説明

圧縮機

【課題】振動が小さく、生産性の高い圧縮機を提供する。
【解決手段】薄板で形成されたバランスウエイト113の固定孔に板厚よりも高い円筒部122を形成したもので、円筒部122によりシャフト108の偏心部への固定トルクを維持しつつ、バランスウエイト113の板厚を薄くして本体部の重量を低減することで偏心重量を低減し、バランスウエイト113の大型化を抑制するとともに、バランスウエイト113の回転モーメントを低減することができるため、圧縮機の停止時などにバランスウエイト113がずれることを防止することができ、振動が小さく小型で安価な圧縮機を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気冷蔵庫、エアーコンディショナー、冷凍冷蔵装置等の冷凍サイクルに接続される圧縮機の低振動化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅事情による要求から家庭用冷蔵庫は、ますます低振動化への動きが高まっている。そういった中、圧縮機の主な振動源であるピストンと釣り合いを取るためにバランスウエイトを用いるという方法は、振動を低減する要素技術として有効である。
【0003】
従来の圧縮機としては、外形が略円弧状であるバランスウエイトをシャフトに備える事によって、圧縮機構部の不釣り合い力を調整するようなものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
以下、図面を参照しながら上記従来技術の圧縮機について説明する。
【0005】
図7は従来の圧縮機の縦断面図であり、図8は従来のバランスウエイトの構成図である。
【0006】
図7および図8において、密閉容器1内には、冷媒ガス2が充填されており、固定子3と回転子4からなる電動要素5と、電動要素5によって駆動される圧縮要素6がサスペンションスプリング7によって弾性的に収容されている。
【0007】
シャフト8は、回転子4に圧入固定した主軸部9と、主軸部9に対して偏心して形成した偏心部10を有し、ブロック14は略円筒形のシリンダー15を有し、ピストン16はシリンダー15に往復摺動自在に挿入されており、連結手段17によって偏心部10と連結されている。
【0008】
シャフト8は主軸部9と偏心部10を備え、偏心部10の上方には、偏心部10の外径よりも小さい段差部11が形成されており、段差部11には、内径が段差部11の外径よりも小さく略円弧状のバランスウエイト13が圧入固定されている。
【0009】
バランスウエイト13は、一枚の板体をプレスし、略環状の本体部18とウエイト部19を同時に成形し、ウエイト部19は折り曲げられて重ねられ、重なり部分をかしめて接合されている。そして、本体部18の固定孔20がシャフト8の段差部11に圧入固定されている。
【0010】
以上のように構成された従来の圧縮機について、以下その動作を説明する。
【0011】
電動要素5の回転子4はシャフト8を回転させ、偏心部10の回転運動が連結手段17を介してピストン16に伝えられることで、ピストン16はシリンダー15内を往復運動する。それにより冷媒ガス2は、冷却システム(図示せず)からシリンダー15へ吸入されて圧縮された後、再び冷却システムへと吐き出される。
【0012】
この圧縮作用を行う際、ピストン16が往復運動することにより、不平衡力である往復動慣性力が生じる。この往復動慣性力を、ピストン16と逆位相となるようにバランスウエイト13を設けることで釣り合わせ、水平方向におけるピストン16の往復動慣性力を相殺することで振動を減少させている。
【特許文献1】特開2002−70740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来の構成では、バランスウエイト本体部をシャフトの偏心部に圧入固定していたため、固定力を得るのに必要な圧入長さを確保する必要があり、バランスウエイトの板厚を厚くする必要があった。そのため、偏心部の重量に加えてバランスウエイトの本体部の重量が偏心重量として付加され、その分偏心重量が重くなっていた。
【0014】
ところが、偏心重量が重くなると、シャフト偏心部とバランスウエイトの偏心重量の総和の不平衡力と釣り合わせるために、バランスウエイトのウエイト部の重量が増大し大型化し、圧縮機が急停止したときなどは、バランスウエイトの回転モーメントが大きいために、シャフトの偏心部に対してバランスウエイトがずれて振動が増加してしまう可能性があった。
