説明

型内塗装用塗料、型内塗装方法及び型内塗装製品

【課題】型内塗装特有のメタリックムラやウェルドラインの発生を防止し、良好なメタリック外観を得る。
【解決手段】型内塗装製品は、型成形された樹脂成形品1の意匠面2に、アスペクト比が1〜5の光輝材4を配合してなる型内塗装用塗料を型内塗装して形成された型内塗装塗膜3を備えている。型内塗装塗膜3には前記アスペクト比を維持した光輝材4が分散している。光輝材4としては、ポリエステル樹脂よりなる母材粒子5に微細なアルミニウム箔片6を接着剤で接着したものを例示できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタリック外観を付与する型内塗装用塗料、型内塗装方法及び型内塗装製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
型内塗装は、固定型と可動型からなる型内のキャビティに樹脂を注入して成形品を成形した後、例えば可動型を少し開くことで生じる型面と成形品の意匠面との間のキャビティに、塗料を注入し流動させて意匠面全体に行き渡らせる塗装方法である。この型内塗装は、スプレー塗装のような多量の有機溶剤を用いないため環境に優しいとか、塗装工程を省力化できるとかという利点がある一方、型内塗装特有の塗装ムラが生じやすいという問題がある。特に、塗装製品にメタリック外観を付与するために、塗料に光輝材を配合した場合には、メタリックムラやウェルドラインが発生しやすく、外観不良となりやすい。
【0003】
例えば、特許文献1には、型内塗装用塗料として偏平形状のアルミニウム顔料やパール顔料を配合した熱硬化性被覆剤が記載され、この偏平形状の顔料は配向が乱され、色ムラやウェルドラインの発生が顕著になるという指摘がされている。そして、この色ムラやウェルドラインの発生を防止する手段として、型から取り出した塗装製品を再加熱することが記載されている。
【0004】
このような偏平形状のアルミニウム顔料は、従来より、その使用される工法(スプレー塗装、印刷等)にかかわらず、広く一般的に使用されているものである。例えば特許文献2には、メタリック製品のスプレー塗装又は静電塗装に用いる塗料の光輝材として、アスペクト比が100〜300のリン片状アルミニウムが記載されている。
【特許文献1】特開2003−154545公報
【特許文献2】特開2000−301058公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが、図3(c)に拡大して示すようなアスペクト比50のリン片状アルミニウムを配合した型内塗装用塗料を用いて、図3(a)に示すような成形品51の環状の意匠面52に対して型内塗装を試行したところ、形成された塗膜53のうち塗料が注入位置Aから2方向に分かれて意匠面を流動してから合流位置Bでぶつかり合ったところにウェルドライン55が発生し、その両側で光輝感が異なるメタリックムラも発生した。
【0006】
そこで、この型内塗装後の成形品51を切断して合流位置Bの近傍の塗膜53を観察したところ、同図(b)に示すように、合流位置Bの直前でリン片状アルミニウム54が塗料の各進行方向に対し前のめりになっており、従って合流位置Bの両側でリン片状アルミニウム54の配向が不均一になる(具体的には対称に傾く)ことで、ウェルドラインやメタリックムラが発生していることが判明した。
【0007】
また、より複雑な形状の成形品に同様の型内塗装を試行したところ、成形品の部位によって光輝感が異なるメタリックムラが発生した。これは、型内の部位ごとに様々に異なる不均一な圧力の影響により、リン片状アルミニウムの配向に乱れが生じたためである。
【0008】
そして、このようにして発生したメタリックムラやウェルドラインは、リン片状アルミニウムの配向が乱れたり傾いたりした状態で塗膜が硬化してしまっているので、その後に塗装製品を再加熱しても、十分には改善されなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、型内塗装特有のメタリックムラやウェルドラインの発生を防止し、良好なメタリック外観を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、次の手段(1)〜(3)を採ったものである。
