説明

圧電振動片および圧電デバイス

【課題】小型化をする上で、安定した屈曲振動を実現し、CI値を低く抑えることができる圧電振動片と、このような圧電振動片を利用した圧電デバイスを提供すること。
【解決手段】圧電材料により形成された基部51と、前記基部と一体に形成され、互いに平行に延びる複数の振動腕35,36と、前記各振動腕の長手方向に沿って形成された長溝と、前記長溝33,34に形成した駆動用の電極とを備えており、前記各振動腕の幅寸法が、前記振動腕の前記基部に対する付け根の箇所で、先端側に向かって急激に縮幅する第1の縮幅部TLと、この第1の縮幅部の終端から、さらに先端側に向かって、徐々に縮幅する第2の縮幅部CLと、この第2の縮幅部の終端において、前記幅寸法が先端側に向かって増加に転じる幅変化の変更点Pとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動片と、パッケージやケース内に圧電振動片を収容した圧電デバイスの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
HDD(ハード・ディスク・ドライブ)、モバイルコンピュータ、あるいはICカード等の小型の情報機器や、携帯電話、自動車電話、またはページングシステム等の移動体通信機器や圧電ジャイロセンサー等において、圧電振動子や圧電発振器等の圧電デバイスが広く使用されている。
図6は、圧電デバイスに従来より用いられている圧電振動片の一例を示す概略平面図であり、図7は図6のA−A線切断端面図である。
【0003】
図において、圧電振動片1は、水晶などの圧電材料をエッチングすることにより、図示する外形を形成するもので、パッケージ(図示せず)等に取付けられる矩形の基部2と、基部2から図において右方に延長された一対の振動腕3,4を備えており、これら振動腕の主面(表裏面)に長溝3a,4aを形成するとともに、必要な駆動用の電極を形成したものである(特許文献1参照)。
このような圧電振動片1においては、駆動用の電極を介して駆動電圧が印加されると、各振動腕3,4の先端部を近接・離間するようにして、屈曲振動することにより、所定の周波数の信号が取り出されるようになっている。
【0004】
ところで、このような圧電振動片1は、これを利用した圧電デバイスが取付けられる上記した種々の製品の小型化にともない、小型に形成することがもとめられており、このため、圧電振動片1もできる限り小型に形成しなければならず、特にその全長AL1を小さくすることがもとめられる。そして、製品の小型化は不断に進展していることから、圧電振動片1においては、より小型に形成していくことができる構造がもとめられている。
【0005】
ここで、図示のような音叉型圧電振動片である圧電振動片1の周波数fは、振動腕3,4の長さをl、腕幅をwとした場合、w/lに比例する。
このことは、一方向に長い圧電振動片1を小型化しようとして、図6における全長AL1の大きさを小さくしようとする場合、振動腕の長さlを短くすると、周波数が高くなることを意味する。また、振動腕の幅wが小さくなると、周波数は下がる。このことから、従来の周波数を維持して、小型化を図るためには、振動腕の長さをある程度短くしつつ腕幅wを小さくしなければならない。
【0006】
【特許文献1】特開2002−261575
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、圧電振動片1を小型化する上では、これまでの周波数である例えば32kHz(32.768kHz)を維持するために、振動腕3,4の長さlを短くし、腕幅wを小さくすることがもとめられるが、小型の圧電振動片1を加工する上では、その特性を維持しながら、特に腕幅wを小さく加工しようとすると、以下のような困難がある。
【0008】
具体的には、振動腕3,4には、図7に示すような長溝3a,4aを加工する必要がある。図7のtの寸法は、例えば水晶ウエハなどの加工材料の条件に拘束されるため変化しないので、これまでのものが例えば100μmである場合においては、小型化する場合にも100μmである。
これに対して、腕幅wは、これまでのものが100μmであったものを、小型化により50μm程度とする場合を考える。腕幅100μmの際に、溝幅C1が70μm程度、側壁厚みS1,S1がそれぞれ15μm程度づつあったものが、腕幅wを50μm程度とすると、溝幅C1が40μm程度、側壁厚みS1,S1はそれぞれ5μm程度づつとしなければならない。
【0009】
このような圧電振動片を作った場合には、振動腕3,4の剛性は大きく低下し、駆動電圧の印加による上述の屈曲振動の際には、図7におけるZ方向の振幅が加わり、振動腕3,4のX方向に沿った屈曲振動が、矢印SF,SFで誇張して示すような屈曲振動になってしまう。
