題なく適用できる。
【0024】
図9および図10は、本発明のロールギャップ測定装置をクロスロール圧延機(熱間仕上圧延機)に適用した場合の一実施形態を示すもので、図9(A)はロールギャップ零の場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの正面図、図9(B)は同じく側面図(本図では、ロールギャップ測定装置Aは本来破線で表すべきところ、説明の便宜上実線で表している)、図10(A)はロールギャップがある場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの正面図、図10(A)は同じく側面図(本図では、ロールギャップ測定装置Aは本来破線で表すべきところ、説明の便宜上実線で表している)である。
【0025】
さきに述べたようにこのクロスロール圧延機は、上下ワークロール1a,1bが平面的にみてクロスしているため、上下ワークロール1a,1bの軸心が同じ鉛直線上にないが、本発明のロールギャップ測定装置Aの構成および機能は、図1〜図6に示す実施形態と同様であるので、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
このようなクロスロール圧延機に本発明のロールギャップ測定装置Aを適用した場合、上ワークロール1aに設けられた渦流式距離センサ4は下ワークロール1bとの最短距離を測定できるので、上下ワークロール1a,1bの軸心が同じ鉛直線上になくても、その機能が阻害されることはない。ここで、例えば、図9のようにロールギャップが無い状態でワークロールを回転させた場合、[図6に示すような凹部内の距離]+[ロールをクロスさせたことにより生じる離間距離]である距離δ0の測定信号が得られる。したがって、この最小距離δ0をセンサヘッドの零点とした調整をしておくことで、図10に示すような圧延状態において得られる距離δ(=ロールギャップに比例する距離)+距離δ0の測定信号から、ロールギャップ測定値が得られる。また、圧延機の左右に配置したロールギャップ測定装置Aによるロールギャップ測定値の差演算により、左右ロールギャップ差を得ることができる。このように本発明のロールギャップ測定装置Aは、クロスロール圧延機にも問題なく適用できる。
【0026】
本発明の圧延機は、以上述べた実施形態のようにワークロールの左右ロール端にロールギャップ測定装置Aを有するものである。
また、本発明の熱延鋼帯の製造方法では、そのような圧延機で被圧延材を圧延し、熱延鋼板を製造するに際し、圧延中、ロールギャップ測定装置Aによりワークロール1a,1bの左右ロールギャップを測定し、左右ロールギャップ差が目標値となるようにレベリング制御を行う。具体的には、圧延材の左右板厚差(板ウェッジ)が零となるように、つまりは左右ロールギャップ差が零となるようにレベリング制御を行う。
【実施例】
【0027】
熱延仕上圧延機の最終スタンドに本発明のロールギャップ測定装置を設置し、圧延中のロールギャップを測定した。図11にデータ測定時の圧延機周辺の機器配置図を示す。実操業においては、ワークロールは2〜3時間おきに使用済みのロールと研磨済みの新品ロールとの組み替えを実施する必要があるため、ロール組み替えの度にロールギャップ測定装置の取り付け作業によって操業ラインを停止させることのないように配慮する必要がある。そこで、ロールギャップ測定装置は、ロール組み替え待ち状態の研磨済み新品ロールに事前に取り付けておき、ロール組み替えの際に共に圧延機内に組み込む方式とした。
【0028】
また、圧延機とその外部間において、渦流式距離センサ5の測定信号用及び電源用の配線が必要となるが、図11に示すようにドライブ側のワークロール周辺には、主機モータの動力をワークロールに伝達するためのスピンドルが配置されており、配線作業のためのアクセスが難しく、上記配線作業をする場合には足場の設置が必要となり、大きなライン停止時間が発生することが予想される。これらの問題を解決するため、渦流式距離センサ5の電源は小型バッテリーとし、測定信号は無線ユニットを用いたデータ送信を行うこととし、このためにロールチョック3aに小型バッテリーと無線ユニットを備えたセンサボックス8を取り付けた。以上により、通常必要となる渦流式距離センサ5の測定信号用及び電源用の配線作業を無くすことができた。
【0029】
図12に、渦流式距離センサ5に対する電力供給と渦流式距離センサ5の測定信号の伝送についてのフローを示す。圧延機周辺の環境(蒸気、冷却水、温度)から保護するため、樹脂製のセンサボックス8をロールチョック3aに固定し、このセンサボックス8内に、渦流式距離センサ5の電源となる小型バッテリーと、渦流式距離センサ5の測定信号を送信する送信側無線ユニットなどの機器一式を収納した。渦流式距離センサ5への電力供給及び渦流式距離センサ5の測定信号の取り出しをスリップリング機構6を介して行うとともに、前記送信側無線ユニットからの信号はライン外の安全通路上に設置した受信側無線ユニットへと伝送し、データロガーに記録した。
【0030】
ロールギャップ測定装置Aからの出力信号を確認した後、通常ロール組み替え後に実施されているレベリング零調を実施した。ここでは、図1および図2に示すように上下ワークロールを接触させた状態でワークロールを回転させ、左右圧下位置バランスを調整するレベリング零調を実施した。この時、ロール回転周期毎に変動する渦流式距離センサ5の測定信号が得られるが、先に述べたように測定信号が最小となる点が上下ワークロールが接触した状態であると考えられることから、このレベリング零調時における左右測定信号の最小値を上下ワークロールの左右ロールギャップ差が0になった点と考え、左右ロールギャップ測定装置の零調を行った。
【0031】
熱延鋼帯の圧延において、同一操業条件(入側板厚h1=2.8mm、出側板厚h0=2.0mm、板巾b=1200mm)での計8本の圧延について、圧延機出側に設置された蛇行計出力に基づく蛇行量ycのデータ及びロールギャップ測定装置からのロールギャップデータを採取した。図13に測定結果より求めた圧延完了時における蛇行量ycと左右ロールギャップ差との関係を示す。±20μm程度のばらつきが見られるものの、両者にはほぼ線形な相関が見られ、本発明によって信頼性の高いロールギャップ測定が可能であることが確認できた。