【0015】
また、偏心重量を軽くするためにバランスウエイト13の板厚を薄くすると、シャフトにバランスウエイトを固定する力(固定トルク)が小さくなり、圧縮機が急停止したときなどは、シャフトの偏心部に対してバランスウエイトが回転して固定位置がずれたり、圧縮機の運転中においても、バランスウエイトが回転して固定位置がずれたりする可能性があった。
【0016】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、偏心重量を低減し、小型化と低振動化を実現した圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記従来の課題を解決するために、本発明の圧縮機は、バランスウエイトはウエイト部と固定部が薄板で一体に形成された本体部を有するとともに、固定部に、偏心部に嵌入される円筒部を突設したもので、偏心部への固定トルクを維持しつつ、バランスウエイトの固定部の重量を低減することで偏心重量を低減し、バランスウエイトの大型化を抑制するとともに、バランスウエイトの回転モーメントを低減することができるという作用を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の圧縮機は、偏心部への固定トルクを維持しつつ、バランスウエイトの固定部の重量を低減することで偏心重量を低減し、バランスウエイトの大型化を抑制するとともに、バランスウエイトの回転モーメントを低減することができるため、圧縮機の運転時や停止時にバランスウエイトがずれることを防ぎ、振動が小さく小型で安価な圧縮機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の請求項1に記載の発明は、密閉容器内に、圧縮要素と電動要素を有し、前記圧縮要素は、主軸部及び偏心部を有するシャフトと、シリンダーを形成するブロックと、前記シリンダー内を往復動するピストンと、前記ピストンと前記偏心部とを連結する連結手段と、前記偏心部に固定されるバランスウエイトとを備え、前記バランスウエイトはウエイト部と固定部が薄板で一体に形成された本体部を有するとともに、前記固定部に、前記偏心部に嵌入される円筒部を突設したもので、バランスウエイトの円筒部によりシャフト偏心部への固定トルクを維持しつつ、バランスウエイトの板厚を薄くして本体部の重量を低減することで偏心重量を低減し、バランスウエイトの大型化を抑制するとともに、バランスウエイトの回転モーメントを低減することができるため、圧縮機の停止時などにバランスウエイトがずれることを防止することができ、振動が小さく小型で安価な圧縮機を提供することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、円筒部はバーリング加工で形成されたもので、バランスウエイトを薄板で形成する際に、同時に円筒部を形成することができ、請求項1に記載の発明の効果に加えて、バランスウエイトの製造が容易となり、さらに生産性が高く安価な圧縮機を提供することができる。
【0021】
請求項3に記載の圧縮機は、請求項1に記載の発明において、ウエイト部にカウンタウエイトが付加されたもので、圧縮機によって異なる不平衡力を相殺するために、圧縮機の不平衡力と釣り合うバランスウエイト重量となるようにカウンタウエイトを付加して調整すれば良いため、請求項1に記載の発明の効果に加えて、圧縮機毎に対応したバランスウエイトの製造が容易となり、生産性が高く安価な圧縮機を提供することができる。
【0022】
請求項4に記載の圧縮機は、請求項1または2に記載の発明において、円筒部の内径に突起部を凸設するとともに、偏心部の内径に前記突起部に対応する切り欠き部が凹設されたもので、極端な高速運転からの急停止や、何らかの要因でバランスウエイトを偏心部に固定する固定トルクが低下した場合においても、バランスウエイトの突起部がシャフト偏心部の切り欠き部に常に係止されているため、確実にバランスウエイトがずれることを防止することができ、請求項1または2に記載の発明の効果に加えて、さらに振動が小さく安価な圧縮機を提供することができる。
【0023】
請求項5に記載の圧縮機は、請求項1に記載の発明において、本体部の外周部にリブが形成されたもので、薄板が撓んだり反り返ったりすることを抑制できるため、カウンタウエイトの重力方向の重心位置がずれることを防止することができ、請求項1に記載の発明の効果に加えて、カウンタウエイトの重心位置のずれによる振動増加を防止し、さらに振動を低減することができる。
