説明

地盤に施工する壁構造及びその施工方法

【課題】地盤中に打設後において止水性を確保できる地盤に施工する壁構造及びその施工方法を得る。
【解決手段】本発明に係る地盤に施工する壁構造は、相互に嵌合可能な継手部9、15を有する鋼矢板5と親杭7を、親杭7と鋼矢板5の継手部15、9を相互に嵌合させて親杭7と鋼矢板5が交互に配置されるように地盤に打設してなり、鋼矢板5の継手部9に凹溝11が形成されると共に凹溝11に止水材13が充填され、止水材13に親杭7の継手部15の一部が対向配置され、かつ鋼矢板5及び親杭7によって形成された壁によって仕切られた一方の区画から排水及び/又は排土処理を行ったときに止水材13が継手部15の一部によって圧縮されるように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水機能を求められる例えば仮締切壁や土留壁などの地盤に施工する壁構造およびその施工方法に関する。
本明細書において、親杭とは、仮締切や土留などの工事において、地中に打設され鋼矢板に作用する水圧や土圧を支える杭を意味し、それに使用される部材の形態は特に限定されるものではなく、鋼管杭、H形鋼杭、I形鋼杭など種々の態様を含む。
【背景技術】
【0002】
締切工事や掘削工事などにおいて、構造部材として鋼矢板や鋼管矢板が用いられる場合、継手部分の止水性能が求められるときは止水処理が施される。
鋼矢板における止水処理の一例として、例えば特許文献1の従来技術に記載された止水処理方法がある。この止水処理方法は、継手の嵌合内接部に吸水膨潤性止水材を塗布して、該吸水膨潤性止水材が乾燥した後に鋼矢板を打設するものであり、打設後に地中の水分により吸水膨潤性止水材が膨張して継手嵌合部の隙間に充満し、これにより継手嵌合部の止水性が発現されるものである(特許文献1の[0003]参照)。
【0003】
また、鋼管矢板の止水処理の一例としては、例えば特許文献2の従来技術に記載された止水処理方法がある。この止水処理方法は、小径の円形鋼管にスリットを形成した継手部材を鋼管矢板に設け、相隣り合う鋼管矢板の継手部材同士を、継手部材のスリットを嵌合させながら地盤に打設した後、嵌合部の空間内を掘削、排土、洗浄し、該空間内にモルタル等のセメント系充填剤7を中詰めすることで、継手に所要のせん断強度、あるいは剛性、止水性を発揮させるというものである(特許文献2の[0004]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−363974号公報
【特許文献2】特開平11−140863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼矢板や鋼管矢板を地盤中に貫入する場合、一般的には地上部分で部材を把持し、荷重や振動、衝撃等を作用させて貫入する方法が用いられる。このとき隣り合う部材同士の間隔を一定に保つために導枠が用いられることがあるが、地中部分まで部材間の間隔を一定に保つことは困難である。
その結果、鋼矢板の継手に予め止水材を塗布したものにおいては、塗布した止水材が剥離して止水効果を得られなくなったり、鋼管矢板打設後に継手部にモルタル等を充填するものにおいては、モルタル等を充填するために必要な空間を確保することができず、モルタル等の充填ができず継手の止水性を確保できなくなったりすることがあった。
【0006】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、地盤に打設後において止水性を確保できる地盤に施工する壁構造及びその施工方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の先行技術文献の有する課題は、鋼矢板や鋼管矢板を地盤へ貫入する時に部材間の継手部の嵌合状態を管理するのが困難なことが原因となっている。
そこで、貫入時の部材間の継手部の嵌合状態を管理しなくても貫入前または貫入後に継手部に止水材を施工できるようにするためには止水材を充填するための凹溝を有する継手部を用いればよい。
止水材を凹溝に施工した場合、施工した吸水膨潤性の止水材の膨張圧により止水効果は得られるが、さらに確実な止水処理を行うためにはいかにすればよいかについてさらに研究を重ねた。
