説明

埋込磁石同期モータのロータ

【課題】フェライト磁石を用いて高効率、高トルクの埋込磁石同期モータのロータを提供する。
【解決手段】駆動軸に直結されて略円形状断面を有するロータハブ(24)の磁性体の外側部に円環状のフェライト磁石(26)が配置され、独立した磁性鋼板積層コア(27)が間隔を有して隣接どうし逆極性のフェライト磁石の各磁極に密着される。磁気飽和が生じにくい厚さにされた磁性鋼板積層コアの両端部の中心軸に近い方向に偏った下部に穿設された貫通孔(28)にピン(29)が挿入され、ロータハブを挟む側面固定板に太めのピンが支持されて固定される。側面固定板をロータハブ端面に設けられた軸方向突出部(44)に嵌合して磁性鋼板積層コアの位置を精度よく決め、磁性鋼板積層コアで生じるトルクを側面固定板を介してロータハブに伝達させる。ロータ全体は、焼きばめリングを軸方向突出部に焼きばめすることで固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車などに用いられる埋込磁石同期モータのロータに関する。
【背景技術】
【0002】
埋込磁石同期モータは、積層磁性鋼板に永久磁石を埋め込むことで、鉄損が少なく、永久磁石の飛散を防ぐ構成にされ、一般にマグネットトルクのほかにリラクタンストルクで駆動される高効率で可変速範囲の広いモータである。
【0003】
先行技術文献の非特許文献1では、自動車用に実用化された埋込磁石同期モータの基本断面が示されている。本図面中の図7で示す。永久磁石1の端部における積層磁性鋼板2の継鉄部3を磁束で飽和させるために、有効磁束の減少が生じる。所定のマグネットトルクを得るためには、磁束の減少を補うため、永久磁石1の量を増やすことになる。永久磁石1の質量が大きくなるほど積層磁性鋼板2の継鉄部3の幅を大きくして強度を上げる必要があり、磁束の漏洩量も相対的に大きくなる。
【0004】
積層磁性鋼板2の隣接する突極部4の間の磁束経路が急角度で曲げられて長く、相対的に磁気抵抗が大きくなる。ステータ(固定子)5の巻線に流れる大きい電流で、幅が限定される突極部4が磁気飽和に近づくとさらに磁気抵抗が大きくなる。結果、q軸インダクタンスが小さくなり、d軸インダクタンスはほとんど変わらず、2つのインダクタンスの差が小さくなることでリラクタンストルクは小さくなる。また、鉄損が大きくなる。
【0005】
永久磁石1の埋め込みが浅いため、ステータ5での高い周波数で変動する磁束の影響を強く受け、固有抵抗が小さい希土類の永久磁石1における渦電流損が大きい分だけモータ効率が落ち、永久磁石1での温度が上昇する。近接するステータ5の銅損や鉄損による永久磁石1での温度上昇の要因も加わるため、熱減磁を起こしにくい組成の永久磁石1を用いる必要がある。また、高い温度の下で、ステータ5からの強い減磁界で減磁されないために、抗磁力(保持力)が大きく、余裕のある厚さの永久磁石1を使用しなければならない。モータの大出力駆動時にはロータにおいて温度上昇が大きく、高い温度で抗磁力が小さくなるネオジム磁石は、ステータからの減磁界による不可逆的な熱減磁が問題になる。
【0006】
ロータの各磁極は、周方向に永久磁石1が積層磁性鋼板2に埋め込まれた部分と、積層磁性鋼板2から突出した突極部4の部分に区分される。永久磁石1が埋め込まれた部分の幅を広くすると、マグネットトルクは増えるがリラクタンストルクを大きくできない。逆の区分にすると、マグネットトルクが小さくなる。結果、マグネットトルクとリラクタンストルクを同時に最大化することは難しい。また、残留磁束の小さいフェライト磁石ではマグネットトルクはより小さくなる。
【0007】
ロータの各磁極においては、埋め込まれた永久磁石1に対向して継鉄部3を除く飽和されてない部分が永久磁石の実効磁極面積になり、磁極外周部に較べて半分余の面積で、磁極全体面を実効磁極面積にする場合に較べてその分パーミアンス係数は小さく、磁気回路の抵抗は大きく、永久磁石1からの総磁束は少なくなる。ステータ5のティースの磁束密度も部分的に大きくなり、鉄損が増大する。
【0008】
また、ロータの各磁極で、突極部4は磁極外周部に較べて40パーセントほどが実効磁極面積になり、その分磁気回路抵抗は大きく、ステータの巻線電流の起磁力で生じる総磁束は少なくなる。
【0009】
14000rpmのような高速回転においては遠心力が非常に大きくなり、図6の従来の埋込磁石同期モータでは永久磁石1と直上の磁性鋼板を遠心力に抗して保持するために、永久磁石1近傍の継鉄部3の幅を大きくする必要があり、結果として磁束漏洩が大きくなり、マグネットトルクが小さくなる。永久磁石1の量を増やすと、さらに継鉄部3の幅を増やす必要が生じて磁束漏洩が増えていく悪循環に落ち込む可能性がある。
【0010】
埋込磁石同期モータの小型、高効率化には、希土類元素であるネオジウム(Nd)やディスプロシウム(Dy)を用いたネオジム(Nd−Fe−B)磁石が用いられていた。モータ性能の観点とは別に、希土類元素の資源量や入手、および価格の問題が指摘されている。
【0011】
本発明の埋込磁石同期モータのロータと類似な構成を有する従来例が、先行技術文献の特許文献1において、ジェネレータあるいはマグネットトルクのみで駆動される永久磁石モータのロータを対象に、開示されている。本図面中の図8と、図9にそれぞれのロータ構成を示す。図8では、磁性体のロータハブ7の複数の凹部8に位置決めされる永久磁石9の径方向外側に、径方向内側の凹部10を永久磁石9に合わせる積層磁性鋼板11が配置される。独立した積層磁性鋼板11は、径方向のほぼ中間の位置に等間隔に貫通した4個のピン12でロータハブ7の両側を挟む固定板13の孔14に支持され、固定板13はロータハブ7に固定される。本発明の埋込磁石同期モータと異なり、リラクタンストルクを大きく発生させるために積層磁性鋼板11の断面積を大きくして磁気飽和を緩和することや、乱れがない磁束経路を確保するためにピン12の位置を適正化することなどをほとんど考慮しないで済む。
