説明

圧電素子の製造方法ならびに圧電素子およびそれを用いる振動板

【課題】圧電体粉末と、バインダと、溶媒とを含むペースト材料を、基板上に印刷した後、焼成することで、圧電素子を製造する方法において、圧電特性を向上する。
【解決手段】単一径の圧電体粉末を用いるのではなく、比較的大径の圧電体粉末と小径の圧電体粉末と混合したペーストを用いる。具体的には、メジアンが0.9μmのPZT粉末と、0.3μmのPZT−PZN粉末とを1:1で混合した粉末を用いた。したがって、焼成前(a)と後(b)とを比較すると、大径のPZT粉末は成長の核になり、小径のPZT−PZN粉末は大径のPZT粉末に吸収されつつ、流動化が活発で緻密な膜を成膜する。これによって、圧電特性を向上することができる。また、本焼成の温度を1150℃から、850℃程度にまで下げることができ、基板へのダメージを小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の製造方法ならびに圧電素子およびそれを用いる振動板に関し、特に印刷によって前記圧電素子を形成するための手法に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)用アクチュエータ、特にマイクロミラーデバイス、pMUT(piesoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer:圧電マイクロマシン超音波発振器)、インクジェットプリンター用ヘッドの振動板として用いられる圧電素子において、該圧電素子にセラミックを用いる場合は、100μm程度に薄さの限界があり、また該圧電素子をスパッタで形成する場合には、10μm程度に厚さの限界があり、それらの間の駆動力に適した製法として、圧電素子を印刷によって形成することが注目されている。また、印刷による製法の場合、高精度なパターニングを行うことができ、さらに低コスト化を実現できる。特許文献1は、インクジェットヘッドに用いられる圧電素子を、そのような印刷法によって形成したものである。
【0003】
そのような印刷形成を可能にするためには、ペースト化したPZTなどの圧電体粉末を、スクリーン印刷で前記シリコンなどの基板上にパターニングし、圧電素子に焼成することが考えられる。その場合、前記圧電体粉末は、該圧電体粉末を均一に分散するためのバインダ(分散用樹脂)と、該圧電体粉末およびバインダを印刷に適した前記ペースト状に形成する溶媒と混合され、前記ペースト化される。
【0004】
したがって、印刷後は、ペーストの印刷された基板を、たとえば100℃程度のオーブンに入れ、溶媒を乾燥する処理と、たとえば約400℃程度の温度で樹脂を分解して圧電体粉末のみを残す脱バインダ処理とを行う必要がある。このような加熱処理後の圧電体粉末は、ファンデルワールス力で形状を保っているが、溶媒と樹脂とが抜けて、非常に空隙が多くなっている。その後、圧電体粉末を所定の温度で本焼成して、圧電体の薄層を基板上に得ることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−206317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、印刷後の本焼成では、セラミックの焼成とは異なり、加圧して密度を上げる工程がないので、焼成後の密度は低いままで、圧電特性が上がらないという問題がある。たとえば、圧電体粉末として、粒径が約0.6μmメジアンのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合、焼成後の圧電定数d31は、−80pm/Vであった。そして、焼成後のサンプルをSEM(走査型電子顕微鏡)で観察すると、前述のような空隙が見られ、密になっていないことが観察された。
【0007】
そこで、このような問題に対応するために、脱バインダ処理後に、圧電体粉末を、離形性の良い材質の部材で平面的に加圧して、焼成前に密にしておく方法も提案されているが、手間がかかり、また形状も崩れるので(印刷によるパターニングの精度が損なわれる)、量産には不向きである。
【0008】