(1)アスペクト比が1〜5である光輝材を配合してなる型内塗装用塗料。
(2)アスペクト比が1〜5である光輝材を配合してなる型内塗装用塗料を、型内の成形品の意匠面と型面との間のキャビティに注入して流動させて意匠面全体に行き渡らせ、前記光輝材のアスペクト比が維持された状態で前記型内塗装用塗料を硬化させる型内塗装方法。
(3)アスペクト比が1〜5である光輝材が分散している型内塗装塗膜を備えた型内塗装製品。
【0011】
1.型内塗装用塗料の主剤及びその他の配合物
塗料の主剤としては、特に限定されないが、アクリル、ウレタン等のモノマー、オリゴマーを例示することができ、これらのうちでは成膜後の塗膜性能に優れたアクリルモノマー、ウレタンオリゴマーを用いることが望ましい。塗膜を得る方法としては、これらモノマー、オリゴマーを過酸化物の存在下、熱促進によるラジカル重合させる方法等を例示することができる。その他、次のような配合物を配合することができる。
・ラジカル反応開始剤・・・有機過酸化物等
・顔料・・・有機顔料、体質顔料等
・反応抑制剤
・塗料粘度調整剤・・・各種ポリマー等
【0012】
2.光輝材
光輝材のアスペクト比は1〜5とするが、より好ましくは1〜3である。アスペクト比が1〜5であれば、合流位置や圧力が不均一な部位においても光輝材の配向に不均一や乱れが生じにくく、仮に生じたとしても、配向特性が軽微な又は緩やかな光輝性変化である(どちらを向いても光輝性があまり変わらない)ため、それがウェルドラインやメタリックムラとしては検知されない。光輝材としては、アスペクト比が1〜5であり表面に光輝性を有すること以外は特に限定されないが、次の態様を例示することができる。
a:アスペクト比が1〜5である母材粒子の表面に、該母材粒子より微細な光輝片を接合したもの
b:アスペクト比が1〜5である母材粒子の表面に、干渉膜又は光輝膜を被覆形成したもの
c:光輝材料により形成されたアスペクト比が1〜5である粒子
【0013】
態様a又はbにおける母材粒子の材料としては、特に限定されないが、樹脂、雲母、セラミック、金属等を例示することができ、型内塗装時に溶融しない高融点の樹脂、又は不融性の材料であれば特に限定されない。
態様a又はbにおける母材粒子の形状としては、特に限定されないが、球形、多面体、(岩石のような)異形、(低アスペクト比の)片状等を例示することができる。
態様aにおける光輝片としては、特に限定されないが、アルミニウム、錫、亜鉛、銅、黄銅、青銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属箔片を例示することができる。
態様aにおける光輝片の接合方法としては、特に限定されないが、接着剤による接着等を例示することができる。
態様bにおける干渉膜又は光輝膜の材料としては、特に限定されないが、干渉膜としては、TiO2 、SiO2、SiN、光輝膜としては、クロム、銅、インジウム、アルミニウム、亜鉛、銀、ニッケル、スズ等を例示することができる。
態様bにおける光輝膜の被覆方法としては、特に限定されないが、湿式めっき、乾式めっき、熱溶着等を例示することができる。
態様cにおける光輝材料としては、特に限定されないが、アルミニウム、白金、金等を例示することができる。
【0014】
態様aとして使用できるものに、特再WO02−094950公報に記載された粉体塗装組成物を挙げることができる。この粉体塗装組成物は、ポリエステル系、アクリル系等の熱硬化性樹脂粉末の表面に、アルミニウム、亜鉛等のフレーク状顔料を、粘着性を備えた結合剤を介して結合させたものである。ところで、この粉体塗装組成物は、本来、流動浸漬法又は静電粉体塗装法により粉体の状態で、200℃以上に加熱した金属基材に付着させ、熱硬化性樹脂粉末の形状を崩し、焼き付けて使用するものである。すなわち、この粉体塗装組成物は、加熱により熱硬化性樹脂粉末の形状を崩すことが常識である。これに対し、本発明の前記態様aにこの粉体塗装組成物を使用したとき、この粉体塗装組成物が粉末形状を崩す温度まで加熱することなく、もっと低温で(ラジカル反応にて例えば100〜120℃位で)塗膜を加熱硬化させる。
【0015】
