説明

圧縮機

【課題】圧縮機において、内圧変化によるシール部材の脱落を防止し、前記シール部材によって潤滑性能を維持可能な構造を低コストで達成する。
【解決手段】スクロール型圧縮機10を構成するフロントハウジング12には、シャフト孔18に第1軸受60が設けられ、回転シャフト56を回転自在に支持している。この第1軸受60は、複数のボール82を有したボール軸受からなり、フロントハウジング12に固定される外輪80と、回転シャフト56の外周面に当接する内輪78との間には、第1及び第2シールリング84、86がそれぞれ設けられる。そして、外輪80の一側面側に配置された第1シールリング84が内輪78に対して非接触に設けられ、一方、外輪80の他側面側に配置された第2シールリング86が、前記内輪78に対して当接するように設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力により冷媒を内部で圧縮する車両空調用に用いられる圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、冷媒等の流体を圧縮する圧縮機には、ハウジングの内部に渦巻状の固定壁を有する固定スクロールと、渦巻状の可動壁が前記固定壁に噛み合わせるように配置された可動スクロールと、内燃機関の駆動力を利用して回転力の付勢される回転シャフトとを備え、径方向に偏心した前記回転シャフトのクランクピンが前記可動スクロールに係合され、該回転シャフトの回転力がクランクピンを介して可動スクロールへと伝達されることにより、該可動スクロールが旋回し、前記固定スクロールと可動スクロールとの間に形成される圧縮室内で流体が圧縮される。
【0003】
この圧縮機では、回転シャフトの外周面に摺接して前記流体及び潤滑剤等の漏出を防止するオイルシールと、該回転シャフトを回転自在に支持する軸受とを備え、前記軸受は、例えば、ハウジングに保持される環状の外輪と、前記回転シャフトの外周面に当接する環状の内輪と、前記外輪と内輪との間に設けられる複数のボールとからなるボール軸受が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−214339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような圧縮機に用いられる軸受では、例えば、ボール等の潤滑に用いられる潤滑剤が外部に漏出することを防止する目的で、外輪と内輪との間に、ボールを覆うように一対のシール部材が設けられている。この場合、ハウジング内において軸受とオイルシールとの間の空間が、該オイルシールとシール部材によって密閉されることとなる。
【0006】
しかしながら、ハウジング内の冷媒が、ごく微量ながらもオイルシールを通じて空間内へと浸入してしまい、例えば、回転シャフトの回転作用下に空間内が温度上昇し、前記空間内に浸入した冷媒が温度上昇に伴って膨張して圧力上昇した場合、高圧となった冷媒の圧力を外部へと逃がすことができず、軸受のシール部材に対して前記圧力が付与されることとなる。その結果、軸受のシール部材が押圧されて変形し、外輪及び内輪の間から脱落してしまうことがあり、前記シール部材が脱落した場合、軸受内のシール性を維持することができず、水分、塵埃等が外部から前記軸受内に進入して軸受による回転シャフトの支持機能が低下してしまうと共に、前記軸受内の潤滑剤が外部へと漏出して内燃機関から圧縮機への駆動力の伝達を制御するクラッチ部に付着し、該クラッチ部に滑りが生じる可能性がある。
【0007】
上述した特許文献1では、このような問題を解決するために回転シャフトやボス部にボス内部と外部とを連通する連通路を形成し、前記連通路を通じてボス内部の圧力が外部へと抜けるようにしている。
【0008】
しかしながら、ボス近傍に連通路を設けるためには機械加工を行う必要があり、またオイルシールや軸受のシール部材が傷つくのを防ぐために機械加工後のバリの処理が必要となるなど、製造工程及び製造コストの増加を招くこととなる。
【0009】
また、連通路は常に開口しているため外部からの水や塵埃等が前記連通路を通じてからハウジングの内部へ侵入する可能性があり、車室外に設けられる車両空調用の圧縮機に用いた場合はさらにその可能性が高まる。