本発明の目的は、圧電体粉末のペーストを印刷および焼成して成る圧電素子において、圧電特性を向上することができる圧電素子の製造方法ならびに圧電素子およびそれを用いる振動板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の圧電素子の製造方法は、圧電体粉末と、バインダと、溶媒とを含むペースト材料を、基板上に印刷した後、焼成することで、圧電素子を製造する方法において、前記圧電体粉末は、粒度分布に複数のピーク値を持つことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、MEMS用アクチュエータの振動板などとして用いられる圧電素子において、該圧電素子を、基板上に圧電体粉末を印刷形成して焼成することで作製するにあたって、前記圧電体粉末は、該圧電体粉末を均一に分散するためのバインダと、該圧電体粉末およびバインダを印刷に適したペースト状に形成する溶媒とを含むペースト材料として、前記基板上に印刷形成する必要がある。その場合、乾燥した溶媒や分解したバインダによって焼成後の圧電素子には多数の空隙が発生し、圧電特性が劣ることになる。そこで本発明では、前記圧電体粉末の粒度分布に、複数のピーク値を持たせる。すなわち、単一径の圧電体粉末を用いるのではなく、比較的大径の圧電体粉末と小径の圧電体粉末とを混合したペーストを用いる。
【0011】
したがって、前記大径の圧電体粉末は成長の核になり、前記小径の圧電体粉末は大径の圧電体粉末に吸収されつつ、流動化が活発で緻密な膜を成膜する。これによって、圧電特性を向上することができる。
【0012】
また、本発明の圧電素子の製造方法では、前記圧電体粉末は、比較的大径で融点の高い圧電体粉末および比較的小径で融点の低い圧電体粉末であることを特徴とする。
【0013】
たとえば、前記比較的大径で融点の高い圧電体粉末はPZTの粉末であり、前記比較的小径で融点の低い圧電体粉末はPZT−PZNの粉末であることを特徴とする。
【0014】
或いは、前記比較的大径で融点の高い圧電体粉末は化学量論的な組成のPZTの粉末であり、前記比較的小径で融点の低い圧電体粉末は前記化学量論的な組成から鉛が過剰に含まれているPZTの粉末であることを特徴とする。
【0015】
上記の構成によれば、小径の圧電体粉末に融点の低い材料を用いることで、焼成温度を下げることができ、基板などへのダメージを軽減することができる。
【0016】
さらにまた、本発明の圧電素子は、基板上に印刷後、焼成して形成される圧電素子において、該圧電素子の結晶粒が、比較的融点の高い圧電体組成物を、比較的融点の低い圧電体組成物で覆って成ることを特徴とする。
【0017】
たとえば、前記比較的融点の高い圧電体組成物はPZTから成り、前記比較的融点の低い圧電体組成物はPZT−PZNから成ることを特徴とする。
【0018】
或いは、前記比較的融点の高い圧電体組成物はPZTから成り、前記比較的融点の低い圧電体組成物は前記PZTよりも化学量論的な組成から鉛が過剰に含まれているPZTから成ることを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、圧電体粉末のペーストを印刷および焼成して成る圧電素子において、結晶が密に詰まった圧電特性が高い圧電素子を実現することができる。
【0020】
また、本発明の振動板は、前記の圧電素子をシリコン基板上に形成して成ることを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、圧電特性の高い圧電素子を用い、大きな振動を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の圧電素子の製造方法は、以上のように、圧電体粉末と、バインダと、溶媒とを含むペースト材料を、基板上に印刷した後、焼成することで、圧電素子を製造する方法において、単一径の圧電体粉末を用いるのではなく、比較的大径の圧電体粉末と小径の圧電体粉末と混合したペーストを用いる。
【0023】
それゆえ、前記大径の圧電体粉末は成長の核になり、前記小径の圧電体粉末は大径の圧電体粉末に吸収されつつ、流動化が活発で緻密な膜を成膜する。これによって、圧電特性を向上することができる。
【0024】
さらにまた、本発明の圧電素子は、以上のように、基板上に印刷後、焼成して形成される圧電素子において、該圧電素子の結晶粒が、比較的融点の高い圧電体粒子、たとえばPZTを、比較的融点の低い薄膜、たとえばPZT−PZNで覆って成る。
【0025】
それゆえ、圧電体粉末のペーストを印刷および焼成して成る圧電素子において、結晶が密に詰まった圧電特性が高い圧電素子を実現することができる。
【0026】