【0024】
請求項6に記載の圧縮機は、請求項1に記載の発明において、偏心部へのバランスウエイトの嵌入方向は、円筒部が突設した方向と一致するもので、バランスウエイトの下端面が重力方向上方となりピストンとの距離が遠くなるため、ピストン径が大きくてもバランスウエイトの固定位置を上方に変える必要が無くなるとともに、バランスウエイトが撓んでもピストンとの接触を防止することができるので、請求項1に記載の発明の効果に加えて、さらに小型で信頼性の高い圧縮機を提供することができる。
【0025】
請求項7に記載の圧縮機は、請求項1に記載の発明において、円筒部は偏心部に焼き嵌めまたは溶接されているもので、固定部を偏心部に挿入する際に、バランスウエイトの円筒部と偏心部とにクリアランスがあるため、挿入作業時に負荷が掛かることがないため、請求項1に記載の発明の効果に加えて、挿入作業が容易となり、さらに作業性の高めることができる。
【0026】
請求項8に記載の圧縮機は、請求項1に記載の発明において、バランスウエイトは熱間圧延鋼板、または冷間圧延鋼板であり、バランスウエイトを厚みのばらつきの少ない鉄板材にて成形するため、バランスウエイト自体の重量ばらつきを低減できることから、請求項1に記載の発明の効果に加えて、さらに生産性が高く、振動ばらつきが少ない圧縮機を提供することができる。
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0028】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における圧縮機の縦断面図、図2は同実施の形態における要部組み立て図、図3は同実施の形態におけるバランスウエイトの構成図である。
【0029】
図1から図3において、密閉容器101内には、冷媒ガス102が充填されており、固定子103と回転子104からなる電動要素105と、電動要素105によって駆動される圧縮要素106とが、複数のサスペンションスプリング107によって弾性的に収容されている。
【0030】
ブロック115は、略円筒形のシリンダー116を形成しており、シリンダー116にはピストン117が往復摺動自在に挿入されている。ピストン117は連結手段118によってシャフト108の偏心部110と連結されている。
【0031】
シャフト108は、回転子104に圧入もしくは焼嵌め固定した主軸部109と、主軸部109に対して偏心して形成した偏心部110を有している。シャフト108の偏心部110の上方には、バランスウエイト113の固定孔120が挿入固定される段差部111が形成されており、段差部111の外径は偏心部110よりも小さい。
【0032】
また、段差部111の上部には、後述するバランスウエイト113の突起部127が嵌め合う切り欠き部128を備えている。
【0033】
バランスウエイト113は、ウエイト部126と固定部である固定孔120が薄板で一体に形成された本体部123を備えている。さらに、偏心部110の段差部111に嵌入される固定孔120を形成する円筒部122がバーリング加工により突設され、円筒部122の内径に突出した突起部127を突設している。この突起部127に対応する切り欠き部128が凹設されており、嵌め合っている。
【0034】
ここで、バーリング加工とは、薄板に予め下孔を開け、プレス加工によって、薄板と垂直に円筒形状を立ち上げる工法のことである。
【0035】
また、本体部123のウエイト部126には、カウンタウエイト129がプロジェクション溶接によって付加されている。
【0036】
バランスウエイト113は、固定孔120を形成している円筒部122で偏心部に焼き嵌めされており、バランスウエイト113は熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板である。
【0037】
以上のように構成された圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0038】
電動要素105の回転子104はシャフト108を回転させ、偏心部110の回転運動が連結手段118を介してピストン117に伝えられることで、ピストン117はシリンダー116内を往復運動する。それにより冷媒ガス102は、冷却システム(図示せず)からシリンダー116へ吸入・圧縮された後、再び冷却システムへと吐き出される。
【0039】