【0012】
リラクタンストルクを大きくするには、積層磁性鋼板11での周方向の磁束経路の磁気抵抗を小さくし、磁気飽和を起こさせないでq軸インダクタンスを大きくする必要があるが、積層磁性鋼板11の径方向の厚さは薄く、周方向の磁束経路を妨げる径方向のほぼ中間の位置にピン12が貫通している。ロータの高速回転時には、積層磁性鋼板11や永久磁石9を遠心力に抗して強固に支持するため、両側の固定板13の外周部15と孔14との幅を大きくし、ピン12の径を大きくして強固にする必要があるが、4個のピン12の径は小さく、特に強固にされていない。
【0013】
磁性体のピン12と積層磁性鋼板11の間に非磁性層が形成され、周方向の磁束経路を乱し、磁気抵抗を大きくする要因になる。ステータでの電流によって高い周波数で変動する磁束が磁性体のピン12を流れる場合には、積層磁性鋼板11に流れる場合に較べ、単位体積当たりの渦電流損やヒステリシス損などの鉄損が大幅に大きくなる。積層磁性鋼板11の断面積が小さく、永久磁石9やステータからの磁束量が大きいほど、またピン12が太い径にされるほど、磁性体のピン12における鉄損は顕著になる。磁気抵抗や鉄損の増大は、大きいリラクタンストルクとモータ効率の向上を意図する埋込磁石同期モータでは問題になる。
【0014】
図9示されるロータでは、積層磁性鋼板16が、図8の積層磁性鋼板11に較べて径方向に厚く、断面積が大きくなっている。また、3箇所のピン17が周方向の磁束経路を妨げる位置にあり、独立した積層磁性鋼板16の周方向の両端部18、19近傍から出入する磁束の流れを妨げ、q軸インダクタンスが相対的に小さくなり、リラクタンストルクを低下させる。鉄損においても、図8場合と同様の問題を有す。結果、埋込磁石同期モータとしての効率が悪くなる。また、ピン17の径が小さく、ピン17を固定する固定板20の孔21の位置が外周に非常に近く、高速回転で生じる積層磁性鋼板16や永久磁石22を遠心力に耐えて保持する強度はほとんど考慮されていない。
【0015】
図8から図9で示される独立した積層磁性鋼板をロータに固定するピンやボルトの径は大きくなく、ロータが6000rpm以上の高速回転する場合に、磁性鋼板積層コアや永久磁石を遠心力に抗してロータに保持することが困難になる。
【0016】
先の非特許文献1を図7で示した積層磁性鋼板2の外周部近傍に埋め込む永久磁石1の形状と配置を換えたものを示す事例として、特許文献3の図面中の図15から図18で示される構成がある。永久磁石に用いられるネオジム磁石の構成を各磁極にV形状配置し、継鉄部をV形状の底部と両端の3箇所に形成し、磁束総量、熱減磁、強度などの改良を図るものであるが、磁極の外周部がリラクタンストルクとマグネットトルクに寄与する部分に区分化されている状態はほとんど変わらない。
【0017】
マグネットトルクに寄与する実効磁極面積は、V形状配置された永久磁石に対向する部分の両端の継鉄部以外の部分である。また、リラクタンストルクに寄与する実効磁極面積は各磁極に配置されたV形状の永久磁石の間の突出部であり、永久磁石と継鉄の占める領域が大きいほど実効磁極面積は小さくなる。V形状の永久磁石の直上の磁性鋼板の部分は位置、断面積、および永久磁石による大きい磁石密度ゆえリラクタンストルクに寄与する磁束の流れを期待できず、リラクタンストルクに寄与する実効磁極面積の増大にほとんどつながらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第5894183号公報
【0019】
【特許文献2】米国特許第4393320号公報
【0020】
【特許文献3】特開2005−102460号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】TOYOTA Technical Review Vol.49 No.2 Dec.1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
従来例での積層された磁性鋼板は、本背景技術の文中で積層磁性鋼板と表されたが、本発明の埋込磁石同期モータのロータにおいては、磁性鋼板積層コアと記述される。
【0023】
解決されるべき課題は、ロータの永久磁石の上に配置される独立した磁性鋼板積層コアの径方向の厚さと、磁性鋼板積層コアを積層方向に貫通するピンの配置を選択することで、磁気飽和に余裕を有す短く乱されない磁束経路を得る。各磁極の周方向の両端部間を周方向に低い磁気抵抗にし、各磁極での実効磁極面積を大きくすることで、q軸インダクタンスが大きくなり、永久磁石の中心に対向する方向のd軸インダクタンスは小さいまま、大きいリラクタンストルクを得て、高トルクで高効率の埋込磁石同期モータにする。
【0024】
また、残留磁束密度(Br)がネオジム磁石より3分の1ほどに小さいフェライト磁石を用いて、実効磁極面積を大きくし、パーミアンス係数を大きく、また磁束漏洩を少なくすることで比較的大きいマグネットトルクを得る。
【0025】
また、ロータの高速回転時に、独立した磁性鋼板積層コアと永久磁石が遠心力で飛散しない強度を、ピンの太さ、磁性鋼板積層コアにおけるピンを貫通させる孔の位置、およびピンを支持する側面固定板から得て、側面固定板をロータハブの両端面からの軸方向突出部に嵌合することで磁性鋼板積層コアの位置を確定し、位置精度を確保し、安定したトルク伝達を可能にする。
【0026】
