説明

圧縮機

【課題】電磁音を低減させる。
【解決手段】圧縮機は、ステータと、ステータの内側に配置されたロータコア31とを備え、ロータコア31は、複数の薄板が積層されたものであって、磁石32が配置される孔31aをそれぞれ有し且つ周方向に設けられた複数の磁極51を有する。複数の薄板の少なくとも1つの薄板が、磁極51の外周面に対応した部分に設けられた切欠き52を有しており、この切欠き52の周方向幅が、径方向外側に向かって広くなると共に、平面視において、切欠き52の端部近くの端縁部分が端部における径方向に対して傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石が埋設されたロータを有する圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧縮機として、複数の永久磁石が埋設された筒状のロータと、ロータの外周側に隙間を空けて配置される筒状のステータとを有するモータを備えたものが知られている。永久磁石は、磁極面がロータの径方向外側と径方向内側を向くように配置されるため、ロータの外周部では、ロータの径方向の磁束が生じる。ステータに設けられたコイルに通電することにより発生する電磁力によって、ロータがステータに対して相対回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−200986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、永久磁石として、磁力の大きい例えば希土類磁石を用いた場合、ロータの外周部における径方向の磁束が増大するため、電磁力が大きくなる。その結果、ロータの振動により生じる電磁音が大きくなるという問題が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、電磁音を低減できる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る圧縮機は、ステータと、前記ステータの内側に配置されたロータとを備え、前記ロータは、複数の薄板が積層されたものであって、磁石が配置される孔をそれぞれ有し且つ周方向に設けられた複数の磁極を有し、前記複数の薄板の少なくとも1つの薄板が、前記磁極の外周面に対応した部分に設けられた切欠きを有しており、前記切欠きの周方向幅が、径方向外側に向かって広くなると共に、平面視において、前記切欠きの端部近くの端縁部分が当該端部における径方向に対して傾斜していることを特徴とする。
【0007】
この圧縮機では、磁極の外周面とステータとの間に、切欠きの端縁部分に沿った方向の磁束が発生する。切欠きの端縁部分は径方向に対して傾斜しているため、磁極とステータとの間に発生する径方向の磁束を低減することができる。そのため、電磁力を低減することができ、その結果、電磁音を低減できる。
【0008】
第2の発明に係る圧縮機は、第1の発明において、前記複数の薄板の少なくとも1つの薄板において、1つの磁極の外周面に設けられた前記切欠きが、平面視において当該磁極の周方向の中心線に対して対称であることを特徴とする。
【0009】
この圧縮機では、周方向に関してバランスよく、磁極とステータとの間に発生する径方向の磁束を低減できる。
【発明の効果】
【0010】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0011】
第1の発明では、磁極の外周面とステータとの間に、切欠きの端縁部分に沿った方向の磁束が発生する。切欠きの端縁部分は径方向に対して傾斜しているため、磁極とステータとの間に発生する径方向の磁束を低減することができる。そのため、電磁力を低減することができ、その結果、電磁音を低減できる。
【0012】
第2の発明では、周方向に関してバランスよく、磁極とステータとの間に発生する径方向の磁束を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る圧縮機の縦断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿ったロータの断面図である。
【図3】図1のA−A線に沿ったロータとステータの部分拡大断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る圧縮機のロータの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の圧縮機1は、冷媒を圧縮する圧縮機構6と、圧縮機構6の上方に配置され、シャフト7を介して圧縮機構6を駆動する駆動機構8と、これらを収容するケーシング2とを備える。圧縮機1は、吸入管3から導入された冷媒(例えばCO)を圧縮して排出管4から排出する。この圧縮機1は、例えば空調装置などの冷凍サイクルに組み込まれて使用され、図1に示す向き、即ち、シャフト7の向きが上下方向となる向きに設置される。
【0015】
ケーシング2の上部には、圧縮機構6で圧縮された冷媒を排出するための排出管4と、駆動機構8の後述するステータ20のコイル23に電流を供給するためのターミナル端子5が設けられている。なお、図1では、このコイル23とターミナル端子5とを接続する配線を省略している。また、ケーシング2の側部には、圧縮機1に冷媒を導入するための吸入管3が設けられている。ケーシング2内の底部には、圧縮機構6の摺動部の動作を滑らかにすると共に、圧縮機構6の隙間をシールするための潤滑油Lが貯留されている。
【0016】
圧縮機構6は、シリンダ11と、シリンダ11の内部に配置されるピストン12と、シリンダ11の上側に配置されるフロントヘッド13と、フロントヘッド13の上側に配置されるマフラー部材14と、シリンダ11の下側に配置されるリアヘッド15とを備えている。
