説明

基層、プライマー層および耐引掻性層を有する多層系

本発明は、熱可塑性物質からなる基層と、プライマー層、および耐引掻性コーティングからなる耐引掻性層を含む多層系であって、該多層系は、プライマー層が特定のUV吸収剤を含有し、所定量の酸、好ましくは酢酸が耐引掻性層に添加される、を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性物質から成る基層と、プライマー層と、耐引掻性コーティングから成る耐引掻性層を含有する多層系に関し、また、プライマー層が所定のUV吸収剤を含有し、一定量の酸、好ましくは酢酸が耐引掻性コーティングに添加されることを特徴とする多層系に関する。
【背景技術】
【0002】
その良好な光学特性、機械的特性および熱特性、ならびにその比較的低い重量のために、ポリカーボネートはガラスに対する代替材料として適当であり、板ガラス用途における使用に関する材料として適当である。しかしながら、その比較的低い耐引掻性と耐候性が欠点である。これらの欠点は、UV吸収剤を含有するコーティングを施すことにより補償されることが多い。
【0003】
ビフェニル置換トリアジン(WO2006/108520A)は、現在の先行技術に係るUV吸収剤のうち、極めて良好な種類である。この種の物質は、320〜380nmにて極めて優れた吸収効果を有し、また、極めて高い固有のUV安定性を有する(WO2000/066675A1、US-A6225384)。それらの極めて顕著な芳香族性に起因して、この種類における多くの物質は、非極性および適度に極性の媒体中にのみ良好に溶解することが今まで知られている。既知の商業的に入手可能なトリアジンは、純粋に有機主成分に配合されたUV硬化保護コーティングで使用できる。しかしながら、保護コーティングは、比較的高い程度の耐引掻性を要求する用途に関して十分でない。
【0004】
材料が摩耗および引掻きに対して効果的に保護される場合、ゾル-ゲルシリケートコーティング(例えばEP-A0339257、US-A5041313参照)および他のハイブリッドコーティング(EP-A0570165)が現在の先行技術である。オルガノシラン系コーティングの特性は、優れた風化および光安定性に加えて、熱、アルカリ、溶剤および水分に対する耐性を含む。しかしながら、非極性の添加剤はこれらのコーティング系に溶解せず、それらの作用は改良の余地を残すが(EP-A0931820)、商業的に入手可能な適度に極性の、大部分がヒドロキシ含有UV吸収剤および/または無機UV吸収剤、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛または二酸化セリウムがUV吸収剤として使用される。DE10200901943.2は、どのようにして、トリアジン構造を有するUV吸収剤の極性を、トリアルコキシシラン基を用いる変性により改良できるかを開示する。この出願の目的は、極性の耐引掻性コーティング中に溶解するトリアジン誘導体を提供することである。
【0005】
代替的にまたはそれに加えて、非極性または適度に極性のUV吸収剤を、耐引掻性層の下方に施されるプライマー層に溶解させてもよい。プライマー層は、熱可塑性物質の表面と耐引掻性層コーティングの両方に対して良好な接着性を有する有機バインダー材料を含有する。熱可塑性のベース層とシロキサン系耐引掻性コーティングの間での接着に関するプライマー層は、例えばUS5041313、およびUS5391795ならびにそこに記載された特許から既知であり、および、ポリカーボネートのコーティングにおける接着促進剤として使用されている。接着促進剤に加えて、これらのプライマー層は、US5041313およびUS5391795に記載されるようにUV吸収剤を含有でき、これによって、被覆された構成要素の耐候性に寄与する。
【0006】
ポリカーボネート、プライマーおよびトップコートから成る層状構造は、EP-A672732から既知であり、該明細書において、プライマー層はレソルシノール誘導体に基づくUV安定剤を含有する。
【0007】
式(V)のトリアジン系UV吸収剤を含有するプライマー層が、特に適当であり、極めて良好な耐候性を有することは、WO2009/049904A1から既知である:
【0008】
【化1】

