説明

圧縮機用耐食性保護被覆

耐食性および耐摩耗性の多層被覆は、海上環境における圧縮機の作動を保護する。被覆は、熱溶射されたサーメット層と、有機物を主成分とするシーラント層とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に圧縮機に関する。特に本発明は耐摩耗性防食被覆に関する。
【背景技術】
【0002】
海上環境における圧縮機の防食は、深刻で重大な問題である。圧縮機は一般に炭素鋼や鋳鉄から製造され、特に海上環境における塩分を含む空気中で、さびや、その他の形態の腐食生成物の影響を非常に受けやすい。腐食によって圧縮機部材の構造上の完全性が低下し、高圧流体を収容する部材の破損によって人体に害が及ぶ可能性があり、また、損害や修理の費用が嵩む可能性がある。
【0003】
従来技術の海上環境における圧縮機用の防食被覆には、塗装、静電粉末被覆、あるいは火炎溶射や電気アーク溶射された金属被覆が含まれる。塗装用の表面調製には、洗浄と、その後のベースコート塗布と、その後のトップコート塗布とが含まれる。静電粉末被覆用の表面調製には、ショットブラスト、洗浄、リン酸処理、E−コート、および硬化が含まれる。塗装面や粉末被覆面の主な欠点は、被覆が軟弱であり、鋭利な物体の貫通を受けやすいことである。ピンホールですら腐食を開始させ、結果として貫通や部材の破損につながることがある。金属フィラーを含有する塗料も防食用に使用される。通常のフィラーは、亜鉛であるが、それというのも、亜鉛は、ガルバーニ電気の意味で鉄や鋼の犠牲になって、腐食領域の近傍において鉄や鋼が少しでも攻撃される前に亜鉛が腐食されるからである。
【0004】
火炎溶射または電気アーク溶射された金属被覆は、塗装被覆より大幅に有利である。アルミニウム被覆が好ましいが、それというのも、アルミニウムは、ガルバーニ電気の意味で鉄や鋼の犠牲になって、腐食領域の近傍において鉄や鋼が少しでも攻撃される前にアルミニウムが腐食されるからである。この方法では、アルミニウムは、表面に0.015インチ以下の厚さで火炎溶射され、その後、有機シールコートが施される。表面調製には、任意選択の化学洗浄と、その後のグリットブラストとが含まれる。粗面化されたブリットブラスト面によって、アルミニウム被覆の機械的付着が促進される。アルミニウム被覆が十分な厚さならば、表面は衝撃やひっかきから保護されるが、それというのも、アルミニウムは変形して表面に留まるからである。火炎溶射や電気アーク溶射されたアルミニウム被覆は通常多孔性なので、一般に有機シールコートが施される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧縮機では高温が問題となる。ある部材(例えば、圧縮機ヘッドや吐出シェル)は、300°Fを超える温度で作動する。有機被覆はこのような温度に耐える必要がある。
【0006】
火炎溶射やアーク溶射されたアルミニウム被覆によって海上環境における鋳鉄や鋼製の圧縮機部材は防食されるとはいえ、衝撃力や摩耗させる力が十分あれば、このような被覆は衝撃や摩耗によって貫通する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の例示的な実施例には、保護被覆を有する圧縮機と、腐食性の海上環境から圧縮機シェルを保護する方法とが含まれる。保護被覆は、圧縮機の外面にあるサーメット層と、このサーメット層上にある有機物を主成分とするシーラント層とを含む。方法においては、サーメット層が圧縮機の外面に施され、有機物を主成分とするシーラント層がサーメット層上に施される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】サーメット被覆を施す熱溶射ノズルを示す圧縮機本体の概略図。
【図2】多層防食被覆の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
金属被覆が、電気化学列において鉄または鋼よりアノディックである場合、この金属は腐食環境で、基体金属が腐食される前に最初に腐食される。すなわち、被覆は、基体金属の犠牲になる。アルミニウムおよび亜鉛は鉄および鋼に対する犠牲被覆の2つの例である。従来技術の犠牲被覆の例としては、亜鉛を含有する塗料や火炎溶射されたアルミニウムが挙げられる。被覆の一部が鋭利な物体による衝撃や摩耗によって除去されると、保護は失われて、基体金属はその領域で腐食することになる。海上環境における圧縮機の従来技術の防食被覆の耐摩耗性は、耐摩耗性が向上することで有利になるであろう。圧縮機部材の中には、ポリマー被覆に影響を及ぼす作動温度に到達するものもある。耐摩耗性が向上しかつ高温安定性を有する圧縮機用耐食性被覆は、本発明の基礎となっている。
【0010】