【0017】
シリンダ11の中央部には、円形孔である圧縮室11aが形成されている。また、シリンダ11には、吸入管3から供給される冷媒を圧縮室11a内に冷媒を導入するための吸入路11bが形成されている。シャフト7は、圧縮室11a内の位置に偏心部7aを有している。偏心部7aは、略円柱状であって、その中心軸(以下、偏心軸という)がシャフト7の回転中心に対して偏心している。
【0018】
ピストン12は、シャフト7の偏心部7aに装着された円環状のローラと、ローラの外周面から径方向外側に突出し、シリンダ11に揺動可能に支持されたブレードとによって構成される。シャフト7を回転させると、ピストン12のローラは、その外周部を圧縮室11aの内周面に接触させながら、シャフト7の回転軸回りを回転移動する。これにより、ピストン12によって仕切られた圧縮室11a内の2つの空間の容積が変化するため、圧縮室11a内で冷媒が圧縮される。
【0019】
フロントヘッド13は、ケーシング2の内周面に固定されている。フロントヘッド13には、圧縮室11aで圧縮された冷媒を吐出するための吐出孔(図示省略)が形成されており、フロントヘッド13の上面には吐出孔の出口を開閉する弁機構(図示省略)が取り付けられている。また、フロントヘッド13の外周部には、冷媒および潤滑油を通過させるための油戻し孔(図示省略)が上下方向に貫通して形成されている。
【0020】
マフラー部材14は、弁機構を覆うようにフロントヘッド13の上面に取り付けられている。マフラー部材14とフロントヘッド13との間に形成されるマフラー空間によって、冷媒の吐出に伴う騒音が低減される。マフラー部材14には、マフラー空間内の冷媒を吐出する吐出口(図示省略)が形成されている。
【0021】
圧縮室11aの冷媒圧力が所定の圧力以上になると、フロントヘッド13に設けられた弁機構が開弁して、圧縮室11a内の冷媒と潤滑油が、マフラー空間に吐出される。そして、マフラー空間から吐出された冷媒は、ロータ30とステータ20との間のエアギャップ8a等を通って、駆動機構8の上方に移動する。
【0022】
駆動機構8は、ケーシング2の内周面に固定された略円筒状のステータ20と、このステータ20の径方向内側にエアギャップ8aを介して配置された円筒状のロータ30と、ロータ30の
下端面(偏心部7a側の端面)に配置された第1バランスウェイト41と、ロータ30の上端面(偏心部7aと反対側の端面)に配置された第2バランスウェイト42とを備える。
【0023】
バランスウェイト41、42は、偏心部7aとピストン12の偏心回転によりシャフト7およびロータ30が傾くのを防止するために設けられている。図2に示すように、バランスウェイト41、42は、略C字状の板状部材であって、その周方向角度は約120°である。ロータ30の下端面に配置される第1バランスウェイト41は、上下方向から見て、回転軸に対して偏心軸と反対側に配置されており、ロータ30の上端面に配置される第2バランスウェイト42は、上下方向から見て、回転軸に対して偏心軸と同じ側(回転軸に対して第1バランスウェイト41と反対側)に配置されている。
【0024】
ステータ20は、ケーシング2の内周面に固定された略円筒状のステータコア21と、ステータコア21の上下両端部に取り付けられたインシュレータ22と、ステータコア21およびインシュレータ22の内周部に巻回されたコイル23とを有する。ステータコア21は例えば積層された電磁鋼板からなり、インシュレータ22は非磁性体材料で形成されている。ステータコア21の外周部には、上下方向に延びる複数の溝部(図示省略)が形成されており、この溝部とケーシング2との間を冷媒および潤滑油が通過する。インシュレータ22は、ステータコア21とコイル23とを絶縁するために設けられている。
【0025】
ロータ30は、シャフト7の外周面に固定された円筒状のロータコア31と、このロータコア31に埋設された4つの永久磁石32と、このロータコア31の上下両端部に一体的に取り付けられた非磁性体材料からなる環状の端板33とを有する。コイル23を流れる電流と、ロータコア31に生じる磁束とによって発生した電磁力によって、ロータ30はシャフト7と共に回転する。
【0026】
ロータコア31は、複数の薄板状の電磁鋼板が上下方向に積層されて形成されている。ロータコア31には、上下方向に貫通する4つの孔31aが周方向に並んで形成されている。孔31aの両端開口は、端板33によって塞がれている。孔31aは、矩形板状の永久磁石32が嵌挿される磁石挿通部31bと、磁石挿通部31bの周方向両端からロータコア31の外周面側に延びる短絡防止部31cとで構成されている。
【0027】
4つの磁石挿通部31bは、周方向に隣り合う磁石挿通部31bが直交し、且つ、開口幅(永久磁石32の厚み方向の開口幅)がロータコア31の径方向に沿うように形成されている。磁石挿通部31bに配置される永久磁石32は、例えば希土類磁石(例えばネオジム、鉄、ホウ素を主成分とした希土類磁石)であって、その厚み方向の両端面が磁極面となっている。4つの永久磁石32は、周方向に隣り合う永久磁石32の磁極面の磁性が逆向きになるように配置されている。
【0028】
短絡防止部31cは、永久磁石32の厚さ方向両面において磁束が短絡するのを防止するために設けられている。
【0029】
また、ロータコア31には、バランスウェイト41、42を固定するためのリベット43が挿通される4つのリベット挿通孔31dと、冷媒および潤滑油を通過させるための2つの通風孔31eが、上下方向に貫通して形成されている。なお、リベット挿通孔と通風孔は、端板33にも形成されている。
【0030】
ロータコア31において、永久磁石32が配置される孔31aが形成された周方向範囲は磁極51を構成している。つまり、ロータコア31は、周方向に並んだ4つの磁極51を有する。なお、図2では、1つの磁極51をドットのハッチングで表示するとともに、この磁極51の周方向端部を二点鎖線で表示している。