式中、X=OR、OCHCHOR、OCHCH(OH)CHORまたはOCH(R)COOR(式中、
=分岐または非分岐のC〜C13アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C12アリールまたは-CO-C-C18アルキル、
=Hまたは分岐もしくは非分岐C-Cアルキル、および
=C-C12アルキル、C〜C12アルケニルまたはC〜Cシクロアルキル)。
【0009】
特に、透明な熱可塑性基体、例えば特にポリカーボネートから成る基体に関するプライマー組成物において、トリアジン系UV安定剤と共に、ヒドロキシベンゾフェノン類のUV吸収剤、特に、式(V)のレゾルシノール系UV安定剤を組合せる使用は、特に適当であると記載されている。
【0010】
これらトリアジンの使用は、同程度の厚さにおける常套のプライマーと比較して、プライマー層のUV吸収を増加させる。あるいは、プライマー組成物のより低い粘度を可能とするので、プライマー層の厚さを減少できる。紫外線吸収剤を含有するプライマー層の最小厚は、UV吸収剤がプライマー組成物中での限られた溶解度を有するように、所望される紫外線保護により決定される。プライマー層中のトリアジンUV吸収剤の濃度が極めて高い場合、それは凝集し、多層系は曇りを生じる。
【0011】
プライマー層に対する耐引掻性コーティングの接着性を増加させるために、それに酢酸を添加することが有利であることが判明している。耐引掻性コーティングに酢酸を添加することは、プライマーと耐引掻性層の間の2層間に改良された接着性をもたらす相互浸透層(IPL)を形成させる。耐引掻性コーティングはプライマー層内に浸透し、更に混合されたプライマー/耐引掻性層が、耐引掻性層とプライマー層の間に形成される。例えば、風化条件下での耐引掻性層における減少したひび割れにより例示されるように、IPLの形成は、他層系の長期間安定性を増加させる。しかしながら、これまでにプライマー層において使用され(WO2009/049904A1参照)、およびポリカーボネートを保護するのに特に適当なトリアジン化合物は、このIPL層に不溶性である。
【0012】
したがって、耐引掻性コーティングに酢酸が添加される場合、それらは残りのプライマー層中に濃縮し、それらの厚さを減少させる。耐引掻性コーティング中の酢酸濃度が上昇するにつれ、IPL層の厚さは上昇し、それゆえに、プライマー層は常により薄くなり、未溶解の/沈殿したUV吸収剤に起因して曇りが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際特許出願第2006/108520号A明細書
【特許文献2】国際特許出願第2000/066675号A明細書
【特許文献3】欧州特許第0339257号A明細書
【特許文献4】米国特許第5041313号A明細書
【特許文献5】欧州特許第0570165号A明細書
【特許文献6】欧州特許第0931820号A明細書
【特許文献7】独国特許第10200901943.2号明細書
【特許文献8】米国特許第5041313号明細書
【特許文献9】米国特許第5391795号明細書
【特許文献10】欧州特許第672732号A明細書
【特許文献11】国際特許出願第2009/049904号A1明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、厚い相互浸透層から生じるプライマー層と耐引掻性コーティングの間の極めて良好な接着性と良好な耐候性を兼ね備え、効果的で耐久性のあるUV保護効果を共に示す、板ガラス用途に適当な多層系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
驚くべきことに、常套のUV吸収剤を用いる場合のように系に沈殿をもたらし結果として曇りをもたらすことなく、プライマー層におけるシリル化されたトリアジン系UV吸収剤誘導体の使用は、耐引掻性コーティングへ酢酸を添加することから生じる相互浸透層の形成を介して、プライマー層と耐引掻性層の間の接着性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
したがって、本発明は、熱可塑性物質から成る基層と、プライマー層、および耐引掻性コーティングから成る耐引掻性層を含む多層系に関し、該多層系は、プライマー層がトリアジンに基づくシリル化されたUV吸収剤を含有し、および一定量の酢酸が耐引掻性コーティングに添加されることを特徴とする。
【0017】
本発明に関連して、多層系の基層に関して適当な熱可塑性物質は、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリエステル(例えば、ポリアルキレンテレフタレートなど)、ポリフェニレンエーテル、グラフトコポリマー(例えばABSなど)、ポリアクリレート、特に、ポリ(メタ)アクリレートおよびポリスチレンおよびそれらの混合物である。それらの高い透明性およびそれらの優れた長期間安定性に起因して、本発明に係るコーティングは、特に透明プラスチック、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、特にポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルおよびポリスチレンならびに、それらのコポリマーおよび混合物(ブレンド)などを使用できる。ポリカーボネート、特にホモポリカーボネート、コポリカーボネートおよび/または熱可塑性のポリエステルカーボネートが好ましい。とりわけ、ビスフェノールA系(芳香族)ポリカーボネートが、UV放射に対して特に有利な方法で保護される。
【0018】
本発明に関連して、多層系における適当なプライマー層は、硬化によりプライマー組成物から形成される層である。ここで、用語「硬化」は、使用されるプライマーの種類に応じて、反応が生じない乾燥と化学的架橋とを包含する。
【0019】
本発明に関連して、表現「プライマー組成物」は、溶媒(a2)中のバインダー材料(a1)、トリアジンに基づくシリル化されたUV吸収剤(a3)および可能な更なるUV安定剤(a4)、ならびに他の添加剤または安定剤、例えば酸化防止剤、ヒンダードアミン若しくは染料または無機充填剤から成り、この場合において適当な典型的な厚膜型(high-build)プライマー配合物を示す。
【0020】
プライマー層の基礎として特に適当であり、それ故にバインダー材料(a1)として好ましいのはポリカーボネートであり、適当なポリカーボネート種は、化学反応を行うことなく、乾燥の間に単純に乾燥するポリカーボネートと、および、硬化の間に化学反応することにより架橋されるポリカーボネートである。ポリメチルメタクリレートが最も特に好ましい。適当な溶媒(a2)は、有機溶媒、例えば、アルカン、アルコール、エーテル、エステルまたはケトン、原則として、ポリアクリレートエマルション水溶液を併用することあるいは水系溶媒のブレンドも適当である。
【0021】
これらのプライマー配合物は原則として既知であり、例えば、US5391795、US5041313およびUS4410594に詳細に記載されている。例えば、Momentive Performance Materials社のSHP470(登録商標)は、ポリメチルメタクリレート(a1)、とりわけ、溶媒として1-メトキシ-2-プロパノールおよびジアセトンアルコール(a2)およびUV吸収剤としてのジベンゾイルレソルシノール(a4)に基づく接着促進剤である。このプライマーは、ポリカーボネート基体とポリシロキサントップコート(ここでは、Momentive Performance Materials社製のAS4700が好ましく使用される)の間の接着に使用される。
【0022】
プライマー配合物は、シリル化されたトリアジン化合物(a3)を更に含有し、該化合物は該配合物に添加される。適当な、シリル化されたトリアジン化合物(a3)は、一般式(I)のものである:
【0023】
【化2】

式中、Aは以下のものであり、
【0024】
【化3】

式中、
およびYは、相互に独立して以下の一般式の置換基であり、
【0025】
【化4】

式中、
rは0または1に等しく、好ましくは1に等しく、
、R、Rは相互に独立して、H、OH、C1−20アルキル、C4-12シクロアルキル、C2-20アルケニル、C1-20アルコキシ、C4-12シクロアルコキシ、C2-20アルケニルオキシ、C7-20アラルキル、ハロゲン、-C≡N、C1-5ハロアルキル、-SOR'、-SOH、-SOM(M=アルカリ金属)、-COOR'、-CONHR'、-CONR'R''、-OCOOR'、-OCOR'、-OCONHR'、(メタ)アクリルアミノ、(メタ)アクリルオキシ、C6-12アリール(所望により、C1-12アルキル、C1-12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンにより置換される)、C3-12ヘテロアリール(所望により、C1-12アルキル、C1-12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンにより置換される)を表わし、R'およびR''は、-H、C1-20アルキル、-C4-12シクロアルキル、-C6-12アリール(所望により、C1-12アルキル、C1-12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンにより置換される)またはC3-12ヘテロアリール(所望により、C1-12アルキル、C1-12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンにより置換される)、
【0026】
Tは、ウレタン基-O-(C=O)-NH-、またはウレア基-NH-(C=O)-NH-であり、および好ましくは、ウレタン基-O-(C=O)-NH-である、
Qは、-(CH)-、式中、m=1、2または3であり、
Pは、モノ-、ジ-、またはトリアルコキシシラン基であり、この場合において、アルコキシは、好ましくはメトキシ、エトキシまたは(2-メトキシ)エトキシを示し、および
nは、1〜5の間の整数を示し、
Xは、直鎖または分岐状のリンカーであり、
A基のO原子と各T基の間の鎖中に、炭素、酸素、窒素、硫黄、リンおよびまたはケイ素から選択される少なくとも3つ、好ましくは4つの原子からなる鎖が存在することを特徴とする。例えば、それは(所望により置換された)炭化水素鎖-(CR)-j(式中、jは、3よりも大きい整数である)であってもよく、またはそれは、種々の置換された、O、N、S、Pおよび/またはSiにより遮断された炭化水素鎖を含む、所望により単置換または多置換されたもの、例えば、-CR(C=O)-O-CR-であってもよい。好ましくは、基Rは、相互に独立して、Hまたはアルキル基を示す。
【0027】
一般式(I)の化合物のうち、一般式(II)の化合物が好ましい:
【0028】
【化5】