また、本発明の振動板は、以上のように、前記の圧電素子をシリコン基板上に形成して成る。
【0027】
それゆえ、圧電特性の高い圧電素子を用い、大きな振動を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の一形態に係る振動板の模式的な断面図である。
【図2】前記振動板を用いるインクジェットプリンタヘッドの断面図である。
【図3】本発明の実施の第1の形態における圧電体粉末の粒度分布を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の他の形態に係る振動板の模式的な断面図である。
【図5】本発明の実施の第2の形態における圧電層の焼結前後の結晶構造の違いを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の一形態に係る振動板1の模式的な断面図である。この振動板1は、大略的に、薄板状の基板2上に、圧電素子3が積層されて構成され、後述の図2で示すインクジェットプリンタヘッド21に用いられる。
【0030】
前記圧電素子3は、後述するようにして作成される圧電層4の両表面に、電極5,6が積層されて構成される。前記基板2は、シリコンから成り、その上には、先ず熱酸化膜7が形成され、次にバリア層8が形成された後、下部電極5、前記圧電層4および上部電極6から成る圧電素子3が積層される。
【0031】
前記基板2は、厚さ200μm程度に形成される。前記熱酸化膜7は、500nm〜3μm程度に形成される。前記バリア層8は、前記圧電層4を構成するPZTにおける鉛の熱酸化膜7側への拡散および熱酸化膜7側から圧電層4側へのシリコンの拡散を防止するための酸化アルミニウム層と、下部電極5を成す白金の圧電層4に対する密着性を向上する酸化チタン層とが積層されて成り、前記酸化アルミニウム層が100〜1000nm程度、酸化チタン層が10〜50nm程度に形成されている。さらに、このバリア層8を備えることで、下部電極5の結晶の配向性が向上し、圧電層4の結晶配向性も向上し、圧電定数のより高い圧電素子を得ることができる。下部電極5の厚さは、100nm〜500nm程度に形成されている。上部電極6も下部電極5と同様に、白金、金などから成り、その厚さは100nm〜500nm程度に形成される。また、圧電層4と上部電極6との密着性を向上させるために、クロム、チタンなどの密着層を、該圧電層4と上部電極6との間に設けてもよい。
【0032】
図2は、上述のように構成される振動板1を用いるインクジェットプリンタヘッド21の断面図である。図1で示す振動板1の部分には、同一の参照符号を付して示す。このインクジェットプリンタヘッド21は、図示しない供給管からキャビティ22内に供給されるインクを、前記圧電素子3の厚み方向(図1および図2の紙面の上下方向)の撓みによって、ノズル23から吐出するものである。
【0033】
このインクジェットプリンタヘッド21の作製方法としては、後述するようにして、図1で示すような振動板1が作製された後、エッチングなどで熱酸化膜7まで達する凹部24が彫り込まれ、前記キャビティ22の一部を形成する。一方、シリコンから成るノズル板25が積層されたインク室基板26が用意され、該インク室基板26にも、エッチングなどでノズル板25まで達する凹部27が彫り込まれ、前記キャビティ22の一部を形成する。そして、これらの凹部24,27が合わさってキャビティ22を形成するように、基板2とインク室基板26とが接合される。そのため、前記インク室基板26は、シリコンから成る基板2と、シリコンから成るノズル板25とを接合するために、陽極接合用ガラスから成る。
【0034】
続いて、本発明の実施の第1の形態に係る振動板1の作製方法について、以下に詳述する。大略的に、本実施の形態における振動板1の作製工程は、シリコン基板2上に熱酸化膜7を形成する工程と、その熱酸化膜7上にスパッタによってバリア層8の材料から成る前駆バリア層を形成する工程と、バリア層8を形成する工程と、下部電極5を形成する工程と、圧電層4を形成する工程と、上部電極6を形成する工程とを含む。
【0035】
