説明

坂道発進補助装置

【課題】二系統の電源供給回路を備えた坂道発進補助装置に関し、外的要因に由来する供給電圧の低下及び遮断を正確に検出するとともに、それに起因する制御の中断を正確に把握する。
【解決手段】キースイッチ2aを介して電力源へ断接可能に接続されたM電源供給回路2と、該電力源へ直結されたB電源供給回路1と、M電源供給回路2の接合状態において制動装置の制動力を保持する制動力保持手段4と、を有する坂道発進補助装置10において、M電源供給回路2が切断されたときに、B電源供給回路1から導入される電力を用いてフラグをオンに設定するフラグオン設定手段5aと、M電源供給回路2が接合されたとき、該フラグがオンに設定されていた場合に、M電源供給回路2が正常に切断されたものと判断して該フラグをオフに設定するフラグオフ設定手段5bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置の制動操作による車両の停止時において、制動操作の解除後にも制動装置の制動力を保持する坂道発進補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両において、運転者のブレーキ操作を自動的に補助するブレーキ補助装置の一つとして、坂道発進補助装置が開発されている。この坂道発進補助装置とは、ブレーキ操作により車両が停止すると、その後ブレーキペダルから足を放してもブレーキペダル踏み込み時の制動力を保持する装置である。
例えば特許文献1には、運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作で車両が停止したときに、所定の条件下でブレーキオイルを封止し、ブレーキ液圧を保持する坂道発進補助装置が開示されている。このような構成により、勾配のある道路で停車した場合であっても、簡単に坂道発進操作を行うことができるようになっている。
【0003】
一般に、坂道発進補助装置は電子制御装置(ECU)として車両に搭載されている。そのため、坂道発進補助装置によって制動力が保持されている間にエンジンキースイッチやバッテリスイッチがオフ操作されると、保持されていた制動力が解除されることになる。つまり、坂道発進補助装置が作動していることを運転者が正しく認識していなければ、運転者の意図に反して坂道発進補助装置の作動が解除されてしまう事態が生じる。
【0004】
このような課題に対し、特許文献2には、ブレーキ圧力が保持された状態で運転席のキースイッチが断の状態にされたときに、運転席に警報を発する警報手段を備えた坂道発進補助装置が開示されている。この技術では、上記のような制御に係る制御信号を送出するためのプログラム制御回路への電源供給路として、キースイッチを介装した経路とこれに並列に接続された回路手段との二系統の経路が設けられている。このような構成により、坂道発進の補助動作が行われているときにキースイッチが断の状態になったとしても、回路手段を介してプログラム制御回路へ電源電圧を供給できるようになっている。
【特許文献1】特開平9−175352号公報
【特許文献2】特開平7−40815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の技術では、常に坂道発進補助装置へ供給される電源電圧が確保されるため、坂道発進補助装置がキースイッチの操作状態を把握することができる。つまり、運転者の誤操作によって制動力の保持制御が解除されたような場合には、それを検出することができる。
しかしながら、車両に搭載された電子制御装置は、その車両が走行しうるさまざまな環境下で使用されるため、外乱の影響を受けやすい。特に近年では、出力の大きい無線機を搭載する車両も見られ、そのような車両の近傍を走行している場合には、電子制御装置の電源供給回路内にノイズ等が混入しやすい。また、電源供給ラインの断線や半断線,ショート等により、電源供給回路に異常が発生することも考えうる。
【0006】
そのため、上述の特許文献2に記載の技術のように、たとえ二系統の電源供給経路を確保したとしても、それら両方の経路が外乱,ノイズの影響を受けて一時的に電源電圧が低下したり、電源供給回路の異常,欠陥により電源供給が停止したりして、坂道発進補助装置の作動が解除されてしまうおそれがある。