以下のものに相当する
【0029】
【化6】

式中、Rは、-HまたはC1−20アルキルおよびq=0,1,2または3を示す。
【0030】
同様に好ましいのは、一般式(I)の化合物であり、n≧2のものである(式III)
【0031】
【化7】

【0032】
式(II)および(III)において、A、Y、Y、X、T、QおよびPは、式(I)において記載された意味を有する。
【0033】
このようなトリアジンの合成は、既に記載されたDE10200901943.2に記載された調製方法と類似した方法で行うことができる。このように、参照は、DE10200901943.2における全開示によりなされ、特に、トリアジンの調製における開示と、そこに記載されている実施例によりなされる。
【0034】
一般式(I)を有する化合物のうち、以下の化合物が最も特に好ましい:
【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
【化11】

【0039】
【化12】

【0040】
【化13】

【0041】
【化14】

【0042】
【化15】

【0043】
プライマー層は、式(I)の化合物とは異なる更なるUV吸収剤を付加的に含有できる。適当なUV吸収剤は、以下の一般的な群の誘導体である:2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、オキサルアニリド、2-シアノアクリレート、ベンジリジンマロネートおよびホルムアミジン、または一般式(V)の変性トリアジンである。
【0044】
プライマー組成物に関する一般的な製造方法は、約10%の固形分と、340nmにて約1.2の吸光度を有し、および2μmの膜厚を有する商業的に入手可能なSHP470(登録商標)に基づく例によってここに記載されるが、このような方法に限定されない。Momentive Performance Materials社(Wilton、CT,米国)製のSHP470(登録商標)は、ポリメチルメタクリレート(成分(a1))、溶媒として、とりわけ1-メトキシ-2-プロパノールおよびジアセトンアルコール(成分(a2))、およびUV吸収剤としてのジベンゾイルレソルシノール誘導体(成分(a4))、に基づく接着促進剤である。希釈されたSHP470(登録商標)(固形分約6wt%)は、2mmカップを用い、23℃にてDIN EN ISO2431に従い測定された場合、90sよりも大きい粘度を有する。このプライマーは、ポリカーボネート基体とポリシロキサントップコート(ここでは、Momentive Performance Materials社製のAS4700(登録商標)が好ましく使用される)との間の接着に使用される。
SHP470(登録商標)は、好ましくは20〜95%、特に好ましくは25〜90%まで、好ましくはアルコール、特に好ましくはジアセトンアルコール、メトキシプロパノールまたはそれらの混合物を用いて希釈され、約2.0〜9.5wt%、好ましくは2.5〜9.0wt%の固形分をもたらす。
【0045】
この溶液は、0.01wt%〜15.00wt%、好ましくは0.10wt%〜10.00wt%、特に好ましくは3.00wt%〜9.00wt%の、一般式(I)のシリル化されたトリアジンUV吸収剤(成分(a3))と混合され、その工程の間および/または工程後に適当な方法により均質化される。ジアセトンアルコール、メトキシプロパノールまたはそれらの混合物中にUV吸収剤を溶解させ、それをその状態でSHP470(登録商標)へ添加することが有利である。望ましい希釈比は要素の大きさおよび形状、ならびにコーティングを施す方法によって、決まり、個々の状況に応じて調整されるべきである。
【0046】
耐引掻性層に関する適当な引掻性コーティングは、その中に酢酸を添加することがプライマー層との相互浸透層の形成をもたらすコーティングである。これらは、例えば、ゾル−ゲルコーティングおよび他のハイブリッドコーティング、特にポリシロキサンコーティングと称され、例えば、US4373061、US4410594、US5041313、またはUS5391795から既知であり、シリケートコーティング(水ガラス)およびナノ粒子含有配合物と共にここに記載されている。
【0047】
本発明による酢酸は、耐引掻性コーティングに添加され、次いで、それらはプライマー層へ施され、その後硬化され、良好な接着性を有する多層製品を形成する。
【0048】
本発明の意義の範囲内で、ゾル-ゲルコーティングはゾル-ゲル法によって調製されるコーティングである。ゾル-ゲル法は、ゾルとして既知のコロイド分散から非金属、無機、またはハイブリッドポリマー材料を合成する方法である。
【0049】
本発明の意義の範囲内におけるハイブリッドコーティングは、バインダーとしてのハイブリッドポリマーの使用に基づく。ハイブリッドポリマー(ハイブリッド:ラテン語に由来し、「二元的な起源」を意味する)は、分子レベルにて異なる材料区分の構造単位を結合するポリマー材料である。それらの構造を介して、ハイブリッドポリマーは、完全に新しい組合せの性能を示すことが出来る。複合材料(界面が定義され、相間の弱い相互作用を有する)とナノ複合材料(ナノスケール充填剤を用いる)とは異なり、ハイブリッドポリマーの構造単位は、分子レベルで相互に結合している。このことは、化学的方法、例えば、ゾル-ゲル法などを用いることによってもたらされ、それを用いることで、無機ネットワークを構築できる。有機オリゴマー/ポリマー構造は、有機的に反応性の前駆物質、例えば有機的に変性された金属アルコキシドの使用を介して更に生成できる。硬化後に有機/無機ネットワークを形成する、表面変性ナノ粒子を含有するアクリレートコーティングが、ハイブリッドコーティングとして同様に定義される。
【0050】
耐引掻性コーティングは、例えば、コロイド状の二酸化ケイ素およびオルガノアルコキシシランまたは一般式RSi(OR')のオルガノアルコキシシランの混合物の水性分散液を加水分解することにより、ゾル-ゲルコーティング溶液から製造できる。一般式RSi(OR')のオルガノアルコキシシランにおいて、Rは、一価のC〜Cアルキル基、または全体的若しくは部分的にフッ素化されたC〜Cアルキル基、ビニルまたはアリルユニット、アリール基またはC〜Cアルコキシ基を表わす。Rは、特に好ましくは、C〜Cアルキル基、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、tert-ブチル、sec-ブチルまたはn-ブチル基、ビニル、アリル、フェニルまたは置換フェニルユニットである。-OR'ユニットは、相互に独立して、C〜Cアルコキシ基、ヒドロキシ基、ホルミルユニットおよびアセチルユニットを含有する群から選択される。
【0051】
コロイド状の二酸化ケイ素は、例えば、Levasil(登録商標)200A(HC Starck)、Nalco1034A(Nalco Chemical社)、Ludox(登録商標)AS-40またはLudox(登録商標)LS(GRACE Davison)として入手できる。
【0052】
以下の化合物は、オルガノアルコキシシランの例として記載される:3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリヒドロキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン(例えば、フェニルトリエトキシシランおよびフェニルトリメトキシシラン)およびそれらの混合物。
【0053】
例えば、有機および/または無機酸もしくは塩基を触媒として使用できる。
【0054】
1実施態様において、コロイド状の二酸化ケイ素粒子は、アルコキシシランから出発する事前濃縮によりインサイチュで形成できる(この関連で「The Chemistry of Silica」、Ralph K.Iler,John Wiley and Sons,(1979年)、第312〜461頁参照)。
【0055】
ゾル-ゲル溶液の加水分解は、溶媒、好ましくはアルコール性の溶媒、例えば、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールまたはそれらの混合物を添加することにより停止するか劇的に減少する。