さらに、同一操業条件での計8本の圧延について、左右ロールギャップ差が零となるようにレベリング制御をおこなった結果、圧延機出側蛇行量ycは制御なしの場合に比べて1/3以下に低減し、蛇行制御に効果的であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のロールギャップ測定装置を熱間仕上圧延機に適用した場合の一実施形態を示すもので、ロールギャップ零の場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠正面図
【図2】図1の実施形態において、ロールギャップ零の場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠側面図
【図3】図1の実施形態において、ロールギャップがある場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠正面図
【図4】図1の実施形態において、ロールギャップがある場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの部分切欠側面図
【図5】図1の実施形態において、ロールギャップ測定装置を取り付けた上ワークロール端部を部分的に示す斜視図
【図6】図1の実施形態において、ロールギャップ測定装置を取り付けた上ワークロールの部分切欠側面図
【図7】本発明のロールギャップ測定装置の渦流式距離センサで得られる測定信号に関する説明図
【図8】クロスロール圧延機の概略斜視図
【図9】本発明のロールギャップ測定装置をクロスロール圧延機(熱間仕上圧延機)に適用した場合の一実施形態を示すもので、(A)はロールギャップ零の場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの正面図、(B)は同じく側面図(本図では、ロールギャップ測定装置Aは本来破線で表すべきところ、説明の便宜上実線で表している)
【図10】図9の実施形態において、(A)はロールギャップがある場合の圧延機ワークロールおよびバックアップロールの正面図、(B)は同じく側面図(本図では、ロールギャップ測定装置Aは本来破線で表すべきところ、説明の便宜上実線で表している)
【図11】実施例における本発明装置及び測定機器の配置を示す説明図
【図12】実施例において、渦流式距離センサに対する電力供給と渦流式距離センサの測定信号の伝送についてのフローを示す説明図
【図13】実施例における圧延機出側の蛇行量ycと本発明装置による左右ロールギャップ差との関係を示すグラフ
【図14】蛇行現象の物理的解釈を示す説明図
【図15】蛇行に対する従来の平行剛性制御の考え方を説明するための説明図
【符号の説明】
【0033】
1a,1b ワークロール
2a,2b バックアップロール
3a,3b,4a,4b ロールチョック
5 渦流式距離センサ
6 スリップリング機構
7 凹部
8 センサボックス
9 リード線
10a,10b ロール胴部
11a,11b ロールネック部
60 集電リング
61 ブラシ
S 被圧延材
A ロールギャップ測定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下ワークロールのうちの少なくとも一方のワークロールの外周部に、バックアップロール及び被圧延材と干渉しないように設けられる渦流式距離センサと、該渦流式距離センサへの電力供給及び渦流式距離センサの測定信号の取り出しを行うためのスリップリング機構とを備えたことを特徴とする圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置。
【請求項2】
ワークロールの外周面に凹部を形成し、該凹部内に渦流式距離センサを配置したことを特徴とする請求項1に記載の圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置。
【請求項3】
ワークロールの左右ロール端に請求項1または2に記載のロールギャップ測定装置を有することを特徴とする圧延機。
【請求項4】
クロスロール圧延機であることを特徴とする請求項3に記載の圧延機。
【請求項5】
請求項3または4に記載の圧延機で被圧延材を熱間仕上圧延し、熱延鋼帯を製造する方法であって、圧延中、ロールギャップ測定装置によりワークロールの左右ロールギャップを測定し、左右ロールギャップ差が目標値となるようにレベリング制御を行うことを特徴とする熱延鋼帯の製造方法。
【請求項1】
上下ワークロールのうちの少なくとも一方のワークロールの外周部に、バックアップロール及び被圧延材と干渉しないように設けられる渦流式距離センサと、該渦流式距離センサへの電力供給及び渦流式距離センサの測定信号の取り出しを行うためのスリップリング機構とを備えたことを特徴とする圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置。
【請求項2】
ワークロールの外周面に凹部を形成し、該凹部内に渦流式距離センサを配置したことを特徴とする請求項1に記載の圧延機ワークロールのロールギャップ測定装置。
【請求項3】
ワークロールの左右ロール端に請求項1または2に記載のロールギャップ測定装置を有することを特徴とする圧延機。
【請求項4】
クロスロール圧延機であることを特徴とする請求項3に記載の圧延機。
【請求項5】
請求項3または4に記載の圧延機で被圧延材を熱間仕上圧延し、熱延鋼帯を製造する方法であって、圧延中、ロールギャップ測定装置によりワークロールの左右ロールギャップを測定し、左右ロールギャップ差が目標値となるようにレベリング制御を行うことを特徴とする熱延鋼帯の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−272797(P2008−272797A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120091(P2007−120091)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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