また、熱容量の小さい焼きばめリングをロータハブの軸方向突出部で焼きばめして側面固定板に当てることで、磁性鋼板積層コアとフェライト磁石からなるロータ全体を固定する。板材からなるファンの固定も容易にする。
【0027】
側面固定板を複数の非磁性金属板を重ねて形成することで、プレス抜き精度と強度を向上し、ロータとステータ間の磁気ギャップを小さく、高回転速度での遠心力に耐えるようにする。
【0028】
磁性鋼板積層コアに貫通するピンの径と位置によってフェライト磁石の磁束がロータ磁極面に至るまでの磁性鋼板積層コアの部分で飽和させないで、遠心力に耐え、回転モーメントを小さくする磁性鋼板積層コアの形状にする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
主に自動車用など比較的大きい形状の場合、従来における埋込磁石同期モータの課題を解決するために、本発明の埋込磁石同期モータのロータにおいて、以下の手段をとる。
【0030】
本発明の埋込磁石同期モータのロータは、大きいリラクタンストルクを得て、高効率のモータにすることを目的としているため、ステータの電流による磁性鋼板積層コア中での周方向の磁束経路を乱さず、磁気飽和に至らなくすることで、磁気抵抗を少なくし、結果、q軸インダクタンスを大きくでき、大きいリアクタンストルクと低鉄損を得ることが単なるジェネレータ、およびマグネットトルクのみで駆動する永久磁石モータの場合と異なる。
【0031】
結果的に質量が大きくなる磁性鋼板積層コアを、ロータ径が比較的大きく高速回転する条件下で、遠心力に耐えて支持するために、より強度を大きくする必要性が生じることも図7と図8で示される従来例と異なる。
【0032】
小型で高トルク、高効率の従来の埋込磁石同期モータは、熱減磁対策にディスプロシウムを添加した複数のネオジム磁石を用いていたが、円環状のフェライト磁石を用いて、隣接する磁極を逆極性に着磁することで複数の磁石を配列する。
【0033】
請求項1に係わる発明では、磁性鋼板積層コアの周方向端部におけるロータの中心軸方向の偏った2箇所に貫通孔が穿設され、ピンが挿入される。磁性鋼板積層コアは、リラクタンストルクを大きくするために、径方向に厚く、断面積を大きくして磁気飽和を生じにくくし、磁性鋼板積層コア中の磁束経路を妨げない位置にピンを配置することで、磁気抵抗を小さくする。q軸インダクタンスが大きくなり、インダクタンストルクを大きくすると同時に、鉄損を小さくする。
【0034】
磁性体のピンは、積層された磁性鋼板に較べ、高い周波数の磁束変化において、鉄損、特に渦電流損が大きいため、ステータの電流による磁束変化の影響がより小さく、q軸磁束の流れを妨げにくい
磁性鋼板積層コアの周方向端部におけるロータの中心軸方向に偏った2箇所に配置される。ピンが非磁性体で作られても、大きい渦電流損が生じない同様の位置に配置される必要がある。
【0035】
マグネットトルクに寄与する永久磁石に円環状のフェライト磁石を用いて、等間隔に隣接して逆極性に着磁することで複数の磁石を配置し、径方向内側の面が断面円弧状の磁性鋼板積層コアを円環状のフェライト磁石の径方向外側の面に各磁極に密着させる。円環状のフェライト磁石の内側の面は、磁性体で形成されるロータハブの外周面に近接して対向される。
【0036】
請求項2に係わる発明では、磁性鋼板積層コアの周方向端部におけるロータの中心軸に近い部分が円弧状の断面形状にされる。円弧はピンの中心と近似した位置に中心を有する。ピンで磁性鋼板積層コアを支持する強度を保ちながら、永久磁石の磁束漏洩を少なくする。
【0037】
請求項3に係わる発明では、略円環状の側面固定板内側の複数箇所に円弧状の凹部が形成され、ロータハブの軸方向端面から近似した円弧状の軸方向突出部に嵌合される。円弧状の凹部と軸方向突出部の円弧状の外側部を合わせることで、磁性鋼板積層コアの径方向の位置が決められ、円弧状凹部の径方向端部と軸方向突出部の径方向端部を合わせることで、磁性鋼板積層コアの回転方向の位置が決められる。互いの径方向端部が合わされることで、磁性鋼板積層コアで生じるトルクが、側面固定板を介してロータハブに伝達される。
【0038】
請求項4に係わる発明では、磁性鋼板積層コアを軸方向両側から挟む側面固定板の固定に、熱容量の少ない焼きばめリングを用いる。軸方向突出部に焼きばめリングを焼きばめすることで、ロータハブに嵌合された側面固定板を軸方向外側から固定する。
【0039】
請求項5に係わる発明では、ロータハブの軸方向突出部の形状に近似する開口部を内側に有する板材で構成されたファンが側面固定板と焼きばめリングの間に配置され、固定される。ファンはロータ回転時に空気冷却を行う。
【0040】
請求項6に係わる発明では、側面固定板が複数の非磁性体の金属板を複数枚重ねて形成される。プレス打ち抜きの精度と、強度を確保する。
【0041】
請求項7に係わる発明では、側面固定板とフェライト磁石の円環状の側部を接着固定してフェライト磁石を安定させる。
【0042】
請求項8に係わる発明では、積層磁性鋼板にロータ回転時の遠心力に耐える強度を持たせ、質量を小さくし、フェライト磁石からの磁束を飽和させない構成にする。磁性鋼板積層コアの周方向端部において、径方向外側部近傍が周方向に突出され、2箇所のピンの中心を通る径に交わる3箇所の磁性鋼板積層コアの幅を、磁石からの磁束を飽和させずに通し、強度を確保できる範囲で小さくする。
【発明の効果】
【0043】
磁性鋼板積層コアにq軸磁束が最短で流れやすくし、各磁極に対応する円弧状断面の外側部の全面を共通にマグネットトルクとリラクタンストルクに寄与する実効磁極面積にすることで、それぞれのトルクを最大化する埋込磁石同期モータの構成にできる。
【0044】