【0056】
耐引掻性コーティングは、添加剤および/または安定剤、例えば、流れ調整剤、表面添加剤、濃縮剤、顔料、染料、触媒、IR吸収剤、UV吸収剤および/または接着促進剤を更に含有できる。ヘキサメチルジシラザンまたはコーティングにおけるクレージングに対して減少した感受性をもたらすことができる同等の化合物の使用も可能である(WO2008/109072A参照)。
【0057】
1実施態様は、例えば式(I)のような化合物含む、シリル化されたUV吸収剤を更に含有する。
【0058】
シロキサン系のゾル-ゲル耐引掻性コーティングは、例えば、Momentive Performance Materials社から、AS4000(登録商標)、AS4700(登録商標)、PHC587(登録商標)およびPHC587B(登録商標)の商品名で入手できる。
【0059】
本発明によると、酢酸が耐引掻性コーティング配合物に添加される。その後、耐引掻性コーティングは、プライマー層に施され、その後、硬化され、良好な接着性を有する多層製品を形成する。本発明に係るコーティング配合物に関する具体的な製造方法は、当然ながら、使用される商業的なプライマーに依存する。酢酸の取り込みは、0.1〜15.0%、好ましくは0.5%〜10.0%および特に好ましくは1.0〜8.0%の酢酸(100%酢酸)を添加することにより好ましく行われ、および、次いで、撹拌または再循環により均質化される。あるいは又はそれに加えて、プライマー層を部分的に溶解できる他の有機酸または鉱酸も使用できる。
【0060】
プライマー組成物および耐引掻性コーティングは、常套の方法により基層を有する対応する基体へ施し、次いで適当な条件の下、硬化させることができる。施すことは、例えば、浸漬、フローコーティング、噴霧、ナイフ塗布、注入またはブラッシングにより行うことができ、次いで、所望により存在する任意の溶媒を蒸発させ、コーティングを室温にて、または昇温条件にて、あるいはUV光により硬化させることができる。常套の方法により施すことの詳細は、例えば、「有機コーティング:科学および技術」John Wiley and Sons 1994年、第22章、第65〜82頁において見出すことができる。
【0061】
室温にて溶媒を蒸発させた後、プライマー層(複数の該層)を、昇温にてベークさせてもよく(ベーク-オン-ベーク法)、またはゾル-ゲル溶液で直接オーバーコートさせてもよい(ウェット-オン-ウェット法)。
【0062】
本発明による多層系は、UV不安定性の基体が、主に日光からまたは人工的な放射源からのUV照射に対して持続的に保護される限り使用できる。多くのプラスチックは、本発明によるコーティングにより、光化学的劣化に対して持続的に保護できる。しかしながら、同様に可能であるガラスのコーティングは、基体を保護する機能を果たさないが、例えば標準的な窓ガラスを透過する、長波UV照射(≧300nm)をほぼ完全に遮断する。
【0063】
このような方法で持続的に保護される熱可塑性物質、特にポリカーボネートは、長期間に亘り黄変を防がねばならず、ひび割れを防ぐために層間で良好な接着性が必要とされる場合において、例えば、建築物および車両用の板ガラス(glazing)に使用できる。
【0064】
熱可塑性物質の場合、例えば、フィルム、共押出フィルム、シート、多層シートおよび大多数の二次元基体の形態で、主に押出および射出成形品を被覆できる。また、例えば、ヘッドライトカバーの形態、ならびに建築的および自動車の板ガラス系の形態で、1成分および2成分射出成形品の分野でも適用される。
【0065】
用途に応じて、プライマー(Pr)層および/または耐引掻性(SP)層は、基層(B)の片面以上に都合良く施される。二次元の基体、例えば、フィルムまたはシートを、片面または両面に相応に被覆できる。本発明による相互浸透層(IPL)は、プライマー層と耐引掻性層の間に形成される。したがって、本発明による多層系は、層における以下の配列を好ましく含む:
(B)-(Pr)-(IPL)-(SP)
(SP)-(B)-(Pr)-(IPL)-(SP)
(SP)-(IPL)-(Pr)-(B)-(Pr)-(IPL)-(SP)。
【0066】
好ましい実施態様において、耐引掻性層(SP)に対する相互浸透層(IPL)の膜厚比は、≧10%、特に好ましくは≧12%、および/または≧15である。
【0067】
多層系は、更なる機能層または装飾層を更に含んでもよい。プライマー層および耐引掻性に加えて、適当な更なるコーティングは、例えば、IR-吸収層、IR反射層、導電性層、エレクトロルミネッセンス層、装飾着色および印刷層、導電性印刷層(例えば、車の窓の加熱に使用される)を含み、所望により、これらの層は熱線、反射防止層、水滴防止(no-drop)コーティング、防曇コーティング、指紋付着防止コーティング、および/またはそれらの組合せを含有する。これらのコーティングは中間層および/または外層として含まれてもよく、施されてもよい。このような層は、例えば、共押出法、ラミネーション、またはコーティングにより施すことができる。
【0068】
多層系は、例えば機械的特性(耐引掻性)を更に改良する機能を果たすことが出来る更なるコーティングを用いて、それらの外側を更にオーバーコートされてもよい。更なるバリアと引掻きからの保護を提供できるプラズマ層を施すことも同様に可能である。このプラズマ層は、先行技術に従い、沈殿反応種により施され、例えば、プラズマ化学気相成長法PCVDまたはマグネトロン(例えば、US-A2007/104956)により施される。
【0069】
以下の実施例は、本発明を説明することを目的とするが、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0070】
a)試験方法
固形分測定(方法A)
一定重量に到達するまで、110℃にて秤量されるコーティングサンプルを蒸発させることにより、Sartorius MA40固形物テスターを用いて、コーティングの固形分を測定した。その結果、蒸発前後の質量の割合からのパーセンテージとして固形分を算出した。最も単純な場合、コーティングの硬化後におけるコーティングの固形分は、溶媒の重量を差し引いたコーティングの重量である。
【0071】
膜厚測定(方法B)
硬化したコーティングの膜厚、またはコーティングの総膜厚は、Eta Optik GmbH(ドイツ)製の、Eta SD 30機器を用いて、白色光干渉計によって測定される。
【0072】
ヘーズ測定(方法C)
コートされたPCシートのヘーズは、Byk-Gardner製のHaze Gard Plusを用いてASTM D 1003に従い測定された。白色光干渉計により測定された約6μmの総膜厚を測定位置として定義した。
【0073】
相互浸透層(IPL)の膜厚の測定(方法D)
耐引掻性コーティング、相互浸透層およびプライマーの膜厚を、FEI(米国)製のEM208を用いて、透過電子顕微鏡法(薄片、超ミクロートーム法)によって測定した。測定は、白色光干渉計により測定された約6μmの総膜厚にて同様に行われた。
【0074】
吸光度の測定(方法E)
種々のプライマー層のUV吸収作用を比較できるように、UV安定化Makrolon(登録商標)2808(バイエル マテリアルサイエンスAG;UV安定化を行わず、1.2kgおよび300℃にてISO1133に従いMVR10g/10分、中間粘度ビスフェノールAポリカーボネート)から成り、各プライマー溶液で被覆されたPCシートにおいて、光度計階級0°/拡散、PE Lambda 900を用い5nm増加量で200〜500nmの範囲における各場合の透過率を測定した。結果から純粋なプライマー層の吸光度を得るために、透過率から算出されたプライマー層とPCシートの総吸光度から、PCシート(ゼロ値)の吸光度が差し引かれた。
【0075】
吸光度は、ポリカーボネートがこの範囲のUV光に対して特に影響を受けるので、その結果高い吸光度が要求される、340nmの波長に関して測定される。プライマー層の吸光度は、以下の式を用いる透過率から算出できる:
プライマー層の吸光度(%):
E=log10(100/(PCシート+プライマー層の透過率[%])/(純粋なPCシートの透過率[%])
【0076】
b)使用したUV吸収剤
【0077】
【化16】