つまり、運転者の誤操作ではなく何らかの外的な要因によって制動力の保持制御が解除されたような場合には、それを検出できないという課題がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、二系統の電源供給回路を備えた坂道発進補助装置において、外的要因に由来する供給電圧の低下及び遮断を正確に検出するとともに、それに起因する制御の中断を正確に把握することができるようにした、坂道発進補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の本発明の坂道発進補助装置は、車両のキースイッチのオン操作時に電力を導入すべく該キースイッチを介して電力源へ断接可能に接続されたM電源供給回路と、該キースイッチの操作状態に関わらず電力を導入すべく該電力源へ直結されたB電源供給回路と、該M電源供給回路の接合状態において制動装置の制動操作による該車両の停止時から所定の条件が満たされるまで該制動装置の制動力を保持する制動力保持手段と、を有する坂道発進補助装置において、該M電源供給回路が切断されたときに、該B電源供給回路から導入される電力を用いてフラグをオンに設定するフラグオン設定手段と、該M電源供給回路が接合されたとき、該フラグがオンに設定されていた場合に、該M電源供給回路が正常に切断されたものと判断して該フラグをオフに設定するフラグオフ設定手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
なお、ここでいうB電源供給回路が該電力源へ直結されているという状態は、少なくとも、該電力源から該坂道発進補助装置方向への電流が遮断されない状態で接続された状態のことを意味する。したがって、該電力源と該坂道発進補助装置との間の回路上に何らかの回路素子、例えば抵抗器や整流器等が介装された状態を含む。
また、請求項2記載の本発明の坂道発進補助装置は、請求項1記載の構成に加え、該M電源供給回路が接合されたとき、該フラグがオフに設定されていた場合に、運転者への報知を行う報知手段を備えたことを特徴としている。
【0010】
また、請求項3記載の本発明の坂道発進補助装置は、請求項2記載の構成に加え、該報知手段が、該M電源供給回路が接合されたとき、該フラグがオフであっても、該運転者によるアクセル操作を検出した場合には該報知を行わないことを特徴としている。
また、請求項4記載の本発明の坂道発進補助装置は、請求項2又は3記載の構成に加え、該報知手段が、該運転者による該制動力保持手段の制御を解除する操作がなされた場合に、該運転者への該報知を停止することを特徴としている。
【0011】
また、請求項5記載の本発明の坂道発進補助装置は、請求項1〜4の何れか1項に記載の構成に加え、該フラグオン設定手段が、該M電源供給回路が切断されてから予め設定された所定時間経過後に、該B電源供給回路から供給される電力を用いて該フラグをオンに設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の坂道発進補助装置(請求項1)によれば、フラグのオン・オフ状態を確認することにより、M電源供給回路とB電源供給回路とがともに低下あるいは遮断されたことを電源の回復後に検出することができる。つまり、電源の回復時において、キースイッチの操作以外の要因による制動力の保持制御の解除を正確に検出することができるので、M電源供給回路のみが切断される通常時の制御とは異なる制御を実施することができる。
【0013】
また、本発明の坂道発進補助装置(請求項2)によれば、M電源供給回路とB電源供給回路との両方の欠陥(例えば、電源トラブルによるM電源供給回路及びB電源供給回路の両回路の一時的な電圧低下)によって、運転者の意図しない制動力解除が生じた場合であっても、それを即座に運転者へ報知することができる。
また、本発明の坂道発進補助装置(請求項3)によれば、運転者によるアクセル操作が検出されている場合には、過剰な報知を防止することができる。つまり、制動装置の制動力を保持する必要がない場合や制動力の保持がなされていない場合における報知を防止することができる。
【0014】
また、本発明の坂道発進補助装置(請求項4)によれば、制動力保持手段による制御のリセット(すなわち、運転者の意図しない制動力解除の発生)を運転者が把握したということを確認したうえで、報知を解除することができる。
また、本発明の坂道発進補助装置(請求項5)によれば、M電源供給回路とB電源供給回路とが完全に同時ではなく、ほぼ同時に遮断された場合、すなわち、M電源供給回路とB電源供給回路との間で、電力遮断のタイミングが僅かにずれた場合であっても、それを正確に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図5は本発明の一実施形態に係る坂道発進補助装置を説明するものであり、図1は本坂道発進補助装置の全体構成を示すブロック図、図2は本坂道発進補助装置における起動時の制御内容を示すフローチャート、図3は本坂道発進補助装置における定常時の制御内容を示すフローチャート、図4は本坂道発進補助装置を備えた車両におけるキースイッチ操作時の制御内容を示すタイムチャート、図5は本坂道発進補助装置を備えた車両における外的要因による制動力解除時の制御内容を示すタイムチャートである。
【0016】
[1.構成]