図8は、従来構造のまま圧電振動片を小型化した場合のドライブ特性を示すグラフであり、図の横軸に沿って、駆動パワーのレベルを徐々に増大させると、縦軸の周波数変化がマイナス方向に生じる。このことは、図7のZ方向振動の成分が多くなって、エネルギーロスの多い振動となってしまうことを示しており、CI(クリスタルインピーダンス)値の増大の原因となる。
【0010】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、小型化をする上で、安定した屈曲振動を実現し、CI値を低く抑えることができる圧電振動片と、このような圧電振動片を利用した圧電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、第1の発明にあっては、圧電材料により形成された基部と、前記基部と一体に形成され、互いに平行に延びる複数の振動腕と、前記各振動腕の長手方向に沿って形成された長溝と、前記長溝に形成した駆動用の電極とを備えており、前記各振動腕の幅寸法が、前記振動腕の前記基部に対する付け根の箇所で、先端側に向かって急激に縮幅する第1の縮幅部と、この第1の縮幅部の終端から、さらに先端側に向かって、徐々に縮幅する第2の縮幅部と、この第2の縮幅部の終端において、前記幅寸法が先端側に向かって等しい寸法で延びるか、もしくは増加に転じる幅変化の変更点Pとを有する圧電振動片により達成される。
【0012】
第1の発明の構成によれば、所謂音叉型圧電振動片においては、振動腕に形成した前記長溝に駆動用の電極(励振電極)を形成した場合に、第1の縮幅部の終端から、さらに先端側に向かって、前記振動腕の腕幅が徐々に縮幅するようにした前記第2の縮幅部を設けるとともに、前記先端側には前記幅寸法が増加に転じる幅変化の変更点Pを設けることにより、CI値を抑制しつつ、2次の高調波における発振の防止をすることができる。
しかも、前記振動腕の前記基部に対する付け根の箇所で、先端側に向かって急激に縮幅する第1の縮幅部を有しているので、振動腕が屈曲振動する際に、最も大きな応力が作用し、歪みが大きくなる付け根部分の剛性を向上させることができる。これにより、振動腕の屈曲振動が安定し、不要な方向への振動成分が抑制されるので、一層CI値を低減させることができる。
したがって、小型化をする上で、安定した屈曲振動を実現し、CI値を低く抑えることができる圧電振動片を提供することができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明の構成において、前記第1の縮幅部の幅が11μm以上であることを特徴とする。
第2の発明の構成によれば、第1の縮幅部の幅を11μm以上とすることで、CI値の顕著な減少を図ることができる。
【0014】
また、上記目的は、第3の発明にあっては、パッケージまたはケース内に圧電振動片を収容した圧電デバイスであって、前記圧電振動片が、圧電材料により形成された基部と、前記基部と一体に形成され、互いに平行に延びる複数の振動腕と、前記各振動腕の長手方向に沿って形成された長溝と、前記長溝に形成した駆動用の電極とを備えており、前記各振動腕の幅寸法が、前記振動腕の前記基部に対する付け根の箇所で、先端側に向かって急激に縮幅する第1の縮幅部と、この第1の縮幅部の終端から、さらに先端側に向かって、徐々に縮幅する第2の縮幅部と、この第2の縮幅部の終端において、前記幅寸法が先端側に向かって等しい寸法で延びるか、もしくは増加に転じる幅変化の変更点Pとを有する圧電デバイスにより、達成される。
第3の発明の構成によれば、第1の発明と同様の原理により、小型化をする上で、安定した屈曲振動を実現し、CI値を低く抑えることができる圧電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1ないし図4は、本発明の圧電デバイスの実施形態を示しており、図1はその概略平面図、図2は図1のB−B線概略断面図、図3は図1の圧電デバイスに使用されている圧電振動片の実施形態を示す概略平面図、図4は図3のC−C線切断端面図である。
これらの図において、圧電デバイス30は、圧電振動子を構成した例を示しており、この圧電デバイス30は、図1および図2に示すように、パッケージ37内に圧電振動片32を収容している。パッケージ37は、図2に示すように、第1の基板55と第2の基板56とを積層して形成されており、例えば、絶縁材料として、酸化アルミニウム質のセラミックグリーンシートを成形して図示の形状とした後で、焼結して形成されている。
【0016】