上記圧縮作用を行う際、ピストン117が往復運動を行うことによる不平衡力が生じるが、バランスウエイト113によって水平方向におけるピストン117の往復動慣性力を相殺することで振動を減少させている。
【0040】
次に、バランスウエイト113とシャフト108の偏心部110との固定について説明する。
【0041】
バランスウエイト113は、偏心部110の段差部111に挿入される前に、高周波誘導加熱などにより800℃程度に加熱され、加熱により固定孔120の内径が熱膨張して段差部111の外径よりも大きく偏心部110の外径より小さい寸法となった後に、バランスウエイト113の下端面が偏心部110の上部に当接する位置まで挿入される。即ち、固定孔120の内径は偏心部110の外径よりも小さい寸法であるため、偏心部110の上部の位置で固定孔120は挿入されなくなる。
【0042】
挿入後、エアブラシ等を用いてバランスウエイト113を冷却することにより、バランスウエイト113の寸法が元に戻る。加熱前のバランスウエイト113の内径は段差部111の外径よりも小さいため、冷却とともにバランスウエイト113の内径は半径方向に縮小して締まり、その結果、段差部111に焼嵌め固定される。
【0043】
このとき、バランスウエイト113の固定孔120に形成された円筒部122は板厚Tよりも挿入方向の距離が長いため、バランスウエイト113に1.5〜2.0mm程度の薄板を用いても、段差部111との接触面積を十分に確保することができ、固定トルクが大幅に増大する。
【0044】
ここで言う固定トルクとは、バランスウエイト113をシャフト108の段差部111に固定する固定力である。そして、特に、段差部111に対してバランスウエイト113の回転を防止する必要があるため、バランスウエイト113をシャフト108の段差部111に固定するとともに、回転ずれを防止するための固定力である。
【0045】
例えば、固定孔120をプレス打ち抜きなどで形成した場合、固定孔120の内径部の一部が破断面となって、接触面積が十分確保できないため、固定トルクが安定しないことがあるが、バーリング加工により、破断面を形成することなく固定孔120に円筒部122を形成することができ、固定トルクが安定して増大する。
【0046】
以上のように構成されたバランスウエイト113について、以下その動作、作用を説明する。
【0047】
ピストン117が往復運動し生じる不平衡力である往復動慣性力を、ピストン117と逆位相となるようにバランスウエイト113を設けることで釣り合わせ、水平方向におけるピストン117の往復動慣性力を相殺することで振動を減少させている。
【0048】
しかしながら、バランスウエイト113の薄板が厚くて、シャフト108の回転軸に対して偏心している偏心重量が大きいと、偏心部110の重量に加えてバランスウエイト113の本体部123の重量の一部が偏心重量として付加され、偏心重量が必要以上に重くなる。
【0049】
そのため、偏心部110とバランスウエイト113の本体部123の偏心重量の総和の不平衡力と釣り合わせるために、バランスウエイト113のウエイト部126の重量が増大し大型化するとともに、圧縮機が急停止したときなどは、バランスウエイト113のウエイト部126の回転モーメント140が大きいために、偏心部110に対してバランスウエイト113が回転し、バランスウエイト113が組み立て時に固定されていた所定の位置からずれることがある。
【0050】
しかし、バランスウエイト113の本体部123は薄板で形成することにより、偏心重量を少なくすることができ、そのため、ウエイト部126の重量を低減でき、圧縮機の急停止時にバランスウエイト113のウエイト部126の回転モーメント140を低減できるので、組み立て時の所定の位置に強固に保持することができる。
【0051】
そのため、圧縮機の停止時などにバランスウエイトがずれることを防止することができ、振動が小さな圧縮機とすることができる。
【0052】
さらに、薄板を採用することにより、偏心重量を低減できることから、偏心重量の総和の不平衡力と釣り合わせるためのウエイト部126の重量を低減できる。つまり、ウエイト部126を小さくし回転半径を小さくできることから、バランスウエイト113とブロック115の隙間が大きくなり、得られた隙間分だけブロックを小型化でき、圧縮機を小型化することができる。さらに、バランスウエイト113、ブロック115及び密閉容器101の材料の使用量も低減できるため、より安価な圧縮機とすることができる。
【0053】
