説明

圧縮自己着火式内燃機関の制御装置

【課題】圧縮自己着火式燃焼時に空燃比の変化があった場合の、失火によるトルク変動を低減し、燃費削減ポテンシャルを有効活用可能な圧縮自己着火式内燃機関の制御装置および制御方法を提供することにある。
【解決手段】エンジンの運転状態に応じて、燃焼モードとして、点火プラグを用いる火花点火式燃焼モードと、ピストンの上昇に伴う燃焼室の圧力上昇を利用して燃料を燃焼させる圧縮自己着火式燃焼モードと、を選択的に設定するとともに、圧縮自己着火式燃焼モードにおける空燃比がリッチの場合には圧縮自己着火式燃焼領域の領域上限値を低エンジントルクへと変更し、空燃比がリーンの場合には領域上限値を高エンジントルク側へと変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮自己着火式内燃機関の制御装置に係り、特に、火花点火式燃焼と圧縮自己着火式燃焼との燃焼モードの切替えに好適な圧縮自己着火式内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に使用される内燃機関(エンジン)において、燃費性能の向上と排気性能との向上を両立するものとして、混合気を圧縮して自己着火燃焼(圧縮自己着火式燃焼)させる圧縮自己着火式ガソリンエンジン(以下、圧縮自己着火エンジン)が注目されている。圧縮自己着火エンジンは、点火プラグの火花で混合気を着火,燃焼させる火花点火式燃焼に比べて、高圧縮比による高効率化,ポンプ損失低減、および急速燃焼による冷却損失の低減などによって燃料消費量を低減し、また、混合気の低温燃焼によって排出ガス中のNOx濃度を低減するため、燃費性能と排気性能の両立が実現可能である。
【0003】
圧縮自己着火式燃焼を実現する手段の1つとして、EGRの導入が挙げられる。火花点火式燃焼は空燃比が比較的リッチ側であり、EGR率が比較的低い領域にて実施可能であるのに対して、上記手段を適用した場合の圧縮自己着火式燃焼は、空燃比が比較的リーンであり、内部EGR率が比較的高い領域で実施可能である。また、それぞれの領域間にはどちらの燃焼も不安定となる燃焼不安定領域が存在する。なお、EGRの導入方法としては、排気行程において吸気バルブおよび排気バルブの双方が閉じている期間である負のオーバーラップ期間を設けることでシリンダ内に排出ガスを残留させる方法(内部EGR)、または、吸気バルブ上流に排気管からのバイパスを設けることで新気と一緒に排出ガスを吸入する方法(外部EGR)、または、吸気行程にて排気バルブを開くことで排出ガスを再吸入する方法(排気再吸入)が用いられる。
【0004】
上記のような圧縮自己着火式燃焼の方法を適用した場合、シリンダ内に大量の排出ガスを導入することから、新気量が限られるため、過給しない場合には発生可能なエンジントルクが低負荷側に限られる。また、吸気,圧縮,膨張,排出といった行程の中で、燃料が化学反応する有限の時間を確保する必要があることから、エンジン回転速度も低回転速度側に限られることが知られている。
【0005】
そのため、圧縮自己着火エンジンを自動車に適用する際には、火花点火式燃焼と圧縮自己着火式燃焼の双方を実施し、それらの燃焼を切替えることでドライバが要求するエンジントルクを実現することが提案されている。
【0006】
圧縮自己着火式燃焼は火花点火式燃焼と比較して、シリンダ内の空気量と燃料量の質量比である空燃比がよりリーン(燃料量が少ない)な雰囲気においても燃焼可能である。そのため、燃費低減,NOx排出量の低減を狙って、圧縮自己着火式燃焼では空燃比をリーンに設定する。これはスロットル開度を全開として空気量をシリンダ内に多量に取り込むことで実現する。ただし、自然吸気エンジンにおいては前述のとおり新気量が限られるため、圧縮自己着火式燃焼領域の空燃比はエンジントルクが増大するにつれて、リッチ(燃料が多い)へと変化する。特に、空燃比が過剰にリッチとなる場合には、シリンダ内の酸素濃度低下および混合気温度の低下によって、燃料の酸化反応が進行困難となり、燃焼安定性が低下し、最終的には失火する場合がある。以上のことから、圧縮自己着火式燃焼領域での高負荷側の空燃比はストイキ近傍に設定されることが多い。
【0007】
上述の通り、圧縮自己着火式燃焼では、スロットルを全開として空気量を多量にシリンダ内に導入し、空燃比をリーンとするが、導入可能な空気量は諸条件により変化する。その条件としては、大気圧や気温といった周辺環境,シリンダのガス交換を実施する吸気および排気バルブの製造ばらつきや劣化といった動作状態、および、燃料を噴射するインジェクタの動作状態などが挙げられる。
【0008】
圧縮自己着火式燃焼にて高エンジントルクを発生しようとした際に、これらの諸条件の変化によって空燃比がリッチ化した場合には、当初予定した空燃比よりも過剰にリッチ化することで、圧縮自己着火式燃焼を継続不可能な状態に陥り、失火が発生する。また、空燃比がリーン化した場合には、当初予定された空燃比よりもリーンな状態で燃焼を実施することが可能であるため、圧縮自己着火式燃焼領域を高エンジントルク側へ拡大可能であり、更なる燃費低減が可能である。しかしながら、初期設定での圧縮自己着火式燃焼領域を維持すると、その燃費低減ポテンシャルを有効に活用することができない。
【0009】
以上のことから、圧縮自己着火エンジンのような2つの燃焼形態を切替えるエンジンにおいて運転性の確保と燃費低減を満足するためには、圧縮自己着火式燃焼時の空燃比に応じて圧縮自己着火式燃焼領域を変更しなければならないという問題があった。
【0010】
この問題を解決する方法として、空燃比に基づいて燃焼領域を変更する技術が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1は、ディーゼルエンジンにおいて、比較的に低いエンジントルクにて実施する燃焼領域での燃焼と、高エンジントルクにて実施する第2の燃焼領域での燃焼とを切替える技術に関するものである。具体的には、燃焼領域で運転中の空燃比に基づき、空燃比がリッチの場合は燃焼領域のエンジントルク上限値を高エンジントルク側へ変更する。また、空燃比がリーンの場合には燃焼領域のエンジントルク上限値を低エンジントルク側へ変更するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−110670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1で開示された技術はディーゼルエンジンには有効であるが、圧縮自己着火エンジンに適用した場合には、運転性と燃費低減を満足することができない。具体的には、圧縮自己着火式燃焼時の空燃比が初期設定よりもリッチである場合に圧縮自己着火式燃焼領域の上限値を高エンジントルク側へ変更する。この際、空燃比がリッチであることから当初の状態よりも新気量が少ないにも関わらず、エンジントルクを高めるに従って燃料量を増量することとなり、新たに設定した圧縮自己着火式燃焼領域近傍での空燃比が過剰にリッチ化してしまい、失火が発生するという問題があった。また、圧縮自己着火式燃焼時の空燃比が初期設定よりもリーンである場合に圧縮自己着火式燃焼領域の上限値を低エンジントルク側へ変更した場合には、該上限値での空燃比がリーンであるにも関わらず、圧縮自己着火式燃焼の実施を制限することとなり、燃費低減ポテンシャルを有効活用することができないといった問題があった。
【0013】
上記問題に鑑み、本発明の目的は、圧縮自己着火エンジンにおいて、エンジンの周辺環境および搭載装置の動作状態が変化したことによって空燃比が変化した場合においても、運転性と低燃費を満足することができる制御手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る圧縮自己着火式内燃機関の制御装置は、燃焼室へ燃料を噴射するインジェクタと、前記燃焼室に噴射された燃料に点火するための点火装置と、前記燃焼室の一部を形成するシリンダの吸気側に設けられ、作動タイミングを制御可能な吸気弁と、前記シリンダの排気側に設けられ、作動タイミングを制御可能な排気弁と、前記燃焼室に流入する空気量を制御可能なスロットルを有する圧縮自己着火式内燃機関に用いられ、前記点火装置によって前記インジェクタから噴霧された燃料に点火・燃焼させて前記内燃機関を作動させる火花点火式燃焼モードと、前記燃焼室を形成するピストンの上昇に伴う、前記シリンダ内の圧力上昇によって前記インジェクタから噴射された燃料を燃焼させて前記内燃機関を作動させる圧縮自己着火式燃焼モードとを有する圧縮自己着火式内燃機関の制御装置であって、前記空燃比が所定値よりもリッチである際には、前記内燃機関の作動状態であるトルクと機関回転速度にて決定される前記圧縮自己着火式燃焼モードを安定的に実施可能な圧縮自己着火式燃焼領域の前記トルク方向の上限値を前記トルクが減少する方向に変更することを特徴とする。