光輝材の平均粒子径は、特に限定されないが、5〜100μmが好ましく、10〜60μmがより好ましい。5μm未満になると塗膜の光輝性が低下する傾向にあり、100μmを越えると標準的塗膜厚さ(100μm程度)と比較して光輝材粒子径が大きくなりすぎて、塗膜としての充分な強度が得られにくい。
【0016】
3.型内塗装製品
型内塗装製品の具体的製品としては、特に限定されないが、自動車用外装品(ホイールキャップ、ガーニッシュ、サイドモール、フロントグリル等)、電気製品ケース(携帯電話、家電製品等)等を例示することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の型内塗装用塗料、型内塗装製品及び外観不良防止方法によれば、型内塗装特有のメタリックムラやウェルドラインの発生を防止し、良好なメタリック外観を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1に示す型内塗装製品としての自動車用ホイールキャップは、図2(a)に示すようにして型成形された樹脂成形品1の意匠面2に、アスペクト比が1〜5の光輝材4を配合してなる型内塗装用塗料を、図2(b)に示すように型内塗装して形成された型内塗装塗膜3を備えたものである。型内塗装塗膜3には前記アスペクト比を維持した光輝材4が分散している。
【実施例】
【0019】
本発明を具体化した実施例について、図1及び図2に従って説明する。まず、次のような配合の型内塗装用塗料を調製し、そのうち光輝材のみを表1に示すとおり変更して、実施例1〜7と比較例1〜3とを設定した。
【0020】
主剤 アクリルモノマー 15質量%
アクリルオリゴマー 35質量%
ウレタンオリゴマー 47質量%
硬化促進用パーオキサイド 3質量%
反応抑制剤 0.03質量%
光輝材(種類及び配合量は表1に示すとおり)
【0021】
【表1】

【0022】
実施例1,2の光輝材4は、図1(c)に示すように、ポリエステル樹脂よりなる母材粒子5に微細なアルミニウム箔片6を接着剤で接着したものである。
実施例3の光輝材は、相対的に平均粒子径が小さいこと以外は、実施例1,2の光輝材と同様のものである。
実施例4,5の光輝材は、雲母よりなる母材粒子の表面に、干渉膜としてのTiO2 を被覆形成したものである(図示略)。
実施例6,7の光輝材は、アルミナ多面体よりなる母材粒子に微細なアルミニウム箔片を接着剤で接着したものである(図示略)。
比較例1の光輝材は、偏平なリン片状アルミニウムである(図3(c)と同様)。
比較例2,3の光輝材は、相対的にアスペクト比が大きく平均粒子径が小さいこと以外は比較例1の光輝材と同様のものである。
【0023】
また、表1におけるアスペクト比は、前述の通り、粒子径を種々の方向から測定したときの最短径に対する最長径の比である。また、平均粒子径は、前記の最長径を粒子群において平均したものである。
【0024】
次に、図2(a)に示すように、ホイールキャップ疑似形状の型面を有する固定型11と可動型12とを型締めし、両型面間のキャビティに熱可塑性樹脂(ポリカーボネートとABSとのブレンド物)を注入してホイールキャップ疑似形状の樹脂成形品1を射出成形した。
【0025】
次に、図2(b)に示すように、可動型12を型面の異なる可動型13に交換し、型温度を110℃に調節した。固定型11と可動型13とを型締めし、樹脂成形品1の意匠面2と可動型13の型面との間に新たに生じるキャビティに、実施例1の型内塗装用塗料を注入し流動させて意匠面2全体に行き渡らせた。なお、可動型を交換するのではなく、前述したとおり可動型を少し開くことで新たに生じるキャビティに型内塗装用塗料を注入してもよい。そして、前記110℃の型温度下で3分保持して型内塗装用塗料を硬化させ、型内塗装塗膜3とした。このとき、型内塗装用塗料中の光輝材4は、ポリエステル樹脂よりなる母材粒子5がその形状を崩すことなく維持し、微細なアルミニウム箔片6も母材粒子5に接合したままであった。
【0026】
上記と同様の方法及び条件により、樹脂成形品1を射出成形した後、順次、実施例2〜7及び比較例1〜3の型内塗装用塗料を用いて型内塗装した。このとき、実施例2〜7の型内塗装用塗料中の光輝材は、その形状を崩すことなく維持した。なお、全例とも複数回試行した。