本坂道発進補助装置10は、自動車等の車両に搭載されて運転者のブレーキ操作を自動的に補助するための装置であり、図1に示すように、バッテリ(電力源)9,ECU(電子制御装置,マイクロコントローラ)3,ブザー8及び電磁弁7を備えて構成される。ECU3とは、坂道発進補助制御を総合的に行うためのマイクロコントローラであり、バッテリ9から供給される電力により起動する。また、この坂道発進補助制御における制御対象は、電磁弁7及びブザー8である。
【0017】
バッテリ9は、車両に搭載された一般的な24Vバッテリである。ECU3とバッテリ9との間には、B(バッテリ直結)電源供給回路1及びM(マニュアル)電源供給回路2という二系統の電力供給路が形成されている。
M電源供給回路2は、車両のキースイッチ2aを介してバッテリ9とECU3とを接続している。つまり、キースイッチ2aのオン/オフ操作により、M電源供給回路2を断接できるようになっている。一方、B電源供給回路1は、バッテリ9とECU3とを直結している。つまり、B電源供給回路1は、M電源供給回路2とキースイッチ2aのオン/オフ操作に関わらず、常にバッテリ9の電力をECU3へ供給可能となっている。また、B電源供給回路1及びM電源供給回路2は、ECU3に対して互いに並列に接続されている。これにより、キースイッチ2aのオン操作時には、バッテリ9から両回路1,2を介して電力が供給されるようになっている。
【0018】
図1に示すように、ECU3は、制動力保持部(制動力保持手段)4,フラグ設定部5及び報知部(報知手段)6を備えて構成される。
制動力保持部4は、M電源供給回路2の接合状態において坂道発進補助制御を実施するものである。坂道発進補助制御とは、運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作(制動装置の制動操作)で車両が停止したときに、所定の条件下でブレーキ液圧を保持する制御である。なおここでは、具体的な坂道発進補助制御の開始条件及び終了条件についての説明を省略する。
【0019】
この制動力保持部4は、坂道発進補助制御の開始条件が成立すると、電磁弁7を作動させてブレーキフルードを封止し、ブレーキ装置の制動力を保持するようになっている。制動力保持部4は、図1に示すように、M電源供給回路2側から供給される電力で制御を実施するようになっており、キースイッチ2aがオフ操作されると制動力保持部4の機能は停止する。なお、制動力保持部4での坂道発進補助制御の制動状況は、後述する報知部6へと伝達されるようになっている。
【0020】
フラグ設定部5は、ECU3自身がECU3の正常終了及び異常終了をその再起動時に検出するために、制御用のフラグFを設定するものである。図1に示すように、フラグ設定部5は、オン設定部(フラグオン設定手段)5aとオフ設定部(フラグオフ設定手段)5bとを備えて構成される。また、フラグ設定部5は、B電源供給回路1側から供給される電力で制御を実施するようになっており、B電源供給回路1が遮断されない限り、常に機能している。
【0021】
オン設定部5aは、キースイッチ2aのオフ操作によってM電源供給回路2が切断されたときに、フラグFをF=1(オン)に設定する。本実施形態では、オン設定部5aがM電源供給回路2の電圧(M電源電圧)を常時監視し、その電圧が予め設定された所定電圧(制動量保持部4が機能しうる電圧であって、例えば7V)を下回ってからΔt秒(所定時間)後に、フラグFをF=1に設定するようになっている。
【0022】
オフ設定部5bは、キースイッチ2aのオン操作によってM電源供給回路2が接合されたとき、つまり、制動力保持部4が起動し始めたときに、ECU3が正常に終了していたかどうかを判定する機能を持つ。すなわち、オフ設定部5bは、M電源供給回路2が接合されたときにフラグFの状態を確認し、F=1であれば、「ECU3が正常に終了していた」ものと判断し、フラグFをF=0(オフ)に設定するようになっている。
【0023】
一方、M電源供給回路2が接合されたときにフラグFの状態がF=0であれば、オフ設定部5bは「ECU3が異常に終了した」ものと判断する。
なお、本実施形態において、オフ設定部5bはM電源電圧が所定電圧以上になったときにフラグFの状態を確認するようになっている。オフ設定部5bにおける正常終了及び異常終了といった判断内容は、続いて説明する報知部6へと伝達されるようになっている。
【0024】
報知部6は、ブザー8を吹鳴させて運転者への報知を行うものである。この報知部6は、制動力保持部4による坂道発進補助制御中にキースイッチ2aがオフ操作された場合と、ECU3自身の異常終了を検出した場合の二つの場合に報知を行うようになっている。
前者の報知は、制動力保持部4から伝達される坂道発進補助制御の制動状況と、M電源電圧とに基づいて実施される。本実施形態では、坂道発進補助制御によって電磁弁7が作動している間にM電源電圧が所定電圧未満となった場合に、ブザー8を吹鳴させるようになっている。