【0078】
【化17】

【0079】
【化18】

【0080】
c)プライマー層用の原液Aの調製
方法Aを用いて、商業的に入手可能な厚模型プライマーSHP470(登録商標)(Momentive Performance Materials社、Wilton、CT、USA)に関する、10.5%の固形分が算出された。
【0081】
膜厚が製造者の仕様書内に位置するために、ジアセトンアルコールと1-メトキシ-2-プロパノールの1:1溶媒ブレンドでコーティングを希釈する。この目的を達成するために、商業的に入手可能な厚模型プライマーSHP470(登録商標)に対して溶媒が添加され、その結果、方法A(所定量)を用いて、希釈されたSHP470(登録商標)(原液A)に関する5.9%の固形分が算出された。
【0082】
d)耐引掻性コーティング(A1-E1)の調製
AS4700(登録商標)(UV-吸収剤含有、ポリシロキサン系の耐引掻性コーティング、Momentive Performance Materials社、Wilton、CT、USA製)(A1)、または酢酸で酸性化されたAS4700(登録商標)の溶液を、耐引掻性コーティングとして使用した。
【0083】
この目的を達成するために、0.50gの氷酢酸(100%酢酸)を、撹拌しながら24.50gのAS4700(登録商標)(A1)に添加した。その結果、総コーティング量に対して2.0wt%の酢酸が添加されている耐引掻性コーティング溶液B1が得られた。
【0084】
0.88gの氷酢酸(100%酢酸)を、撹拌しながら24.12gのAS4700(登録商標)(A1)に更に添加した。その結果、総コーティング量に対して3.5wt%の酢酸が添加されている耐引掻性コーティング溶液C1が得られた。
【0085】
1.25gの氷酢酸(100%酢酸)を、撹拌しながら23.75gのAS4700(登録商標)(A1)に更に添加した。その結果、総コーティング量に対して5.0wt%の酢酸が添加されている耐引掻性コーティング溶液D1が得られた。
【0086】
e)多層系の製造
例1a-1d(比較試験)
0.1gのUV吸収剤Tinuvin(登録商標)479(チバ、スイス)を、撹拌しながら33.3gの原液Aに添加した。その結果、実験的に測定されたAにおける5.9%の固形分に対して、Tinuvin(登録商標)479を5wt%含有する、プライマー溶液1Aが得られた。その後、コーティング溶液を加圧ヌッチェ(nutsche)(2〜4μmセルロースフィルター)を介して濾過した。
【0087】
プライマー溶液1Aを、フローコーティング法により、ポリカーボネートシート(Markrolon(登録商標)AL2647(UV安定剤と離型剤を備える中粘度のビスフェノールAポリカーボネート;1.2kg、300℃にてISO1133に従い、13g/10分のMFR)から成り、10×15×0.32cmに計量された、射出成形された光学グレードのポリカーボネート(PC)シート)へ施し、15分間乾燥させ、125℃にて15分間硬化させた。
【0088】
次いで、プライマー溶液1Aで下塗りされたPCシートを、フローコーティング法によって、AS4700(登録商標)(A1)または耐引掻性コーティング溶液B1、C1またはD1でオーバーコートし、30分間乾燥させ、130℃にて60分間硬化させた(例1a〜1d)。
【0089】
プライマーと耐引掻性コーティングの膜厚、または製造された多層系(例1a〜1d)の総フィルム厚を、方法Bに従い測定した。膜厚は、約3μm〜7μmである。総膜厚が約6μの地点にて、被覆されたポリカーボネートシートのヘーズを方法Cに従い測定し、次いで、プライマー層、相互浸透層および耐引掻性層の正確な膜厚を、方法Dに従う薄片を用い、膜厚の範囲を測定した。
【0090】
比較を容易にするために、膜厚は、コーティングの総膜厚のパーセンテージとして表1に記載され、すなわち、個々の膜厚(プライマー/IPLまたは耐引掻性コーティング)と総膜厚の割合が導かれる。
【0091】
【表1】