円環状のフェライト磁石を用いて、ネオジム磁石をロータ外周面近傍に配置する従来の埋込磁石同期モータにトルク、効率で同等レベル以上の性能を有する新しい埋込磁石同期モータが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の埋込磁石同期モータのロータの実施例1を、磁性体構成部の正面図で示す。
【図2】実施例1のロータの磁性体構成部を分解斜視図で示す。
【図3】実施例1のロータを全体構成図で示す。
【図4】実施例1のロータを斜視図で示す。
【図5】実施例2の埋込磁石同期モータのロータを斜視図で示す。
【図6】実施例3の埋込磁石同期モータのロータを斜視図で示す。
【図7】従来のロータを示す。
【図8】従来のロータを示す。
【図9】従来のロータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
独立した磁性鋼板積層コアと円環状のフェライト磁石を用いたロータ構成にする。
【実施例1】
【0047】
本発明の埋込磁石同期モータのロータの実施例1を図1から図4までの構成で記述する。図1は、ロータ23の磁性体構成部を正面図で示す。鋳鉄、または鋳鋼で形成される円筒状のロータハブ24の外側部に、隣接どうし逆極性に磁極25が等間隔に着磁されて複数の永久磁石が形成された円環状のフェライト磁石26が配置される。断面円弧状の径方向内側の面を有する磁性鋼板積層コア27が磁極25に密着される。
【0048】
磁性鋼板積層コア27は、0.27ミリメートルから0.35ミリメートルの厚さの磁性鋼板を複数枚重ね、周方向端部においてロータ23の中心軸方向の偏った位置に穿設された貫通孔28に、ピン29が挿入されて固定される。ピン29の表面に薄い絶縁層を形成して、磁性鋼板積層コア27の貫通孔28の内側で電気的に短絡させず、大きいループの渦電流が生じないようにするとよい。
【0049】
磁性鋼板積層コア27の周方向端部における中心軸に近い部分30が円弧状の断面形状にされ、ピン29の中心と近似する位置に円弧の中心が配置される。ピン29の外側に、ほぼ同じ幅の円弧状の磁性鋼板積層コア27の一部分が形成される。円弧状にされることで隣接する磁性鋼板積層コア27と35の間隔が一部において狭くなっても、磁性鋼板積層コア27とステータ34で形成される磁気ギャップが狭く面積が広いため、フェライト磁石26の磁極25から生じる磁束の漏洩を相対的に少なくすることができる。
【0050】
磁性鋼板積層コア27は径方向内側の面31が断面円弧形状に形成され、円環状のフェライト磁石26の径方向外側の面のそれぞれの磁極25に接着などで密着して配置される。フェライト磁石26の径方向内側の面32は、円筒状のロータハブ24の外側部33に近接して対向される。磁性鋼板積層コア27を貫通して固定するピン29は、非磁性体で略円環状の図示されてない側面固定板で固定支持され、側面固定板を介してロータハブ24に機械的に連結される。
【0051】
フェライト磁石26の磁極25からの磁束がステータ34に流入してステータ34の巻線に流れる電流磁界との相互作用で生じるマグネットトルクに加え、q軸方向とd軸方向のインダクタンスの差に比例するリラクタンストルクを利用することができる。リラクタンストルクを大きくするためには、d軸方向インダクタンLdを小さくできる変化幅はあまりないので、q軸インダクタンスLqをできるだけ大きくする必要がある。
【0052】
ステータ34の巻線に流れる電流で生じる磁束が磁性鋼板積層コア27を通過する経路がd−q変換軸上で示される。円弧状の実線の矢印はq軸磁束経路である。q軸磁束経路は、磁性鋼板積層コア27の内を周方向に磁気抵抗が低く、磁束が非常に通り易いためq軸インダクタンスLqが大きい。電気角で90度ずれたd軸磁束経路は、隣接する磁性鋼板積層コア27と32間の空間や、透磁率がほぼ空気に等しいフェライト磁石26を通るため磁気抵抗が高くて磁束が通りにくく、d軸インダクタンスLdが小さくなる。結果、Lq/Ldが大きい突極性が生じる。
【0053】
円環状のフェライト磁石26を挟み、磁性体のロータハブ24、独立した磁性鋼板積層コア27、磁性鋼板が積層されたステータ34、および隣接する磁性鋼板積層コア35と36で磁気回路が構成されている。そのうち、鋳鋼や鋳鉄で形成された磁性体のロータハブ24の外側部においては、高い周波数で大きく変動する磁束が通ると鉄損が大きくなるが、本発明のベースになる埋込磁石同期モータにおいては、フェライト磁石26の磁極25に密着される磁性鋼板積層コア27は径方向に厚くされ、フェライト磁石26は深く埋め込まれるため、フェライト磁石26の径方向内側の面に近接するロータハブ24においては、ステータ34の巻線に流れる電流で生じる高い周波数の磁束変化の影響が緩和され、渦電流損やヒステリシス損などの鉄損は少ない。
【0054】
磁性鋼板積層コア27を径方向に厚くして断面積を大きくし、フェライト磁石26からの磁束やステータ34の巻線に流れる電流によって生じる磁束で磁性鋼板積層コア27を磁気飽和させないようにする。磁性鋼板は0.27から0.35ミリメートルに薄くされ、磁性鋼板の相対的に高い固有抵抗で、高い周波数の磁束変化による磁性鋼板積層コア27中での渦電流損が少なくされる。また、磁性鋼板積層コア27が隣接する磁性鋼板積層コア35、36と互いに独立していることから、磁性鋼板積層コア27に方向性磁性鋼板を用いて磁化容易方向を周方向に合わせることができ、磁性鋼板積層コア27の周方向の飽和磁束密度は大きくなり、磁束が周方向に通りやすくなる。結果、大きいステータ電流まで磁性鋼板積層コア27は磁気飽和することなく、周方向の磁束変化によるヒステリシス損が少なく、磁気抵抗が低くされる。周方向の磁束経路の中心は、磁性鋼板積層コア27の周方向端部どうしの間で急激に曲がらず経路も短いため、周方向の磁気抵抗は小さい。当然ながら磁束は、磁性鋼板積層コア27の中に広がって流れる。
