説明

圧縮機の故障診断方法および故障診断装置

【課題】蒸気圧縮式の冷凍装置にコンプレッサ1の故障診断機能を持たせることで、修理作業を効率良くして迅速なユーザー対応を行う。
【解決手段】コンプレッサ1の圧縮容量を可変制御する可変制御弁154に与える制御電流値を、複数段階の大きさに可変して供給する電流可変手段としてのステップS12と、段階毎での蒸気圧縮式冷凍サイクル内の低圧側圧力値を検知する低圧圧力検知手段としてのステップS13と、供給した制御電流値と検知された低圧側圧力値との関係が、所定の特性曲線との対比から正常範囲内にあるか否かを判定する正常判定手段としてのステップS14とを有している。そして、ステップS14で正常範囲外であると判定された場合は、コンプレッサ1が故障であると判定するようにしている。
これによれば、蒸気圧縮式冷凍サイクルに組み込まれたコンプレッサ1が故障しているか否かを、簡単に判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気圧縮式冷凍サイクルに組み込まれた可変容量圧縮機の故障を診断する圧縮機の故障診断方法および故障診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、蒸気圧縮式冷凍サイクルを用いた定置式の空調装置において、冷暖房不良が発生した場合、ユーザーはサービスコールにて空調装置の点検および修理を依頼する。この依頼に応じてサービスマンは、空調装置が設置されている現場に出向き、どのような異常で、どこが不良かを現場で診断することとなる。図6は、このような従来の、現場診断の流れの一例を示すフローチャートである。サービスマンは、現場に到着して現場診断を開始すると、まず、装置を作動させてみて、不具合状況を確認する。
【0003】
このとき、電気的な作動ではなく、冷凍サイクルの機械的な故障が想定される場合、例えば、圧縮機前後の高圧/低圧圧力や吐出/吸入温度、室内機からの吹出温度などのデータ取りを行う(ステップS1)。そして、得られた圧力や温度のデータが、それぞれサービスマニュアルなどに示される正常範囲内であるか否かの判定を行う(ステップS2)。その結果、上記でデータ取りした圧力や温度が正常であれば、少なくとも圧縮機は正常であると判断して(ステップS3)、他の部分での故障を調べることとなる(ステップS4)。
【0004】
しかし、上記データ取りで得られた圧縮機前後の圧力や温度が、正常範囲内ではない場合、圧縮機が何らかの故障で異常であると判断できる(ステップS5)。そして、圧縮機の交換が必要となった場合は、交換用の圧縮機を手配し(ステップS6)、その交換用の圧縮機が用意できたときに再度設置現場を訪問して交換修理を行うこととなる(ステップS7)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の修理方法では、空調装置が復旧するまでに時間が掛かってしまい、迅速なユーザー対応という点において問題であった。本発明は、この従来の問題に鑑みて成されたものであり、その目的は、蒸気圧縮式の冷凍装置に圧縮機の故障診断機能を持たせることで、修理作業を効率良くして迅速なユーザー対応を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、蒸気圧縮式冷凍サイクルに組み込まれた可変容量圧縮機(1)の故障を診断する圧縮機の故障診断方法であり、可変容量圧縮機(1)の圧縮容量を可変制御する可変制御弁(154)に与える制御電流値を、複数段階の大きさに可変して供給する電流可変スイップ(S12)と、段階毎での蒸気圧縮式冷凍サイクル内の低圧側圧力値を検知する低圧圧力検知ステップ(S13)と、供給した制御電流値と検知された低圧側圧力値との関係が、所定の特性曲線との対比から正常範囲内にあるか否かを判定する正常判定ステップ(S14)とを有し、正常判定ステップ(S14)で正常範囲外であると判定された場合は、可変容量圧縮機(1)が故障であると判定することを特徴としている。
【0007】
この請求項1に記載の発明によれば、蒸気圧縮式冷凍サイクルに組み込まれた可変容量圧縮機(1)が故障しているか否かを、簡単に判定することができる。なお、以上のような圧縮機の故障診断方法は、下記の如く、圧縮機の故障診断装置に適用することができる。