サーメットは、金属マトリックス中のセラミック粒子から形成された複合材料である。セラミックが構造に耐摩耗性を付与し、金属が延性を与える。サーメットの耐摩耗性および高温衝撃強さは一般に金属自体のものより優れている。サーメット被覆は、供給原料としてセラミックおよび金属粉末を用いて熱溶射することで施すことができる。サーメット被覆を施すのに火炎溶射、電気アーク溶射よびプラズマ溶射が使用可能である。海上環境における圧縮機用の防食被覆として使用される溶射サーメット被覆は、好ましくはプラズマ溶射で堆積されたアルミニウム/アルミニウム酸化物サーメットが好ましい。アルミニウムマトリックスが犠牲防食および耐衝撃性を付与し、アルミニウム酸化物が耐摩耗性および高温強度を付与する。他の金属/セラミックの組み合わせも使用可能である。実施例は、限定される訳ではないが、アルミニウムおよび/または亜鉛と組み合わされたアルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、またはアルミニウムケイ酸塩の組み合わせを含む。
【0011】
図1は、圧縮機シェル10および熱溶射ノズル40の概略図を示す。圧縮機シェル10は、円筒形本体20と、半球形頂部30とを備える。長方形形状部、配管、電子部品収納ケースなどを含むシェル10用の他の形状部を備えることも可能であるが、図には示されていない。熱溶射ノズル40は、被覆を施すプロセスにおいて圧縮機シェル10に熱溶射粉末50を導くように示されている。被覆は、多層被覆である。
【0012】
図2は、圧縮機シェル本体60上の多層防食被覆70の2−2線による断面の概略図である。防食被覆70は、第1の層80と、第2の層90と、第3の層100とを含む。第1の層80は、プラズマ溶射された金属/セラミックサーメットである。サーメット層80の厚さは、約0.005インチから約0.020インチであり、好ましくはこの層は、約0.015インチの厚さである。好ましくは、サーメット層80は、アルミニウム/アルミニウム酸化物サーメットである。
【0013】
サーメット層80には、シーラント層90が被覆されている。シーラント層90は、噴霧または刷毛塗りで施された、溶媒と他の無機材料とを含む有機物を主成分とする保護層とすることができるが、静電噴霧で施された有機物を主成分とする粉末層とすることもできる。好ましくは、シーラント層90は、静電熱硬化ポリエステル粉末層である。熱硬化ポリエステル粉末としては、限定される訳ではないが、トリグリシジルイソシアヌラート(triglycidyl isocyanurate)(TGIC)、ヒドロキシル−アルキルアミド、ジジクリダル(digyclidal)エポキシおよびメチル化TGICが挙げられる。特にトリグリシジルイソシアヌラート(TGIC)ポリエステル粉末被覆が好ましい。
【0014】
さらなる保護および/または化粧用外観のために任意選択のトップコート層100を含むことができる。トップコート層100は、ポリウレタンポリマー、ウレタンを主成分とするアクリル、エポキシポリミド、または他のポリマー被覆とすることができる。トップコート層100は、噴霧、刷毛塗り、または粉末被覆で施される。
【0015】
圧縮機シェル10は、被覆される前に、徹底的に清浄化し、脱脂する必要がある。工業用水性アルカリ洗浄溶液が使用可能である。圧縮機部材が鋳鉄ならば、被覆の付着を妨げることになる表面上の黒鉛を除去する付加的な表面調製が必要となり得る。多数の会社が鋳鉄表面から黒鉛を除去する清浄化技術を提供している。例えば、コレン(Kolene)電解質塩プロセスが工業上知られている。
【0016】
さらなる表面汚染物を除去し、新鮮な鋼または鉄を露出させるために、圧縮機シェルは、研磨用グリットブラストにより処理可能である。グリットブラストもまた、基体にサーメット被覆を機械的に固定するのに役立つ。グリットブラストは、SSPC SP5またはNACE1「ホワイトメタル」の表面仕上げ条件を満たす必要がある。好ましいグリットメディアは、約16〜30メッシュサイズのアルミニウム酸化物である。基体が、角張った形状のグリット粒子で形成された凹凸のある表面組織を有すると、サーメットの付着性が向上する。基体のグリットブラスト後の得られた表面仕上げは、ASTM D 4417の方法A、BまたはCで測定される約0.0015〜約0.0025インチの表面断面形状を有する、アンカーとなる歯状のパターンを有するのが好ましい。金属が施される表面の100%がサーメット被覆の堆積前に清浄化されるのが好ましい。
【0017】
グリットブラストを行わない圧縮機シェル10の領域は、マスクする必要がある。そのような部材の例としては、電気的接続部、のぞき窓、または内部結合用ねじ部が挙げられる。
【0018】