【0055】
さらに、鉄損(渦電流損とヒステリシス損)を少なくし、周方向の磁束経路の磁気抵抗を小さくするために、磁性鋼板積層コア27の周方向端部におけるロータ23の中心軸方向に偏った位置の2箇所で穿設された貫通孔28に、径の太いピ29が挿入される。ピン29は鉄を主体とした磁性体からなり、高い周波数で大きく変動する磁束がピン29を通ると、鉄損が大きく、特に周波数が高くなるほど渦電流損が大きくなる。ピン29と磁性鋼板積層コア27との電気的絶縁によって境界には非磁性層が形成され、周方向の磁束経路はピン29の存在によって乱され、磁気抵抗が大きくなる。ピン29の磁気的な影響を少なくするため、ピン29はロータハブ24の周方向端部の中心軸方向に偏った位置の2箇所に配置される。
【0056】
磁性体のピン29に交流変化する磁束が通ることで鉄損が生じることは、鉄損が少ない磁性鋼板積層コア27に較べて磁気抵抗が大きいことを意味する。磁性鋼板積層コア2に磁束が流れやすく、磁気飽和に至らない磁束密度においては、ピンに通る磁束は相対的に少なくなる。
【0057】
円環状のフェライト磁石26の磁極25からの磁束は磁性鋼板積層コア27を通り、磁性鋼板積層コア27の外周面全体とステータ34の間の狭い磁気ギャップを介してステータ34に入る。ステータ34を通った磁束は、隣接する磁性鋼板積層コア35と36の外周面全体とステータ34の間の磁気ギャップを介して磁性鋼板積層コア35と36を通り、フェライト磁石26のそれぞれの磁極37と38に至る経路を経る。磁気ギャップを形成する実効磁極面積は磁性鋼板積層コア27の外周面全体と等しい。従来の埋込磁石同期モータのように、ネオジム磁石がロータの外周面近傍に埋め込まれてマグネットトルクとリラクタンストルクの領域にロータの外周部が区分化された構成で永久磁石の磁束を通す磁気回路の実効磁極面積をロータの外周部で最大化できない事例に比較して有利である。パーミアンス係数が大きく、磁気回路の磁気抵抗が低減することにより残留磁束密度の小さいフェライト磁石26でも相対的に総磁束量を大きくすることができる。結果、大きいマグネットトルクを得ることができる。
【0058】
ステータ34の駆動電流で生じる磁束が磁性鋼板積層コア27の中を流れる場合、磁性鋼板積層コア27とステータ34の間の磁気ギャップの実効磁極面積は、磁性鋼板積層コア27の外周面全体をとりえる。実際にはステータ34の複数のティース39に流れる磁束密度に偏りがあるため、実効磁極面積は磁性鋼板積層コア27の外周面全体より少し小さいものになる。リラクタンストルクに寄与する実効磁極面積が大きくなると磁気回路の磁気抵抗が小さくなり、ステータ34の駆動電流で生じる総磁束量が大きくなることでリラクタンストルクが大きくなる。従来例の埋込磁石同期モータの事例のように、リラクタンストルクとマグネットトルクに寄与できる磁極面積がロータ外周部で区分化されてリラクタンストルクに寄与する実効磁極面積が小さい場合に較べ、リラクタンストルクを相対的に大きくできる。
【0059】
本発明の埋込磁石同期モータのロータ23に用いるフェライト磁石26は、磁性鋼板積層コア27に密着して接着と磁気吸着で固定される。また、フェライト磁石26は円環状に適当な厚みに形成されることで、ロータ23の回転時の遠心力で生じる周方向の張力に耐える機械強度を確保する。ロータ23の中心軸に回転対称の形状と配置にされるため、ロータ23が回転する時に磁性鋼板積層コア27、35、36にはフェライト磁石26からの遠心力は加わらない。
【0060】
複数の磁性鋼板積層コア27、35、36と一致する位置に隣接どうしで異なる極性の磁極25、37、38が形成され、複数の磁石がそれぞれの磁性鋼板積層コア27、35、36に密着して配置されることになる。フェライト磁石26はネオジム磁石に較べて残留磁束密度と抗磁力(保磁力)が小さく、熱減磁対策したネオジム磁石の残留磁束密度の約2.8分の1、同磁石の抗磁力の4分の1以下である。小さい残留磁束密度のフェライト磁石26用いてマグネットトルクを大きくするには、実効磁極面積の増大による相対的に低い磁気抵抗と、パーミアンス係数が大きいことによる磁束総量の増大で対応する。
【0061】
また、小さい抗磁力(保磁力)のフェライト磁石26でステータから加わる減磁界で不可逆減磁されないために、30ほどの大きいパーミアンス係数で対応する。フェライト磁石26の厚さが10ミリメートルで構成し、隣接する磁性鋼板積層コア27と35、および磁性鋼板積層コア27と36の間の磁気抵抗を、フェライト磁石26を挟む磁性鋼板積層コア27とロータハブ24の間の磁気抵抗を2倍したものより数分の1に小さくする。制御されたモータ駆動時にステータ34から加わる減磁界は、磁性鋼板積層コア27における周方向成分が多く、径方向成分が少ない。結果、フェライト磁石26に加わる減磁界は小さい。
【0062】
制御されてない状態で、ステータ34の外周面の全体に対向する複数のティース39からフェライト磁石26の厚さ方向に電源電圧前後の電圧による減磁界が加わった場合でも減磁されないように、磁性鋼板積層コア27の外周面全体から加わる磁界を磁性鋼板積層コア27の周方向の両端部から隣接する磁性鋼板積層コア35と36に分岐させる。フェライト磁石26に加わる減磁界は、隣接する磁性鋼板積層コア27と35、および磁性鋼板積層コア27と36の間の磁気抵抗に対して、磁性鋼板積層コア27の中心軸に近い部分の曲面におけるフェライト磁石26の厚みの2倍にした磁気抵抗の比によって決まる。双方の磁気抵抗の比は1対10ほどになる。フェライト磁石26は低い温度になるほど抗磁力が小さくなる。モータ駆動時には周辺温度が上昇する。低温減磁を起こさないように考慮すべき条件は、極端に冷えた状態で始動時に過大な減磁界を加えないことである。フェライト磁石26の抗磁力の温度変化を小さくするためにコバルトなどを添加する方法があるが、本発明の埋込磁石同期モータのロータの構成では、無添加のフェライト磁石でも対応できる。