そして、発明者は締切工事や掘削工事の場合、施工した壁によって区画された背面側には土砂や水が存在し、常に壁に対して背面側から土圧や水圧が作用する点に着目し、この背面側から作用する一方向の荷重を利用して、部材の打設後において継手部の嵌合状態を所定の状態にすることで、止水効果を高めることを考えた。
【0008】
もっとも、通常の鋼矢板壁や鋼管矢板壁では、壁を構成するそれぞれの部材にほぼ同等の土圧や水圧が作用し、壁全体が同じように変形しようとするため、たとえ壁に対して一方向の荷重が作用したとしても継手部の嵌合状態が大きく変化することはなく、また変化の状態をコントロールすることは難しい。
そこで、壁の構成を親杭と鋼矢板からなる複合構造とすることにより、土圧や水圧を鋼矢板が受け、その力を継手部を介して親杭に伝達し、最終的に親杭から地盤や支保工に伝えるという構造にすることを考えた。このような構造にすることにより、親杭と鋼矢板の継手部分には常時荷重が作用し、すべての継手部において嵌合状態を所定の状態にコントロールすることができるとの知見を得た。
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0009】
(1)本発明に係る地盤に施工する壁構造は、相互に嵌合可能な継手部を有する鋼矢板と親杭を、該親杭と前記鋼矢板の継手部を相互に嵌合させて前記親杭と前記鋼矢板が交互に配置されるように地盤に打設してなり、前記鋼矢板又は前記親杭の継手部の少なくとも一方に凹溝が形成されると共に該凹溝に止水材が充填され、該凹溝が形成された前記継手部と嵌合する他方の継手部の一部が嵌合状態において前記止水材に対向配置され、かつ前記鋼矢板及び親杭によって形成された壁によって仕切られた一方の区画から排水及び/又は排土処理を行ったときに前記止水材が前記継手部の一部によって圧縮されるように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記止水材は吸水膨潤性を有するものであることを特徴とするものである。
【0011】
(3)また、本発明に係る地盤に施工する壁構造の施工方法は、上記(1)又は(2)に記載の地盤に施工する壁構造の施工方法であって、前記鋼矢板及び/又は前記親杭の前記凹溝に予め止水材を充填した後、前記鋼矢板及び前記親杭を打設する打設工程と、打設された前記鋼矢板及び前記親杭によって形成された壁によって仕切られた一方の区画から排水及び/又は排土処理を行う工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(1)又は(2)に記載の地盤に施工する壁構造の施工方法であって、前記鋼矢板及び前記親杭を打設する打設工程と、前記鋼矢板及び/又は前記親杭の前記凹溝に前記止水材を充填する充填工程と、該充填工程後に前記鋼矢板及び前記親杭によって形成された壁によって仕切られた一方の区画から排水及び/又は排土処理を行う工程とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る地盤に施工する壁構造は、相互に嵌合可能な継手部を有する鋼矢板と親杭を、該親杭と前記鋼矢板の継手部を相互に嵌合させて前記親杭と前記鋼矢板が交互に配置されるように地盤に打設してなり、前記鋼矢板又は前記親杭の継手部の少なくとも一方に凹溝が形成されると共に該凹溝に止水材が充填され、該凹溝が形成された前記継手部と嵌合する他方の継手部の一部が嵌合状態において前記止水材に対向配置され、かつ前記鋼矢板及び親杭によって形成された壁によって仕切られた一方の区画から排水及び/又は排土処理を行ったときに前記止水材が前記継手部の一部によって圧縮されるように構成されているので、継手部の止水処理を確実に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係る地盤に施工する壁構造の平面図である。
【図2】図1の矢視A−A線に沿う断面図である。
【図3】図1の点線で囲んだ部分を拡大して示す拡大図である。
【図4】図3の点線で囲んだ部分を拡大して示す拡大図であって、排水前の状態を示している。
【図5】図3の点線で囲んだ部分を拡大して示す拡大図であって、排水後の状態を示している。
【図6】本発明の一実施の形態の他の態様の説明図であり、排水前の継手部の状態を示している。
【図7】本発明の一実施の形態の他の態様の説明図であり、排水後の継手部の状態を示している。
【図8】本発明の他の実施の形態に係る地盤に施工する壁構造の説明図である。