【0008】
すなわち、請求項2に記載の発明では、蒸気圧縮式冷凍サイクルに組み込まれた可変容量圧縮機(1)の故障を診断する圧縮機の故障診断装置であり、可変容量圧縮機(1)の圧縮容量を可変制御する可変制御弁(154)に与える制御電流値を、複数段階の大きさに可変して供給する電流可変手段(S12)と、段階毎での蒸気圧縮式冷凍サイクル内の低圧側圧力値を検知する低圧圧力検知手段(7、S13)と、供給した制御電流値と検知された低圧側圧力値との関係が、所定の特性曲線との対比から正常範囲内にあるか否かを判定する正常判定手段(S14)とを有し、正常判定手段(S14)で正常範囲外であると判定された場合は、可変容量圧縮機(1)が故障であると判定することを特徴としている。
【0009】
この請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様、蒸気圧縮式冷凍サイクルに組み込まれた可変容量圧縮機(1)が故障しているか否かを、簡単に判定することができる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の圧縮機の故障診断装置において、自己診断実行手段(9a)を備え、ユーザーが自己診断実行手段(9a)を操作することで、各手段(S11、7、S13、S14)による可変容量圧縮機(1)が故障であるか否かの自己診断が実施されることを特徴としている。
【0011】
この請求項3に記載の発明によれば、可変容量圧縮機(1)が組み込まれた蒸気圧縮式冷凍装置において不具合が発生した場合、サービスマンに設置現場まで来てもらって現場診断をしてもらうまで待たなくとも、ユーザーが自己診断実行手段(9a)を操作することによって自己診断が実施され、可変容量圧縮機(1)が故障であるか否かの判定結果を得ることができる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明では、請求項2または3に記載の圧縮機の故障診断装置において、表示手段(9b)もしくは報知手段のいずれか、もしくはその両方を備え、各手段(S11、7、S13、S14)による可変容量圧縮機(1)が故障であるか否かの自己診断の結果を、ユーザーに表示もしくは報知のいずれか、もしくはその両方をすることを特徴としている。この請求項4に記載の発明によれば、可変容量圧縮機(1)が故障であるか否かの自己診断を行った結果を、ユーザーに知らせることができる。
【0013】
また、請求項5に記載の発明では、蒸気圧縮式冷凍装置において、請求項2ないし4に記載の圧縮機の故障診断装置を備えることを特徴としている。この請求項5に記載の発明によれば、可変容量圧縮機(1)が組み込まれた蒸気圧縮式冷凍装置において、例えば可変制御弁故障などによる不具合が発生した場合、ユーザーは、故障診断装置を作動させて可変容量圧縮機(1)が故障であるか否かを知ることができる。
【0014】
また、サービスマンは、サービルコールの際に、可変容量圧縮機(1)が故障であるか否かをユーザーに問い合わせることができる。その結果、可変容量圧縮機(1)が故障である場合、サービスマンは初動時に交換用の圧縮機を持参して設置現場に出向くことができ、現場での迅速な点検および修理が可能となる。なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態における蒸気圧縮式冷凍装置の構成模式図である。尚、本実施形態では、本発明の圧縮機の故障診断方法および故障診断装置を、定置式の空調(冷房)装置に適用した例として説明する。
【0016】
図1に示すように、空調装置の冷凍サイクルは、コンプレッサ(可変容量圧縮機)1、コンデンサ(凝縮器)2、レシ−バ(気液分離器)3、膨張弁5、エバポレータ(蒸発器)6を、冷媒配管4で環状に接続して成っている。以下、これらの冷凍機器について、順に説明する。
【0017】
冷媒を吸入し圧縮して吐出するコンプレッサ1は、本実施形態では、図示しない駆動用エンジンとベルト接続されており、このエンジンから動力を得て稼動する。また、本実施形態では、圧縮容量を負荷に応じて可変することのできる可変容量式のコンプレッサ1を用いている。
【0018】