【0063】
フェライト磁石26は、ロータ23がステータ34に組み込まれた状態でステータ34から磁性鋼板積層コア27と磁性鋼板積層コア35、36から異なる磁界を加えることで着磁される。フェライト磁石26がステータ34からの減磁界で減磁されない構成を前提に、着磁条件を選択する必要がある。フェライト磁石26の抗磁力は相対的に小さいため、着磁する磁界強度、フェライト磁石26の厚さ、および磁性鋼板積層コア27の両端部と隣接する磁性鋼板積層コア35と36との間隔を選択することで着磁することができる。ピン29、40を磁性体を用いることで着磁が容易になる。
【0064】
磁性鋼板積層コア27の中心軸方向内側に偏って、ロータ23の中心軸から同じ距離の2箇所に配置されたピン29、40の中心を通る径と交わる磁性鋼板積層コア27の3箇所の周方向の幅を加算した全長を小さくすることで、磁性鋼板積層コア27の質量を削減する。加算した全長が、フェライト磁石26の磁気ヒステリシス曲線(B−H曲線)における残留磁束密度Br(H=0での)と磁性鋼板積層コア27の径方向の最大磁束密度Bmの比Br/Bmにフェライト磁石26の磁性鋼板積層コア27と密着する周方向の長さを乗じた値と近似して大きい値にすることで磁気飽和を生じさせず、フェライト磁石26からの磁束経路を妨げないようにする。また、加算した幅の積層された磁性鋼板の部分の抗張力で磁性鋼板積層コア27が遠心力、さらには振動などが加わることで破壊されなくする必要がある。
【0065】
磁性鋼板積層コア27の周方向端部における径方向外周部の近傍41が周方向に突出され、フェライト磁石26からの磁束がピン29、40の周囲の磁性鋼板内を経て外周部に至るようにする。同時に、ピン29、40の径を大きくして隣接する磁性鋼板積層コア35、36と一部で近接させても磁束の漏洩を大きくせず、磁性鋼板積層コア27の慣性モーメントを小さくする。
【0066】
6000rpm以上の回転数を求める場合、逆起電圧で電源への制約が生じないように行う弱め界磁制御による電力ロスが大きくなる。円環状のフェライト磁石26を用いた本発明の埋込磁石同期モータでは、マグネットトルクに寄与するフェライト磁石26からの総磁束量が相対的に少ないため、逆起電力の抑制で高回転でも電力ロスをある程度少なくできる。
【0067】
図2は、実施例1の磁性体構成部を分解斜視図で示す。図2(a)は、ピン42、43が貫通固定された磁性鋼板積層コア36を一部分離して示す。内側から磁性体のロータハブ24、円環状のフェライト磁石26、磁性鋼板積層コア35、27、36が配置される。図2(b)は、図2(a)でロータ23の内側に配置されたロータハブ24と円環状のフェライト磁石26を個別に示す。ロータハブ24は全体として円筒状に形成され、軸方向端面に複数の円弧状の軸方向突出部44が形成される。ロータハブ24は鋳鋼や鋳鉄で形成され、軸方向突出部44の外周部45は後加工で径の寸法精度を確保するとよい。円環状のフェライト磁石26においても、研削や研磨で外周面の外径の寸法精度を得るのがよい。
【0068】
複数の独立した磁性鋼板積層コア35、27、36は、プレスで外形と貫通孔が打ち抜かれた磁性鋼板を積層し、ピン29、40、42、43を貫通孔に挿入、配置して構成される。また、磁性鋼板積層コア35、27、36は、磁化容易方向をロータ23の周方向に一致させた方向性磁性鋼板を積層して構成されると鉄損を少なく、磁気飽和を緩和することができる。
【0069】
磁性鋼板積層コア35、27、36の中心軸に近い内側の面は円弧状の断面形状にされ、円環状のフェライト磁石26の外周部に接着固定される。接着層の厚さが均一に薄くされることでロータ回転時に作用する剥離力に耐えることができ、円環状のフェライト磁石26が中心軸から偏ることで生じる遠心力による振動を低減することができる。
【0070】
図3は、実施例1のロータを全体構成図で示す。側面固定板46は非磁性体の金属板を複数枚重ねて形成される。磁性鋼板積層コア27を貫通するピン29、40を挿入し、磁性鋼板積層コア46に固定するための固定孔47、48が各磁極と対応する位置ごとに2箇所ずつ同心円上に穿設される。側面固定板46の中心軸方向の内側には円弧状の凹部49が複数形成され、径方向端部50が円弧状の凹部49から連続する。円弧状の凹部49は、ロータハブ24の軸方向突出部44の円弧状の外側部45に嵌合され、径方向端部50はロータハブ24の径方向端部51に当てられる。磁性鋼板積層コア27で生じるトルクが、側面固定板46を介し、当接する径方向端部50でロータハブ24に伝達される。ロータハブ24の中心には駆動シャフトに連結される開口孔52が形成される。
【0071】
ロータハブ24の複数の円弧状の軸方向突出部44の外側部45に嵌合されることで、ピン29、40が貫通された磁性鋼板積層コア27が径方向に位置が決められる。また、側面固定板46の円弧状の凹部49から連続する径方向端部50が軸方向突出部44の径方向端部51に嵌合されることで、磁性鋼板積層コア27が周方向に位置が決められる。
【0072】
磁性鋼板積層コア27は、円環状のフェライト磁石26の外周部に接着され、フェライト磁石26の着磁後の吸着力と相まって回転に耐える強度でフェライト磁石と一体化される。また、フェライト磁石26の円環状の端面を側面固定板46に接着することでフェライト磁石26の回転に対する強度を上げてもよい。