【0015】
また、該制御装置は、前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の前記空燃比が所定値よりもリーンである際には、前記圧縮自己着火式燃焼領域の前記トルク方向の上限値を前記トルクが増加する方向へと変更することを特徴とする。
【0016】
別の形態として、本発明に係る圧縮自己着火式内燃機関の制御装置は、前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の前記空燃比が所定値よりもリッチであり、前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中に、前記圧縮自己着火式燃焼領域の上限値以上に前記トルクを増加させる要求があった際に、前記トルクを増加させる要求がある以前の前記トルクを基準として、前記圧縮自己着火式燃焼モードにて前記トルクを増加させる量を、前記空燃比が所定値である場合の増加量よりも減量して、前記圧縮自己着火式燃焼モードにて前記トルクを増加した後、前記火花点火式燃焼モードにて前記トルクを増加することを特徴とする。
【0017】
また、該制御装置は、前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の前記空燃比が所定値よりもリーンであり、前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中に、前記圧縮自己着火式燃焼領域の上限値以上に前記トルクを増加させる要求があった際に、前記トルクを増加させる要求がある以前の前記トルクを基準として、前記圧縮自己着火式燃焼モードにて前記トルクを増加させる量を、前記空燃比が所定値である場合の増加量よりも増量して、前記圧縮自己着火式燃焼モードにて前記トルクを増加した後、前記火花点火式燃焼モードにて前記トルクを増加することを特徴とする。
【0018】
更に別の形態として、本発明に係る圧縮自己着火式内燃機関の制御装置は、前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の前記空燃比が所定値よりもリッチであり、前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中に、前記圧縮自己着火式燃焼領域の上限値以上に前記トルクを増加させる要求があった際に、前記トルクを増加させる要求がある以前に前記圧縮自己着火式燃焼モードを継続する期間を基準として、前記圧縮自己着火式燃焼モードにて前記トルクを増加させる期間を短縮して、前記圧縮自己着火式燃焼モードにて前記トルクを増加した後、前記火花点火式燃焼モードにて前記トルクを増加することを特徴とする。
【0019】
また、該制御装置は、前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の前記空燃比が所定値よりもリーンであり、前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中に、前記圧縮自己着火式燃焼領域の上限値以上に前記トルクを増加させる要求があった際に、前記トルクを増加させる要求がある以前に前記圧縮自己着火式燃焼モードを継続する期間を基準として、前記圧縮自己着火式燃焼モードにて前記トルクを増加させる期間を延長して、前記圧縮自己着火式燃焼モードにて前記トルクを増加した後、前記火花点火式燃焼モードにて前記トルクを増加することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る圧縮自己着火式内燃機関の制御装置において、圧縮自己着火式燃焼領域の上限値を変更するために使用される前記空燃比は、前記排気弁の下流に設けられた空燃比を検出するセンサの出力信号に基づいて決定することを特徴とする。
【0021】
別の形態としては、前記空燃比は、前記内燃機関に設けられた、吸気管内を通過する空気流量を計測するセンサ、または、吸気管内の圧力を計測するセンサ、または、前記燃焼室に流入する空気量の温度を計測するセンサ、または、大気圧を計測するセンサ、または、前記内燃機関の機関温度を計測するセンサ、または、前記インジェクタを通過する前記燃料の流量を計測するセンサ、または、前記インジェクタから前記燃料を噴射するために前記燃料に加えられる圧力を計測するセンサ、のいずれか一つの出力信号に基づいて決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、周辺環境の変化や、エンジンに搭載される装置の動作状態に変化が生じることで圧縮自己着火式燃焼での空燃比が変化した場合にも、失火を抑制して運転性を確保し、さらに圧縮自己着火式燃焼が持つ燃費低減ポテンシャルを活用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置を自動車用ガソリンエンジンに適用したエンジンシステムの構成を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置の構成を示すシステムブロック図である。
【図3】本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置の燃焼モード切替の構成を示す制御ブロック図である。
【図4】本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置の燃焼モード切替判定の構成を示す制御ブロック図である。
【図5】火花点火式燃焼モードと、圧縮自己着火式燃焼モードとの燃焼領域と、圧縮自己着火式燃焼領域のエンジントルク方向の上限値を示す説明図である。
【図6】圧縮自己着火式燃焼領域において、所定条件における圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態において、圧縮自己着火式燃焼モード時の計測空燃比が初期設定の目標空燃比よりもリッチの際に、圧縮自己着火領域の領域上限値を低エンジントルク側へ変更する動作を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態において、圧縮自己着火式燃焼モード時の計測空燃比が初期設定の目標空燃比よりもリーンの際に、圧縮自己着火領域の領域上限値を高エンジントルク側へ変更する動作を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による制御内容の全体を示すフローチャートである。
【図10】図9のS100(燃焼モード切替判定処理)の詳細を示すフローチャートである。
【図11】図9のS130(燃焼モード切替処理)の詳細を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置を適用しない場合に、圧縮自己着火式燃焼モード時の計測空燃比が初期設定の目標空燃比よりもリッチである場合の、火花点火式燃焼モードと圧縮自己着火式燃焼モードとの燃焼モード切替制御の内容を示すタイミングチャートである。
【図13】本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置により、火花点火式燃焼モードと圧縮自己着火式燃焼モードとの燃焼モード切替制御を実施した場合の中でも、圧縮自己着火式燃焼モード時の計測空燃比が初期設定の目標空燃比よりもリッチである場合の動作内容を示すタイミングチャートである。
【図14】本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置を適用しない場合に、圧縮自己着火式燃焼モード時の計測空燃比が初期設定の目標空燃比よりもリーンである場合の、火花点火式燃焼モードと圧縮自己着火式燃焼モードとの燃焼モード切替制御の内容を示すタイミングチャートである。
【図15】本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置により、火花点火式燃焼モードと圧縮自己着火式燃焼モードとの燃焼モード切替制御を実施した場合の中でも、圧縮自己着火式燃焼モード時の計測空燃比が初期設定の目標空燃比よりもリーンである場合の動作内容を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1〜図15を用いて、本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置の構成及び動作について説明する。
【0025】