図2は図1の蒸気圧縮式冷凍装置における可変容量式のコンプレッサ1の構造例を示す断面図であり、最少容量運転時の状態を示している。アルミニウム合金製のリヤハウジング130には、内部に複数のシリンダ131が形成されている。本実施形態においてシリンダ131は、同心円上に6ヶ所、等間隔に離れて配置されている。このシリンダ131内には、ピストン132が摺動自在に配置されている。ピストン132は、シリンダ131との間で良好な摺動が生じるよう、表面処理が施されている。
【0019】
リヤハウジング130に対して、図示しないOリングを介して気密配置されるフロントハウジング133も、アルミニウム合金より形成されており、内部に斜板101を保持する制御圧力室134を形成している。シャフト100は、このフロントハウジング133およびリヤハウジング130に、それぞれベアリング135および136を介して回転自在に保持されている。
【0020】
シャフト100の一端は、フロントハウジング133のボス部137より外方に露出しており、この露出部にはプーリ138のハブ139が、ボルト140により固定されている。プーリ138は、上述したフロントハウジング133のボス部137の外面に、ベアリング141を介して回転自在に配置されている。このプーリ138は、図示しないVベルトを介して駆動用エンジンの回転力を受けるようになっている。従って、フロントハウジング133およびリヤハウジング130は、駆動用エンジンの側面に取り付けられている。
【0021】
制御圧力室134内において、鉄製のシャフト100に対して鉄製のラグプレート110が圧入固定されている。よってラグプレート110は、シャフト100と一体となってフロントハウジング133の制御圧力室134内で回転するようになっている。このラグプレート110は、スラストベアリング142によって支持されており、このスラストベアリング142を介して軸方向の荷重をフロントハウジング133で受けつつ、制御圧力室134内で回転することとなる。
【0022】
斜板101は、シャフト100の外周に、その傾斜角度θ(図3参照)を可変することができる様に取り付けられている。具体的には、斜板101の駆動ピン102が、ラグプレート110の駆動孔111の内面に接触して、ラグプレート110の回転を斜板101に伝達するようになっている。そして、斜板101とシャフト100との間には、所定のクリアランスが形成されており、このクリアランスを利用してシャフト100の外面に沿って斜板101が移動できるようになっている。
【0023】
フロントハウジング133と斜板101との間には、フロント側スプリング150が配設されており、このフロント側スプリング150が斜板101の傾斜角度θを小さくする方向、換言すれば斜板101が立ち上がってピストン132の往復ストロークが小さくなる方向に加重を掛けている。
【0024】
逆に、リヤハウジング130と斜板101との間には、リヤ側スプリング151が配設されている。このリヤ側スプリング151は、斜板101の傾斜角度θを大きくする方向、換言すれば斜板101がシャフト100に対して傾斜してピストン132の往復ストロークが大きくなる方向に加重を掛けている。
【0025】
リヤハウジング130の後方に配置されたエンドハウジング152は、内部に吸入通路153が形成されている。また、このエンドハウジング152内には、制御圧力室134内の圧力Pcを切替制御する制御弁154が配置されている。すなわち、制御圧力室134と制御弁154との間には、図示しない制御圧通路が形成されており、この制御圧通路を介して制御圧力室134へ供給される圧力を、吸入通路153側の吸入圧Psと、吐出室155側の吐出圧Pdとの間で切り替えるようになっている。
【0026】
上述した斜板101とピストン132との間は、球面シュー160、161により動力伝達が行われる。球面シュー160、161は、斜板101の両面を鋏持し、この両面に配置された状態で両シュー160、161の外形が球になるようになっている。従って、斜板101とピストン132との間の傾斜角度θが可変しても、斜板101の往復ストロークは、球面シュー160、161を介して確実にピストン132に伝わるようになっている。
【0027】