【0073】
ロータ23の回転時に、独立した磁性鋼板積層コア27が遠心力で飛散しない強度を、ピン29、40の径の太さ、磁性鋼板積層コア27におけるピン29、40を貫通させる孔の位置、およびピン29、40を支持する側面固定板46の厚さ、および固定孔47、48の位置と径から得る。側面固定板46で支持されるピン29、40は、ロータ径が150ミリメートルで、磁性鋼板積層コア27の積層厚が50ミリメートルの場合には、クロム鋼で直径15ミリメートル程の太さにされる。ロータ23の回転で生じる遠心力は、磁性鋼板積層コア27と側面固定板46の固定孔47、48の嵌め合い部でピン29、40に応力が集中し、フレティング現象で金属疲労破壊を引き起こしやすい。ロータ23の軸方向の反対側にも、当然ながら同形状の側面固定板53が配置され、磁性鋼板積層コア27のピン29、40が貫通して支持される。
【0074】
破壊に至るのを防ぐには、ピン29、40の径に余裕を持たせることである。ピン29、40を固定孔47、48に貫通して支持する。側面固定板46、53の外側からピン29、40をボルトにしてナットで締め付ける場合に較べ、同じ径のピン29、40を用いて非ナット止めにした場合の方が大きい遠心力に耐えることができる。
【0075】
側面固定板46は、磁性鋼板積層コア27を貫通するピン29、40を固定孔47、48で支持する。ロータ23の回転時に生じる磁性鋼板積層コア27とピン29、40の遠心力を側面固定板46の強度で耐える。側面固定板46を厚くするには、ロータ23の軸方向の幅と重量に制約があり、側面固定板46の外側部54と固定孔47、48の内周部の間隔を大きくして強度を確保する必要がある。結果、ピン29、40を磁性鋼板積層コア27に配置する貫通孔は、中心軸方向に偏った位置に穿設されることになる。
【0076】
側面固定板46は、磁性鋼板積層コア27の積層厚が大きくなるほど厚くする必要がある。非磁性体の金属を用いた場合、単一の板で側面固定板46を構成する場合に較べて複数の金属板を重ねて一体化する方が、結晶のすべりによるき烈の発生と進展を分散化して金属疲労による破壊を抑制することができる。また、側面固定板46における孔径や中心位置の精度が要求される貫通孔47、48や円弧状の凹部49の形状をプレスで打ち抜いて形成するために、1ミリメートル厚ほどの比較的薄い金属板を用いて複層にする必要がある。
【0077】
磁性鋼板積層コア35、27、36は個々独立しているため、方向性磁性鋼板を用いて磁化容易方向を周方向に最適化することで磁性鋼板積層コア35、27、36の磁気特性を磁気抵抗や鉄損の少ないものにできる。小寸法の外形であり、磁性鋼板の圧延方向に長い形状の方向を揃えることができるため、方向による寸法変化を前もって考慮して磁性鋼板を精度よく打ち抜くことができる。したがって、プレス打ち抜き性や強度は、磁気特性や方向によるプレス打ち抜き精度をほとんど考慮せずに選択される。
【0078】
焼きばめリング55、56がロータハブ24の軸方向突出部44と反対側の軸方向突出部に焼きばめされることで、側面固定板46、53の軸方向の外側からロータ23全体を固定する。焼きばめリング55、56は熱容量が比較的小さく、高温で焼きばめされても熱容量が大きい側面固定板46、53を介すため、熱による接着剤の劣化が抑えられる。焼きばめリング55、56の大きさも相対的に小さいため、収縮時に軸方向突出部44に加わる外力が限られて、軸方向突出部44の径方向強度を損なうことがない。
【0079】
図4は、実施例1のロータ23を斜視図で示す。図3で示された全体構成図をまとめて組み合わせたロータ23を示すものである。開口孔52に挿入されるシャフトがロータ23の回転を支持し、軸方向突出部44の端面に軸受けベアリングが当てられる構成にできる。
【0080】
ハイブリッド自動車に用いられている特許文献3で示される従来の埋込磁石同期モータ、V字配置にネオジム磁石がロータ外周部近傍に埋め込まれてロータ外周部がマグネットトルクとリラクタンストルクに35対55(磁気飽和部分の10を除く)ほどの領域に区分されたモータ、に較べると、本発明の埋込磁石同期モータのロータ23を用いてトルクを同等以上できる。ロータ径が150ミリメートル、磁性鋼板の積層厚が50ミリメートル、磁気ギャップが0.5ミリメートルの同じ構成で、平均的にマグネットトルクが35パーセントほど小さく、リラクタンストルクが約50パーセント大きく、全体のトルクを15パーセントほど大きくできる。磁気ギャップを0.6ミリメートルに20パーセント大きくすると鉄損などのロスが少ないことを前提に同等のトルクを得ることができる。
【0081】
側面固定板46、53が付加されることで、ロータ23の慣性モーメントが増大する。独立した磁性鋼板積層コア36と隣接する磁性鋼板積層コアの間に間隔が形成されること、比重(密度)4.8の円環状のフェライト磁石を用いることを考慮しても25パーセントほどの慣性モーメントの増大が生じる。したがってモータ性能を従来の埋込磁石同期モータと同等程度にするには磁気ギャップを同じにする必要がある。
【実施例2】
【0082】
図5は、本発明の埋込磁石同期モータのロータの実施例2を示す。実施例1と対応する部分は同じ符号で示される。側面固定板46と焼きばめリング55の間にファン57が配置される。ファン57は板材で外縁部が折り曲げられて形成され、内側に軸方向突出部44の形状に近似する開口部を有する。開口部が軸方向突出部44に案内され、側面固定板46に当てられて、軸方向外側から焼きばめリング55で固定される。軸方向の反対側においても、同様な構成でファン58が側面固定板53と焼きばめリング56(図3で示される)の間に配置される。