最初に、図1を用いて、本実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置を自動車用ガソリンエンジンに適用したエンジンシステムの構成について説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置を自動車用ガソリンエンジンに適用したエンジンシステムの構成を示すシステム構成図である。
【0027】
エンジン100は、火花点火式燃焼と圧縮自己着火式燃焼を実施する自動車用ガソリンエンジンである。吸入空気量を計測するエアフローセンサ1と、吸気流量を調整する電子制御スロットル2とが、吸気管6の各々の適宜位置に備えられている。また、エンジン100には、シリンダ7とピストン14とで囲われる燃焼室に燃料を噴射するインジェクタ3と、点火エネルギーを供給して燃焼室に噴射された燃料に点火する点火プラグ(点火装置)4と、がシリンダ7の各々の適宜位置に備えられている。
【0028】
また、筒内に流入する吸入ガスを調整する吸気バルブ5aと筒内から排出される排気ガスを調整する排気バルブ5bとから構成される可変バルブ5と、がシリンダ7の各々の適宜位置に備えられている。
【0029】
さらに、エンジン100には、排気を浄化する三元触媒10と、空燃比検出器の一態様であって、三元触媒10の上流側にて排気の空燃比を検出する空燃比センサ9が排気管8の適宜位置に備えられる。また、クランク軸11には、回転角度を算出するためのクランク角度センサ12が備えられている。さらに、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ16が備えられている。
【0030】
エアフローセンサ1と空燃比センサ9とクランク角センサ12とから得られる信号は、エンジンコントロールユニット(制御装置:ECU)20に送られる。また、アクセル開度センサ16から得られる信号は、ECU20に送られる。尚、アクセル開度センサ16は、アクセルペダルの踏み込み量、すなわち、アクセル開度を検出する。ECU20は、アクセル開度センサ16の出力信号に基づいて、要求トルクを演算する。すなわち、アクセル開度センサ16は、エンジンへの要求トルクを検出する要求トルク検出センサとして用いられる。また、ECU20は、クランク角度センサ12の出力信号に基づいて、エンジンの回転速度を演算する。ECU20は、上記各種センサの出力から得られるエンジンの運転状態に基づき、空気流量,燃料噴射量,点火時期のエンジンの主要な作動量を最適に演算する。
【0031】
ECU20で演算された燃料噴射量は開弁パルス信号に変換され、インジェクタ3に送られる。また、ECU20で演算された点火時期で点火されるように、点火プラグ駆動信号が点火プラグ4に送られる。また、ECU20で演算されたスロットル開度は、スロットル駆動信号として電子制御スロットル2に送られる。また、ECU20で演算された可変バルブの作動量は、可変バルブ駆動信号として、吸気バルブ5a及び排気バルブ5bからなる可変バルブ5へ送られる。
【0032】
次に、図2を用いて、本実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置の構成について説明する。
【0033】
図2は、本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置の構成を示すシステムブロック図である。
【0034】
エアフローセンサ1,空燃比センサ9,排気温度センサ111,クランク角センサ12の出力信号は、ECU20の入力回路20aに入力される。但し、入力信号はこれらだけに限られず、上述した信号も入力される。入力された各センサの入力信号は入出力ポート20b内の入力ポートに送られる。入出力ポート20bに送られた値は、RAM20cに保管され、CPU20eで演算処理される。演算処理内容を記述した制御プログラムは、ROM20dに予め書き込まれている。
【0035】
制御プログラムに従って演算された各アクチュエータの作動量を示す値は、RAM20cに保管された後、入出力ポート20b内の出力ポートに送られ、各駆動回路を経て各アクチュエータに送られる。本実施形態の場合は、駆動回路として、電子スロットル駆動回路20f,インジェクタ駆動回路20g,点火出力回路20h,可変バルブ駆動回路20jがある。各回路は、それぞれ、電子制御スロットル2,インジェクタ3,点火プラグ4,可変バルブ5を制御し、後述する燃焼制御を行う。本実施形態においては、ECU20内に上記駆動回路を備えた装置であるが、これに限るものではなく、上記駆動回路のいずれかをECU20内に備えるものであってもよい。
【0036】
次に、図3を用いて、本実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置の燃焼モード切替の構成について説明する。
【0037】
図3は、本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置の燃焼モード切替の構成を示す制御ブロック図である。
【0038】
ECU20は、火花点火式燃焼と圧縮自己着火式燃焼とで燃焼モードの切替を実施する際には、運転性能悪化を抑制する燃焼モードの切替制御を実行する。以下では、燃焼モードの切替制御における、火花点火式燃焼と圧縮自己着火式燃焼との燃焼モード切替制御について説明する。
【0039】
ECU20は、燃焼モード切替判定部21と、火花点火式燃焼用操作量演算部22と、圧縮自己着火式燃焼用操作量演算部23と、燃焼モード切替部24とを備えている。なお、図示の各部は、燃焼モードの切替制御に用いるものであり、他の構成については図示を省略している。
【0040】
燃焼モード切替判定部21は、エンジン100に要求される要求エンジントルクTe*と、エンジン回転速度Neと、空燃比センサ9からの出力信号であるABFtgtに基づいて、後述する図5および図6のマップを用いて、燃焼モードを切替可能かを判定し、燃焼モード切替フラグFexをセットする。要求エンジントルクTe*は、前述したように、アクセル開度センサ16によって検出されたアクセル開度に基づいて、ECU20の内部で別途算出される。エンジン回転速度Neは、クランク角センサ12の検出信号に基づいて、ECU20の内部で別途算出される。
【0041】
ここで、図4を用いて、燃焼モード切替判定部21に関して説明する。図4は、図3の燃焼モード切替判定部21の構成を示す制御ブロック図である。燃焼モード切替判定部21は、領域上限値演算部21aと、目標空燃比演算部21bと、引算部21cと、領域上限値補正量演算部21dと、引算部21eと、燃焼モード切替部21fとを備えている。
【0042】
領域上限値演算部21aは例えば図5に示すマップに基づき、圧縮自己着火式燃焼モードが実施可能なエンジントルクTeの上限値Tulを演算する。
【0043】
ここで図5を用いて、火花点火式燃焼モードと、圧縮自己着火式燃焼モードとの、燃焼領域について説明する。図5は、火花点火式燃焼モードと、圧縮自己着火式燃焼モードとの、燃焼領域と、圧縮自己着火式燃焼モードを実施可能な目標エンジントルクTe*の上限値の説明図である。図5において、横軸はエンジン回転速度Neを示し、縦軸はエンジントルクTeを示している。
【0044】
火花点火式燃焼モード(SI:Spark Ignition)は、点火プラグ(点火装置)4によってインジェクタ3から噴霧された燃料に点火・燃焼させてエンジン(内燃機関)を作動させる燃焼モードであり、図5に示すように、エンジン回転速度Neの低回転速度から高回転速度まで、また、エンジントルクTeの低トルクから高トルクまでの広い領域で、実現可能である。
【0045】
一方、圧縮自己着火式燃焼モード(HCCI:Homogeneous Charge Compression Ignition)は、燃焼室を形成するピストン14の上昇に伴う、シリンダ内の圧力上昇によってインジェクタ3から噴射された燃料を燃焼させて内燃機関(エンジン)を作動させるものであり、これを実現する方法としては、吸気加熱,高圧縮化、および内部EGR導入などの方法がある。この中で、コストおよび火花点火式燃焼モードでの運転を考慮すると、バルブタイミングの操作による内部EGR導入が実現性の高い方法である。内部EGR導入による圧縮自己着火式燃焼時には、火花点火式燃焼モードに比べて燃焼室内の内部EGR量を多量とする必要がある。これによって筒内に流入する新気量が制限されることと、混合気形成から燃焼に至るまでの化学反応に有限の時間が必要であることから、自然吸気エンジンでは、図5に示すように、低負荷・低回転速度の作動状態において、圧縮自己着火式燃焼モードHCCIが実現可能である。
【0046】