また、球面シュー160、161の斜板101側の面には、テーパー部162、163が形成されており、球面シュー160、161と斜板101との間に潤滑油が良好に供給されるようになっている。また、シャフト100の内部には、通路穴170が形成されており、この通路穴170は、フロント側ベアリング135近傍に開口した連通孔171を介して、制御圧力室134とつながっている。
【0028】
また、通路穴170の端面は、吸入圧室172に開口している。従って、制御圧力室134内の冷媒は、この通路穴170を介して吸入圧室172側に吸引される。但し、この冷媒吸引が過大とならないように、制御圧力室134と連通孔171との間は通路が絞られている。
【0029】
リヤ側スプリング151と斜板101との間には、スプリングの荷重が部分的に斜板101に当たるように、偏当り部材180が配置されている。この偏当り部材180は、リヤ側スプリング151端面のうち一部分のみが、偏当り部材180を介して斜板101に当接できるようになっている。
【0030】
次に、上記構成より成る可変容量式のコンプレッサ1の作動を説明する。図示しない駆動用エンジンが回転すると、その駆動力を図示しないVベルトを介してプーリ138が受ける。このプーリ138の回転は、ハブ139を介してシャフト100に伝達され、シャフト100は、ハウジング133、130内でベアリング135および136に支持されて回転する。
【0031】
この回転は、シャフト100に圧入されたラグプレート110に伝達され、ラグプレート110も制御圧力室134内で回転することになる。このラグプレート110の回転が、駆動孔111および駆動ピン102を介して斜板101に伝達され、斜板101も制御圧力室134内で回転する。
【0032】
この斜板101の回転は、球面シュー160、161を介してピストン132に伝達される。斜板101の周方向の動きは、球面シュー160、161が斜板外周を滑動することにより逃がされ、斜板101がシャフト100に対して傾斜して生じる往復ストロークのみがピストン132に伝達される。この結果、ピストン132は、斜板101の傾斜角度θに応じた往復ストロークでシリンダ131内を往復運動することになる。
【0033】
この往復運動に伴い、空調装置のエバポレータ6側より吸入された低温低圧の冷媒が、吸入通路153から吸入圧室172を経て、シリンダ131内に吸入される。そして、ピストン132の往復ストロークに伴ってシリンダ131内の冷媒が圧縮され、冷媒圧力が吐出室155側の圧力Pdよりも高くなると、図示しない吐出弁を開いて冷媒が吐出室155側に吐出される。
【0034】
ここで、斜板101の傾斜角度θは、もっぱら制御圧力室134内の圧力Pcによってコントロールされることになる。制御圧力室134内の圧力Pcが高くなると、圧力バランスよりピストン132が制御圧力室134側へ移動しづらくなる。すなわち、制御圧力室134内の圧力Pcが高くなれば、ピストン132の往復ストロークは小さくなり、逆に制御圧力室134内の圧力Pcが低くなればピストン132の往復ストロークが大きくなり、斜板101の傾斜角度θは大きくなる。
【0035】
このように、制御圧力室134内の圧力Pcを制御することで、斜板101の傾斜角度θ、ひいてはピストン132の往復ストロークが制御できる。制御圧力室134内の圧力制御は、制御弁154によって行われる。この制御弁154には、ノーマルオープンタイプの電磁弁を用いており、制御弁154が励磁しない状態では、吐出室155側の高圧が制御圧力室134内に供給されることになる。
【0036】
すなわち、制御弁154を励磁しない状態では、制御圧力室134内の圧力Pcが高まり、斜板101の傾斜角度θが小さくなってピストン132は最小容量運転を行う。また逆に、制御弁154を励磁することにより、吸入圧室172と制御圧力室134とが連通する。これにより制御圧力室134内の圧力Pcを低下させ、斜板101の傾斜角度θを大きくしてピストン132の往復ストロークを大きくし、コンプレッサ1の容量を増大させる。図3は、制御圧力室134内の圧力Pcを低下させることにより、斜板101の傾斜角度θを大きくし、コンプレッサ1の吐出容量を最大とした状態を示している。
【0037】