本実施の形態では、圧電層4の圧電体材料(ペースト)には、Pb(Zr0.52Ti0.48)Oから成るPZT粉末を用いた。そして、このPZT粉末をペースト状に形成し、基板2上にスクリーン印刷した後、焼成することで圧電層4を作成するにあたって、注目すべきは、前記PZT粉末の粒径分布を、図3で示すように選択することである。すなわち、本実施の形態では、参照符号α1で示すメジアン(中央値)が約0.9μmのPZT粉末を大径用として、参照符号α2で示すメジアンが0.3μmのPZT粉末を小径用として、2種類のPZT粉末を用いていることである。そして、2つの粒度分布を持つ粉末を、重量比で1:1の割合で混合して用いる。その混合したPZT粉末の粒径分布を、参照符号α3で示す。
【0036】
そして、そのようなPZT粉末を印刷するにあたって、該PZT粉末を均一に分散するためのバインダと、該PZT粉末およびバインダを前記スクリーン印刷に適したペースト状に形成する溶媒とを混合する。本実施の形態では、PZT粉末が60重量%、バインダとしてエチルセルロースを4重量%、溶媒としてブチルカルビトールアセテートを36重量%の割合で混合し、印刷用ペーストを作成した。
【0037】
一方、基板2としては、直径3インチのSEMI規格のシリコン基板を熱処理し、両面に熱酸化膜7を2μm付けたものを準備した。そして、その基板2上に、AlをDCスパッタで120nm成膜した後、TiをDCスパッタで成膜し、成膜後、基板2をマッフル炉で大気雰囲気下で700℃に加熱し、Tiを酸化させることでバリア層8を作成した。そのバリア層8の上から、白金電極をDCスパッタで200nm成膜し、下部電極5付きの基板2を作成した。
【0038】
なお、2μmの熱酸化膜7付きの基板2の代わりに、図4の振動板1aで示すように、2μmの活性層10を持つSOI基板12を用いてもよい。これらの熱酸化膜7および活性層10は、圧電層4に次いで、振動板1,1aの主たる構造物になり、圧電層4と共に、振動板として機能する。図4の場合、BOX層17のSiOは0.2μm、さらに基板2の両面に0.2μmの熱酸化膜を形成したものを用いる。その上に、AlおよびTiOから成るバリア層8ならびに白金から成る下部電極5を成膜する。
【0039】
その後、前記の下部電極5付きの基板2上に、前述の圧電体材料(ペースト)を、乾燥後の厚みが20μmになるようにスクリーン印刷した。塗布後、100℃のオーブンで溶媒を乾燥させた後、マッフル炉で450℃に加熱し、30分間保持して、バインダをCOとHOとに分解する脱バインダ処理を行った。さらに、こうして仮焼成したサンプルをマッフル炉にて1150℃で2時間、本焼成を行った。本焼成後、上部電極6として白金を200nmスパッタし、該振動板1を完成した。なお、下部電極5および上部電極6は、白金ペーストを印刷によりパターニングして形成してもよい。
【0040】
表1には、前述の従来技術による、すなわち0.6μmの単一粒径のPb(Zr0.52Ti0.48)O粉末を用いた場合と、本実施の形態の0.3μmおよび0.9μmの2種類の粒径のPZT粉末を用いた場合とのd31軸方向の圧電定数の測定結果を示す。測定はカンチレバー方式で行い、カンチレバーは15mm×1mmの長さに切り出したものを使用した。また、15mmのうち、端から5mm部分は電極を形成しておらず、この部分を挟み、上部電極と下部電極の間に交流電圧を印加し、その際の振動から圧電定数を求めた。
【0041】
【表1】

【0042】
前記圧電定数は、バルクの圧電素子で240pm/V程度、スパッタによる圧電素子で150pm/V程度で、印刷の場合はそれらよりも低くなるが、この表1では、本実施の形態は、従来に比べて、50%程度、圧電特性が向上していることが理解される。
【0043】
以上のように、本実施の形態の圧電素子およびその製造方法によれば、圧電体粉末と、バインダと、溶媒とを含むペースト材料を、基板2上に印刷した後、焼成することで、圧電素子3を製造するにあたって、圧電体粉末の粒度分布に、複数のピーク値を持たせる、すなわち単一径の圧電体粉末を用いるのではなく、比較的大径の圧電体粉末と小径の圧電体粉末と混合したペーストを用いる。これによって、前記大径の圧電体粉末は成長の核になり、前記小径の圧電体粉末は大径の圧電体粉末に吸収されつつ、流動化が活発で緻密な膜を成膜することができ、こうして圧電特性を向上することができる。また、このような圧電素子3を振動板1に用いることで、大きな振動を得ることができる。
【0044】
(実施の形態2)
以下に、本発明の実施の第2の形態に係る振動板の作製方法について説明する。本実施の形態の振動板は、前述の第1の形態の振動板1と同様であり、圧電層4を作製する際の圧電体材料(ペースト)の組成が異なるだけである。