【0025】
後者の報知は、上述のオフ設定部5bにおける判断内容に基づいて実施される。本実施形態では、「ECU3が正常に終了していた」と判断された場合には何も実施せず、一方、「ECU3が異常に終了した」と判断された場合にブザー8を吹鳴させるようになっている。
【0026】
[2.フローチャート]
本発明の一実施形態にかかる坂道発進補助装置10は、図2,3に示すフローチャートに従って坂道発進補助制御を実施する。図2の起動時制御フローは、オフ操作されているキースイッチ2aがオン操作されたときに実施される起動時処理としての制御内容を示している。一方、図3の定常時制御フローは、キースイッチ2aのオン操作時からオフ操作されたときに実施される定常時処理としての制御内容を示している。
【0027】
図2に示す起動時制御フローにおいて、ステップA10では、フラグ設定部5において、M電源電圧の大きさに基づきキースイッチ2aがオン操作されたか否かが判定される。ここでは、キースイッチ2aがオン操作されるまでの間、このステップが繰り返し実行され、キースイッチ2aがオン操作されるとステップA20へ進む。
ステップA20では、フラグ設定部5のオフ設定部5bにおいて、フラグFがF=0であるか否かが判定される。ここでF=0である場合、ECU3が異常に終了したと判断されるため、ステップA30へ進み、報知部6によってブザー8が吹鳴される。
【0028】
一方、ステップA20においてF=1である場合には、ECU3が正常に終了したと判断されるため、定常時制御フローへと進む。
図3に示す定常時制御フローは、主に二つの部分から構成されている。一つは、ステップB20〜B40の終了時制御であり、もう一つは、ステップB50〜B90の坂道発進補助制御である。
【0029】
まず、ステップB10では、M電源電圧の大きさに基づき、キースイッチ2aがオフ操作されたか否かが判定される。つまり、キースイッチ2aがオフ操作された場合には、ステップB20〜B40の終了時制御が実施され、それ以外の定常時には、ステップB50〜B90の坂道発進補助制御が実施される。なお、ステップB20〜B40の終了時制御は、M電源供給回路2に電力が供給されていない状態でなされる制御であり、B電源供給回路1から導入される電力を用いてフラグ設定部5及び報知部6で実行される。
【0030】
終了時制御のステップB20では、制動力保持部4において電磁弁7を作動させていたか否か(あるいは、制動装置の制動力を保持中であったか否か)が判定される。つまりここでは、ステップB10でのキースイッチ2aのオフ操作が坂道発進補助制御の実施中になされたものであるか否かが判定される。ここで制動力保持中であったと判定された場合にはステップB30へ進み、そうでない場合にはステップB40へ進む。なお、坂道発進補助制御による制動力の有無を示すフラグを設定しておき、ステップB20での判定に用いるような構成としてもよい。
【0031】
ステップB30では、報知部6によってブザー8が吹鳴されて運転者への報知がなされ、ステップB40へ進む。また、ステップB40では、フラグ設定部5のオン設定部5aにおいて、所定時間(Δt秒)経過後にフラグFがF=1に設定される(フラグオン設定手段)。ここで、キーオフ2a後の終了時制御が正常に完了したことになる。
また、ステップB10においてキースイッチ2aがオフ操作されていない場合、ステップB50へと進む。このステップB50ではステップB20と同様に、制動力保持部4により電磁弁7を作動させているか否か(あるいは、制動装置の制動力を保持中であるか否か)が判定される。電磁弁7が作動中でない場合には、ステップB60へ進み、所定の制動力保持条件が成立したときに、制動力を保持する制御を実施する(ステップB70)。また、ステップB50において、電磁弁7が作動中である場合には、ステップB80へ進み、所定の制動力解除条件が成立したときに、その制動力を解除する制御を実施する(ステップB90)。
【0032】
[3.作用・効果]
本発明の一実施形態にかかる坂道発進補助装置は、以上の制御により次のような作用・効果を奏する。
【0033】
[3−1.キースイッチのオン・オフ操作時]
図4に示すように、キースイッチ2aがオン操作されている状態では、B電源供給回路1のB電源電圧及びM電源供給回路2のM電源電圧がともにECU3へ導入されている。運転者が時刻t1にキースイッチ2aをオフ操作すると、M電源供給回路2が遮断され、M電源電圧が0になる。これにより、時刻t1からΔt秒後にフラグ設定部5のオン設定部5aにおいて、フラグFがF=1に設定される。
【0034】