また、図5には、圧縮自己着火式燃焼モードが実施可能な領域における、エンジントルクTeの上限値Tulを示している。上述の通り、内部EGR導入では新気量が限られることから、上限値Tulはエンジン回転速度Neに応じて決定される。図5に示す圧縮自己着火式燃焼モードを実施可能な領域とエンジントルクの上限値は、予め試験やシミュレーションにより決定するものであってもよいし、圧縮自己着火式燃焼を記述する数式モデルに基づくものであっても良い。
【0047】
目標空燃比演算部21bは例えば図6に示すマップに基づき、目標エンジントルクTe*とエンジン回転速度Neに応じて圧縮自己着火式燃焼モード時の目標空燃費ABFtgtを演算する。
【0048】
ここで図6を用いて、圧縮自己着火式燃焼モード時の目標空燃比について説明する。図6は、圧縮自己着火式燃焼モード時の目標エンジントルクTe*とエンジン回転速度Neで決定される運転条件における、所定状態での目標空燃比ABFtgtを示す説明図である。図6において、横軸はエンジン回転速度Neを示し、縦軸はエンジントルクTeを示している。
【0049】
図5に示すとおり、圧縮自己着火式燃焼モードは低エンジントルク,低回転速度の運転条件に限られる。圧縮自己着火式燃焼モード時にはリーン燃焼を実施するために、電子制御スロットル2の開度を可能な限り大きくとり、シリンダ内に空気量を大量に導入する。このとき、圧縮自己着火式燃焼領域にて必要とされる燃料量は、エンジントルクTeが増加するに従って、かつ、エンジン回転速度が増加するに従って増加する。そのため、低エンジントルクかつ低エンジン回転速度では空燃比がリーンとなり、エンジントルクの増加およびエンジン回転速度の増加に伴い、燃料量が増加するに従って空燃比がリッチ化する。図6に記載した空燃比は所定条件での例であり、これに限るものではない。また、図6に示す目標空燃比ABFtgtは予め実験やシミュレーションにて決定するものであっても良いし、圧縮自己着火燃焼時の空燃比を記述する数式モデルに基づいて演算するものであっても良い。
【0050】
また、引算部21cは目標ABFtgtから空燃比センサ9の出力信号であるABFactを差し引き、空燃比の差分であるΔABFを演算する。
【0051】
領域上限値補正量演算部21dは空燃比の差分であるΔABFに基づき、圧縮自己着火式燃焼モードのエンジントルクの上限値Tulを補正するためのΔTulを演算する。例えば、空燃比の差分であるΔABFを演算した際の運転条件を実現するための、燃料噴射量を演算し、ΔABFと該燃料噴射量に基づいてΔABFに伴う空気量を演算後、該空気量に基づいて領域上限値補正量ΔTulを演算するものであっても良い。また、図6に示す圧縮自己着火式燃焼モード時の目標空燃比ABFtgtを示すマップに基づき、目標空燃比ABFtgtからΔABFtgtを減算し、図6の目標空燃比マップ上から現在のエンジン回転速度NeにおいてABFtgtからΔABFを減じた空燃比を検索し、一致した目標空燃比ABFtgtとなるエンジントルク1を演算し、領域上限値Tulからエンジントルクを減じた量をΔTulとするものであっても良い。また、領域上限値補正量演算部21dは上記に限るものではなく、圧縮自己着火式燃焼を記述する数式モデルに基づくものであっても良い。
【0052】
さらに、引算部21eでは、領域上限値演算部21aの出力である領域上限値演算部Tulから領域上限値補正量演算部21dの出力である領域上限値補正量ΔTulを減じ、現在の運転状態における圧縮自己着火式燃焼モードのエンジントルクTeの新規領域上限値nTulとして出力する。
【0053】
燃焼モード切替部21fは例えば図5に示す燃焼領域に基づいて、火花点火式燃焼モード実施時に圧縮自己着火式燃焼モードが実施可能な運転領域であれば、目標エンジントルクTe*とエンジン回転速度Neと新規領域上限値nTulに基づき、火花点火式燃焼モードから圧縮自己着火式燃焼モードへと燃焼切替を実施すべく、燃焼モードフラグFexをOFF(=0)からON(=1)へと変更する。また、圧縮自己着火式燃焼モード実施時には、目標エンジントルクTe*とエンジン回転速度Neと新規領域上限値nTulに基づき、目標エンジントルクTe*とエンジン回転速度で決定される運転条件が圧縮自己着火式燃焼領域外へと変更した場合には、燃焼モードを圧縮自己着火式燃焼モードから火花点火式燃焼モードへと切替えるべく、燃焼モードフラグFexをON(=1)からOFF(=0)へと変更する。
【0054】
また、図7および図8を用いて、燃焼モード切替判定部21の具体的な演算を説明する。図7は運転条件xにおける空燃比センサ9の出力信号である計測空燃比ABFactが目標空燃比ABFtgtよりもリッチであった場合の燃焼モード切替判定部21の動作を示す説明図である。図7において、点Aと点Bにて示される線分Tulは初期設定における圧縮自己着火式燃焼モード領域のエンジントルク上限値を示す。また、点A′と点B′にて示される線分nTulは領域上限値補正量ΔTulと領域上限値Tulに基づいて決定される新規領域上限値を示す。新規領域上限値nTulは、空燃比の差分ΔABFが正(目標空燃比ABFtgtよりも計測空燃比ABFactがリッチ)である場合には領域上限値補正量ΔTulを領域上限値Tulから減算し、圧縮自己着火式燃焼領域を新規領域上限値nTulにて囲まれる初期設定よりも狭い領域(エンジントルクが低い領域)へと変更する。
【0055】
さらに、図8は運転条件xにおける計測空燃比ABFactが目標空燃比よりもリーンである場合(空燃比の差分ΔABFが負となる場合)の燃焼モード切替判定部21の動作を示す説明図である。図8において、点Aと点Bにて示される線分Tulは初期設定における圧縮自己着火式燃焼モード領域のエンジントルク上限値を示す。また、点A′と点B′にて示される線分nTulは領域上限値補正量ΔTulと領域上限値Tulに基づいて決定される新規領域上限値を示す。新規領域上限値nTulは、空燃比の差分ΔABFが負であるため、領域上限値補正量ΔTulを領域上限値Tulに加算し、圧縮自己着火式燃焼領域を新規領域上限値nTulにて囲まれる初期設定よりも広い領域(エンジントルクが広い領域)へと変更する。
【0056】
図3において、火花点火式燃焼用操作量演算部22は、目標エンジントルクTe*とエンジン回転速度Neに基づいて、火花点火式燃焼を実施するためのエンジンに備えられたデバイス(電子制御スロットル2,インジェクタ3,点火プラグ4,可変バルブ5など)の目標設定値を演算する。また、圧縮自己着火式燃焼用操作量演算部23は、目標エンジントルクTe*とエンジン回転速度Neに基づいて、圧縮自己着火式燃焼を実施するための上記デバイスの目標設定値を演算する。さらに、燃焼モード切替部24は、燃焼モードフラグFexと、火花点火式燃焼用操作量演算部22からの演算結果と、圧縮自己着火式燃焼用操作量演算部23の演算結果に基づき、燃焼モードフラグFexに応じた燃焼モードを実現すべく、上記デバイスの目標設定値をOPtgtとして各デバイスに出力する。
【0057】
その結果、図1のエンジン100は、要求エンジントルクTe*が出力されるように、圧縮自己着火式燃焼モード若しくは火花点火式燃焼モードのいずれかの燃焼モードで運転される。
【0058】
ここで、目標操作量OPtgtとは、エンジン100を燃焼制御する際に操作する、電子制御スロットル2の開度(スロットル開度),インジェクタ3への燃料噴射パルス幅や燃料噴射時期,点火プラグ4への点火時期,吸気バルブ5aの開時期および作動期間、および排気バルブ5bの開閉時期である。これらの目標操作量OPtgtは、図2に示した、それぞれ対応する電子スロットル駆動回路20f,インジェクタ駆動回路20g,点火出力回路20h,可変バルブ駆動回路20jに出力され、これらの回路を介して、目標操作量OPtgに応じて、電子制御スロットル2,インジェクタ3,点火プラグ4,可変バルブ5が制御され、これによりエンジン100の燃焼制御がされる。
【0059】
次に、図9から図15を用いて、本実施形態における圧縮自己着火式内燃機関の制御装置により、火花点火式燃焼モードから圧縮自己着火式モードへの燃焼モード切替時の制御内容について説明する。
【0060】
図9は、本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による制御内容全体を示すフローチャートである。図10は、図9のS100(燃焼モード切替判定処理)の詳細を示すフローチャートである。図11は、図9のS110(燃焼モード切替処理)の詳細を示すフローチャートである。図12は、本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による制御内容の中でも、圧縮自己着火式燃焼モードから火花点火式燃焼モードへの切替制御を示すタイミングチャートである。図13は、本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置により、圧縮自己着火式燃焼モードから火花点火式燃焼モードへの切替制御を実施した際のエンジンの運転状態を示すタイミングチャートである。