また、バランスウエイト113の円筒部122はバーリング加工で形成されるとともに、円筒部122の内径側へ突出した突起部127も同時に形成される。そして、偏心部110には、突起部127に対応する切り欠き部128を備えているため、停電などが原因で極端な高速運転から急停止したり、段差部111の強度不足や加工不良によりバランスウエイト113の段差部111に対する固定トルクが低下したりした場合に、バランスウエイト113が偏心部110を中心に回転方向にずれようとしても、突起部127と切り欠き部128が係止されているため、バランスウエイト113は所定の位置からずれることを防ぐことができる。
【0054】
そのため、バランスウエイト113がずれるによる振動の増大を防止し、振動が小さく安価な圧縮機とすることができる。
【0055】
さらに、偏心部110の中心軸に向かった方向に突起部127ができるようにプレス加工で打ち抜いた後に円筒部122のバーリング加工を行うため、バーリング加工直後は突起部127が円筒部122の中心軸方向とは平行に立っており、バーリング加工後に突起部127を円筒部122の中心軸方向に90°折り曲げするだけで突起部127を形成することができるため、加工が容易であり生産性を高めることができる。
【0056】
さらに、圧縮機は、バランスウエイト113の重量を変更し、圧縮機の不平衡力に応じた慣性モーメントを与える必要があるが、バランスウエイト113は本体部123にカウンタウエイト129をプロジェクション溶接などで付加するだけで、圧縮機の不平衡力に応じた慣性モーメントを与えることができ、圧縮機の不平衡力に応じて専用の部品を生産する必要がなく、さらに生産性を高めることができる。
【0057】
なお、カウンタウエイト129の溶接以外の取り付け方法として、カシメピン等を用いて本体部とカウンタウエイト129を貫く孔にカシメピンを通し、ピンをかしめるといった方法でも同様に生産性を高めることができる。
【0058】
また、電動要素105や圧縮要素106は、密閉容器101内でサスペンションスプリング107に弾性的に支えられていることから、回転方向の揺動運動以外にも、サスペンションスプリング107を基点として揺動運動をおこなう。こういった揺動運動した際にも、本体部123の外周部130に、外周部130を折り曲げて形成したリブ133が形成されているため、バランスウエイト113の薄板が撓んだり反り返ったりすることを抑制できるため、バランスウエイト113の重心位置のずれによる振動増加を防止し、さらに振動を低減することができる。
【0059】
また、バランスウエイト113の段差部111への固定方法として、段差部111と円筒部122とを締まり嵌めの寸法としておき、焼嵌め固定しているため、円筒部122を段差部111に挿入する作業時に負荷が掛かることがないため挿入作業が容易となり、さらに作業性を高めることができる。
【0060】
また、バランスウエイト113の段差部111への固定方法として、段差部111と円筒部122とを遊嵌できる寸法としておき、円筒部122を段差部111に挿入した後に溶接固定してもよく、溶接固定することにより、さらに強固に所定の位置に保持することが可能となるとともに、焼嵌め固定と同様に、円筒部122を段差部111に挿入する作業時に負荷が掛かることがないため挿入作業が容易となる。
【0061】
また、バランスウエイト113の段差部111への固定方法として、段差部111に円筒部122を圧入固定してもよく、段差部111と円筒部122とを強固に所定の位置に保持することができる。
【0062】
さらに、バランスウエイト113は熱間圧延鋼板もしくは冷間圧延鋼板で形成されているが、熱間圧延鋼板もしくは冷間圧延鋼板は板厚のばらつきが少ないため、バランスウエイト113自体の質量のばらつきが小さく、安定した振動低減の効果が得られる。また、固定孔120の円筒部122を容易に形成することができ、安価で加工性に優れる。
【0063】
(実施の形態2)
図4は本発明の実施の形態2における圧縮機の縦断面図、図5は同実施の形態における要部組み立て図、図6は同実施の形態におけるバランスウエイトの構成図である。
【0064】
図4から図6において、密閉容器201内には、冷媒ガス202が充填されており、固定子203と回転子204からなる電動要素205と、電動要素205によって駆動される圧縮要素206とが、複数のサスペンションスプリング207によって弾性的に収容されている。
【0065】
ブロック215は、略円筒形のシリンダー216を形成しており、シリンダー216にはピストン217が往復摺動自在に挿入されている。ピストン217は連結手段218によってシャフト208の偏心部210と連結されている。