このとき、B電源供給回路1からは依然として電力が供給されたままである。したがって、キースイッチ2aのオフ操作からΔt秒後であっても、その電力を用いてフラグFをF=1(オン)に設定することができる。また、キースイッチ2aのオフ操作状態にあっても、ECU3へ電力は供給され続けるため、フラグFの値も保持され続ける。つまり、フラグFを記憶するための不揮発メモリや外部記憶装置を省略することが可能である。ただし、バッテリ9交換等のメンテナンスにおいて意図的に全ての電源供給回路を切断したときに警報を発さないように、不揮発メモリを採用することが好ましい。
【0035】
その後、時刻t2にキースイッチ2aがオン操作されると制動力保持部4が起動し始め、フラグ設定部5のオフ設定部5bにおいて、ECU3が正常に終了していたかどうかがフラグFの状態に応じて判断される。ここでフラグFがF=1(オン)であれば、ECU3が正常に終了していたものと判断され、フラグFがF=0(オフ)に再設定される。つまり、起動時制御が完了する。
【0036】
なお、このようなECU3の終了状態の判断は、時刻t2に実施してもよいし、時刻t2から微少な所定時間Δt′経過後に実施してもよい。
【0037】
[3−2.キースイッチの操作以外による制動力解除・復帰時]
一方、キースイッチ2aのオン・オフ操作ではなく、外的要因による一時的な電源電圧の低下時には、上記の制御とは異なる制御が実施される。ここでは、バッテリ9のトラブルによりECU3への電力供給が一時的に滞った場合を想定して説明する。
【0038】
まず、キースイッチ2aがオン操作されている状態で、時刻t3に坂道発進補助制御の開始条件が成立すると、電磁弁7が作動してブレーキフルードが封止され、ブレーキ装置の制動力が保持される。このような坂道発進補助制御の実施中である時刻t4にバッテリ9のトラブルが発生すると、B電源供給回路1及びM電源供給回路2の両回路1,2の電圧が一時的に低下し、ECU3全体への電力供給が遮断される。
【0039】
このとき、制動力保持部4,フラグ設定部5及び報知部6の全ての機能が停止する。また、フラグ設定部5には電力が供給されていないため、フラグ設定部5におけるフラグFの設定もなされない。したがって、フラグFはF=0のままとなる。
その後、B電源供給回路1及びM電源供給回路2の電源電圧が元の正常な電圧まで回復すると、ECU3の制御がリセットされた状態となり、起動時の制御が実施される。このときフラグFはF=1ではないため、フラグ設定部5のオフ設定部5bにおいてECU3が異常に終了したと判断され、ブザー8が吹鳴される。
【0040】
このように、本坂道発進補助装置によれば、起動時にフラグFのオン・オフ状態を確認することで、B電源供給回路1とM電源供給回路2とが同時に遮断されたことを電源電圧の回復後に検出することができる。つまり、電源の回復時において、キースイッチ2aの操作以外の要因による制動力の保持制御の解除や制御の中断を正確に検出することができ、M電源供給回路2のみが切断される通常時の制御とは異なる制御を実施することができる。また、電源及び電源供給回路の異常や欠陥に起因する制動力の保持制御の解除や制御の中断を運転者へ報知することができる。例えば、運転者の意図しない制動力解除が生じた場合であっても、それを即座に運転者へ報知することができ、運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作を促すことができる。
【0041】
また、本実施形態では、M電源電圧が所定電圧を下回ってからΔt秒後にフラグFをF=1に設定するようになっている。そのため、B電源供給回路1とM電源供給回路2とが完全に同時ではなく、ほぼ同時に遮断された場合(すなわち、電源供給回路1とM電源供給回路2との間で、電力遮断のタイミングが僅かにずれた場合)であっても、それを正確に検出することができる。
【0042】
[4.その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態では、ECU3の起動時にフラグFがF=0である場合には、必ずブザー8による報知がなされるようになっているが、ECU3の起動時にフラグFがF=0である場合であっても、アクセルペダルが踏み込まれているときには上記のような報知を行わないこととすることも考えられる。
【0043】
例えば、運転者が坂道発進補助制御の実施中の状態から車両を発進させようとしたときに電源トラブル等によりECU3がリセットされたような場合には、ブレーキ装置の制動力を保持する必要がないと考えられる。そこで、報知を実施するための条件としての運転者による発進意志の有無を上述の実施形態に追加することで、過剰な報知を防止することができる。
【0044】