【図9】図8の平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[実施の形態1]
本実施の形態は、河川の締切工事における仮締切壁1に本発明の壁構造を適用したものであり、図1に示すように、既設護岸3を1辺とし残り3辺を仮締切壁1としている。
以下、図1乃至図7に基づいて本発明の一実施の形態を説明する。
本実施の形態に係る壁構造は、相互に嵌合可能な継手を有する鋼矢板5と親杭7を、親杭7と鋼矢板5の継手を相互に嵌合させて親杭7と鋼矢板5が交互に配置されるように河床に打設されている。そして、図4、図5に示すように、鋼矢板5の継手部9に凹溝11が形成され、凹溝11に止水材13が充填されている。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0016】
<鋼矢板>
鋼矢板5はU型のもので、両端にはラルゼン型の継手部9を有している。継手部9の爪の内側には凹溝11が全長に亘って形成されており、凹溝11には例えば水膨張性止水ゴムやシリコーン樹脂などの吸水膨潤性の止水材13が充填されている。
なお、鋼矢板としてはU型のもに限定されるわけではなく、例えばハット型のものであっても使用可能である。
【0017】
<親杭>
親杭7は、両端に接続継手15を溶接した鋼管杭から形成されている。親杭7は、自身に作用する土水圧に加えて隣接する鋼矢板5に作用する土水圧を支えられる断面剛性が必要であり、同時に地盤へ貫入するのに支障のない剛性も必要である。そのような要件を満たす限り、鋼管杭の他、H形鋼杭等の他の態様のものも用いることもできる。なお、親杭7は鋼矢板5に作用する土水圧も支えるため、一般に鋼矢板5よりも断面剛性は大きくなる。
【0018】
親杭7に溶接した接続継手15は、熱間圧延や熱間押出で成形したものや、鋼矢板5の継手部分を切り出したものが使用でき、接続する鋼矢板5の継手部9と同等以上の嵌合離脱強度を持つことが望ましい。なお接続継手15の嵌合離脱強度は、鋼矢板5に作用する土水圧を親杭7に伝達するのに十分な強度が必要であるのは言うまでもない。
【0019】
<止水材>
鋼矢板5の継手部9の凹溝11に止水材13を充填する方法としては、凹溝11に止水材13を予め設置する方法と、鋼矢板打設後に凹溝11を利用して止水材13を充填する方法がある。
止水材13を予め設置した場合、鋼矢板5を打設後、止水材13が周囲の水を吸収して膨張する(図4参照)。その後、仮締切壁1の内側を掘削したり、内側の水を排水したりすることに伴って鋼矢板5に図5の矢印で示す土水圧が作用し、鋼矢板5が親杭7に対して矢印の方向に相対移動するため、対向する接続継手15の先端部で止水材13が押さえつけられ、水みちが塞がり確実に止水される(図5参照)。
【0020】
鋼矢板打設後に止水材13を充填する方法の場合、鋼矢板打設後に凹溝11を利用して例えばシリコーン樹脂などの難透水性の材料を継手内に充填する。シリコーン樹脂が硬化後、止水材13が周囲の水を吸収して膨張する(図4参照)。その後、仮締切壁1の内側を掘削したり、内側の水を排水したりすることに伴って鋼矢板5に図5の矢印で示す土水圧が作用し、鋼矢板5が親杭7に対して矢印の方向に相対移動するため、対向する接続継手15の先端部でシリコーン樹脂が押さえつけられ、水みちが塞がり確実に止水される。
【0021】
次に上記のように構成された壁構造の施工方法を説明する。
親杭7と予め凹溝11に止水材13が充填された鋼矢板5を、それぞれの継手を嵌合させて順次河川中に打設して仮締切壁1を構築する。
打設後、止水材13は吸水して膨張し、図4に示すように凹溝11から突出して接続継手15に当接する状態になる。この後、仮締切壁1と既設護岸3で囲まれた部分の水を排水すると、仮締切壁1を境界として水位差が生じ、仮締切壁1の内側に向かって水圧が作用する。このとき親杭7にも水圧が作用するが、河床以下の根入部分が深いので、この部分で抵抗して変形量は小さい。一方、鋼矢板部分は根入れ量が浅く、断面剛性も親杭7に比べて小さいため仮締切内方向に向かって大きく変形しようとする。その結果、図5に示すように止水材13が接続継手15に押さえつけられ水みちが塞がれる。
なお、上述したように、凹溝11が形成された鋼矢板5を打設後に止水材13を充填するようにしてもよい。
【0022】