【0066】
シャフト208は、回転子204に圧入もしくは焼嵌め固定した主軸部209と、主軸部209に対して偏心して形成した偏心部210を有している。シャフト208の偏心部210の上方には、バランスウエイト213の固定孔220が挿入固定される段差部211が形成されており、段差部211の外径は偏心部210よりも小さい。
【0067】
バランスウエイト213は、ウエイト部226と固定孔220が薄板で一体に形成された本体部223を備えている。さらに、偏心部210の段差部211に嵌入される円筒部222がバーリング加工により突設されている。
【0068】
ここで、バーリング加工とは、薄板に予め下孔を開け、プレス加工によって、薄板と垂直に円筒形状を立ち上げる工法のことである。
【0069】
また、本体部223のウエイト部226には、カウンタウエイト229がプロジェクション溶接によって円筒部222の突設方向とは反対方向に付加され、シャフト208の偏心部210へのバランスウエイト213の嵌入方向は、円筒部222が突設した方向と一致している。
【0070】
バランスウエイト213は固定孔220で偏心部に焼き嵌めされており、バランスウエイト213は熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板である。
【0071】
以上のように構成された圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0072】
電動要素205の回転子204はシャフト208を回転させ、偏心部210の回転運動が連結手段218を介してピストン217に伝えられることで、ピストン217はシリンダー216内を往復運動する。それにより冷媒ガス202は、冷却システム(図示せず)からシリンダー216へ吸入・圧縮された後、再び冷却システムへと吐き出される。
【0073】
上記圧縮作用を行う際、ピストン217が往復運動を行うことによる不平衡力が生じるが、バランスウエイト213によって水平方向におけるピストン217の往復動慣性力を相殺することで振動を減少させている。
【0074】
次に、バランスウエイト213とシャフト208の偏心部210との固定について説明する。
【0075】
バランスウエイト213は、偏心部210の段差部211に挿入される前に、高周波誘導加熱などにより800℃程度に加熱され、加熱により固定部である固定孔220の内径が熱膨張して段差部211の外径よりも大きく偏心部210の外径より小さい寸法となった後に、段差部211へのバランスウエイト213の嵌入方向を、円筒部222が突設した方向と一致させて嵌入させ、円筒部の端面227が偏心部210の上部に当接する位置まで挿入される。即ち、固定孔220の内径は偏心部210の外径よりも小さい寸法であるため、偏心部210の上部の位置で固定孔220は挿入されなくなる。
【0076】
挿入後、エアブラシ等を用いてバランスウエイト213を冷却することにより、バランスウエイト213の寸法が元に戻る。加熱前のバランスウエイト213の内径は段差部211の外径よりも小さいため、冷却とともにバランスウエイト213の内径は半径方向に縮小して締まり、その結果、段差部211に焼嵌め固定される。
【0077】
このとき、バランスウエイト213の固定孔220に形成された円筒部222は板厚Tよりも挿入方向の距離が長いため、バランスウエイト213に1.5〜2.0mm程度の薄板を用いても、段差部211との接触面積を十分に確保することができ、固定トルクが大幅に増大する。
【0078】
ここで言う固定トルクとは、バランスウエイト213をシャフト208の段差部211に固定する固定力である。そして、特に、段差部211に対してバランスウエイト213の回転を防止する必要があるため、バランスウエイト213をシャフト208の段差部211に固定するとともに、回転ずれを防止するための固定力である。
【0079】
例えば、固定孔220をプレス打ち抜きなどで形成した場合、固定孔220の内径部の一部が破断面となって、接触面積が十分確保できないため、固定トルクが安定しないことがあるが、バーリング加工により、破断面を形成することなく固定孔220に円筒部122を形成することができ、固定トルクが安定して増大する。
【0080】
以上のように構成されたバランスウエイト213について、以下その動作、作用を説明する。
【0081】