【0061】
最初に、図9を用いて、圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による制御内容の全体について説明する。
【0062】
図9のステップS100において、図3の燃焼モード切替判定部21は、現在の運転状態に対して、火花点火式燃焼または圧縮自己着火式燃焼のどちらが適当であるかを判定し、火花点火式燃焼モードの場合には燃焼モード切替フラグFexにOFF(=0)をセットし、圧縮自己着火式燃焼モードの場合には、ON(=1)をセットする。なお、ステップS100の詳細については、図10を用いて後述する。
【0063】
次に、ステップS110において、図3の火花点火式燃焼用操作量演算部22は、現在の運転状態である目標エンジントルクTe*とエンジン回転速度Neに基づいて、火花点火式燃焼にて目標エンジントルクを発生するための各デバイスの目標操作量を演算し、ステップS120に進む。
【0064】
ステップ120において、図3の圧縮自己着火式燃焼用操作量演算部23は、現在の運転状態である目標エンジントルクTe*とエンジン回転速度Neに基づいて、圧縮自己着火式燃焼にて目標エンジントルクを発生するための各デバイスの目標操作量を演算し、ステップS130へと進む。
【0065】
ステップS130において、図3の燃焼モード切替部24は、ステップS100の結果である燃焼モード切替フラグFexに応じた燃焼モードを実施すべく、選択された燃焼モードに適した操作量をセットする。これにより、エンジン100は、現状の運転状態に応じた燃焼制御を行うことができる。なお、ステップS130の詳細については、図11を用いて後述する。
【0066】
次に、図10を用いて、図9のS100(燃焼モード切替判定処理)の詳細制御内容について説明する。
【0067】
ステップS101において、図3の燃焼モード切替判定部21は、要求エンジントルクTe*とエンジン回転速度Neで決定される運転状態に応じた図5に示すマップに基づいて、初期設定での圧縮自己着火式燃焼領域のエンジントルク上限値Tulを演算し、ステップS102に進む。
【0068】
ステップS102において、燃焼モード切替判定部21は、要求エンジントルクTe*とエンジン回転速度Neで決定される運転状態に応じた図6に示すマップに基づいて、所期設定での圧縮自己着火式燃焼時の目標空燃比ABFtgtを演算し、ステップS103に進む。
【0069】
ステップS103において、燃焼モード切替判定部21は、ステップS102にて演算した目標空燃比ABFtgtから空燃比センサ9の出力信号である計測空燃比ABFactを減算したΔABFを演算し、ステップS104に進む。
【0070】
ステップS104において、燃焼モード切替判定部21は、ステップS103にて演算したΔABFに基づき、圧縮自己着火式燃焼領域のエンジントルク上限値の補正量である領域上限値補正量ΔTulを演算し、ステップS105に進む。
【0071】
ステップS105において、燃焼モード切替判定部21は、ステップS101にて演算した領域上限値TulよりステップS104にて演算した領域上限値補正量ΔTulを減算し、現状の運転状態における新規領域上限値nTulを演算し、ステップS106に進む。
【0072】
ステップS106において、燃焼モード切替判定部21は、図5に示す圧縮自己着火式燃焼領域を決定するマップに基づき、現在のエンジン回転速度Neが圧縮自己着火式燃焼領域のエンジン回転速度の下限値であるNe_A以上、かつ、圧縮自己着火式燃焼領域のエンジン回転速度の上限値であるNe_B以下である場合には、圧縮自己着火式燃焼領域を実施可能と判断し、ステップS107に進む。また、現在のエンジン回転速度NeがNe_A以上、かつNe_B以下を満足しない場合には、圧縮自己着火式燃焼領域が実施不可能と判断し、火花点火式燃焼を実施すべく、ステップS109へと進む。
【0073】
ステップS107において、燃焼モード切替判定部21は目標エンジントルクTe*がステップS105にて演算した新規領域上限値nTul以下である場合には、圧縮自己着火式燃焼を実施可能と判断し、圧縮自己着火式燃焼を実施すべく、ステップS108に進む。また、目標エンジントルクTe*が新規領域上限値nTul以上である場合には、火花点火式燃焼を実施する必要があると判断し、ステップS109へと進む。
【0074】
ステップS108において、燃焼モード切替判定部21は、圧縮自己着火式燃焼を実施可能と判断し、燃焼モードフラグFexにON(=1)をセットして、一連の処理を終了する。
【0075】
また、ステップS109において、燃焼モード切替判定部21は、火花点火式燃焼を実施可能と判断し、燃焼モードフラグFexにOFF(=0)をセットして、一連の処理を終了する。
【0076】
次に、図11を用いて、図9のS130(燃焼モード切替処理)の詳細制御内容について説明する。
【0077】
ステップS131において、図3の燃焼モード切替部24は、ステップS100でセットされた燃焼モード切替フラグFexがON(=1)であるか否かを判断する。燃焼モード切替フラグFexがON(=1)である場合は、圧縮自己着火式燃焼を実行するために、ステップS133へと進む。また、燃焼モード切替フラグFexがOFF(=0)である場合には、火花点火式燃焼を実行するために、ステップS135へと進む。
【0078】
ステップS133において、燃焼モード切替部24は、圧縮自己着火式燃焼を実行すべく、図3の圧縮自己着火式燃焼用操作量演算部23にて演算した圧縮自己着火式燃焼用操作量を目標操作量OPtgtにセットして一連の動作を終了する。
【0079】
ステップS135において、燃焼モード切替部24は、火花点火式燃焼を実行すべく、図3の火花点火式燃焼用操作量演算部22にて演算した火花点火式燃焼用操作量を目標操作量OPtgtにセットして一連の動作を終了する。
【0080】
次に、図12から図15を用いて、本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による火花点火式燃焼モードと圧縮自己着火式燃焼モードとの切替制御の具体的な内容について説明する。
【0081】
図12は本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による火花点火式燃焼モードと圧縮自己着火式燃焼モードとの切替制御を適用しない場合に、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比が初期設定値よりもリッチ化する場合のタイミングチャートを示す。
【0082】
図12において、横軸は時間を示している。図12(A)の縦軸は、エンジントルクTeを示している。図の上方に向かってエンジントルクは増加している。図12(B)の縦軸は、エンジン回転速度Neを示している。図の上方に向かってエンジン回転速度は増加している。図12(C)は空燃比を示している。図の上方に向かって空燃比はリーンとなる。図12(D)は燃焼モードフラグを示している。Fex=0は燃焼モードが火花点火式燃焼モードであることを示し、Fex=1は燃焼モードが圧縮自己着火式燃焼モードであることを示している。
【0083】
図12において、図12(A)の実線は目標エンジントルクTe*を示し、破線は発生するエンジントルクTeを示し、点線は図5に示す圧縮自己着火式燃焼領域の領域上限値の初期設定値であるTulを示している。図12(B)の点線のNe_AおよびNe_Bはそれぞれ、圧縮自己着火式燃焼が実施可能なエンジン回転速度の下限値および上限値を示している。図12(C)の実線は空燃比センサ9の出力信号である計測空燃比ABFactを示し、破線は図6のマップのように、圧縮自己着火式燃焼モードにおける目標空燃比の初期設定値ABFtgtを示し、点線は火花点火式燃焼モードにて設定されるストイキ近傍の空燃比を示している。
【0084】
図12の横軸において、時刻t1は目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以下となった時刻を示している。図12の横軸において、時刻t2は目標エンジントルクTe*が増加を開始した時刻を示している。図12の横軸において、時刻t3は計測空燃比ABFactがストイキ近傍よりもリッチとなった時刻を示している。図12の横軸において、時刻t4は目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以上となった時刻を示している。