同様に、ECU3の起動時にフラグFがF=0であっても、坂道発進補助制御による制動力の保持中でなければ、報知を行わない構成としてもよい。なおこの場合、坂道発進補助制御による制動力の保持がなされていることを示すフラグを用いればよい。ただし、B電源供給回路1及びM電源供給回路2がともに遮断されたとしてもフラグの状態が変化しないものでなければならず、例えば不揮発メモリ等が必要である。
【0045】
また、上述の実施形態において、ECU3が異常に終了したと判断された場合にはブザー8が吹鳴されるようになっているが、運転者への報知の手段はこれに限定されない。例えば、インパネへ警告灯を表示することやその他の電子制御を連携作動させること等が考えられる。
また、上述の実施形態における定常時制御フローでは、電磁弁7が作動中でないことをステップB20で確認してからΔt秒後に、フラグFをF=0に設定している(ステップB40)が、これらの構成に代えて、キースイッチ2aのオフ操作時からΔt秒後にステップB20での制御判断を実施する構成としてもよい。この場合、例えば、ステップB10とステップB20との間に所定時間Δtが経過したか否かを判定するステップを追加すればよい。
【0046】
なお、本実施形態では特に言及していないが、吹鳴されたブザー8の停止方法は任意である。例えば、運転者によって本ECU3の機能を停止させるための操作がなされたような場合(パーキングブレーキ操作等)やキースイッチ2aがオフ操作された場合にブザー8を停止させることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係る坂道発進補助装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本坂道発進補助装置における起動時の制御内容を示すフローチャートである。
【図3】本坂道発進補助装置における定常時の制御内容を示すフローチャートである。
【図4】本坂道発進補助装置を備えた車両におけるキースイッチ操作時の制御内容を示すタイムチャートである。
【図5】本坂道発進補助装置を備えた車両における外的要因による制動力解除時の制御内容を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1 B電源供給回路
2 M電源供給回路
2a キースイッチ
3 ECU
4 制動力保持部(制動力保持手段)
5 フラグ設定部
5a オン設定部(フラグオン設定手段)
5b オフ設定部(フラグオフ設定手段)
6 報知部(報知手段)
7 電磁弁
8 ブザー
9 バッテリ(電力源)
10 坂道発進補助装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のキースイッチのオン操作時に電力を導入すべく該キースイッチを介して電力源へ断接可能に接続されたM電源供給回路と、該キースイッチの操作状態に関わらず電力を導入すべく該電力源へ直結されたB電源供給回路と、該M電源供給回路の接合状態において制動装置の制動操作による該車両の停止時から所定の条件が満たされるまで該制動装置の制動力を保持する制動力保持手段と、を有する坂道発進補助装置において、
該M電源供給回路が切断されたときに、該B電源供給回路から導入される電力を用いてフラグをオンに設定するフラグオン設定手段と、
該M電源供給回路が接合されたとき、該フラグがオンに設定されていた場合に、該M電源供給回路が正常に切断されたものと判断して該フラグをオフに設定するフラグオフ設定手段と
を備えたことを特徴とする、坂道発進補助装置。
【請求項2】
該M電源供給回路が接合されたとき、該フラグがオフに設定されていた場合に、運転者への報知を行う報知手段をさらに備えた
ことを特徴とする、請求項1記載の坂道発進補助装置。
【請求項3】
該報知手段は、該M電源供給回路が接合されたとき、該フラグがオフであっても、該運転者によるアクセル操作を検出した場合には該報知を行わない
ことを特徴とする、請求項2記載の坂道発進補助装置。
【請求項4】
該報知手段は、該運転者による該制動力保持手段の制御を解除する操作がなされた場合に、該運転者への該報知を停止する
ことを特徴とする、請求項2又は3記載の坂道発進補助装置。
【請求項5】
該フラグオン設定手段は、該M電源供給回路が切断されてから予め設定された所定時間経過後に、該B電源供給回路から供給される電力を用いて該フラグをオンに設定する
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の坂道発進補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−279840(P2008−279840A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124371(P2007−124371)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】