【0010】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、内圧変化によるシール部材の脱落を防止し、前記シール部材によって潤滑性能を維持可能な構造を、低コストで達成することが可能な圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、ハウジングと、該ハウジング内に設けられ冷媒を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部に連結し該圧縮部を駆動させるための回転シャフトと、前記回転シャフトの一端に連結し、該回転シャフトへの動力を伝達又は遮断するクラッチ部と、前記ハウジングにおける前記クラッチ部側に設けられ、前記回転シャフトが挿入される孔部を内側に有したボス部と、前記ボス部の前記圧縮部側に設けられ、前記回転シャフトと接すると共に前記ハウジング内と前記ボス部とを遮蔽する封止部材と、前記ボス部の前記クラッチ部側端部に設けられ前記孔部に装着される外輪と、前記外輪の内周側に設けられ前記回転シャフトの外周面に当接する内輪と、前記外輪と内輪との間に設けられ、該外輪に対して前記内輪を回転自在に支持する複数のボールとを有し、前記回転シャフトを前記ハウジングに対して回転自在に保持する軸受とを有する圧縮機において、
前記軸受は、前記外輪と前記内輪の間に設けられ、前記封止部材側端面に装着される第1シール部材と、
前記外輪と前記内輪の間に設けられ、前記クラッチ部側端面に装着されると共に、前記ハウジングの外部に露出する第2シール部材と、
を有し、
前記第1シール部材は前記内輪に対して常に非接触であり、前記第2シール部材が前記内輪に対して接触していることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、回転シャフトを回転自在に支持する軸受を備えた圧縮機において、前記軸受の外輪と内輪との間には、該内輪に対して常に非接触であり封止部材側に設けられた第1シール部材と、前記内輪に対して接触しクラッチ部側に設けられた第2シール部材とを備えている。従って、回転シャフトの回転によって軸受と封止部材との間となるボス部内の空間の冷媒が加温され膨張して高圧となった場合でも、前記冷媒が、第1シール部材の内縁部と内輪との間を通じて内部へと流通し、前記第2シール部材をハウジングの外側に向かって押圧することにより、前記第2シール部材と前記内輪とが非接触となり、その隙間を通じて前記冷媒がハウジングの外部へと排出される。
【0013】
そのため、ボス部内における空間内の内圧が変化した場合でも、前記軸受の第1及び第2シール部材に対して過大な圧力が付与され内輪及び外輪から脱落してしまうことが阻止され、前記第1及び第2シール部材によって軸受内からの潤滑剤の漏出を確実に防止できる。その結果、簡素な構成且つ低コストで潤滑剤による軸受の潤滑性能を安定的に維持することが可能となり、前記回転シャフトを長期間にわたって確実且つ安定的に支持することができる。また、外部から軸受内への塵埃等の進入も阻止される。
【0014】
また、第2シール部材は、ボス部内の空間の圧力が一定以上になると内輪側がハウジングの外側に向かって傾動して非接触とするとよい。
【0015】
さらに、第2シール部材の内輪側が傾動する際のボス部内の圧力は、前記第2シール部材の弾性限界圧力の1/20〜1/5の範囲内に設定するとよい。
【0016】
さらにまた、回転シャフトには、軸受よりもクラッチ部側に第2シール部材と前記内輪の接触部に臨むように遮蔽部材を設けるとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0018】
すなわち、回転シャフトを回転自在に支持する軸受を備えた圧縮機において、前記軸受の外輪と内輪との間には、該内輪に対して常に非接触であり封止部材側に設けられた第1シール部材と、前記内輪に対して接触しクラッチ部側に設けられた第2シール部材とを備えることにより、例えば、回転シャフトの回転によって軸受と封止部材との間となるボス部内の空間の冷媒が加温され膨張して高圧となった場合でも、前記冷媒が、第1シール部材の内縁部と内輪との間を通じて内部へと流通し、前記第2シール部材をハウジングの外側に向かって押圧することにより、前記第2シール部材と前記内輪とが非接触となり、その隙間を通じて前記冷媒がハウジングの外部へと排出される。その結果、第1及び第2シール部材に対して過大な圧力が付与され内輪及び外輪から脱落してしまうことが阻止され、前記第1及び第2シール部材によって軸受内からの潤滑剤の漏出を確実に防止でき、簡素な構成且つ低コストで潤滑剤による軸受の潤滑性能を安定的に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る圧縮機の一例であるスクロール型圧縮機の一部省略全体断面図である。
【図2】図1の圧縮機における第1軸受近傍を示す拡大断面図である。