パッケージ37は、図2に示すように、第2の基板56の内側の材料を除去することで、内部空間Sのスペースを形成している。この内部空間Sが圧電振動片32を収容するための収容空間である。そして、第1の基板55に形成した電極部31,31の上に、導電性接着剤43,43を用いて、圧電振動片32の基部に設けた引出し電極37a,38aの箇所を載置して接合している。なお、電極部31,31はパッケージ裏面の実装端子41,42と導電スルーホールなどで接続されている。パッケージ37は、圧電振動片32を収容した後で、透明なガラス製の蓋体40が封止材38を用いて接合されることにより、気密に封止されている。これにより、蓋体40を封止した後で、外部からレーザ光LBを照射して圧電振動片32の電極などをトリミングして、周波数調整できるようになっている。
【0017】
圧電振動片32は、例えば水晶で形成されており、水晶以外にもタンタル酸リチウム,ニオブ酸リチウム等の圧電材料を利用することができる。この圧電振動片32は、図3に示すように、パッケージ37側と固定される基部51と、この基部51を基端として、図において上に向けて、二股に別れて平行に延びる一対の振動腕35,36を備えている。
各振動腕35,36の主面の表裏には、好ましくは、それぞれ長さ方向に延びる長溝33,34をそれぞれ形成し、図3および図4に示すように、この長溝内に駆動用の電極である励振電極37,38が設けられている。このような圧電振動片32の音叉状の外形と、各振動腕に設ける長溝は、それぞれ例えば水晶ウエハなどの材料をフッ酸溶液などでウエットエッチングしたり、ドライエッチングすることにより精密に形成することができる。
【0018】
励振電極37,38は、長溝33,34内と、各振動腕の側面とに形成され、各振動腕について長溝内の電極と、側面に設けた電極が対となるようにされている。そして、各励振電極37,38は、図1で説明した引出し電極37a,38aにそれぞれ引き回されている。これにより、圧電デバイス30を実装基板などに実装した場合に、外部からの駆動電圧が、各実装端子41,42から、電極部31,31を介して圧電振動片32の各引出し電極37a,38aに伝えられ、各励振電極37,38に伝えられるようになっている。
【0019】
そして、長溝33,34内の励振電極に駆動電圧が印加されることによって、駆動時に、各振動腕の長溝が形成された領域の内部の電界効率を高めることができるようになっている。
また、好ましくは、基部51には、図6の振動片と同様に、基部51の両側縁に、基板51の幅方向の寸法に関して部分的に縮幅して形成した凹部もしくは切り込み部を設けてもよい(図示せず)。この切り込み部は、基部51の各振動腕35,36の付け根に近接した箇所である。これにより、各振動腕35,36の屈曲振動による振動の基部51側への漏れ込みを大きく低減することができ、CI値の抑制効果を得ることができる。
【0020】
さらに、圧電振動片32においては、各振動腕35,36が図3に示すような形状となるように形成されている。各振動腕は同じ形状であるから、振動腕36について説明すると、基部51から延びる基端部Tでは、振動腕幅が最も広い。そして、振動腕36の付け根であるこのTの位置から振動腕36の先端側に僅かな距離だけ離れたUの箇所の間において、急激に縮幅する第1の縮幅部TLが形成されている。そして第1の縮幅部TLの終端であるUの位置から、振動腕36のさらに先端側に向かってPの位置まで、すなわち、振動腕に関して、CLの距離にわたって、徐々に連続的に縮幅する第2の縮幅部が形成されている。
【0021】
このため、振動腕36は基部に近い付け根付近が、第1の縮幅部TLを設けることにより、高い剛性を備えるようにされている。また、第1の縮幅部の終端Uから先端に向かうにつれて、第2の縮幅部を形成したことにより、連続的に剛性が低くなるようにされている。Pの箇所は腕幅の変更点Pであり、振動腕36の形態上くびれた位置であるから、くびれ位置Pと表現することができる。振動腕36においては、このくびれ位置Pよりもさらに先端側は、腕幅が同じ寸法で延長されるか、あるいは図示のように徐々に拡大している。
ここで、図3の長溝33,34が長い程、振動腕35,36を形成する材料について電界効率が向上し、振動腕の全長Lに対して、長溝33,34の基部51からの長さPLが、少なくともPL/L=0.7程度までは、長くするほど音叉型振動片のCI値は下がることがわかっている。この実施形態では、図3において、振動腕36の全長Lは、例えば1200μm程度である。
【0022】
ここで、図5は図3の右側に拡大して示した第1の縮幅部TLの幅寸法とCI値の関係を図示したものである。
この場合、第1の縮幅部の高さ寸法THは50μm程度として、幅TWを横軸にとり、縦軸に示すCI値の変化を記録している。