【0027】
こうして型内塗装されたホイールキャップ疑似試作品は、図1(a)に示すように、樹脂成形品1の意匠面2に型内塗装塗膜3を備えたものである。同図において、Aは型内塗装用塗料の注入位置を指し、Bはその型内塗装用塗料が2方向に分かれて意匠面を流動してからぶつかり合う合流位置を指している。
【0028】
表1に検討結果を示すとおり、実施例1〜3の型内塗装塗膜3は、合流位置Bにウェルドラインは発生せず、メタリックムラも見られなかった。この型内塗装塗膜3には、図1(b)に示すように、同図(c)のアスペクト比1〜2の光輝材4がその形状を維持して分散している。このアスペクト比であれば、前述のとおり、合流位置や圧力が不均一な部位においても光輝材の配向に不均一や乱れが生じにくく、仮に生じたとしても、配向特性が軽微な又は緩やかな光輝性変化であるため、それがウェルドラインやメタリックムラとしては検知されないのである。
【0029】
実施例4,5の型内塗装塗膜は、複数回試行のうち、ウェルドラインの発生しない場合が多かったが、バラツキによりウェルドラインの発生する場合もあった。これは、光輝材のアスペクト比3.5が実施例1〜3よりも若干大きいことによるものと考えられる。但し、そのウェルドラインは比較例で発生したウェルドラインよりは軽微であり、あまり目立たないものであった。
【0030】
実施例6,7の型内塗装塗膜は、合流位置Bにウェルドラインは発生せず、メタリックムラも見られなかった。実施例1〜3と同様の理由によるものと考えられる。
【0031】
比較例1〜3の型内塗装塗膜は、明らかなウェルドラインが発生し、その両側でメタリックムラも見られた。
【0032】
樹脂成形品1に対する型内塗装塗膜の付着性については、いずれの実施例1〜7及び比較例1〜3においても良好であった。すなわち、比較例のような従来のアスペクト比の大きい光輝材に代え、実施例のようなアスペクト比の小さい光輝材を使用しても、付着性に影響はなかった。
【0033】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例に係る型内塗装されたホイールキャップ疑似試作品を示し、(a)は斜視図、(b)は実施例1〜3における型内塗装塗膜の断面図、(c)は同じく光輝材の斜視図である。
【図2】同実施例の型内塗装方法を示す断面図である。
【図3】従来例を示し、(a)は斜視図、(b)は型内塗装塗膜の断面図、(c)は光輝材の斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1 樹脂成形品
2 意匠面
3 型内塗装塗膜
4 光輝材
5 母材粒子
6 アルミニウム箔片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比が1〜5である光輝材を配合してなる型内塗装用塗料。
【請求項2】
アスペクト比が1〜5である光輝材を配合してなる型内塗装用塗料を、型内の成形品の意匠面と型面との間のキャビティに注入して流動させて意匠面全体に行き渡らせ、前記光輝材のアスペクト比が維持された状態で前記型内塗装用塗料を硬化させる型内塗装方法。
【請求項3】
アスペクト比が1〜5である光輝材が分散している型内塗装塗膜を備えた型内塗装製品。
【請求項4】
前記光輝材が、アスペクト比が1〜5である母材粒子の表面に、該母材粒子より微細な光輝片を接合したものである請求項1記載の型内塗装用塗料。
【請求項5】
前記光輝材が、アスペクト比が1〜5である母材粒子の表面に、干渉膜又は光輝膜を被覆形成したものである請求項1記載の型内塗装用塗料。
【請求項6】
前記光輝材が、光輝材料により形成されたアスペクト比が1〜5である粒子である請求項1記載の型内塗装用塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−91777(P2007−91777A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279374(P2005−279374)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】