【図3】図2の第1軸受における第2シールリング近傍を示す拡大断面図であり、図3Aは、該第2シールリングが傾動する前の状態を示し、図3Bは、該第2シールリングが傾動した状態を示す拡大断面図である。
【図4】空間内における圧力変化と第2シールリングの変形量との関係を示す特性曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る圧縮機について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0021】
図1において、参照符号10は、本発明の実施の形態に係る圧縮機の一例であるスクロール型圧縮機を示す。
【0022】
このスクロール型圧縮機10は、図1に示されるように、蓋状に形成されたフロントハウジング(ハウジング)12と、カップ状に形成されたリアハウジング14とを含む。フロントハウジング12は、その一端部側に突出したボス部16を有し、前記ボス部16の内部には、軸線方向(矢印A、B方向)に沿って貫通したシャフト孔18が形成される。このシャフト孔18には、後述する回転シャフト56の軸部58が挿通される。
【0023】
一方、リアハウジング14の上部には、例えば、冷媒ガスをその内部へと導入する吸入口20が形成されている。この吸入口20は、リアハウジング14の外周面に開口すると共に、該リアハウジング14の中心側に向かって貫通して内部と連通している。また、リアハウジング14の上部には、スクロール型圧縮機10により冷媒ガスが圧縮された圧縮ガスを、例えば、図示しない冷媒循環系へと吐出する吐出口22が形成されている。なお、リアハウジング14には、スクロール型圧縮機10を、例えば、図示しないエンジンや外部機器等に取り付けるための複数の取付部24が設けられている。
【0024】
そして、リアハウジング14の内部には、その開口した一端部側(矢印A方向)から固定スクロール26と、該固定スクロール26に対して旋回する可動スクロール28が挿入される。
【0025】
固定スクロール26は、リアハウジング14に連結される外周縁部を含む固定側基板部30と、この固定側基板部30から可動スクロール28側(矢印A方向)へと渦巻状に立設される固定側渦巻壁32とを有し、前記リアハウジング14の内部において、前記固定側基板部30が他端部側(矢印B方向)となるように配置される。
【0026】
また、固定スクロール26の背面とリアハウジング14との間には、吐出口22に連通するガス吐出室34が形成されると共に、固定側基板部30の略中心部には、後述するガス圧縮室46から前記ガス吐出室34へと連通する圧縮ガス導出孔36が形成される。そして、固定側基板部30は、複数の締結ボルト38によってリアハウジング14と互いに連結される。
【0027】
さらに、固定側基板部30の背面には、圧縮ガス導出孔36を閉塞する一方、ガス圧縮室46において圧縮された圧縮ガスが所定圧となった際に、開動作してガス吐出室34へ該圧縮ガスを導出する吐出弁40が備えられている。
【0028】
可動スクロール28は、可動側基板部42と、該可動側基板部42に対して渦巻状に立設され、前記固定側渦巻壁32に噛み合う可動側渦巻壁44とを有する。
【0029】
そして、リアハウジング14内において、可動側渦巻壁44が固定スクロール26側(矢印B方向)となるように配置され、前記固定スクロール26を構成する固定側基板部30及び固定側渦巻壁32と、可動スクロール28を構成する可動側基板部42及び可動側渦巻壁44とによってガス圧縮室46が形成される。このガス圧縮室46を封止するために、固定側渦巻壁32及び可動側渦巻壁44の各端部には、それぞれ可動側基板部42及び固定側基板部30に摺接するようにシール部材48が装着されている。
【0030】
また、可動側基板部42には、その前面側に開口した円形凹部50が中央部に形成され、その内部には、旋回軸受52を介して回転可能にブッシュ54が嵌挿される。
【0031】
駆動部55は、回転シャフト56と、前記回転シャフト56の他端部に連結されたブッシュ54とを備え、前記回転シャフト56の一端側に形成された軸部58がフロントハウジング12のシャフト孔18に挿入される。シャフト孔18には、例えば、ボール軸受からなる第1軸受60が設けられ回転シャフト56の軸部58を回転自在に支持している。
【0032】
回転シャフト56は、一定径の軸部58と、該軸部58の端部に設けられ拡径した支持体62とを有し、前記軸部58がフロントハウジング12の一端側(矢印A方向)、前記支持体62が固定スクロール26側となる前記フロントハウジング12の他端側(矢印B方向)となるように配置される。なお、軸部58の一端部には、後述する電磁クラッチ(クラッチ部)114がボルト64を介して連結されている。