以上のように本実施の形態においては、鋼矢板5の継手部9に形成した凹溝11に止水材13を充填して鋼矢板5を打設するようにしたので、打設時に止水材13が剥がれることがなく、かつ仮締切壁1の内側の排水処理を行うことで止水材13が接続継手15に押さえつけられて水みちが塞がれ確実に止水される。
また、継手部9に凹溝11を有する鋼矢板5を打設後に凹溝11に止水材13を充填するようにしたので、止水材13を確実に充填できると共に、仮締切壁1の内側の排水処理を行うことで止水材13が接続継手15に押さえつけられて水みちが塞がれ確実に止水される。
【0023】
なお、上記の実施の形態においては、凹溝11を鋼矢板5の継手部9に設けて止水材13を充填する例を示したが、図6、図7に示すように、凹溝11を親杭7の接続継手15の内面側に設けて親杭7の接続継手15側に止水材13を充填するようにしてもよい。
また、凹溝11を鋼矢板5の継手部9と親杭7の接続継手15の両方に設けるようにしてもよい。両方に設けることにより、より確実な止水が可能になる。
【0024】
[実施の形態2]
本実施の形態は、図8、図9に示すように、掘削工事における土留壁17に本発明の壁構造を適用したものである。図8、図9において、図1乃至図7と同一部分及び対応する部分には同一の符号を付してある。
本実施の形態においては、親杭7は接続継手15を溶接したH形鋼を用いており、親杭7および鋼矢板5を打設後、鋼矢板5の継手部9に形成した凹溝11を利用して継手内に止水材13を充填している。
土留壁17を構築した後、土留壁17の内側を掘削するが、掘削が進むに従って腹起し19、切梁21といった支保工で親杭7を支持しながら掘削を進める。掘削が進むに従って土圧・水圧が土留壁17に作用するが、親杭7は支保工により支えられているため大きく変形することがなく、他方、鋼矢板5は掘削側に変形しようとし、実施の形態1で説明したのと同様に、対向する接続継手15の先端部で止水材13が押さえつけられ、水みちが塞がり止水される(図5参照)。
【符号の説明】
【0025】
1 仮締切
3 既設護岸
5 鋼矢板
7 親杭
9 継手部
11 凹溝
13 止水材
15 接続継手
17 土留壁
19 腹起し
21 切梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に嵌合可能な継手部を有する鋼矢板と親杭を、該親杭と前記鋼矢板の継手部を相互に嵌合させて前記親杭と前記鋼矢板が交互に配置されるように地盤に打設してなり、前記鋼矢板又は前記親杭の継手部の少なくとも一方に凹溝が形成されると共に該凹溝に止水材が充填され、該凹溝が形成された前記継手部と嵌合する他方の継手部の一部が嵌合状態において前記止水材に対向配置され、かつ前記鋼矢板及び親杭によって形成された壁によって仕切られた一方の区画から排水及び/又は排土処理を行ったときに前記止水材が前記継手部の一部によって圧縮されるように構成されていることを特徴とする地盤に施工する壁構造。
【請求項2】
前記止水材は吸水膨潤性を有するものであることを特徴とする請求項1記載の地盤に施工する壁構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の壁構造の施工方法であって、前記鋼矢板及び/又は前記親杭の前記凹溝に予め止水材を充填した後、前記鋼矢板及び前記親杭を打設する打設工程と、打設された前記鋼矢板及び前記親杭によって形成された壁によって仕切られた一方の区画から排水及び/又は排土処理を行う工程とを備えたことを特徴とする地盤に施工する壁構造の施工方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の壁構造の施工方法であって、前記鋼矢板及び前記親杭を打設する打設工程と、前記鋼矢板及び/又は前記親杭の前記凹溝に前記止水材を充填する充填工程と、該充填工程後に前記鋼矢板及び前記親杭によって形成された壁によって仕切られた一方の区画から排水及び/又は排土処理を行う工程とを備えたことを特徴とする地盤に施工する壁構造の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−6982(P2011−6982A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153306(P2009−153306)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】