ピストン217が往復運動し生じる不平衡力である往復動慣性力を、ピストン217と逆位相となるようにバランスウエイト213を設けることで釣り合わせ、水平方向におけるピストン217の往復動慣性力を相殺することで振動を減少させている。
【0082】
また、段差部211へのバランスウエイト213の嵌入方向を、円筒部222が突設した方向と一致させるとともに、カウンタウエイト229を円筒部222の突設方向とは反対側の本体部223に取り付けることにより、バランスウエイト213の下端面が重力方向上方となり、ピストン217との距離が遠くなる。
【0083】
そのため、圧縮機として大きな冷凍能力を得るためにピストン217の外径が大きくなった場合などに、段差部211の位置を変更し、バランスウエイト213の固定位置を上方に変更する必要がなくなるため、冷凍能力の異なる圧縮機を生産する場合などでも、バランスウエイト213を共用して使用することができ、安価で高い生産性を得ることができる。
【0084】
さらに、バランスウエイト213が撓んでもピストン217との距離が遠いため、ピストン217との接触を防止し、接触することによる騒音や運転停止を防ぐことができるため、低振動でかつ、信頼性の高い圧縮機とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明にかかる圧縮機は、高い生産性を確保しながら、振動が小さく安価な圧縮機が可能になるため、家庭用冷蔵庫を初めとして、除湿機やショーケース、自販機等の冷凍サイクルに用いる圧縮機に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の形態1における圧縮機の縦断面図
【図2】同実施の形態における要部組み立て図
【図3】同実施の形態におけるバランスウエイトの構成図
【図4】本発明の実施の形態2における圧縮機の縦断面図
【図5】同実施の形態における要部組み立て図
【図6】同実施の形態におけるバランスウエイトの構成図
【図7】従来の圧縮機の縦断面図
【図8】従来のバランスウエイトの構成図
【符号の説明】
【0087】
101,201 密閉容器
105,205 電動要素
106,206 圧縮要素
108,208 シャフト
109,209 主軸部
110,210 偏心部
113,213 バランスウエイト
115,215 ブロック
116,216 シリンダー
117,217 ピストン
118,218 連結手段
120,220 固定孔
122,222 円筒部
123,223 本体部
126,226 ウエイト部
127 突起部
128 切り欠き部
129,229 カウンタウエイト
133 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に、圧縮要素と電動要素を有し、前記圧縮要素は、主軸部及び偏心部を有するシャフトと、シリンダーを形成するブロックと、前記シリンダー内を往復動するピストンと、前記ピストンと前記偏心部とを連結する連結手段と、前記偏心部に固定されるバランスウエイトとを備え、前記バランスウエイトはウエイト部と固定部が薄板で一体に形成された本体部を有するとともに、前記固定部に、前記偏心部に嵌入される円筒部を突設した圧縮機。
【請求項2】
円筒部は、バーリング加工で形成された請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
ウエイト部にカウンタウエイトが付加された請求項1に記載の圧縮機。
【請求項4】
円筒部の内径に突起部を凸設するとともに、偏心部の内径に前記突起部に対応する切り欠き部が凹設された請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項5】
本体部の外周部にリブが形成された請求項1に記載の圧縮機。
【請求項6】
偏心部へのバランスウエイトの嵌入方向は、円筒部が突設した方向と一致する請求項1に記載の圧縮機。
【請求項7】
円筒部は偏心部に焼き嵌めまたは溶接されている請求項1に記載の圧縮機。
【請求項8】
バランスウエイトは熱間圧延鋼板、または冷間圧延鋼板である請求項1に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−121554(P2008−121554A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306364(P2006−306364)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】