回避されなければ、サーメットの付着を妨げるであろうフラッシュさびや他の形態の表面汚染物の形成を回避するために、圧縮機シェル10は、湿気を避ける必要がある。溶射は、室温で実施可能であるが、溶射すべき部分を局所的に加熱するのが有利である。代替として、圧縮機シェル10は、プラズマ溶射前に表面上の水分を除去するために250°Fの乾燥器に配置することもできる。いずれにしろ、空気温度は、露点より最小でも約5°F高くなければならない。プラズマ溶射は、最大の被覆付着性を達成するために乾燥後4時間以内に実施する必要がある。鉄を含む基体の表面の性質は、溶射前にSSPC SP5「ホワイトメタル」であるのが好ましい。サーメット供給原料の最も好ましい組成は、純アルミニウム(99.9%の最低純度)粉末および純アルミニウム酸化物粉末である。サーメット被覆の組成は、約35〜約85体積パーセントのアルミニウムおよび約15〜約65体積パーセントのアルミニウム酸化物である。特に約75体積パーセントのアルミニウムおよび約25体積パーセントのアルミニウム酸化物が好ましい。サーメットの被覆厚さは、約0.005インチ〜約0.025インチであり、特に約0.015インチが好ましい。
【0019】
サーメット被覆は、粉末火炎溶射、ワイヤ火炎溶射、電気アークワイヤ溶射、またはプラズマアーク溶射されることができ、プラズマアーク溶射が好ましい方法である。プラズマアーク溶射は、熱−プラズマを使用しており、多目的熱溶射プロセスである。熱−プラズマすなわち高密度の高度にイオン化されたガスは、粉末すなわち実施的には金属合金またはセラミックを溶融させ、堆積させるのに十分高いエンタルピー密度を有する。DC(直流)熱−プラズマ溶射は、高速で粉末を溶射し、理論密度にほぼ等しくなる可能性のある高い被覆密度を達成する。プラズマ溶射は、細かい実質的に等軸の結晶粒を生じる。プラズマ火炎は、不活性ガス(通常はアルゴン)に少量の割合の水素などのエンタルピー増強二原子気体を加えた流れの一定の連続アーク放電によって維持される。供給原料粉末(直径約0.0005〜約0.003インチの粒径)が、不活性ガスによって新生のプラズマ火炎中に運ばれる。粒子は過剰に気化せずに移動中に溶融して、加速され、基体上に衝突し、そこで扁平化されて、高速凝固過程で得られるものと同様の冷却速度で凝固する。液滴の運動エネルギーは、サーメット粒子が圧縮機本体に衝突する際にサーメット粒子の変形および扁平化を生じさせ、鋼または鉄の表面にアルミニウム/アルミニウム酸化物サーメットの均一な層を形成する。この堆積過程の性質に起因して、少量の細孔がアルミニウムおよびアルミニウム酸化物の粒子間に形成し得る。相互に接続された細孔は、外部にある大気と基体とを接続するので許容できない。サーメット被覆は好ましくは、相互に接続された細孔を防止するために十分に厚い必要がある。
【0020】
細孔に対してさらに保証するために、シーラントコートが施される。プラズマ溶射されたアルミニウム/アルミニウム酸化物サーメットのための好ましい被覆は、トリグリシジルイソシアヌラート(TGIC)ポリエステル粉末被覆である。被覆は、静電粉末噴霧として施され、約305°F±5°Fの金属温度での約25分間から、約345°F±5°Fでの約15分間までにおいて、硬化される。好ましい硬化時間は、約325°Fの金属温度での約20分間である。シーラントコート厚さは、約0.005インチ〜約0.025インチとする必要がある。約0.015インチの厚さが好ましい。米国海軍は、MIL仕様MIL−PRF−24712により船舶部材用としてこの被覆を使用する。
【0021】
ポリウレタンポリマー、ウレタンを主成分とするアクリル、およびエポキシポリアミドなどのトップコートを、さらなる保護および化粧用外観のためにサーメット上のポリマー被覆に施すことができる。トップコートは、必要に応じて着色剤を含有できる。トップコートは、例えば約0.003〜約0.007インチと薄くする必要がある。
【0022】
本発明は、例示的な実施例を参照して説明したが、当業者は、本発明の範囲から逸脱せずにさまざまな変更が可能であり、また本発明の構成要素を均等物に置換可能であることを理解するであろう。また、本発明の実質的範囲から逸脱せずに本発明の教示内容に特定の状況または材料を適合させるために多くの変更を行うことができる。従って、本発明は、開示された特定の実施例に限定されず、添付の特許請求の範囲に含まれる全ての実施例を含むものであることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機の外面に保護被覆を有する圧縮機であって、保護被覆は、
圧縮機の外面にあるサーメット層と、
サーメット層の上にある有機物を主成分とするシーラント層と、
を含むことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