次に、図1に示すように、コンプレッサ1から吐出された高圧冷媒は、コンデンサ(高圧側熱交換器)2で外気と熱交換して冷却され、凝縮される。コンデンサ2に外気を供給する送風機2aは、コンプレッサ1と同様に、駆動用エンジンから動力を得て回転するようになっている。なお、本実施形態では、高圧冷媒の圧力を冷媒の臨界圧力未満としているので、コンデンサ2にて冷媒は、気相冷媒から液相冷媒に相変化しながら、そのエンタルピを低下させる。
【0038】
コンデンサ2から流出した冷媒は、レシ−バ3内で気相冷媒と液相冷媒とに分離され、余剰冷媒は液相冷媒として蓄えられる。レシ−バ3から導出された液相冷媒は、減圧手段としての膨張弁5で減圧される。なお、本実施形態では、エバポレータ6の出口側の冷媒過熱度に基づいて絞り開度を調節する可変絞り部5aと、冷媒過熱度を検出する感温部5bとが一体化された温度式の膨張弁5を採用している。
【0039】
膨張弁5で減圧された冷媒は、エバポレータ(低圧側熱交換器)6で送風機6aから供給される空調用空気と熱交換する。本実施形態では、室内に吹き出す空調(冷房)用空気から吸熱して冷媒を蒸発させることにより、空調用空気は冷やされ、吹き出された室内を冷房している。なお、本実施形態では、エバポレータ6で吸熱した熱をコンデンサ2で室外に放熱しているが、これとは逆に外気から吸熱して、その吸熱した熱を室内に吹き出す空気中に放熱することにより、室内を暖房するようにしても良い。
【0040】
本実施形態では、エバポレータ6からコンプレッサ1に吸入される冷媒配管4の途中には、冷凍サイクル内の低圧側圧力(=コンプレッサ1の吸入圧Ps)値を検知する低圧圧力センサ(低圧圧力検知手段)7が設けられている。この低圧圧力センサ7の検知信号は、制御装置8に入力される。
【0041】
制御装置8は、本空調装置の作動を制御する制御手段であり、操作パネル9や各部のセンサ類、その他の機器からの信号が入力され、送風機2a/6a、可変制御弁154などに制御信号を出力する。また、操作パネル9には、ユーザーが後述する自己診断機能を実行させるときに操作する自己診断開始スイッチ(自己診断実行手段)9aと、自己診断の実施中、およびその結果を表示する表示装置(表示手段)9bとを備えている。
【0042】
次に、上記空調装置の作動の概要を説明する。まず、コンプレッサ1で冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。吐出された高温高圧の冷媒は、コンデンサ2を流通して送風機2aで通風される外気と熱交換し、冷却されて凝縮する。コンデンサ2から流出した冷媒は、レシ−バ3内で気相冷媒と液相冷媒とに分離されて、余剰冷媒は液相冷媒としてレシ−バ3内に蓄えられる。
【0043】
レシ−バ3から導出された液相冷媒は、膨張弁5で減圧されたのちエバポレータ6に流入する。そして、送風機6aで通風される空調用空気と熱交換し、空調用空気を冷却して冷媒は蒸発する。そして、空調用空気は室内に吹き出されて冷房を行うとともに、蒸発したガス冷媒は、コンプレッサ1に再び吸入されて循環する。
【0044】
次に、本実施形態での自己診断機能について説明する。図4は、自己診断機能と、それを用いた修理依頼の流れを示すフローチャートである。まず、空調装置の作動で不具合を生じた場合、ユーザーは操作パネル9に設けられている自己診断開始スイッチ9aを入れる(ステップS11)。
【0045】
これに対応して制御装置8は、以下のステップS12〜16における「自己診断」を自動機的に開始する。まず、可変制御弁154に与える制御電流の値を、複数段階の大きさ(本実施形態では、「高」、「中」、「低」の3段階)に可変して供給する(ステップS12、電流可変ステップ、電流可変手段)。
【0046】
そして、制御電流値が「高」、「中」、「低」の各段階において、低圧圧力センサ7で検知される低圧側圧力値を記憶する(ステップS13、低圧圧力検知ステップ、低圧圧力検知手段)。次に、ステップS12で供給した制御電流値と、ステップS13で検知された低圧側圧力値との関係が、図5に示すような、所定の特性曲線との対比から正常範囲内にあるか否かを判定する(ステップS14、正常判定ステップ、正常判定手段)。なお、図5は、可変制御弁154に流す制御電流と低圧側圧力との関係を示すグラフである。
【0047】