【0085】
火花点火式燃焼モードを実施中に、時刻t1において目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以下となり、かつ、エンジン回転速度がNe_A以上かつNe_B以下である場合には、圧縮自己着火式燃焼モードへと燃焼モードを切替えるべく、燃焼モードフラグFexを0から1へと変更する。時刻t1以降では圧縮自己着火式燃焼モードが実行されるが、空燃比ABFactが目標空燃比ABFtgtよりもリッチとなるため、時刻t2以降にて目標エンジントルクTe*の増大を継続すると、時刻t3にて空燃比ABFactがストイキ近傍よりもリッチ化してしまう。本発明の制御装置を適用しない場合には、圧縮自己着火式燃焼を継続するため、前述の通り、圧縮自己着火式燃焼モードでは空燃比がストイキ近傍よりリッチ化した場合には燃焼不安定化し、失火が発生することで、時刻t3以降では目標エンジントルクTe*の増加に関わらず、エンジントルクTeが減少すると共に、エンジン回転速度Neが減少する。時刻t4にて目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以上となった場合には、圧縮自己着火式燃焼モードから火花点火式燃焼モードへと切替えるため、時刻t4以降では、エンジントルクTeを増加させることが可能であり、エンジン回転速度Neが増加する。以上のように、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比のリッチ化に応じて領域上限値を変更しない場合には、エンジントルクの変動が発生し、運転性能を確保することが困難となる。
【0086】
図13は本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による火花点火燃焼モードと圧縮自己着火式燃焼モードとの切替制御を適用した場合に、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比が初期設定値よりもリッチ化する場合のタイミングチャートを示す。
【0087】
図13において、横軸は時間を示している。図13(A)の縦軸は、エンジントルクTeを示している。図の上方に向かってエンジントルクは増加している。図13(B)の縦軸は、エンジン回転速度Neを示している。図の上方に向かってエンジン回転速度は増加している。図13(C)は空燃比を示している。図の上方に向かって空燃比はリーンとなる。図13(D)は燃焼モードフラグを示している。Fex=0は燃焼モードが火花点火式燃焼モードであることを示し、Fex=1は燃焼モードが圧縮自己着火式燃焼モードであることを示している。図13(E)は圧縮自己着火式燃焼領域のエンジントルク方向の領域上限値Tulを空燃比に応じて変化させる量である領域上限値補正量ΔTulを示している。図上方に向かって領域補正量ΔTulは増加している。
【0088】
図13において、図13(A)の実線は目標エンジントルクTe*を示し、破線は発生するエンジントルクTeを示し、点線は図5に示す圧縮自己着火式燃焼領域の領域上限値の初期設定値であるTulを示し、太線は領域上限値Tulに領域上限値補正量ΔTulを減じた新規領域上限値nTulを示している。図13(B)の点線であるNe_AおよびNe_Bはそれぞれ、圧縮自己着火式燃焼が実施可能なエンジン回転速度の下限値および上限値を示している。図13(C)の実線は空燃比センサ9の出力信号である計測空燃比ABFactを示し、破線は図6のマップのように、圧縮自己着火式燃焼モードにおける目標空燃比の初期設定値ABFtgtを示し、点線は火花点火式燃焼モードにて設定されるストイキ近傍の空燃比を示している。
【0089】
図13の横軸において、時刻ta1は目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以下となった時刻を示している。図13の横軸において、時刻ta2は、図13(C)において演算した目標空燃比ABFtgtと計測空燃比AFBactとの差分であるΔABFを演算し、ΔABFに基づいて領域上限値をTulから新規領域上限値nTulへと変更した時刻を示している。図13の横軸において、時刻ta3は目標エンジントルクTe*が増加を開始した時刻を示している。図13の横軸において、時刻ta4は、図13(A)において、目標エンジントルクTe*が新規領域上限値nTul以上となった時刻、かつ、図13(C)において、計測空燃比ABFactがストイキ近傍となった時刻を示している。図13の横軸において、時刻ta5は目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以上となった時刻を示している。
【0090】
火花点火式燃焼モードを実施中に、時刻ta1において目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以下となり、かつ、エンジン回転速度NeがNe_A以上かつNe_B以下である場合には、圧縮自己着火式燃焼モードへと燃焼モードを切替えるべく、燃焼モードフラグFexを0から1へと変更する。その後、時刻ta1以降では圧縮自己着火式燃焼モードが実行される。このとき、計測空燃比ABFactが目標空燃比ABFtgtよりもリッチであると検出されるため、時刻ta2において、空燃比の差分ΔABFを演算し、ΔABFに基づいて領域上限値補正量ΔTulを演算した後、ΔTulに基づいて領域上限値をTulから新規領域上限値nTulへと変更する(Tul<nTul)。時刻ta3において目標エンジントルクTe*が増加を開始した後、空燃比ABFactがリッチ化していく。この際、時刻ta4において目標エンジントルクTe*が新規領域上限値nTul以上となった場合には速やかに燃焼モードを圧縮自己着火式燃焼モードから火花点火式燃焼モードへと切替えるべく、燃焼モードフラグFexを1から0へと変更する。これにより空燃比ABFactが適切に制御され、時刻ta4以降には火花点火式燃焼モードの空燃比であるストイキ近傍を保持する。そのため、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比がストイキ近傍よりもリッチ化することを防止することが可能であるため、目標エンジントルクに対するエンジントルクの低下(失火)とエンジン回転速度の落ち込みを抑制することが可能であり、目標エンジントルクに応じたエンジントルクを発生することが可能となる。
【0091】
以上より、本発明の実施形態である圧縮自己着火式内燃機関の制御装置を適用することにより、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比が初期設定の目標空燃比よりもリッチ化した場合においても、圧縮自己着火式燃焼領域の領域上限値を適切に変更することにより、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比がストイキ近傍よりもリッチ化することを防止することで失火の発生を防止し、圧縮自己着火式内燃機関の運転性を確保することが可能となる。
【0092】
本発明の実施形態である圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比が初期設定の目標空燃比よりもリッチであった場合の具体的動作は、これに限るものでなく、下記の通りであってもよい。具体的には、図13において、時刻ta2にて演算した空燃比の差分ΔABFから領域上限値補正量ΔTulを演算するものではなく、時刻ta3における目標エンジントルクTe*の増加傾向から時刻ta5にて目標エンジントルクTe*が初期設定の領域上限値Tul以上となることを推測し、先に演算したΔABFに基づいて時刻ta5から時間Δtaだけ早期化した時期にて燃焼モードを圧縮自己着火式燃焼モードから火花点火式燃焼モードへと切替える必要があると判断し、時刻ta4において燃焼モードフラグFexを1から0へと切替えるものであっても良い。
【0093】
次に図14および図15を用いて、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比が初期設定の目標空燃比よりもリーン化した場合に関して説明する。
【0094】
図14は本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による火花点火式燃焼モードと圧縮自己着火式燃焼モードとの切替制御を適用しない場合に、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比が初期設定値よりもリーン化する場合のタイミングチャートを示す。