サーメット層は、プラズマ溶射層であることを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項3】
サーメット層は、アルミニウムと、アルミニウム酸化物とから成ることを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項4】
サーメット層は、約35〜約85体積%のアルミニウムと、約15〜約65体積%のアルミニウム酸化物とから成ることを特徴とする請求項3記載の圧縮機。
【請求項5】
サーメット層は、約0.005〜約0.025インチの厚さを有することを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項6】
サーメット層は、約0.015インチの厚さを有することを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項7】
有機物を主成分とするシーラント層は、トリグリシジルイソシアヌラートポリエステル粉末被覆から成ることを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項8】
トリグリシジルイソシアヌラートポリエステル粉末被覆は、約0.005〜約0.025インチの厚さを有することを特徴とする請求項7記載の圧縮機。
【請求項9】
トリグリシジルイソシアヌラートポリエステル粉末被覆は、約305°F±10°F〜約345°F±10°Fの硬化温度を有することを特徴とする請求項7記載の圧縮機。
【請求項10】
有機物を主成分とする表面層の上に有機物を主成分とするトップコートをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項11】
有機物を主成分とするトップコートは、ポリウレタンポリマー、ウレタンを主成分とするアクリル、またはエポキシポリイミドであることを特徴とする請求項10記載の圧縮機。
【請求項12】
腐食性の海上環境から圧縮機シェルを保護する方法であって、
圧縮機の外面にサーメット層を施し、
サーメット層の上に有機物を主成分とするシーラント層を施す、
ことを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
サーメット層を施すことは、プラズマ溶射によることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
サーメット層は、粉末プラズマ溶射層であることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
サーメット層は、アルミニウムと、アルミニウム酸化物とから成ることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項16】
サーメット層は、約35〜約85体積%のアルミニウムと、約15〜約65体積%のアルミニウム酸化物とから成ることを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
サーメット層は、約0.005〜約0.020インチの厚さを有することを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項18】
有機物を主成分とするシーラント層は、トリグリシジルイソシアヌラートポリエステル粉末被覆から成ることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項19】
約305°F±10°F〜約345°F±10°Fにおいて約5〜約20分間、トリグリシジルイソシアヌラートポリエステル粉末被覆を硬化させることをさらに含むことを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
有機物を主成分とするシーラント層の上に有機物を主成分とするトップコートを施すことをさらに含むことを特徴とする請求項12記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−509342(P2011−509342A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539395(P2010−539395)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/025928
【国際公開番号】WO2009/078842
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(591003493)キャリア コーポレイション (161)
【氏名又は名称原語表記】CARRIER CORPORATION
【Fターム(参考)】