【0031】
ロータコア31を構成する複数の電磁鋼板の少なくとも1つの磁極51の外周面には、5つの切欠き52が周方向に等間隔に形成されている。4つの磁極51に形成された切欠き52の形状は全て同じである。切欠き52の周方向幅は、径方向外側に向かって広くなっている。切欠き52の開き角度は、0〜180°の範囲内であればよい。また、平面視において、切欠き52の端部52a近くの端縁部分52bは、端部52aにおける径方向(図3中の直線L2の方向)に対して傾斜している。また、各磁極51に形成された5つの切欠き52は、磁極51の周方向の中心線L1(図2参照)に対して対称に形成されている。なお、隣接する2枚の電磁鋼板に切欠き52が形成されている場合には、切欠き52は上下に並んでいても、周方向にずれていてもよい。
【0032】
磁極51の切欠き52近傍では、例えば図3に示すように、永久磁石32による磁束Mが切欠き52に沿って発生する。そのため、磁極51の外周面とステータ20との間に、切欠き52の端縁部分52bに沿った方向の磁束Mが発生する。切欠き52の端縁部分52bは径方向に対して傾斜しているため、磁極51とステータ20との間に発生する径方向の磁束を低減することができる。そのため、電磁力を低減することができ、その結果、電磁音を低減できる。
なお、図3では磁極51とステータ20に発生する磁束の一部のみを表示している。また、磁極51とステータ20に発生する磁束の方向は、図3に示すものに限定されない。
【0033】
また、本実施形態では、各磁極51に形成された複数の切欠き52は、磁極51の周方向の中心線L1に対して対称に形成されているため、周方向に関してバランスよく、磁極51とステータ20との間に発生する径方向の磁束を低減できる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成は、上記実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。後述する変更形態は、適宜組み合わせて実施することも可能である。
【0035】
上記実施形態では、切欠き52は、1つの磁極51に対して5つ設けられているが、4つ以下であっても、6つ以上であってもよい。
【0036】
上記実施形態では、1つの磁極51に設けられた複数の切欠き52は、周方向に等間隔に形成されているが、等間隔でなくてもよい。
【0037】
上記実施形態では、切欠き52の両端縁部分52bは、各端部52aにおける径方向に対して傾斜しているが、図4に示す切欠き152のように、一方の端部152a近くの端縁部分152bが、この端部152aにおける径方向に対して傾斜していれば、他方の端部152c近くの端縁部分152dは、この端部152cにおける径方向に対して傾斜していなくてもよい。
【0038】
上記実施形態では、1つの磁極51に設けられた複数の切欠き52は、平面視において当該磁極51の周方向の中心線L1に対して対称に形成されているが、非対称であってもよい。
【0039】
上記実施形態では、切欠き52の形状(周方向幅および深さ)は全て同じであるが、異なっていてもよい。例えば、磁極51の中心線L1に近いほど、切欠きの周方向幅と深さが大きくなっていてもよい。
【0040】
磁極51ごとに、切欠き52の数、形状、または配置位置が異なっていてもよい。また、4つの磁極51のうち少なくとも1つの磁極51に切欠き52が設けられていれば、他の磁極51には切欠き52は設けられていなくてもよい。
【0041】
上記実施形態では、ロータコア31が有する磁極51の数は4つであるが、磁極の数(即ち、永久磁石32が挿通される孔の数)は、2つであっても、6つ以上であってもよい。
【0042】
上記実施形態では、4つの永久磁石32のそれぞれが1つの界磁磁極を構成しているが、例えば1つの界磁磁極が複数の永久磁石によって構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明を利用すれば、電磁音を低減することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 圧縮機
20 ステータ
30 ロータ
31 ロータコア
31a 孔
32 永久磁石
51 磁極
52 切欠き
52a 端部
52b 端縁部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
前記ステータの内側に配置されたロータとを備え、
前記ロータは、複数の薄板が積層されたものであって、磁石が配置される孔をそれぞれ有し且つ周方向に設けられた複数の磁極を有し、
前記複数の薄板の少なくとも1つの薄板が、前記磁極の外周面に対応した部分に設けられた切欠きを有しており、
前記切欠きの周方向幅が、径方向外側に向かって広くなると共に、
平面視において、前記切欠きの端部近くの端縁部分が当該端部における径方向に対して傾斜していることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記複数の薄板の少なくとも1つの薄板において、1つの磁極の外周面に設けられた前記切欠きが、平面視において当該磁極の周方向の中心線に対して対称であることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−108481(P2013−108481A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256289(P2011−256289)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】