【0045】
具体的には、大径用には第1の形態と同様のPb(Zr0.52Ti0.48)OのPZT粉末を用いた。一方、小径用には、焼結温度を下げるために、0.85Pb(Zr0.52Ti0.48)O−0.15Pb(ZnO1/3Nb2/3)O(以下、PZT−PZNと言う)粉末を用いた。前記PZT−PZN粉末は、Pb(Zr0.52Ti0.48)Oの粉末に、ZnNbとPbとの粉末を、Pb,Zr,Ti,Zn,Nbのモル比が等しくなるように混合し、2000kg/cmの圧を加えた後、950℃で24時間焼成し、さらにこの粉末を粉砕することで作成した。このPZT−PZN粉末の粒度分布も、第1の形態と同様に、メジアンが0.3μmである。
【0046】
そして、それらのPZT粉末とPZT−PZN粉末とを、1:1の割合で混合したものに、焼結助剤として、PbO−Ge(PGO)を1重量%加えた。この圧電体粉末を第1の形態と同様に60重量%、エチルセルロース4重量%、ブチルカルビトールアセテート36重量%の割合で混合し、印刷用ペーストを作成した。
【0047】
また、基板2としては、直径3インチのSEMI規格のシリコン基板を熱処理し、両面に熱酸化膜7を1μm付けたものを準備した。そして、その基板2上に、AlをDCスパッタで120nm成膜した後、TiをDCスパッタで成膜し、成膜後、基板2をマッフル炉で大気雰囲気下で700℃に加熱し、Tiを酸化させることでバリア層8を作成した。そのバリア層8の上から、白金電極をDCスパッタで500nm成膜し、下部電極5付きの基板2を作成した。
【0048】
その後、上記の下部電極5付きの基板2上に、前述の圧電体材料(ペースト)を、乾燥後の厚みが10μmになるようにスクリーン印刷した。塗布後、100℃のオーブンで溶媒を乾燥させた後、マッフル炉で450℃に加熱し、30分間保持して、バインダをCOとHOとに分解する脱バインダ処理を行った。さらに、脱バインダしたサンプルを、マッフル炉にて850℃で2時間、本焼成を行った。本焼成後、上部電極6として白金をスパッタし、該振動板1を完成した。
【0049】
本実施の形態の圧電定数の測定結果も、前記表1に併せて示す。該圧電定数がPZNを入れたため、第1の形態に比べて若干劣るものの、本焼成の温度を上述のように300℃も低下させることができ、基板2に対するダメージを小さくすることができる。
【0050】
このように、比較的大径で融点の高い圧電体粉末としてPZT粉末を、比較的小径で融点の低い圧電体粉末としてPZT−PZN粉末を用いた場合の焼成前と焼成後(焼結体)との構造を、図5で模式的に示す。図5(a)は焼成前で、図5(b)は焼成後である。図5はTEM(透過型電子顕微鏡)による画像を模式的に示すものである。TEMは元素分析が可能であるので、分析の結果、前記比較的融点の高いPZTの圧電体組成物を、比較的融点の低いPZT−PZNの組成物で覆っており、結晶の中心はPZTであったが、外側にはZnとNbが観測された。こうして、結晶が密に詰まった圧電特性が高い圧電素子を実現できていることが理解される。
【0051】
(実施の形態3)
以下に、本発明の実施の第3の形態に係る振動板の作製方法について説明する。本実施の形態の振動板は、前述の第1の形態の振動板1と同様であり、圧電層4を作製する際の圧電体材料(ペースト)の組成が異なるだけである。
【0052】
具体的には、大径用には第1の形態と同様のPb(Zr0.52Ti0.48)OのPZT粉末を用いた。一方、小径用には、焼結温度を下げるために、Pb(Zr0.52Ti0.48)Oに対して、Pbを20重量%添加し、2000kg/cmの圧を加えた後、1000℃で24時間焼成し、さらにこの粉末を粉砕することで作成した。この鉛過剰のPZT粉末の粒度分布も、第1の形態と同様に、メジアンが0.3μmである。
【0053】
本実施の形態では、鉛が過剰に入っているので、焼成中に鉛が蒸発し、焼成後の組成をEDS分析(エネルギー分散型X線分光法)で測定したところ、おおよそPb1.2(Zr0.52Ti0.48)O3.2となっていた。すなわち、通常のPZTに比べて、Pb,Oが20モル%リッチとなっている。ただし、EDS分析のため、酸素は正確には定量できていない。
【0054】
こうして作成した大径用のPZT粉末と、小径用の鉛過剰のPZT粉末とを、重量比で1:1の割合で混合したものを用い、前記のバインダおよび溶剤を加えて、ペーストを作成した。以後は第2の形態と同様に、850℃で2時間、本焼成し、振動板1を作成した。