【0092】
例2a〜2d(本発明に係る)
式I.2のUV吸収剤0.1gを、撹拌しながら、33.3gの原液Aに添加した。その結果、実験的に測定されたAにおける5.9%の固形分に対して、式I.2のUV吸収剤を5wt%含有するコーティング溶液2Aが得られた。その後、コーティング溶液を加圧ヌッチェ(2〜4μmセルロースフィルター)を介して濾過した。
【0093】
このプライマー溶液2Aを、フローコーティング法により、ポリカーボネートシート(Markrolon(登録商標)AL2647(UV安定剤と離型剤を備える中粘度のビスフェノールAポリカーボネート;1.2kg、300℃にてISO1133に従い、13g/10分のMFR)から成り、10×15×0.32cmに計量される、射出成形された光学グレードのポリカーボネート(PC)シート)へ施し、15分間乾燥させ、125℃にて15分間硬化させた。
【0094】
次いで下塗りされたPCシートを、フローコーティング法によって、AS4700(登録商標)(A1)または耐引掻性コーティング溶液B1、C1またはD1でオーバーコートし、30分間乾燥させ、130℃にて60分間硬化させた(例2a〜2d)。
【0095】
例2a〜2dの多層系の層の厚さを、例1a〜1dと同じ方法で測定した。比較を容易にするために、膜厚は、コーティングの総膜厚のパーセンテージとして表2に記載され、すなわち、個々の膜厚(プライマー/IPLまたは耐引掻性コーティング)と総膜厚の割合がもたらされる。
【0096】
【表2】

【0097】
相互浸透層(IPL)の膜厚は、耐引掻性コーティングにおける酢酸濃度が増加するにつれて増加することが明らかに判る。IPLがより厚いと、2層の架橋/接着はより良好になる。一方、式I.2のUV吸収剤を含有する本発明に係る例2a)〜2d)は、常套のUV吸収剤Tinuvin(登録商標)479を含有する例1a)〜d)よりも、同等のIPLフィルム厚にて、まさにより低いヘーズを有する。すなわち、多層系において、ヘーズを生じることなく、より厚いIPLを用いて、改良された接着性をもたらすことができる。
【0098】
等量のトリアジン吸収剤を用いる試験
比較可能な吸光度を得るために、等量のUV吸収剤を添加して試験を更におこなった。あるUV吸収剤が他のものより溶解度が小さいという可能性を排除できないので、各プライマー層に関して2μmでの吸光度をそれぞれ測定した。これらの測定は、非-UV安定化のMakrolon(登録商標)2808から成る基層上でおこなった。ヘーズ測定は、6μmの総膜厚を有する耐引掻性コーティングとプライマー層を含む全体構造において測定した。IPLフィルム厚は、添加したUV吸収剤に依存しないが、耐引掻性コーティングにおける酢酸含有量に依存し、その結果、酢酸濃度が同じ場合、値を比較できるので、これ以上TEM画像を記録しなかった。
【0099】
例1および2のように、AS4700(登録商標)(Momentive Performance Materials社製の、UV-吸収剤を含有する、ポリシロキサン系耐引掻性コーティング)または、酢酸で酸性化したAS4700(登録商標)の溶液を、耐引掻性コーティングとして使用した。例3〜7に関して、新しいバッチのAS4700(登録商標)(A2)を使用した。ゾル-ゲルコーティングに寿命があるので、比較は同じバッチ内でのみ行われるべきである。
【0100】
この目的を達成するために、0.50gの氷酢酸(100%酢酸)を、撹拌しながら24.50gのAS4700(登録商標)(A2)に添加した。その結果、総コーティング量に対して2.0wt%の酢酸が添加されている耐引掻性コーティング溶液B2が得られた。
【0101】
0.88gの氷酢酸(100%酢酸)を、撹拌しながら24.12gのAS4700(登録商標)(A2)に更に添加した。その結果、総コーティング量に対して3.5wt%の酢酸が添加されている耐引掻性コーティング溶液C2が得られた。
【0102】
1.25gの氷酢酸(100%酢酸)を、撹拌しながら23.75gのAS4700(登録商標)(A2)に更に添加した。その結果、総コーティング量に対して5.0wt%の酢酸が添加されている耐引掻性コーティング溶液D2が得られた。
【0103】
例3a〜3e(本発明に係る)
式I.1のUV吸収剤0.35gを、撹拌しながら原液Aの100.0gに添加した。その結果、実験的に測定されたAにおける5.9%の固形分に対して、式I.1のUV吸収剤を5.6wt%(0.44mmol)含有するプライマー溶液3Aが得られた。その後、コーティング溶液を加圧ヌッチェ(2〜4μmセルロースフィルター)を介して濾過した。
【0104】
このプライマー溶液3Aを、フローコーティング法により、ポリカーボネートシート(Markrolon(登録商標)2808(UV安定化がされていない、中粘度のビスフェノールAポリカーボネート;1.2kg、300℃にてISO1133に従い、10g/10分のMVR、バイエル マテリアルサイエンスAG)から成り、10×15×0.32cmに計量される、射出成形された光学グレードのポリカーボネート(PC)シート)へ施し、15分間乾燥させ、125℃にて15分間硬化させた。
【0105】
例3a〜3d:次いで、下塗りされたPCシートを、フローコーティング法によって、AS4700(登録商標)(A2)または耐引掻性コーティング溶液B2、C2またはD2でオーバーコートし、30分間乾燥させ、130℃にて60分間硬化させた。
【0106】
例3a〜3dの多層系におけるプライマー層、IPL層および耐引掻性層を含む総厚を、方法Bに従い測定した。生産理由のために、シート全体の厚さは3〜7μmに変化する。総膜厚が約6μの地点にて、被覆されたポリカーボネートシートのヘーズを、方法Cに従い測定した(表3)
【0107】
【表3】