【0033】
支持体62の端面には、可動スクロール28側(矢印B方向)に突出し、前記支持体62の軸心に対して偏心したクランクピン66が設けられている。そして、クランクピン66は、ブッシュ54の軸心に対して偏心した偏心孔68に挿入され、その端部に係止リングが装着されることにより、前記ブッシュ54のクランクピン66に対する抜け止めがなされる。
【0034】
ブッシュ54は、偏心孔68にクランクピン66が挿入されることで回転シャフト56によってスイング運動可能に旋回され、これにより、可動スクロール28が旋回半径を可変させながら旋回する。なお、クランクピン66の根元近傍には、ブッシュ54を介してバランスウェイト72が装着されると共に、可動スクロール28の可動側基板部42とフロントハウジング12の内部に形成された支持面との間には、前記可動スクロール28を摺接面によって摺動可能に支持するスラストプレート74が設けられる。また、支持体62は、フロントハウジング12の内部に設けられた第2軸受76によって回転自在に支持される。
【0035】
第1軸受60は、図2、図3A及び図3Bに示されるように、軸部58の外周面に当接する環状の内輪78と、該内輪78の外周側に設けられシャフト孔18の内周面に当接する環状の外輪80と、前記内輪78と外輪80との間に設けられる複数のボール82と、前記内輪78及び外輪80の軸線方向に沿った一側面側(矢印B方向)、他側面側(矢印A方向)に設けられる第1及び第2シールリング84、86とを含む。なお、第1軸受60は、ハウジングの内部において、内輪78及び外輪80の一側面が固定スクロール26及び可動スクロール28側(矢印B方向)となるように配置される。
【0036】
内輪78は、断面平面状に形成された内周面が回転シャフト56の軸部58に当接すると共に、外周面の略中央には断面半円状に窪み、ボール82の一部が挿入される第1ボール溝88が形成される。また、内輪78の一側面及び他側面側には、外周面に対して所定深さで窪み、且つ、前記一側面及び他側面側に開口した一組の第1溝部90a、90bがそれぞれ形成される。第1溝部90a、90bには、第1及び第2シールリング84、86の内周部位が挿入される。
【0037】
外輪80は、例えば、断面平面状に形成された外周面がシャフト孔18の内周面に圧入されて固定され、フロントハウジング12に対して相対的に回転変位することがない。一方、外輪80の内周面には、略中央に断面半円状に窪んだ第2ボール溝92が形成され、内輪78の第1ボール溝88と対向するように配置されボール82の一部が挿入される。また、第2ボール溝92の両側部には、内周面に対して半径外方向に所定深さで窪み、且つ、前記一側面及び他側面側に開口した一組の第2溝部94a、94bがそれぞれ形成される。そして、第2溝部94a、94bには、第1及び第2シールリング84、86の外周部位が挿入される。
【0038】
ボール82は、第1ボール溝88と第2ボール溝92に跨るように設けられ、且つ、外輪80及び内輪78の周方向に沿って複数設けられる。
【0039】
第1シールリング(第1シール部材)84は、例えば、ゴム等の弾性材料から形成され、外周側に形成された外縁部96と、内周側に形成された内縁部98とを有し、前記外縁部96と内縁部98とが半径方向に延在する接合部100を介して接合されている。
【0040】
そして、外縁部96が、外輪80における一側面側(矢印B方向)の第2溝部94aに対して嵌合され固定されると共に、内縁部98が、第1溝部90a内に挿入され該第1溝部90aの底壁とは非接触となるように配置される。すなわち、第1シールリング84は、半径内側となる内縁部98が内輪78に対して若干だけ離間して配置される。
【0041】
また、接合部100は、ボール82の側部を覆うように第1溝部90aと第2溝部94aとの間に配置される。
【0042】
第2シールリング(第2シール部材)86は、第1シールリング84と同様に、例えば、ゴム等の弾性材料から形成され、外周側に形成された外縁部102と、内周側に形成された内縁部104とを有し、前記外縁部102と内縁部104とが半径方向に延在する接合部106を介して接合されている。
【0043】
そして、外縁部102が、外輪80における他側面側(矢印A方向)の第2溝部94bに対して嵌合され固定されると共に、内縁部104が、第1溝部90b内に挿入され該第1溝部90bの底壁に当接するように配置される。また、接合部106は、ボール82の側部を覆うように第1溝部90bと第2溝部94bとの間に配置される。