【0095】
図14において、横軸は時間を示している。図14(A)の縦軸は、エンジントルクTeを示している。図の上方に向かってエンジントルクは増加している。図14(B)の縦軸は、エンジン回転速度Neを示している。図の上方に向かってエンジン回転速度は増加している。図14(C)は空燃比を示している。図の上方に向かって空燃比はリーンとなる。図14(D)は燃焼モードフラグを示している。Fex=0は燃焼モードが火花点火式燃焼モードであることを示し、Fex=1は燃焼モードが圧縮自己着火式燃焼モードであることを示している。
【0096】
図14において、図14(A)の実線は目標エンジントルクTe*を示し、破線は発生するエンジントルクTeを示し、点線は図5に示す圧縮自己着火式燃焼領域の領域上限値の初期設定値であるTulを示している。図14(B)の点線のNe_AおよびNe_Bはそれぞれ、圧縮自己着火式燃焼が実施可能なエンジン回転速度の下限値および上限値を示している。図14(C)の実線は空燃比センサ9の出力信号である計測空燃比ABFactを示し、破線は図6のマップのように、圧縮自己着火式燃焼モードにおける目標空燃比の初期設定値ABFtgtを示し、点線は火花点火式燃焼モードにて設定されるストイキ近傍の空燃比を示している。
【0097】
図14の横軸において、時刻tb1は目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以下となった時刻を示している。図14の横軸において、時刻tb2は目標エンジントルクTe*が増加を開始した時刻を示している。図14の横軸において、時刻tb3は目標エンジントルクTe*が初期設定の領域上限値Tul以上となり、燃焼モードフラグが1から0へと変更した時刻を示している。図14の横軸において、時刻tb4は時刻tb3にて燃焼モードを火花点火式燃焼モードへと切替えずに圧縮自己着火式燃焼モードを継続しながら目標エンジントルクTe*を増加させた際に、空燃比ABFactがストイキ近傍となる時刻であり、目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以上となった時刻を示している。
【0098】
火花点火式燃焼モードを実施中に、時刻tb1において目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以下となり、かつ、エンジン回転速度がNe_A以上かつNe_B以下である場合には、圧縮自己着火式燃焼モードへと燃焼モードを切替えるべく、燃焼モードフラグFexを0から1へと変更する。時刻tb1以降では圧縮自己着火式燃焼モードが実行されるが、空燃比ABFactが目標空燃比ABFtgtよりもリーンとなるため、時刻tb2以降より目標エンジントルクTe*の増大を継続した場合、空燃比ABFactがストイキ近傍よりもリーンとなる時刻tb3において、目標エンジントルクTe*が初期設定での領域上限値Tul以上となることから、以降の目標エンジントルクTe*の増加にも圧縮自己着火式燃焼モードが継続可能であるにも関わらず、燃焼モードを火花点火式燃焼モードへと切替えるべく、燃焼モードフラグFexを1から0へと変更してしまう。そのため、時刻tb3から時刻tb4の期間にて圧縮自己着火式燃焼モードを実施することによる燃費削減ポテンシャルを有効活用することができない場合がある。
【0099】
図15は本発明の実施形態による圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による火花点火燃焼モードと圧縮自己着火式燃焼モードとの切替制御を適用した場合に、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比が初期設定値よりもリーン化する場合のタイミングチャートを示す。
【0100】
図15において、横軸は時間を示している。図15(A)の縦軸は、エンジントルクTeを示している。図の上方に向かってエンジントルクは増加している。図15(B)の縦軸は、エンジン回転速度Neを示している。図の上方に向かってエンジン回転速度は増加している。図15(C)は空燃比を示している。図の上方に向かって空燃比はリーンとなる。図15(D)は燃焼モードフラグを示している。Fex=0は燃焼モードが火花点火式燃焼モードであることを示し、Fex=1は燃焼モードが圧縮自己着火式燃焼モードであることを示している。図15(E)は圧縮自己着火式燃焼領域のエンジントルク方向の領域上限値Tulを空燃比に応じて変化させる量である領域上限値補正量ΔTulを示している。図上方に向かって領域補正量ΔTulは増加している。
【0101】
図15において、図15(A)の実線は目標エンジントルクTe*を示し、破線は発生するエンジントルクTeを示し、点線は図5に示す圧縮自己着火式燃焼領域の領域上限値の初期設定値であるTulを示し、太線は領域上限値Tulに領域上限値補正量ΔTulを減じた新規領域上限値nTulを示している。図15(B)の点線であるNe_AおよびNe_Bはそれぞれ、圧縮自己着火式燃焼が実施可能なエンジン回転速度の下限値および上限値を示している。図15(C)の実線は空燃比センサ9の出力信号である計測空燃比ABFactを示し、破線は図6のマップのように、圧縮自己着火式燃焼モードにおける目標空燃比の初期設定値ABFtgtを示し、点線は火花点火式燃焼モードにて設定されるストイキ近傍の空燃比を示している。
【0102】
図15の横軸において、時刻tc1は目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以下となった時刻を示している。図15の横軸において、時刻tc2は、図15(C)において演算した目標空燃比ABFtgtと計測空燃比AFBactとの差分であるΔABFを演算し、ΔABFに基づいて領域上限値をTulから新規領域上限値nTulへと変更した時刻を示している。図15の横軸において、時刻tc3は目標エンジントルクTe*が増加を開始した時刻を示している。図15の横軸において、時刻tc4は、図15(A)において、目標エンジントルクTe*が新規領域上限値Tul以上となった時刻、かつ、図15(C)において、初期設定の目標空燃比ABFactがストイキ近傍となった時刻を示している。図15の横軸において、時刻ta5は目標エンジントルクTe*が新規領域上限値nTul以上となった時刻であり、計測空燃比ABFactがストイキ近傍となった時刻を示している。
【0103】
火花点火式燃焼モードを実施中に、時刻tc1において目標エンジントルクTe*が領域上限値Tul以下となり、かつ、エンジン回転速度NeがNe_A以上かつNe_B以下である場合には、圧縮自己着火式燃焼モードへと燃焼モードを切替えるべく、燃焼モードフラグFexを0から1へと変更する。その後、時刻tc1以降では圧縮自己着火式燃焼モードが実行される。このとき、計測空燃比ABFactが目標空燃比ABFtgtよりもリーンであると検出されるため、時刻tc2において、空燃比の差分ΔABFを演算し、ΔABFに基づいて領域上限値補正量ΔTulを演算した後、ΔTulに基づいて領域上限値をTulから新規領域上限値nTulへと変更する(Tul>nTul)。時刻tc3において目標エンジントルクTe*が増加を開始した後、空燃比ABFactがリーン化していく。この際、時刻tc4において目標エンジントルクTe*が初期設定の領域上限値Tul以上となるが、空燃比がリーンであるため、以降も圧縮自己着火式燃焼モードが継続可能と判断し、圧縮自己着火式燃焼モードを継続するため、目標エンジントルクTe*の増加に伴い、計測空燃比ABFactがリッチ方向へ変化していく。時刻tc5にて目標エンジントルクTe*が新規領域上限値nTul以上となった際には、計測空燃比ABFactがストイキ近傍となり、燃焼モードを圧縮自己着火式燃焼モードから火花点火式燃焼モードへと切替えるべく、燃焼モードフラグFexを1から0へと変更する。
【0104】
以上より、本発明の実施形態である圧縮自己着火式内燃機関の制御装置を手強することにより、圧縮自己着火式燃焼モード時の計測空燃比ABFactが初期設定の目標空燃比ABFtgtよりもリーンである場合でも、圧縮自己着火式燃焼モードの領域上限値をエンジントルク増加方向へと変更することにより、目標エンジントルクの増加に対しても、圧縮自己着火式燃焼モードを実施可能なエンジントルクまで継続することから、圧縮自己着火式燃焼モードの燃費ポテンシャルを有効活用し、更なる燃費削減を実現することが可能となる。
【0105】