【0108】
例3e:プライマー溶液3Aで下塗りされたシートにおいて、プライマー層の膜厚を、方法Bに従い測定した。膜厚が約2μmの地点にて、コートされたポリカーボネートシートのヘーズを、方法Cに従い測定した。下塗りされたシート(耐引掻性層を有さない)の吸光度および透過率を方法Eに従い測定および決定し、結果を表7に示す。
【0109】
例4a〜4e(本発明に係る):
式I.2のUV吸収剤0.52gを、撹拌しながら原液Aの100.0gに添加した。その結果、実験的に測定されたAにおける5.9%の固形分に対して、式I.2のUV吸収剤を8.1wt%(0.44mmol)含有するプライマー溶液4Aが得られた。その後、コーティング溶液を加圧ヌッチェ(2〜4μmセルロースフィルター)を介して濾過した。
【0110】
このプライマー溶液4Aを、フローコーティング法により、ポリカーボネートシート(Markrolon(登録商標)2808(UV安定化がされていない、中粘度のビスフェノールAポリカーボネート;1.2kg、300℃にてISO1133に従い、10g/10分のMVR、バイエル マテリアルサイエンスAG)から成り、10×15×0.32cmに計量される、射出成形された光学グレードのポリカーボネート(PC)シート)へ施し、15分間乾燥させ、125℃にて15分間硬化させた。
【0111】
例4a〜4d:次いで、下塗りされたPCシートを、フローコーティング法によって、AS4700(登録商標)(A2)または耐引掻性コーティング溶液B2、C2またはD2でオーバーコートし、30分間乾燥させ、130℃にて60分間硬化させた。
【0112】
例4a〜4dの多層系におけるプライマー層、IPL層および耐引掻性層を含む総厚を、方法Bに従い測定した。生産理由のために、シート全体の厚さは3〜7μmに変化する。総膜厚が約6μの地点にて、被覆されたポリカーボネートシートのヘーズを、方法Cに従い測定した(表4)
【0113】
【表4】

【0114】
例4e:プライマー溶液4Aで下塗りされたシートにおいて、プライマー層の膜厚を、方法Bに従い測定した。膜厚が約2μmの地点にて、下塗りされたシート(耐引掻性層を有さない)の吸光度および透過率を方法Eに従い測定および決定した(表7)。
【0115】
例5a〜5e(本発明に係る):
式I.3のUV吸収剤0.63gを、撹拌しながら原液Aの100.0gに添加した。その結果、実験的に測定されたAにおける5.9%の固形分に対して、式I.4のUV吸収剤を9.6wt%(0.44mmol)含有するプライマー溶液5Aが得られた。その後、コーティング溶液を加圧ヌッチェ(2〜4μmセルロースフィルター)を介して濾過した。
【0116】
このプライマー溶液5Aを、フローコーティング法により、ポリカーボネートシート(Markrolon(登録商標)2808(UV安定化がされていない、中粘度のビスフェノールAポリカーボネート;1.2kg、300℃にてISO1133に従い、10g/10分のMVR、バイエル マテリアルサイエンスAG)から成り、10×15×0.32cmに計量される、射出成形された光学グレードのポリカーボネート(PC)シート)へ施し、15分間乾燥させ、125℃にて15分間硬化させた。
【0117】
例5a〜5d:次いで、下塗りされたPCシートを、フローコーティング法によって、AS4700(登録商標)(A2)または耐引掻性コーティング溶液B2、C2またはD2でオーバーコートし、30分間乾燥させ、130℃にて60分間硬化させた。
【0118】
例5a〜5dの多層系におけるプライマー層、IPL層および耐引掻性層を含む総厚を、方法Bに従い測定した。生産理由のために、シート全体の厚さは3〜7μmに変化する。総膜厚が約6μの地点にて、被覆されたポリカーボネートシートのヘーズを、方法Cに従い測定した(表5)。
【0119】
【表5】

【0120】
例5e:プライマー溶液5Aで下塗りされたシートにおいて、プライマー層の膜厚を、方法Bに従い測定した。膜厚が約2μmの地点にて、下塗りされたシート(耐引掻性層を有さない)の吸光度および透過率を方法Eに従い測定および決定した(表7)。
【0121】
例6a〜6e(本発明に係るものではない):
0.3gのUV吸収剤Tinuvin(登録商標)479を、撹拌しながら原液Aの100.0gに添加した。その結果、実験的に測定されたAにおける5.9%の固形分に対して、Tinuvin(登録商標)479UV吸収剤を4.8wt%(0.44mmol)含有するプライマー溶液6Aが得られた。その後、コーティング溶液を加圧ヌッチェ(2〜4μmセルロースフィルター)を介して濾過した。
【0122】
このプライマー溶液6Aを、フローコーティング法により、ポリカーボネートシート(Markrolon(登録商標)2808(UV安定化がされていない、中粘度のビスフェノールAポリカーボネート;1.2kg、300℃にてISO1133に従い、10g/10分のMVR、バイエル マテリアルサイエンスAG)から成り、10×15×0.32cmに計量される、射出成形された光学グレードのポリカーボネート(PC)シート)へ施し、15分間乾燥させ、125℃にて15分間硬化させた。
【0123】
次いで、下塗りされたPCシートを、フローコーティング法によって、AS4700(登録商標)(A2)または耐引掻性コーティング溶液B2、C2またはD2でオーバーコートし、30分間乾燥させ、130℃にて60分間硬化させた。
【0124】
例6a〜6dの多層系におけるプライマー層、IPL層および耐引掻性層を含む総厚を、方法Bに従い測定した。生産理由のために、シート全体の厚さは3〜7μmに変化する。総膜厚が約6μの地点にて、被覆されたポリカーボネートシートのヘーズを、方法Cに従い測定した(表6)。
【0125】
【表6】