図示されているように、TWが小さいとCI値が高く、TWが大きくなると歪みが小さくなって、図7で説明したZ方向の振動成分が減少し、振動が安定することで、CI値が小さくなる。図示されているように、この場合には、TWが0つまり、全く第1の縮幅部を形成しない状態から、この第1の縮幅部を設けてTWを10μm程度、特に11μm付近まで形成する場合に顕著に、CI値の顕著な減少が見られる。さらにTWの寸法が大きくされて、基部51の幅一杯まで増加させる間もCI値は徐々に減少する。
【0023】
以上の構造により、振動腕36の根本部分、すなわち、付け根付近が、第1の縮幅部により、剛性が強化されている。これにより、振動腕の屈曲振動を一層安定させることができCI値の抑制をはかることができる。
しかも、第2の縮幅部を設けたことで、振動腕36は、その付け根付近から、先端側に向かって、くびれ位置Pまで、徐々に剛性が低下し、くびれ位置Pからさらに先端側では、長溝34が無く、腕幅が徐々に拡大していることから、剛性は先端側にいくに従って高くされている。
このため、2次の高調波における振動の際の振動の「節」を、振動腕36のより先端側に位置させることができると考えられ、このことにより、長溝34を長くして圧電材料の電界効率を上げ、CI値を上昇させても、基本波のCI値を抑制しながら、2次の高調波のCI値の低下を招くことがないようにすることができる。かくして、小型化しても、基本波のCI値を低く抑えることができ、ドライブ特性が悪化することがない圧電振動片を提供することができる。
【0024】
本発明は上述の実施形態に限定されない。実施形態の各構成はこれらを適宜組み合わせたり、省略し、図示しない他の構成と組み合わせることができる。
また、この発明は、箱状のパッケージに圧電振動片を収容したものに限らず、シリンダー状の容器に圧電振動片を収容したもの、圧電振動片をジャイロセンサとして機能するようにしたもの、さらには、圧電振動子、圧電発振器等の名称にかかわらず、圧電振動片を利用したあらゆる圧電デバイスに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の圧電デバイスの実施形態を示す概略平面図。
【図2】図1のB−B線概略断面図。
【図3】図1の圧電デバイスに使用される圧電振動片の概略平面図。
【図4】図3のC−C線切断端面図。
【図5】図3の圧電振動片の第1の縮幅部の幅寸法とCI値の関係を示すグラフ。
【図6】従来の圧電振動片の概略平面図。
【図7】図6のA−A線切断端面図。
【図8】図6の圧電振動片のドライブレベル特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0026】
30・・・圧電デバイス、32・・・圧電振動片、33,34・・・長溝、35,36・・・振動腕、TL・・・第1の縮幅部、CL・・・第2の縮幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料により形成された基部と、
前記基部と一体に形成され、互いに平行に延びる複数の振動腕と、
前記各振動腕の長手方向に沿って形成された長溝と、
前記長溝に形成した駆動用の電極と
を備えており、
前記各振動腕の幅寸法が、前記振動腕の前記基部に対する付け根の箇所で、先端側に向かって急激に縮幅する第1の縮幅部と、
この第1の縮幅部の終端から、さらに先端側に向かって、徐々に縮幅する第2の縮幅部と、
この第2の縮幅部の終端において、前記幅寸法が先端側に向かって等しい寸法で延びるか、もしくは増加に転じる幅変化の変更点Pと
を有することを特徴とする、圧電振動片。
【請求項2】
前記第1の縮幅部の幅が11μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の圧電振動片。
【請求項3】
パッケージまたはケース内に圧電振動片を収容した圧電デバイスであって、
前記圧電振動片が、
圧電材料により形成された基部と、
前記基部と一体に形成され、互いに平行に延びる複数の振動腕と、
前記各振動腕の長手方向に沿って形成された長溝と、
前記長溝に形成した駆動用の電極と
を備えており、
前記各振動腕の幅寸法が、前記振動腕の前記基部に対する付け根の箇所で、先端側に向かって急激に縮幅する第1の縮幅部と、
この第1の縮幅部の終端から、さらに先端側に向かって、徐々に縮幅する第2の縮幅部と、
この第2の縮幅部の終端において、前記幅寸法が先端側に向かって等しい幅で延びるか、もしくは増加に転じる幅変化の変更点Pと
を有することを特徴とする、圧電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−121544(P2006−121544A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309137(P2004−309137)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】