そして、制御電流と低圧側圧力との関係が正常でステップS14での判定結果がYESとなった場合は、操作パネル9の表示装置9bに「圧縮機:正常」と表示し(ステップS15)、制御電流と低圧側圧力との関係が異常でステップS14での判定結果がNOとなった場合は、操作パネル9の表示装置9bに「圧縮機:異常」と表示して(ステップS16)自己診断を終了する。
【0048】
ユーザーは、空調装置の自己診断が終了して、圧縮機が正常か否かの結果を見てからサービスコールを行う(ステップS17)。サービスコールを受けたサービスマンは、点検、修理を行うために、空調装置の設置現場に出向くが、自己診断の結果で「圧縮機:異常」と出ていた場合には、交換用のコンプレッサ1を持参して出向くようにするものである(ステップS18)。これにより、現場での迅速な点検および修理が可能となる。
【0049】
次に、本実施形態の特徴と、その効果について述べる。まず、コンプレッサ1の圧縮容量を可変制御する可変制御弁154に与える制御電流値を、複数段階の大きさに可変して供給する電流可変手段としてのステップS12と、段階毎での蒸気圧縮式冷凍サイクル内の低圧側圧力値を検知する低圧圧力検知手段としてのステップS13と、供給した制御電流値と検知された低圧側圧力値との関係が、所定の特性曲線との対比から正常範囲内にあるか否かを判定する正常判定手段としてのステップS14とを有している。
【0050】
そして、正常判定手段としてのステップS14で正常範囲外であると判定された場合は、コンプレッサ1が故障であると判定するようにしている。これによれば、蒸気圧縮式冷凍サイクルに組み込まれたコンプレッサ1が故障しているか否かを、簡単に判定することができる。
【0051】
また、自己診断開始スイッチ9aを備え、ユーザーが自己診断開始スイッチ9aを操作することで、上記各手段としてのステップS11、S13、S14によるコンプレッサ1が故障であるか否かの自己診断が実施されるようにしている。これによれば、コンプレッサ1が組み込まれた蒸気圧縮式の空調装置において不具合が発生した場合、サービスマンに設置現場まで来てもらって現場診断をしてもらうまで待たなくとも、ユーザーが自己診断開始スイッチ9aを操作することによって自己診断が実施され、コンプレッサ1が故障であるか否かの判定結果を得ることができる。
【0052】
また、表示装置9bを備え、上記各手段としてのステップS11、S13、S14によるコンプレッサ1が故障であるか否かの自己診断の結果を、ユーザーに表示するようにしている。これによれば、コンプレッサ1が故障であるか否かの自己診断を行った結果を、ユーザーに知らせることができる。
【0053】
また、蒸気圧縮式の空調装置において、上記の圧縮機の故障診断装置を備えている。これによれば、コンプレッサ1が組み込まれた蒸気圧縮式の空調装置において、例えば可変制御弁故障などによる不具合が発生した場合、ユーザーは、故障診断装置を作動させてコンプレッサ1が故障であるか否かを知ることができる。
【0054】
また、サービスマンは、サービルコールの際に、コンプレッサ1が故障であるか否かをユーザーに問い合わせることができる。その結果、コンプレッサ1が故障である場合、サービスマンは初動時に交換用のコンプレッサ1を持参して設置現場に出向くことができ、現場での迅速な点検および修理が可能となる。
【0055】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、上述の実施形態では、蒸気圧縮式の空調装置に圧縮機の故障診断装置を備えているが、可変容量式のコンプレッサを用いた蒸気圧縮式の冷凍装置であれば空調装置に限らず、例えば、冷凍/冷蔵/温蔵庫や冷/温水機などに適用することができる。
【0056】
また、上述の実施形態では、斜板式のコンプレッサ1において、ストローク可変による容量可変方式としているが、必要な能力に合わせて容量を可変させる機構を持ったコンプレッサであれば形式を限定するものではなく、ワッブル式のコンプレッサであっても良いし、気筒数可変の容量可変方式であっても良い。さらに、ベーン式やスクロール式などの回転式のコンプレッサを吸入ガスバイパス方式で容量可変式としたものであっても良い。
【0057】