【0055】
このように、比較的大径で融点の高い圧電体粉末として化学量論的な組成(化合物を構成している原子数の比(組成)が化学式どおりに存在している状態)のPZT粉末を、比較的小径で融点の低い圧電体粉末として前記化学量論的な組成よりも鉛が過剰に含まれているPZT粉末を用いた場合の焼成前と焼成後(焼結体)との構造も、前述の実施の形態2における図5のようになっている。そして、TEMによる元素分析の結果、結晶の中心部よりも、結晶の外周部で鉛が多く観測された。
【0056】
本実施の形態の圧電定数の測定結果も、前記表1に併せて示す。鉛の過剰な部分の圧電性能が悪いために、該圧電定数が第1および第2の形態に比べて劣るものの、従来例に比べては高い圧電定数を得ている。
【0057】
ここで、本焼成の際、PZTに含まれる鉛が抜け易く(PZT中の鉛が焼成中に下部電極5や雰囲気中に拡散する)、抜けてしまうとPZTの組成が変化する。特に、鉛が化学量論的な組成よりも少なくなると、ジルコニウムの酸化物であるジルコニアやチタンの酸化物であるチタニアが出現し、圧電層4が強誘電体特性を示さず、常誘電体となって印加した電圧が常誘電体部分にかかってしまい、圧電効果を損ねるなど弊害が発生する。これらを防止するために、本実施の形態のように、予め原材料に鉛を過剰に添加することで、焼成で鉛が抜けても、圧電特性が損なわれないようにすることができる。
【0058】
ここで、特開2000−200930号公報には、圧電体と下部電極の間に微粒子層を設けることが示されているが、密着性の向上や応力の緩和が目的であり、本願発明のように圧電素子の密度を向上するためのものではない。
【符号の説明】
【0059】
1,1a 振動板
2 基板
3 圧電素子
4 圧電層
5 下部電極
6 上部電極
7 シリコン熱酸化膜
8 バリア層
10 活性層
12 SOI基板
17 BOX層
21 インクジェットプリンタヘッド
22 キャビティ
23 ノズル
24,27 凹部
25 ノズル板
26 インク室基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体粉末と、バインダと、溶媒とを含むペースト材料を、基板上に印刷した後、焼成することで、圧電素子を製造する方法において、
前記圧電体粉末は、粒度分布に複数のピーク値を持つことを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記圧電体粉末は、比較的大径で融点の高い圧電体粉末および比較的小径で融点の低い圧電体粉末であることを特徴とする請求項1記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
前記比較的大径で融点の高い圧電体粉末はPZTの粉末であり、前記比較的小径で融点の低い圧電体粉末はPZT−PZNの粉末であることを特徴とする請求項2記載の圧電素子の製造方法。
【請求項4】
前記比較的大径で融点の高い圧電体粉末は化学量論的な組成のPZTの粉末であり、前記比較的小径で融点の低い圧電体粉末は前記化学量論的な組成から鉛が過剰に含まれているPZTの粉末であることを特徴とする請求項2記載の圧電素子の製造方法。
【請求項5】
基板上に印刷後、焼成して形成される圧電素子において、
該圧電素子の結晶粒が、比較的融点の高い圧電体組成物を、比較的融点の低い圧電体組成物で覆って成ることを特徴とする圧電素子。
【請求項6】
前記比較的融点の高い圧電体組成物はPZTから成り、前記比較的融点の低い圧電体組成物はPZT−PZNから成ることを特徴とする請求項5記載の圧電素子。
【請求項7】
前記比較的融点の高い圧電体組成物はPZTから成り、前記比較的融点の低い圧電体組成物は前記PZTよりも化学量論的な組成から鉛が過剰に含まれているPZTから成ることを特徴とする請求項5記載の圧電素子。
【請求項8】
前記請求項5〜7のいずれか1項に記載の圧電素子をシリコン基板上に形成して成ることを特徴とする振動板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−9660(P2012−9660A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144810(P2010−144810)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】