本発明の実施形態である圧縮自己着火式内燃機関の制御装置による、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比が初期設定の目標空燃比よりもリーンであった場合の具体的動作は、これに限るものでなく、下記の通りであってもよい。具体的には、図15において、時刻tc2にて演算した空燃比の差分ΔABFから領域上限値補正量ΔTulを演算するものではなく、時刻tc3における目標エンジントルクTe*の増加傾向から時刻tc4にて目標エンジントルクTe*が初期設定の領域上限値Tul以上となることを推測し、先に演算したΔABFに基づいて時刻tc4から時間Δtcだけ遅延した時期にて燃焼モードを圧縮自己着火式燃焼モードから火花点火式燃焼モードへと切替えることが可能であると判断し、時刻tc5において燃焼モードフラグFexを1から0へと切替えるものであっても良い。
【0106】
以上、本発明の各実施形態について詳説したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の精神を逸脱しない範囲で、設計において種々の変更ができる。
【0107】
より具体的には、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比は排気管8の適宜位置に備えられた空燃比センサ9の出力信号に基づくものであったが、エアフローセンサ1、または、図には明記していないが、吸気管内の圧力を計測するセンサ、または、シリンダに流入する空気量の温度を計測するセンサ、または、大気圧を計測するセンサ、または、機関温度を計測するセンサ、または、インジェクタ3を通過する燃料流量を計測するセンサ、または、インジェクタ3から燃料を噴射するために燃料に加えられる圧力を計測するセンサ、の出力信号に基づき推定するものであっても良い。
【0108】
上述の通り、本発明を適用することにより、圧縮自己着火式燃焼モード時の空燃比に応じて適切に燃焼モードの切替えを実施することで、空燃比がリッチ化による失火などの運転性の悪化を抑制することができるとともに、空燃比がリーンによる燃費ポテンシャルの有効活用が可能となる。
【符号の説明】
【0109】
1 エアフローセンサ
2 電子制御スロットル
3 インジェクタ
4 点火プラグ
5 可変バルブ
5a 吸気バルブ
5b 排気バルブ
6 吸気管
7 シリンダ
8 排気管
9 空燃比センサ
10 三元触媒
11 クランク軸
12 クランク角度センサ
13 ピストン
20 ECU
20a 入力回路
20b 入出力ポート
20c RAM
20d ROM
20e CPU
20f 電子スロットル駆動回路
20g インジェクタ駆動回路
20h 点火出力回路
20j 可変バルブ駆動回路
21 燃焼モード切替判定部
21a 領域上限値演算部
21b 目標空燃比演算部
21c,21e 引算部
21d 領域上限値補正量演算部
21f 燃焼モード切替部
22 火花点火式燃焼用操作量演算部
23 圧縮自己着火式燃焼用操作量演算部
24 燃焼モード切替部
100 エンジン
111 排気温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室へ燃料を直接噴射するインジェクタと、
前記燃焼室に噴射された燃料に点火するための点火装置と、
を有する内燃機関に用いられ、
前記点火装置によって前記インジェクタから噴霧された燃料に点火・燃焼させて前記内燃機関を作動させる火花点火式燃焼モードと、前記燃焼室を形成するピストンの上昇に伴う、圧力上昇によって前記インジェクタから噴射された燃料を燃焼させて前記内燃機関を作動させる圧縮自己着火式燃焼モードとを、前記内燃機関の作動状態が、トルクと機関回転速度にて決定される前記圧縮自己着火式燃焼モードを安定的に実施可能な圧縮自己着火式燃焼領域にあるか否かで切替える圧縮自己着火式内燃機関の制御装置であって、
前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の前記燃焼室内に導入した空気量と燃料量の質量比である空燃比が所定値よりもリッチな場合には、
前記圧縮自己着火式燃焼領域のトルク方向の上限値をトルクが減少する方向に変更することを特徴とする圧縮自己着火式内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の空燃比が前記所定値よりもリーンである場合には、前記圧縮自己着火式燃焼領域のトルク方向の上限値をトルクが増加する方向へと変更することを特徴とする請求項1記載の圧縮自己着火式内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の空燃比が所定値よりもリッチであり、
前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中に、前記圧縮自己着火式燃焼領域の上限値以上にトルクを増加させる要求がある場合、
前記トルクを増加させる要求がある以前のトルクを基準として、前記圧縮自己着火式燃焼モードにてトルクを増加させる量を、空燃比が所定値である場合の増加量よりも減量して、圧縮自己着火式燃焼モードにて前記トルクを増加した後、火花点火式燃焼モードにて前記トルクを増加することを特徴とする請求項1記載の圧縮自己着火式内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の空燃比が前記所定値よりもリーンであり、
前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中に、前記圧縮自己着火式燃焼領域の上限値以上にトルクを増加させる要求があった場合、
前記トルクを増加させる要求がある以前のトルクを基準として、前記圧縮自己着火式燃焼モードにてトルクを増加させる量を、空燃比が前記所定値である場合の増加量よりも増量して、前記圧縮自己着火式燃焼モードにてトルクを増加した後、前記火花点火式燃焼モードにてトルクを増加することを特徴とする請求項1記載の圧縮自己着火式内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の空燃比が前記所定値よりもリッチであり、
前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中に、前記圧縮自己着火式燃焼領域の上限値以上にトルクを増加させる要求があった場合、
トルクを増加させる要求がある以前に前記圧縮自己着火式燃焼モードを継続する期間を基準として、前記圧縮自己着火式燃焼モードにてトルクを増加させる期間を短縮して、前記圧縮自己着火式燃焼モードにてトルクを増加した後、前記火花点火式燃焼モードにてトルクを増加することを特徴とする請求項1記載の圧縮自己着火式内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中の空燃比が前記所定値よりもリーンであり、
前記圧縮自己着火式燃焼モードを実施中に、前記圧縮自己着火式燃焼領域の上限値以上にトルクを増加させる要求があった場合、
前記トルクを増加させる要求がある以前に前記圧縮自己着火式燃焼モードを継続する期間を基準として、前記圧縮自己着火式燃焼モードにてトルクを増加させる期間を延長して、前記圧縮自己着火式燃焼モードにてトルクを増加した後、前記火花点火式燃焼モードにて前記トルクを増加することを特徴とする請求項1記載の圧縮自己着火式内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記空燃比は、前記排気弁の下流に設けられた空燃比を検出するセンサの出力信号に基づいて決定することを特徴とする請求項1記載の圧縮自己着火式内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記空燃比は、前記内燃機関に設けられた、吸気管内を通過する空気流量を計測するセンサ、または、吸気管内の圧力を計測するセンサ、または、前記燃焼室に流入する空気量の温度を計測するセンサ、または、大気圧を計測するセンサ、または、前記内燃機関の機関温度を計測するセンサ、または、前記インジェクタを通過する前記燃料の流量を計測するセンサ、または、前記インジェクタから前記燃料を噴射するために前記燃料に加えられる圧力を計測するセンサ、のいずれか一つの出力信号に基づいて決定することを特徴とする請求項1記載の圧縮自己着火式内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−265750(P2010−265750A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115114(P2009−115114)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】