また、冷凍サイクルは、上述の実施形態では、レシーバサイクルとしているが、アキュムレータサイクルであっても良い。また、コンデンサは、レシ−バから供給される液相冷媒を更に冷却して冷媒の過冷却度を高めるための過冷却器(サブク−ラ)を備えたコンデンサであっても良いし、凝縮器を成すコンデンサにレシ−バ部分とサブク−ラ部分とを一体に形成したサブクールコンデンサ(過冷却放熱器)であっても良く、形式を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態における蒸気圧縮式冷凍装置の構成模式図である。
【図2】図1の蒸気圧縮式冷凍装置における可変容量式のコンプレッサ1の構造例を示す断面図であり、最少容量運転時の状態を示す。
【図3】図2の可変容量式のコンプレッサ1での最大容量運転時の状態を示す断面図である。
【図4】本発明の自己診断機能と、それを用いた修理依頼の流れを示すフローチャートである。
【図5】可変制御弁154に流す制御電流と低圧側圧力との関係を示すグラフである。
【図6】従来の、現場診断の流れの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1…可変容量コンプレッサ(可変容量圧縮機)
7…低圧圧力センサ(低圧圧力検知手段)
9a…自己診断開始スイッチ(自己診断実行手段)
9b…表示装置(表示手段)
154…可変制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気圧縮式冷凍サイクルに組み込まれた可変容量圧縮機(1)の故障を診断する圧縮機の故障診断方法であり、
前記可変容量圧縮機(1)の圧縮容量を可変制御する可変制御弁(154)に与える制御電流値を、複数段階の大きさに可変して供給する電流可変ステップ(S12)と、
前記段階毎での前記蒸気圧縮式冷凍サイクル内の低圧側圧力値を検知する低圧圧力検知ステップ(S13)と、
供給した前記制御電流値と検知された前記低圧側圧力値との関係が、所定の特性曲線との対比から正常範囲内にあるか否かを判定する正常判定ステップ(S14)とを有し、
前記正常判定ステップ(S14)で正常範囲外であると判定された場合は、前記可変容量圧縮機(1)が故障であると判定することを特徴とする圧縮機の故障診断方法。
【請求項2】
蒸気圧縮式冷凍サイクルに組み込まれた可変容量圧縮機(1)の故障を診断する圧縮機の故障診断装置であり、
前記可変容量圧縮機(1)の圧縮容量を可変制御する可変制御弁(154)に与える制御電流値を、複数段階の大きさに可変して供給する電流可変手段(S12)と、
前記段階毎での前記蒸気圧縮式冷凍サイクル内の低圧側圧力値を検知する低圧圧力検知手段(7、S13)と、
供給した前記制御電流値と検知された前記低圧側圧力値との関係が、所定の特性曲線との対比から正常範囲内にあるか否かを判定する正常判定手段(S14)とを有し、
前記正常判定手段(S14)で正常範囲外であると判定された場合は、前記可変容量圧縮機(1)が故障であると判定することを特徴とする圧縮機の故障診断装置。
【請求項3】
自己診断実行手段(9a)を備え、ユーザーが前記自己診断実行手段(9a)を操作することで、前記各手段(S11、7、S13、S14)による前記可変容量圧縮機(1)が故障であるか否かの自己診断が実施されることを特徴とする請求項2に記載の圧縮機の故障診断装置。
【請求項4】
表示手段(9b)もしくは報知手段のいずれか、もしくはその両方を備え、前記各手段(S11、7、S13、S14)による前記可変容量圧縮機(1)が故障であるか否かの自己診断の結果を、ユーザーに表示もしくは報知のいずれか、もしくはその両方をすることを特徴とする請求項2または3に記載の圧縮機の故障診断装置。
【請求項5】
請求項2ないし4に記載の圧縮機の故障診断装置を備えることを特徴とする蒸気圧縮式冷凍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−185795(P2009−185795A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29844(P2008−29844)
【出願日】平成20年2月11日(2008.2.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】