【0083】
ファン57と58は、図示されてないステータの巻き線コイルで生じる熱を拡散して冷却する。また、ロータ23とステータ34(図1で示される)間の磁気ギャップ、およびステータ34のティース39(図1で示される)先端の隙間近傍で、ロータ23の回転方向とファン57、58の角度で生じるファン57で生じる正圧と、他方のファン58で生じる負圧の圧力差による軸方向の空気流動でロータ23を冷却する。本発明の埋込磁石同期モータのロータ23の内部の鉄損で発生する熱を少なくできても、大電流においてはステータ23の鉄損や銅損で生じる熱の放射、およびロータ23で生じる熱発生も無視できず、強制空冷で温度上昇を抑える必要がある。
【0084】
フェライト磁石は温度が高くなると、ネオジム磁石と反対に抗磁力(保持力)は大きくなる。しかし、残留磁束密度の低下が生じ、マグネットトルクの低下の原因になる。モータ駆動中のフェライト磁石における温度上昇を抑制するためにファン57、58が配置される必要がある。
【実施例3】
【0085】
図6は、本発明の埋込磁石同期モータのロータの実施例3を示す。ロータハブ59とシャフト60が鋳鋼などで一体化された構成が図6(a)である。他の部分は実施例1の埋込磁石同期モータのロータ23と同じである。シャフト60の中心軸と、ロータハブ59の側面固定板61が嵌合される軸方向突出部62の円弧状外周部の中心を一致させるのが容易になる。側面固定板61に形成された複数の固定孔63の中心の中心軸からの位置精度を得ることができる。結果、複数の磁性鋼板積層コア64の円弧状断面の外周部を中心軸から精度敵に均一距離に保つことができ、ステータとの磁気ギャップの間隔を小さくしやすい。
【0086】
図6(b)は、ロータハブ59とシャフト60が一体化された構成を斜視図で示す。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の埋込磁石同期モータのロータで構成される動力用モータをハイブリッド自動車や電気自動車に用いると、フェライト磁石を用いてもトルクと効率を向上できる。
【符号の説明】
【0088】
29、40、42、43 ピン
24、59 ロータハブ
46、53、61 側面固定板
25、26、38 磁極
26 フェライト磁石
27、35、36、64 磁性鋼板積層コア
23 ロータ
34 ステータ
47、48、63 固定孔
39 ティース
44、62 軸方向突出部
49 円弧状の凹部
52 開口孔
55、56 焼きばめリング
57、58 ファン
60 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円形状断面を有するロータハブの磁性体の外側部に、複数の永久磁石が隣接どうし逆極性で等間隔に配置され、円弧状断面の径方向外側部を有する複数の磁性鋼板積層コアが、隣接どうし間隔を有して該永久磁石の径方向外側の面に重ねられ、該磁性鋼板積層コアの積層方向に貫通して設けられたピンが略環状の側面固定板の固定孔に支持され、該側面固定板が前記ロータハブに固定される埋込磁石同期モータにおいて、該ピンが挿入される貫通孔が、前記磁性鋼板積層コアの周方向端部におけるロータの中心軸方向の偏った2箇所に穿設されて、複数の前記永久磁石が円環状のフェライト磁石に隣接する磁極が逆極性にされることにより形成され、前記磁性鋼板積層コアの断面円弧形状を有する径方向内側の面が該フェライト磁石の径方向外側の面に密着された構成を有する埋込磁石同期モータのロータ。
【請求項2】
前記磁性鋼板積層コアの周方向端部におけるロータの中心軸に近い部分が円弧状の断面形状にされる請求項1に記載の埋込磁石同期モータのロータ。
【請求項3】
円弧状凹部を内側の複数箇所に有する前記側面固定板が、前記ロータハブの軸方向端面における複数の円弧状の軸方向突出部に該円弧状凹部を合わせて嵌合される請求項1、請求項2のいずれかに記載の埋込磁石同期モータのロータ。
【請求項4】
複数の円弧状の前記軸方向突出部において、焼きばめリングで前記側面固定板を軸方向外側から固定する請求項3に記載の埋込磁石同期モータのロータ。
【請求項5】
前記軸方向突出部の形状に近似する開口部を内側に有する板材で構成されたファンが、前記側面固定板と前記焼きばめリングの間に配置される請求項4に記載の埋込磁石同期モータのロータ。
【請求項6】
前記側面固定板が非磁性体の金属板を複数枚重ねて形成される請求項1に記載の埋込磁石同期モータのロータ。
【請求項7】
前記側面固定板が、円環状の前記フェライト磁石に接着される請求項1に記載の埋込磁石同期モータのロータ。
【請求項8】
前記磁性鋼板積層コアの周方向端部における径方向外側部の近傍が周方向に突出され、ロータの中心軸から同じ距離の2箇所に配置された前記ピンの中心を通る径と交わる前記磁性鋼板積層コアの3箇所の周方向の幅を加算した全長が、前記フェライト磁石の残留磁束密度Brと前記磁性鋼板積層コアの径方向の最大磁束密度Bmの比Br/Bmに前記フェライト磁石の各磁極の周方向の長さを乗じた値に近似される請求項1、請求項2のいずれかに記載の埋込磁石同期モータのロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−172432(P2011−172432A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35782(P2010−35782)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(597026685)エーシーイーテック有限会社 (8)
【Fターム(参考)】