【0044】
このように、第1軸受60において、側方に開口した外輪80と内輪78との間が第1及び第2シールリング84、86によって覆われることにより、内部に設けられたボール82を潤滑するための潤滑剤(例えば、グリス)が外部に漏出することが防止される。
【0045】
また、第2シールリング86は、その内縁部104が内輪78に対して接触しており、外輪80に保持された外縁部102を支点として内縁部104側が接合部106を介して所定角度だけ傾動自在に設けられている。すなわち、第2シールリング86は、図3Bに示されるように、第1軸受60の内部から所定の圧力が付与されて初めて傾動動作する。
【0046】
一方、軸部58の外周側には、図1に示されるように、第1軸受60に対してブッシュ54側(矢印B方向)となる位置にガス吸入室107を封止するための封止部材108が嵌挿され、例えば、封止部材108はゴム等の弾性材料から環状に形成される。
【0047】
また、フロントハウジング12におけるボス部16の外周側には、第3軸受110を介してプーリ112が装着されている。このプーリ112には、図示しないエンジン等の回転駆動源からベルトを介して回転力が伝達され、電磁クラッチ114のオン/オフ動作によって前記回転シャフト56への前記回転力の伝達又は切り離しが行われることにより、前記回転シャフト56を回転させている。
【0048】
本発明の実施の形態に係る圧縮機として用いられるスクロール型圧縮機10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0049】
先ず、電磁クラッチ114の動作作用下に、回転シャフト56に回転力が伝達されると、支持体62が第1軸受60を介して回転し、これによって前記支持体62に固着されたクランクピン66が回転シャフト56の軸心に対して偏心した状態で旋回する。これにより、ブッシュ54が回転して、スラストプレート74に摺動可能に支持された可動スクロール28が固定スクロール26に対して旋回する。
【0050】
そして、吸入口20から供給された冷媒ガスが、リアハウジング14の内部に導入され、固定スクロール26における固定側渦巻壁32と可動スクロール28における可動側渦巻壁44との間で形成されるガス圧縮室46に導入され、該ガス圧縮室46が外周部位から徐々に中央部位へと進行していくのに伴って、シール部材48の封止作用下にガス吸入室107に導入された冷媒ガスが徐々に圧縮されていく。その後、圧縮された圧縮ガスが、圧縮ガス導出孔36からガス吐出室34へと導出され、吐出口22を介して図示しない冷媒循環系へと吐出される。
【0051】
この際、回転シャフト56の回転によって軸部58の外周側、且つ、第1軸受60と封止部材108との間の空間116に微量な冷媒ガスが浸入し、加温されることによって膨張して高圧となることがある。このような場合でも、前記冷媒ガスが、第1軸受60における第1シールリング84の内縁部98と内輪78との間に設けられた間隙を通じ、第1軸受60の内部へと流入し、前記内部から前記第2シールリング86側へと流通する。そして、膨張して高圧となった冷媒ガスによって第2シールリング86が外側(矢印A方向)へと押圧されることにより、図3Bに示されるように、外縁部102を支点として内縁部104が内輪78の壁面から離間するように傾動する。これにより、冷媒ガスが、内縁部104と内輪78との間を通じてシャフト孔18からフロントハウジング12の外部へと排出される。
【0052】
これにより、軸部58の外周側となる空間116に浸入した冷媒ガス等が高圧となった場合でも、第1シールリング84の内縁部98と内輪78との間の間隙を通じて第1軸受60の内部に流通させた後、該冷媒ガス等の圧力で第2シールリング86を傾動させて内輪78に当接した内縁部104を離間させることにより、前記冷媒ガス等を前記空間116内から外部へと排出し、前記空間116内の圧力上昇を回避することができる。なお、第2シールリング86は、例えば、空間116の内部圧力が該第2シールリング86の弾性限界圧力P(図4参照)の1/20〜1/5の範囲内で傾動動作するように材質、強度等が設定されている。詳細には、図4の第2シールリング86の変形量と空間116内の圧力との関係を示す特性曲線から諒解されるように、前記圧力が第2シールリング86の弾性限界圧力Pを超えると急激に前記第2シールリング86の変形量が大きくなる。そのため、弾性限界圧力Pに到達する前に第2シールリング86を傾動動作させ、該第2シールリング86の塑性変形及び該塑性変形に伴った破損を防止している。