【0126】
例6e:プライマー溶液6Aで下塗りされたシートにおいて、プライマー層の膜厚を、方法Bに従い測定した。膜厚が約2μmの地点にて、下塗りされたシート(耐引掻性層を有さない)の吸光度および透過率を方法Eに従い測定および決定した(表7)。
【0127】
【表7】

【0128】
要旨:UV吸収剤の等量を添加すると、例に関して等しい吸光度値が得られる。酢酸の添加は、本発明に係る例と比較して、本発明に係らない例を明確に曇らせる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性物質から成る基層と、プライマー層と、および耐引掻性コーティングから成る耐引掻性層とを有する多層系であって、
該プライマー層が、トリアジンに基づくシリル化されたUV吸収剤を含有し、および該耐引掻性層が、酸を含有する耐引掻性コーティングから製造される、該多層系。
【請求項2】
耐引掻性層が、0.1%〜15.0%、好ましくは0.5%〜10.0%、および特に好ましくは1.0〜8.0%の酢酸を含有する耐引掻性コーティングから製造される、請求項1に記載の多層系。
【請求項3】
トリアジンに基づくシリル化されたUV吸収剤が、一般式(I)の化合物を含む群からのUV吸収性化合物であり、および、耐引掻性層が、酢酸を添加した耐引掻性コーティングから成る、請求項1または2に記載の多層系:
【化1】

式中、Aは以下のものを示し、
【化2】

式中、
およびYは、相互に独立して以下の一般式を有する置換基であり、
【化3】

式中、
rは0または1に等しく、
、R、Rは相互に独立して、H、OH、C1−20アルキル、C4-12シクロアルキル、C2-20アルケニル、C1-20アルコキシ、C4-12シクロアルコキシ、C2-20アルケニルオキシ、C7-20アラルキル、ハロゲン、-C≡N、C1-5ハロアルキル、-SOR'、-SOH、-SOM(M=アルカリ金属)、-COOR'、-CONHR'、-CONR'R''、-OCOOR'、-OCOR'、-OCONHR'、(メタ)アクリルアミノ、(メタ)アクリルオキシ、C6-12アリール(所望により、C1-12アルキル、C1-12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンにより置換される)、C3-12ヘテロアリール(所望により、C1-12アルキル、C1-12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンにより置換される)であり、式中、
R'およびR''は、-H、C1-20アルキル、-C4-12シクロアルキル、-C6-12アリール(所望により、C1-12アルキル、C1-12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンにより置換される)またはC3-12ヘテロアリール(所望により、C1-12アルキル、C1-12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンにより置換される)、
Xは、直鎖または分岐状のリンカーであり、
A基のO原子と各T基の間において、鎖中に、炭素、酸素、窒素、硫黄、リンおよびまたはケイ素から選択される少なくとも3つ、好ましくは4つの原子からなる鎖が存在することを特徴とし、
Tは、ウレタン基-O-(C=O)-NH-またはウレア基-NH-(C=O)-NH-を示し、
Qは、-(CH)-、式中、m=1、2または3を示し、
Pは、モノ-、ジ-、またはトリアルコキシシラン基を示し、
nは、1〜5の間の整数を示す。
【請求項4】
耐引掻性層が、酢酸を添加されるハイブリッドコーティング、特にシロキサン系ゾル-ゲルコーティングから成る、請求項1から3のいずれか1つに記載の多層系。
【請求項5】
基層の熱可塑性物質が、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、グラフトコポリマー、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレンおよびそれらのコポリマーを含有する群からの1種以上のプラスチックから選択される、特に、ホモポリカーボネート、コポリカーボネートおよび/または熱可塑性ポリエステルカーボネートを含有する群からの1種以上のプラスチックから選択される、および特に好ましくはビスフェノールA系ポリカーボネートである、請求項1から4のいずれか1つに記載の多層系。
【請求項6】
プライマー層が、ポリアクリレート、特にポリメチルメタクリレート、溶媒、トリアジンに基づくシリル化されたUV吸収剤、および所望による更なる安定剤、UV安定剤、他の添加剤から成るバインダー材料を含有するプライマー配合物から製造される、請求項1から5のいずれか一つに記載の多層系。
【請求項7】
プライマー層が、0.01wt%〜15.00wt%、好ましくは0.10wt%〜10.00wt%および特に好ましくは3.00wt%〜9.00wt%の一般式(I)のシリル化されたトリアジンUV吸収剤を含有する、請求項1から6のいずれか一つに記載の多層系。
【請求項8】
相互浸透層(IPL)を更に含み、基層(B)、プライマー層(Pr)および耐引掻性層(SP)ならびに相互浸透層が以下の層配列の1種をとる、請求項1から7のいずれか1つに記載の多層系:
(B)-(Pr)-(IPL)-(SP)
(SP)-(B)-(Pr)-(IPL)-(SP)
(SP)-(IPL)-(Pr)-(B)-(Pr)-(IPL)-(SP)
【請求項9】
耐引掻性層(SP)に対する相互浸透層(IPL)の膜厚比が>10%である、請求項8に記載の多層系。
【請求項10】
更なる機能性層または装飾層を更に含む、請求項1から9のいずれか1つに記載の多層系。
【請求項11】
ヘッドライトカバー、または建築的若しくは自動車の板ガラス系を製造するための請求項1から10のいずれか1つに記載の多層系の使用。
【請求項12】
特に自動車および建築的な分野に関する、請求項1から9のいずれか1つに記載の多層系を含む板ガラス系。

【公表番号】特表2013−514908(P2013−514908A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545257(P2012−545257)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070125
【国際公開番号】WO2011/085909
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】