【0053】
その結果、空間116内の圧力上昇に伴った押圧力による第1及び第2シールリング84、86の脱落が防止されるため、前記第1及び第2シールリング84、86によって第1軸受60の内部からの潤滑剤の漏出を確実に防止でき、前記潤滑剤による軸受の潤滑性能を安定的に維持することが可能となる。また、第1及び第2シールリング84、86の形状変更のみで潤滑剤の漏出を防止することができるため、構成の簡素化及び低コストでの実現が可能となる。
【0054】
さらに、第1及び第2シールリング84、86によって第1軸受60の外部から水分、塵埃等が進入することも確実に防止することができる。
【0055】
さらにまた、第1軸受60において第1及び第2シールリング84、86が安定的に保持されることによって該第1軸受60の耐久性向上を図ることができ、それに伴って、回転シャフト56を長期間にわたって確実に支持することができる。
【0056】
なお、本発明に係る圧縮機は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0057】
10…スクロール型圧縮機 12…フロントハウジング
14…リアハウジング 16…ボス部
18…シャフト孔 26…固定スクロール
28…可動スクロール 30…固定側基板部
32…固定側渦巻壁 42…可動側基板部
44…可動側渦巻壁 55…駆動部
56…回転シャフト 58…軸部
60…第1軸受 76…第2軸受
78…内輪 80…外輪
82…ボール 84…第1シールリング
86…第2シールリング 88…第1ボール溝
90a、90b…第1溝部 92…第2ボール溝
94a、94b…第2溝部 108…封止部材
110…第3軸受 116…空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、該ハウジング内に設けられ冷媒を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部に連結し該圧縮部を駆動させるための回転シャフトと、前記回転シャフトの一端に連結し、該回転シャフトへの動力を伝達又は遮断するクラッチ部と、前記ハウジングにおける前記クラッチ部側に設けられ、前記回転シャフトが挿入される孔部を内側に有したボス部と、前記ボス部の前記圧縮部側に設けられ、前記回転シャフトと接すると共に前記ハウジング内と前記ボス部とを遮蔽する封止部材と、前記ボス部の前記クラッチ部側端部に設けられ前記孔部に装着される外輪と、前記外輪の内周側に設けられ前記回転シャフトの外周面に当接する内輪と、前記外輪と内輪との間に設けられ、該外輪に対して前記内輪を回転自在に支持する複数のボールとを有し、前記回転シャフトを前記ハウジングに対して回転自在に保持する軸受とを有する圧縮機において、
前記軸受は、前記外輪と前記内輪の間に設けられ、前記封止部材側端面に装着される第1シール部材と、
前記外輪と前記内輪の間に設けられ、前記クラッチ部側端面に装着されると共に、前記ハウジングの外部に露出する第2シール部材と、
を有し、
前記第1シール部材は前記内輪に対して常に非接触であり、前記第2シール部材が前記内輪に対して接触していることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1記載の圧縮機において、
前記第2シール部材は、前記ボス部内の空間の圧力が一定以上になると前記内輪側が前記ハウジングの外側に向かって傾動して非接触となることを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項2記載の圧縮機において、
前記第2シール部材の前記内輪側が傾動する際の前記ボス部内の圧力は、前記第2シール部材の弾性限界圧力の1/20〜1/5の範囲内に設定されることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機において、
前記回転シャフトには、前記軸受よりも前記クラッチ部側に前記第2シール部材と前記内輪の接触部に臨むように遮蔽部材が設けられていることを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−207757(P2012−207757A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75187(P2011−75187)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】